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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科47巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

今月の臨床 良性卵巣腫瘍—治療方針 疫学と分類

1.卵巣の組織発生—腫瘍の多様性理解のために

著者: 上田外幸

ページ範囲:P.238 - P.240

 卵巣腫瘍の発生母地である卵巣構成成分には胚細胞germ cell,表層上皮surface epithelium,性腺間質gonadal stroma,および非特異間質non—specific stromaなどがあるが,これらの組織発生については必ずしも見解の一致していないものもある。本論文では新しい知見の現況を解説し,腫瘍の多様性理解のために役だてたいと思う。

2.年代別の好発腫瘍

著者: 植木實

ページ範囲:P.241 - P.243

 卵巣腫瘍は婦人科領域で頻度の高い疾患である。組織学的には良性から悪性まで実に多彩な像がみられ,年齢幅も広く,腫瘍型による好発年齢の傾向も窺われる。良性腫瘍は卵巣腫瘍の大部分を占め,その治療法の決定には正確な術前診断が大切であるが,そのためには各腫瘍の年齢分布を十分知っておく必要がある。
 そこで,本章では最近5年間(1987〜1991年)の類卵巣腫瘍を含めた良性卵巣腫瘍の調査から年齢を中心に述べたい。

3.臨床病理学的分類

著者: 薬師寺道明

ページ範囲:P.244 - P.248

 早期発見や治療法など多くの問題を抱える卵巣癌は依然として現代婦人科学の強い興味の対象である。しかし日常臨床において遭遇する機会がはるかに多いのは良性卵巣腫瘍で,症例によっては性機能の温存という観点から手術適応や術式の決定などしばしばその取り扱いに苦慮する。こうした点を踏まえると,良性卵巣腫瘍の臨床病理を理解することは臨床上も大切なことである。
 1990年新たに日本産婦人科学会と日本病理学会により作られた卵巣腫瘍の組織学的分類を,臨床的予後に基づいて表にしたものが表1である。このうち,良性腫瘍の項に記載された腫瘍について個々に概説する。

診断

4.内診でどこまで診断できるか

著者: 半藤保 ,   大野正文 ,   黒瀬高明

ページ範囲:P.249 - P.251

 卵巣腫瘍の診断法は,近年各種画像診断法および血清腫瘍マーカー測定法の進歩により,著しく向上した。とりわけ超音波断層診断法はその機器の改良に伴って,またその簡便性や経腟プローブによる診断法の普及によって,今や卵巣腫瘍診断上欠くことのできない方法の一つになったといっても過言でない。しかしながら,それによって内診の役割が失われたわけではなく,卵巣腫瘍のスクリーニング検査法を初めとして内診は最も基本的な,婦人科特有の診断法であることに変わりはない。また,その簡便性,迅速性,経済性などと相まって,他の機器による診断法と異なる多くの長所を有している。
 卵巣腫瘍の診断は,まず第一に腫瘍の存在診断から始まるが,このとき,内診技術は最も重要視される。以下内診を中心に,問診,視診,外診,直腸診などにも触れながら主題について話をすすめたい。

卵巣嚢腫の鑑別

5.超音波

著者: 田中善章

ページ範囲:P.252 - P.254

 良性卵巣腫瘤には真性腫瘍として表層上皮性・間質性腫瘍や胚細胞腫瘍が多くみられるが,その他にいわゆる機能性腫瘤や炎症性腫瘤などもあり,臨床的に高頻度にみられる腫瘍では超音波でその鑑別が可能である。そこで卵巣腫瘍組織分類に準じた順序で,各良性腫瘍の超音波鑑別点について述べる。
 超音波診断上鑑別可能と思われる良性腫瘍には組織学的分類上,①表層上皮性・間質性腫瘍;漿液性嚢胞腺腫,粘液性嚢胞腺腫,②性索間質性腫瘍;莢膜細胞腫・線維腫群,③胚細胞腫瘍;皮様嚢胞腫,④類腫瘍病変;子宮内膜症,卵胞嚢胞,黄体嚢胞,多嚢胞性卵巣,単純嚢胞,傍卵巣嚢胞,⑤炎症性病変などがあり,その他として最近超音波診断で注目されている出血性卵巣病変についても言及したい。各腫瘍超音波像のシェーマを図1に示す。

6.CTスキャン

著者: 安田允

ページ範囲:P.255 - P.257

 卵巣腫瘍における画像診断は近年急速な進歩,普及を遂げ,日常診療上大きな貢献をなしている。卵巣腫瘍の確定診断には当然のことながら病理組織診によるが,腫瘍割面に対する視診に習熟すれば良・悪性の鑑別ばかりでなく,組織型も推定することが可能である。その点,CTスキャンによる腫瘍の横断像は,実際の肉眼的腫瘍割面を反映していることから,術前診断の有力な根拠となる(表1)。
 本項では卵巣?腫のCTスキャンを中心に解説を加えるが,超音波,MRIの画像診断や腫瘍マーカーなどを組み合わせることにより,正確な鑑別診断をすることが望ましい。

7.MRI

著者: 山田隆司 ,   後藤真樹

ページ範囲:P.258 - P.260

 MRI(magnetic resonance imaging)は,核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)という現象を利用して,これを画像化した新しい画像診断法である。当初は,中枢神経,脊髄領域への使用が中心であったが,現在ではその適応は全身へと拡大しており,婦人科領域においても多くの臨床的評価がなされている。
 MRIの信号程度,すなわち画像の白黒は,生体組織固有のNMR指数であるプロトン密度,T1(縦緩和時間),T2(横緩和時間)の3つのパラメーターによって主として決定される。一般には,TR(time of repetition:くり返し時間),TE(time of echo:エコー時間)が短くT1の影響が強いT1強調画像と,TR,TEが長くT2の影響が強いT2強調画像の両者が撮像されている。当院における撮像条件は表1のごとくである。

8.内分泌診断

著者: 斎藤裕

ページ範囲:P.262 - P.263

 ホルモン産生腫瘍には顆粒膜細胞腫や莢膜細胞腫に代表される性索問質性腫瘍の他に,胚細胞腫瘍ではhCG,サイロキシン,セロトニンやα—フェトプロテインを分泌するものがある。これらのホルモン産生腫瘍はホルモン産生能を有しているとしても,それによる臨床症状を呈さないものも多く,摘出標本により診断されるものも少なくない。一方,経腟超音波断層法の導入により,実地臨床において軽度の卵巣腫大を伴う月経不順患者を扱うことが少なくなく,卵巣腫大がfunctionalと判断するべきか苦慮することがある。
 近年,non-functional tumorとされていた表層上皮性腫瘍にホルモン産生が認められ,従来のホルモン産生腫瘍の概念にとらわれずそれ以外の卵巣腫瘍からホルモンが分泌されることを理解する必要がある。

良性・悪性の鑑別

9.画像診断

著者: 木戸浩一郎 ,   岡井崇 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.264 - P.266

 卵巣腫瘍はその解剖学的位置のため,生検により術前の病理組織学的確定診断を得ることは困難であった。しかし,近年,画像診断機器や診断手技の向上により,術前の鑑別診断がかなり可能になってきた。
 本稿では,当科での経験をもとに超音波断層法を中心として,画像診断による卵巣腫瘍の良性・悪性の鑑別について概説してみたい。

10.腫瘍マーカー

著者: 稲葉憲之 ,   深沢一雄 ,   高見澤裕吉

ページ範囲:P.267 - P.269

 婦人科悪性腫瘍の中でleading cause of deathと言われる卵巣癌は近年増加傾向にあり早期診断法の確立が待たれるが,子宮癌や乳癌とちがって細胞,組織採取による癌直達が不可能なため,画像,腫瘍マーカーによる診断,いわゆる状況証拠による診断の精度向上に努力が払われるわけである。本稿では腫瘍マーカーによる卵巣癌のスクリーニング=一次検診ではなく,存在する卵巣腫瘍の〈良・悪性の鑑別〉=二次検診について当科のデータを中心に概説する。

11.術中診断の要点

著者: 畑俊夫

ページ範囲:P.270 - P.271

 手術中に卵巣腫瘍を良性か悪性か判断するには,先の項目で述べられた内診所見・画像所見・腫瘍マーカー・年齢などをおおいに参考にしつつ,開腹所見と術中の病理学的検査をもとにして行う必要がある。

治療方針の決め方

12.手術に踏み切るタイミング

著者: 紀川純三

ページ範囲:P.272 - P.273

 卵巣に発生する腫瘤には,非新生物である貯留嚢胞などの非増殖性嚢胞と新生物である卵巣腫瘍があり,その種類も多い。また,卵巣は腹腔内臓器であり,卵巣腫瘤の確定診断は開腹によりはじめて可能となる。そのため,卵巣腫瘤の術前診断は困難であり,実地臨床では手術療法の選択に苦慮する症例にしばしば遭遇する。近年,経腟超音波断層法などの画像診断法の進歩に伴い,小さな卵巣腫瘤の発見頻度が増加しており,開腹の適否に苦慮する症例も増加することが予測される。
 本稿では卵巣腫瘤,とくに良性卵巣腫瘍の手術に踏み切るタイミングについて概説する。

13.妊娠中の卵巣嚢腫の管理

著者: 古本博孝 ,   中山孝善 ,   青野敏博

ページ範囲:P.274 - P.276

 妊娠に卵巣嚢腫が合併することはまれではない。廣田らは黄体嚢胞を含めた全卵巣腫瘍が妊娠に合併する頻度は9.9%に達すると報告している1)。当教室でも最近6年間(1983〜1988)の分娩2,381例中,79例(3.3%)に卵巣嚢腫の合併がみられた。しかしこの内64例(81%)は黄体嚢胞と考えられ,特別な治療を要しなかった。このように妊娠に合併する卵巣嚢腫はそのほとんどが機能性嚢腫であり,不要な治療を避けるためにも真性腫瘍との鑑別が重要である。一方,黄体嚢胞が否定されれば,その取り扱いは基本的に非妊娠時と同じであると考えられる。完全に悪性を否定する方法がない以上,ある程度の大きさの嚢腫はすべて外科的に摘出して,良性であることを確認する必要がある。しかし実際には流早産の予防,手術実施時期,境界悪性および悪性群の取り扱い,妊娠の取り扱いなどに苦慮することも多い。
 ここではまず黄体嚢胞と真性腫瘍の鑑別について述べ,次いで当教室における妊娠合併卵巣嚢腫の管理について述べる。

14.チョコレート嚢腫の取扱い

著者: 安達知子

ページ範囲:P.277 - P.279

 卵巣チョコレート嚢腫は,卵巣に生じた子宮内膜症より発生した貯留嚢胞であるため,通常の新生物(neoplasma)とは異なった性格を有し,また,ホルモン依存性であることより,必ずしも開腹手術を第一選択としない。一方,子宮腺筋症や卵巣以外の部位へも外性子宮内膜症を合併していることが多く,そのため嚢腫のみの治療だけでは不十分であることが多い。本疾患の治療は従来までは大きく分けて,開腹手術と全身的薬物治療の2つだけであったが,近年,嚢腫の穿刺吸引,嚢腫内薬物注入療法が諸施設で検討され,治療法の選択が広がってきた。しかし,本疾患はまだ統一された根本治療がないのが現状であり,さらに,他の卵巣嚢腫や類内膜癌などの悪性卵巣腫瘍と鑑別が困難なこともあり,その取り扱いには十分な注意が必要である。本疾患の取り扱いは,年齢,妊孕性,挙児希望の有無,他の部位の内膜症の合併程度,嚢腫の大きさと性状,現在までの内膜症の治療とくに開腹手術の既往などによって異なる。本稿ではこれらの因子の状況に応じた取り扱い方について述べる。

15.予防的卵巣摘出の可否

著者: 桑原惣隆

ページ範囲:P.280 - P.282

 卵巣には種々の機能的器質的異常が発生するが,とくに良・悪性腫瘍は人体臓器中,最も多種類のものができる所であり,中でも卵巣癌は早期発見が難しく,予後は悪い。
 したがって更年期女性が子宮疾患などで開腹術を受ける機会には一見,正常と思われる卵巣を卵巣癌防止のため予防的卵巣摘出をしたほうがよいのではないかという議論が古くからなされている。しかし,なお明解な結論の出ていないままに今日に至っている。

16.若年婦人の卵巣腫瘍

著者: 土岐尚之 ,   柏村正道

ページ範囲:P.283 - P.285

 若年婦人(29歳以下)の卵巣腫瘍,とくに良性腫瘍の治療においては妊孕性や卵巣機能の温存が必須条件となる。以下前半は当科における若年婦人の良性卵巣腫瘍の臨床成績について概説し,後半は当科での臨床的取り扱い方針について述べる。

17.Postmenopausal palpable ovary syndrome

著者: 菊池義公

ページ範囲:P.286 - P.289

 婦人科領域の癌,とくに骨盤内臓器の癌,子宮頸癌や子宮体癌では治療法の進歩とあいまって早期診断法が確立されてきたことにより,その予後は大いに改善されてきた。しかしながら,卵巣癌ではシスプラチンという画期的な薬剤の導入にもかかわらずその死亡率は婦人科性器癌の中で最も高く,毎年約3,000人が死亡している。その最も大きな要因は早期診断が困難で診断時点で60〜70%がすでに腹腔内に転移していることである。
 1971年にPostmenopausal palpable ovary(PM—PO) syndrome1)という概念が導入されて以来,それを卵巣癌の早期診断のためのサインとして捉え厳重なるフォローアップが行われるようになった。

手術

18.基本術式—嚢腫切除,卵巣摘除,付属器摘除

著者: 椹木勇

ページ範囲:P.290 - P.292

 一般の開腹術前と同様に慎重な術前準備を整えておく。とくに術中細胞診と術中迅速組織診の用意を忘れてはならない。
 開腹は,下腹部正中切開が望ましい。腫瘍の大きさにもよるが,できるだけ腫瘍内容を漏出させないように必要に応じて臍の左側を経て切開創をさらに上方へ容易に延長し得る利点が大きい。もし正中切開が既往に頻回行われている症例には右または左旁腹直筋切開の利用を躊躇してはならない。

手術手技のコツ

19.巨大嚢腫

著者: 伊藤耕造

ページ範囲:P.293 - P.295

定 義
 巨大卵巣腫瘍の定義は古くはSkutsch(1904)の腫瘍重量が体重の1/2以上の大きさから,秦(1952)1)の妊娠8ヵ月の子宮以上の大きさまでいろいろと規定されているが,最近の医学の進歩,医学知識の普及に伴い,早期診断,早期治療が行われるようになり,巨大なものは比較的まれになってきているので現時点では秦の定義が妥当と思われる。

20.広間膜内嚢腫

著者: 川村泰弘

ページ範囲:P.296 - P.297

 広間膜内嚢腫では,通常発育の卵巣嚢腫とは異なり手術操作が複雑になることが多い。その主たる原因として以下の事項があげられる。
 1)嚢腫の広間膜内発育,とくに骨盤底方向,さらには腸間膜内への発育により,子宮をはじめ,S状結腸,直腸,膀胱など隣接諸臓器の偏位を生じるために解剖学的な位置関係を把握しにくい。

21.楔状切除術

著者: 斎藤馨

ページ範囲:P.298 - P.300

適応
 卵巣楔状切除術は言うまでもなく不妊婦人に行われるもので,他の排卵誘発法で効果のなかった多嚢胞性卵巣(PCO)が適応となる。われわれは他に不妊要因がなく以下の基準を満たすものを適応としている。①第1度無月経,②クロミフェン,ブロモクリプチン,hMG,hCGなどの薬物療法が無効,③卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の既往があり,④LH-RH testでLHの過剰反応(FSHは正常反応),⑤血中テストステロン,アンドロステンジオンが異常高値,⑥経腟超音波にて複数の卵巣被膜下閉鎖卵胞が認められる。
 本手術により術後80%前後の排卵率と約50%の妊娠率が期待される。ただしLH-RH testでLH前値が低値のものや硬化嚢胞型のものに対する手術効果はあまり期待できない。

22.内視鏡手術

著者: 関賢一 ,   久布白兼行 ,   岩田嘉行

ページ範囲:P.302 - P.305

 内視鏡下手術は,開腹手術に比し,患者に対する肉体的負担や術後の癒着が少なく,したがって入院期間も少なくてすむ。また,切開創も小さいため,とくに産婦人科領域では美容的な観点からもすぐれた手術法といえる。今回は,良性卵巣腫瘍の内視鏡下手術につきわれわれの経験を交えて概説する。

フォローアップと予後

23.良性からの悪性変化—フォローアップに際しての注意と考え方

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.306 - P.308

 卵巣腫瘍の良性,悪性の鑑別は,他臓器の腫瘍と比べ,組織診を用いても難しい場合が多い。事実,良性と悪性の中間病変として,境界悪性(borderline malignancy)あるいは低悪性度(lowmalignant potential,LMP)と呼ばれる腫瘍群の存在がWHO,FIGO,日本産科婦人科学会などいずれの組織分類においても認められている。したがって,原則的にはいかなる卵巣腫瘍といえども腫瘍の病理組織羊的な検索を経ずに安易に良性と判断し,これをそのままフォローアップすることはできるだけ避けるべきであり,止むを得ず腫瘍をそのままフォローアップするに際してはいかに慎重に対応してもし過ぎることはない。

24.Residual ovary syndrome (ovarian remnant syndrome)

著者: 荻野雅弘

ページ範囲:P.310 - P.311

 成熟婦人における子宮摘除術後の残存卵巣機能は,保存卵巣が一側でも残されていれば,術後の血清LH,FSH,尿中estrogen値はいずれも同年齢の健常婦人のそれとほぼ同じ値を示し,卵巣機能の寿命は一般健常婦人と同等に維持される1)。したがって,成熟婦人の子宮摘出術を余儀なくされた場合には卵巣を温存することに努めるが,温存卵巣が腫瘤を形成したり,腫瘤が触知されなくても下腹部痛や性交痛が出現することがある。それらをresidual ovary syndromeまたはovarianremnant syndromeといい,その頻度は3〜5%前後と報告されている。本疾患の多くは骨盤内腫瘤,下腹部痛,腰痛,性交痛,排尿障害,消化器症状(便秘)などを主訴とし発見されるが,腫瘤があっても無症状のこともある2,3)(表1)。resi—dual ovary syndromcの発症時期は子宮全摘術施行後2年の内に発症することが多いが,なかには10年経過して発症することもある。今回われわれが経験した症例を提示し,診断,術前検査,取り扱い方について述べる。

25.卵巣の部分切除と排卵機能

著者: 早田隆

ページ範囲:P.312 - P.314

 卵巣はホルモン産生という臓器特異性ゆえに,たとえ腫瘍が発生(悪性腫瘍を除いて)してもその機能を保存させるため,卵巣の一部を残置するのが実地臨床上の原則である。ことに,性成熟期女性では,性機能の根幹とも言うべき排卵の保持のために卵巣実質を可及的保存する必要がある。与えられたテーマは日常臨床できわめて重要であるが,本題に直結する文献は,著者の知る限り多くない。よって,教室のデータをもとに関連文献を用いてその責を果たしたい。

カラーグラフ 胎児・胎盤の生理と病理・15

致死型骨系統疾患

著者: 大薗恵一 ,   中山雅弘

ページ範囲:P.233 - P.235

 妊婦に対する超音波検査の機会の増加に伴い骨系統疾患の出生前診断例も増加している.われわれが経験した骨系統疾患のうち解剖を行った致死型骨系統疾患の臨床病理学的所見を頻度順に今回と次回に記載する.
 当センターでの病理解剖例788例のうち解剖時,軟X線検査により骨系統疾患と診断した死産ならびに新生児死亡例は19例(2.4%)であった.骨形成不全症(Osteogenesisimperfecta.OI) II型を8例経験した.

原著

生検診断による子宮頸部上皮内癌例の検討

著者: 宮川昇 ,   植田国昭 ,   村上章 ,   水谷勝美 ,   綾部琢哉 ,   大塚伊佐夫 ,   島袋剛二

ページ範囲:P.315 - P.320

 1975年5月から1990年12月までの間に,外来生検により子宮頸部上皮内癌と診断された例は149例であった。円切施行84例では,19.0%が浸潤癌と診断され,生検診断が過小診断となった。その後子宮摘出術が追加された63例では,全例,円切診断が術後診断と一致した。円切の有無にかかわらず子宮摘出術施行128例では,20.3%が浸潤癌と診断され,生検診断が過小診断となり,円切の重要性が認められた。円切後子宮摘出施行63例では,断端陽性例,あるいは,間質浸潤の疑いのある上皮内癌例があったため,6.3%が過剰手術となった。円切未施行子宮摘出術施行65例では,4.6%が過小手術となった。腫大リンパ節生検,郭清術施行47例では,転移は認められなかった。治療円切21例では,2例が浸潤癌であったため放射線治療が追加された。149例の経過観察中であるが,再発は認められていない。

症例

月経時使用したタンポン挿入器により子宮腟部に切創を生じた1例

著者: 星野広利

ページ範囲:P.321 - P.322

 過多月経と思い経過をみていた患者が,多量の持続出血と貧血症状の発現で来院し,子宮腟部に切創を発見し縫合止血した症例の報告である。切創はタンポン挿入器の弁状構造の先端部で,子宮腟部に切創が生じたことが原因と考えられた。
 いわゆる生理用品の中で医薬品として,多量に市販されているタンポンには,挿入器付き形式のものがある。器共の先端の形状の安全性,理解しやすい使用説明書が必要と思う。

薬の臨床

D&Cにおけるケタミン麻酔の覚醒と副作用に関する検討

著者: 岸東彦 ,   立花聡司 ,   土屋吉弘 ,   大戸寛美 ,   寺師恵子 ,   佐藤孝 ,   上妻志郎 ,   箕浦茂樹 ,   岡田一敏 ,   涌澤玲児

ページ範囲:P.323 - P.326

 ジアゼパムの直前静注投与を併用したケタミンの静脈麻酔にてD&Cを施行し麻酔状態,覚醒,副作用の検討を行った。ジアゼパム併用はそれ自体ケタミンの副作用軽減,予防に有効であるが,さらにケタミンの低用量化をもたらし,ケタミンの副作用はより軽減され覚醒も迅速となる。また麻酔状態は睡眠に類似した状態となりケタミン追加投与の機会は少なくなる。術中の体動も少なく終始安定した麻酔状態が得られ円滑に手術が行い得る。

閉経婦人の骨粗鬆症におけるサケカルシトニンの薬効と骨代謝の評価

著者: 舟山幸 ,   角田新一 ,   井口登美子 ,   大野佳代子 ,   長主真理 ,   村井加奈子 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.329 - P.333

 閉経婦人に対しサケカルシトニンを投与し,その薬効と骨代謝を評価したので報告する。
 対象は閉経5年以内の9人で,サケカルシトニンを1〜2週に1回,5〜201U筋注を6ヵ月間施行した。投与前後で臨床症状の改善度,第3腰椎のQCTによる骨量,生化学的検査(血中Ca, P, ALP, PTH, Osteocarcin,1,25(OH)2D3,尿中hydroxyprorin)を比較検討し,以下の結果を得た。
 ①投与後腰背部痛は軽減した。 ②骨量は7例/9例が増加または保持できた。 ③生化学的検査ではALPが減少し,PTHが増加した。ALPの減少は骨量増加率と負の相関を認め,治療経過観察の指標になりうることが示唆された。 まとめ:閉経後骨粗鬆症に対して更年期症状にも有効なホルモン補充療法(HRT)がよく用いられるが,HRTの禁忌や,患者が拒否する症例などがある。腰背痛を伴う骨粗鬆症に対してサケカルシトニンは有用であると思われた。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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