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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科50巻12号

1996年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 初期治療60分—婦人科救急

救急治療はどう変わったか—救命救急と婦人科疾患

著者: 鈴木忠

ページ範囲:P.1518 - P.1522

●はじめに
 厚生省の救急医療整備計画により,重症度別に対応する搬送システムが確立してきた.
 そのなかで,三次救急患者,すなわち生命危機状態および重篤化傾向の急速な患者については,全国120あまりに指定された救命救急センターが重点的に対応することになっている.

婦人科救急疾患の治療

1.大量性器出血

著者: 中村幸夫 ,   田中幹二 ,   功刀孝也

ページ範囲:P.1523 - P.1524

 「大量性器出血」の明確な定義はないが,普段の月経量に比較して多いもの,というのが一般的な理解であろう.どんな出血でも血管の損傷によって起こるわけであり,その損傷が大きかったり,止血機構に異常があれば,結果として大量出血につながる.血管の損傷原因には,外傷性・腫瘍性・炎症性などがあるが,性器出血に特徴的なこととして,ホルモン依存性のいわゆる機能性子宮出血が挙げられる.

2.卵巣出血

著者: 春日義生

ページ範囲:P.1526 - P.1528

 卵巣出血は婦人科急性腹症の代表的なもので,その成因の多様さと,腹腔内出血以外には特徴的な検査所見がないことから,診断は除外診断が主であり,以前は診断に苦慮したことも多かった.しかしながら,最近のように経腟超音波検査法が進歩して診断が容易になってみると,若い女性の腹痛の原因として結構多い疾患であるという印象がある.

3.子宮外妊娠

著者: 森巍 ,   松本貴

ページ範囲:P.1529 - P.1531

 子宮外妊娠の典型的な症状は下腹痛,無月経,膣出血であるが,近年高感度hCG測定キットおよび経腔超音波検査の普及により,子宮外妊娠は症状出現以前の未破裂の時期に,非侵襲的に,より正確に診断される機会が増した.出血性ショック症状を呈する重篤な症例は少なくなり,治療法も侵襲の少ない腹腔鏡下手術を選択する機会が増加してきた.

4.卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

著者: 石塚文平

ページ範囲:P.1532 - P.1535

 体外受精などの補助的生殖技術(assisted repro—ductive technology)の普及とともに,controlledovarian stimulationが高頻度に行われるようになり,それに伴って最も重大な副作用である卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syn—drome:OHSS)の発生頻度が増し,臨床的に重大な問題となりつつある.
 本稿で取り扱う救急治療の対象となる重症例はOHSSのごく一部であるが,それに適切に対応できることが生殖医学の専門家の条件と言える.

5.卵巣嚢腫茎捻転

著者: 石川卓爾

ページ範囲:P.1536 - P.1538

 急性腹症は,急激に発症した強い腹痛を主訴としており,経過を見る余裕はなく,開腹手術を前提とした手早い診断が要求される.
 卵巣嚢腫茎捻転は,産婦人科の急性腹症のなかでも子宮外妊娠,卵巣出血と並んで頻度の高い疾患である.

6.骨盤内炎症性疾患(PID)

著者: 篠崎百合子

ページ範囲:P.1540 - P.1541

 PIDの感染経路としては,上行性感染が大部分である.病原微生物が腟から上行性に腹腔に達する結果,子宮内膜炎,卵管炎,付属器膿瘍,骨盤腹膜炎を起こす.原因として一般の細菌によるものとクラミジア,淋菌など性交為感染症(STD)によるものがある.

7.腟裂傷・外陰血腫

著者: 進純郎

ページ範囲:P.1542 - P.1544

腟裂傷
 第1児娩出,巨大児分娩,産科手術(吸引分娩,鉗子分娩など)に際して,多くの産婦は腟・会陰裂傷を受けやすい.その際に産科救急として問題となるのは腟壁裂傷部位からの強出血である.安易に対応すると短時間に大量の出血を生じ,産科ショックの原因ともなる.

8.播種性血管内凝固(DIC)

著者: 鈴木重統

ページ範囲:P.1546 - P.1549

 DIC(播種性血管内血液凝固症候群,dis—seminated intravascular coagulation)とは,なんらかの病的な原因により凝固系が活性化され,全身の微小血管内に血栓が多発し,そのために各凝固因子の消費ないし低下と,これに連なる線溶系の亢進が起こり,出血傾向や臓器の機能障害などをきたす一連の症候群のことである.
 担癌生体が血液凝固亢進状態にあることは,筆者を含めて多くの報告がある1).また,婦人科のDICは,急激に出現する産科DICとは性質が異なり,悪性腫瘍の進行に伴ってゆっくりと進行する慢性のDICである.

術後の救急対策

1.深部静脈血栓症と肺梗塞

著者: 井槌慎一郎 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.1550 - P.1552

 肺梗塞は,全身の静脈系に発生した栓子(血栓,脂肪,空気など)が肺動脈を閉塞する肺塞栓症から発症し,その閉塞動脈域の肺実質が出血性壊死を起こしている病態(肺塞栓症の10〜15%に発症)をいう.
 肺塞栓症の原因としては,骨盤内や下肢深部静脈血栓症の合併症とも言え,その閉塞部位,範囲,程度によっては急速に進行し致命的となるため,深部静脈血栓症に対する迅速な診断と治療により,その発症を防止することが重要である.

2.MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)感染症

著者: 滝沢憲

ページ範囲:P.1554 - P.1555

 MRSAに対する関心が高まり,多くの病院でさまざまな水平感染防止対策がとられるようになり,MRSA感染症は着実に減少している.MRSA感染症はひとたび発症すると急激に重篤化するので,本症を疑診できる能力を養っておくことは,婦人科手術を担当する我々にとって有意義と思われる.

3.術後のイレウス

著者: 三重野寛治 ,   小平進

ページ範囲:P.1556 - P.1559

●はじめに
 婦人科手術後のイレウスは,術後イレウスのなかで10%前後を占める(図1)1).しだいに減少してきているが,迅速な診断と治療をせまられる急性腹症の代表である.

4.尿管損傷

著者: 永田一郎

ページ範囲:P.1560 - P.1564

 手術による尿管損傷には2種類ある.1つは手術操作による直接的損傷,もう1つは術中剥離された尿管が術後の癒着などで屈曲したりして通過障害をきたし,尿管の狭窄,閉塞,痩孔を生じるいわば間接的損傷である.

5.産婦人科領域における糖尿病性ケトアシドーシス

著者: 島田朗 ,   穴沢園子 ,   松岡健平

ページ範囲:P.1566 - P.1567

 産婦人科領域において,糖尿病性ケトアシドーシス(DKA:diabetic ketoacidosis)がとくに問題となるのは妊娠中の場合である.1975年以前はインスリン依存型糖尿病(IDDM:insulin depen—dent diabetes mellitus)患者の妊娠中におけるDKAの頻度は約25%にものぼり,ひとたびDKAを起こした場合,胎児死亡率は70〜90%にも達していた.その後,妊娠中の血糖コントロールの重要性が認識され,近年はかなり頻度が減少しているものの,なおその発症率は5〜7%,胎児死亡率は35%と報告されている1)

6.甲状腺クリーゼ

著者: 石川直文 ,   百渓尚子

ページ範囲:P.1568 - P.1570

 甲状腺クリーゼとは未治療または不十分な治療により甲状腺機能亢進症状態にあるバセドウ病患者が,感染や手術などを誘因として甲状腺ホルモン過剰状態に対応しきれなくなった病態をいう.発症頻度は低いが,病態はきわめて重篤で,最善の治療を施しても致命率は依然として高い.機能亢進時に認められるが,ホルモンの値だけでは単なる機能亢進症とは区別できず,発症の真の機序は不明である.何よりもバセドウ病を見逃さないことがたいせつである.

7.婦人科手術と不整脈—術中・術後の不整脈への対応

著者: 山科章

ページ範囲:P.1572 - P.1574

 循環器科医が周術期に相談を受けることは多いが,不整脈についてもまれでない.本稿では,麻酔・手術が心臓に及ぼす影響,術中・術後に不整脈がみられる場合の対策についてまとめる.

救命救急手技

1.抗ショック療法

著者: 武田純三

ページ範囲:P.1575 - P.1577

 悪循環に陥る前の早期にショックを診断して,不可逆性の病態や多臓器不全になる前に治療を開始することが予後を決定する.①ショックの原因に対する治療,②ショックに対する一般的な補助療法,③ショックに伴って起こる急性腎不全などの合併症の対策に分けられるが,本稿では補助療法について述べる.

2.気管内挿管と輪状甲状靱帯切開

著者: 高野郁郎 ,   萩原章嘉 ,   行岡哲男

ページ範囲:P.1578 - P.1579

 気管内挿管は,気道確保を目的とした最も基本的な救命救急手技の1つである.気管内挿管が実施できない場合は,救命処置としては輪状甲状靱帯切開が選択されるべきである.筆者らは,定型的な気管切開は救命を要する状況下での適応はないと考えている.

3.中心静脈穿刺と持続カテーテル

著者: 岸清志

ページ範囲:P.1580 - P.1582

迅速診断のポイント
 〔中心静脈穿刺の目的〕
 ショック患者の救急時にはすばやく確実に血管を確保しなければならない.まず末梢静脈穿刺を行うが.末梢静脈が虚脱していて血管確保が困難な場合も少なくない.その際には中心静脈穿刺を行う.また,ショック患者の治療には各種薬剤の投与,大量輸液が行われるため中心静脈の確保は必須である.

4.胸腔穿刺

著者: 東海林哲郎 ,   伊藤靖 ,   金子正光

ページ範囲:P.1584 - P.1587

 胸腔内に多量の気体や液体が貯留すると肺の換気が障害され,胸腔内圧が上昇して静脈還流が妨げられ,さらに貯留物が血液であれば出血による循環血液不足が起こり,呼吸・循環不全を呈する.とくに,緊張性気胸では呼吸ごとに胸腔内圧が高まり縦隔,心・大血管を圧迫,さらに静脈還流が障害され,急速に致死的状態を呈する1).胸腔穿刺は胸腔内に貯留した液体の試験的採取をはじめ,胸水の排液,薬剤注入,気胸の脱気など広く行われるが2),本稿ではとくに一刻を争う緊急な病態の救命救急の手技としての胸腔穿刺と胸腔ドレナージに重点をおいて述べる.

5.腹腔穿刺

著者: 堀明洋 ,   山口晃弘 ,   磯谷正敏

ページ範囲:P.1588 - P.1589

腹腔穿刺の適応
 1 診断のための穿刺(試験的穿刺)
 1)腹腔内貯留液の有無の確認
 腹腔穿刺では100ml,超音波検査では150ml,CTでは500ml以上で貯留液の診断が可能であるが1),腹腔穿刺は侵襲的検査であり,適応を十分に考慮する.

6.緊急輸液

著者: 宮城良充

ページ範囲:P.1590 - P.1592

 産科・婦人科で緊急輸液を必要とする病態を想定するとしたら,大部分は出血によるものであろう.産婦人科領域の出血をきたす病態は他の執筆者が述べているので,本稿は出血時の輸液について考えてみたい.

7.血液確保

著者: 藤井恒夫

ページ範囲:P.1594 - P.1596

 輸血療法はきわめて有効な治療法であるが,ときとして感染症,同種免疫,免疫抑制作用および輸血後移植片対宿主病(graft versus host dis—ease:GVHD)などの重篤なリスクを伴うことがある.これらの副作用を防ぐために,最近は輸血用血液に対する放射線照射や予定手術の自己血輸血が推奨されている.
 救急時の輸血の実施に際しては,他に治療法がないか,緊急避難的状況またはリスクを上回る効果が期待される場合に限定することが望ましく,慎重に適応と輸血量を決定し,安全で有効な輸血をしなければいけない.近年,救急処置としての輸血はできるだけ避ける傾向にある.

連載 シリーズ 胎芽の発育と形態形成・12

皮膚と歯の発生

著者: 塩田浩平

ページ範囲:P.1515 - P.1517

 皮膚を構成する組織のうち,表皮epidermisは皮膚外胚葉surface ectodermから,真皮dermisはその深部の間葉からできる.胎芽の体表は,はじめ単層の立方上皮で覆われており,7週頃に単層扁平上皮である周皮peridermがその表層に形成される(図1)が,周皮は20週頃から徐々に消失していく.基底層の細胞の増殖によって11週頃までに表皮が重層化し,基底層(胚芽層)と周皮の間に中間層が形成される.皮膚の固有上皮層(基底層と中間層)は,4か月末までに,胚芽層ger—minal layer,有棘層spinous layer,顆粒層granu—lar layer,角質層horny layerの4層に分化する.真皮を作る間葉は,側板中胚葉の壁側板または体節から分化した皮板dermatomeに由来する.
 表皮胚芽層の細胞が真皮に向かって充実性に進入し,毛の原基である毛芽hair budを形成する(図2).毛芽の先端が球状に膨らんで毛球hairbulbとなり,そのすぐ深層の凝集した間葉が毛乳頭hair papillaとなって,ここに血管と神経終末が進入する(図3,4).毛幹を取り囲む毛芽の細胞が上皮性根鞘epithelial root sheathに,その周囲を取り巻く間葉が結合組織性(真皮性)根鞘connective tissue(dermal) root sheathに分化する.

Q&A

児推定体重4,000g以上のときには帝王切開か(1)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1599 - P.1601

Q 児推定体重4,000g以上のときには帝王切開をすべきでしょうか?
 A 児体重が4,000g以上になりますと,肩甲難産の発生頻度が高くなります.したがって,児推定体重(EFW)が4,000g以上であれば,帝王切開(帝切)を行うという選択も考えられます.①肩甲難産の定義と頻度②巨大児増加因子と肩甲難産と新生児予後③肩甲難産の分娩前診断と肩甲難産を予知し回避できるか,④児推定体重が4,000g以上のときは帝王切開をすべきか,などについて4回にわたって肩甲難産回避の方法を含め質問にお答え致します.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

腹式単純子宮全摘術における腟断端処理

著者: 伊藤裕

ページ範囲:P.1602 - P.1602

 婦人科において最も頻度の高い手術術式として正確かつ迅速な処理が求められる腹式単純子宮全摘術では,術後障害として炎症性の膣断端肉芽腫と断端部の血腫がある.両者とも患者さんには不安を与え,診療する側にとっては厄介で不愉快なものである.腟切断前後の処理において,ふたつの工夫をすることによって絶滅できて久しいのであえて紹介する.
 その1つは,傍結合組織および膣断端の処理に当たって,絹糸を用いないですべて吸収糸を使用することである.これによって絹糸を中核に発生した肉芽腫の発生はなくなり,絹糸を取り除くまでいくども繰り返して肉芽腫の除去を行う辛さから解放された.

術後血腫防止のためのペンローズドレーンの使用

著者: 関賢一 ,   岩田嘉行

ページ範囲:P.1603 - P.1603

 婦人科開腹手術に際し,最も一般的に使用されるドレーンは,悪性腫瘍手術時のリンパ節郭清に伴い骨盤死腔に貯留する創液,すなわち血液,リンパおよび浸出液などを排除してその貯留を防ぐために用いるものであろう.この目的のためにはいわゆる尾骨ドレーンや最近では陰圧で持続的に吸引することが可能なSBドレーンなどがある.また,PIDや感染性付属器手術の際には,膿や浸出液を排除するために,手術部位からダグラス窩を経て腟内へドレーンを導くことなども行われている.
 一方,腹式単純性子宮全摘術においても,開腹手術の既往のあるものや,進行した内膜症の症例などでは子宮後壁,仙骨子宮靱帯,直腸前面,後腹膜などに強固な癒着を生じ,これを剥離した後の漿膜面からは,量的にはわずかではあるが頑固な出血を生じ,この処置に意外と手こずることがある.また,術後,腟断端部に血腫を生じたり,感染を起こしたりする危惧が生じる.このような場合,筆者らは極力両側後腹膜腔にNo.8ペンローズドレーンを留置し,これを断端から膣内へ導き,貯留する血液をドレナージするようにしている.

Estrogen Series・10

エストロゲン補充療法(ERT)とアルツハイマー病(その2)

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1604 - P.1604

 先にご紹介したERTとアルツハイマー病(本誌50巻8号,1082ページ)予防の関連について,最近の英国Lancet誌に新しい論文が発表されたので,今回はその2としてご紹介したい.論文はコロンビア大学からのものである.
 著者らは1,124人の健康な高齢女性(平均年齢74歳)を対象に追跡調査を行い,その間に167人(14.9%)にアルツハイマー病の発症をみた(表).アルツハイマー病を発症した女性は,調査期間中に発症しなかった女性に比較すると,より高齢(78.5vs73.7)であり,教育期間はより短い(6.7年vs9.6年)ことが観察されたが,閉経年齢には相違がなかった.

Current Praetice

骨盤位の外回転術

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1597 - P.1598

 米国では帝切の約15%が骨盤位によるものである.しかし,最近とみに多く行われるようになった外回転術(external cephalic version, ECV)の採用は骨盤位による帝切率を低下させている.
 Zhangらは,最近ECVに関するreviewを行い,その成功率は48〜77%ほどの範囲内にあり,平均65%であると発表している1).一度ECVが成功すれば,ほとんど100%が分娩開始まで頭位を保ち,もとの骨盤位に戻ることはまれである.しかし,ひとたび頭位になったからといって,そのまま全例が経腟分娩できるわけではない.頭位となってからfetal distressや児頭骨盤不均衡(cephalopelvic disproportion, CPD)で結局は帝切となるものは37%である,なお,ECVが不成功な場合の帝切率は83%であった,とZhangらは報告している1).ECVの成功率を低下させる条件を挙げると,以下のごとくである.

臨床経験

弛緩出血や軟産道裂傷とは原因の異なる分娩後の出血

著者: 関博之 ,   山本智子 ,   黒牧謙一 ,   竹田省 ,   木下勝之

ページ範囲:P.1607 - P.1609

 頸管裂傷,子宮口の挫滅,腟壁裂傷などの明らかな原因が認められないにもかかわらず,分娩後に出血が持続し,その処置に苦慮する場合がある.このような症例での出血は,頸管内側の筋層の部分断裂や挫滅創,低位胎盤での子宮下節の胎盤剥離面からの出血などによることが明らかになった.その処置は,出血点をバイクリルなどの吸収糸で縫合し,必要に応じてヨードホルムガーゼで圧迫することである,今回われわれが経験した症例を呈示し,その診断法および処置法の詳細を報告する.

症例

乳汁漏出無月経症候群に著しい肥満を伴った下垂体プロラクチノーマの1例

著者: 井浦俊彦 ,   富沢英樹 ,   川上博史 ,   高林晴夫 ,   桑原惣隆 ,   利波久雄

ページ範囲:P.1611 - P.1614

 患者は27歳の未婚女性,主訴は乳汁漏出と無月経および同時期から1年間で約60kgの体重増加であった.初診時所見,身長154cm,体重112kg,肥満度+130%,全身状態は良好.内分泌検査では,プロラクチン1,228ng/m高値,成長ホルモン0.09ng/m1低値.頭部MRIにて,下垂体領域に長径2cmの腫瘍が存在し,腫瘍内は壊死性変化を示し,視神経交叉および視床下部を上方へ圧迫し,鞍背を越えて背側の脳脊髄液領域へ進展した下垂体腺腫が認められた.眼科検査では,視力,眼球運動は左右とも異常なし,視野は左の耳側に視野の沈下(軽度)が認められ,視神経交叉の圧迫が示唆された.
 特徴的所見は,プロラクチノーマによる乳汁漏出無月経症候群に,視床下部の障害の時期に一致した著しい視床下部性肥満を呈したことである.また,病歴のうえから過食がなかったことは,興味深いことである.

Multilocular Peritoneal Inclusion Cystの1例—その治療法に関する考察

著者: 武内享介 ,   望月眞人 ,   北沢荘平 ,   中嶌一彦 ,   北垣壮之助 ,   古結一郎

ページ範囲:P.1615 - P.1618

 Multilocular peritoneal inclusion cyst (MPIC)は嚢腫様の中皮増殖を主体とする多房性の非上皮性嚢胞で,既往の腹部手術による腹膜の障害を原因として発生するとされている.今回,再発をきたしたMPICに対して経腟超音波下に穿刺後,ダナゾールによる卵巣機能抑制にて再発を防止し得た症例を経験した.症例は50歳で単純子宮全摘術後,1年前に卵巣腫瘍にて開腹術を施行,組織診断ではMPICであった.今回初診時,超音波,CTで7×llcmの多房性嚢胞を認め,MPICの再発を疑った.経腟超音波下にダグラス窩より嚢胞を穿刺吸引し,嚢胞液中に反応性中皮細胞を確認した.その後外来にてダナゾール投与を1年間施行し,3年9か月時点で再発を認めていない.MPICは頻回手術の原因ともなるので,腹部手術後に認められた腫瘤に対してはその可能性の考慮が必要である.経腟的嚢腫穿刺と薬剤による卵巣機能抑制の組み合わせはMPICに対する治療の選択肢として位置づけられ,その長期的効果の検討をする必要がある.

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「臨床婦人科産科」第50巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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