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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻2号

1995年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 分娩発来—しくみと調節 子宮筋の感受性と頸管熟化

1.子宮筋の感受性

著者: 齋藤良治

ページ範囲:P.154 - P.156

分娩発来期子宮筋の生理学的特性
 分娩発来期の子宮筋では妊娠中期の子宮筋に比べ,スパイク電位の頻度増加や,プラトー電位の延長が認められている1).これらはいずれもこの時期の子宮筋では細胞膜の状態が周囲の血液やリンパ液から,Ca++イオンを取り込みやすい性格に変化していることを示すものと考えられている.また,この時期の子宮筋では「長さ定数」の増大も観察されており2),これは子宮筋の1つに発生した筋収縮を伴う活動電位変化が子宮全体へと伝わる同期性すなわち「シンクロナイズしやすさ」が増大していることを示すものと理解されている.

2.コラーゲンと頸管熟化

著者: 高橋通 ,   渡辺芳明 ,   畑俊夫

ページ範囲:P.158 - P.160

 ほとんどが筋線維から構成される子宮体部とは異なり,子宮頸管は組織学的に見て大部分が結合織より構成される.非妊娠時は硬く,妊娠中は胎児を保持するために閉鎖し,妊娠末期には胎児排出のための産道としての機能を発揮するために,一転して軟化し伸展性を増す.いわゆる熟化した状態になる.このダイナミックな変化は,頸管のコラーゲンの量的・質的変化が主体をなす1)

3.癌胎児性フィブロネクチンと分娩発来

著者: 飯岡秀晃 ,   橋本平嗣 ,   一條元彦

ページ範囲:P.162 - P.163

 分娩発来に子宮頸管の熟化が重要であることは周知の事実である.頸管の熟化機構については不明の点が多いが,近年,分子化学的な手法を用いてその詳細が判明しつつある,以下,破水診断ならびに切迫早産予知に対する意義が明らかになってきた癌胎児性フィブロネクチン(fetal fi—bronectin)について,分娩発来との関係を含めて言及する.

子宮収縮の内分泌調節

4.オキシトシンに関する分子生物学的研究と分娩生理

著者: 古谷健一 ,   三井千栄子 ,   水本賀文 ,   永田一郎

ページ範囲:P.164 - P.165

 下垂体後葉ホルモンのオキシトシンoxytocin(OT)については分娩発来機序および臨床的な分娩誘発に関して多くの研究がなされてきた.最近,視床下部以外の子宮脱落膜1)や卵巣黄体2)にOT遺伝子発現が確認され,OTの新たな生理学的意義について関心が寄せられている.本稿では,最近のOT研究の新知見とともに分娩発来機序との関係について概説する.

5.プロスタグランディン

著者: 高橋通 ,   畑俊夫

ページ範囲:P.166 - P.168

 娩出力,産道,娩出物は分娩の三要素であり,その内娩出力の主な要因は子宮収縮である.残る二つのうち,産道は骨産道と軟産道とからなるが,軟産道の分娩準備状態は熟化として表現され,分娩の進行に大きな影響を持っている.プロスタグランジン(以下PGと略)はこれら二つに直接的に係わるところから,分娩の発来と進行の機序のキーポイントを担っていると言える.このPGsについて,その子宮収縮調節機構を中心に,分娩に係わる諸問題について述べる.

早産の発生要因

6.局所感染

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.170 - P.172

 早産の原因として感染,とくに絨毛羊膜炎が注目されている.絨毛羊膜炎は破水を伴えば急速に進行し母体胎児を危険にさせるが,一方頸管炎のような局所感染であっても卵膜局所の感染から絨毛羊膜炎への進行があるし,さらに卵膜でのサイトカインネットワークの発動,プロスタグランジンの合成,子宮収縮の発来という形で早産に関与していると考えられている.

7.頸管不全(頸管無力症)

著者: 平川舜

ページ範囲:P.173 - P.175

早産の原因と頸管不全
 早産は全分娩の約5%程度とみられる.中でも頸管不全は妊娠後半期早産の約50%を占めている.

分娩誘発

8.器械的頸管拡大は有効か

著者: 巽英樹

ページ範囲:P.176 - P.178

 分娩誘発における器械的方法は子宮下部,子宮腟部に対する直接的開大促進作用と子宮下部,腟部への刺激が局所的PGsの産生を促すことから用いられている.その方法は古くから数多く紹介されているが,分娩誘発率が高く,操作が簡単で副作用が少ないことが要求されるため,ここでは要約を満たし,現在も一般的に用いられている方法に絞って解説し,その有効性を言及する.

9.経口薬物による頸管熟化法

著者: 石川睦男

ページ範囲:P.179 - P.181

 子宮頸部の熟化は分娩開始前に頸管のコラーゲン線維を主体とする結合組織の構築あるいは構成成分の組み換えにより頸管が,円滑に開大,展退するための生理的準備状態である.この変化は細胞外マトリックスの変換を含む生化学的過程を経て起こるが,媒体としてPGS,性ステロイドホルモン,炎症細胞産生物質,リラキシン(relaxin)などが関与している.
 現在まで経口によって頸管を熟化する方法はプロゲステロン拮抗剤と経口のPGE2だけであるが,わが国においては黄体ホルモン拮抗剤は現在入手困難である.本論においては,前記薬剤の作用機序ならびに臨床効果を述べることとする.

10.PGE2経腟投与法の限界

著者: 山口昌俊

ページ範囲:P.182 - P.183

 プロスタグランディン(PG)は,人工授精時に子宮内に精液を注入すると,子宮の収縮が起こり,そのため腟内に精液が押し戻される現象から発見された物質である.当初精嚢腺由来の子宮収縮物質だと考えられたため,プロスタグランディンと名づけられたが,その後の研究で,これらはアラキドン酸を基質としてシクロオキシゲナーゼにより共通の前駆物質であるPGG2,PGH2が産生され,その後PGごとに異なる産生酵素により生じる一連のユニークな構造を持った物質であることがわかった.そのうちでPGE2は図のような構造を持った物質である.PGは体内のほとんどの組織で産生され,その場で作用するいわゆるオータコイドであると考えられる.その薬理作用は多岐にわたり,PGE2は子宮筋収縮作用のほか胃酸分泌抑制や消化管の運動性亢進などの作用がある.
 産婦人科領域では早くから陣痛誘発目的で経口投与されてきたが,最近欧州を中心にゲル剤の経腟投与法が試みられている.本稿ではPGE2の経腟投与法と問題点を中心に解説する.

11.オキシトシン投与とその留意点

著者: 齋藤裕 ,   森山修一

ページ範囲:P.184 - P.186

 陣痛促進剤(子宮収縮剤)のオキシトシンの使用については,1993年3月に「用法用量」が改訂され,最大使用量が「毎分50ミリ単位」から「毎分20ミリ単位」へ引き下げられた.この点を踏まえて,分娩誘発に使用されるオキシトシンの特徴,投与法,注意点について述べることにする.

陣痛の抑制と強化

12.過強陣痛を防ぐにはどうするか

著者: 堀大蔵

ページ範囲:P.188 - P.189

 過強陣痛は産科臨床でしばしば遭遇する分娩の異常であり,それを放置すると胎児仮死,子宮内胎児死亡や新生児の脳性麻痺につながる.また,母体には軟産道の裂傷,弛緩出血や子宮破裂などの重篤な合併症を生じるため,分娩進行を注意深く観察し,過強陣痛に対する迅速な対応が重要である.とくに,分娩誘発時に起こることが多く,近年の医療過誤の問題を含めその予防と,対応には十分熟知しておく必要がある.

13.胎児仮死—羊水補充のタイミング

著者: 井槌慎一郎 ,   中林正雄 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.190 - P.192

●はじめに
 胎児仮死とは「胎児胎盤系における呼吸循環不全を主徴とする症候群」と定義されており(日本産科婦人科学会),その主たる病態は胎児の低酸素症とアシドーシスであると考えられている.その中には主として分娩中に急激に発症する急性のもの(acute fetal distress)と,重症妊娠中毒症や他のさまざまな合併症妊娠,あるいはIUGR症例などにみられる慢性のもの(chronic fetal dis—tress)とがあり,それらの診断および処置には異なった対応が必要であると考えられる1)が,本稿では分娩中のacute fetal distressとその対策(とくに人工羊水注入法amnioinfusion)について述べることにする.

14.早産—感染防止の併用と前期破水の予防

著者: 平野秀人 ,   津田晃 ,   小川正樹 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.194 - P.197

細菌感染と流早産
 流早産の発生原因として近年,細菌感染による子宮頸管炎,絨毛羊膜炎が重要視されるようになった.その理由は,これらの感染が流早産の原因のかなりの部分を占めていること,それらが一旦発症すると治療に抵抗し早晩分娩に至ること,および重篤な胎児・新生児感染と密接な関係を持つこと,などがあげられる.
 図1に細菌感染による流早産ならびに前期破水(PROM)発生の機序を示す.重要な点は,生体防御因子であるはずの白血球やマクロファージがむしろ攻撃因子になること,および局所での炎症反応がサイトカインネットワークにより次第に増幅されることにより,子宮頸管熟化,子宮筋収縮,卵膜の破綻と流早産に向かって進展してゆくことである.

15.多胎妊娠—肺水腫への対応

著者: 宿田孝弘 ,   木戸口公一 ,   末原則幸

ページ範囲:P.198 - P.200

 切迫早産管理における子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン,以下リトドリン)使用の際,最も懸念される副作用の一つに肺水腫があることは広く知られている.妊娠に関連する肺水腫は,リトドリンの副作用だけでなく,重症妊娠中毒症,羊水塞栓,感染症,母体の心疾患などにより発症する場合があり,それぞれ肺水腫という同じ病態にたどりついているが,その発症機序は違うものである.リトドリンによる肺水腫については,心原性か非心原性かも明確ではなく,その発症機序については不明な点が多い.したがってその治療も対症的にならざるをえなく,ひとたび肺水腫を発症すると,より早期に,より適切に対応しなければ母児ともに不幸な転帰をとる可能性が大きく,その治療よりも発症の予防に努めなければならない.
 このセクションでは,多胎妊娠における肺水腫の対応がテーマとなっているが,多胎妊娠をリトドリン使用における肺水腫のひとつの危険因子として解釈し,陣痛抑制に関連する肺水腫にテーマを絞り考察してみたい.

異常妊娠の分娩誘発とその管理

16.羊水過多

著者: 原量宏

ページ範囲:P.202 - P.204

 妊娠の時期をとわず羊水量が800mlをこえた場合を羊水過多といい,呼吸困難や痛みなど一定の症状を伴う場合を羊水過多症という.羊水量の増加は,腹部臓器の圧迫,横隔膜挙上,静脈還流の阻害,子宮収縮の原因となり,腹部膨満,胸内苦悶,呼吸困難,下肢の浮腫,痛みなどの症状が生じてくる.羊水過多の頻度は全妊娠の0.5%〜1.5%程度とされ,胎児奇形,双胎間輸血症候群,糖尿病合併,胎児感染症など特定の疾患を合併することが多い.また子宮筋の過伸展や内圧上昇により早産,微弱陣痛,破水時の纃帯脱出,羊水栓塞などを合併しやすく,分娩時期・様式の選択には慎重な配慮が必要である.本稿においては,われわれの施設における統計に基づき,羊水過多症における妊娠・分娩管理の問題点,とくに分娩誘発の時期と方式に関して解説する1,2)

17.羊水過少

著者: 佐藤昌司 ,   小柳孝司 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.206 - P.209

 日本産科婦人科学会編・用語解説集によれば,羊水過少とは「羊水量が異常に少ない」状態であると定義されている1).近年,超音波電子スキャンを用いた観察を介して,羊水腔の狭小が容易に同定できるようになってきたことに加えて,本症における児の転帰は不良であることから,今日改めて,羊水過少を合併した妊産婦・胎児の管理に注意が払われている.
 本稿では,羊水過少の診断,原因および治療に関して概説する.

18.高齢妊婦(軟産道強靱)

著者: 奥山和彦 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.210 - P.212

 軟産道強靱は,過期妊娠や分娩遷延を招く因子の一つである.したがって,軟産道強靱と診断される症例においては,経腟分娩時に分娩誘発・促進などの産科的処置を必要とする機会が増加し,頸管裂傷や高度の腟壁裂傷・会陰裂傷の頻度も高くなると考えられる.また,潜在性胎児仮死胎盤機能不全をはじめとする周産期の異常の発生頻度も上昇する.従来から母体年齢との関連が指摘され,若年および高年初産婦においてその頻度が高いといわれてきた.本稿では,軟産道強靱の概要と当科の症例をもとに母体年齢との関係を解説する.

カラーグラフ 遺伝講座・8

遺伝子診断の実際・2

著者: 鈴森薫

ページ範囲:P.149 - P.151

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)
 前回はサザン・ブロット法を応用した本疾患の診断法について述べたが,最近,ジストロフィン遺伝子の分子生物学的な解明が進み,本遺伝子を構成しているエクソン単位で診断できる.ジストロフィン遺伝子には60〜70のエクソンから構成されているが,DMDの発症につながるエクソン欠失好発部位に的を絞ってDNA増幅を行い診断を行う方法である.もっとも有名なのは,Cham—berlainらによって紹介された9か所のエクソンを同時に検出する方法で,これらの9つのエクソン部位についてPCR法にて異なるサイズで増幅できるようにプライマーを設定し,DNAの同時増幅を行ってアガロースゲル電気泳動し,各エクソンの有無を目的のサイズのバンドの有無で判定する(図1).この方法の利点は,簡便で,しかもDNA多型で問題になるような組み替えの心配をしなくてすむ点である.しかし,エクソン欠失が明らかなDMDは全体の60%程度とされていることが問題点として残る.

Q&A

妊娠中期のCul-de-sacにある卵巣嚢腫の開腹手術によらない内容物排液の有用性と安全性

著者: 田中尚武

ページ範囲:P.217 - P.218

 Q 妊娠中期のCul de sacにある卵巣嚢腫に対し,開腹手術をせずに卵巣嚢腫内容物を排液する方法の有用性と安全性についてお教え下さい(大阪市 A子).
 A 妊娠に合併した卵巣腫瘤は,患者自身無症状でも妊娠を契機に産婦人科医を訪れた際,内診,経腹および経腟超音波検査にて偶然発見される場合が多い.妊娠子宮が増大するため内診で付属器腫瘤を見逃すことがあり,ルーチンの超音波診断は必須である.卵巣嚢腫である場合,類腫瘍病変(とくに黄体嚢胞,チョコレート嚢腫など)か腫瘍かを鑑別する.CA125をはじめとする腫瘍マーカー値は,妊娠中高値を呈するので、診断的価値は乏しい.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

小児用バルーンカテーテルを用いた子宮卵管造影法

著者: 中村幸雄 ,   飯塚義浩

ページ範囲:P.220 - P.220

 不妊症ルーチン検査におけるNTK式,ねじ込み式などのHSG (Hysterosalpingography)は,患者にとって疼痛の激しい二度と受けたくない検査のひとつと思われる.
 筆者の現在行っている小児用バルーンカテーテルを用いたHSGは,操作が容易で,患者にとって従来の方法と比較にならないほど疼痛が少ないため,極めて有用な方法といえる.

子宮頸癌領域リンパ節郭清術に便利な器械—特に吸引管の使用について

著者: 梅咲直彦

ページ範囲:P.221 - P.221

 リンパ節郭清時,組織およびリンパ節の把持にはリンパ節鑷子(図の2)を用いる.先がリング状になっており,力が分散されるため組織の損傷が少なく非常に重宝している.この鑷子は尿管の処理の時にも用いる.
 組織の展開にはその深さに応じて長短2種類の血管鉤(図の4)を用いる.また内外鼠径節の郭清時,視野の確保のため恥骨側方の腹壁に鞍状鉤(図の3)をかけ,足方にひき視野の確保を行っている.

CURRENT RESEARCH

子宮体癌における複合糖質の発現異常とその浸潤・転移に及ぼす影響

著者: 久布白兼行 ,   塚崎克己 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.225 - P.239

 細胞膜に存在する複合糖質は,細胞の増殖,分化,癌化などに伴って変化し,また癌の転移過程において重要な役割を担っていることが明らかになっている.現在,複合糖質に関する研究は「糖鎖病理学」あるいは「糖鎖生物学」とよばれる新しい分野が確立し,また「第三の分子生物学」としてその重要性は認識されている.われわれは従来より女性性器における複合糖質の解析とその生物学的意義について研究を行ってきた.とくにわれわれが作成した抗子宮体癌モノクローナル抗体MSN−1の認識抗原が血液型糖鎖であったこと,またMSN−1抗体が体癌に特異性の高い抗体であることから,複合糖質の重要性に着目し,MSN−1を用いた体癌の細胞生物学的研究を中心として研究を進めてきた.近年体癌は増加傾向にあり,その細胞生物学的特性はほとんど解明されていないが,本稿で紹介する子宮体癌に発現される複合糖質とその浸潤・転移に関する基礎的解析が体癌の臨床に—灯を点じるものと期待している.

原著

妊娠高血圧症妊婦および褥婦における尿中カルシウムとリン排泄動態に関する検討

著者: 小原範之 ,   矢野聡 ,   森川肇 ,   望月眞人

ページ範囲:P.241 - P.245

 正常妊婦と妊娠高血圧症(PIH)妊婦において分娩直前から産褥期にかけての血清CaとPiの推移ならびに尿中CaとPiの排泄動態を検討した.
 分娩直前では正常妊婦,PIH軽症型および重症型妊婦の血清総Caは非妊婦の値に比し有意の低値にある.とくに,重症型妊婦の血清総Caは正常妊婦,軽症型妊婦に比し有意の低値であったが,重症型褥婦の血清総Caは産褥13日以降に正常化した.血清Piは分娩直前には3群とも非妊婦に比し有意の低値であった.

子宮外妊娠のMagnetic Resonance Imaging(MRI)像の特徴

著者: 門間千佳 ,   小林史典 ,   藤原浩 ,   林研 ,   伊原由幸 ,   佐川典正 ,   森崇英 ,   富樫かおり ,   川上聡 ,   森川賢二 ,   小西淳二

ページ範囲:P.247 - P.251

 今回われわれは,子宮外妊娠を疑われた8症例に対しmagnetic resonance imaging(MRI)を行い,MRI所見と手術時の所見とを比較検討した.MRIでは,8例全例で血性腹水が検出でき,また,付属器の血腫の診断が可能であった.また,造影を行うことにより5例で卵管を描出でき,卵管と血腫の位置関係より卵管妊娠と診断された.手術所見では,8例全例で血性腹水を認め,7例が卵管妊娠で1例は腹膜妊娠であった.MRIにて卵管を描出できなかった3例の手術所見は,腹膜妊娠症例,卵管破裂をきたした症例およびMRI検査後約3週間目に手術療法を行い卵管妊娠が確認された症例であった.MRIにて卵管妊娠と診断された5例はすべて手術所見にて卵管妊娠と確認された.以上の結果より,MRIは子宮外妊娠の診断,とくに卵管内か否かなどの妊娠部位の正確な診断に有用な検査法であると考えられた.

症例

Normal-sized ovary carcinoma syndromeの1例—細胞像を含めて

著者: 名方保夫 ,   窪田彬 ,   山中陽子 ,   杉原綾子 ,   森芳茂 ,   井原茂美 ,   石川一幸 ,   片嶋純雄

ページ範囲:P.253 - P.256

 Normal-sized ovary carcinoma syndromeの1例を経験したので,細胞像を含めて報告する.症例は50歳女性.下腹部痛を主訴として来院.子宮腟部および内膜細胞診で陽性所見(腺癌)を得たので,開腹術が施行されたが,いわゆる癌性腹膜炎(腹水細胞診で腺癌)であった.化学療法後摘出された両側卵巣は正常大であったが,皮質の一部に腺癌細胞が認められた.そこでovarian involvementby serous surface papillary carcinoma(SSPC)の範ちゅうに入る腫瘍と考えられた.原発性卵巣漿液性腺癌であれば,Ⅲ c期に相当する病態でありながら,本症例のようなSSPCとは予後に解離があると思われ,今後の詳細な検討の必要性が感じられた.

子宮頸部腺様嚢胞癌の2例

著者: 矢島正純 ,   種村健二朗 ,   樋田一英 ,   池田俊一 ,   千歳和哉 ,   恒松隆一郎 ,   山田拓郎 ,   近江和夫 ,   園田隆彦

ページ範囲:P.257 - P.260

 腺様嚢胞癌(adenoid cystic carcinoma;以下ACCと略す)は唾液腺,気管支,乳腺などに発生するまれな腫瘍であり,女性生殖器においてはバルトリン腺に比較的多く見られるものの,子宮頸部に発生するものはきわめてまれで,現在までに百数十例が報告されているにすぎない.子宮頸部ACCは1949年にPaalman, Counsellerら1)により初めて報告され,組織学的にいわゆる,篩状構造(cri—briform pattern)を特徴とする予後の悪い癌であるとされているが,症例数も少ないため,その臨床像はあまり明らかではない.
 今回,われわれは子宮頸部ACCを経験したので,当院において以前に経験された1例と共に.その臨床経過,細胞診所見,組織診所見について文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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