icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科49巻9号

1995年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 婦人の尿失禁—トラブルへの対処 Overview

1.最近の傾向と現状

著者: 天神尚子 ,   進純郎 ,   荒木勤

ページ範囲:P.1216 - P.1219

 尿失禁は加齢に伴うものとされ,医師,患者ともにその認識不足から,その対応は十分なされず注目されることの少ない領域であった.しかし,人口の高齢化が始まり,尿失禁患者の数も増加し,ライフスタイルの内容や質が盛んに問われるようになった今日,尿失禁への関心も高まってきた.そのため,社会的需要も増加し,医学的にも注目されるようになり尿失禁外来が次々と開設され,尿失禁のケアが見直され,女性の健康管理をとり扱う産婦人科医達の間でも前向きに検討されるようになってきた.

排尿のしくみ

2.解剖と蓄尿,排尿のメカニズム

著者: 井川靖彦 ,   小川秋實

ページ範囲:P.1220 - P.1222

 下部尿路は,膀胱およびその排出路(膀胱頸部,尿道,外尿道括約筋)という2つの機能単位からなり,蓄尿および定期的な尿の排出(排尿)という2つの相反する機能を持つ.蓄尿時には膀胱内の尿が漏れないように,尿量が増えても膀胱内圧が低く保たれ,排出路はつねに閉じており,尿道閉鎖圧は膀胱内圧よりも高く維持されている必要がある.一方,排尿時は,随意的に,排尿が開始でき,膀胱の収縮とともに排出路の抵抗が低下して,円滑に尿が排出されなければならない.
 この蓄尿および排尿における膀胱と排出路の協調機能の大部分は脳幹部の橋排尿中枢以下の自律神経系の反射制御による.この自律神経反射に橋より上位の脳による制御が加わり,随意的な排尿の抑制,開始が可能となる.

3.膀胱・尿道の機能検査

著者: 水尾敏之

ページ範囲:P.1224 - P.1228

 医療機器の進歩により排尿障害を動的にとらえる尿流動態検査法が導入され,尿失禁,排尿障害の正確な病態,程度を知ることが可能になり,より適切な治療が行えるようになった.以下に著者の日常行っている検査法を述べる.

尿失禁を診る

4.尿失禁の分類

著者: 山田拓己

ページ範囲:P.1230 - P.1233

 尿失禁は疾患名というよりも症状名に近く,さまざまな疾患に出現する.しかもさまざまなタイプの尿失禁が混在し病態の理解を難しくする.分類をするにしてもその切り口によって異なった分類となる.表1の分類は症状を中心とした分類で,さまざまな病態を含み,必ずしも病態の本質を表しているとは言いがたいが,もっとも一般的に用いられているのでそれを中心に概説し,終わりに尿失禁を排尿障害として理解しやすいBarrett &Weinの分類を紹介する.

5.愁訴に応じた診断と検査

著者: 野村雪光

ページ範囲:P.1234 - P.1239

 長寿社会を迎えて,生命そのものを脅かす疾患に対する予防・早期発見・治療への取り組みとともに,寿命が延長した期間を健康でかつ快適に人生を楽しむための条件づくりとして,老化に伴う退行性変化に対する取り組みが近年,重視されるようになってきている.産婦人科領域においては,骨粗鬆症,虚血性心疾患,そして尿失禁などである.これらの疾患は,中年から高齢の婦人の生活の質(quality of life)を高める上で不可欠の課題である.と同時に,これら老化に伴う退行性変化によってもたらされる病態は,多くの場合薬物療法または手術療法ですべてが終了するのではなく,患者自身が病態についての正しい理解と治療についての知識を持ち,生活習慣の改善や持続的な訓練が必要である.
 このことは,一方においては,医療従事者の側には病態や治療法について患者に正しく伝える教育方法やそのための教材の開発の必要性を迫るものとなっている.

6.妊娠と尿失禁

著者: 椋棒正昌 ,   寺本憲司

ページ範囲:P.1240 - P.1241

 妊娠中に見られる排尿障害は,尿失禁と頻尿の2つの症状に代表される.この症状のうち,尿失禁は妊婦の13.61)〜44.3%2)に認められ,妊娠との関係が非常に深い.
 尿失禁は,従来から致死的疾患でないがゆえに,医療従事者から軽視されてきた.また,妊婦は,尿失禁を「しもがゆるい」と言う恥ずかしくてばつが悪く我慢すべき状態と考え,そのため医療の場で相談することもなく諦めていた.

7.術後尿失禁

著者: 浜田雄行

ページ範囲:P.1242 - P.1246

 婦人科手術後の尿失禁としてとくに問題となるのは,子宮悪性腫瘍に対する根治術として用いられる広汎性子宮全摘出術である.この術後には高率に尿意の喪失,排尿困難,尿失禁,頻尿,尿意切迫感などの排尿障害が生じ,治療後の患者のquality of lifeを低下させる重要な一因となっている.植物神経温存法さらに準広汎性子宮全摘出術による縮小手術の採用などにより予防が試みられているが,いまだ術後の排尿障害は高率に認められている.また,広汎性手術後の放射線追加照射によりこの排尿障害は修飾されさらに重症となる.高齢化社会の到来,子宮癌患者の治療成績の向上および癌治療患者の高齢化により,広汎性手術後さらに照射後における排尿障害は,現在一般的な尿失禁,頻尿を有する疾患領域においても重要な位置を占めるに至っている.
 urodynamic study(UDS)を用いて広汎性手術後さらに照射後における排尿障害について尿流量力学的な検査を行い,本症例に対する有効な治療法を確立するため種々の内科的保存療法を試みたので報告する.

8.性行為と尿失禁

著者: 林淑子 ,   広井正彦

ページ範囲:P.1248 - P.1249

 尿失禁は,古くから多くの成人女性を悩ませてきたものと推察されるが,長い間,疾患として診療レベルに登っては来なかった.
 近年quality of lifeが叫ばれるようになり,また女性の社会進出が進むに伴い,尿失禁は,医療の表面に表われて来たが,性行為における尿失禁となるといまだに暗闇の中といった状態である.国内では十分なデータがないため海外の文献より考察を試みる.

尿失禁のコントロール

9.生活習慣の改善

著者: 西村かおる

ページ範囲:P.1250 - P.1252

 尿失禁は解剖生理学的な理由から女性に多い症状の一つである。その多くは日常生活に留意することで症状の完治・改善だけではなく予防も可能である.その方法は失禁のためだけではなく,成人病予防と重なることが多く,日常生活へのアドバイスは欠かせない.それを実行できるかどうかは本人の気持ちにかかわっており,自分の体に責任を持ち前向きに生きる姿勢を援助するにはアドバイスにあたる者の資質も問われる.

10.患者心理の理解と精神的ケア

著者: 星野惠則 ,   田中朱美

ページ範囲:P.1253 - P.1255

 近ごろ,新聞や雑誌に失禁用下着の広告がときどき見られるようになった.スペースの大きさや掲載の頻度からみると,それが立派に商売になっており,かなりの需要があることがうかがわれる.ふりかえって,われわれが精神科の外来で日頃見ている限り,頻尿ということで受診する患者はときどきあっても,失禁に悩んで相談に来る方は皆無に近いと言ってよい.失禁用下着の広告にまず例外なく書かれている「人知れぬ悩み]というコピー.この,悩みながら,そのことを人に知られたくない,あるいは相談できない,ということが,おそらくはこの問題の最大のポイントなのだ.その点を中心に,尿失禁をめぐる心理的問題を考えてみたい.

11.高齢者のマネジメント

著者: 並河正晃

ページ範囲:P.1256 - P.1258

 高齢者の医療上の留意点と尿失禁診療の進め方 高齢者の人々への医療上の留意点として次のことがあげられる.
 加齢と共に中高年期に多発・必発する慢性疾患群が個々の高齢者に次第に累積し共存してゆく.その結果,各器官臓器機能の低下がみられ,それらの軽減や調節のために多数の薬剤が継続して用いられることが多くなる.さらには,大小便失禁,寝たきり,痴呆など生活のために人手がかかる(自立したADLに満たない)状態も生じてくる.このような状況での高齢者の尿失禁のコントロールには次の1)〜7)の事項が十分に認識され,適切な手順で対処されることが必要である.

尿失禁を治療する

12.婦人の尿失禁の治療計画

著者: 中田真木

ページ範囲:P.1260 - P.1261

 婦人の尿失禁の取り扱いにおいては,治療に反応する見込みの高い腹圧性尿失禁を能率的に確実に拾い上げる診療システムが望まれている.腹圧性尿失禁は,主に骨盤底の力学的な弱さに起因する症候で,多くの場合根本的な治癒が期待でき,患者の大半でさしたる治療の制約がない.一方,膀胱尿道の機能低下による尿失禁は,一般に治療が難しく,尿失禁を消失させようとすると他臓器への薬剤の副作用や膀胱尿道機能の修飾による上部尿路への悪影響が懸念される症例が多い.
 腹圧性尿失禁症例の多くでは,根本的治療は骨盤底の力学的補強であるが,それには大きく分けて外科治療と骨盤底再教育(pelvic floor re-education, PFR)がある.医学的には両者は相互に補いあうもので,2つを併用して治療するのが理想的である.

13.骨盤底再教育

著者: 中田真木

ページ範囲:P.1262 - P.1264

骨盤底再教育(PFR, pelvic floor re—education)とは
 PFRのアイディアは,合衆国の産婦人科医Kegelが1948年に提唱した骨盤底体操(pelvicfloor excercises, PFE)に遡る1).Kegelの奨励したPFEは,腹圧性尿失禁の治療として,短い骨盤底筋群の収縮を1日300〜400回くり返させるというものであった.Kegelは,この理学療法の理論的根拠や実施方法について詳しく説明しなかった.その後PFEは主に欧州で理学療法士や助産婦によって続けられ,経験に基づきさまざまな工夫と改良とが加えられたが,ごく最近までは,排尿障害の治療として脚光を浴びることはなかった.
 1980年代後半になると,先進国では,医療は文字通り人間の寿命を延ばすというより,人間が社会の中で活動的に暮らせる時間を長くするために尽力しなければならないという認識が少しずつ高まっていった.女性の尿失禁はごく月並みなハンディで,患者の生活の質を損なうものとして社会的に重要である.そこで,産婦人科医療における尿失禁の診療には以前よりも大きなエネルギーが注がれ,その治療法のPFRも以前より注目されるようになった.

14.行動療法

著者: 中田真木

ページ範囲:P.1265 - P.1267

行動療法とは
 尿失禁や頻尿などの排尿障害に対し,生活指導などによって膀胱尿道機能障害を改善したり,ハンディキャップを軽減させたりするコンセプトの治療を行動療法と呼ぶ.

15.薬物療法

著者: 大村政治 ,   近藤厚生

ページ範囲:P.1268 - P.1270

 尿失禁の薬物療法は,尿失禁の病態を十分に把握した上で,適切な薬剤を選択することが基本となる.その際各薬剤の適応と限界について十分に認識することが重要である.以下尿失禁の薬物療法についてその概要と作用機序を尿失禁の病態に即して述べる.

16.ホルモン療法

著者: 石河修

ページ範囲:P.1272 - P.1274

 従来,わが国では欧米に比べ女性の尿失禁への関心度は著しく低かったが,近年のQOLを求める流れの中で,次第に女性の中にもその関心が増してきている.そのニーズに応えるべく当教室では1990年より排尿機能調整外来を開設し現在に至っている.本項では女性ホルモンとくにエストロゲンと下部尿路との関係および当教室におけるホルモン療法の実際について述べるとともに欧米でのホルモン療法の現況についても言及することとする.

17.尿失禁の漢方療法

著者: 村田高明

ページ範囲:P.1275 - P.1277

 尿失禁は元来,老人や褥婦に多い疾患と言われてきたが,最近は若い女性にもみられ,その頻度も15〜30%という報告がある.尿失禁の兆候があっても,子宮脱垂,年齢的なあきらめやその羞恥心から,かなり重篤にならない限りは受診しないのが現状である.尿失禁は泌尿器科領域の疾患であるが,解剖学的に内性器に隣接している膀胱の病変であるため,産婦人科を訪れ,治療を請う場合も少なくない.尿失禁には,その病態から腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁,反射性尿失禁,溢流性尿失禁,夜尿症などに分類されているが,臨床の場では画一的な治療法に終始している傾向にあり,また難治症例も経験する.
 そこで,漢方医学の立場から尿失禁の考察を試み,漢方治療の可能性について述べることにする.

18.手術療法—1 経腟

著者: 下浦久芳

ページ範囲:P.1278 - P.1285

 腹圧性尿失禁stress urinary incontinence(以下SUI)を経験する婦人は本邦においても案外多い.本人にとって気にはならないsubclinicalのものが大部分であるが,重症の尿もれは患者のQuality of Lifeに影響を与える.真性SUIは解剖学的SUIともいわれ,近位尿道と膀胱頸すなわち尿道膀胱移行部urethro-vesical junction(以下UVJ)の支持の欠如を特徴とする.支持の欠如はいわゆる尿道脱として単独で起こることもあるが,しばしば膀胱脱を含む各種性器脱を伴う.著明な膀胱脱のためにSUIが潜在化し,尿道の屈曲により排尿困難や尿閉さえ起こる.下部尿路機能の回復は性器脱修復術の主目的の一つであり,臨床的に重要な課題である.

19.手術療法—2 経腹

著者: 塚本直樹

ページ範囲:P.1286 - P.1291

 尿失禁の原因はいろいろとあるが,手術の対象となるのは腹圧性尿失禁,尿瘻,尿道憩室などである.紙数が限られた本稿で,これらすべてについて触れることはできないので腹圧性尿失禁のみについて述べることにする.
 腹圧性尿失禁とは,The International Conti—nence Societyが定義するgenuine stress inconti—nence(以下SIと略)のことで1),咳,くしゃみ,笑い,いきみ、縄跳びなど腹圧を増すような状態において,膀胱内圧が尿道内圧を越えて上昇するために,膀胱排尿筋の収縮を伴うことなしに不随意的に尿を漏らす現象である.産科婦人科用語集(第3版)では緊張性尿失禁という表現になっており,私もそれに従っていたが,最近では腹圧性尿失禁と表現したほうがよいと考えている.

20.治療中のトラブル

著者: 荒木徹

ページ範囲:P.1292 - P.1293

 尿失禁,頻尿には抗コリン作用剤が頻用される.最近開発されたポラキス,バップフォーなどはとくに優れた効力をもつ.しかし,失禁の原因とタイプは多様であり,治療も一様ではない.そこを考慮しないで尿失禁と頻尿に対しこれらを投与すれば,尿閉や新たに溢流性尿失禁を作ることもある.一方,多くの問題点を持つ長期間の膀胱留置カテーテルは清潔間欠自己導尿(CIC)の導入で激減したが,社会的尿失禁や真性(完全)尿失禁など止むを得ずこれを置く場合もある.以下,これら2点による治療中のトラブルとそれに対する対策と予防法について述べる.

カラーグラフ 微細血管構築とコルポスコピー・6

Dysplasia・2

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.1211 - P.1213

Mosaic
 先述したPunctationと並んでDysplasiaにおいてコルポスコピー下に観察される異常血管所見は“Mosaic”である.国際婦人科病理コルポスコピー学会ではMosaicを「赤い境界で区画されたモザイク模様を示す限局性の異常病変」と定義している.以下,DysplasiaにおけるMosaicの血管構築とその形成過程を供覧する.
 図1はmild〜moderate dysplasiaに認められたMosaicのコルポスコピー所見である.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン

子宮全摘に使い勝手の良い止血鉗子

著者: 村上弘一 ,   荒木克巳 ,   寺田督 ,   井上正樹

ページ範囲:P.1296 - P.1296

 子宮全摘術において注意を要する部位は,基靱帯内の子宮動脈および子宮静脈とその近傍を走行する尿管の処理であり,この処理の良・不良により出血量の多寡や術中の尿管損傷の有無が決まってくると思われる.血管の結紮・切断方法は,基本的には周囲の結合組織を十分に剥離し血管のみを結紮した後に切断するものであるが,子宮全摘術での卵巣固有靱帯中の血管や子宮動・静脈の結紮・切断においてはある程度の結合組織を付けたまま種々の圧挫鉗子を用いた集束結紮で行われることが多い.
 当科では,集束結紮の際に用いる圧挫鉗子としてライビンガー社(Leibinger,西ドイツ)の子宮摘出用止血鉗子を使用している.この止血鉗子はペアン鉗子を改良し,保持部位の中央に深い縦方向の特殊な歯型が組み込まれている.この縦方向の歯型より,組織の滑脱を防ぐことが出来るわけである.また把持がしっかりしている反面,腰の粘りもあり,使い勝手のよい鉗子である.この鉗子には,長さが16.5cm,18.5cm,20.5cmと3種類のものがあり,骨盤内の深さに応じて使い分けを行っている.集束結紮を行う場合に困ることは切断端の滑脱であるが,種々の圧挫鉗子(万能鉗子,コッヘル鉗子など)では時々滑脱が生じ,思わぬ出血をまねくことがあった.

広汎性子宮全摘出術における直腸側腔の展開

著者: 加藤順三

ページ範囲:P.1297 - P.1297

 広汎性子宮全摘出術の手順は,膀胱・直腸側腔の暫定的剥離,骨盤リンパ節郭清,膀胱側腔と直腸側腔の徹底的展開,基靱帯の分離・一括切断,次いで,(仙骨子宮・直腸腟靱帯の遊離・切断を含む)後方操作を行う方法,すなわち,後方操作に先だって基靱帯切断を行う手順と,後方操作の後,直腸側腔展開,基靱帯切断を行う手順とがある.
 熟練度の高い術者には,どの操作でもよいが,前者の手順では,直腸側腔の展開の方向が骨盤壁に近づきやすい.つまり,骨盤側血管に近づきやすいのと,比較的狭いスペースで基靱帯の切断をすることになるので,一般的には,直腸側腔の展開は,後方操作の方が容易で,かつ十分なスペースが得られ,骨盤神経の走行もより明確になり,基靱帯処理がよりやり易く,安全であると思う.

連載 産科外来超音波診断・11

脈絡叢嚢胞(Choroid Plexus Cyst:CPC)—その管理のジレンマ

著者: 清水卓 ,   伊原由幸

ページ範囲:P.1303 - P.1306

 1984年に初めてChudleighらが,CPC(chor—oid plexus cyst)の超音波診断例5例を報告して以来1),現在までに多くのCPC例が報告されている2-20)
 また,最近では,CPCと染色体異常との関連が示唆されているものの,いまだ確立されたものではない.本稿では,CPCの最近の文献をもとに,その管理について述べる.

CURRENT RESEARCH

胎盤性凝固抑制因子・Calphobindinの研究

著者: 設楽芳宏 ,   木村菜桜子 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.1307 - P.1317

 胎盤は母体と胎児の接点であり,肺,腎,消化管,内分泌器官などの機能を有する重要な組織である.この胎盤の機能は円滑な胎盤循環によって営まれており,胎盤循環の機能低下は即座に胎児の発育,生命環境に重大な影響を及ぼす.ところが胎盤は分娩後の剥離出血予防のため止血機能としての組織トロンボプラスチンを豊富に含む組織であることが知られており,血栓好発組織と考えられている.われわれは胎児の順調な発育のためには血栓抑制物質が存在する必要があるとの仮説のもとに胎盤性凝固抑制物質の存在の解明にとりかかった.果たせるかな首尾よく胎盤の組織から血液凝固を抑制する物質を発見,精製することができたが,作用機序の解明から本物質がCa2+・リン脂質結合蛋白であることが判明し,いくつもの生理作用を有することが次第に明らかにされてきた.生命維持に不可欠な物質であるとも考えられるようになり,産婦人科という領域を越えた全生物学的研究が必要であると感じている.

原著

前回帝王切開の取り扱いに関する検討

著者: 嶋本富博 ,   立山浩道 ,   吉山賢一

ページ範囲:P.1319 - P.1323

 前回帝王切開の場合の分娩の取り扱いについて,過去15年間の分娩症例を対象として検討した.分娩総数は10,164例で,そのうち帝王切開は1,572例(15.5%)であった.帝王切開の適応としては前回帝王切開が最も多く356例(22.6%)であった.しかし前回帝王切開の内273例(43.4%)は経腟分娩を試み,そのうち225例(82.4%)が経腟分娩となった.前回帝王切開時の適応別に見てもcephalopelvic disproportion(CPD)を含めた分娩停止の場合でも,80%は経腟分娩となった.また経腟分娩を試みた症例の中には子宮破裂の症例は1例もなかったが,切迫破裂を疑われるものは5.25%と高率に認めた.したがって,前回帝王切開であっても,症例を選んで経腟分娩を行えば,80%以上が経腟分娩が可能であった.しかし,前回帝王切開例では,慎重に分娩経過を観察し,切迫子宮破裂・子宮破裂を疑われる場合は,速やかに帝王切開を行える準備をしておくべきである.

私の臨床

不妊症外来における注射の副作用について

著者: 宇津宮隆史 ,   指山実千代 ,   足達明予 ,   磯崎美智子

ページ範囲:P.1325 - P.1329

 不妊症診療において多用されるHMG製剤の卵巣過剰刺激症候群などを除くアレルギーなどの直接的な副作用を調べた.対象は外来患者延べ1,747例で,検討したHMG製剤はパーゴグリーン,フェルティノームP,ヒュメゴンなどでHCG製剤についても調べた.その結果,注射時の局所の痛みはすべての製剤の50%以上に認められ,とくにヒュメゴンにその傾向が強かった.また副作用と思われる頭痛,局所の圧痛,発赤などは20%前後,全身倦怠感は7.7%に見られ,その出現日は注射初日が多かったが,中には途中で現れる例も見られ,徐々に全身倦怠感が強くなり,点滴を必要とし,製剤を代えて治った例もあった.そして全体の8.35%に何らかの副作用症状が認められた.これらはその精製行程から考えて製剤中の不純物に対するアレルギーによると考えられ,製剤の純化が待たれると同時に,われわれも日常診療ではこれらの点に注意しておくべきと思われた.

薬の臨床

化学療法後重度骨髄抑制に対するGCSF(フィルグラスチム)持続静注法の臨床検討

著者: 寺内文敏 ,   植野りえ ,   豊岡理恵子 ,   田辺勝男 ,   伊原佐江子 ,   亀井麻子 ,   小倉久男

ページ範囲:P.1331 - P.1334

 化学療法施行後に,感染症を併発した好中球減少症ならびに出血傾向をきたした血小板低下症を引き起こした重度骨髄抑制に対し,G-CSF持続静注法を施行し臨床的に効果を検討した.持続静注投与開始よりすみやかに白血球,好中球は増加傾向を示し,持続静注投与開始前皮下注投与期間は,短期間ほど持続静注の効果は有意に認められた.血小板数回復効果は,時間を要し今後の検討が必要である.

更年期障害に対するtofisopam(グランダキシン®)・estriol(エストリール®)の治療効果について

著者: 首藤聡子 ,   津村宣彦 ,   川口勲

ページ範囲:P.1335 - P.1340

 更年期障害の患者71例に対し,estriol単独使用,tofisopam単独使用,およびtofisopam, estriol併用の3群間で臨床効果を検討した.閉経前の患者群において,estriol単独使用群に比べtofisopam単独使用群およびtofisopam・estriol併用群は,更年期障害に基づく各種の臨床症状を有意に改善すると考えられた.閉経後の患者群においては,各薬物投与群間の有効率にほとんど有意差は認められなかった.Estriolは比較的副作用が少なく使用しやすいエストロゲン製剤であるが,今回の検討では単独使用よりtofisopamとの併用が有効であることが示唆され,この傾向は閉経前の患者において著明であった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?