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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻7号

1995年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 婦人科癌の免疫療法

1.Editorialにかえて—現況と展望

著者: 田中憲一

ページ範囲:P.798 - P.804

 生体は外界からの侵入物はもとより,生体内に生じた,腫瘍細胞やウイルス感染細胞などの異物に対してもそれを処理し,排除しようとする生物学的応答力を有している.この応答力はいわゆる免疫応答で説明され,がんの免疫療法として発展し,非特異的免疫賦活剤,サイトカインの登場となった.
 1970年代に登場した腫瘍免疫はヒトがん細胞排除に働く細胞傷害性T細胞,NK細胞などのエフェクター細胞の存在と機能を明らかにし,さらに最近の遺伝子工学の進歩は,これらエフェクター細胞の産生するサイトカインの大量産生を可能にし,これらのサイトカインを用いて,宿主の免疫反応性を活性化することでがん治療効果をたかめようとする試みが生まれてきた.他方,ヒトのがん細胞抗原に対するモノクローナル抗体の作成は,がん細胞と正常細胞の選択をもたらすものと期待され,この抗体に抗がん剤あるいは細胞毒を結合させるミサイル療法が発展した.

癌と免疫—基礎知識

2.癌と宿主—免疫監視機構

著者: 仙道富士郎

ページ範囲:P.806 - P.809

 癌と宿主の問題は二つの異なった視点から論じられるべきである.すなわち,発癌過程を宿主の生体防御が修飾し得るかという問題と,発生してしまった癌に生体はどのように反応するかという両者の問いに対して解答を与えなければならない.前者の問題提起はすぐれて理論的課題である.というのは,その当否に関してin vitroの検証系を持たないからである.これは,化学発癌やウイルス発癌の研究と著しく事情を異にする点である.しかし,この事情は発癌と生体応答の関連に関する研究の重要性をいささかも損なうものではない.この問題に対する基本的な了解がなければ,第二の問題,すなわち発生してしまった癌に対する生体応答についての研究のための視点を設定し得ないからである.本項においては,発癌に対する生体の反応に関する従来の考え方を紹介し,現時点でそれをどのように把握し直したらいいか,これまでに得られた免疫学的新事実に根拠をおいて考えてみたい.

3.癌の進展に伴う免疫能の変化

著者: 藤原大美

ページ範囲:P.810 - P.814

 生体を構成している細胞が,生体防御,炎症反応を起こし生命現象を維持していくために,サイトカインは重要な役割を担っている.サイトカインは単一なものでも多種多様の生理活性を有している.また,同じ物質が多種類の細胞から産生され,標的細胞も多彩であることが明らかになっており,生体中で複雑なネットワークを構築している.このネットワークはサイトカインの多様性のために,正常個体においてさえ,その全容が明らかとなっていない.さらに担癌宿主においてはサイトカインネットワークに異常が生じ,その結果免疫抑制機構が作動し,この免疫抑制の一環として抗腫瘍免疫応答が抑制されてゆく.今回,担癌宿主では癌の進展に伴い,どのような機構で抗腫瘍免疫応答が抑制されてゆくかについて概説してみたい.

4.エフェクター細胞の作用機序

著者: 大野正文 ,   半藤保

ページ範囲:P.816 - P.822

 がん細胞に対して障害性に働く細胞集団はエフェクター細胞(効果細胞)と総称される(表1).種々の機構でがん細胞を障害しうる(キラー)活性を有するTリンパ球,ナチュラルキラー細胞,リンフォカイン活性化キラー細胞,マクロファージのがん細胞認識機構・障害機序について概説する.

5.腫瘍関連抗原の有用性

著者: 加藤紘

ページ範囲:P.824 - P.827

腫瘍関連抗原と腫瘍特異性
 悪性腫瘍が異物であれば,ヒトの免疫反応で識別され拒絶されると言われる.もっともヒトはその始まりから卵と精子の異系細胞の結合である.胎児を維持する生殖免疫の詳細は不明であっても,少なくとも必要であれば異物を包容する度量がヒトにはあり,異物に対する基準も絶対的なものではないように思われる.この弱点を巧みに突いて癌細胞が現実に生存しており,かりに悪性細胞で腫瘍特異抗原を発現しても,宿主がそれに対して免疫反応を起こすとは限らないとさえ考えられる.このことを念頭に置きながら,なお悪性細胞の特徴を探索する,その生化学的なアプローチが腫瘍特異抗原の探索である.確かに腫瘍関連抗原は診断法として出発したが,それは悪性腫瘍の特徴の探索にも通じる.
 残念ながら悪性腫瘍に特異的な物質は発見されていない.主な理由は悪性細胞が巧みに生理的な現象を利用して生存しているからであり,増殖にしても浸潤・転移にしても,局所で見られる個々の現象は正常組織における生理現象の応用であることが多い.癌細胞と正常細胞の違いは,個々の現象よりそれを必要とする目的の違いではないかと想像しているが,それを証明する手段はわからない.

6.癌遺伝子産物と免疫

著者: 京哲 ,   井上正樹

ページ範囲:P.828 - P.833

 ヒトの癌は遺伝子の病気である.いわゆる癌遺伝子は細胞の増殖や情報伝達を司る正常の遺伝子(プロト癌遺伝子)が過剰発現や構造異常によって活性化されたものである.また細胞周期を制御している遺伝子に機能障害(不活化)が生ずると,細胞周期が乱れ,癌化が促進されることから,このような遺伝子は癌抑制遺伝子と呼ばれる.この2つの遺伝子群の異常が発癌に大きく関与している.これらは自己の遺伝子産物であるにもかかわらず,異常発現のために非自己として免疫系に認識され,排除機構として免疫反応が惹起される可能性が考えられる.近年これを癌の免疫療法に利用しようとさまざまな研究が進められている.本稿では癌遺伝子,癌抑制遺伝子産物に対する免疫誘導の研究の現状について解説するとともに,新しい癌治療法としての今後の展望についても触れる.

免疫療法の実際

7.子宮頸癌

著者: 関谷宗英

ページ範囲:P.834 - P.835

 癌の免疫原性およびT細胞の応答が十分解明されていない現在,活動的特異的免疫療法(例えばワクチン)や受動免疫療法(例えばモノクローナル抗体)の臨床応用は将来の課題として残されている.最近の免疫療法戦略には,①活動的非特異的免疫療法(例えばサイトカイン),②養子免疫療法(例えばリンフォカイン活性化キラーLAK細胞や癌浸潤リンパ球TILなど),③抗癌剤との併用による化学免疫療法,などがあり,一部の癌で効果がみられている.
 子宮頸癌の治療法はすでに確立されており,他の癌と同様に免疫療法は実用化していない.従来から進行癌や放射線治療後に免疫賦活剤(例えばOK432,クレスチン,シゾフィランなど)が用いられてきたが,延命効果やQOLは統計学的に有意に改善していない現状である.

8.子宮体癌の免疫療法

著者: 結城道広 ,   佐藤信二

ページ範囲:P.836 - P.837

 癌に対する主な治療法としては,手術療法,化学療法,放射線療法などがあるが,第4の治療法として,免疫療法がある.この免疫療法とは,宿主の腫瘍に対する抵抗力を高めることによりこれを排除しようとするものである.今日ではBRM(biological response modifiers生物反応修飾物質)療法をはじめ,温熱療法や化学療法の副作用としての骨髄抑制に対する造血因子療法など多方面に展開されており,一括して生物療法biother—apyと呼ばれることもある.
 ここでは,子宮体癌の免疫療法について考えてみる.

9.卵巣癌

著者: 金澤浩二

ページ範囲:P.838 - P.840

 抗癌剤シスプラチンの臨床応用は,卵巣癌の治療にめざましい進歩をもたらしたといえる.しかし,冷静に考えてみると,患者の延命率の改善はみられるが,最終的な治癒率が明確に向上したとはいえない.卵巣癌の治療は,今,再び,停滞状況にあるといえよう.
 本稿では,卵巣癌治療における免疫療法の意義と実際について,文献的に概説する.

10.免疫賦活剤の使い方 1—ソニフィラン/OK432

著者: 清水敬生

ページ範囲:P.842 - P.845

●はじめに
 免疫製剤(biological response modifiers,BRMs)は種々の方法により分類されるが,著者は以前より,抗原性の強弱による分類法を提唱している1).表1に示すごとく,抗原性の強弱により誘導される免疫応答に特徴があるからである.そして,そのことが臨床応用する際のポイントになる.

11.免疫賦活剤の使い方 2—ソニフィラン

著者: 長谷川和男

ページ範囲:P.847 - P.851

 Biological Response Modifier(BRM)による免疫療法は,宿主の腫瘍に対する抵抗性を増強することにより,間接的に抗腫瘍効果をねらった治療法で,一面においては癌治療における重要な役割を担っている.そこで本稿では子宮頸癌に有効性が認められている免疫賦活剤ソニフィラン(SPG)の実地臨床上における使用方法について概説する.

免疫療法の展望

12.婦人科癌に対するサイトカイン療法

著者: 梅咲直彦

ページ範囲:P.852 - P.858

●はじめに
 癌の治療法として手術療法,放射線療法,化学療法,そして免疫療法が上げられる.
 免疫療法は副作用も少なく,また抗癌剤と異なり細胞周期とは無関係に細胞に傷害を与えることが推察されるため,おおいに期待されてきた.しかし残念ながら現在のところ大きな効果を発揮しておらず,癌の第4の治療法にとどまっている.

13.養子免疫療法

著者: 青木陽一

ページ範囲:P.860 - P.863

 癌の治療に生体の免疫力を利用しようとする免疫療法は,現在その基礎的検討と同時に臨床的検討も期待を持って進められている.養子免疫療法とは免疫応答の主役であるリンパ球をin vitroで処理することにより,エフェクター細胞にまで分化させ担癌患者に戻すという受動免疫療法である.本稿では養子免疫療法の歴史的背景,現在の問題点さらに今後の展望についてふれてみたい.

14.ミサイル療法

著者: 山口俊晴 ,   高橋俊雄

ページ範囲:P.864 - P.867

はじめに—ミサイル療法とは
 癌細胞だけに選択的に毒性を発揮する薬剤があれば,癌の治療はきわめて簡単なものになるにちがいない.しかし,現実にわれわれが使用している抗癌剤のほとんどは,造血器や消化管粘膜を始めとした正常組織にも強い毒性を発揮する.感染症に対して使用される抗生物質は,細菌に対して選択的に毒性を発揮するために,全身投与によって容易に治療が可能であるが,抗癌剤などは少しでもさじ加減を誤るととんでもない結果を招くことになる.
 そこで,最近は薬剤を希望する場所に選択的に到達させようとする試みが盛んになってきている.このような試みは,DDS(Drug DeliverySystem:薬物送達系)と称されて学会もすでに発足し,広い分野の研究者が参加している.DDS開発の目的は大きく,薬剤の徐放性(放出のコントロール)と,目的とする部位への薬剤ターゲッティングに分けられる.このDDSは臓器レベル,組織レベル,細胞レベル,そして最近は分子レベルで検討されている.選択的に薬剤を到達させるという意味では,選択的動注化学療法が臓器レベルのDDSとして,すでに広く臨床応用されている.また,癌組織の特性に着目し,SMANCSなどの抗癌剤をリピオドールに懸濁して投与するのは,組織レベルのDDSである.そして,これから紹介する抗体を抗癌剤のキャリアとする,ミサイル癌化学療法は細胞レベルから分子レベルのDDSといえる.

15.遺伝子導入療法

著者: 加藤聖子 ,   和気徳夫

ページ範囲:P.868 - P.870

 近年,分子生物学の進歩により数多くの疾患の原因遺伝子が同定,単離され,疾患と病因となる遺伝子の関係が明らかになってきた.その結果変異遺伝子を標的とした遺伝子治療の可能性が考えられるようになり,長年にわたり米国を中心に技術的,倫理的問題が検討されてきた.1990年に4歳のADA欠損症の女児に対し,外来性ADA遺伝子を発現させた患者自身のT細胞を患者に戻すという合意の得られた遺伝子治療の第1例目がNIHで行われて以来,NIHでは50種以上の遺伝子治療,遺伝子標識プロトコールが,Recom—binant DNA Advisory Committee(RAC)により承認され,現在までに先天性免疫不全症,家族性高コレステロール血症,嚢胞性線維症,悪性腫瘍,AIDSなどに遺伝子治療が行われている.わが国でも1993年4月に厚生省の遺伝子治療に関するガイドラインが公開され,さらに翌年2月には文部省のガイドラインも公開され,厚生省遺伝子治療臨床応用評価委員会が設立されるなどその臨床応用へ向けた準備が進められている.1995年2月,文部省審議会の遺伝子治療臨床研究専門委員会は,北海道大学より申請されていたADA欠損症の4歳男児に対する遺伝子治療を承認した.厚生省の審査会議でも承認され,日本で最初の遺伝子治療が行われる可能性がでてきた.本稿では,遺伝子治療についてその方法論ならびに癌治療(とくに免疫療法)の分野での現況について解説する.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・4

炎症

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.796 - P.797

 慢性の炎症が存在すると,扁平上皮基底膜直下の毛細血管網から上皮側に向かってヘアーピン様の突出血管が認められるようになる.図1は慢性のトリコモナス腟炎症例のコルポスコピー所見である.均等かつびまん性に分布した赤点が多数認められる.同じ症例の血管構築像を図2,3に示した.毛細血管網から上皮側に多数の血管が突出し,ヘアーピン様にあるいは多少のねじれをともないながら再び毛細血管網にUターンしているのが観察される.各突出血管間の距離も50〜150μとほぼ均一に分布している.コルポスコピーではこのヘアーピン様血管の先端部を赤点として把えているわけである.これら突出血管の先端部を拡大したのが図4,5である.直径約10μの毛細血管が最表層部でUターンし,ヘアーピン様形態をとっているのがよくわかる(図4).その表層部直径は20〜30μとほぼ均等である.他の部位の拡大では表層部で上下にうねりながら迂回している像も認められる(図5).いずれの形態にせよ,炎症において出現する上皮側の突出血管は1本1本が独立して整然とした形態で突出し,しかも,規則性を持って配列しているのが特徴であり,後述するNeoplastic changeに出現する突出血管が束になり,先端部では集塊を形成し,その大きさ,分布,配列,走行に不整を認める点で明らかに異なっている.

Q&A

子宮収縮抑制剤塩酸リトドリンの副作用

著者: 武久徹

ページ範囲:P.871 - P.874

 Q 最近,子宮収縮抑制剤塩酸リトドリンの副作用として無顆粒球症が報告されていますが,塩酸リトドリンの副作用を教えて下さい(兵庫SH生).
 A 全分娩の7〜10%は早期産で新生児死亡や罹患の大きな原図となっています.米国では早期産に関係する医療費として毎年20億ドルが費やされています.早期産を防げれば,新生児死亡や罹患率を減少させると同時に,医療費の削減につながります(JAMA 273:413,1995).

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

我々の行っている腟式子宮全摘術の工夫—照明,特殊手術器具,腟断端部処理

著者: 桑原惣隆

ページ範囲:P.876 - P.876

 腟式子宮全摘術は適応と条件が整えば侵襲の程度,出血量は腹式に比較して少なく,術後回復も早いので推奨される術式である.われわれの行っている本術式の要点は次のごとくである.

子宮筋腫核出術時の生理的組織接着剤と合成吸収性癒着防止材の使用

著者: 菅沼信彦

ページ範囲:P.877 - P.877

 子宮筋腫核出術は,未婚や挙児希望を有する女性に対し,あるいは不妊症・不育症婦人の治療として施行される.そのため妊孕力の温存および改善が重要な点であり,術前から術後管理に至るまで種々の工夫が必要となる1).すなわち,正常子宮への創傷を最小限に押さえるため,GnRHa製剤により筋腫核を縮小をさせておくこと,また超音波断層検査,子宮卵管造影,子宮鏡を用い,筋腫の位置・数・大きさを正確に把握すること,などが術前のポイントである.術後には,感染予防と止血,内膜増殖のための卵胞ホルモン・黄体ホルモン投与,子宮腔内バルーン・カテーテルの留置,さらに早期の妊娠指導を行っている.
 手術手技自身にも各種の注意点があるが1),術後の腹腔内癒着防止をはかることは,妊孕力の保持および改善に必須であり,手術操作により子宮機能が損傷されることがあっては,子宮保存手術の目的に相反するものとなる.我々は癒着防止のために,以下の操作を行っている.

連載 産科外来超音波診断・10

妊婦健診でのスクリーニング胎児頸部の異常(2):nuchal fold thickening-Down症の超音波断層法によるスクリーニング

著者: 伊原由幸 ,   清水卓

ページ範囲:P.879 - P.883

はじめに—Down症のスクリーニングの方法
 近年女性の高学歴化や社会進出にともない女性の結婚や妊娠の年齢が上昇する傾向にある.妊娠の高齢化に伴う問題点として母体側では妊娠中毒症のような合併症や帝王切開の増加があり,胎児側ではDown症を中心とする先天異常の発生率の増加が挙げられる1)
 Down症の発生頻度は母体年齢が35歳頃から増加し始め40歳以上では20歳台の10倍以上に増加する.したがって(最終的には本人が決定することであるが)35歳以上の妊婦や過去に染色体異常児を分娩した既往のあるようなハイリスク妊婦は胎児の染色体分析を受けることが望ましい(方法としては羊水穿刺が中心となり妊娠15週頃から可能である.妊娠初期に絨毛採取(CVS)を行えばより早期の染色体分析が可能であるが,手技の特殊性や安全性から考えてまだ一般的な方法とは言えない).

原著

前腟壁弛緩に対する腟式傍腟壁形成術

著者: 下浦久芳

ページ範囲:P.885 - P.890

 尿道膀胱脱など前腟壁弛緩の発症に傍腟壁支持の異常が原因となっていることがあり,その修復に支持の復元を目標とする傍腟壁形成術がある.1990年10月より傍腟壁支持異常による前腟壁弛緩の他に腹圧性尿失禁や各種脱を合併する25例に,各種脱に対する修復術とともに当術式を腟式に行い,その後1年以上にわたって24例の経過を観察した.術中並びに術直後に出血,下部尿路損傷や瘻孔など有意の合併症はなく,1例の腹圧性尿失禁の再発を除いて結果は良好であった.
 腟式傍腟壁形成術は従来からの前腟壁形成術に比べ手技がやや複雑であるが,傍腟壁支持異常による前腟壁弛緩に対して合理的かつ効果的な修復術式ということができる.また当術式は恥頸筋膜縫縮術を含め腟式の各種脱修復術と共に同時に同一視野で行うことができるので有用である.

症例

双胎妊娠の管理における臍帯動脈血流速度波形の意義

著者: 田中雄一郎 ,   吉松淳 ,   穴井孝信 ,   ,   宮川勇生

ページ範囲:P.891 - P.894

 1絨毛膜性双胎でTTTSを発症した1例,および発症しなかった1例の臍帯動脈血流動態を超音波パルスドップラー法にて比較検討した.
 TTTSを発症した症例は,妊娠24週で著明な胎児の体重差,第Ⅰ児の胎児水腫,第Ⅱ児のIUGRを認めた.超音波パルスドップラー法を用いた臍帯動脈血流速度波形において第Ⅰ児(受血児)の血管抵抗の低下(RI0.57),第Ⅱ児(供血児)の拡張末期血流途絶を認め,妊娠28週で帝王切開分娩(第Ⅰ児:1,624g.第Ⅱ児:822g)となった,一方,TTTSを発症しなかった症例は,妊娠28週で入院となりdiscordant twinを認めた.第Ⅰ児,第Ⅱ児のRIはそれぞれ妊娠28週で0.73,0.77,妊娠37週で0.61,0.66といくらかの差が見られたがTTTSの所見は認めなかった.妊娠39週,経腟分娩(第Ⅰ児:2,788g,第Ⅱ児:2,150g)となった.

卵巣線維肉腫の1例

著者: 伏木弘 ,   藤村正樹 ,   泉陸一 ,   加藤潔

ページ範囲:P.895 - P.899

 卵巣線維肉腫はまれな疾患であり,われわれが知り得る文献上より,国外で17例,本邦で4例のみである.好発年齢は40歳以後で,有効な治療法は確立されておらず,予後は非常に不良とされている.今回,われわれは17歳の若年者に発症した卵巣線維肉腫の症例を経験したので報告する.主訴は下腹部痛で,超音波断層法やCTにて充実性卵巣腫瘍を示し,腫瘍マーカーはCA125,CA72-4が陽性であった.FIGO Stageが1a期であり年齢を考慮して左付属器摘除術を施行し,DTIC,VP—16,5—FUによる全身補助化学療法を7クール行った.7か月後にSecond look operationを施行したが再発所見なく,現在術後51か月経過するも健在である.摘出物の病理組織学的検索では,細胞密度がきわめて高い部位と浮腫状で細胞密度の低い部位がみられ,腫瘍細胞は紡錘型や卵円形で,大小不同の円形や楕円形あるいは多形の異型核をもち,核分裂像数は16個/10高倍率視野(HPF)が観察された.さらに特殊染色,免疫組織染色あるいはフローサイトメトリーによる細胞動態の解析などを行った.

前置血管(vasa previa)を合併した副胎盤の1例

著者: 星原孝幸 ,   前出貴美子 ,   松尾勇

ページ範囲:P.901 - P.905

 副胎盤自体はそれほどめずらしくない胎盤の異常であり.臨床的に問題となることは少ない.しかし,時として前置血管(vasa previa),胎盤遺残,前置胎盤など母体や胎児にとって危険な状態を呈する.今回われわれは前置血管を伴った副胎盤と分娩前に診断した症例を経験した.症例は,42歳の4回経妊,3回経産婦で,妊娠26週時に腹痛を伴わない性器出血を認め,経腟超音波検査で前置胎盤と診断したものの,その後のカラードップラー検査を含む超音波検査で前置血管を伴った副胎盤と診断した.妊娠34週で子宮収縮の抑制が困難となり,緊急腹式帝王切開術を行い生児を得ることができた.また帝切時に,内子宮口をまたがって胎盤主要部と副胎盤があることを確認した.この症例のように,副胎盤がある場合,前置胎盤様の出血を起こすことがあるが,その診断に経腟超音波検査が有用であった.さらに前置血管の診断にはとくにカラードップラー検査が有用であった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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