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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科47巻2号

1993年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 子宮全摘出術—私のコツ 腹式単純性子宮全摘出術

1.腹式単純性子宮全摘出術—私の術式

著者: 藤井信吾

ページ範囲:P.128 - P.132

 手術に際して,最もたいせつなことは,その手術法の原理がいかなるものであり,さらにその原理が手術を施す局所の解剖所見にどのように対応したものかを知ることであると考えている。したがって,以下に単純性子宮全摘出術の原理と解剖学に沿っていると思われる実際の手術手技を記載したい。

2.尿管損傷の防止対策

著者: 玉舎輝彦

ページ範囲:P.134 - P.137

 解剖学的に子宮全摘出術を行う。また尿管損傷が起こりやすい場合に卵巣動静脈,子宮動静脈,基靱帯基始部や仙骨子宮靱帯などの挟鉗・切断・結紮(clamp, cut and ligate=CCL)時や,難症例などを認識しておく。

3.膀胱剥離と腟断端処理のコツ

著者: 馬島秀泰

ページ範囲:P.138 - P.140

 1843年にHeathが初めて腹式子宮全摘術を施行した。その後1889年になってLA Stimsonがあらかじめ子宮動静脈,卵巣動静脈を結紮して子宮を摘出する画期的な術式を報告してから,近代婦人科学領域での腹式手術を代表する腹式単純子宮全摘術が安全確実な術式として確立されるまでには,多くの諸先輩方が工夫,改良され,多く発表されてきた。それは腹式単純子宮全摘術の術中操作に関して,種々問題点はあるが,そのうちで最も重要なものは膀胱・尿管損傷と腟断端からの出血の回避にあるからである。
 ここに教室員に指導している腹式単純子宮全摘術の操作のなかで膀胱剥離と腟断端処理について述べるが,通常の術式と本質的に異なるものではなく,骨盤内臓器の局所的解剖学と手術手技の基本知識を教育された人であれば,研修医にも安全かつ単純に施行できる術式である。

4.アルドリッジ法(筋膜内法)

著者: 山岡完司

ページ範囲:P.141 - P.143

 腹式単純子宮全摘出術は婦人科にて最も多く行われている手術である。腹式単純子宮全摘出術の際に起こりやすい合併症として注意すべきは,尿管,膀胱,直腸の損傷と出血である。これらの合併症を避けるべく術式の改善がなされ,1950年アルドリッチが筋膜内術式,または峡部内術式を報告した。この術式は普通の筋膜外の単純子宮全摘出術に対して,子宮下部,頸部を筋膜内にて剥離し子宮を摘出するので骨盤内陳旧性炎症,子宮内膜症などで子宮旁結合織の周囲,膀胱,ダグラス窩などの強固な癒着のため剥離困難な症例などでは,とくに安全な方法である。しかし筋膜の剥離がときに難しく,思わぬ所からの出血を起こすこともある。わが国でもその後,諸家が術式を改善し,多くの発表がなされている。われわれが行っている方法を注意点を指摘し手順を追って述べる。

5.逆行性基靱帯処理

著者: 永田一郎

ページ範囲:P.144 - P.148

 子宮全摘術は産婦人科手術の基本である。その術式として腹式単純子宮全摘術(TAH)の基本型を一つマスターした後,いくつかのバリエーションを修得しておく必要がある。そして,腫瘍性病変合併例,頸部筋腫,子宮内膜症,既往帝切例,弛緩出血,子宮破裂など各種の病変に応じて使い分ける必要がある。

腟式子宮全摘出術

6.腟式子宮全摘出術—私の術式

著者: 工藤隆一

ページ範囲:P.149 - P.153

 腟式子宮全摘出術は子宮筋腫などの良性子宮腫瘍,子宮頸部異形成上皮・初期の子宮頸癌,子宮下垂・子宮脱などの疾患が手術適応となり術式として多くの利点を有している。すなわち腹部に切開創がないため腹壁瘢痕が欠如すること,術後の腸管癒着,腹膜炎あるいは腸閉塞は腹式手術より少ないこと,肥満した婦人にも容易に実施することができること,術後の創が小さいため痛みが軽度で,腹部の術創痛がないこと,治癒が早く入院期間が短いことなどがあげられる。このような利点を考えるとき適応となる症例には腟式子宮全摘出術を行うことが望ましいと考える。そこで本稿では,筆者が行っている主に子宮筋腫に対する全摘出術の術式1-3)と一部上皮内癌などの初期の子宮頸部癌に対する全摘出術,また子宮脱に対する全摘出術4)について補足を行いそれぞれの術式の要点について述べる。

7.腟壁切開と腹腔の開放

著者: 北尾学 ,   岩成治

ページ範囲:P.154 - P.155

術前
 1)腟式子宮全摘出手術の適応の有無の確認 問診により,既往歴に重症の骨盤内感染症・子宮内膜症・帝王切開術を含め骨盤内手術の既往のないことを確認し,内診時に子宮の可動性が十分あることを鉗子による牽引で確かめる。
 2)手術の行いやすい体位をとる 術者2人が十分入れる体位とし,術野は肩の高さとする。

8.基靱帯処理—無結紮処理

著者: 伊東英樹

ページ範囲:P.156 - P.158

 腟式子宮全摘出術における基靱帯処理—無結紮処理については,明石によって1961年に報告された。しかし教室においても初期の段階では基靱帯は二分して縫合していたが1),症例を積み重ねた結果,以下の理由により無結紮切断法に改変された。それは膀胱子宮靱帯,仙骨子宮靱帯も同様であるが,とくに基靱帯は子宮頸部にきわめて接近して切断すれば,出血はほとんどないか,あっても比較的少量の静脈性のものであること。また基靱帯をたとえ結紮しても結合織の退縮で,後に滑脱していることが多く,術式としては無結紮切断法を行い,この後,出血部があれば結紮をするほうがむだがなく,合理的であるという考え方である。
 この後,基靱帯は子宮頸部にきわめて接近して切断すれば,出血はほとんどないか,あっても比較的少量の静脈性のものであることの裏づけを山田2)がしている。これは子宮旁結合織内血管の研究で,子宮側縁から0.5cm以内では動静脈ともに切断された血管から出血する危険性のある血管はないとの結果であり,基靱帯処理—無結紮処理の妥当性を証明している。この後も,腟式子宮全摘出術における基靱帯処理—無結紮処理に関しては,教室より多くの報告3-5)があるが,いずれも塞靱帯を子宮頸部にきわめて接近して一括切断することにより,術式の単純化,平易化を示すものであり,切断後に出血部があってもこれを結紮しない術式ではないことをとくに強調しておく。

9.基靱帯処理—分割処理

著者: 武田佳彦 ,   滝沢憲

ページ範囲:P.159 - P.161

 手術は,安全・確実が最もたいせつである。教室で行う腟式手術は,とくに「誰が施行しても」安全・確実である術式が求められる。教室では,①骨盤内手術既往歴がない,②経産婦,③子宮の大きさ300g くらい以下,④子宮の可動性良好(無麻酔で子宮頸部が腟入口部数cm近くまで牽引可能)を,原則として腟式単純子宮全摘術(VTH)の要約としている。
 本稿では,VTHの手術操作をstep by stepに記述するが,表題の趣旨に沿い,基靱帯(子宮傍組織)の処理を中心に詳述する。

10.分割法

著者: 奈賀脩

ページ範囲:P.162 - P.164

 1983年7月当院に赴任以来,無結紮法による腟式子宮全摘出術(以下腟式手術)を子宮全摘出術の第一選択として行ってきた。その総数は283例で,子宮全摘出術全体の77%を占めている。対象疾患は97%が子宮筋腫と子宮腺筋症であった。ここ2年間における平均手術時間は43分で,96%が1時間以内に手術を完了している。出血量も平均174mlであった。腟式手術は習熟すれば腹式手術より簡便であり,患者にとっても利点が多いことは周知の事実である。今回の分担テーマ“分割法”は腟式手術における後半の手術手順の一つであるが,前半の手順との関連をも含めて私見を述べたい。

準広汎性子宮全摘出術

11.準広汎性子宮全摘出術—私の術式

著者: 山辺徹

ページ範囲:P.166 - P.169

 とくにこの四半世紀,子宮頸癌に関する早期診断技術の進歩と子宮がん検診の普及により,初期頸癌の検出例が増えてきた。それに伴って,初期癌に対しては,広汎性子宮全摘出術を採用しなくてもよいとの考えから,すでに今日では,摘出範囲をより縮小した術式によって,広汎全摘術後にみられるような合併症や後遺症を残すことなく治癒させうるようになった。
 ところで,0期やIa期の初期頸癌に単純全摘術を行った場合には,きわめて少数ではあるが,腟断端再発をみることが指摘されていた。その原因としては,腟切断に際して,癌の子宮腟部辺縁ないし腟壁への伸展部を摘り残したためと考えられる。このような腟断端再発を防止するには,子宮摘出に際して,腟壁を多少含めて切除する必要がある。その考えに基づいて開発されたのが準広汎性子宮全摘術である1)

12.膀胱子宮靱帯の処理

著者: 荷見勝彦

ページ範囲:P.170 - P.171

 膀胱子宮靱帯の処理の目的は,膀胱子宮靱帯前層の分離・切断により尿管を側方に圧排し,parametriumと腟を十分に切除することである。処理中は,尿管を損傷しないように,細心の注意をはらうとともに,術後の尿管瘻の発生を防ぐため尿管を術中愛護することが必要である。

13.基靱帯の切断

著者: 小澤満

ページ範囲:P.172 - P.174

 Ia期癌が多数発見されるようになって,これに対応すべき術式として準広汎性子宮全摘術(準広汎と略す)が提唱された。
 子宮頸癌取扱い規約によれば準広汎は「前部子宮支帯前層を切断し,尿管を側方に寄せた後に全子宮支帯と腟壁を子宮頸からやや離れて切断する」と説明されている。ここにいう前部子宮支帯前層の切断とはいわゆる尿管トンネルの部で膀胱子宮靱帯前層を切断しトンネルを開放することと理解されている。

広汎性子宮全摘出術

14.広汎性子宮全摘出術—私の術式

著者: 平林光司

ページ範囲:P.176 - P.179

 私の術式は創始者故岡林教授直系の故八木日出雄教授以来,岡山大学で継承されてきたものである。私も名手といわれる先生方の広汎手術を数多くみせていただいたが,その手順はほぼ同じになってきている。そこでおのおのの手順の中でとくに留意すべきところにアンダーラインをつけて示すことに今回は意を用いた。したがって写真は極力減らしている。

15.リンパ節郭清

著者: 塚本直樹

ページ範囲:P.180 - P.182

 広汎子宮全摘出術(広汎全摘)は,通常頸癌Ib-IIb期と体癌II期に対して行われ,所属リンパ節,すなわち基靱帯節,内腸骨節,閉鎖節,外腸骨節,仙骨節,総腸骨節,鼠径上節などの骨盤リンパ節pelvic lymph node(PLN)の郭清も含まれる1)。しかし,最近では傍大動脈リンパ節para—aortic lymph node(PAN)や前斜角筋リンパ節scalene lymph node(SLN)の検索も行われるようになってきた2-5)
 私は開腹したら,まず腹腔内の精査とPAN検索を行ってから手術操作を進めることにしている4)。頸癌でPANが明らかに陽性であれば広汎全摘は行わずに放射線療法とする。しかし,放射線照射が効きにくいと考えられる1cm以上に腫大した転移リンパ節はできるだけ切除するようにしている。体癌でPANが陽性であれば,広汎全摘は行わないが,単純子宮全摘出術と骨盤リンパ節郭清を行い,術後に放射線照射なり化学療法なりの追加治療を行う。

16.基靱帯処理

著者: 工藤尚文

ページ範囲:P.183 - P.185

 産婦人科を専攻する医師にとって,広汎性子宮全摘術の術者となることは大きな努力目標の一つである。しかし,その手術完遂には婦人科手術の中では最も高度な手技と精神的緊張が要求され,中でも基靱帯の処理は,広汎性全摘術のハイライトとも言うべきものである。不完全な基靱帯処理は後続する手術操作を困難にさせるばかりではなく,術中・術後の大量出血を招き,患者を致死的状態に至らしめる可能性さえある。
 熟練した術者がさりげなく行っている基靱帯処理は,女性の骨盤内解剖学の十分な理解と経験に基づいた操作であることを忘れてはならない。子宮単純全摘術が骨盤解剖の平面的理解で行われるとするならば,広汎性全摘術の,とくに基靱帯処理操作には骨盤解剖の立体的把握が必要ということができよう。

17.骨盤神経温存法

著者: 桑原慶紀

ページ範囲:P.186 - P.187

 広汎性子宮全摘出術の術後排尿障害は程度の差はあれ,ほとんどすべての症例で認められ,大手術を受け,身体的にも精神的にも疲弊した患者さんにとって,再び克服しなければならない難関となっている。これは,広汎性子宮全摘出術では膀胱機能に関与する骨盤自律神経が切断されるためであり,手術の根治性を高めるため止むを得ないものと考えられてきた。しかし,術後のQuality oflifeを確保するためには,手術は必要最小限の範囲で施行されるべきであり,子宮頸癌Ia期あるいはII期であっても一部症例では根治性を損わず骨盤の神経を温存する術式が提唱されてきた1〜4)

18.尿管瘻の防止対策

著者: 高村郁世 ,   針生秀樹 ,   西谷巌

ページ範囲:P.188 - P.190

 広汎性子宮全摘出術後の尿管瘻は,術後合併症として,患者自身は言うまでもなく,術者にとっても予測できない最も残念な事故の一つである。尿管瘻の発生原因に関して,古くから多くの研究報告があり,尿管壁損傷説,栄養血管障害説,尿管通過障害(圧迫,屈曲,狭窄)説,炎症説など特定できないため多くの原因があげられているが,小林,三谷らの提唱した,尿管外膜の損傷を主因とみなし,他は促進因子と考えるのが妥当のようである。
 従来から,尿管瘻の予防法として尿管を骨盤死腔から回避させ,骨盤壁への癒着による屈曲を避けるため尿管腹腔内露出法(遠藤),尿管腹膜包埋法(大川)などの報告がある。浸出物,異物,炎症など,骨盤死腔の悪い環境から尿管を隔離する意義は認められるにしても,二次的な要因と思われる。その他,副子尿管カテーテル挿入法,栄養血管の保護などが報告されている。尿管瘻の好発部位は,つねに尿管前部すなわち,子宮動脈との交叉部から膀胱進入部までの尿管が,膀胱子宮靱帯の前層,後層に包まれた部位にかぎられており,進行期がすすむほど,また,術者が未熟な経験者であればあるほど,多発することから尿管前部の浸潤,癒着などの条件と剥離技術の巧拙に大きな因果関係があることは確かである。

19.尿管剥離と膀胱子宮靱帯処理のコツ

著者: 園田隆彦

ページ範囲:P.191 - P.193

前処理
 膀胱子宮靱帯は子宮傍結合織の一部であり,その中を尿管が通っている(図1)。
 1)子宮を頭方に牽き,子宮翻転器を用いて膀胱を剥離圧下する。当初,露出した子宮頸部・腔と膀胱側腔との間にある膀胱子宮靱帯(+腟傍結合織)は少し厚いから,この表面の脂肪などを擦り落としておく。側臍靱帯を下方に辿り子宮方向に分枝する子宮動脈を見いだす。子宮動脈と尿管の交叉する部位が尿管のトンネル入口部である(膀胱子宮靱帯内を尿管はトンネル様に通り,その天井を前層,床を後層という)。

カラーグラフ 胎児・胎盤の生理と病理・14

奇形症候群と顔貌異常

著者: 中山雅弘

ページ範囲:P.123 - P.125

 今回は顔面の形成異常を特徴とする疾患で,周産期異常をともない当センターで観察された例を記載する.骨の異常を伴う症例は次回に述べる.
 前回の横隔膜ヘルニアの項で述べたCOFS症候群に関連した,Pena-Shokeir症候群の症例を示す.多発関節拘縮,小頭症,脳の小多脳回,特有の顔貌を呈するものである.Pena—Shokeir症候群で,肺の低形成を伴うものは,Pena-Shokeir I症候群で,低形成肺を伴わないものはPena-Shokeir II症候群と呼ばれてきたが,最近ではCOFS症候群の名称が使われている1)

Current Research

ヒト胎盤における物質輸送能の特性—膜レベルでの解析を中心に

著者: 飯岡秀晃

ページ範囲:P.195 - P.200

はじめに
 胎盤機能が胎児発育に果たす栄養学的な役割の重要性は,今さら言を待たない。胎盤での各種物質の輸送には絨毛上皮が重要な役割を果たしている。ヒト胎盤絨毛上皮の母体側には多数の刷子縁が存在し,絨毛間腔で母体血液との直接の接点となる。刷子縁の存在により絨毛上皮の吸収面積は,飛躍的に拡大される。さらに,ヒト胎盤絨毛上皮刷子縁膜には,小腸や腎近位尿細管の刷子縁膜と同様,アミノ酸などの能動輸送機構が備わっており,胎児への安定した物質輸送を可能にしていると考えられている。一方,胎盤絨毛は,胎児で産生された尿素などの老廃物の輸送にも関与していると考えられている。近年,ヒト胎盤より分離した絨毛上皮膜小胞を用いた検討で,各種物質の輸送機構の解明がなされ,その全体像が明らかになってきた。
 以下,われわれの行った基礎的な研究成績を中心に,ヒト胎盤の物質輸送能の特性につきまとめてみた。

原著

超音波カラードプラ法による正常月経周期における子宮動脈血流動態変化および血中Prostaglandin E2,Prostaglandin Fとの関連について

著者: 井浦俊彦 ,   丹野治郎 ,   桑原惣隆 ,   福間秀昭 ,   上田由生子 ,   羽根淳治 ,   宝田明

ページ範囲:P.201 - P.205

 超音波カラードプラ法を用い,正常月経周期を有する10名(24歳〜43歳)の成熟婦人を対象とし子宮動脈血流動態変化および血中PGE2,PGFとの関連について検討した。
 1)子宮動脈のResistance index(RI)では,増殖期後期と月経期前期を峰とする2峰性パターンを示した。2)PGFも同様に,増殖期後期と月経期前期を峰とする2峰性パターンを示した。3)PGE2は,増殖期,分泌期とも大きな変動を示さなかったが,月経期に高値を示す傾向を認めた。4)分泌期後期から月経期前期にRIの一時的低下ならびに上昇を示した。この際,PGFが子宮動脈の血管抵抗および血流量の変化に関与している可能性を認めた。また,経産婦と未産婦において,子宮動脈の血流動態に変化があることが示唆された.以上より,子宮動脈の血流動態にはPGFが密接に関与している可能性が認められた。

婦人科悪性腫瘍手術症例に対するエリスロポエチン併用自己血貯血と低血圧麻酔

著者: 久保田康愛 ,   西村譲 ,   清水廣 ,   野原当 ,   塩川泰裕 ,   湯浅晴之

ページ範囲:P.207 - P.210

 婦人科悪性腫瘍では,血管の豊富な骨盤腔内での手術のため,大量出血をきたし,輸血を必要とすることが多い。しかし,他家血輸血には,ウイルス感染症・GVHDなどの問題があり,この回避は重要な課題である。そこで,我々は,婦人科悪性腫瘍手術症例に対して,エリスロポエチン併用下に自己血貯血を行い,低血圧麻酔にて術中出血を軽減させ,他家血輸血を回避することができたので報告する。症例は,子宮頸癌2例・卵巣癌1例・子宮体癌1例の計4例である。エリスロポエチンと鉄剤併用下に,術前7〜11日間で600〜1,200 mlの自己血貯血を行った。また,PGE1による低血圧麻酔下に術中出血を385〜1,050 mlに抑え,自己血輸血のみで対処できた。
 以上より,大量出血が予想される婦人科悪性腫瘍手術症例に対して,エリスロポエチン併用自己血貯血と低血圧麻酔が他家血輸血の回避に有用であると考えられる。

症例

内膜癌を合併した子宮奇形

著者: 長谷川直子 ,   篠崎純一 ,   山本真一 ,   萬羽進

ページ範囲:P.211 - P.214

 子宮奇形は,不妊症や不育症の原因として,また,腎尿路系奇形を合併している場合に,偶然診断されることが多い。今回われわれは,中隔子宮の一側腔に発生した子宮内膜癌の1症例を経験した。数年来不正性器出血を認めていたが,異常を指摘されず,当科で初めて悪性所見が得られたため手術したところ,中隔子宮と判明したものである。
 症例を提示するとともに,最近20年間に報告された,「内膜癌合併子宮奇形」の症例について検討し,その診断・治療などにおける問題点について考察する。

悪性高熱症の1例

著者: 林博章 ,   森和郷 ,   瀬戸俊之 ,   高橋長雄 ,   水沼正弘 ,   武田智幸 ,   大林良

ページ範囲:P.215 - P.218

 悪性高熱症は,血縁者での発症や重症筋無力症の家系に発症しやすく遺伝的背景を有する疾患と考えられている。また既往症として原因不明の発熱,運動後の尿着色や脱力感,日射病や熱射病の既往,腓がえりなどに注目する。悪性高熱症の誘因は,主として吸入麻酔剤と塩化スキサメトニウム投与により,さらにストレスの関与が知られている。
 今回,幸いにして救命しえた非常にまれな術後合併症,悪性高熱症を経験したので報告する。

死産後,昏睡に陥った糖尿病性ケトアシドーシスの1例

著者: 斉藤正博 ,   関博之 ,   高田真一 ,   竹田省 ,   高木章美 ,   木下勝之

ページ範囲:P.219 - P.223

 死産後に糖尿病性昏睡に陥った症例を報告する.症例は37歳1回経産婦.妊娠20週頃より口渇・多飲・多尿を認め,妊娠21週に子宮内胎児死亡となった。児娩出後,嗜眠傾向となり,当科緊急搬送となった.入院後,糖尿病性ケトアシドーシスによるものと判明し,各種病態に対する適切な処置で,意識は回復し,血栓のコントロールに成功した。本症例を中心に,糖尿病合併妊婦の昏睡時の管理につき考察する。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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