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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科48巻12号

1994年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 多胎—いま何が問題か 疫学

1.多胎妊娠の現状

著者: 佐藤章 ,   遠藤力 ,   北野原正高

ページ範囲:P.1440 - P.1445

 最近の不妊症に対するtechnologyの向上は,子供を出産することができなかった女性に対し,大なる福音になってきている.しかし,一方では,多胎妊娠の頻度が高くなっているのが現状である.多胎妊娠の頻度が高くなった原因は,最近の女性の結婚年齢が高齢化して来たため,30歳以上で妊娠する場合が多いこと,不妊症に対する排卵誘発剤の使用のためが主なる原因と考えられている.多胎妊娠は,母体にとっても,流早産,妊娠中毒症などの妊娠合併症の頻度が高くなることでかなりのリスクを負うのは無論のこと,児にとっても低出生体重や形態異常の頻度が高いこと,胎盤の数,位置などによる血液循環の異常による胎内死亡などの頻度が高くなり,いまや社会的にも問題になってきている.ここでは,多胎妊娠の現状につき世界および日本における状態と多胎妊娠の要因について記載する.

2.多胎の卵性診断

著者: 吉田啓治

ページ範囲:P.1446 - P.1448

 多胎の卵性診断は,単に卵性を決定するというだけでなく,双生児法Cotwin studyを用いたヒトの疾患,精神,心理,行動などにおける遺伝的要因と環境要因の関与を解析する研究に欠かせない手段である.
 多胎妊娠では,単胎に比べて周産期異常が著しく高頻度に出現する.しかし,表1でもわかるように多胎の中で最も多い双胎における低出生体重児,周産期児死亡あるいは,児奇形の発現頻度は,胎盤の卵膜型式により大きな違いがある.これは,その卵性にも関連するものと考えられるが,一般には多胎の卵性について正確な記載や告知が不十分なため,臨床においてしばしば混乱を生じている.

予防

3.ゴナドトロピン療法で多胎は予防できるか?—FSH-GnRHパルス療法

著者: 苛原稔 ,   桑原章 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1450 - P.1451

 日本におけるゴナドトロピン療法の多胎率は,約20%と報告されている1).また多胎児数では双胎が約70%,3胎以上が30%前後である.このようにゴナドトロピン療法はきわめて有効性が高いものの,産科的に非常に問題の多い3胎以上の妊娠も多く,ゴナドトロピン療法での多胎の防止は早急に解決しなければならない問題と言える.
 ゴナドトロピン療法における多発排卵の防止については多くの検討がなされてきた.例えば,モニタリングをより厳格に行う方法や,hMGやFSHの漸減投与2)や律動投与3)など投与方法を工夫する方法である.しかしいずれも確実な方法とはいえないのが現状である.一方,内因性のゴナドトロピンを利用するGnRHの律動投与法4)は,多発排卵の防止には有用であるが,治療期間が長くミニポンプの装着による患者の負担が大きい問題点がある.

4.ゴナドトロピン療法で多胎は予防できるか?—hMG律動的皮下投与

著者: 中村幸雄 ,   吉村泰典 ,   神野正雄

ページ範囲:P.1452 - P.1454

hMG-hCG排卵誘発発症例の多胎妊娠発生率
 日本における自然妊娠に見られる多胎妊娠発生率が0.6%前後に対して,排卵誘発症例とくにhMG-hCG療法の多胎妊娠発生率の高いことは,周知の事実である.文献的に考察すると,わが国では著者らのhMG-hCG療法妊娠例の多胎妊娠発生率は,62例中15例(24.2%,双胎10例,三(品)胎5例),平野らは,115例中27例(23.5%),倉智らは,1983年の全国調査では454例中93例(20.5%,双胎59例,三胎20例,四胎8例,五胎5例,六胎1例)と報告している.
 外国では,Spadoni et al(1974)は26例中8例(30.8%,双胎7例,三胎1例),Ellis et al(1975)は38例中12例(51.6%,双胎8例,三胎3例,四胎1例),Capsi et al(1976)は112例中30例(26.8%,双胎21例,三胎5例,四胎3例,六胎1例),Oelsner et al(1976)は,209例中68例(32.5%,双胎53例,三胎11例,四胎3例,六胎1例)と高い多胎発生率を示している.

5.ゴナドトロピン療法で多胎は予防できるか?—Step down投与法と多胎妊娠

著者: 水沼英樹 ,   伊吹令人

ページ範囲:P.1456 - P.1457

 Step down療法は,多嚢胞性卵巣(PCOD)の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生の予防を目的として考案された方法1)で,最近では低用量ゴナドトロピン療法2)の一つとして位置づけられる方法である.ここでは本療法の原理と方法および多胎妊娠の予防に対する有効性の有無について報告する.

6.体外受精での胚移植数は3個までか?

著者: 森崇英 ,   神崎秀陽 ,   後藤康夫

ページ範囲:P.1458 - P.1459

体外受精における多胎妊娠の現況
 体外受精治療の大きな問題点として高い多胎妊娠率がある.昨年報告された最新の世界統計でも,1991年の体外受精による多胎発生率は25.5%にものぼる.同時期の本邦集計でも20.8%が多胎妊娠であり,その大多数は双胎であるが三(品)胎以上も3.9%(三胎:3.3%,四胎以上:0.6%)となっていた(表1).また出生児1,700人中の32.2%は2,500g未満であった(表2).
 すなわち,体外受精妊娠の1/4は多胎妊娠であり,主としてこのために出生児の1/3が低出生体重児になっているという憂慮すべき現況がある.

7.胎児減数術の問題点

著者: 我妻堯

ページ範囲:P.1460 - P.1463

 排卵誘発法の進歩ならびに,いわゆるassistedreproduction技術の進歩によって多くの不妊夫婦が子どもに恵まれるようになった.しかし同時に多胎妊娠率の増加という医原的現象を生じるに至った.多胎妊娠の減数術については,約8年前に一度マスコミで取り上げられ,その後著者はこの問題について文献的考察1)を発表した.最近これについての議論が再燃し,日本産科婦人科学会の倫理委員会や,日本母性保護産婦人科医会でも検討されている.

妊娠合併症の対策

8.頸管縫縮術の適応とタイミング

著者: 三宅良明 ,   長岡理明 ,   佐藤和雄

ページ範囲:P.1464 - P.1466

 東京都における双胎妊娠の頻度は2.5〜3.0%であるが,双胎による死亡は周産期死亡率全体の約10%を占め,その主な原因は早産,未熟性であるとされている.そのため早期からの安静,頻回な診察による子宮収縮の有無,子宮口開大度,頸管長の観察,さらには頸管縫縮術など種々の早産予防対策がとられているものの,いまだ一定の見解は得られていない.

9.胎児数別の入院適正時期

著者: 久保隆彦

ページ範囲:P.1468 - P.1469

 人種差によると考えられるわが国の多胎妊娠の頻度は諸外国に比較し低率とされていたが,排卵誘発・体外受精などの不妊治療の急速な普及に伴い,多胎,とくに三胎以上の多胎妊娠の頻度は確実に増加している.しかも,多胎妊娠の周産期死亡率は単胎妊娠に比較し明らかに高率であり,胎児数の増加に従い増悪する.したがって,胎児数に応じた十分な周産期管理が要求される.本稿では胎児数別の入院時期について略述する.

10.三胎以上の母体合併症

著者: 合阪幸三

ページ範囲:P.1470 - P.1471

 自然妊娠で三胎以上となることはきわめてまれで,ほとんどが排卵誘発剤(とくにhMG製剤)の使用によるものである.hMG製剤が臨床の現場で広く用いられるようになったことから,近年このような症例の発生頻度も上昇しつつある1,2).筆者の施設でも,不妊外来を設置し,hMG製剤による排卵誘発,体外受精などを施行しているが,幸いなことに現在まで体外受精で三胎が1例発生したのみである.したがって,必ずしもこの方面のエキスパートと言うわけではないので,本稿では,三胎以上の妊娠・分娩時の管理上注意すべき点について,文献的考察を中心に述べることとする.

11.多胎児のIUGR

著者: 町田芳哉 ,   小林浩一 ,   岡井崇 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.1472 - P.1474

 多胎妊娠をはじめとする多胎妊娠例において,個別の胎児状況を的確に把握することは娩出時期や娩出様式を決定するうえで重要である.多胎児の発育度を単胎児の発育度と同様に扱うと,多胎児の胎児発育遅延の出現頻度は高いことは事実である.本稿では,多胎児の各分娩週数における体重を単胎児と比較し,多胎児を単胎児の発育度で評価することが妥当か否かを考え,その上で多胎児のIUGRの対策について検討したい.

12.Stuck twinの胎内治療

著者: 宇津正二

ページ範囲:P.1475 - P.1477

stuck twinとは?
 stuck twinとは,一絨毛膜性双胎の場合にみられる双胎間輸血症候群(TTTS)のうち最も進行した病態を表現した名称である.一方の児から他の児への異常な血流(シャント)によって発症した胎児胎盤循環障害の結果,受血児側の羊水過多に対して,羊水過少を来したために子宮内の端に張り付いて身動きが取れないような状態になった供血児を指して名づけられたものである.
 この病態にまで進行してしまったTTTSでは,受血児側では多血症,欝血性心不全から胎児水腫を,供血児側では貧血,低拍出性心不全からショック性多臓器不全を発症しており,両児ともに重篤な胎児胎盤循環障害に陥っていると考えられる.

13.TTTSの胎内治療

著者: 田中守 ,   名取道也 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.1478 - P.1479

 双胎間輸血症候群(以下TTTS)は一卵性一絨毛膜性双胎の重篤な合併症として知られている.一絨毛膜性双胎においては,ほとんどすべての胎盤に血管吻合が認められるとされているが,実際にTTTSを発症するものは全双胎妊娠の10%前後とされている.典型例においては,供血児では貧血,IUGR,尿量減少に伴う羊水過少(“stucktwin”:供血児が羊膜によって子宮壁に固定されたもの)などの症状が認められ,受血児では多血体重増加,尿量増加に伴う羊水過多が認められ,両児とも胎児水腫,胎児死亡に至る危険性がある.
 臨床上問題になってくるTTTS症例は母体外での生活が困難な妊娠中期に発症するもので,羊水過多に伴う前期破水,早産によりTTTS罹患児の周産期死亡率がきわめて高いものとなっている.そこで慶應大学病院で施行したYAGレーザーを用いた胎盤血管凝固術を中心にTTTSの胎内治療について述べてみたい.

14.一児死亡時の対応

著者: 寺尾俊彦 ,   朝比奈俊彦

ページ範囲:P.1480 - P.1482

 多胎妊娠における周産期異常(流早産,胎内死亡,奇形など)は単胎妊娠に比し,著しく高頻度に発生する.
 双胎妊娠における一児の死亡に関しては妊娠初期にみられるvanishing twinと中期以後における胎児死亡とがある.

分娩

15.多胎分娩のトラブル

著者: 西島正博 ,   吉原一

ページ範囲:P.1484 - P.1486

 多胎では,単胎に比べ,胎盤早期剥離,臍帯脱出,胎位異常,弛緩出血などの合併症がきわめて高率であり,分娩管理にはこれらの合併症予防を十分に考慮しなければならない.また第2児の予後をよくするためには,第1児出生後約15分以内に娩出させる必要がある.本稿では当科における統計を踏まえて,主に双胎分娩のリスクについて概説する.

16.多胎の分娩監視

著者: 金子政時 ,   池ノ上克 ,   中村安俊

ページ範囲:P.1487 - P.1489

 多胎妊娠は母児双方に合併症が生じることも多く,代表的なハイリスク妊娠の一つである.その管理についてはいまだ完全には解決されていない多くの問題点が残っている.なかでも今回はよりよい母児の予後をめざした多胎の分娩監視についてその要点を述べる.

17.双胎における後続児の取り扱い

著者: 石川薫 ,   羽柴良樹

ページ範囲:P.1490 - P.1491

 著者らの周産期センターで過去約10年間(1984年9月〜1994年7月)に取り扱った双胎は151例であるが,双胎の分娩様式はChervenak FA etal1)に準拠したプロトコールで対処してきた(図1).双胎における後続児の取り扱いとして実地臨床で迷いディベートとなる点は,①後続児が頭位でない場合の分娩様式(そのまま骨盤位経腟vs外回転し頭位経腟vs帝切や内回転),②双胎A出産後の後続児の分娩所要時間(積極的に促進vs自然に待機),③双胎A流超早期産後の後続児への対応(諦めるvs積極的に妊娠継続を図る)などに整理できるかと考える.以下,著者らの臨床経験および文献的渉猟を基に,上記3点につき解説したい.

18.双胎の胎位の組み合わせによる分娩方式の選択

著者: 岩崎寛治

ページ範囲:P.1492 - P.1494

 近年,不妊症治療(排卵誘発剤・体外受精—胚移植)の普及により多発排卵に伴う多胎妊娠が増加する傾向があり,さらに妊産婦の高齢化の問題も加わり,それに対処するための対策が必要なのは当然のことと思われる.
 多胎妊娠はハイリスク妊娠であり,単胎に比して約4倍高いといわれる周産期死亡率についてはとくに留意すべきであり,その分娩方式,分娩時期を症例ごとに十分考慮してのぞむべきであると思う.

新生児

19.多胎児(双胎)の肺成熟促進はどうするか

著者: 川本豊

ページ範囲:P.1495 - P.1497

 双胎は未熟性に起因する呼吸窮(促)迫症候群(RDS)を主とした罹病により単胎に比し周産期死亡率が高いといわれる.しかし近年人工肺サーファクタントの導入により,RDSの予後は著しく改善された.またLigginsら1)が,母体へのステロイド投与が胎児肺の成熟を促し,RDSの発症予防に有効である可能性を報告して以来,ステロイドとthyrotropin-releasing hormone(TRH)を中心とした臨床研究が行われ,その有効性が証明され,出生前治療として確立されつつある.
 今回,双胎妊娠における肺成熟を目的とした出生前治療の意義と適応を院内出生NICU入院双胎(以下対象)(1982〜1990年12月259例31.3±3.5週 対象中ステロイド療法が33.6%,ステロイド+TRH療法が6.9%に行われた)での検討と文献的考察を加え解説する.

20.同一胎齢の単胎児との成育予後の差

著者: 小沢愉理 ,   宇賀直樹

ページ範囲:P.1498 - P.1500

多胎児と単胎児の脳性麻痺の比較
 多胎で出生した児は単胎児よりも脳性麻痺,発育発達異常をきたす率が高いと報告されている.
 多胎の多くは双胎であるが,近年の体外受精の進歩により三(品)胎以上の児も多くなり,また双胎で出生する率も年々増加している.多胎妊娠での分娩そのものが児に影響を及ぼしていることも明らかであるが,多胎妊娠は早期産になりやすく低出生体重児であるがゆえの合併症が原因で,予後を不良にしていることも十分考えられる.

21.多胎妊娠と児奇形

著者: 兼子和彦 ,   竹内正人

ページ範囲:P.1501 - P.1503

 多胎妊娠における先天奇形の発生は,単胎妊娠に比べ心血管系や消化器系奇形など2倍以上の頻度1)が示されている.
 最近の胎児診断法の進歩は,パルス・カラードプラ法に至る超音波診断法の進展に伴い,羊水診断や胎児採血などの発達も加わり,胎児の形態,機能面の解析は進み,他方遺伝子の検索の展開2,3)と相まって多胎児形態異常の把握に関してもその管理面への課題を提供してきている.

22.双胎児の出生時体重

著者: 柳田隆 ,   高橋守 ,   大森茂

ページ範囲:P.1504 - P.1506

 双胎児にはconcordant twin以外にdiscor—dant twin,一児のIUFD,奇形など複雑な組み合わせがあり,卵性診断を含めた胎児管理に苦慮する場合が多い.しかし一番のポイントは早産の予防であり,出生時体重であろう.当院では年間約20例の双胎分娩があり,1970(昭和45)年より1993(平成5)年までの24年間の分娩記録に基づき,双胎児の分娩週数別出生時体重を算出してみた.

23.双胎の卵性による神経学的予後の相違

著者: 三科潤

ページ範囲:P.1508 - P.1510

 多胎は単胎に比して早産,IUGR,先天奇形発症の頻度が高く,周産期死亡率も高い1,2).また,RDSや壊死性腸炎(NEC),未熟網膜症(ROP)の発症頻度も単胎に比して高い1,2).さらに,一卵性双胎には双胎間輸血症候群(TTTS)や子宮内一児死亡の場合など児の予後に大きな影響のある問題がある.
 また,双胎は単胎に比し神経学的後遺症発症の頻度も高いことが報告されており3),われわれも同様の結果を報告してきた4,5).これらの問題は多胎に合併しやすい早産やIUGRに起因するばかりではなく,卵性や胎盤形成からも影響を受けていると言われる6).新生児医療の進歩に伴い,多胎早産例の生存率が高くなり,さらに,不妊治療により多胎妊娠,多胎早産例が増加してきている今日,多胎例の後障害発症について,その卵性との関連を検討することは有用であると考える.

カラーグラフ 遺伝講座・6

遺伝子解析の方法・2

著者: 鈴森薫

ページ範囲:P.1435 - P.1437

ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法:polymerase chain reaction)
 PCR法では,微量の試料から目的とするDNA領域を短期間に20〜50万倍に増幅して調べることができる.2本鎖DNAはそのままでは安定であるが,熱を加えると開離して1本鎖DNAとなる.しかし,また温度を元に戻すと前と同じ2本鎖に戻る性質をもっている.
 PCR法の原理は,熱処理してまず2本鎖DNAを1本鎖にすることから始まる.1本鎖になったDNAを鋳型としてそれに相補的なDNAを生合成するDNAポリメラーゼの性質を応用したものである.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

腹腔鏡下の骨盤内癒着剥離

著者: 堤治

ページ範囲:P.1511 - P.1511

 内視鏡手術の進歩普及に伴い,子宮内膜症等で骨盤内癒着が高度な場合でも腹腔鏡下に卵巣嚢腫核出術や子宮全摘術が可能となってきている.開腹手術でもダグラス窩閉塞例等では難しく剥離面からの出血も大量になることもあった.腹腔鏡の応用はそういった症例でも開腹を必要としないばかりか,内視鏡の特徴を活かし,より安全で出血量の減少も計ることができると思われる.ここではそのために必須の癒着剥離のこつをお示ししたい.
 癒着の剥離はその程度によりその方法も異なる.膜様癒着等軽度な癒着の剥離は鋏鉗子で切断する.その場合も必ず把持鉗子で剥離部位を展張させ,スコープを接近,血管の無い部分をすこしずつ切断する.中等度以上の癒着の場合,把持鉗子2本を用い切断予定部位をやや強く展張せしめ,レーザーないし電気メスモードにした鋏鉗子を用い,切断と鈍的剥離を繰り返しつつ慎重に進める.KTPレーザーの場合チップ先端を接触(contact)ないし近接触(near-contact)で切開切断,それ以上離す(non-contact)と凝固が可能である(図).電気メスの場合も切開と凝固モードを使い分ける.

腹腔鏡下手術時の縫合術

著者: 森田峰人 ,   矢野義明 ,   平川舜

ページ範囲:P.1512 - P.1512

 産婦人科領域での腹腔鏡下手術の適応は,近年徐々に拡大され,縫合を要する手術も行われるようになってきた.婦人科腹腔鏡下手術で縫合術を行うものとして,子宮筋腫核出術の際の子宮切開創や卵管開口術の際の卵管飜転部の縫合などがある.
 縫合を行う際のポイントとしては,縫合に使用する鉗子の選択,縫合針の選択,縫合糸の選択がある.まず第1点として,腹腔鏡下手術専用の持針器を用いることで最も容易に縫合を行うことが可能となる.腹腔鏡下手術用の持針器は各社から発売されており,一般的な把持鉗子よりも針や糸を確実に掴むことができ,容易かつ確実に縫合を行うことができる.持針器のタイプとしては,針を掴む部分の形状が開腹術で用いるものと同様にダイアモンドカットが施されているものが最も使用しやすい.これは,腹腔鏡下の鉗子操作という性格上,開腹術のような自由な運針が不可能であり,このような状態において鉗子に対する針の固定角度が限定されてしまう鉗子では操作が困難であり,自由な角度で固定できるものが最も使用しやすいという理由によるものである.

婦人科悪性腫瘍の手術と骨盤リンパ節郭清術

著者: 仲野良介

ページ範囲:P.1513 - P.1513

 婦人科悪性腫瘍の根治手術で,骨盤リンパ節郭清術を行うことが多くなってきた.以前は主として子宮頸癌根治手術の一環として骨盤リンパ節が郭清されていたが,最近では子宮内膜癌や卵巣癌でもリンパ節郭清が普遍化される傾向にある.
 婦人科手術で郭清される骨盤リンパ節は図に示すごとくであり,完全,完壁な系統的リンパ節郭清が悪性腫瘍根治手術の基本的理念であることは言をまたない.

Q&A

子宮癌検診における子宮内膜スミアの有用性

著者: 関谷宗英 ,   矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1515 - P.1516

 Q 40歳以前で性器出血などがない女性に,子宮内膜癌検査を目的に行うEndocyte使用によるスクリーニングの有用性を,costbenefitの面も含めお教え下さい(奈良県 K生).
 A 子宮体(内膜)癌検診の対象は最近6か月以内に不正性器出血を訴えたことのある者とされており(老人保健法),不正性器出血のない者は検診の対象とはならない.一方,体癌が好発(90%以ヒ)する年齢50歳以Lあるいは閉経後の婦人が検診の主な対象であるが,ときに(体癌の数パーセント)若年体癌(40歳以前?)が発見される.若年体癌を見逃さないよう未妊婦であって,月経不規則(危険因子)の婦人も対象としている.

症例

Metanephrogenic elementを有した卵巣未熟奇形腫の1例

著者: 高松潔 ,   木口一成 ,   金田佳史 ,   牧田和也 ,   伊藤高太郎 ,   久布白兼行 ,   倉持茂 ,   向井万起男

ページ範囲:P.1521 - P.1525

 われわれは,metanephrogenic elementをもつまれな卵巣未熟奇形腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
 症例は,24歳,女性.小児頭大の左卵巣腫瘍.組織学的には,粘液産生の強い腺上皮から構成されたmucinous cystadenomaを思わせる管腔構造の間質に核異型と核分裂像を伴ったblastic cellが存在した.特徴的な所見として腎糸球体に類似したglomeruloid patternをもつmetanephrogenic ele—mentが認められた.これらの所見から本腫瘍は未熟奇形腫Grade1〜2と診断された.卵巣未熟奇形腫におけるmetanephrogenic elementはきわめてまれであり,本邦ではいまだ報告がなく,諸外国においてもNicholsonとNogalesの2報告を認めるのみである.

血漿交換療法を施行したRhE不適合妊娠の1例

著者: 浜田信一 ,   田村貴央 ,   檜尾健二 ,   樋口和彦 ,   高橋弘子 ,   奈賀脩 ,   滝下佳寛 ,   浜田道夫

ページ範囲:P.1527 - P.1530

 第1子が重症新生児溶血性黄疸で交換輸血を受けたため,第2子を妊娠中に母体の血漿交換療法を施行したRhE不適合妊娠症例を経験した.症例は34歳で,第2子を妊娠中に合計10回の血漿交換を行い,母体血中抗E抗体価を32〜256倍に維持した.妊娠37週に2,812gの男児を出生したが交換輸血は必要とせず,児は順調に経過している.
 RhE不適合妊娠に血漿交換療法を施行した報告は非常に少ない.今後この治療に対する抗E抗体価のコントロール基準設定等の検討が必要であると思われた.

成人型および若年型卵巣顆粒膜細胞腫の2例

著者: 伊藤高太郎 ,   牧田和也 ,   金田佳史 ,   高松潔 ,   宇田川康博 ,   木口一成 ,   倉持茂

ページ範囲:P.1531 - P.1534

 今回,特徴的な捺印細胞像・組織像を示す成人型および若年型の2例の卵巣顆粒膜細胞腫を経験したので,各々の形態学的特徴に加え,治療法の選択についても若干の文献的考察を加えて報告する.
 成人型の症例は67歳の女性で,反復する閉経後出血を主訴に来院,画像診断(超音波断層法およびCTスキャン)上,左卵巣の腫大と子宮内膜肥厚像を呈していたためホルモン産生性卵巣腫瘍を疑い,腹式単純子宮全摘兼両付属器切除術を施行し,顆粒膜細胞腫の病理診断を得た.術中採取した腹水細胞診にて腫瘍細胞を認めたため,現在,化学療法を施行中である.

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「臨床婦人科産科」第48巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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