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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻3号

1995年03月発行

雑誌目次

今月の臨床 GnRH療法—刺激と抑制 基礎知識

1.GnRHの分泌調節機構

著者: 舩橋利也 ,   貴邑冨久子

ページ範囲:P.272 - P.274

 哺乳類のGnRH遺伝子は,4つのエクソンからなり,第2エクソンが,シグナルペプチド,開裂部,10個のアミノ酸からなるGnRHペプチド,およびGnRH関連ペプチド(GAP)の一部,を規定している.第1,3,4エクソンは第2番目のようには保存されていないという.中枢神経系以外にも,胸腺,リンパ球,卵巣,胎盤などにGnRHmRNAが存在することが報告されている.また,GnRH遺伝子領域からアンチセンスmRNAが転写され,それらが視床下部に存在することが報告されているが,詳細はいまだ明らかではない.
 中枢神経系においては,GnRHは神経細胞で合成される.その神経細胞体は,ヒトやサル等の霊長類では主として視床下部内側基底部に存在するが,ラットなどの齧歯類では,より前方の内側視索前野に主として存在する.細胞体からの軸索は正中隆起部外層で一次毛細血管叢に終末する.血管内に分泌されたGnRHは下垂体門脈血流を介して下垂体前葉に到達し,ゴナドトロピンの分泌を刺激する(図).このGnRH神経細胞の起源は嗅上皮で,発生が進むとともに鼻中隔を越えて脳内を移動し,所定の位置まで到達する.Kallmann症候群では,このGnRH神経細胞の脳内への移動が障害され,嗅覚障害を合併する性腺機能の低下が生じる.

2.下垂体GnRHレセプターと作用機序

著者: 田坂慶一

ページ範囲:P.276 - P.278

 下垂体ゴナドトロピン(LH, FSH)分泌は主として視床下部性ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)により直接的に調節を受けている.GnRHはペプチドホルモンで10個のアミノ酸より構成されている.発見以来,アミノ酸組成を変えることによりさまざまな特性を持ったアゴニスト,アンタゴニストが合成され,その生物作用について検討が加えられた.現在多くのアゴニストが臨床応用されているが,近い将来アンタゴニストも臨床応用される可能性が高い.これらの薬剤を投与するにあたってはGnRHの作用機序を理解しておくことが必要である.ここではGnRHレセプターとその作用機序の特徴について概説しておく.

3.正常月経周期とGnRHパルス状分泌の変動

著者: 楠原浩二

ページ範囲:P.280 - P.282

 1980年Knobil1)らはサルにおいて下垂体からLHがパルス状に分泌されることを発見した.その後ヒトにおいても同様のパルス状分泌の存在が考えられてきた.
 GnRHのパルス状分泌動態は主にLHのパルス状分泌を明らかにすることから検討されてきた.すなわちLHの分泌が主にGnRHによりコントロールされているからであり,LHのパルス状分泌動態を検討することによりGnRHのパルス状分泌動態を知り得るからである.

4.無月経におけるGnRH分泌の異常

著者: 荒木重雄

ページ範囲:P.283 - P.285

 GnRHのパルス状分泌の異常はゴナドトロピン分泌の異常をもたらし,排卵障害さらに無月経を引き起こす.実際に視床下部からのGnRHパルスを直接調べることは難しいが,ゴナドトロピンの動態からそれを類推できる.いろいろな神経内分泌学的方法でGnRHパルスとゴナドトロピンパルスは相関することが証明されている.
 本稿ではGnRHの分泌異常と深い関係があるとされる視床下部性無月経,高プロラクチン血症性無月経および多嚢胞性卵巣症候群(PCO)を中心に述べてみたい.

5.GnRHアゴニストの種類と作用

著者: 飯野好明 ,   森宏之

ページ範囲:P.286 - P.289

 GnRHアナログの歴史は1947年にHarris,Greenらが,下垂体ホルモンの分泌は視床下部からの神経内分泌的支配を受けていることを提唱したことに始まる.1971年,SchallyらによりGnRHの単離,精製,同定,そして合成され,その翌年にはわが国において,診断・治療の両面から臨床応用の道が探られた.GnRHの10個のアミノ酸配列の一部を置換したGnRHアナログは,作動薬(agonist)と拮抗薬(antagonist)とに大別される.強力な作動薬であるsuperagonistはわが国では1984年より臨床応用が開始された.GnRHアナログ化合物は現在までに数千をこえる誘導体が合成されたといわれる.
 本稿では,とくにGnRHアゴニストの種類とその作用を化学的,薬理学的に解説し,さらに剤型による使用法についても言及する.

6.GnRHアンタゴニストの開発と展望

著者: 矢野哲 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.290 - P.292

 1971年,SchallyらによりGnRHの構造が決定されて以来,多数のGnRHアンタゴニストが開発されてきた.アンタゴニストはGnRHアゴニストと同様にGnRHと競合してGnRHリセプターと結合する.アンタゴニストの場合には,GnRHアゴニストにみられる一過性のゴナドトロピン分泌刺激(flare-up現象)がなく,強力にしかも迅速にゴナドトロピン分泌抑制効果を示すため臨床への応用が期待されている.
 下垂体ゴナドトロピン産生細胞は,そのGnRHリセプターの10%程度が刺激されればゴナドトロピンを分泌するので,アンタゴニストが律動的に分泌されてくる内因性のGnRHに対抗するためには,リセプターとの高い結合能と作用の持続性が要求される.

7.卵巣のGnRHレセプターと役割

著者: 平田修司 ,   加藤順三

ページ範囲:P.293 - P.296

はじめに
 GnRHは,視床下部—下垂体—性腺系の最上位に位置する視床下部ホルモンであり,その主たる作用は下垂体前葉のgonadotropeからのgonadotropinの分泌調節であるが,その視床下部外における生合成ならびに下垂体外作用の存在が注目されている.脳においては,大脳辺縁系などの視床下部以外の脳の諸部位においてもGnRHが生合成されていること,また,海馬などの下垂体前葉以外の脳の諸部位にもGnRH受容体が存在することが明らかにされてきた.一方,末梢の諸組織についても,性腺,胎盤ならびにリンパ球などにおけるGnRHの生合成が示されているだけでなく,卵巣においてはGnRH結合部位(受容体)の存在が報告されている.以下,卵巣におけるGnRHならびにその結合部位に関する最近の知見を総説する.

GnRHパルス療法

8.思春期遅発症

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.297 - P.299

思春期遅発症とは
 1.概念
 第二次性徴が発来し,性的生殖能力を獲得するようになるまでの期間を思春期(puberty)という.二次性徴の発現年齢にはかなりの個体差があり何歳で二次性徴が出現しなければ思春期遅発症とするかの明確な定義はない.男児では14歳を過ぎてもまったく二次性徴の出現をみないか,14歳以前に精巣,陰茎の発育を認めても,18歳を過ぎても外性器の発達が完成しない場合を,女児では13歳を過ぎても二次性徴の出現を認めないか,13歳以前に乳房の発育をみても16歳以前に初経(初潮)をみない場合を一般にいう1)
 思春期遅発症には永続的に思春期がみられない場合と遅れて二次性徴が発現する狭義の思春期遅発症がある.前者は性腺不全症で,障害部位により原発性と続発性に分類される.狭義の思春期遅発症は下垂体性小人症や慢性疾患に続発するものもあるが,最も頻度の高いものは体質性思春期遅発症(constitutional delay in growth and devel—opment:以下CDと略す)である2)

9.視床下部性無月経のGnRHパルス療法

著者: 伊藤郁朗 ,   峯岸敬 ,   伊吹令人

ページ範囲:P.300 - P.302

 視床下部性無月経とは,視床下部よりのGnRHの分泌不全によるLH分泌不全またはFSH分泌不全により惹起される無月経である.Gonadotro—pin Releasing Hormone(GnRH)は,視床下部より律動的(pulsatile)に分泌され脳下垂体よりのfollicle stimulating hormone(FSH),luteniz—ing hormone(LH)の分泌調整を行っている.1971年にGnRHのデカペプチド構造が決定されて以来,さまざまな研究が進み,1980年代に入りGnRHのパルス状投与による,排卵誘発成功例や妊娠例が報告されるようになった.一方,1991年にマウスのGnRHレセプターのcDNAが決定され,その翌年にはヒトGnRHレセプターの構造が決定された.ヒトGnRHレセプターは,7回膜貫通型のG蛋白共役型レセプターで,328個のアミノ酸からなる.Gonadotrope上のGnRHレセプターは,性ステロイドやGnRHにより調節されている.GnRHを,持続的に投与すると,そのレセプターはdown regulationにより,40〜60%減少するが,パルス状に投与するとup regulationにより2〜3倍に増加する1).これらのことよりGnRHをパルス状に投与することによりGonadotropin分泌を促進し,月経周期の回復や排卵障害の治療に用いている.

10.高プロラクチン血症

著者: 松崎利也 ,   苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.303 - P.305

 GnRHパルス療法は,視床下部—下垂体—卵巣系の内,視床下部にのみ異常がある視床下部性無月経症例において非常に効果的に性機能を回復させる.この治療中,卵巣,下垂体間でフィードバック機構が働き,単一卵胞発育および排卵が高率にもたらされることがよく知られている.しかし,下垂体もしくは卵巣にも異常が存在する病態にはパルス療法で十分な効果が得られない場合があり,この中に多嚢胞性卵巣症候群や高プロラクチン血症などが含まれる.以下に高プロラクチン血症に対するGnRHパルス療法の意義について述べる.

11.体重減少性無月経

著者: 吉村泰典 ,   小山典宏 ,   中村幸雄

ページ範囲:P.306 - P.308

概念
 十代女性では体重減少とともにその半数近くが月経異常をきたすといわれており,急激なやせや極端なやせは卵巣機能と強い関連がある.近年,美容上の目的で節食し,体重を減少させようとする女性が増加している.中村は急激(1年以内)に5kg以上,元の体重の10%以上体重を減らしたために今まで整順であった月経周期が無排卵や無月経になったものを体重減少性無月経と定義している1).類似の疾患に神経性食欲不振症があるが,異常に細い体型を理想とし減食するほか,時に過食し嘔吐するなどの食行動の異常を伴い,ほとんど病識がない点で体重減少性無月経と異なっている.

12.hMG-hCG療法との比較

著者: 奥田喜代司 ,   岡崎審 ,   杉本修

ページ範囲:P.309 - P.313

 正常排卵例における卵巣内の卵胞発育,排卵および黄体機能の維持に下垂体からのゴナドトロピンの律動性(パルス様)分泌が重要な働きをしており,この分泌は主に視床下部よりのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)のパルス様分泌によりコントロールされていることはよく知られている.このゴナドトロピンのパルス様分泌が障害されると排卵が障害される.実際に体重減少性無月経を含む視床下部排卵障害例および高プロラクチン血症などではゴナドトロピンのパルス様分泌が障害されている1)
 したがって,排卵誘発法としては視床下部よりのGnRHのパルス様分泌を賦活させるクロミッド療法およびGnRHをパルス様に投与して下垂体よりゴナドトロピンを賦活させるGnRHパルス療法が奏効する所以である.

GnRHアゴニスト療法

13.子宮内膜症—Danazolとの使い分け

著者: 大野原良昌 ,   原田省 ,   寺川直樹

ページ範囲:P.315 - P.317

 子宮内膜症は卵巣ホルモンであるエストロゲンに依存して発生・増殖することから,本症に対する薬物療法としては,血中エストロゲンレベルの低下とエストロゲン作用の拮抗を目的として,ホルモン療法が行われてきた.歴史的にはエストロゲン,アンドロゲンやプロゲスチン療法も行われたが,現在では,GnRHアゴニストあるいは合成ステロイド剤であるダナゾールの使用が主流となっている.両剤の子宮内膜症に対する有効性はすでに認められているものの,薬物療法による根治性には限界のあることも事実である.したがって,腹腔鏡下手術を主とする手術療法と薬物療法の併用も必要となる.薬物療法にあたっては,薬剤の作用機序,有効性,副作用を踏まえたうえでの薬剤選択が重要である.
 本稿では,子宮内膜症に対するGnRHアゴニスト療法について,ダナゾール療法と比較しながら概説する.

14.子宮筋腫に対するGnRHアゴニスト療法の効果と限界

著者: 堂地勉

ページ範囲:P.318 - P.320

 子宮筋腫はエストロゲン依存性の疾患であることから,抗エストロゲン作用を持つダナゾールやGnRHアゴニストなどの子宮内膜症治療薬を子宮筋腫患者に投与する方法が試みられている.

15.思春期早発症

著者: 安蔵慎 ,   松尾宣武

ページ範囲:P.322 - P.323

思春期早発症
 1.定義
 思春期早発症は,二次性徴が基準年齢に比し早期に出現・進行する状態である.二次性徴出現時期が[(二次性徴出現平均年齢)—(標準偏差)×2.5]以下のとき,思春期早発症が疑われる.われわれの調査成績によれば,日本人女子の乳房発育開始基準年齢は10.0±1.4歳(M±SD)である1).厚生省特定疾患間脳下垂体機能障害調査研究班による中枢性性早熟症診断の手引き(1984年改訂)の7歳の算出根拠は必ずしも明瞭ではない2)(表1).
 思春期早発症においては,しばしば思春期の進行するパターンが対照集団と異なる.日本人女子の二次性徴は,乳房発育,恥毛,初経(潮),腋毛の順序に進行することが多い.6〜7歳で乳房発育をきたした症例において,乳房発育(Tanner II〜III度)にひき続いて早期に性器出血を認める場合には,思春期早発症の可能性が高い.

16.乳癌

著者: 野村雍夫

ページ範囲:P.324 - P.325

 乳癌のホルモン療法は,約100年前のBeatsonによる卵巣摘出術に始まる.以後,表1のように,種々の作用機序のホルモン療法が行われてきた.現在,世界的に最も頻用されているのはtamox—ifenであり,閉経後乳癌に対するaromatase in—hibitorsの開発が盛んに行われており,外科的ホルモン療法(卵巣,副腎,下垂体摘出術)は行われなくなった.閉経前乳癌に対しては,tamoxifenの効果がやや弱いこともあり,機能的卵巣摘出術であるGnRHアゴニスト(GnRHa)が注目されつつある.これまで世界的に乳癌に用いられてきたGnRHaは,buserelin, leuprolide, nafarelinなどであるが,わが国では現在goserelin(Zoladex)が承認されている.

17.体外受精のための過排卵刺激

著者: 蔵本武志

ページ範囲:P.326 - P.327

 体外受精・胚移植(IVF-ET)における最も重要なポイントは,良質の受精卵を移植することであり,そのためには複数の良質卵を採取することが必要となってくる.従来過排卵刺激法としてhMG-hCG療法が使用されてきたが,卵子に悪影響を及ぼすpremature LH surgeが起こる可能性があり,採卵のタイミングが困難であった.これに対し,最近GnRHアゴニスト(GnRHa, buser—elin)を併用した過排卵刺激法が多く用いられるようになった.GnRHaは,投与初期のflare up現象とこれに引き続いて起こるdown regulationの2つの作用を持ち,これらを上手に用いることによりpremature LH surgeが抑制され,良好卵の採取が容易となり,また採卵のタイミングを調節できるようになった.本稿では我々が行っているIVF-ETの過排卵刺激について述べる.

18.早発卵巣不全(Premature ovarian failure)

著者: 樋口泰彦

ページ範囲:P.328 - P.329

 かつて早発卵巣不全(premature ovarian fail—ure;POF)は治療法のない不可逆的な病態と考えられていたが,近年,自然に排卵周期が回復したり,適切な治療により排卵を得られる可逆的な症例も存在することがわかってきた.またPOFの一部に自己免疫障害が関与していることも明らかにされ,POFの病態も徐々にではあるが,解明されつつある.しかしながら依然としてPOF症例の大部分が治療に反応せず,排卵・妊娠はきわめて困難であることは事実である.
 本稿においてはPOFに関する基礎知識と排卵誘発の基本理念を述べた上で,GnRHアナログ療法の実際について,他法と比較しながら解説したい.

19.PCO症候群

著者: 大野洋介

ページ範囲:P.330 - P.331

 多嚢胞卵巣症候群(PCOS)婦人における排卵誘発の第一選択薬はクエン酸クロミフェンであるが,比較的重症の排卵障害のためクロミフェンが無効のことも多い.このような症例にはゴナドトロピン製剤が試みられるが,低ゴナドトロピン性排卵障害婦人と比較して,排卵率や妊娠率が低いこと,さらに排卵しても重症の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠,初期の流産率の高いことが問題となる.
 Flemingら1)は,PCOS婦人のゴナドトロピンを用いた排卵誘発にGnRHアゴニストを併用し,排卵率の改善と合併症の減少がみられたと初めて報告した.GnRHアゴニストを用いると,下垂体のdown regulationによりLHの低下がもたらされ,さらにpremature LH surgeが抑制されて治療効果が改善されると考えられた.その後多くの追試がなされたが,ゴナドトロピン単独投与と差がないとするものや,GnRHアゴニスト併用投与が有効であるとするものがあり,その結果はいまだ統一されたものではない.

20.長期投与の副作用とその予防

著者: 植村次雄

ページ範囲:P.332 - P.334

 子宮内膜症,子宮筋腫,思春期早発症,前立腺癌,乳癌などホルモン依存性疾患に使用する場合,長期の使用となり,その有用性とともに安全性についても十分な配慮がなされなくてはならない.GnRHアゴニスト(GnRHa)長期投与の副作用としては卵巣欠落症状の出現,血液生化学所見および骨量への影響である.

使用上のアドバイス

21.スプレキュア

著者: 西田正人 ,   杉田匡聡 ,   久保武士

ページ範囲:P.337 - P.339

 GnRH療法の理論や適応,また投与時の血中ホルモン動態などは本特集の各項目に詳細に述べられているので,重複を避け,本項目では筆者らがスプレキュア治療あるいはホルモン療法を行うに当たって,留意している点について述べることにする.

22.徐放性GnRHアゴニスト(酢酸リュープロレリン;リュープリン®

著者: 菅原準一 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.340 - P.341

 GnRHアゴニストは酢酸ブセレリン(スプレキュア)として子宮内膜症,子宮筋腫,および思春期早発症の治療,排卵誘発への応用などに現在広く用いられている.最近になり徐放性のGnRHアゴニスト製剤が開発され,子宮内膜症治療を中心に臨床応用されてきている.本稿では,この酢酸リュープロレリンの使用法,副作用対策,今後の臨床応用を中心に述べる.

カラーグラフ 遺伝講座・9

遺伝子診断の実際・3

著者: 鈴森薫

ページ範囲:P.267 - P.269

先天性骨形成不全症の遺伝子解析
 先天性骨形成不全症はI型コラーゲンα1鎖あるいはα2鎖の異常により起こることが最近の研究により明らかになっている.本症のうち重症型である骨形成不全症のII型は常染色体優性遺伝形式をとり,新しく発生した変異により起こり,再発の危険はほとんどないものと考えられてきた.しかし,片親のsomatic mosaicismによる同胞発生例が,最近,報告されている.我々は,骨形成不全症II型と診断された兄弟例を経験し(図1),その構造異常と再発機序を分子生物学的に検討した.第1子は出生後の検査により,長管骨を中心に多数の骨折を認め,同症の診断を受けた.その後も骨折をくり返し,3歳2か月時,心不全,呼吸不全で死亡した.

Q&A

Misoprostolによる妊娠中絶・陣痛誘発の効果と安全性

著者: 武久徹

ページ範囲:P.343 - P.345

 Q 最近,Misoprostolによる妊娠中絶や陣痛誘発が紹介されていますが,その効果や安全性を教えてドさい(山口 YK子).A Misoprostol (商品名:Cytotee)は,PG E1類似様物資で,米国では胃潰瘍治療および予防薬として使用許可されています.世界的にも胃潰瘍治療薬剤として広く使用されています.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

子宮癌根治手術における2,3の小さな工夫—基靱帯(子宮側)結紮に色糸を,他

著者: 本庄英雄

ページ範囲:P.346 - P.346

 子宮癌根治手術における私なりの二・三の小さな工夫を紹介します.
 数年前より執刀させていただいておりますが小生にとってどうも良く判らず恐れました点の一つが基靱帯の子宮側断端の術中における行方でした.仙骨子宮靱帯,直腸子宮靱帯の切断・処理において,せっかく前もって切断した基靱帯の子宮側断端を,部分的にしろ非摘出部にまぎれ込まして,残してしまっている可能性を恐れました.

Strassmann手術における—工夫

著者: 高桑好一 ,   田中憲一

ページ範囲:P.347 - P.347

 Strassmann手術は古く1907年にStrass—mann, P.により報告された主として双角子宮に対して行われる術式である.双角子宮は従来より不妊症および不育症の原因として注目されており,著者らは習慣流産の原因としてしばしば双角子宮を経験し,その形成術式としてStrassmann手術を施行している.
 基本的には,左右両卵管角部より子宮底部に横切開を入れ,この切開創を左右に縫合するという単純な手術であるが,術中の出血に悩まされたり,子宮内腔の確認などに手間取ることもまれではない.このようなマイナートラブルを回避するために筆者らが行っている工夫について述べることとする.

連載 産科外来超音波診断・8

Fetal Biophysical Profile Scoring(BPS)—その2

著者: 清水卓 ,   伊原由幸

ページ範囲:P.351 - P.354

 前回は,Fetal Biophysical Profile Scoring(BPS)についての基礎的な事項について述べたが,本稿では,分娩時のBPS,前期破水(PROM)例の管理におけるBPSの役割などについて概説する.

原著

糖尿病合併妊婦におけるカルシウム代謝の検討

著者: 小原範之 ,   武内享介 ,   上田康夫 ,   森川肇 ,   望月眞人

ページ範囲:P.355 - P.359

 糖尿病合併妊婦のカルシウム(Ca)代謝動態および新生児低Ca血症の発症について検討した.対象は糖尿病(diabetes mellitus:DM)合併妊婦11例,妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)妊婦4例,腎性糖尿合併妊婦1例であり,新生児はDM合併妊婦から出生した児4例とGDM妊婦の児1例である.DM合併妊婦はインスリン治療と食事療法を行い,GDM妊婦は食事療法のみを行った.
 正常妊婦やGDM妊婦に比し,DM合併妊婦の尿中Ca/Cr比と血清PTH-Cは高値,血清CTは差がなく,血清1α,25(OH)2D3は低値であった.また,平均血糖値の低下に並行して尿中Ca/Cr比が低下した.血清総Caが妊娠中期から減少したDM合併妊婦の新生児に低Ca血症の発症がみられた.以上より,DM合併妊婦には高Ca尿症や血清1α,25(OH)2D3の低値のためにCa平衡が負のバランスに傾いていることが明らかになった.また,母体の血清総Caの減少は新生児低Ca血症の発症に関与している可能性が推測された.

前置胎盤症例に対する超音波検査とMRI検査の比較検討

著者: 森山明宏 ,   清水廣 ,   池渕佳秀 ,   菊池知之 ,   西村譲 ,   北美保

ページ範囲:P.361 - P.365

 前置胎盤の診断には,一般に経腹超音波,経腟超音波検査が用いられるが,近年産科領域にも導入されつつあるMRI検査の有用性について超音波検査との比較検討をした.前置胎盤2症例,低置胎盤1症例に対して経腹超音波,経腟超音波,MRI検査を行った.内子宮口の位置,胎盤辺縁の位置が3症例とも明瞭に描出できたのはMRI検査のプロトン強調画像であった.従って超音波検査にて胎盤の辺縁がわかりにくい場合には積極的にMRI検査を施行するのがよいと考える.

薬の臨床

シスプラチン化学療法における悪心・嘔吐に対するグラニセトロンの制吐効果

著者: 大和田倫孝 ,   鈴木光明 ,   小川修一 ,   玉田太朗 ,   佐藤郁夫

ページ範囲:P.367 - P.370

 シスプラチンをkey drugとした化学療法によって惹起される悪心・嘔吐に対して,5—HT3受容体拮抗剤グラニセトロンの制吐効果を,従来のメトクロプラミド,ベタメタゾンの併用療法によるhistorical controlと比較検討した.婦人性器癌化学療法症例40例を対象に,グラニセトロン40μg/kgをシスプラチン投与1時間前と3時間後の2回点滴静注した.グラニセトロン投与群ではシスプラチン投与後24時間以内の急性嘔吐に対する効果は,WHOの毒性スケールのgrade 0, 1症例が48%(19/40)を占め,メトクロプラミド,ベタメタゾン併用投与群10%(2/20)に比べて,有意に優れた制吐効果を示した(P<0.001).一方,24時間以降の遅延性嘔吐に関しては,grade 0, 1症例はグラニセトロン症例で60%,メトクロプラミド,ベタメタゾン併用群で55%と両者の間に有意な差は認められなかった.グラニセトロン投与による副作用の検討では,頭痛5例,便秘,浮腫が各4例に認められたが,いずれも軽微であった.また,血算,肝,腎機能にも異常はみられなかった.グラニセトロンは,シスプラチンを含んだ化学療法によって生じる悪心・嘔吐,とくに急性嘔吐に顕著な効果があることが確認された.しかしながら遅延性嘔吐に対しては十分な効果は認められなかった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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