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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 体外受精マニュアル—新しく始める人へのアドバイス

巻頭言

著者: 坂元正一

ページ範囲:P.919 - P.921

 「体外受精マニュアル—新しく始める人へのアドバイス」が出される時代になったかとの思いが強い.Edwards博士がヒト受精卵が64個にも体外での分裂に成功したことを国際不妊学会(IFFS)で発表したのが東京大会(1971年)で,本誌の顧問であった故長谷川敏雄教授が会長であったこともあり,先日のように思い出される.FIGO世界大会の前年1978年7月には,Steptoe博士は彼と組んで,2年の不妊症治療の間に卵管を切除してしまったレズリー・ブラウン夫人に体外受精による世界最初の試験管ベビー,マリー・ルイーズちゃんを抱きあげる幸福を与えたのであった.東京でも花形だったが,翌年IFFS理事会をカナリヤ諸島で開催した時プールサイドでいろいろの裏話に華が咲いた.
 その時彼の貸してくれた海水パンツは私の洋服ダンスの肥しになっている.その後あまり日の経たぬうちに彼の夫人が,そして彼が軽度の半身不髄となり,ステッキをつき互いに支え合いながら,ダブリンの不妊学会場で静かに踊っていた姿が目に浮かぶ.メインテーブルで生命操作の可否がささやかれていた.体外受精の火は燎原の火のごとく世界中に広がり,先陣争いの感さえあったのは事実である.卵や精子,受精現象,着床現象にまだまだ不明の所があると思った私は,教室では,生殖生理の,その部分をやることの方が大事だと考え,在任中体外受精は禁止した.

Overview

1.体外受精の歩み

著者: 鈴木秋悦

ページ範囲:P.923 - P.927

●はじめに
 不妊症の頻度は,結婚している正常な夫婦の約10%といわれている.この不妊症罹患率は,過去10数年変わることがないと考えられてきたが,最近の女性のライフスタイルの変化に伴って,この数字の算定は難しくなっている.
 従来,結婚して2年以内に,夫婦の約90%が児に恵まれることから,不妊症の定義は,結婚後2年間の不妊ということになっているが,結婚前からの同居生活の経験から,結婚直後に,不妊を主訴として外来を受診する夫婦も多く,不妊期間から不妊症を定義することの意義を再考する必要があると思われる.

2.体外受精と生殖生理

著者: 根上晃 ,   吉田好雄 ,   富永敏朗

ページ範囲:P.929 - P.936

●はじめに
 不妊症の最終目的である妊娠・分娩に至るまでには多くの問題点が残されている.体外受精・胚移植法では卵胞発育,排卵,精子形成・採取以後の,受精(媒精),体外培養,胚発育,胚移植,着床といった,本来自然では体内で行われる過程の多くを体外で行う.このため,その成功率は主に施設の規模やスタッフの技量によるところが多い.多くの施設の成績の検討から,卵巣刺激,卵採取や受精率は一定の水準に達しているものと思われ,今後の検討の余地は胚移植以後の子宮内の胚発育や子宮内膜の着床期の状態把握・評価にあるものと思われる.本稿では体外受精と生殖生理の問題点を着床の成立に焦点をしぼり考察を加えてみたい.

体外受精の準備 1.日産婦学会への登録手続きと報告

日産婦学会への登録手続きと報告

著者: 斉藤英和

ページ範囲:P.937 - P.941

 日本では1983年に東北大学で初めて体外受精・胚移植の成功が報告されて以来,この領域はここ10年の間に著しく進歩し,多くの施設で日常診療に用いられるようになった.
 この関連の治療法には体外受精・胚移植をはじめ配偶子卵管内移植,胚卵管内移植,胚・卵の凍結保存,顕微授精などがあり,この生殖補助技術は不妊症治療になくてはならない治療法となってきている.日本産科婦人科学会は体外受精・胚移植法などの治療法が不妊症の治療として安全に広く臨床応用されるために数回の会告を産科婦人科学会雑誌に掲載してきた.この領域は人の生命を扱う領域であり,この領域に携わる者はつねにすべての操作に細心の注意を払うと共に疑問が生じた際にはつねに,この学会の会告や解説を参照し,各施設の倫理委員会を開催したり,学会に問い合わせすることがたいせつである.

2.症例と適応

1)原因不明(抗精子抗体含む)

著者: 鎌田正晴 ,   石川ひろみ ,   青野敏博

ページ範囲:P.943 - P.947

●はじめに
 徳島大学では,不妊期間が3年以上で,一般的不妊治療を2〜3年間行っても妊娠に至らない原因不明不妊症を体外受精・胚移植法(IVF-ET)の相対的適応の一つとしている.この中には抗精子抗体による免疫性不妊症が含まれているが,最近,抗精子抗体陽性の免疫性不妊婦人とその他の原因不明不妊とではIVF-ETによる治療成績がかなり異なることがわかってきた.本稿では,IVF-ETの治療成績を中心に,当科における原因不明不妊症の取り扱いを述べる.

2)子宮内膜症

著者: 戸澤秀夫 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.949 - P.952

●はじめに
 子宮内膜症は不妊症の主要な原因の一つであるが,その発生機序のみならず,不妊症にどのようにして関わっているかについてもいまだ不明な点が多い.
 最近これまでの治療法に対する再評価が行われたり,新しい治療薬や,腹腔鏡下手術という新しい治療技術が導入されて,子宮内膜症とそれに関連する不妊症の治療は新たな局面を迎えている.

3)高齢女性

著者: 宮城博子 ,   神山茂 ,   照屋陽子 ,   金澤浩二

ページ範囲:P.955 - P.957

●はじめに
 女性の妊孕力は加齢とともに低下するため,年齢は不妊症の治療成績を左右する重要な因子となる.卵巣機能は30歳を境に加速度的に低下するといわれているが,妊孕性の低下には,この他に,妊孕の場となる卵管,子宮の機能を含む多くの因子が関与していると推察される.
 本稿では,年齢による妊孕性の変化について,当教室で1988年1月〜1994年12月の期間に施行されたIVF-ETの成績から解説したい.

4)男性不妊

著者: 中野英之 ,   久保春海 ,   三浦一陽

ページ範囲:P.959 - P.964

●はじめに
 体外受精・胚移植法(IVF-ET)が世界で初めて成功して以来,約17年の月日がたとうとしている.その間の技術進歩は目覚ましく,今日ではIVF-ETは比較的容易に施行できるようになってきた.このため女性因子による不妊は飛躍的に妊娠率が上昇したが,男性不妊が原因であるカップルの割合が相対的に増加しつつあるのが現状である.
 本稿では,男性不妊の診断,治療を中心に述べ,精子調整法,精巣上体,顕微授精については他稿に譲る.

3.プログラム

1)入院方式

著者: 小田高久 ,   郡山智 ,   吉田丈児

ページ範囲:P.965 - P.968

●はじめに
 体外受精・胚移植(in vitro fertilization andembryo transfer, IVF-ET)の臨床応用が開始された当初は,すべての採卵手術が腹腔鏡下に行われたため,入院が不可欠であった.その後,経腟超音波採卵の導入により,採卵時の患者の負担が大幅に軽減され,さらに少ない人員と狭いスペースで短時間に採卵が可能となった.これに伴い,入院を必要としないIVF-ETの外来方式プログラムが急速に普及した.しかし採卵手術時の血管損傷による出血,腸管損傷,感染,さらには採卵後の卵巣過剰刺激症候群などのリスクを完全に回避することはできない.このような合併症の予防および早期の診断と対応が,入院方式プログラムの最大の長所である.
 IVF-ETの入院方式プログラムといっても卵巣刺激などの多くの部分は外来で行う.入院の期間は,採卵手術のみ(1〜2日間入院)からhCG投与から胚移植までのもの(5〜6日間入院)までさまざまであり,その施設の事情により選択される.以下にわれわれの病院で実施しているIVF—ETのプログラムについて解説する.

2)外来方式

著者: 井上正人

ページ範囲:P.969 - P.971

●はじめに
 体外受精・胚移植(IVF-ET)における最近の進歩は何と言っても手技の簡便化である.超音波を用いた経腟採卵法の開発により,煩雑な腹腔鏡下採卵はもはや過去のものになった.また,GnRHアナログを加味した卵巣刺激法により,卵胞発育のモニタリングも大幅に簡素化された.Pre—mature LH surgeの心配はなくなり,入院して経時的にLHを測定する必要もなくなった1).HMGの注射開始日を調節することによって,休診日を避けて採卵することも十分可能である.IVF-ETは名実ともに外来レベルの診療になったといえよう.われわれは1988年6月より,IVF-ETはすべて外来ベースで行っている.

4.ラボラトリー

1)不妊クリニック

著者: 臼井彰 ,   安部裕司 ,   久保春海

ページ範囲:P.973 - P.977

 体外受精による出生児の報告以来17年が経過し,その治療法の進歩は不妊患者への福音となっている.今回,当クリニックの現状について体外受精に必要な最小限の設備,器具,備品等を中心に述べてみた.

2)不妊クリニック

著者: 原利夫

ページ範囲:P.979 - P.985

●はじめに
 1960年代後半より鈴木(慶應大学),林(東邦大学)らは,体外受精の基礎となる研究成果を国内外に多く発表してきた.しかし,往時,国内では,体外受精に対する関心は高くなく,国内での研究,臨床実験に対する議論の高まりは,ルイーズ・ブラウン嬢の誕生を待たねばならなかった.1978年,ルイーズ・ブラウン嬢の誕生と同時に国内各大学はその基礎的研究を発展すべく、イギリス,西ドイツ,オーストラリア,アメリカへと共同研究者を送った.彼ら研究者の帰国ととも本邦における本格的な体外受精の臨床応用が始まった.各施設,大学病院のシステムは,海外における研修先機関,実施施設の流れを継承しており,設備,器具,チャート表も含め同じように開始された.初期の体外受精施設には関連病院からの研修医が多く集まり,自らの施設で同じようなシステムのもと国内各地で体外受精が産声をあげた.
 しかし,体外受精実施にあたり当時の大きな問題点として,全身麻酔(硬膜外麻酔)による腹腔鏡採卵,および培養液作成のための管理の問題があった.この2点が開業医レベルでの体外受精の臨床応用を大きく阻止していた.しかし,この壁を打ち破ったのが,経腟超音波採卵と市販培養液であった.多くの研究者は超音波の進歩が開業医における外来体外受精を可能にしたと,賛辞を送るが個人的には市販培養液に軍配を上げたい.

3)公立病院の体外受精

著者: 佐久本哲郎 ,   中山美奈子 ,   大城貴子

ページ範囲:P.987 - P.990

1 ラボラトリーの設計ならびに環境
 体外受精・胚移植(IVF-ET)による治療を行うにあたっては,ラボラトリー(卵培養室ならびにその付属室)の設計および環境に細心の注意をはらうことが重要なことである.ラボラトリーの良し悪しがIVF-ETの成績を左右すると言っても過言ではない.設計にあたっては,採卵手術室と卵培養室がより近接しているのがよい.われわれの施設においては採卵手術を分娩室で行い,そのすぐ側に卵培養室を設置している.そのため体外に取り出された卵が培養器に入れられるまでに短時間ですむので,卵への影響をより最小限にとどめることが可能である.また胚移植も同じ採卵手術台で行うので,移植に際して培養器から患者までの距離を最短にできる.さらに採卵術者と卵観察者が直接会話や視覚での確認が可能である利点がある.
 卵培養室はできるかぎり清潔な環境にすることが,培養液や器具類への細菌汚染の予防につながる.無菌環境とするために,われわれの培養室は空気清浄フィルターを通した空気の陽圧下にある.さらに温度を一定に保つための工夫もしている.これは培養器内の温度が室温により変化させられることがあるからである.

4)大学病院の体外受精

著者: 関守利 ,   竹内巧 ,   中村秀夫

ページ範囲:P.991 - P.996

●はじめに
 体外受精・胚移植で安定した成績を収めるためにラボラトリーの果たす役割は非常に重要である.以下当科のラボラトリー現況を報告する.
 当科の培養室は空気清浄装置が付いており(図1),手術室並の清浄度で夜間はUVライトを点灯して殺菌を図っている.また,室温も一定に保つことが可能である(図2).

5)大学病院の体外受精

著者: 神野正雄 ,   吉村泰典 ,   中村幸雄

ページ範囲:P.997 - P.1002

●はじめに
 体外受精は,卵巣刺激から採卵・ラボワークそして胚移植に至る一連の操作がすべて至適に遂行されたときに,高い妊娠率を得ることができる.そのためには,十分に吟味された設備・器具をつねに良好な状態に維持し,熟練した医師およびembryologistが細心の注意を払って行うことが不可欠である.本稿では,体外受精ラボラトリーの準備・管理について述べることとする.

5.ラボラトリー運用の実際

1)培養液の調整と保存

著者: 坂本秀一 ,   久保田俊郎 ,   黒沢美穂子 ,   清水康史 ,   麻生武志

ページ範囲:P.1003 - P.1008

●はじめに
 体外受精・胚移植において,培養液は卵子・精子・受精卵・胚に直接影響するため,そのqualityは治療成績を左右する大きな因子であり,調整・保存には十分な注意を払う必要がある.本稿では培養液の調整・保存の実際について,その概略をわれわれの方法を紹介しながら述べてみたい.

2)市販培養液(キットなど)の利用

著者: 山下隆則

ページ範囲:P.1009 - P.1011

●はじめに
 ヒト体外受精・胚移植治療のための卵および受精卵培養に使用される培養液には,さまざまなものが試みられているが,いまだ十分に満足できるものは確立されていない.その中でもQuinnら1)が報告したhuman tubal fluid(以下HTF)は,現在,多くの施設で使用されている.
 HTFの組成そのものは比較的単純であるため,自家作成可能であるが,そのためには超純水の質が大きな問題となり,また培養液の滅菌法にも細かく注意をはらわなければならない.

3)実体顕微鏡と位相差顕微鏡の使い方

著者: 佐藤嘉兵

ページ範囲:P.1013 - P.1017

 IVF-ETが不妊症治療法に用いられるようになってから,改めて光学機器の重要性が見直されてきた.医学/生物学分野においては最近,共焦点光学走査型顕微鏡が積極的に取り入れられて大きな成果が得られている.通常用いられている光学顕微鏡のうち,実体顕微鏡や位相差顕微鏡は頻繁に使用するわけであるが,最近市販されている顕微鏡は各メーカーによって仕様がかなり異なっていて使いにくいこともある.日常,使用する顕微鏡を正確に使って精密な観察をすることが第一の目的であるから,正確な操作法をマスターしておくことは効率的に操作を進める上でもたいせつである.最近の機種はほとんどが自動化あるいは調節が精密化しているが,その使用法は簡単になってきている.本稿では通常の実験,検査で用いる実体顕微鏡あるいは位相差顕微鏡の使用上の注意点について述べることにする.

6.コメディカルの役割(エンブリオロジスト,ナース・カウンセラー)

コメディカルの役割(エンブリオロジスト,ナース・カウンセラー)

著者: 高橋克彦 ,   竹中真奈美 ,   吉岡千代美 ,   向田哲規

ページ範囲:P.1019 - P.1022

●はじめに
 今回の阪神大地震は日本の行政が緊急時に機能しないことをはからずも暴露したが,その原因が古来より日本の風土である縦割り社会,それから生じるセクショナリズムであることはマスコミの論評に頼るまでもない事実である.翻って,われわれの医療社会を見てもまったく同様であり,医者の縦割り社会が先端医療にいかに弊害になっているか計り知れない.医療が医師とコメディカルのチームワークで成り立つことは言うまでもないが,日本の現状はこの関係が良好とは言えず,また医療社会におけるコメディカルの人の地位も低い.これらの現状がわれわれの目ざす生殖医療にも優秀なコメディカルの人材が入って来ない最大の理由と考えている.
 海外の体外受精・胚移植(以下IVF-ET)の先進施設を見学されたことのある方はご存じであると思われるが,そのような施設には必ず優秀なエンブリオロジストと看護婦が一人はいる.当然論文なども医者よりもエンブリオロジストの方が多い.患者に説明をしたり悩みを聞いているのはナース・カウンセラーであり,彼女達を抜きにしてIVFプログラムは考えられない.

7.体外受精のQuality Control

体外受精のQuality Control

著者: 森本義晴 ,   井上剛

ページ範囲:P.1023 - P.1029

 体外受精・胚移植法が初めて行われるようになって15年になり,現在では小規模のクリニックでさえ簡単に行われるようになった.しかし,一定のレベルの成功率を維持することはなかなか困難でそのためには多くの時間と工夫を要する.成績維持の基本となるのがQuality Control(以下QC)である.体外受精プログラムは,QCに始まりQCに終わると言っても過言ではないほどにこれは重要である.当センターでも体外受精プログラムを始めて5年になり,現在では比較的水準の高いプログラムに仕上がったと自負しているが、ここまでの経路はけっして平坦ではなかった.時には,妊娠症例なしの状態が何週間も続いたことがあった.そのたびに,QCの是非を自分たち自身に問い直し,さらにチェックを重ねるという試行錯誤の連続であった.成績不振時のblack holeにはまったら,他施設の意見はあまり参考にならない.体外受精プログラムは生き物で,同じように運営されていると見えても微妙に施設施設によって内容が異なるからである.例えば,超純水の基となる原水は地域によって異なりまったく同じ条件とは言えなくなる.そこで,プログラム開始の時にできるだけ精度の高いQCの方法を確立しておき,成績不振時の緊急の際,うろたえないようにしておくことをお勧めする.

体外受精の基本操作

2.採卵法—時期,器具,手技

著者: 粟田松一郎 ,   田中温 ,   永吉基

ページ範囲:P.1059 - P.1065

●はじめに
 当院で現在行っている採卵の内容を中心に紹介する.他院ですでに検査や治療を行っていて,紹介されて来院するカップルも多く,最初から顕微授精法の適応と考えられる症例も少なくない.年齢や発育卵胞数による適応の制限はしていない.治療周期は,予約は行わずに,患者の側の都合のよい周期で行う(次回治療までは最低1〜2周期あけてもらう).不妊治療の性質上,土日・祝祭日も平常と同様の治療のできる体制をとっている.

3.精子調整法

著者: 高塚亮三

ページ範囲:P.1067 - P.1073

●はじめに
 精子の調整に際しては,受精能を有する精子をなるべく数多く集めたいと誰しも考えている.このために,これまで精子の調整法なり精子の賦活法なりが工夫されてきたし,これからもこの方面の努力は続くであろう.ところが,どのように調整された精子調整液であれ,最終的にはその中に含まれる受精能を有する精子の割合を知ることが,授精の条件を決定するためには最も大切なことである.
 そこでここでは,図1に示すような手順に従って精子の調整を行い,コンピューター支援精子解析法(CASA)で良好運動精子の含有率を算出し,媒精精子濃度を決定する方法を紹介する.良好運動精子数が不足する場合は顕微授精を行う.CASAのデータの取り扱いには精子の経歴を考慮しておく必要があるので,とくに精巣上体精子については特殊な使用法についても言及する.

4.受精の確認と受精卵の観察

著者: 西村満 ,   西垣新 ,   岡田久

ページ範囲:P.1075 - P.1079

●はじめに
 媒精操作の完了した培養皿は,通常一夜培養器の中に置かれ,翌日受精の確認を行うことになる.この段階での胚移植を行う場合もあるが,通常は,さらにもう一夜培養を追加して分割した胚を移植する.
 本稿では,媒精開始後,胚移植を行うまでの間の操作である受精の確認と受精卵の観察作業について述べるが,主に当科で施行しているタイムテーブルに従って,一般的事項を盛り込んで解説する.

5.胚移植法

著者: 吉村愼一

ページ範囲:P.1081 - P.1085

●はじめに
 イギリスにおいて,世界初の体外受精児—ルイズ・ブラウンが誕生したのは1978年であった.それまでいっさいの治療法がなく,妊娠を断念せざるを得なかった重度の卵管性不妊の患者にとって,そのニュースは大いなる福音となった.当初,卵管性不妊の治療としてスタートした本法も,適応が拡大され,男性不妊,免疫性不妊,また所詮,機能性不妊にも応用され成果を挙げつつある.適応の拡大のみならず研究が進むにつれ,卵巣刺激法や採卵法が改良され,最近では複数の良好な受精卵(胚)が得られるようになった.妊娠率も年々向上しつつあるが,その妊娠率に最も直接的に影響があると思われるのが胚移植である.胚が非観血的に体内に戻らなければ着床は期待しにくいので,各施設において創意工夫があると思われる.その胚移植につき,若干の考察を加え解説する.

1.卵巣刺激法

1)自然周期

著者: 福田操男 ,   福田清美

ページ範囲:P.1031 - P.1035

●はじめに
 世界で最初に体外受精を行ったEdwardsとSteptoeは自然周期により成功をおさめている1).しかしながら妊娠率が低いことから,自然周期にかわって,卵巣刺激による多発排卵周期が主流をしめるに至っている.最近多発排卵周期による多胎妊娠,卵巣過剰刺激症候群などの合併症の発生が問題になってきている.とくに多胎妊娠に対する減数手術がクローズアップされ,自然周期にも目が向けられるようになっている.本稿ではまず,自然周期の長所と短所について述べ,次に従来の体外受精法と腟内培養法に触れ,最後に自然周期による体外受精の実際について述べる.さらに自然周期採卵と腟内培養法とを合わせた方法Natural oocyte retrieval with intravaginal fer—tilization(NORIF)についても簡単に述べてみたい.

2)hMG/FSH-hCG

著者: 安部裕司 ,   久保春海

ページ範囲:P.1037 - P.1040

●はじめに
 1978年世界初の体外受精児が自然周期にて誕生し,その後しばらくは自然周期によるIVF-ETが推奨されていた.1980年代に入り採卵数を増やす目的にて各種排卵誘発法が利用されるようになり,clomiphene citrateおよびhumanmenopausal gonadotropin(hMG)/FSH単独または併用療法が行われてきた.しかしこの方法ではpremature LH surgeや採卵前の排卵を回避できずに15〜30%のキャンセルを余儀なくされていた.近年gonadotropin-releasing hormoneanalogue(GnRHa)が併用されるようになり,これらの問題点を回避できるためIVF-ET/GIFTをはじめとするassisted reproductive technol—ogy(ART)の排卵誘発法として一般的となってきた(表1)1).しかし,患者によっては,この方法によってlow responseに陥る症例にしばしば遭遇する.われわれの施設においてもGnRHa—hMG-hCG cycleにおいてlow responseとなりキャンセルとなった症例でhMG/FSH単独にてgood responseとなり妊娠した症例を経験している.したがって,hMG/FSH単独刺激法もこのような症例に対して今だ試行される方法であろう.

3)GnRHa併用(shortとlong)

著者: 石川元春 ,   星合昊

ページ範囲:P.1041 - P.1045

●はじめに
 1978年にEdwardsとSteptoeが体外受精の成功例を報告して以来1),体外受精は卵管性不妊症の患者の治療のみならず,男性不妊症,子宮内膜症を伴う不妊症,免疫性不妊症,原因不明不妊症などに対しても行われるようになってきている.排卵周期のある患者に対しても卵巣刺激法(過排卵処理)が行われるようになり,1984年にポーターらが排卵誘発にGnRH(gonadotropinreleasing hormone) analogue(GnRHa)を併用して良好な成績を最初に報告して以来2),世界各国でこの方法の有用性が認められ,広く使用されてきている.われわれの施設でもGnRHaを併用した方法を標準的な過排卵処理法として行っており,良好な反応が見られなかった患者に対しては他の方法を行うようにしている.
 この稿ではGnRHaを併用した卵巣刺激法(過排卵処理)を,GnRHaの解説・併用のねらい・実際の併用法に関して解説する.

4)Poor responderへの対応

著者: 高岡康男 ,   千石一雄 ,   石川睦男

ページ範囲:P.1047 - P.1051

●はじめに
 体外受精・胚移植(以下IVF-ET)においては,種々の過排卵誘発法が用いられているが,あらゆる過排卵誘発法に対し,十分な卵胞発育の認められない,いわゆるpoor responderもしばしば経験することがある.また,Garcia1)らの報告以降,このpoor responderに関する報告も,散見するようになってきた.最近,hMG療法の際に成長ホルモン(GH)を併用するGH-hMG療法の有用性2-5)や,GnRHaを微量に減ずる方法により高い妊娠率を得た報告6)も認められるようになったが,poor responderに対する効果的な排卵誘発法はいまだ確立されていないのが現状である.本稿では,われわれが行っているPoor responderに対する排卵誘発法の試みに,最近の新しい知見も加え紹介する.

5)黄体機能賦活法

著者: 山口聡 ,   山辺晋吾 ,   望月眞人

ページ範囲:P.1053 - P.1057

●はじめに
 今日,体外受精・胚移植(IVF-ET),配偶子卵管内移植(GIFT)などの配偶子操作の技術的進歩はめざましく,不妊症の治療の一つとして確立されつつある.しかし,その成績は満足できるものではなく,妊娠率を少しでも向上させるためにはさらに解明すべき問題点がたくさんある.中でも胚移植後の黄体機能賦活に関しては一定の見解は得られておらず,各施設ごとにさまざまな方法が実施されているのが現状である.本稿では黄体賦活の意義とそれに基づき体外受精・胚移植において実際に行われているさまざまな黄体機能賦活の方法について概説したい.

体外受精の合併症とその対策

1.子宮外妊娠

著者: 柴原浩章 ,   池田義和 ,   香山浩二

ページ範囲:P.1087 - P.1089

 われわれの教室では,1983年3月より体外受精・胚移植法(IVF-ET)による治療を開始し,以後1993年末に至るまでに75周期の臨床的妊娠例を得ている.このうち子宮外妊娠は9周期に発生し,その発生率は12.0%であった1).このように,IVF-ETにおける子宮外妊娠の発生率は,自然発生率の1%内外に比べ高率であることが知られる.そこで本稿では.われわれの経験などをもとに,IVF-ETによる子宮外妊娠のハイリスク群の特徴,発生予防法およびIVF-ETによる妊娠初期の管理法などについて述べる.

2.流産

著者: 佐藤孝道

ページ範囲:P.1091 - P.1095

●はじめに
 流産と早産の区分は,妊娠21週と22週を境界として法的な背景から決められているが,fetallossという観点からみれば,この境界はもう少しうしろにあったほうがよい.また,その成因から考えると区分をもっと細かくしたほうがよい点もある.つまり,妊娠11週以前のfetal loss(胎児の染色体異常が主たる原因),12〜27週頃の妊娠中期のfetal loss (妊娠20〜24週がピークになる.多胎,頸管無力症,感染,lupus anticoagulant,染色体異常などが主たる要因),それ以降のfetalloss(母体合併症が主たる要因)に分けるほうが成因を含めて考えると,より合理的なように考えられる.
 本稿では,妊娠早期のfetal lossと,妊娠中期のfetal lossに分けて,体外受精との関係でその成因,予防について検討する.

3.多胎

著者: 佐藤章 ,   遠藤力 ,   北野原正高 ,   星和彦

ページ範囲:P.1097 - P.1102

●はじめに
 EdwardsとSteptoeらによって世界で初めて体外受精によるLouise Brownの誕生以来,世界的に体外受精・胚移植(In vitro fertilization andembryo transfer:以下IVF-ETと略す)が施行され,現在では世界で数万人のIVF-ETによる出生が報告されている.その後,配偶子卵管内移植(gamete intrafallopian transfer:以下GIFTと略す)や接合子卵管内移植(Zygoto intrafallopiantransfer:以下ZIFTと略す)など生殖補助医療技術(Assisted reproductive technology:以下ARTと略す)の進歩によりさらに不妊症治療は進歩してきている.これらARTの合併症として,流産,子宮外妊娠,多胎,卵巣過剰刺激症候群などがある.ここでは,多胎妊娠について,わが国と諸外国の現状と,問題点,その対策について記載する.

4.多嚢胞性卵巣症候群の過排卵刺激

著者: 藤原敏博 ,   堤治 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.1103 - P.1106

●はじめに
 多嚢胞性卵巣症候群(以下PCO)は,不妊症の原因として頻度の高い疾患であり,月経異常をもつ婦人においては,無月経症例の約3分の1,稀発月経症例の約90%が本疾患に起因するといわれる,本疾患をもつ不妊症症例に対しては,排卵誘発療法が適応となるが,その80%程度はクロミフェンに反応を示し,残りがHMG療法あるいは体外受精・胚移植(IVF-ET)を必要とする1,2).ちなみにクロミフェン療法を行った症例における妊娠率は35〜50%であり,また治療周期当たりの妊娠率は卵巣機能が正常な女性にほぼ匹敵するといわれる.一方,HMG療法を行った症例では排卵率は95%を越え,妊娠率は60〜70%であるとされる2).しかし多胎率および流産率が高く,また卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まるという欠点を有する.
 PCO症例がIVF-ETの適応となるのは,以下のケースが考えられる.

5.卵巣過剰刺激症候群の治療

著者: 見尾保幸

ページ範囲:P.1107 - P.1112

●はじめに
 卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimula—tion syndrome,OHSS)は排卵誘発時に高頻度に発症する主要な副作用の一つであり.代表的医原性疾患である.とくに,近年の体外受精・胚移植(in vitro fertilization and embryo transfer,IVF—ET)を中心としたassisted reproductive tech—nology(ART)の普及により,その頻度は増加し臨床上遭遇する機会の多い重要な疾患である.換言すると.OHSSに対する対応を熟知せずしてARTの実施はあり得ないと言っても過言ではない.このような見地から,本稿においてはOHSSの病態生理,診断および治療の概要を簡潔に述べてみたい.

6.染色体分析

著者: 吉澤緑

ページ範囲:P.1113 - P.1118

●はじめに
 ヒトの自然流産胎児において染色体異常の出現率が高いこと,とくに発生ステージの早い初期胚ほど,より高い出現率を示すことはよく知られている.さらに,近年汎用されつつある体外受精により得た初期胚において,染色体異常の出現率が高いことがマウス,ウシ,ヒトなどにおいて報告されている.これらの染色体異常のほとんどは流産に終わると考えられることから,体外受精胚の正常性について染色体の観点から明らかにしておく必要があると考えられる.また,体外受精においては諸条件の設定が人為的に可能であることから,胚の染色体異常の出現率に影響する条件を明らかにすることによって,染色体異常の胚の出現率を低下させることができると考えられる.
 研究上,医療上の目的のために初期胚の染色体を調べるには,染色体標本を作製する必要がある.本項では,初期胚の染色体標本作製法と標本作製に際して留意すべき点について述べる.

体外受精の展開

1.共培養法

著者: 竹内一浩

ページ範囲:P.1119 - P.1122

●はじめに
 体外受精・胚移植(IVF-ET)は多くの施設で行われるようになってきた.しかしながらその妊娠率はいまだけっして満足の得られるものではない.配偶子卵管内移植(gamete intrafallopiantransfer,GIFT)やzygote intrafallopian trans—fer (ZIFT)のほうがIVF-ETの成績を上回るとする報告も多い.IVF-ETでは受精から4ないし8細胞期までの発育がin vitroで行われるため,卵管内で発育するin vivoの条件に比して重要な因子が欠落している可能性もある.このため,以前よりできるだけin vivoに近い環境で培養する工夫が試みられてきた.その一つが受精卵と他の細胞をfeeder layerとする共培養法である.著者らは卵管上皮細胞が受精卵発育に重要な役割を担っていると考え,卵管上皮細胞培養を確立し,受精卵との共培養を行い良好な成績を得た.本稿では卵管上皮細胞培養法と受精卵との共培養法について中心に述べ,さらに文献的考察を加えたい.

2.凍結胚移植の実際

著者: 森若治 ,   神谷博文

ページ範囲:P.1123 - P.1127

●はじめに
 ヒト凍結胚移植は,1983年にTrounsonら1)がはじめて妊娠成功例を報告して以来,IVF-ETを行う上で不可欠のものとなってきている.凍結胚移植の有用性としては,多胎妊娠の予防と余剰胚の有効利用,患者負担の軽減,子宮の内部環境を考慮した妊娠率・生産率の向上,卵巣過剰刺激症候群の重症化の予防などがあげられる2)
 当科でも1991年12月に凍結胚移植によるはじめての分娩例を経験し,現在までに21例分娩を終了している.

3.精巣上体精子

著者: 福田淳 ,   児玉英也 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.1129 - P.1133

●はじめに
 精路通過障害による無精子症に対する治療は,従来外科的手技が主体であったが,先天性精管欠損や精管が著しく障害されている場合の治療成績はきわめて不良であった.しかし,1988年にSil—berが1)は精巣上体精子を用いた体外受精の妊娠例を報告してから,多くの施設でこの方法が積極的に取り入れられ,良好な成績の報告も散見されるようになってきた.当教室でも,1991年に児玉ら2)が本邦で初めての妊娠例を報告して以来,現在まで14症例に対してこの治療を施行し,その結果3例が妊娠に至っている.また最近では,精巣上体穿刺の方法の改良や,顕微授精の進歩などにより,受精率の改善が認められてきている.今回は精巣上体精子による体外受精の具体的な方法について述べることにする.

4.SUZI

著者: 三宅崇雄 ,   佐藤芳昭

ページ範囲:P.1134 - P.1137

●はじめに
 体外受精胚移植法(IVF-ET)の発展により,多くの不妊患者がその恩恵を受け生児を得ることができたが,一方では,IVF-ETを受ける患者の約30%には受精が成立しないことが判明した.その多くは精子の受精機能の障害が原因と考えられているので,顕微鏡下にある操作をすることにより正常の受精卵が得られるならば,さらに多くの不妊患者が生児を得ることができる.
 精子囲卵腔内注入法(subzonal sperm insemi—nation, SUZI)は,1988年Sathananthanが妊娠例を報告して以来,全世界で広く行われ多くの妊娠例が報告されてきたが,受精率はどれも20〜30%と比較的低率であることも事実である.現在のところ顕微授精法はまだ発展段階にある技術であり,同時に受精の現象に関する基礎的研究も飛躍的に進歩しつつあるので,将来大いに期待できる方法と考えられる.

5.ICSI

著者: 栁田薫 ,   星和彦 ,   佐藤章

ページ範囲:P.1139 - P.1144

 卵細胞質内精子注入法(Intracytoplasmicsperm injection:ICSI)は,難治性の受精障害で,これ以外の治療によっては妊娠の見込みがないかきわめて少ないと判断される夫婦のみを対象とし,現時点では最終的な不妊治療手技である.先人がヒトを含めた哺乳動物で試行錯誤をくり返して得られた恩恵の賜であったが,意外にもヒトのICSIはやさしいこともわかった.
 筆者らは本法の成否が熟練と操作しやすい顕微注入装置の設定にあると考えており,この稿では機器の準備からICSIの実際を解説する.当施設で使用している機器を( )内に例示した.

6.経子宮筋層的内膜内胚埋め込み法(The Towako Method)

著者: 加藤修

ページ範囲:P.1145 - P.1148

 胚移植法におけるnew ARTを報告して1,2)すでに4年目を迎えようとしている.本法による出生児は300名を余すと思われるが,過去の経験を踏まえ,所感を述べたい.

7.Assisted Hatching

著者: 矢野浩史

ページ範囲:P.1149 - P.1153

●はじめに
 IVF-ETはその飛躍的な進歩により,妊娠率は向上したものの移植胚あたりの着床率は低く,効率が悪いのが現状である.1990年,Cohenら1)はマウス卵の体外培養において惹起される透明帯の硬化(in vitro induced zona hardening)2)がヒトのIVFにおいても起こり,透明帯の質的あるいは形態的変化が胚の透明帯脱出(hatching)を阻害し,その結果着床率が低下するのではないかと考えた.そこでマイクロマニピュレーターによるPZD(partial zona dissection)法により胚の透明帯に小切開を加え,移植したところ着床率が向上したと報告した.透明帯に加えた小切開がhatch—ingを補助したとして,assisted hatchingと命名された.その後,PZD法では切開孔が小さく,hatchingの途中で胚がtrapされたりすることから,酸性Tyrode液を吹き付けて透明帯の一部を溶解して開孔するzona drilling法が考案され,現在主に行われている3)

8.レーザーによる顕微授精

著者: 荒木康久 ,   本山光博 ,   荒木重雄

ページ範囲:P.1155 - P.1159

 重度男性不妊症に顕微授精はきわめて有用な治療法であるが,手技が難しくいまだ一般化したとは言い難い.1992年,レーザーを用いて透明帯を切開する顕微授精法が初めて報告された1).手技に熟練を要さず短時間で施行できる点から,今後顕微操作を必要とする広い範囲で利用されるものと期待されている.
 私どももすでに1年半あまり本法を用いて顕微授精を施行しているが,当初の至適条件を決めるための基礎的研究を終え臨床応用に入っている.妊娠率は21.9%とほぼ満足するレベルに達している.すでに,20例の妊娠に成功し,2例が分娩し,14例が妊娠継続中である.

9.不成功例の検討

著者: 久慈直昭 ,   小林俊文 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.1161 - P.1164

 体外受精に付随する新しい技術が次々に開発され,生殖細胞の生理に関しても新しい知見が数多く得られている.その結果,今まで夢物語であった受精卵の凍結保存,無精子症患者の(非配偶者精子を使用しない)不妊症治療,閉経後の妊娠などが現実のものとなりつつある.
 しかしその一方,体外受精自体の妊娠率はこの10年間でほとんど上昇しておらず,上昇しない原因についてもわれわれにわかっていないことは数多い.体外受精を何回くり返しても妊娠に至らない患者で,自然周期に妊娠する例がまれではなく存在し,逆に妊娠分娩を経た症例,あるいは流産や子宮外妊娠後の症例で受精がまったく起こらないことも経験する.不妊症を根絶しようという医学の挑戦を,自然がほほえみながら受け流している様にも思える.

体外受精—私のコツ

1.杉村レディースクリニック

著者: 杉村和男

ページ範囲:P.1165 - P.1166

1 体外受精にコツなし
 「私のコツ」のコーナーの最初にこのような文章を書くのも変な気がいたしますが,体外受精・胚移植法(IVF-ET)も他の医学的な治療同様,すべてのファクターが順調に機能して初めて成功するという技術ですので,1つの技術の体得によって妊娠例を格段に増加させることはむりと思います.反対に,1か所でも順調に機能していない部分に気づかないと,妊娠例は出なくなります.
 現在当院では,ビルの3Fで外来のみの,不妊症,とくに体外受精主体の診療を行っており,勤務する医師は私1名です.

2.福田ウイメンズクリニック

著者: 福田勝

ページ範囲:P.1167 - P.1168

●はじめに
 オフィスIVFは外来のみの診療所で入院させないで行う体外受精(IVF)である.といっても基本的には従来の入院して行うIVFと同じであるが,限られたスペースで,煩雑な日常診療時間外の限られた時間内で,限られたスタッフで行わなければならない.同時に成功率の向上が非常に重要である.IVFの成功率をいかにして向上させるかは,いかによい胚を移植するかによるところが大きい.この胚のqualityに影響を与えるものとして,いかにしてよい成熟卵を得るか,いかにして運動良好精子を回収し媒精に用いるか,いかにin vitroでの操作をスピーディに行い培養系を安定させておくかによる.
 本稿では採卵時,卵の回収をいかに限られたスタッフでスピーディに行うかといかに運動良好精子を回収するかの2点に対し当クリニックで行っている方法について解説する.

3.梅ヶ丘産婦人科

著者: 辰巳賢一

ページ範囲:P.1169 - P.1171

 当院は院長が当地で開業して35年になる18床の産科医院である.著者は1991年6月に当院に着任し,同時に不妊外来を開設,同年末より体外受精を開始した.その後,不妊外来は順調に発展し毎月15例前後の妊娠成功例がでるようになり,またその多くはそのまま当院で分娩するため分娩数も急増中である.1994年には,著者は当院の約300の分娩のほぼ全例に立ち会い,毎週延べ400〜500人の外来患者を診察しながら,その合間に年間80例の体外受精を,培養液の準備から採卵,受精確認,胚移植まで,エンブリオロジストを置かずに行ってきた.本稿では,「多忙な日常産科業務と体外受精をいかに両立させるか」,「体外受精を成績を落とすことなくいかに簡略化するか」という点から,私のコツを述べる.

4.脇本産婦人科—体外受精・胚移植(IVF-ER)

著者: 脇本博

ページ範囲:P.1172 - P.1174

●はじめに
 1978年のEdwardsとSteptoeらによる体外受精児誕生の報告以来,IVF-ER(in vitro fertiliza—tion and embryo replacement)は不妊治療の一方法としてルーチン化しつつある.しかし,まだ各施設間における妊娠率のばらつきは大きく,そのため排卵誘発法の工夫や培養法,胚移植法の検討など,個々の技術に偏った議論がなされている傾向がある.
 私はつねづね,個々の技術もさることながら,hCGの切り替え時間が変われば卵の追加成熟培養時間も変わるという具合に時間的連続性をもった一連の操作がきわめて重要と考えている.

5.セント・ルカ産婦人科

著者: 宇津宮隆史

ページ範囲:P.1175 - P.1177

 体外受精・胚移植(IVF-ET)は不妊症治療に欠かすことのできない方法となっており,この方法をいつ,どのように活用するかはその不妊症治療にあたる医者の考え方いかんにかかっている.
 そこで当院におけるIVF-ETのコツという意味にあたるかは不明であるが,不妊症診療においてどのような流れのなかでIVF-ETを行い,またその問題点は何なのかを明らかにすることによってIVF-ETの効果的利用法を考えてみたい.

6.成田病院

著者: 成田収

ページ範囲:P.1179 - P.1181

●はじめに
 不妊症治療の最終的な治療法としての体外受精・胚移植法が登場して早くも10数年が経過した.この間,多くの先人の絶えまざる努力によって胚の凍結保存法,配偶子卵管内移植法,Gn-RHaの導入,超音波診断装置による経腟採卵法,顕微授精法などの新しい技術が次々に登場して,体外受精法はより簡便,正確に実施できるようになった.この間,わが国において体外受精の実施症例数,施設数共に著しく増加し,その成績も次第に向上してきている.1992(平成4)年1年間の統計によると1),体外受精法で15,515回の採卵が行われ,2,446回の妊娠が成立し,移植あたりの妊娠率は24.4%となっている.しかし,最終的な目標である生産率は対移植周期あたり15.7%と20%に達していない.同じ時期の1992年の米国において行われた成績2)でも体外受精法で24,996回の採卵が行われ,5,279回の妊娠が成立し,移植あたりの生産率は19.2%でやはり20%を割っている.わが国あるいは米国におけるこの体外受精の成績は,将来,ゆるやかに向上はしていくであろうが,これが飛躍的に上昇するとは思われない.胚の正常自然周期における着床率,加齢の影響などを考えるとおのずから限界がある.ここでは与えられたテーマについて述べてみたい.

7.済生会下関総合病院

著者: 蔵本武志

ページ範囲:P.1182 - P.1183

●はじめに
 体外受精・胚移植は不妊治療において重要な地位を占めるようになっている.当初その妊娠率は非常に低いものであったが,本邦でも最近妊娠率の改善が図られるようになってきた.体外受精を成功させるにはそれぞれのステップを確実に行う必要があるが,本稿ではわれわれの行っている方法について簡単に述べてみたい.

8.東京慈恵会医科大学

著者: 小田原靖 ,   松本和紀 ,   楠原浩二

ページ範囲:P.1184 - P.1186

●はじめに
 体外受精・胚移植法(IVF-ET)が臨床応用されはや10余年を経て,本法は不妊治療に必要不可欠な手段となった.一方でIVFの妊娠率にはいまだ大きな向上を認めない.卵巣刺激法,培養環境,授精手技など,IVFの臨床成績を向上させるための課題は多い.しかし本編では今後IVFを始める方々がminimum effortにより現在の平均的なIVFの技術水準を達成するためのいくつかのポイントについて述べたい.これからIVFを始める施設のほとんどは少人数のスタッフでのスタートと思われるが,われわれの施設もMD.3名,PhD.1名という小規模施設であるので参考になれば幸いである.

9.東京女子医科大学

著者: 三室卓久 ,   上東彰子 ,   岩下光利 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.1187 - P.1189

 われわれの施設では,体外受精にたずさわる人員は限られており,時間的な制約もあるためできる限り簡便でなおかつ一定の成績の得られる方法を選択しなければならない.そのため,採卵は原則として水,土曜日の固定日採卵とし,それに合わせて排卵誘発,入院,胚移植を行っている.以下にわれわれの用いている方法を解説する.

10.名古屋大学分院

著者: 菅沼信彦

ページ範囲:P.1190 - P.1193

 当院は国立大学の附属病院であり,不妊症治療を中心とする臨床とともに研究・教育機関としても機能している関係上,診療のみに従事する他の“ARTクリニック”とは趣を異にしている.医師は助教授1名,助手2名,非常勤医員3名の構成で,本院大学院生および関連病院から数名の医師に,研修を兼ね応援にきていただいている.大学人事異動のため,在職期間はせいぜい2〜3年であり(私の2年10か月が現在のスタッフの中で最長である),本稿の主題である“体外受精—私のコツ”という内容を紹介するには不向きかもしれない.しかしながら,大学病院の使命ともいうべき点—先端医療の中枢として,地域医療への教育・啓蒙活動,より効果的な治療法の開発,基礎的研究とその臨床応用—から,体外受精(IVF)に関しても関連病院および関連ARTクリニックと協同して,数多くの研究的アプローチを試みている.この“名古屋大学分院方式”ともよべるプロトコールが,IVFを新たに始められる先生方のご参考になればと思い,執筆させていただく.紙面の関係で要点のみの記載となるため,一般的方法は本書の各々の章を,また,詳細は文末の参考文献に示したわれわれの論文をご一読いただければ幸いである.

体外受精の成績

1.国内

著者: 後藤康夫 ,   神崎秀陽 ,   森崇英

ページ範囲:P.1194 - P.1196

●はじめに
 1978年英国において初めて,体外受精・胚移植によりルイーズ・ブラウン嬢が誕生して以来,体外受精およびその関連技術,いわゆるassistedreproductive technology(ART)は急速に全世界に普及し,わが国においても不妊症治療にとって必要不可欠な方法として定着し,すでに6,034名の児がARTにより誕生したと報告されている(1992(平成4)年分治療までで).その治療成績も種々の技術改良にともない着実に向上している,本稿ではわが国おけるARTの現状と成績を日本産科婦人科学会の報告1-5)をもとに概述する.

2.アメリカ

著者: 川内博人

ページ範囲:P.1197 - P.1200

 1978年の英国での世界初の成功例以来,体外受精関連技術(以下ART)による治療が急速に普及してゆく状況を背景に,米国不妊学会は,その内部組織である補助生殖技術治療委員会(Societyof Assisted Alternative Reproductive Technol—ogy)が主体となって,ART治療に関する登録報告制を1986年後半に設立した.その集計結果は,1988年以後毎年,前々年分の成績を報告する形で,Fertility and Sterility誌上に掲載されている.本稿では,Fertility and Sterilityに1988年から1994年までに発表された米国内(1991年分以後はカナダを含む)における臨床成績について紹介する.

3.オーストラリア

著者: 山野修司 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1201 - P.1203

●はじめに
 オーストラリアにおける体外受精・胚移植(IVF-ET)ならびにその他のassisted reproduc—tive technology(ART)の成績の全国集計は1992年に発行されたAssisted conception Aus—tralia and New Zealand 1990と1993年9月京都で開催された第8回世界体外受精会議で発表されたWorld Collaborative Report 1991が最後で,1992年以降のデータは現在集計中とのことである1,2).1995年となった現在,3年以上前のデータでは若干古い感じはするが,通常のIVF-ETや配偶子卵管内移植(GIFT)などの成績はここ数年あまり変化がないと考えられるので,上記二つのレポートを中心にオーストラリアにおけるARTの成績を解説する.また最近話題となっている細胞質内精子注入(ICSI)や卵子の体外成熟培養の成績は学会ならびに論文に発表されたデータをもとに説明する.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・5

Dysplasia・1

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.916 - P.917

 Dysplasiaの血管構築の特徴は,コルポスコピー所見でPunctationおよびMosaicと呼ばれる血管像に相応した変化が上皮直下毛細血管網の上皮側に突出血管群として出現することである.

コラム 新しく始める人へのアドバイス

体外受精とチーム医療

著者: 林直樹 ,   石原理 ,   竹田省 ,   木下勝之

ページ範囲:P.942 - P.942

 体外受精においては,患者選択,卵巣刺激,採卵,精子調整および媒精,卵および胚培養,胚移植といったすべての行程においてきめ細かい配慮が必要である.各技術はこれまで改良が重ねられ,現在はある一定のコンセンサスの得られたスタンダードな方法が広く行われており,また安定したqualityをもつ培養液や使用器材が商業ベースで容易に得られる現状である.
 しかしその中で卵および胚のハンドリングは,習熟を要する過程であり,その良し悪しは成績にも大きく影響してくる.これから体外受精を始める方々にとってこの卵および胚のハンドリングがもっとも苦労するところと考えられる.その詳細は各論にゆずるとして,温度,湿度,ガス組成などの至適操作環境の確立,さらに卵や胚を迅速かつ愛護的に行う技術の修得に時間を要する.こうした技術を修得しかつ例外なくきめ細かく実践することは日常臨床に忙殺される臨床医にとってきわめて困難である.さらに精子ならびに受精卵の凍結保存・融解などの操作も必要となるだけに,医師一人の作業では長期的に安定した成績を得ることは不可能となる.

体外受精治療をめざす方へ

著者: 星和彦

ページ範囲:P.954 - P.954

 新しい技術が開発されたとき,たとえそれがきわめて専門的なものであっても,次第に普遍的になっていくことは重要である.当初は特殊な機器とテクニックを要した体外受精・胚移植も,近年ではそれほど難しい技術ではなくなってきた.われわれが体外受精を始めた頃は,数回蒸留をくり返した蒸留水で培養液を作製し,試行錯誤をしながらヒトの配偶子に適したマイクロピペットを作り,尿中のLHをおいかけてサージをみつけ,腹腔鏡下に採卵するというのが一般的であった.しかし最近では,そのまま使用できる数多くの培養液が市販されているし,採卵針にしてもETチューブにしても選択するのが困るほど出回っており,これら「体外受精キット」を用意して,GnRHアゴニストとHMG—HCGで卵巣刺激を行えば体外受精が容易に行い得る.驚いたことに先端を熱加工して細くしたガラスピペットまで市販されている.簡便化,普遍化は大事なことであるが,与えられたものだけに頼るのは少し考え物である.受精・初期発生の仕組みを学んだり,成功しなかったときの原因を考えるうえで,毎回とはいわないが一度くらいは自分で調整して培養液を作り,たまには指先に火傷を作りながら自分にあったマイクロピペットを作るということが必要なような気がする.マイクロピペットを一度も作ったことのない者が顕微授精を行うというのは理解できないし,実験動物の卵を扱った経験のない者が即ヒトの卵を操作するということも納得できない.

大学病院における体外受精

著者: 菅沼信彦

ページ範囲:P.978 - P.978

 名古屋大学病院では分院産婦人科が不妊症センターとして機能しており,体外受精(IVF)は分院のみで行われてきた.しかしながら,ここ数年本院・分院統合計画が進行しており,昨年度には文部省より「IVFシステム」の予算が認められ,本院でも新たにIVFを開始することになった.そのため,現在そのセットアップに携わっている関係上,とくに大学病院におけるIVFに関して,感じることを述べさせていただく.大学病院(とくに国公立)では,その行政システム上,種々の手続きが非常に煩雑であると言わざるをえない.採卵時の麻酔処置(麻酔科が行うのか,あるいは婦人科担当医がかけるのか:採卵室で施行可能か,手術室で採卵しなければならないのか),ホルモンのラピッドアッセイ(検査部で測定可能か,医局で担当するのか:非契約業者への外注依頼の問題),病院事務(保険外診療費の徴収:IVF処置費の算定),休日診療(土日休診日の診察および処置時の看護体制:看護婦なしで医師のみによる診療が婦人科において許されるのか),などなど,一般病院や通常のARTクリニックでは考えられないような問題点に直面する.分院は大学病院といえども比較的小規模の病院であるため,各部局にご無理をお願いし円滑に回っているが,官僚的大病院では困難も多く,「大学病院でIVFを行う時代は終わった」との意見は,あながち不当ではないかもしれない.

IVFとGnRHアゴニスト

著者: 植村次雄

ページ範囲:P.1018 - P.1018

 IVFは最初は自然周期,ついで卵巣刺激周期,そして現在IVFの70%以上がGnRHアゴニスト併用卵巣刺激周期で行われている.GnRHアゴニスト併用の第1の利点は卵胞成熟のモニタリングの必要性を軽減し,採卵時期をある程度調節でき,採卵時刻の設定が可能なことである.第2の利点として,卵胞期のLH高値は卵胞発育,卵の成熟に有害な影響を及ぼすことから,GnRHアゴニストによる内因性LHの抑制は卵のqualityを高める.また,外因性ゴナドトロピンgonadotropinにより同期性した卵胞発育をもたらす.GnRHアゴニストの投与法としては前周期の黄体期中期よりのlong protocolを用いているが,これによりプロゲステロンprogesteroneによるLH抑制効果も相乗され,また嚢胞形成も少ない.第3の利点として,GnRHアゴニストでhypogonadotropicな状態にして卵巣刺激すると,poor responderのキャンセル率を減少させる.このことは低ゴナドトロピン性無月経はそれ以外の排卵障害例よりゴナドトロピンに良好な反応を示すことからも裏づけられる.GnRHアゴニストを併用しても改善しないpoor responderに対しては大量のhMGやpure FSHの使用,成長ホルモンの併用などが試みられているが,まだ確立された治療法はない.

未知なる生命現象に対する真摯な態度が求められている

著者: 野田洋一 ,   濱田浩明 ,   林嘉彦

ページ範囲:P.1030 - P.1030

 IVF-ETがはじめて世に登場した頃,試験管ベビーとして大々的にマスコミに取り上げられ,また医術は神の領域を侵すのか?といった議論が盛んになされた.しかし,無事生児が誕生しその発育過程においても異常が認められず,また他の数多くの施設でもこの生殖介助術が行われ,同様な結果が得られるに従い,そのような議論もあまりなされなくなった.多くの児の誕生という結果が方法論の是非の論議さえも凌駕してしまった感がある.
 だが,今日に至るまでわれわれが知り得た生命現象について知識は決して多くはない.近年の分子生物学的研究方法の発展は生殖分野において多大な貢献を来たしたが,今なお未解決な問題はたくさんある.我々の行おうとしている操作がまだまだ未知なる生命の誕生という神秘な領域への操作であるという意識はつねに持たなくてはならない.生命現象に対する深い畏れ,畏敬の念をもって研究者は取り組まなくてはならないと思う.

荻窪病院での体外受精初期の経験から

著者: 飯田悦郎

ページ範囲:P.1058 - P.1058

 1982年体外受精(以下本法)の臨床への応用がゴーとなり,荻窪病院(以下当院)は慶應グループとして私的病院の先鞭を切って不妊症臨床への応用を始めました1).現在本法は不妊症治療として定着し,手法の改良進歩で成績は向上しつつあります.国内で6,000余名の児が誕生した報告2)があり,当院でもすでに183名の児の誕生をみています.
 当院の本法による不妊治療の黎明期(1983〜1985年頃)には旧式の腹腔鏡,クリーンベンチ,インキュベーター,実体顕微鏡,純水製造装置と最小限度の設備で,培養液は慶應から調達し,卵巣刺激法も試行錯誤でした.このような状況でも,施行例は,年間100例前後を数え,1984年春,妊娠第1号の成功をみました.それまで,本法を疑問視していた病院側も不妊治療として認識するようになり,病院経営に重要な本法の収入も軌道に乗り,徐々に設備は整えられ,今では凍結保存,顕微授精まで施行しています.

1人で行うIVF外来

著者: 田宮親

ページ範囲:P.1080 - P.1080

 これからIVFクリニックを始める時,二通りの方法がある.一つは大規模なセンター的な施設か,筆者のような6ベッドの小クリニックで行う場合とでは計画内容はかなり違ってくる.IVFを行うにあたりあるレベル以上のしっかりした培養室を作り専門の培養技術を持ったスタッフがいれば一定レベルの成績は必ず上げられる.かつて日本でIVFの成績がなかなか上がらない時,ある米国の専門家が日本においては科学者がスタッフに入っていないことがその原因の一つであろうと述べたのは参考になる意見である.しかしこれには膨大な資金がいり,またその経営にはかなり厳しい問題も起きてくる.動きだし安定したIVFができるようになるためには,まず熱意が必要である.IVFはいろいろな処置過程があるためその間の人手が増えることはセンター的な所では必要でも,安定したテクニックを保つには難しい問題がある.うまく行かない時どこが悪いのかを判定するのがなかなか難しい.事実優秀な培養スタッフが他の施設に引き抜かれてストップした病院のケースも知っている.

発想の転換を

著者: 高橋克彦

ページ範囲:P.1128 - P.1128

 体外受精(IVF)が新しい不妊症治療法であり,依然として日進月歩で進歩している技術であることは言うまでもない.そのことを前提として次の四点についてアドバイスしたい.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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