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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科51巻11号

1997年11月発行

雑誌目次

今月の臨床 男性不妊をどうする Overview

1.最近の男性不妊の動向—産婦人科の立場から

著者: 星和彦 ,   小川恵吾

ページ範囲:P.1140 - P.1143

 日常,不妊症の診療に携わっていると,不妊症患者のうち男性因子の患者が多いことに少なからず驚かされる.また,しばしば男性因子の患者の治療方針に苦慮させられる.不妊症において男性因子が関与している割合は一般に40〜50%といわれているが,実際はもっと多いのではないかと思えてくる.1996年1月から1997年4月までに当科不妊外来に登録された患者の精液検査において,精子所見に異常を認めた(WHOの提唱する正常値を下回った)患者は,132人中じつに81例(61.8%)にものぼった.
 WHOの正常精液所見を表1に示すが,1987年の基準に比べて正常形態精子の割合は「50%以上」から「30%以上」と変更されている1,2).正常形態を示す細胞が30%,言え換えれば形態異常細胞(奇形細胞)が70%含まれていても正常とする規定は他の組織では考えられない.表1にWHOが正常値を提唱する以前の値も種々の専門書から抜き出して記載したが,形態正常精子だけでなく精子濃度や精子運動率の正常値も以前に比べて相当低値に設定されている.これはとりもなおさず,男性の妊孕能の世界的なレベルダウンを意味しており,それを裏づけるような報告をいくつかの文献のなかにみることができる.

2.最近の男性不妊の動向—泌尿器科の立場から

著者: 田中啓幹

ページ範囲:P.1144 - P.1148

 不妊症とは「少なくとも1年間避妊をせずに妊娠をしないこと」と定義され,一般に約15%の夫婦が不妊夫婦といわれている1,2).WHOの調査では夫婦の約8%,世界で年間200万組の夫婦が新しく挙児に恵まれないことになり,先進国では50年来,発展途上国でも20年来の社会的緊急問題として取り上げており,これを年間の新患者数が590万人の悪性腫瘍罹患数と対比して考慮されるべきであるとしている3).不妊の原因は,1993年WHOが調査した7,273組の不妊夫婦によると,女性側のみの原因が41%,男性側のみが24%,男女共が24%,原因不明が11%であったとしており4),男性因子の関与が約半数という従来の報告5)ともよく一致している.
 これに鑑みてWHOは,1980年に発刊したヒト精液と精子—頸管粘液相互作用に関する検査マニュアルを1987年と1992年に改訂し6),さらに1993年世界で同じ土俵(flow chart)で評価できるよう不妊症の基準検査法と診断法のマニュアル3)を刊行している.

診療上の必須知識

1.精子の形態と精子形成

著者: 荒木康久 ,   荒木重雄

ページ範囲:P.1150 - P.1153

精子の形態
 精子の形は厳密にみるとさまざまな形態と大きさを有している.正確に形や大きさを知るには,塗抹・染色をして観察する必要がある.筆者らは簡便なディフクイック染色法を用い,Krugerのstrict criteriaに従い分類している1).精子の各部の形態は次のとおりである(図1).
 精子頭部:精子には一般細胞にみられるような細胞質はほとんどない.ヒトの精子頭部は平面像で見ると小楕円形で,ほぼ前半部を先体に覆われ赤道帯は線状にみえる.頭部の内部は核(nucleus)である.精子核は受精の結果,母方の核と融合し個体発生が始まる.受精能獲得精子では先体の構造が破壊され,先体成分が放出される.

2.精液の組成

著者: 三浦一陽

ページ範囲:P.1154 - P.1158

 精液は大別すると2つの構成成分から成り立っている.精液のそのほとんどは精漿といわれる液体成分であり,残りの細胞成分である精子は全精液の1%にも満たない.
 精漿は以前より副性器の機能や精子の運動機能に影響すると考えられており,精漿に対する多くの研究がなされてきた.本稿では精漿成分が精子運動においてどのように妊娠に重要な役割を果たすのか,あるいは精漿が精子運動に対して,いかに抑制的に作用するのかなどについて,筆者らの多少の経験と文献的考察をもとに述べるが,精漿に関しては,その詳細はいまだに不明な点が多いのが現状である.

3.受精前後の精子

著者: 佐藤嘉兵

ページ範囲:P.1160 - P.1166

 ヒトを始めとする哺乳類の受精に際して,精子は機能的(生理学的・形態的)な変化が引き起こされる.前者はsperm capacitation(精子の受精能獲得)と呼ばれ,後者は先体反応(acrosomereaction)と言われている.このcapacitationが比較的簡単な培養液で誘発可能となって体外受精(IVF)が実用化したといっても過言ではない.哺乳類の受精は受精時に精子は変化するが,卵子は第二減数分裂中期の状態で分裂が停止したまま排卵されてくるが,精子のような卵子とのinterac—tionの前に大きな変化を示すことはない.受精前後の精子の変化が受精そのものに,あるいは以後の発生に影響を与えることを考えると,IVFあるいは顕微授精(ART)を行う場合に再度検討する必要があると思われる.少なくとも現在のところ,IVFあるいはARTでの胚の発生率は自然受精のそれに比べて低率であり,その原因についていろいろ指摘されているが,本質的な原因については明らかにされていない.ここでは主に精子の受精能発現とそれに影響を与える要因について,応用の基礎として整理することを目的とした.

4.精子免疫

著者: 香山浩二

ページ範囲:P.1168 - P.1171

 精子免疫に関する研究の歴史は古く,1899年にはLandsteinerとMetchinikoffによってモルモットの腹腔に異種または同種動物の精子を注射すると,精子を凝集あるいは不動化する血清因子が出現すると報告されている.その後,雄動物を同種の精子または精巣で強化免疫すると,抗精子抗体の産生とともに遅延型過敏反応を伴った自己免疫性無精子症性精巣炎(auto immune asper—matogenic orchitis:AIAO)を発生することが証明され,また臨床的にも一部の男性不妊患者に抗精子抗体が検出されると報告され,精子免疫と不妊の関係が注目されるようになってきた.

AIHの工夫

1.乏精子症とAIH

著者: 詠田由美 ,   宮川孝 ,   瓦林達比古

ページ範囲:P.1172 - P.1174

 従来,AIH(配偶者間人工授精)は精液を直接子宮内に注入する方法がとられていたが,子宮内に注入できる精液量には限界があり,乏精子症ではできるかぎり多数の精子を卵周囲に到達させるというAIHの本来の目的を十分に達し得ない.したがって,受精能を有する運動性良好精子だけを精液中から取り出して確実にAIHを行うために,表1に示すような多数の精子調整法が報告されてきた.AIHの精子調整においては,運動性良好精子の回収とともに簡便性も必要とされる.そこで本稿では精子調整法について概説し,さらに,現在当科で施行しているきわめて簡便な単層パーコール(Percoll)変法の手技およびAIHの方法と成績を示す.

2.凍結保存精子のARTへの応用

著者: 兼子智 ,   小田高久

ページ範囲:P.1176 - P.1178

 ヒト精液の凍結保存に際して最も問題となるのは凍結保存液添加による精子濃度の半減,凍結—融解による運動率低下である.このため精子凍結保存法の不妊治療への応用はAIDに供するドナー精液の凍結備蓄にほぼ限定されており,精液所見不良症例は凍結保存の対象とされなかった.このため,AIH,IVF-ETなどの人工的な授精(ART)は新鮮精液の使用が前提となっており,排卵(採卵)と射精のタイミングをいかに同調させるかに関心が払われてきた.薬物療法による造精機能賦活が困難な現状では,精子を効率よく凍結保存できれば排卵当日以外に得られた精液を利用することが可能となり,実質的には造精機能を賦活したのと同様な結果が期待される.

3.精液性状からみたAIHの限界

著者: 己斐秀豊

ページ範囲:P.1180 - P.1182

 AIH(配偶者間人工授精)が不妊臨床で果たす役割は小さくないが,それなりの限界があり,見切り時がポイントとなる.筆者に与えられたテーマは精液性状からの判断であるが,この場合,採取されたあるいは採取後増強されたサンプルの見かけの性状のみでなく,当該精子の女性性管内での動的機能,卵管内での受精能獲得の一断面について,HIT(子宮鏡下卵管内精子注入法)施行例で得られた最近の成績から論じてみたい.

4.薬物療法の併用

著者: 瀧原博史 ,   中村金弘

ページ範囲:P.1184 - P.1188

 男子不妊症の主な原因としては造精機能障害が最も多く,さらに造精機能障害のなかの約50%が特発性と考えられている1).これらに対する薬物療法には,その効果に一定の限界があり,かならずしも決定的なものがあるとは言い難いのが現状である.筆者らも造精機能の促進に対する各種薬物療法を試みてきたが2-4),それぞれの治療法の効果を比較することはきわめて困難である.すなわち,個々の症例について観察すると改善傾向を認めた薬物療法であっても,一定症例数を対象としたcontrolled studyの結果では,かならずしも統計学的に有意の有効性を示さないことも少なくない.
 最近の急速なARTの進歩により,AIHの工夫としての造精機能促進のための薬物療法の効果に関しても,より厳密な有効性の検討が必要となっている.そこで本稿においては,筆者らのこれまでの報告を含め,造精機能促進のための薬物療法の効果を,主としてcontrolled studyの観点から述べる.

男性不妊とIVF

1.乏精子症とIVF

著者: 中野英之 ,   安部裕司 ,   久保春海 ,   平川舜

ページ範囲:P.1190 - P.1193

 近年,卵細胞質内精子注入法(ICSI)が重度男性不妊症や受精障害を伴う不妊症夫婦に臨床応用され,めざましい成績が報告されている.しかしながら授精に用いる精子の正常性や精子の人為的選択,さらには卵子損傷など本法にはまだ解決されていない種々の問題が残されている.したがって本法を施行する症例の選択は慎重に行わなければならない.基本的には男性不妊症,とくに乏精子症に対しては従来の体外受精—胚移植(IVF—ET)が優先される.しかし乏精子症の精子は受精能力の低下や欠如している場合が多く,その結果IVFを施行しても受精率が低いか,もしくは受精しない症例の存在することを留意しておくことが肝要である.
 そこで本稿では,乏精子症に対するIVFの適応と限界について精子機能の評価法および精子調整法を対象に若干の文献的考察を加え解説する.

2.精子活性化とIVF

著者: 藤野祐司 ,   尾崎宏治 ,   中村嘉宏

ページ範囲:P.1194 - P.1196

 生殖医療の進歩はめざましく,とくに体外受精,顕微授精を含めた生殖補助技術の発展には著しいものがある.これら生殖補助技術,なかでも体外受精の適応の一つに男性不妊が含まれる.これは受精に必要な精子数がin vivoに比べるとinvitroで必要な数がはるかに少数であるためである.しかしながら一般的な体外受精においては,とくに男性不妊の場合,形態ならびに運動性の優れた精子を回収,培精に用いても,必ずしも高い受精率が得られない場合がある.この原因の一つとして精子の活性化が大きな問題としてクローズアップされている.
 一般的に精子細胞は精巣で作られるとただちに運動性や受精能を発現するものではなく,精巣上体内で運動性を獲得し,射精後,雌性生殖管内を通過する過程で,受精能を獲得し先体反応(capacitation)を引き起こしてはじめて卵丘細胞,透明帯を通過することが可能となり,その結果,卵細胞との融合が可能となる.in vivoの受精においては,雌性生殖管子宮頸部(頸管粘液)—子宮を通過する過程で精漿や細菌などの除去,さらに運動精子の選別が行われ,上記の過程を経て受精に至る.

男性不妊とマイクロ授精

1.マイクロ授精法の現状

著者: 小林一彦

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 近年,通常の体外受精では,受精が成立しない難治性男性不妊に対する治療として,顕微授精が一般的に行われるようになった.顕微授精には透明帯部分切開法(partial zona dissection:PZD,Cohenら1)),囲卵腔内精子注入法(subzonalinsemination:SUZI, Ngら2))および卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI, Palermoら3))などの方法がある.
 これらのうちPZDおよびSUZIは,卵子透明帯の貫通という過程を顕微操作で省くことにより,精子を卵細胞へ容易に到達させて,受精を促進するということを目的として開発された.しかし受精が成立するには,卵細胞膜と接着するための精子の運動性,および先体反応を完了し卵細胞膜と融合する能力が必要であり,精子がそれらの条件を満たしていない症例では,上記の顕微授精法は有効な治療法とはならなかった.

2.円形精子細胞の受精能

著者: 田中温 ,   永吉基 ,   粟田松一郎 ,   馬渡善文 ,   田中威づみ

ページ範囲:P.1200 - P.1204

 男性側の配偶子である精子が,卵子との受精能力を獲得するためには,精細管内において2回の減数分裂とspermiogenesisを経て精巣上体に運ばれ熟成するという一連の成熟過程が不可欠であるといわれている.しかし,近年マウスを用いた実験では父親由来の遺伝情報は第2精母細胞の段階で刷りこまれており1),さらに未熟な細胞レベルでの可能性も示唆されてきている.もしヒトにおいても,精子以前の造精細胞に同様な能力が備わっているのであれば,これらの細胞を用いて,ヒト卵子と正常に受精し,胚発生が生じることも十分期待できる.今回筆者らは,精子の一段階前の円形精子細胞の受精能力について実験を行い有用な結果を得たので報告する.

3.マイクロ授精法の問題点

著者: 高橋克彦 ,   向田哲規

ページ範囲:P.1205 - P.1207

 卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmicsperm injection:ICSI)の成功によって乏精子症はもちろん,閉塞性・非閉塞性無精子症,脊髄損傷,インポテンツなどの症例でも,精巣精子を使用することで,実子を得ることが可能となった.さらに非閉塞性無精子症で精巣精子が見つからない症例でも,精子細胞にて挙児が得られる時代となっている.ICSIにおける受精のメカニズムについてはいまだ明らかではないが,受精障害に関する男性不妊の問題は,ICSIによってほぼ解決されたと筆者らは考えている.しかしながら不妊症治療のゴールが挙児である以上,受精させても,着床,妊娠,出産といった一連の過程は女性側の因子に大きく左右されるという事実がある.ICSIによる妊娠率は精液性状ではなく,女性の年齢と最も相関しているという結果を筆者らも得ており,マイクロ授精法の問題点も男性側ではなく,結局のところ女性側にあるのである.
 本稿では,HARTクリニックで行った約1,500例のICSIについて得た結論と文献的考察を行った.

4.男性不妊と染色体異常—ICSI治療への警告

著者: 神谷博文 ,   東口篤司 ,   高階俊光 ,   森若治 ,   藤本尚

ページ範囲:P.1208 - P.1212

 従来の体外受精(in vitro fertilization:IVF)で妊娠率の向上が期待されなかった重症男性不妊因子をもつグループに,顕微授精法が臨床応用され,その有効性が認められている1)
 現在,その主流となった卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)は,マイクロピペット内に1個の精子を吸引して卵細胞内に直接注入する方法で,注入する精子の成熟,不動,形態,先体反応などにあまり影響されずに高い妊娠率を得ることが判明した.ICSI治療は今や高度乏精子症のみならず,精巣上体精子回収法(microsurgical epididymal sperm aspiration:MESA)や精巣精子回収法(testicular spermextraction:TESE)などにより,閉塞性および非閉塞性無精子症の患者にも妊娠を可能とさせた2)

AIDの現状と問題点

著者: 末岡浩 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.1214 - P.1218

 補助生殖技術(assisted reproductive technol—ogy:ART)の急速な発展により,これまで不治と考えられていた不妊原因の一部は,氷山が削り取られるがごとくに次第に治療可能となりつつある.生殖技術の旗手として登場した人工授精のうち,夫以外の精子提供を受ける非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor�s semen:AID)は,“重篤な男性不妊因子”のために妊娠が不可能である夫婦に対して行う方法である.しかし,ARTの発展はこの“重篤な男性因子”の適応幅を次第に狭めてきた事実がある.また同時に,これらの生殖技術に対する倫理・法律面での議論があり,わが国では自主的にその臨床応用の幅に制限を設けているということもまた事実である1).そして1997(平成9)年5月には,日本産科婦人科学会の会員に対する会告が発表され,その適応や実施範囲について学会の解釈を明確にした2)

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・11

メス豚による動物トレーニング:I—教育システムと基本操作などから

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   山田幸生 ,   西尾元宏

ページ範囲:P.1135 - P.1137

 本シリーズで紹介しているように,従来開腹手術で行われてきた婦人科良性疾患のほとんどが腹腔鏡下手術で行えるようになってきている.当科 においても,現在では婦人科手術のなかで,約8割程度を腹腔鏡下手術として行っている.
 この腹腔鏡下手術では,3次元の腹腔内所見をモニターに再現して2次元の画像下に手術操作を行うことから「画像手術」と呼ばれたり,特殊な機器や器具類などの道具を介して行う手術であることから「具術」とも呼ばれている新しい概念の手術法である.

Estrogen Series・21

低用量ピルと脳卒中の発生(その3)

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1220 - P.1221

 ピルの使用が開始されると間もなく,その使用者に肺塞栓と虚血性脳卒中の発生が観察される,との報告がなされた.1970年代の初期にはさまざまな疫学的調査により,この関係が確認された.1970年代にはピルと心筋梗塞との関連,およびピルと出血性脳卒中との関連が示された.
 ピルの使用の初期には,そのエストロゲン(Ethynil Estradiol:E.E.)含有量は150μgであった.その後エストロゲン量の減少が続き,1970年代のはじめには80〜100μgとなり,その後50μgとなり,さらに現在では30〜35μgのピルが米国では主流である.また米国では心血管系疾患のリスク要因を持つ女性にはピルを使用しないのが通常である.ここに紹介する論文の著者らは,HMOに属する110万人の女性(年齢15〜44歳)中に408例の脳卒中を見いだした.その発生率は10万woman-yearsにつき11.3であった.このうちフォローの不可能なものなどを除いて,残りの295例を対象にコントロール群と比較対照するcase-control studyを行った.これら女性の96%はエストロゲン(E.E.)<50μgの低用量ピルの使用者であった.また,50μg以上のピルの使用者は皆無であった.

病院めぐり

武蔵野赤十字病院

著者: 長阪恒樹

ページ範囲:P.1222 - P.1222

 武蔵野赤十字病院は,日本赤十字社病院の1つとして都心と多摩地区の接点である武蔵野に昭和24年に設立された総合病院である.人口のドーナツ化現象が進み付近の住民が多いことと,中央線武蔵境駅に近接しているため,設立当初から患者数が多く,また他院からの紹介患者が多いのが特徴である.現在717床,医師数166名,全職員数980名の大所帯となり,地域中核病院として活動している.災害時における医療救護や,伊豆大島から小笠原島にかけての島嶼巡回診療も行うほか,ヘリポートを備えた救命救急センター(第三次救急指定)が24時間体制で対応している.また訪問看護ステーションや在宅支援センターがあり,在宅医療やターミナルケアにも積極的に取り組んでいる.院内には文部省認可の小・中学校(各々一学級)があり,長期入院の小児に対応している.看護婦養成教育施設として日本赤十字武蔵野女子短期大学(一学年80名)と,助産婦・保健婦養成のための専攻科(一学年20名)が併設されている.また医師研修施設として,2年間で全科をローテイトする研修医を毎年6名程度採用して実績をあげている.
 産婦人科の常勤医は9名(長阪恒樹,中野睦子,𠮷村 理,梁 栄治,栗栖久宣,頼永八州子,真下道重,蛭川純子,萩野大輔)で,学会認定医はこのうち7名である.他に非常勤医3名と研修医1名が診療に従事している.

国立金沢病院

著者: 岡部三郎

ページ範囲:P.1223 - P.1223

 国策医療と合理化,国立病院医療に課せられた問題は大きい.しかし過去50年を振り返ってみると,国立病院は荒廃下の戦後に始まった地域に密着した医療に大きな功績をみることができる.
 時が流れて50年,国立金沢病院の現在の医療は成長,充実し,熟成したものになりつつある.

症例

劇症型A群レンサ球菌感染症により入院中に母体死亡をきたした1例

著者: 青野一則 ,   芹川武大 ,   関根正幸 ,   東條義弥 ,   花岡仁一 ,   竹内裕 ,   徳永昭輝 ,   廣瀬保夫 ,   大石昌典 ,   渋谷宏行 ,   岡崎悦夫

ページ範囲:P.1227 - P.1230

 1985年にはじめて報告された劇症型A群レンサ球菌感染症は,健常人にも突然発症し,ショック,多臓器不全から急激に死に至る疾患である.発症機序は不明で有効な治療法もなく,死亡率は30〜85%ときわめて高い.今回筆者らは,本疾患によると思われる母体死亡例を経験したので報告する.
 症例は妊娠29週,全前置胎盤,切迫早産で入院中の妊婦で,3日間の上気道炎症状に引き続き,突然40℃台の高熱,その数時間後には持続的な激しい下腹部痛,子宮収縮を認め,緊急帝王切開を施行した.胎盤はほぼ全面が剥離しており,児は重症仮死であったが救命できた.母体は術後回復室で突然ショックに陥り多臓器不全を併発,術後約9時間で死亡した.

妊娠28週以前にpreterm PROMを起こしたが子宮収縮抑制剤投与と強力な抗生剤投与により長期間(3週間以上)胎内維持しえた3例

著者: 稲垣昇 ,   豊島究 ,   藤井義広 ,   金田佳史 ,   伊藤仁彦 ,   西野るり子 ,   吉村泰典 ,   北井啓勝

ページ範囲:P.1231 - P.1235

 preterm PROMに対する抗生剤および子宮収縮抑制剤投与は有効性に疑問が指摘されているが,今回,筆者らは妊娠28週以前に前期破水を起こした症例を3例経験し,いずれも子宮収縮抑制剤と強力な抗生剤の投与により3週間以上胎児を母体内維持し得た.母体血中CRPおよび腟内細菌を詳細に検査した結果を検討したところ,pretermPROMに対して強力な抗生剤投与を行うことは妊娠を維持するうえで非常に効果があると考えられた.強力な抗生剤投与によって母体や胎児に副作用が起こる可能性は否定できないが,28週以前で早産を起こした場合の予後の悪さを考えれば積極的に加療することは有意義であると考えられた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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