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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

今月の臨床 病態生理の最前線—臨床へのフィードバック 生殖・内分泌

1.性分化の異常

著者: 鈴木秋悦 ,   北井啓勝

ページ範囲:P.383 - P.390

●はじめに
 性の分化は,性染色体によって遺伝的性が決定され,次いで性腺が分化し,身体的な性の特徴が決定され,精神的社会的な性に発展していく.しかし,この過程に何らかの異常が加わると,性の分化の方向に異常を生じてくる.この異常をきたす誘因としては,環境因子,発達障害因子,染色体異常,遺伝子の突然変異などがあげられる.
 これらの性の分化異常の確定診断は,生後できるだけ早い時期になされることが肝要であり,とくに生下時の外性器の形態の観察が重要なポイントとなる.しかし,外性器だけでは男性とも女性とも鑑別し難い症例も多く,診断は必ずしも容易ではない.

2.PCO症候群(多嚢胞性卵巣症候群)

著者: 熊坂高弘 ,   大川浩司

ページ範囲:P.391 - P.396

●はじめに
 Polycystic ovary syndrome(PCOS)は生殖年代婦人の約3%にみられ,その50〜70%は月経異常と不妊がみられる.
 PCOSは明確な病理学的特徴のない排卵障害で,一つの疾患というより症候群として理解されている.その最も特徴的な臨床所見は,慢性的な無排卵と多毛である.また,本症候群の約半数に肥満がみられる.両側卵巣は肥大するが,内診で証明することは難しく,片側のみ認められることが多い.

3.不育症

著者: 山田秀人 ,   佐々木隆之 ,   香城恒麿 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.397 - P.403

●はじめに
 習慣流死産は日常の産婦人科臨床上,全体の患者数に占める割合はけっして高いとは言えない.現在までの国内外のデータに基づくと,顕性妊娠のうち10〜15%が流産に至るとされており,この流産率から3回連続して流産する確率を求めると0.1〜0.34%の頻度で習慣流産の症例が生ずることになる.しかし,産婦人科外来妊婦のうち,約1%が習慣流産症例であるという報告があり,偶然ではない何らかの器質的,または機能的病因を有する疾患群が存在することは確かである.
 しかしながら,その病因は,例えば染色体異常,内分泌異常,子宮奇形,自己免疫疾患などに代表されるように複雑かつ多様であるという問題点が存在する.また,現在可能な精査を可及的に行っても,その約半数が原因不明である.この理由の一つには習慣流死産症例のなかに確たる病因のない症例,つまり胎児側因子による偶発的な流産を単にくり返した症例や,現在一般的に行われている検査法では同定が不可能な病因を持つ症例が混在しているためと思われる.

4.黄体機能不全に関する新しい考え方

著者: 福田淳 ,   児玉英也 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.405 - P.411

●はじめに
 黄体機能不全という概念はJonesら(1949)によりはじめて紹介されたが,彼は“黄体からのプロゲステロンの産生異常”と,かなり狭義なものとして捉えていた.しかしながら,子宮内膜が着床あるいは着床維持に適切な状態にあるか否か,すなわち子宮内膜が十分な発育,分化を示しているか否かが臨床的には重要である.
 したがって,黄体機能不全は,黄体期における卵巣のステロイドホルモンの産生異常だけでなく,黄体期子宮内膜の異常も包括した広義なものとして捉える意見が多いようである(表1).このことは,その診断基準(表2)からも窺われ,BBTの異常やプロゲステロン産生異常の他に子宮内膜の日付診のずれも重要な診断根拠となっている.

5.受精障害と着床異常の病態

著者: 野田洋一 ,   喜多伸幸

ページ範囲:P.413 - P.419

●はじめに
 本稿に与えられたテーマは二つの命題を含んでおり,ひとつは生殖医療において最もよく遭遇するものであり,他の一つは最もよくわかっていない領域に関するものである.
 受精障害については最近顕微授精法において画期的進歩が見られ臨床的にはかなり克服されたかの感がある.しかし,着床障害については不妊治療を行う中でどうして着床が成立しないのか理解に苦しむ場合が少なくない.とりわけ体外受精胚移植法(IVF-ET)において,形態良好胚を移植しても着床に至らない場合がしばしば経験され,何らかの意味で子宮内膜の胚に対する受容能が十分でない病態を仮定しないと説明し難いと感ずる場合がある.

6.男性不妊の病態と治療の限界

著者: 星和彦 ,   柳田薫

ページ範囲:P.421 - P.427

●はじめに
 不妊症に悩むカップルの頻度は全体の約15%で,男性因子が関与するものはその40〜50%を占める.したがって不妊症の診断と治療は産婦人科医と泌尿器科医の連携によって行われることが望ましい.
 疾患の治療には原因の同定が必要である.不妊症の検査はけっして特殊なものではないが,検索にもかかわらず原因がわからない症例の多いことが男性不妊症の問題点として指摘されている.さらに精液所見がたとえ正常であっても受精が起こらなかったり,精液所見が基準以下でも自然妊娠することはよく経験され,精液検査の結果だけで男性因子の有無を評価することは難しく,精子機能すなわち受精能を正しく評価できる検査の考案が必要となる.

腫瘍

7.子宮内膜症と子宮腺筋症の発生要因

著者: 石川元春 ,   三橋洋治 ,   星合昊

ページ範囲:P.429 - P.433

●はじめに
 かつては異所性の子宮内膜による病態を「子宮内膜症」と総称し,病巣が子宮外のものを外性子宮内膜症(endometriosis externa),子宮内にあるものを内性子宮内膜症(endometriosis inter—na)とそれぞれ呼んでいた.しかし,両者は異なった発生機序を持つ病態であるとの観点から,1993年に子宮内膜症取扱い規約1)が発表され,外性子宮内膜症(旧)を子宮内膜症(endometriosis),内性子宮内膜症(旧)を子宮腺筋症(adenomyosisuteri)とそれぞれ表現することになり,混乱していた用語の統一が行われた.
 この項では,子宮内膜症と子宮腺筋症の発生要因を,最近の仮説も含めて解説する.

8.卵巣癌の転移機序

著者: 西田敬 ,   駒井幹

ページ範囲:P.435 - P.440

●はじめに
 卵巣癌の進行期を決定するには系統的なステージング手術が必要であるが,そのfeedback効果として,卵巣癌の進展形式に対する理解もさらに深まることが期待される.しかし,卵巣癌の治療中に予期せぬ骨髄や中枢神経系などへの転移の出現に驚愕することも時に経験され,癌の生物学的な本質に対する理解はいまだに十分とは言えない.
 浸潤性の増殖と遠隔転移能は癌の特質である.とくに転移癌による重要臓器の破壊は癌治療の上で最もやっかいな局面と考えられる.

9.子宮頸癌—ウイルス感染と発癌機構

著者: 岩坂剛

ページ範囲:P.441 - P.447

●はじめに
 子宮頸癌は前癌病変である異形成上皮として発生し,上皮内癌を経て浸潤癌へと移行してゆく一連の過程を取ることが知られている.一方,この過程の引金となる,あるいはこの過程を進める因子がなんであるかという疑問は子宮頸癌研究における長年の大きな研究課題であったし,まだ完全には解決されていないこれからの研究課題でもある.
 1842年,イタリアの医師Dominico Rigoni—Sternは未婚婦人では既婚婦人に比べて子宮頸癌発生率が明らかに低く,しかも尼僧のような処女にはほとんど子宮頸癌が認められないことを報告した1).これは子宮頸癌発生に性交の関与を指摘した画期的な報告である.以後,これを裏づける多数の疫学的報告が積み重ねられ,子宮頸癌の病因が性交渉に関連していることがほぼ確実なものとなった.

10.子宮内膜癌の発生・進展と予後

著者: 蔵本博行

ページ範囲:P.449 - P.453

●はじめに
 近年,本邦でも子宮内膜癌が増加してきている.われわれの経験では,そのような内膜癌は50歳未満の比較的若年者のものであることが判明している1).内膜癌がどのような過程で発生し,進展して予後不良となるのか,すなわち内膜癌の自然史2)についてはいまだ不明な点が少なくない.しかし,その発生について現時点でわかっていることを理解し,また進展の程度がどのように予後に関連しているかについて整理しておくことは,内膜癌患者の治療を担当するに当たって有用であろう.
 そこで,われわれの成績を基に,私見も含めて述べ考案してみたい.

11.外陰癌の発癌機転

著者: 児玉省二 ,   田中憲一

ページ範囲:P.455 - P.460

●はじめに
 外陰癌の発癌機転は,最も頻度の高い扁平上皮癌を中心に研究が進められ,ことに子宮頸部の扁平上皮癌の癌化にHuman papillomavirus(HPV)の関与が指摘されて以来,外陰の扁平上皮癌においてもその癌化にHPVが関連していることが報告されている.そして,この扁平上皮癌は,外陰部での発癌機転を最も解明しやすい組織型となっている1)
 外陰癌の組織発生を考える上での組織分類は,1987年にInternational Society for the Study ofVulvar Disease(ISSVD)1)および1994年に新しいWHO分類がそれぞれ発表されている2).これらの新しい分類は,外陰疾患において次第に明らかにされつつある病態を背景にしたもので,疾患の理解に重要な役目を果たしている.そのなかで,従来より外陰癌との関連が指摘されてきたdys—trophy(ジストロフィー)は,新分類では名称が使用されないことになった.しかし,わが国では現在のところ“ジストロフィー”は使用されており,疾患名の変遷を理解し,癌化との関連を述べるためジストロフィーとして取り扱う.

産科

12.妊娠中毒症の発症病態

著者: 松本隆史

ページ範囲:P.461 - P.466

●はじめに
 妊娠中毒症は,浮腫,蛋白尿,高血圧をTriasとする症候群で,妊娠偶発合併症の最も重要な疾患である.本症の基本的病態は,血管攣縮(spasm)と血液濃縮(hemococentration)による局所の循環不全であると考えられている.一方,成因に関しては,自己免疫異常説,遺伝子異常説など諸説があるものの依然として不明である.しかし,最近では,血管内皮損傷をめぐる問題が本症の成因解明のアプローチのひとつになるものとして注目されている.
 本稿では,血管内皮細胞傷害と妊娠中毒症の成因について最近の動向を概説し,あわせて,その病態生理についても言及した.

13.胎盤早期剥離の病態と早期診断

著者: 井坂恵一

ページ範囲:P.467 - P.470

 常位胎盤早期剥離(以下早期剥離と略す)は,母体と胎児の両者に重篤な症状を呈する代表的産科疾患であり,とくに高い胎児死亡率を示す.本症は突然発症し急激に増悪することが多いため,その予測は非常に困難である.このため緊急の対応を迫られるケースがほとんどであり,その診断治療には細心の注意が要求される.そこで本稿では,本症の病態およびその早期診断の現状について述べたい.

14.DICの病態生理

著者: 大塚博光 ,   雨宮章

ページ範囲:P.471 - P.478

●はじめに
 DIC (disseminated intravascular coagula—tion:播種性血管内凝固症候群)は羊水塞栓症や子宮内死児稽留症候群の産科的疾患の合併症として報告されたのが最初とされ,DICと産婦人科との関連は歴史的にも深いものがある.
 DICは何らかの原因で,組織因子の血管内流入による外因性凝固機転の亢進や血管内皮細胞の障害による内因性凝固機転の活性化により血管内における凝固が亢進し血管内に多量の微小血栓が生じることにより始まる.

15.骨盤位分娩

著者: 伊藤茂 ,   桑原慶紀

ページ範囲:P.479 - P.484

●はじめに
 骨盤位分娩の頻度は全分娩数の約3〜5%である.しかし,児にとって骨盤位分娩は頭位分娩に比してリスクが高く,古くからその安全な取り扱いは産科医療における重要な課題となってきた.このため近年は骨盤位,とくに初産婦での骨盤位においては帝王切開術が選択される頻度が多くなってきている.骨盤位分娩のリスクから考えて経腟分娩の適応・術式は施設の状況において違いがあるのは当然であり,全施設が同じ指針に従って管理を行う必要性はないと思われるが,産科医として児に安全であるだけでなく,できるだけ母体の侵襲を少なくする方向で最大限の努力をする必要があると筆者らは考えている.今回は骨盤位の最近の話題とともに1992年に発表されたFIGOの骨盤位取り扱い指針をもとに当院での骨盤位取り扱い方針を紹介する.

16.前置胎盤と胎児発育

著者: 伊藤隆志

ページ範囲:P.485 - P.486

●はじめに
 前置胎盤と胎児発育に関する文献は多くない.現在のところ前置胎盤により胎児発育が障害されるのか,否かについては一定の成績,あるいは統一された見解がないのが実情である.その理由としては胎児発育は多種多様の要因により影響を受け,matched controlをとることが容易でないこと,また前置胎盤の頻度が全分娩数の約0.6%と低く,統計学的に事実を明らかにすることが容易でないことが考えられる.

17.深部静脈血栓症の発症要因

著者: 安達知子

ページ範囲:P.487 - P.492

●緒言
 19世紀の病理学者Virchowが提唱した血栓形成の3要因(表1)は,今日でも血栓形成の基本要因であるが,妊娠・分娩・産褥は生理的状態として,これらの3要因を背景に有しており,血栓形成の準備状況にあるといっても過言ではない.ここでは,産科領域で近年増加傾向にある深部静脈血栓症のリスクファクターを中心に,この中でもとくに注目されている抗リン脂質抗体(anti—phospholipid antibodies,以下APA)の産科における意義,抗リン脂質抗体症候群のスクリーニングを加えて,深部静脈血栓症の診断と管理について解説する.

胎児・新生児

18.IUGRの成因と病態

著者: 岸本廉夫 ,   多田克彦 ,   工藤尚文

ページ範囲:P.493 - P.500

●はじめに
 子宮内発育遅延(IUGR)は胎児の発育が子宮内で抑制された状態を総称する症候群である.臨床的には超音波断層検査により胎児体重を推定し,仁志田らの胎児発育曲線でその胎齢における平均体重の−1.5SD以下の場合をIUGRと診断している.したがって形態的な診断自体は比較的容易であるが,その成因は多岐にわたり,病態や胎児機能の的確な把握と適切な管理は,数々の多面的なアプローチが行われているものの,いまだ困難と言わざるを得ない.本稿ではIUGRの病因と病態について述べる.

19.出生前PVLの発症と病態

著者: 山口信行 ,   戸苅創

ページ範囲:P.501 - P.506

●はじめに
 PVLとは英語のPeriventricular Leukoma—laciaの略であり,日本語で脳室周囲白質軟化症と呼ばれる.この疾患が一つの病理学的分類として記載されたのは19世紀後半とされている.その後,1962年にBanker, LarrocheがPVLという名称をはじめて用いた.彼らは今や古典的ともいえるその論文の中で,白質壊死を有する51例(このうち在胎37週未満は24例)の児について詳細な臨床的,病理学的データを発表し,この疾患の白質壊死は脳室周囲に限局していること,新生児の痙性四肢麻痺の病理学的基盤との関連について述べていることは注目に値する.過去においてPVLの診断は病理診断のみであった.しかし,超音波装置,CT, MRIなどの画像診断装置の進歩,普及によりPVLの発症病態が明らかになろうとしている.

20.頭部奇形の診断とSonoembryology

著者: 竹内久彌 ,   佐藤隆之

ページ範囲:P.507 - P.512

 胎児の病態のうちで,奇形は大きな臨床的意義を持ち,その出生前診断への期待は当然大きいものがある.中でも,頭部奇形は生命予後につながる大奇形が多く,発生頻度も比較的高いため,とくに妊娠早期からの確実な胎児診断が望まれる.
 奇形の出生前診断はそのほとんどすべてが超音波診断で行われており,1965年の無脳症の出生前診断1)がその嚆矢であったことで象徴的に示されるように,頭部奇形の出生前超音波診断はとくに今日まで十分にその成果をあげてきた.しかし,主として技術的な問題から,その早期診断についてはなお今後の課題とされてきていた.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・1

正常扁平上皮域・子宮腟部円柱上皮域

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.379 - P.381

連載にあたって
 コルポスコープ診における血管所見の重要性については,コルポスコピー所見分類(表)の中で,異常所見5つのうち3つ(赤点斑,モザイク,異型血管域)が,血管所見を主体とした異常所見であることからもよくわかる.ところで,血管形態の観察に際して,正常と異常,さらに異常の程度などを判断するために血管所見の詳細な解析力が要求される.そのためには正常〜浸潤癌における子宮頸部の微細血管構築の変化をよく理解し,その立体像をつねに念頭に置きながら血管所見の分析を行うことがたいせつである.本シリーズでは正常,扁平上皮化生,炎症,Dis—plasia,上皮内癌,初期浸潤癌,浸潤癌における子宮頸部の微細血管構築が立体的にどのような構築を示し,同時にその変化がコルポスコピー所見にどのように反映されているかを供覧し,コルポスコープ診における血管所見の判断への一助としたい.

Q&A

尿失禁診断上の注意点と診療所レベルでできる腹圧性尿失禁診断法について(1)

著者: 下浦久芳

ページ範囲:P.519 - P.522

 Q ここ数年外来を訪れる患者さんから尿もれについて相談されることが多々あります.尿失禁診断上の注意点と腹圧性尿失禁の診断法の要点について教えてください(東京KY生).
 A 尿もれは女性において大変ありふれた下部尿路の症状である.軽度のものを含めると,全女性の約1/3に,認められる1).年齢と共に頻度は増加し,報告によってかなりの幅はあるが,30歳代で3人に1人,40歳代と50歳代は2人に1人とされる1).本人にとって問題とはならない臨床下subclinicalの尿もれ2)が大部分であるが,重症のものは患者のQuality of Lifeに影響を与える.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

尖圭コンジローマに対するレーザー治療

著者: 伊藤元博 ,   大高究

ページ範囲:P.524 - P.524

 尖圭コンジローマは外来診療でしばしば遭遇するSTDのひとつである.その治療法としては外科的切除,冷凍凝固,電気凝固,抗癌剤軟膏塗布などがあるが,われわれはCO2レーザー焼灼術を行い,良好な成績を得ている.
 まず病変部をコルポスコープで観察し,その性状と範囲を把握する(図1).また,コンジローマは多発することが多いので,病変部位以外の外陰部,尿道口,腟内,肛門周囲なども詳細に検索する必要がある.

子宮筋腫と子宮肉腫の鑑別のポイント

著者: 望月眞人

ページ範囲:P.525 - P.525

 子宮筋腫・子宮肉腫の診断を行う上で一番大切なのは緻密な問診・内診所見であり,画像診断法はあくまで補助診断である.子宮筋腫と子宮肉腫の鑑別の第1ポイントは,問診・内診所見で得られる発育速度,腫瘍の大きさ,性状,浸潤度である.子宮肉腫は,急速に発育増大してきた子宮腫瘍で,性状としてはいわゆるMyoma硬ではなくて,一般に柔らかい事を特徴とする.これは病理組織学的にも肉腫組織が非常に血管に富んでおり急速に発育増大し,いたるところで壊死に陥り,特に腫瘍内に出血を伴う事に一致する.非常にまれにゼラチン様のMyxoid変性を伴うことがある.腹膜,後腹膜,膀胱,大腸等の周囲組織への浸潤は非常に動きが悪いことより推定されるが,子宮内膜症の合併の場合はそれとの鑑別は困難である.そこで,私は,こういった子宮肉腫を疑う症例には,第2のポイントとして積極的に生化学的検査として肉腫に比較的特異的な腫瘍マーカーと考えられるLDHを測定し,特にそのisozymeを検索している.筋腫,変性筋腫においては,LDHはほぼ正常範囲に入り,高値を示す症例でもis—Ozymeは正常な分画を示す.一方肉腫例では,異常高値を示すことが多く,そのisozymeは特にLDH2, LDH3が高値を示す.

原著

当院NICUにおける新生児死亡に関する諸因子の検討—判別分析・多重ロジスティックモデルを用いた危険因子解析

著者: 大口昭英 ,   新井昇 ,   飴谷由佳 ,   佐竹紳一郎 ,   小鳴康夫 ,   舟本寛 ,   中野隆 ,   舘野政也 ,   津川圭子 ,   林恵三 ,   畑崎喜芳

ページ範囲:P.527 - P.531

 今回,われわれは当院NICUにおける新生児死亡に関係する諸因子について検討を行い,新生児死亡に関与する危険因子の相対危険度を明らかにする目的で症例対象研究を試みた.1984年4月より1990年3月までに当院NICUに入院した,出生体重2,000g未満または在胎週数34週未満で出生した新生児182例を対象とした.説明因子として,性別,出生体重,在胎週数,SFD(仁志田らの基準により−1.5SD未満とした),RDS(Bomsel分類III型以上),脳出血,院内/院外出生,多胎,重症妊娠中毒症,初産/経産,骨盤位(経腟分娩),新生児仮死,低血糖を選択した.新生児死亡の危険因子解析は,Lemeshow S and Hosmer Jr DWの方法に従い,判別分析と多重ロジスティックモデルを用いた.13因子のstepwise判別分析で,在胎週数,脳出血,SFD,骨盤位,RDSがこの順で有意に新生児死亡への関与を示した.これらを独立変数として多重ロジスティックモデルを用いて解析を行った結果,在胎週数(p<0.001),RDS(p=0.024),脳出血(p=0.028)が新生児死亡の危険因子として有意であった.これらの危険因子の相対危険度は,在胎週数(2週の減少で):3.9, RSD:4.9,脳出血:6.7であった.在胎週数は出生体重と比較して,新生児の生死に関してより重要な因子であると考えられた.

薬の臨床

更年期の各種不定愁訴に対する塩酸インデロキサジンの有用性に関する検討

著者: 小武海成之 ,   太田博明 ,   杉本到 ,   増田あさ子 ,   隅田能雄 ,   牧田和也 ,   堀口文

ページ範囲:P.533 - P.537

 高齢化社会の到来により,老年期のQuality ofLifeの向上のための更年期対策は急務となっている.そこで今回われわれは,長谷川式簡易知能評価スケールにて痴呆を否定された各種更年期症状を有する女性30例(平均年齢51.6±1.3歳)に対して,脳機能改善剤である塩酸インデロキサジン60mg/日を8週間投与し,その効果を当科にて作成した40項目にわたる調査表を用いて検討した.その結果,汗をかきやすい,肩凝り,意欲の低下,入眠障害について各々有意な改善が認められた.また腰痛,関節痛,興奮しやすい,神経質,頭痛,記銘力低下,腹部膨満感の各項目については改善傾向を認めた.以上,精神安定剤とは正反対の効果を有する塩酸インデロキサジンの投与により意欲の低下ばかりでなく,各種の不定愁訴に対して幅広い改善効果が認められ,本剤の更年期の領域における有用性が示唆された.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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