icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻12号

1995年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 いまなぜ“胎児仮死”か

胎児仮死の発生はどう変わったか

著者: 工藤尚文

ページ範囲:P.1590 - P.1593

 「いまなぜ胎児仮死か」なるテーマが取り上げられた背景を考える時,一つの理由として周産期医療に携わる人々の知識の中には子宮内低酸素状態が原因となって胎児仮死が発生し,それは新生児仮死に移行し,さらに放置されると新生児死亡あるいは脳性小児麻痺に至るという考え方が根強く存在している事実がある.もう一つの理由は,胎児低酸素症というエピソードがなくても胎児中枢神経系の機能的あるいは器質的異常のために脳性小児麻痺が発生する,という考えが近年有力視されていることもある.
 かつての産科学は,胎児の健康よりも母体の生命の安全性を優先しようとする考えが強く,分娩は可能なかぎり経腟的に行われることが主流であった.もっとも,胎児の健康を推定するに十分な情報が得られなかったこともあるだろう.その結果,胎児低酸素症が原因となって脳性小児麻痺が発生した可能性はある.

仮死分娩児の予後評価はどう変わってきたか

著者: 志賀清悟 ,   柴田隆

ページ範囲:P.1594 - P.1598

 仮死とは低酸素症によって引き起こされた呼吸循環不全を包括した症候群である.胎児のガス交換は胎盤であり,その胎盤からの酸素供給が何らかの原因で障害されると胎児仮死に陥る.また,新生児仮死は出生直後に発症する呼吸循環不全を主徴とする症候群とされ,分娩時の低酸素症がその原因とされている.分娩時の低酸素症が分娩前の胎児仮死に引き続いていることも多い.よって,仮死分娩児の予後を考える場合,胎児仮死,新生児仮死を区別して論じることは困難なこともある.いずれにしても低酸素症は多臓器に影響を及ぼすが,とりわけ中枢神経系への影響は重大であり,脳性麻痺,精神発達遅滞,けいれんなどの神経学的後障害として児の将来に影をおとすこととなる.中枢神経障害でとくに予後に関係するのは,低酸素性虚血性脳障害と頭蓋内出血である.この稿では,中枢神経障害による神経学的後障害を中心とした仮死分娩児の予後評価について述べる.

胎児仮死を見逃さない 1.IUGRと胎児仮死

1)心拍モニタリングはどこまで有効か

著者: 太田孝夫

ページ範囲:P.1600 - P.1606

 妊娠時におけるIUGRの胎児管理の中で,胎児血の酸素化の良否ならびにアシドーシスの有無を鑑別することは胎児の健康状態の把握,ひいては妊娠を継続させるか,児の娩出に踏み切るべきかを決定する上で最も重要な因子である.これが分娩監視装置診cardiotocographyによって,どの程度達成できるのか,その意義と限界を知ることは周産期医療に携わる産科医にとって不可欠の知識といえよう.
 妊娠時のcardiotocographyとして,nonstresstest(NST)とcontraction stress test(CST)が主として用いられているが,ここではNSTが妊娠時におけるIUGRの胎児仮死の診断にどこまで有効か,という難問にアプローチすることにする.

2)循環動態の評価

著者: 佐藤昌司 ,   小柳孝司 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.1607 - P.1609

 IUGR (子宮内発育遅延)における循環動態は,従来,動物実験によって病態生理が論じられていたが,近年の超音波ドプラ法の進歩にともない,ヒト胎児を対象に,臓器単位での循環動態の評価が可能になってきた.そして,本症における胎児循環動態の変化が,超音波血流計測法の発達を基礎として,次第に明らかにされてきている.
 本稿では,とくに超音波ドプラ法を用いて得られた知見に焦点を絞り,本症における循環動態の特徴について概説する.

3)羊水量と羊水性状

著者: 大井豪一 ,   山崎達也 ,   宇津正二

ページ範囲:P.1610 - P.1611

 分娩時の胎児仮死は産科医療の進歩や胎児モニターの充実により近年激減したが,いま問題となっているのは,分娩時以前に発症する胎児仮死である.その診断法としては従来より検討され応用されているNSTによる胎児心拍数記録から胎児のwell-beingを判定する方法および羊水腔や臍帯血流波形パターンなどを分析する超音波断層装置を用いた方法が一般的である.とくに,胎児仮死と羊水最およびその性状との関係は,予防医学的な近代産科医療においては非常に重要な問題として注目を集めているところである.

4)臍帯穿刺による胎児採血と酸塩基平衡

著者: 遠藤力 ,   藤森敬也 ,   高梨子篤浩 ,   佐藤章

ページ範囲:P.1612 - P.1615

 胎児仮死は妊娠中,あるいは分娩中,最も注意を払わなければならない病態であり,母体合併症(糖尿病,妊娠中毒症など)を持つ場合や子宮内胎児発育遅延の場合は,その診断および胎児評価はさらに重要である.胎児仮死の診断には,非侵襲的方法として,胎児心拍数モニタリングをはじめbiophysical profile score,臍帯動脈ドップラー波形,胎児尿産生量を含めた羊水量などが使用され,その診断の確実性が評価されてきた.結論は現在までのところはっきりしたものは言われてはいない.そのためか,胎児から直接採血可能となった現在,胎児仮死の診断に臍帯穿刺(PercutaneousUmbilical Blood Sampling;PUBS, Cor—docentesis)を利用している施設が認められるが,個人的な意見を言わせていただければ,我々はその必要性は感じておらず,その使用には慎重でなければならないと考えている.本原稿ではそれらの理由を含めて,胎児酸塩基平衡と胎児仮死について述べさせていただく.

5)Biophysical Profile

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1616 - P.1620

 Biophysical profile score(BPS)が紹介されてから約15年間経過している.現在では,いくつかの間題はあるものの,BPSが胎児低酸素症の急性マーカー(一過性頻脈FBM:胎児呼吸様運動,FM:胎動,FT:胎児筋緊張)と慢性のマーカー(羊水量)の両方を調べる検査方法で,胎児管理として最も信頼できる検査として先進国間で多用されている.
 本稿では,特集タイトルに沿ってBPSによるIUGR管理,とくに「胎児仮死」(この用語使用の問題点は,本号1660〜1661頁に掲載されている“Obstetric News”をご一読下さい)回避,BPS利用に関する問題点を解説したい.

2.妊娠・分娩時の胎児仮死

1)心拍モニタリングはどこまで有効か

著者: 柳原敏宏 ,   原量宏 ,   神保利春

ページ範囲:P.1621 - P.1625

 妊娠分娩管理において重要なことは,胎児仮死を見落とさなくしかも確実に判断することである.従来より多数の胎児仮死診断法が検討されてきたが,なかでも胎児心拍モニタリングや超音波診断装置による胎児心拍数や胎動の分析,さらに羊水量および胎児血液パターンの分析は,胎児の中枢神経系や循環系の状態を直接的に反映するものであり,分娩中に急激に発生する胎児仮死にはもちろん,妊娠中からの潜在胎児仮死の診断にも利用されている.
 我々の施設では開院以来,外来においては,超音波診断による胎児発育,胎動,羊水量などのスクリーニングを行い,妊娠中期以降には妊婦全例に胎児心拍の評価(ノンストレステスト,NST)を施行している.分娩時においても,陣痛開始より分娩まで分娩監視システムを用いた,連続胎児心拍モニタリングを実施している.このように妊娠中から分娩までの徹底した胎児モニタリングを行うことにより,いわゆる潜在胎児仮死の症例は未然に発見されるようになり,また,分娩時において突発的に発生する胎児仮死に関しても,早期に発見されるため,新生児仮死の大幅な減少に役だっている.これらのデータをもとに,今回の主題である胎児仮死の診断に心拍モニタリングはどこまで有効かを分析してみる.

2)ノンストレステストとストレステスト

著者: 名取道也

ページ範囲:P.1626 - P.1628

 分娩は病気ではなく生理現象であることも,40年前には周産期死亡率は現在の8倍であったことも,共に事実である.この間の周産期死亡率,新生児死亡率の向上に最も寄与したことは,社会・経済的基盤の向上に基づいた公衆衛生的背景であろう.では産科学の進歩はどのように貢献したのであろうか.陣痛心拍数図を用いた「胎児仮死」の診断法はどの程度貢献したのであろうか.ダブリンスタディーは,その医学的評価は別として,新しいテクノロジーがそれ単独で,すなわち社会・経済的基盤に基づいた公衆衛生的背景を抜きに,どの程度医療に貢献したのかについて感覚的に判断してはいけないとの警鐘を鳴らしたという点で重要である.CTGの利用が,分娩中,妊娠中共に当然と言われる時代になったからこそ,この方法の持つ精度を正しく理解することが求められる.なおストレステストにはoxytocin challengetest(OCT)の他にnipple stimulationなどがあるが,ここではストレステストの代表としてOCTについて述べる.

3)臍帯の走行と巻絡の診断

著者: 齋藤裕 ,   熊澤哲哉

ページ範囲:P.1630 - P.1631

 臍帯は胎児と胎盤をつなぐ唯一のラインであり,子宮内に位置する胎児にとってまさに命綱といえる.臍帯は2本の臍帯動脈と1本の臍帯静脈からなり,周囲をワルトンゼリーが包みこんでおり少々の外的圧迫には耐え得るようにもみえるが,実際の産科臨床においてはとくに分娩時に臍帯の血流障害によると思われる胎児心拍数図異常を認めることがまれではない.我々産科医にとっては,このような分娩時の突発的な臍帯圧迫などによる臍帯の血流障害の発生が,事前に予測できればどんなにすばらしいかと思えるものである.

胎児仮死にどう対応するか 1.母体への対応

1)酸素投与・輸液療法

著者: 森晃 ,   佐倉まり ,   中林正雄 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.1632 - P.1634

 胎児仮死は,その原因は多岐にわたるが,その病態の中心は胎児の低酸素性障害であり,顕性胎児仮死と潜在性胎児仮死に分類される.前者は分娩に際して発症する急性低酸素症であり,後者は胎盤での物質交換機能の障害から慢性低酸素症が持続し,低酸素症に対する胎児の代償機能の限界を越えたために発症するものである.このように,急性と慢性の低酸素症では,その病態には差がないが,臨床経過は非常に異なり,救命を目的とした処置には大きな差がある.
 従来より分娩時の急性胎児仮死に対しては,低酸素状態とアシドーシスの改善のため,母体への酸素投与とブドウ糖,重曹水の投与が広く施行され,さらに羊水補充療法amnio infusionなども行われている1).一方,近年,母体合併症妊娠の増加に伴い,分娩時ではなく妊娠中に胎児仮死に陥る症例が増加してきている.とくに,妊娠中期に娩出を余儀なくされる子宮内発育不全児(IUGR)では、胎児仮死の予防のためにも,胎内治療がきわめて重要となるが,現在なお確立された治療法はない.ここでは,慢性低酸素症に対する補助療法としての母体酸素投与と輸液療法について述べる.

2)羊水補充療法

著者: 辰村正人

ページ範囲:P.1635 - P.1637

 羊水補充療法は加温した人工羊水を経腟的あるいは経腹的に子宮内に注入する治療法である.この子宮内羊水注入(amnioinfusion)は羊水腔拡大を目的として妊娠中あるいは分娩中に行う子宮内胎児蘇生法の一つとして臨床応用されている.

3)子宮収縮抑制法

著者: 坂田寿衛

ページ範囲:P.1638 - P.1641

 分娩は時間の経過による胎児の変化に注意することはいうまでもないが,とくに分娩経過中に突然子宮内低酸素状態によるfetal distressをみることは少なくない.このような場合,分娩監視装置(cardiotocogram:CTG)所見より胎児心拍数変化が①遅発一過性徐脈が15分以上持続し,さらにvariabilityの減少のみられるもの,②徐脈が60〜90bpmさらにそれ以下を示すか,60秒以上持続する高度変動一過性徐脈③100bpm以下の徐脈が持続する場合,に直ちに急速遂娩を図るか,あるいは酸素吸入や体位変換など胎内への酸素量を増すことによって児の低酸素血症の治療を行いながらどの状態で帝王切開などの急速遂娩にふみきるか,我々臨床医はつねに悩んでいるところである.
 このような際,分娩前妊娠中毒症などの異常妊娠や合併症妊娠のようなリスクファクターの有無陣痛の強さや過強陣痛発現のリスク,分娩進行状態(児頭の下降度,軟産道の状態,子宮口開大度など)を合わせ考えて対応することが必要である.今回,分娩経過観察中長時間経過した場合,さらに過強陣痛などによってfetal distressが発現した場合の分娩までの対応策について子宮収縮抑制剤をも含めて我々の考え方を述べてみたい.

2.胎児への対応

1)吸引,鉗子分娩(適応と限界)

著者: 西島正博 ,   庄田隆

ページ範囲:P.1642 - P.1644

 遂娩とはなんらかの人工介助(薬剤,理学的刺激,手術など)を加えることによって,分娩を遂げしめることをいう.また急速遂娩とは分娩経過の持続をなるべく短くして分娩させることをいう1)
 吸引,鉗子分娩を急速遂娩法として選択しなければならない胎児仮死所見とは原則として分娩第2期のものであり(図1),高度変動一過性徐脈や遷延一過性徐脈などがあげられる.その原因はさまざまなものであるが,原因を問わずまず第一には酸素投与,体位変換,仰臥位低血圧の対策,過度の子宮収縮の抑制など一般的な胎児仮死対策を行い,回復を試みたうえで選択を行うべきである(図2).

2)鉗子,吸引分娩から,帝切への移行のタイミング

著者: 大塚晃生 ,   池ノ上克

ページ範囲:P.1646 - P.1648

 分娩第2期遷延,胎児仮死,あるいは母体心疾患などで分娩第2期短縮の必要がある場合など,吸引分娩や帝切などの急速遂娩が施行される.この場合,その適応や児の状態(重症胎児仮死ですぐに娩出させなくてはいけない場合,少しは待てる場合),児頭の位置(低位,出口部),産道(初産婦,経産婦),児推定体重,その施設の緊急帝切決定から児娩出までに要する時間などによって,方法(帝切か,吸引,鉗子等の急速遂娩か)が異なる,また,急速遂娩を試みた場合,必ずしも,すべてが成功するとは限らず,failureに終わった場合,すみやかに帝王切開に移行しなければならないが,その移行のタイミングも上記条件によって異なってくる.ただし,基本姿勢は,児の傷害を最小限に抑えることで,これは,すべての場合に共通する.以下に,吸引分娩時の母児傷害について述べ,吸引分娩から帝王切開への移行のタイミングについて胎児仮死がない場合と,ある場合に分けて現在の我々の考え方を述べる.

新生児仮死への緊急対応

1.蘇生のファーストエイド

著者: 大道正英 ,   千葉喜英

ページ範囲:P.1649 - P.1651

 新生児仮死への救急処置の詳細は多くの教科書に述べられているのでそれに委ねることにする.今回は実際臨床上よく遭遇するような症例とそれに対する実際的な治療,および最近の知見について述べたいと思う.

2.新生児期のフォローアップ

著者: 三科潤

ページ範囲:P.1652 - P.1655

 新生児仮死neonatal asphixiaとは出生時に呼吸の確立が遅れ,胎外生活にスムーズに移行できない呼吸循環不全の状態をいう.仮死時の低酸素症に虚血が伴うと低酸素性虚血性脳症となり,神経症状が出現する.神経症状を呈さない新生児仮死例が神経学的後遺症を残すことはほとんどない.また,脳血管の発達や髄鞘化など,脳の成熟度の違いによって低酸素性病変が起こる部位は異なる.未熟な児では脳室周囲白質軟化症PVLとなり,また,脳室内出血IVHの誘因にもなる.成熟児の場合には基底核の大理石様斑紋病変sta—tus marmoratus,傍糸状部大脳損傷parasagittalcerebral injury,選択的神経壊死selective neur—onal necrosis,多嚢胞性脳軟化multicystic ence—phalomalasiaなどが認められる.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・9

浸潤癌(扁平上皮癌)

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.1585 - P.1587

 癌の間質への浸潤の程度が進むにつれて上皮下毛細血管網の破壊も大きくなる.その結果,Punc—tation, Mosaicという上皮側突出血管構築の破壊は進行して形骸化し,乏血管および無血管領域が出現する.さかんな血管増生は認められるものの,癌巣の増殖力が優っているために新生血管は本来の効率的な分岐や吻合を行えず,圧排され,集簇し,太さ,走行、形態,分布など血管構築の面からはまったく秩序性のない状態を呈し,破壊と新生を繰り返しながら,ますます血流障害を増大させるという悪循環に陥っていく.このような変化をコルポスコピーでは極端に拡張した血管や吻合のはっきりしない走行のとぎれた血管の出現として把えることができる(図1).図2では乏血管領域に横走する血管が特徴的である.図3は最表層部にみられた拡張血管であるが,この血管からさらに細い血管が多数突出分岐しているのが観察される.図4では表層部で上下に凸凹のある突出血管群が互いに圧迫されて壁を形成しており,その様子は図5の側面像で一層明らかになる.このような状態では基底部毛細血管網と突出血管群の識別はもはや不可能となる.図6は外向性発育をした浸潤癌のコルポスコピー像である.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

24時間血圧測定の意義

著者: 佐賀正彦 ,   佐藤泉

ページ範囲:P.1658 - P.1658

 血圧は昼間高く夜間低値の2相性を示す.また活動期の午前10時頃ピークを迎える.正常血圧者でも20%は外来診察時に高血圧を示すことが知られ“白衣性高血圧”といわれる.この原因は防御反応,警鐘反応とも考えられている.外来の妊婦検診で高血圧を認めたとき白衣性高血圧を除外する必要がある.この際24時間血圧測定ambula—tory blood Pressure monitoring(ABPM)が有用である.現在携帯型間接的血圧記録装置が市販されている.その産科での応用は次の2点である.
 (1)妊婦検診で高血圧を認めた場合,自動血圧計を装着し5〜10分間隔で30〜60分測定すると図Aのごとく下降し正常域になる例が多くみられる.外来血圧160/90 mmHgの妊婦にABPMしたものが図Bで測定の99.4%が正常域に入る(白衣性高血圧除外).(2)高血圧にて降圧薬治療に際してその効果判定,モニターに有用なことを示したのが図Cである.この例では夜間薬効が消失するため夜間の投与が必要なことがわかる.

腟欠損症に対する腹腔鏡を利用したDavydov造腟術

著者: 髙倉賢二 ,   野田洋一

ページ範囲:P.1659 - P.1659

 腟欠損症の頻度は4,000〜5,000人にひとりであり,性器奇形としては比較的多いものである.本症に対する観血的治療として本邦においては,①S状結腸を利用したRuge (—Hata)法,あるいは②遊離皮弁を用いるMclndoe法が主な術式であった.Ruge法は新生腟そのもののでき上がりはよいが,侵襲がきわめて大きいという欠点がある.McIndoe法は侵襲はそれほど大きくはないが,採皮部の瘢痕や拘縮が問題であり,移植皮膚が生着しないこともよくある.両者とも使用可能になるまで通常,術後2〜3か月かかるが,これだけの期間をかけるなら保存的に腟を作ることも可能である(Frank法).Davydov法は1969年にロシア語で報告され,1972年にRothmanにより英語で紹介された術式で,開腹操作によりダグラス窩腹膜を新生腟被覆に用いる方法である.今回紹介する方法は開腹操作を腹腔鏡で行うものである.腹腔鏡を省略しても不可能ではないが,やはり,腹腔鏡を行う方が安全・確実であろう.腟前庭側から新生腟となるトンネルを作るのと同時に腹腔鏡も開始する.

原著

新しい子宮内腔病変検査法—子宮内腔通水下超音波検査法(sonohysterography)

著者: 中島敬和 ,   南雲秀紀 ,   家坂利清 ,   家坂清子 ,   水沼英樹 ,   伊吹令人

ページ範囲:P.1665 - P.1669

 産婦人科領域で広く普及している,腟式超音波検査に子宮内腔通水を組み合わせる方法(sono—hysterography)により,子宮内腔病変の検索を試みた.その結果,子宮内腔に通水することにより,内腔が拡大し,腟式超音波検査では見つからなかった病変が鮮明に描出できた.腟式超音波検査も子宮内腔通水法も一般的な検査であり,どちらも手技が容易で侵襲は少なく,そのうえ副作用もほとんどない,安全な検査である.以上のことから本検査法は種々の内腔の病変,とくに発見の難しい粘膜下子宮筋腫等の検索に利用価値が高いものと考えられる.

子宮内膜癌l期症例に対するホルモン補充療法

著者: 安田雅弘 ,   倉林工 ,   八幡哲郎 ,   本多晃 ,   東條義弥 ,   山本泰明 ,   児玉省二 ,   田中憲一

ページ範囲:P.1671 - P.1674

 新潟大学医学部附属病院産婦人科にて1981年1月から1993年6月までの12年6か月の間に手術により両側卵巣摘出を行った子宮内膜癌126例のうち1期の症例81例につきホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)施行の有無で2群に分け両群を比較検討した.
 1.HRTは5例(6.2%)に施行され,HRT開始は術後平均2.2か月,HRT施行期間は平均32.8か月であった.HRTは結合型エストロゲン(0.625mg/日)を24日間,酢酸メドロキシプロゲステロン(5mg/日)を後半の10日間投与し4日間休薬する周期的投与法を行った.

過去15年間の脳性麻痺の推定要因

著者: 嶋本富博 ,   立山浩道 ,   濱田恵亮 ,   三宅和昭

ページ範囲:P.1675 - P.1680

 1980(昭和55)年1月より1994(平成6)年7月までに当科で出産した10,305例のうち死産・周産期死亡174例を除いた10,131例を対象として,脳性麻痺の有無,脳性麻痺児の妊娠・分娩時の異常の有無について検討した,その結果19例の脳性麻痺(188/1,000人)を認めた.19例中4例は何ら妊娠・分娩経過中の異常は認めなかった.3例(15.8%)は分娩中に高度の低酸素状態が生じ,脳性麻痺との関連性が疑われた.また分娩中のみ異常を認めたがその程度は軽度で,分娩異常以外の要因の存在も考えられた症例は3例,クレチン症・West症候群という基礎疾患を認めた症例は2例,妊娠中に重症妊娠中毒症・重症貧血を認め,分娩時に異常を認めないことから,妊娠中にすでに脳性麻痺が形成された可能性のある症例は2例であった.早産は2例で,その1例は胎内感染を伴っており,未熟性と感染などの要因が複合して脳性麻痺が発症したと考えられた.
 残り3例は2例が妊娠中毒症,1例は羊水過少の異常があり,分娩時には胎児低酸素脳症を示唆する所見はなく,陣痛発来時に胎児心拍数モニタリングの異常を認め,妊娠中に脳性麻痺が形成された可能性が考えられた.

症例

母体血中テストステロン高値を示したステロイド細胞腫瘍合併妊娠の1例

著者: 津村宣彦 ,   菊地研 ,   首藤聡子 ,   山下陽一郎 ,   川口勲 ,   山口潤 ,   津田加都哉 ,   角江昭彦

ページ範囲:P.1681 - P.1683

 ステロイド細胞腫瘍の発生頻度は全卵巣腫瘍の0.1%とまれな腫瘍であるが,この腫瘍が妊娠に合併するのはきわめてまれである.今回,我々は母児共に男性化徴候を呈したステロイド細胞腫瘍合併妊娠を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
 症例は24歳,2妊未産.妊娠中より低声音,多毛,陰核肥大を認め術後の病理組織検査でステロイド腫瘍と判明し,免疫染色で腫瘍よりのテストステロン分泌を確認した.術前2,660ng/dlと高値であったテストステロンは術後急速に低下し現在1年半経過しているが,正常範囲内で推移しており,また再発徴候もなく,母児共に順調に経過している.母親はもとより,妊娠中長期間高テストステロン状態にさらされていた児の第二次性徴など生殖生理面に関しても十分な経過観察が必要と思われる.

薬の臨床

新しい尿中hCG検出試薬オーラテックhCGの臨床的検討

著者: 梶博之 ,   上村浩一 ,   苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1685 - P.1690

 尿中hCGの免疫学的測定法は,今日産婦人科領域の日常診療において最も頻繁に行われる検査のひとつである.今回我々は,1ステップSPlA法(Sal Particle lmmuno Assay)を原理とした尿中hCG検出試薬,オーラテックhCG(オランダオルガノン)を使用する機会を得,その基礎的および臨床的検討を行ったので結果を報告する.
 公称感度は50lU/lとされているが,我々の検討でも50lU/lであった.オーラテックのLHに対する交叉反応性は500lU/lの濃度では交叉反応を認めず,実際の臨床上問題となる濃度では影響を受けないことがわかった.異常尿のうち,タンパク尿,糖尿,尿のpH,細胞浮遊尿,尿比重についてはいずれの検討濃度および値でも正常の反応を示した.

--------------------

「臨床婦人科産科」第49巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?