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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻10号

1995年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 初期治療60分—産科救急 出血

1.子宮外妊娠

著者: 保坂真 ,   井坂恵一 ,   高山雅臣

ページ範囲:P.1352 - P.1354

 子宮外妊娠は,高感度hCG測定キットの開発や経腟超音波の発展などによって妊娠初期から診断することができるようになってきた.しかし,今だに腹痛を主訴に救急外来を受診する症例もあとを絶たないのが現状である.本稿では,救急対応について述べてみた.

2.前置胎盤

著者: 畑俊夫 ,   小倉一仁 ,   富岡康広

ページ範囲:P.1355 - P.1357

 産科出血の中でも前置胎盤からの出血は,2,000mlを超すこともあり,2,000mlを超す出血はDICを起こしやすくなり,母体の死亡にも結びつきかねない.したがって早期診断・早期治療が強く望まれる疾患である.

3.常位胎盤早期剥離

著者: 川村光弘

ページ範囲:P.1358 - P.1359

迅速診断のポイント
 1 症状,経過の把握 2 妊婦のvital sign確認 高血圧の有無の確認とともに,今後の治療に対する予備力を確認する.

4.子宮破裂

著者: 齋藤良治 ,   小笠原智香

ページ範囲:P.1360 - P.1362

迅速診断のポイント
 1 既往歴など
 筋腫核出術,帝切の既往歴ならびに子宮収縮促進剤(PG,オキシトシン)の使用などがハイリスクとなる.
 2 母体側所見
 切迫子宮破裂では過強陣痛,痙攣性陣痛による激痛,病的収縮輪,分娩進行の停止が認められる.前回帝切例や筋腫核出術後例では,これら自覚症状が軽度であり,分娩進行の停止のみがみられやすい.子宮破裂では出血性ショックをきたし,子宮外に胎児部分を触れる.

5.弛緩出血

著者: 天野完

ページ範囲:P.1364 - P.1365

迅速診断のポイント
 胎児および付属物娩出後の止血機転は主として子宮洞筋の収縮による血管結紮(生物学的結紮,biological ligation)により,500ml以上の異常出血の多くはこの機転の障害,すなわち子宮弛緩症(弛緩出血)が原因となる,原因は多岐にわたるが,①付属物遺残,②物理的な子宮筋の過度の伸展(羊水過多,多胎など),③子宮内圧の急激な変化,④微弱陣痛,⑤子宮収縮剤,麻酔薬,早産防止薬などの使用,などが誘因となる.
 分娩後に暗赤色の出血が持続する場合には弛緩出血を念頭に置いた速やかな対応が必要になる.子宮体部は柔軟で子宮底の上昇がみられるが,用手的に子宮腔内を検索し,胎盤,卵膜遺残のないことを確認する.超音波断層法による検索も有用である.

6.頸管裂傷

著者: 今井史郎

ページ範囲:P.1366 - P.1367

迅速診断のポイント
 分娩第Ⅲ期出血の原因として頸管裂傷をまず疑うポイントとしては、 1 児娩出直後,胎盤の剥離・娩出以前からすでに出血が多く,会陰切開あるいは腟壁・会陰裂傷による出血として説明し難い場合.
 2 胎盤娩出後の出血が胎盤剥離面からの出血である暗赤色よりも,新鮮なより赤い出血である場合.

7.会陰・腟壁裂傷(会陰血腫を含む)

著者: 乾泰延

ページ範囲:P.1368 - P.1370

迅速診断のポイント
 腟壁裂傷のほとんどは外陰部に近い腟壁下部に生ずるので,用指的に(第2,3指を用いて)腟腔を開け,裂傷の部位,深さ,出血の程度をチェックする.腟深部の裂傷の場合は,助産婦の指と術者の指にて腟腔を開けつつ,肛門の方へ押し下げながら,かつガーゼにて子宮腟部を圧排しつつ裂傷を確認する.引き続き会陰裂傷の点検に入り,裂傷の程度(第1〜4度)を確認する.会陰血腫については裂傷縫合前後,内診,触診,視診にてチェックする.

8.子宮内反症

著者: 金倉洋一

ページ範囲:P.1371 - P.1373

迅速診断のポイント
 1 発症時期
 ほとんど分娩第3期,胎盤の剥離直前あるいは直後に起こる.剥離していない胎盤を強引に牽引,娩出することが原因となることがある.まれに有茎粘膜下筋腫分娩の際に偶発することがある.
 2 初期症状
 産婦は不穏を示し,下腹部の疼痛と多量の出血がある.

9.胎盤ポリープ

著者: 山口暁 ,   越野立夫

ページ範囲:P.1374 - P.1375

迅速診断のポイント
 産褥後期以降に大出血をきたす疾患としては,胎盤ポリープ以外に,胎盤遺残,胎盤剥離部に生じた血栓の脱落,子宮筋腫(とくに粘膜下筋腫),絨毛性疾患があげられる.これらの疾患と胎盤ポリープとの鑑別は病理学的検索によらないと困難であるが,胎盤ポリープに比較的特徴的な症状としては,子宮収縮剤に抵抗し反復する暗黒色の性器出血,出血時の陣痛様下腹部痛,ポリープ表面に感染をともなった場合に生じる微熱などがある.

感染

10.エンドトキシンショック

著者: 萩尾洋介

ページ範囲:P.1376 - P.1379

 エンドトキシンショックは,グラム陰性桿菌の菌体内毒素(エンドトキシン)により発生するショックであるが,広範囲熱傷や重症外傷でも同様の病態がみられる.最近のサイトカインネットワークに関する知見の急速な増加に伴い,これらの病態は全身性炎症反応症候群(SIRS)として考えられるようになった.すなわち,エンドトキシンによる直接的な生体反応と考えられていたエンドトキシンショックが,外因性物質に対する,生体側の過剰な防御反応によって産生される種々の内因性物質によって引き起こされることが明らかになってきた(図).
 産科領域にみられるショックの大部分は,出血性ショックであり,エンドトキシンショックを含む非出血性ショックの頻度は少ない(5〜10%).しかし,一旦,エンドトキシンショックを起こした場合の死亡率は高く(20〜50%),きわめて重要な病態といえる.本稿では,最近の知見をふまえて,初期治療のポイントにつき概説する.

11.エキソトキシンショック(warm shock)

著者: 高杉信義 ,   加藤紘

ページ範囲:P.1380 - P.1383

 エキソトキシン(Exotoxin)とは,細菌が培地内で増殖しながら菌体外に産生分泌する毒素で,菌体を破壊することなしに培養液を濾過または遠心沈殿することによって,培養液中から得られる物質である(表1).エキソトキシンを産生する細菌は,黄色ブドウ球菌を始め多種あるが,溶血性連鎖球菌(溶連菌)による症例も最近報告されている.これらの菌は感染すると,体内で増殖しながら毒素を産生し,この毒素のため特有な症状を呈するが,ショックをきたすのは黄色ブドウ球菌と溶連菌である.
 1978年,Toddら1)の報告以来,月経時の生理用品,とくに高吸収性のRely Tamponを使用した患者に多発したToxic-shock syndrome(TSS)が話題となり,これは黄色ブドウ球菌の感染によるExotoxin(pyogenic exotoxin C, enterotoxinF, TSST−1)が原因と考えられている(表2).

血栓・塞栓

12.肺血栓・肺塞栓症

著者: 北川道弘

ページ範囲:P.1384 - P.1385

 肺血栓・肺塞栓症は静脈血栓に起因する疾患で,緊急性がきわめて高く,血栓・塞栓が広範囲に及ぶ重症型では突然死を起こす.一般的には外科手術(とくに骨盤内子術)後の発症率が高く,また産科救急では産褥期に下肢深部静脈血栓が肺で塞栓を形成する場合や帝王切開後の発症率が高いため産婦人科医はつねにこの疾患を念頭に入れておく必要がある.
 本症の確定診断はけっして容易ではないが,誤ると病状の進行ははやく,早急な対処が必要な疾患である.

13.羊水塞栓症

著者: 徳永直樹 ,   金山尚裕 ,   寺尾俊彦

ページ範囲:P.1386 - P.1388

 羊水塞栓症はまれな産科疾患であるが,母体死亡率は60〜80%にも及ぶ.7,000〜10,000分娩に1件の頻度で発症するので文字通り“万が一”の疾患といえる.最近産科出血の治療の改普などから,羊水塞栓症がわが国では妊婦の突然死の第一の原因となっている1).したがって,妊産婦死亡を減少させるためには,羊水塞栓症の対策が重要な問題となってきている.
 本症の発症機序は不明な点もあるが,基本的には羊水,羊水中の細胞,胎便などが母体血中に入り,母体肺動脈系に塞栓を引き起こし,さらに羊水に含よれるケミカルメディエーター(トリプシン,トロンボプラスチン,ロイコトリエンなど)により,肺血管の攣縮,アナフィラキシー反応,DICを引き起こすためと考えられている.

けいれん・昏睡

14.子癇

著者: 沖津修

ページ範囲:P.1389 - P.1391

 わが国の子癇の発症頻度は,全分娩数の0.05〜0.3%で,症例の70%は初産婦,季節は寒冷期に多い.痙攣の回数は1〜10回であるが,重症例ではこれを上回ることがあり,発作回数が多くなるほど,母児の予後は悪化する.妊産婦死亡率が0.5〜17.5%,周産期における児の死亡率は13〜30%とされる.妊娠中毒症の主たる病態は,①血管攣縮,②循環血漿量の減少,③糸球体濾過量の減少,であることを念頭において子癇の管理にあたらなければならない.

15.糖尿病性昏睡

著者: 豊田長康

ページ範囲:P.1392 - P.1393

 もっとも遭遇する頻度の高い糖尿病性ケトアシドーシスを中心に述べる.
 迅速診断のポイント 1 念頭におくべき疾患 1)糖尿病性ケトアシドーシス 2)高浸透圧性非ケトン性昏睡 3)乳酸アシドーシス 4)低血糖 5)糖尿病に直接関係のない昏睡(脳血管障害,ショック,尿毒症,肝性昏睡,子癇,その他)糖尿病性ケトアシドーシスと低血糖の鑑別が最もたいせつである.乳酸アシドーシスはビグアナイド系経口糖尿病薬の投与時に生じやすいとされ,現在その使用が激減しているのでほとんど認められない.高浸透圧性非ケトン性昏睡は,高齢のインスリン非依存糖尿病(NIDDM)に多いとされる.

呼吸困難と循環不全

16.喘息

著者: 岸本廉夫 ,   近藤裕司 ,   多田克彦

ページ範囲:P.1394 - P.1397

 気管支喘息(以下喘息)は最も多い呼吸器疾患の一つで,喘息合併妊婦は全妊婦の0.3〜1.3%と言われており1),管理する機会も多い.また,発作性呼吸困難による窒息死もまれではない.喘息は各種の刺激による気道の過敏性亢進を特徴とするが,近年,基本的病態は慢性剥離性好酸球性気管支炎と考えられており,したがって治療の本質は気道炎症と,炎症細胞からの化学伝達物質により引き起こされる気管支攣縮による気道閉塞の改善にある.本稿では,喘息大発作時の対応を主に述べる.

17.肺水腫

著者: 岡本悦治

ページ範囲:P.1398 - P.1399

 産科領域における肺水腫の発症は,妊娠中毒症の管理の向上とともに減少傾向にある.しかしながら最近では,流早産の治療に使用される塩酸イソクスプリン(ズファジラン®)誘導体である塩酸リトドリン(ウテメリン®)により肺水腫を発症したとの報告が諸施設よりされている1,2).肺水腫は重篤な場合,致死的となる疾患であり,産科救急での初期段階の適切な処置が重要である.

18.不整脈

著者: 岩崎克彦

ページ範囲:P.1400 - P.1404

迅速診断のポイント
 1 不整脈か否かの診断(1)自覚症状:動悸,脈拍異常,失神,めまい,ふらつきなど.
(2)触診:規則性(調律)と脈拍数(正常は60〜100/分).

19.心筋症

著者: 村上雅義

ページ範囲:P.1406 - P.1408

 心筋症(cardiolnyopathy)は心筋自身が直接障害される疾患である.1980年のWHO/ISFC合同委員会の提案1)によると心筋症とは「原因不明の心筋疾患」と定義され,原因または全身疾患との関連が明らかな心筋疾患を特定心筋疾患(spe—cific heart muscle disease)として区別している(表).これらの疾患をもった妊婦は,すでに厳重な管理が施されていることが多く,本稿でいう産科救急の対象となることは少ない.むしろ産科救急として問題となる心筋症は,いままで心疾患がなかったとされる婦人に,妊娠・出産に際して初めて心不全症状が出現する原因不明の周産期性疾患(peripartal heart disease or peripartum car—diomyopathy)である.そこで本稿では,このタイプの心筋症に絞り対応を述べる.
 産褥期にみられる原因不明の心不全の存在は1800年代より知られていたが,1957年にMeadowら2)が本疾患を特殊な心筋疾患と位置づけて以来,その存在がクローズアップされた.タイプとしては,拡張型心筋症と類似の所見を呈する.ただ,本疾患が単一の疾患単位とは考えられないとの立場が一般的である.妊娠・出産に関連する肺塞栓ないしは血栓症によるものという意見もある.発症時期についても本当に発症以前は健康であったのかどうか客観的な評価が行われているとは言いがたい.

肝不全

20.急性妊娠脂肪肝

著者: 大塚博光 ,   会沢芳樹 ,   小西隆裕

ページ範囲:P.1410 - P.1412

 急性妊娠脂肪肝は妊娠末期,とくに妊娠35週以降に突然発症し,急速にDIC,肝不全に陥る予後不良の疾患である.以前は母体死亡率は80〜90%とされていたが,軽症例も診断されるようになったことや,早期発見,さらにDICの治療も進んだことから,最近では0〜30%とされる.また周産期死亡率も改善され,10%1)との報告もみられるが,全体としては10〜50%と考えられる.

21.HELLP症候群

著者: 伊藤昌春 ,   岡村均

ページ範囲:P.1414 - P.1417

 1954年,Pritchardらによって報告された溶血(hemolysis),肝酵素上昇(elevated liverenzymes)および血小板減少(low platelets)を伴う子癇前症の一群を,Weinstein(1982年)は,新たにHELLP症候群と呼んだ1).本症候群は子癇前症患者の4〜20%,子痛患者の10%にみられ,母体の罹病率や死亡率のみならず周産期死亡率も増加する.予後を改善するには,迅速な診断と集学的な母児管理を要するため,症例の多くは緊急検査と集中管理態勢が整備された医療機関に搬送され管理される.
 本稿では,教室における本症候群の診療指針を中心にして述べる.

22.当直医のための救急薬品リストと使い分け

著者: 上塘正人 ,   鮫島浩

ページ範囲:P.1418 - P.1422

昇圧剤
 1 Dopamine(イノバン®,塩酸ドパミン)2〜5μg/kg/min(持続静注)の速度で開始する.この量であればβ作用が主で腎血流量を増加させ尿量増加が期待できる.投与量を増加させると20μg/kg/min以上でα作用が優位となり血管収縮が起こり組織血流が保たれなくなる.
 妊娠中の適応は心因性,外傷性あるいは出血性ショックの治療である.しかし妊娠中においてはdopamineの投与による母体改善とは逆に胎児循環の悪化が報告されており,母体循環血液の量的補充が優先されるべきである.また,妊娠中毒症の腎不全予防のために使用された報告はあるが,安全性は確立していない.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・7

上皮内癌

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.1347 - P.1349

 上皮内癌における血管構築上の特徴はDysplasiaの段階で形成された突出血管集塊やBasketの大きさ,配列が腫瘍細胞の増殖によって大きく変化することである.すなわち,Dysplasiaより血管増生ははるかに盛んとなるが,それにも増して増殖腫瘍細胞の圧迫が大きく,かろうじて血管構築は保持されるものの,大小不同,配列不整という構築上の不整が顕著となる.
 Punctation部位では図1,2に示すように突出血管は数を増して束になり,太く,高く,先端部ではいびつで大きな集塊を形成する.突出血管間の距離も増加する.この所見はコルポスコープ下には大小不同で配列も著しく不整なPunctationとしてとらえることができる(図3).

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

子宮腟脱手術に使用する短葉耳穴付自保腟鏡—懸垂錘付,Sサイズ

著者: 桑原惣隆

ページ範囲:P.1424 - P.1424

 子宮腟脱手術において古くから種々の術式が考案されているが,子宮の支持結合織の弛緩延長,骨盤底筋の哆開などで子宮の移動性が異常増大し,腟式手術では、ほぼ完全に腟入口部から外方へ脱出させた状態で手術を行うことになる.
 腟式子術では腟鏡の位置,サイズなどが重要であり,通常の懸垂錘付自保腟鏡では長いために外方へ牽引され脱出した子宮により外方へ押出されて深く挿入できなくなる.

マイクロサージャリーにおけるディスポーザブルクリップの使用

著者: 澤田富夫 ,   門脇恵

ページ範囲:P.1425 - P.1425

 最近の体外受精は技術的進歩により妊娠率の上昇をみるが,未だ卵管通過障害症例において卵管手術を希望する例は多い.卵管手術は再疎通による機能回復の結果自然妊娠が望めること,一回の手術で繰り返し妊娠可能であること,また妊娠率も症例にもよるが体外受精より良好なことが,その長所として挙げられる.手術に適応となる症例のうち,特に卵管間質部・峡部・膨大部における閉塞は,端々吻合術を実施することによりその妊娠成績は20〜60%の報告がなされている.このうちでも卵管結紮術後の峡部—峡部端々吻合術の成績は極めて良好であり,本症例における当科のマイクロサージャリーの手技にっき簡単に解説する.
 HSG(子宮卵管造影検査)により閉塞部位を確認した症例は全身麻酔下で開腹手術を行う.卵結後の閉塞は卵管を一見するだけで閉塞部位の範囲を確定することは容易であるが,内腔炎症等による結節状閉塞の場合は,閉塞部位の範囲は外からは一見して判断できにくいため,まず触診にて硬化結節状になっている部分までを切除する.この際マイクロ顕微鏡下もしくはルーペ下に鋭利なメスか,マイクロ剪刀を用いて切除するのが断端を縫合しやすくするコツである.卵管に対して直角に漿膜ごと切除した卵管断端の内腔が,拡大鏡下に確認できるまで切除範囲を少しずつ延長していく.

原著

結合型エストロゲン,MPAによる閉経後女性に対するホルモン補充療法

著者: 谷村悟 ,   佐伯吉則

ページ範囲:P.1431 - P.1434

 当院にて,結合型エストロゲン0.625mg, Me—droxyprogesterone acetate(MPA)2.5mgの連続投与による女性ホルモン補充療法(以下HRT)を施行した症例について、その臨床効果を検討したので報告した.①HRTは更年期障害のうち,血管運動障害に関する症状にとくに有効であった.また,小山らが提唱したSMIスコアは治療前のFSHと関連が認められ,有用であると考えられた.②T—choの低下および低下作用の維持が確認された.また,T-cho,HDLともに,HRT前後の変化率は治療前値と負の相関関係にあった.③ALPは16か月の観察期間中,持続的な低下を示した.④拡張期血圧はHRT施行12か月後において,有意に低下した.また,BMI,血圧とも変化率は治療前値と有意な負の相関を認めた.HRTは,動脈硬化のリスクの高い症例により有効であることが示唆された.

腹腔リザーバー長期投与が腹膜クリアランスに与える影響について

著者: 津村宣彦 ,   首藤聡子 ,   山下陽一郎 ,   川口勲

ページ範囲:P.1435 - P.1437

 腹腔リザーバーを用いた化学療法施行の婦人科悪性腫瘍症例を,反復投与群(リザーバーよりの投与6コース以上)と初回投与群に分け,PSP尿中排泄率およびCDDP血中移行率を測定し腹膜クリアランスの変化を検討した.初回投与群に比し反復投与群で尿中排泄率,血中移行率が共に有意に高く.腹膜クリアランスの上昇が推察された.この結果より.抗癌剤の腹腔内への反復投与が抗腫瘍効果に影響を及ぼす可能性が示唆された,また.PSPが腹膜クリアランスの簡便な検査法として有用か否かについても,今後検討していきたい.

卵巣癌における骨盤リンパ節ならびに傍大動脈リンパ節への転移率について

著者: 小原幹隆 ,   高橋道 ,   三川猛 ,   柴田悟史 ,   福田淳 ,   加藤充弘 ,   設楽芳弘 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.1439 - P.1442

 卵巣癌における骨盤および傍大動脈リンパ節転移について臨床病理学的に検討した.対象は1990年から1994年まで卵巣癌で骨盤および傍大動脈リンパ節郭清を施行した22例である.後腹膜所見を考慮しない進行期では1期12%,II期0%,III期67%と高率にリンパ節転移を認めた.組織型別では漿液性嚢胞腺癌,卵黄嚢腫瘍でリンパ節転移率が高かった.両側卵巣腫瘍,腹膜播種陽性,腹水細胞診陽性はそれぞれリンパ節転移のrisk factorであった.骨盤リンパ節と傍大動脈リンパ節転移との関係では,両者の転移率に差はなく,傍大動脈リンパ節のみ転移陽性の例もみられた.以上の結果より,正確なstagingおよび手術の根治性を考慮すると傍大動脈リンパ節および.骨盤リンパ節を同時に郭清すべきであると考えられた.

私の工夫

既往帝切妊婦に対する外来ラミセル法の有用性について

著者: 今村昭一 ,   伊集院吐夢 ,   伊集院雅子 ,   福元清吾 ,   釜付眞一 ,   伊集院康熈

ページ範囲:P.1443 - P.1447

 反復帝切率の減少を目的に,既往帝切妊婦の頸管未熟例に対して,硫酸マグネシウム含有浸透性頸管拡張材であるラミセルを外来ベースに挿入する方法(外来ラミセル法)の有用性について検討した.試験分娩146例中69例に外来ラミセル法が施行された.前回帝切施行時の子宮口開大度が0〜2cmでは,施行群は未施行群に比べ有意に高い経腟分娩率であった.外来ラミセル法施行率の増加とともに自然陣痛発来率と試験分娩成功率は高くなり,反復帝切率は低下傾向になった.

薬の臨床

うつ傾向の治療を考慮した更年期障害の治療経験

著者: 山下三郎 ,   阿部博昭 ,   多久島康司

ページ範囲:P.1449 - P.1456

 更年期障害は,卵巣機能低下により発症する症状および心因性ストレスにより発現する症状がさまざまの程度に組み合わされて出現する,と単純化して理解することができる.また最近,抑うつ症状がこれに合併し複雑な不定愁訴を形成することが注目されている,今回,内分泌学的背景の分析を行い,これを患者の愁訴と対比させ,早期に更年期障害の改善およびQOLの向上が得られることを目的として,以下の検査および治療計画を行った.
 1)無症状の22名のボランティアをコントロール群として,46名の更年期障害患者を(イ)閉経前不規則月経群(不規則群)13名,(ロ)閉経後2年未満群(閉経short群)13名.(ハ)閉経後2年以上群(閉経long群)20名,の3群に分類し,初診時に美馬の更年期指数表(I,II),SRQ-D,血清Estradiol(E2),LH,FSHの測定を行った.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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