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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻5号

1995年05月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊娠と血液

editorial

著者: 寺尾俊彦

ページ範囲:P.549 - P.549

 血を見ないお産はあり得ない.子宮は人体臓器の中で唯一,生理的に出血し,止血する臓器であり,月経も分娩時の出血も生理的なはずであるが,突然に,しかもしばしば病的なものとなる.こここそは我々産科医が活躍する場であり,specialistとしてのidentityを置く場所である.
 血液学の進歩は著しい.血管の中を流れる血液の研究から始まった血液学は血液と血管内皮との関係へ,さらに血管外マトリックスとの関係にと進み,また血液自身も造血,血球,血小板,血漿蛋白,免疫物質はもちろんのこと,全身の各種細胞が産生放出する物質や反応生成物などの同定検出へと進んでいるので,血液に関する研究は著しくその幅を拡げた.現在世界の医学研究者の中で血液を研究している学者が最も多いと言われている.したがってその進歩は爆発的とも言える.ますます細分化して,より専門的な知識を必要としているが,同時に多方面の進歩をintegrateすることも必要となっている.

1.妊娠貧血

著者: 佐川典正

ページ範囲:P.550 - P.553

●はじめに
 妊婦の失血に対する耐性が非妊婦より大きいことから,妊娠中は血液量が増加した状態,いわゆる多血症(plethora gravidarum)の状態にあるということは中世から経験的に知られていたとされている.また,血球の濃度については,1836年には妊婦の血球濃度が非妊婦より低いことが報告されている1).赤血球濃度が正常より低下した状態を貧血(anemia)というが,妊娠中の貧血には,いわゆる生理的貧血(physiological anemia)と病的貧血(pathological anemia)があると考えられる.しかし,妊娠中の貧血の成因や背景は多様であり.しかも,血液の濃度が胎児発育や周産期死亡など妊娠の結果に及ぼす影響は必ずしも一定ではなく,正常と異常の境界をどこに引くかは報告者によって必ずしも一致していない.たとえば,WHOの勧告でも,1965年度はヘモグロビン(Hb)濃度10g/dlを正常下限としていたが2),1968年度にはHb濃度11g/dlを正常下限としている3)
 本項では,妊娠中の循環血液量の変動,造血能の変化,鉄代謝の特徴,および血液濃度と産科臨床的意義などの面から,妊娠貧血を考えてみたい.

2.妊娠と血液凝固

著者: 曽我賢次

ページ範囲:P.554 - P.556

 はじめに血液凝固機序について,次にこれが妊娠時にどう変わるかについて述べる.さらに凝固抑制系としてのインヒビターとトロンボモジュリン,プロテインCを,そして凝固と関連する線溶系,キニン系などについても簡単に解説したい.

3.妊娠と線溶

著者: 島田逸人

ページ範囲:P.558 - P.563

●はじめに
 線溶反応とは,もともと線維素(フィブリン)を溶解する反応という意味で使用されていたが,最近では線溶反応に関わる因子がフィブリン溶解以外に細胞の移動,組織の再構築,排卵,着床,癌の転移といった組織における生体反応に重要な働きを果たしていることが明らかになってきた.実際その生体反応の現れなのか子宮胎盤系においては,凝固,線溶の双方が驚くほど亢進していることが判明している1).本稿では,この子宮胎盤系を踏まえて妊娠時における線溶状態を考察するが,近年目覚ましい展開を示す線溶機序についても解説する.

4.血液凝固線溶の分子マーカー

著者: 中嶋章子 ,   小川俊隆 ,   高山雅臣

ページ範囲:P.564 - P.567

 妊娠時には各凝固因子の増加(第XIII因子は除く)と胎盤局所の凝固亢進による凝固系の亢進,線溶抑制状態が認められることが知られている.これは妊娠時分娩時の出血に対する防衛機構であるが,一種の播種性血管内凝固(DIC)準備状態となっていると考えられ,一旦この微妙なバランスが崩れると急速にDICを引き起こしてしまう.この微妙な変化をより早く察知するためには,生体内での凝固,線溶系の活性化の状態を推測できる凝固・線溶系の分子マーカーの測定が有効である.凝固・線溶系の分子マーカーという言葉はここでは血液凝固や線溶の進行にともない血漿中に増加してくる凝固,線溶因子の活性化ペプチドや分解産物,酵素と阻止因子の複合体,あるいは血小板などからの細胞成分の放出物質もしくは遊離物質などを意味する.

5.妊娠とレオロジー(赤血球変形能,白血球変形能)

著者: 江口勝人

ページ範囲:P.568 - P.573

●はじめに
 レオロジーrheologyのrheo—はギリシア語のrheos“流れる”に由来するもので,物質の変形と流動の科学(流動学)のことである.一般に,生体における血液循環は次に示すようなHagen—Poiseuilleの法則に従って成り立つ.ここでPは管の中を流れる流体の圧,ηは流体の粘性,Lは管長,Qは流量,rは管の半径を示す.つまりηは血液粘度.Qは心拍出頃,rは抵抗血管の半径であり,これらが血圧を規定する因子として重要であることがわかる.血液の流動性に影響する因子としては,粘度,ヘマトクリット,赤血球変形能,血漿蛋白(とくにフィブリノーゲン,マクログロブリンなどの高分子蛋白)などが挙げられ,しかもこれらは相互に関連し合っている.血液は多量の血球成分を有する蛋白溶液の流体であるが,最近主要な有形成分である赤血球並びに白血球の変形能力(血小板は硬く変形しない)と循環機能の関係が注目されているため,本稿ではレオロジーの観点からそれらの妊娠時における臨床的意義について解説する.

6.妊娠と自己免疫疾患

著者: 青木耕治

ページ範囲:P.574 - P.576

 自己免疫疾患合併妊娠のうち,とくに頻度の高いSLE合併妊娠について,抗リン脂質抗体との関係を中心に概説する.

7.産科の急性DIC—産科DICは本当に急性か?

著者: 水上尚典 ,   佐藤郁夫

ページ範囲:P.578 - P.582

 DICは症候群であり,原因・病態はさまざまである.産科に認められるDICは内科で悪性腫瘍時に認められるDICに比し経過が短いので急性型DICと考えられている.“産科の急性DIC”という言葉には妊婦は突然DICになってしまうというひびきがある.産科には前置胎盤,帝王切開分娩時,子宮頸管裂傷,弛緩出血,子宮破裂など大出血の原因となる合併症が多い.出血性ショックは確かにDICを引き起こすので産科では出血性ショック誘発DICは他科に比し多い.しかしこのDICは老若男女の区別なく起こるので産科固有のDICではない.本稿では産科固有のDICが果たして本当に急性なのか否かについて検証してみたい.

8.妊娠中毒症と慢性DIC

著者: 高木耕一郎 ,   赫文栄 ,   橋口和生 ,   村岡光恵 ,   中林正雄 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.584 - P.588

●はじめに
 妊娠によって母体の凝固・線溶系は質的・量的な変動をきたすことが知られている.すなわち,その妊娠性の凝固・線溶系の変化は凝固亢進と線溶低下であると表現される,このようないわば生理的な凝固線溶系の変化を基礎として,妊娠中毒症では凝固・線溶系のバランスの破綻と,それに関連して胎盤,母体の腎を中心とした血管障害が中毒症の病態形成に重要な意義を持つと考えられている.
 一方,悪性腫瘍患者では古くより血栓性静脈炎が多いことが指摘され,その背景に凝固因子の消費増加と線溶亢進を持つ急性DICと異なり,消費された凝固因子や血小板がそれらの産生亢進によって代償された状態,すなわち過代償性DIC,あるいは慢性DICが存在することが知られている.

血管攣縮・血液凝固と妊娠・分娩

9.子癇

著者: 寺尾俊彦

ページ範囲:P.590 - P.593

 子癇とは日本産婦人科学会の定義によれば「純粋型,混合型にかかわらず妊娠中毒症によって起こった痙攣発作をいい,痙攣発作の発生した時期により,妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇と称する.なお,痙攣発作の発生した時期がまたがった場合,たとえば分娩期と産褥期とに痙攣発作が発生した場合は,分娩・産褥子癇という」とされている.
 妊娠中毒症を背景に脳病変が発生し,痙攣発作症状を呈する病態である.脳病変としては脳血管の一過性攣縮と考えられてきた.

10.HELLP症候群

著者: 寺尾俊彦

ページ範囲:P.594 - P.596

 HELLP症候群とは,1982年,Weinsteinらが,妊娠中にhemolysis(溶血),elevated liverenzymes(肝酵素上昇),low platelets count(血小板数減少)を来す29例の症例を発表し,その頭文字をとって名づけた症候群である.多くは妊娠中毒症に併発し,DIC(血管内血液凝固症候群)を合併して予後不良となり,母体死亡や児の周産期死亡を引き起こすこともある重篤な症候群である.本症が報告されて以来,本邦でも多数の報告例があり,すでに数百例を超えている.

11.羊水塞栓症

著者: 寺尾俊彦

ページ範囲:P.598 - P.600

 羊水塞栓症はまれな疾患であるが突然発症し,しかも救命率が低いことから産科医を悩ます疾患である.
 本症は何らかの原因で羊水中の成分が母体血中へ流入して発症するが,羊水中のどんな成分が本症の重篤性に関与しているのかは完全に明らかにされたわけではない.卵膜の破水個所から羊水成分が流出し,子宮血管に流入すると考えられるので,破水していること,子宮内圧の病的上昇があること,子宮血管が露出していることなどの条件が重なった時に発生するものと思われる.重篤になる理由としては肺動脈塞栓による肺動脈圧の上昇により心肺機能が低下する,アナフィラキシー様の反応により肺動脈や気管支が攣縮する,その他続発性DICなどが挙げられる.これらの病態を引き起こす羊水中の成分は羊水,羊水中微粒物質(毳毛,胎脂,扁平上皮細胞など),胎便中に存在する物質(ムチン,胆汁色素など物理的塞栓を起こすとともに,マクロファージ,好中球が遊出して肺組織でchemical mediator,例えばサイトカイン,PG,セロトニン,ヒスタミンを放出する原因となる物質)が考えられるが,中でも胎便中の物質が主役をなすと考えられる.

血液疾患と妊娠・分娩

12.ITP

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.602 - P.605

 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は自己免疫性血液疾患の一つで,骨髄での血小板の産生障害がなく,末梢での血小板破壊の亢進が血小板減少の原因と考えられるものをいう.その機序は,ある血小板膜抗原に特異的に結合した抗体(IgG)がそのFc部分で網内系(マクロファージのFcレセプター)に取り込まれることにより,血小板減少が引き起こされると考えられている.
 ITPには急性型と慢性型がある.急性型は小児に多く,自然治癒することが多いが,慢性型は成人ことに女性に多く,自然治癒することは少ない.慢性型のITPは若年婦人に好発するため,妊娠との合併が多く,産科医が最も遭遇しやすい血液疾患である.表1にその診断基準を示す.

13.再生不良性貧血

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.606 - P.607

 骨髄の低形成または無形成によって赤血球,顆粒球および血小板の産生が低下するため,汎血球減少症となり,貧血症状,感染,出血傾向をきたす疾患である.原因としては遺伝性,薬物,放射線,感染,妊娠などがあげられる.
 本症の診断基準を表1に示した.出血傾向を伴う貧血で,汎血球減少を認め,骨髄穿刺で有核細胞数の減少を認めたら,本症を疑う.一般に血清鉄は上昇し,不飽和鉄結合能は低下する.重症度の判定は表2の基準に従うが,山田らのt—スコア(表3)が予後との関連および治療の適応選択に有用である.対症療法として洗浄赤血球や血小板輸血,感染に対する抗生剤等の投与が行われる.骨髄機能の回復のために,蛋白同化ステロイド,副腎皮質ステロイドの投与が行われ,また,免疫抑制剤の投与や,最重症の場合は骨髄移植も有効である.

14.先天性血液凝固異常

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.608 - P.612

 最近の遺伝子操作技術の進歩により血液凝固線溶系因子の構造はほとんど決定され,異常遺伝子の解析から,遺伝病の出生前診断も可能となってきた.従来凝固因子異常症の治療は輸血や血液製剤による補充療法が主体であったが,これはAIDSや肝炎などウイルス感染のリスクを内在している.今後は遺伝子組み換え凝固因子による治療や,さらに将来正常遺伝子を導入された遺伝子治療が可能となろう.
 近年先天性凝固因子異常症患者の生存年数も延長し,妊娠・分娩例が増加してきた.妊娠中多くの凝固因子は増加してくるので,もしいずれかの凝固因子が先天的に不足していても,それが妊娠によって増加してきたり,他の因子が代償的に働くこともあり,分娩時の出血は正常範囲にとどまることが多い.すなわち妊娠・分娩時には特異的な止血機構があり,一般に子宮腔からの出血に限っては止血しやすいものである.しかし裂傷部からの出血や血腫は補充療法をしなければ止血しない.血液疾患合併妊婦の分娩は産科的適応のない限り計画的な経腟分娩を原則とし,切創や裂傷を作らないことがたいせつである.また分娩開始と同時に十分な補充療法を行うべきである.

15.血小板異常症

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.614 - P.616

 血小板の異常には数および機能の異常があり,前者には減少症と増多症が,後者には先天性のものと後天性のものがある.減少症の代表はITPであり,すでに述べた(「12.ITP」).増多症には原発性血小板血症と反応性血小板増加症がある.先天性の機能異常症としては粘着障害を呈するBernard-Soulier症候群,凝集障害を呈する血小板無力症(Glanzmann),放出異常を呈するStorage pool病などが代表的である.後天性のものにはアスピリンなど薬物によるもののほか,腎不全,自己免疫疾患などさまざまな疾患が原因となる.先天性の血小板機能異常症の分類を表1,表2に示したが,このうち代表的なものを述べる.

血液型不適合妊娠

16.同種免疫の防止

著者: 中村幸夫

ページ範囲:P.618 - P.619

 ある種の血液型に関して,母親が陰性で胎児が陽性の場合,これを血液型不適合妊娠という.ちなみに,胎児の血液型は両親の血液型遺伝子により決定されるため,夫婦間の血液型不適合が当然その前提となる.理論的には,すべての赤血球抗原について不適合の組み合わせがあるため,むしろ血液型適合妊娠であることがまれとさえ考えられる.
 しかし,血液型不適合妊娠であっても,それが原因で溶血性疾患(hemolytic disease of thenewborn:HDN)が発生しなければ,病的な意義はない.現在まで,重症のHDNを起こすものとして,Rh式血液型を初めとする20以上の赤血球抗原が報告されている.本稿では,臨床的に最も重要なRh式血液型(D)不適合妊娠を中心として,同種免疫の防止について述べる.

17.既感作妊婦の治療

著者: 中村幸夫

ページ範囲:P.620 - P.622

罹患度の評価
 すでに赤血球不規則性抗体を保有している妊婦の場合は,胎児の罹患度と成熟度とを評価して,娩出時期を決定しなければならない.

胎児・新生児と血液

18.胎児の血液凝固能

著者: 鈴木俊明 ,   岡村州博

ページ範囲:P.624 - P.625

 最近の周産期医療の進歩は著しく,極小未熟児を取り扱う機会も多くなってきた.したがって,早期産児を含めた新生児の血液動態を理解するためには,胎児血液について知ることが重要である.そこで,本稿では,胎児・新生児の血小板・血液凝固系について若干のわれわれのデータを含め概説する.

19.新生児血小板減少症

著者: 鈴木俊明 ,   岡村州博

ページ範囲:P.626 - P.627

 新生児の血小板減少症を起こす原因(表1)は数多くある.新生児にみられる出血症状は出血部位,出血の直接原因,基礎疾患あるいは合併症により修飾されるので,それらを考慮して診断,治療を進める必要がある.また,近年では胎児の時点で血小板数低下が予想される場合に胎児採血を行い,その結果によって分娩様式を選択すれば,経腟分娩時に生じる胎児新生児の頭蓋内出血の予防に有用であるとの報告もある.
 今回は特発性血小板減少症(ITP)の母親から出生した児,同種免疫性新生児血小板減少性紫斑病を中心にその概略を述べる.

20.ビタミンK欠乏性出血

著者: 鈴木重統

ページ範囲:P.628 - P.630

 標題のビタミンK欠乏性出血には,新生児期の早期におこる吐血,下血など消化管出血を主徴とする新生児出血性疾患(いわゆる新生児メレナ)と,もう一つは生後2週間頃から早期乳児期にかけて主に母乳栄養児に発症し頭蓋内出血をおこす乳児ビタミンK欠乏性出血症とがある.
 以下これを1)新生児出血性疾患,および2)早期乳児ビタミンK欠乏性出血症とに分けて記載する.

21.新生児期におけるDIC

著者: 鈴木重統

ページ範囲:P.632 - P.634

 DICは,止血機構の異常の中では,最も重篤なものであり,多くの臓器における血管内での血小板や,血液凝固因子の消費によって生ずるものである.
 新生児期におけるDICの基礎疾患は多彩であり,しかもその症状は基礎疾患の経過によって異なる部分もあるし,また凝固障害が重篤であるか否かによっても左右される.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・2

正常扁平上皮化生域(1)

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.545 - P.547

 扁平上皮化生域はコルポスコピー所見では移行帯(Normal Transformation Zone,T)と呼ばれる.この領域が重要なのはcervical neoplasiaのほとんどがこの領域から発生するからである.一口に移行帯といっても,円柱上皮が扁平上皮に化生していく段階によってコルポスコピー所見も大きく変化する.移行帯は3%酢酸加工によく反応し表面が白色化することで扁平上皮や円柱上皮と区別することができる.その白色化の程度は化生の初期では淡く,化生が進むにつれ強くなるが化生が完成されると認められなくなる.また,neo—plastic changeを生じた領域の移行帯では一般に酢酸加工による白色化の程度が強く,持続時間が長い特徴を持つ(白色上皮,Acetowhite Epith—elium,W).

Q&A

尿失禁診断上の注意点と診療所レベルでできる腹圧性尿失禁診断法について(2)

著者: 下浦久芳

ページ範囲:P.637 - P.640

 Q ここ数年外来を訪れる患者さんから尿もれについて相談されることが多々あります.尿失禁診断上の注意点腹圧性尿失禁の診断法の要点について教えてください(東京KY生).
 A 前号では問診について概説した.表1は日常診療における診断手順見本例である.問診につづいて診察と初歩的並びに診察時必須検査が行われる.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

7日間固定卵胞刺激法によるART

著者: 久保春海 ,   安部裕司

ページ範囲:P.642 - P.642

 近年,補助生殖医療(ART)の普及にともない,一般病院でも実施が可能になってきた.しかしながら,手技の煩雑さ,採卵タイミングの問題,施設の点などで二の足を踏まれる所も多い.手技,施設の面はさておき,今回は採卵タイミングがいつ来るか分からないので,いつもIVFのために待機していなければならない,とお考えの諸兄に簡単に出来て,しかも妊娠率の低下しない卵胞刺激法を伝授いたしましょう.
 われわれは5年前より,ARTに固定化卵胞刺激法(7日間刺激法)を取り入れることにより,採卵日を事前に決定し,しかも通常の方法と変わらぬ成績を収めることを可能にした.これにより,ARTのスケジュールを一般診療行為の間に,計画的に実施することが出来,省力化に大いに役立っている.

回転式骨盤位娩出術

著者: 島田信宏

ページ範囲:P.643 - P.643

 経腟分娩での骨盤位娩出術には過去に多くの手技が考案され,臨床の現場で応用されているが,古典的上肢娩出術などをはじめとする多くの方法が,胎児の子宮内での胎位・胎勢をひとつずつ分解して娩出させる手技であった.しかし,よく考えてみると,子宮内での胎児の姿勢はコンピューターでも考えられないほど合理的に,もっとも小さい容積でたたみ込まれたものであることは私達が一番よくわかっている.せっかく,このようにもっとも小さい容積に小さくなっているなら,この形をくずさないで,そのまま娩出させたらもっとも狭い部分も,もっとも小さい容積の内容が通過するので容易に娩出可能なはずである.そこで,子宮内の胎児の姿勢をそのままくずさないで,回転させて娩出する手技を考えて実施している.ネジを押し込むとき,せまい管腔に栓をつめ込むときには,真直ぐに押し込むだけより,ねじり込んだほうがたやすく押し込めるという理論を逆にとり,ねじって,つまり胎児を回転させながら娩出させる.実際には,胎児の躯幹を半分ぐらいまで,肩甲骨がみえるところまで自然に娩出させると,胎児は自然に回転してくるので,術者はガーゼで胎児のからだを両手ではさむように持ち,回転の方向へさらにまわしてやると胎児は娩出する.このとき,胎児をひっぱってはいけない.娩出力は産婦の腹圧と陣痛にたより,こっちは回転力をつけてやるだけにする.分娩外傷のない,大変スムースな骨盤位娩出術となる.

連載 産科外来超音波診断・9

—妊婦健診でのスクリーニング—胎児頸部の異常:嚢胞状リンパ管腫(cystic hygroma)

著者: 伊原由幸 ,   清水卓

ページ範囲:P.645 - P.650

 妊婦外来での超音波スクリーニング—胎児発育遅延,羊水過少,奇形に注意する.発育遅延,羊水過少は胎児の異常の重要なサインである.
 産科領域に超音波断層法が取り入れられるようになり,それまではブラックボックスであった子宮内の胎児に関して得られる情報量が飛躍的に増大している.これによって胎児管理の質が著しく向上してきており,さらに従来は救命できなかったような胎児異常について胎児治療の可能性も広がりつつある.まさしく胎児を一人の患者として,治療対象として(fetus as a patient)捉えうる時代になってきている.当然われわれ産婦人科医にも胎児異常に対してより迅速かつ適切な対応が要求されるようになってきている.現在,胎児管理の方法としては,

原著

十代の若年女性にみられる月経周期異常に対する臨床検討と漢方薬による治療—虚証例への随証療法の成績

著者: 後山尚久 ,   坪倉省吾 ,   池田篤 ,   植木実 ,   杉本修

ページ範囲:P.651 - P.655

 十代の月経周期異常36例に対し,その発症に関わる要因の分析と漢方薬による治療成績から,若年女性への漢方療法の臨床的有用性について検討した,月経周期異常で最も頻度の高いのは第2度無月経例であり,全体の過半数(55.6%)を占めた.発症要因として,要因不明が47.2%にみられたが,体重減少を伴ったものが38.9%,心理的ストレスの存在が25.0%に観察された.
 全症例に対し,随証療法による漢方治療を行った.温経湯,当帰芍薬散,あるいは芍薬甘草湯の投与により,有意の下垂体性ゴナドトロピン分泌増加(FSH;86.1%,LH;69.4%),およびエストラジオール分泌増加(77.8%),さらに比較的高い排卵成績(66.7%)が得られ,副作用は認められなかった.これらから,体重減少やストレスなどによる第2度無月経症が多くみられる十代の月経周期異常の治療法のひとつとしての漢方療法の臨床的有用性は非常に高いと考えられる.

内視鏡的超音波断層法による卵巣癌直腸浸潤診断に関する病理組織学的検討

著者: 寺内文敏 ,   豊岡理恵子 ,   田邊勝男 ,   大熊永子 ,   天明麻子 ,   寺内博美 ,   小倉久男

ページ範囲:P.657 - P.661

 卵巣癌が直腸に浸潤性転移をきたしていても,術後化学療法の効果が期待できることより,直腸合併切除術を施行する例が増えてきている.しかし,その診断法に関しては直腸粘膜面まで達する浸潤例以外,すなわち直腸壁内に浸潤が留まる例に関しては,正確で鋭敏な診断法は存在しなかった.不必要な合併切除を避けるために,われわれは消化器癌深達度診断に用いられている内視鏡的超音波断層法を経直腸的に施行し,直腸壁外病変である卵巣癌および骨盤内再発卵巣癌の直腸浸潤を診断評価し,診断精度に関して病理組織学的に検討した.卵巣癌および骨盤内再発卵巣癌計15例を対象とした,3例が病理組織学的に直腸浸潤が証明され,内視鏡的超音波断層法の正診率は75%であった.病理組織学的にも診断精度の高さが証明され,卵巣癌直腸浸潤診断に有用であると考える.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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