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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科51巻2号

1997年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 婦人科外来治療—Dos & Don'ts 腫瘍外来

1.CINのレーザー蒸散

著者: 矢島正純 ,   石巻静代 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.124 - P.125

CINの概念
 CINとはcervical intraepithelial neoplasia(子宮頸部上皮内新生物)の略であり,異形成と上皮内癌を併せた概念である.子宮頸癌(扁平上皮癌)の起源は,扁平上皮そのものというよりも,扁平上皮と円柱上皮の境界(squamo-columnarjunction:SCJ)付近にある予備細胞であると考えられている.すなわち,この予備細胞が増殖し扁平上皮化生を起こす過程で異形成,上皮内癌,浸潤癌へと進展していくと考えられており,コルポスコープを見るにあたっては,言うまでもなくSCJ付近を中心に異常所見の有無を観察すると共に,病変の上限がどこにあるかを注意深く観察する.一般にSCJは年齢と共に移動し,性成熟期には外反し,閉経後は頸管内に入る(図1).レーザー蒸散法の適応を決めるにあたり,以上の基本的な事項を理解しておく必要がある.

2.ポリープ切除

著者: 中村幸雄 ,   山内格 ,   飯塚義浩

ページ範囲:P.126 - P.128

 子宮のポリープ状病変の多くは子宮頸管あるいは内膜の粘膜ポリープであり,捻除することにより,大多数は外来で簡単に摘除できる1).しかしながら大きなポリープや,ポリープ状に下垂・分娩した粘膜下筋腫では切除断端からの出血が予測され,単純な捻除が躊躇される.ここではポリープ状の病変のうち,筋腫分娩に代表される通常の捻除法では摘除困難な症例の外来治療法を中心に述べる.

3.子宮内膜増殖症—薬物的治療の限界

著者: 伊東英樹 ,   鈴木孝浩

ページ範囲:P.130 - P.132

 子宮内膜増殖症のなかで,子宮内膜異型増殖症は子宮内膜癌の前駆病変である.本邦では近年,子宮内膜癌の増加傾向が著明であり,過去10年間で子宮癌のなかで占める割合が5%から15〜20%と急増を認め,さらに今後も増加し,早晩30%を越えると予想されている1)
 子宮内膜増殖症の主症状は不正子宮出血であり,年齢的には思春期から認められ40歳代が最も高頻度である.治療法としては,前癌病変であるため妊孕性保存療法の適応と限界が最も重要な問題となる.薬物療法の限界に関しては,適切な治療期間が問題となる,この期間に関しては明確な基準がないのが現状であるが,報告されているものの平均的な期間を示した.「婦入科外来治療」が今回のテーマであるが,対症療法を含めて妊孕性保存療法の適応と限界を中心に①「原因と鑑別診断」,②「治療の実際」,③「Dos&Don’ts」の順に概説する.

4.嚢腫吸引

著者: 喜多恒和 ,   石井賢治 ,   菊池義公

ページ範囲:P.134 - P.137

 婦人科における腫瘍外来とは,一般に子宮頸癌,子宮体癌および卵巣癌などの悪性腫瘍の術前,術後およびアジュバント療法後のフォローアップのためのマネージメントを目的とした診療として位置づけられている.しかし,なかには良性腫瘍や腫瘍様疾患も,悪性腫瘍との鑑別を目的として,その管理範囲に取り込まれてくる場合がある.本稿では良性・悪性を含めた卵巣腫瘍との鑑別に,つねに苦慮すると考えられる外性子宮内膜症性嚢胞,いわゆる卵巣チョコレート嚢胞に対する外来レベルでの外科的治療の1つである嚢胞吸引とエタノール注入療法について,その原因,鑑別診断,治療の実際とコツおよび本治療の是非について述べる.

5.子宮筋腫

著者: 西田正人

ページ範囲:P.138 - P.140

子宮筋腫の症状と鑑別診断
 教科書には子宮筋腫の症状として,必ず月経異常(月経困難症,過多月経,頻発月経),不正子宮出血,貧血,圧迫症状が挙げられている.しかしこのなかで,月経困難症は子宮筋腫の症状ではない1).もちろん子宮筋腫を有する婦人に機能性の月経痛が合併することはあり得るので,皆無ではないが,本来,子宮筋腫は月経痛の原因とはならない.
 機能性の月経痛と器質的な月経痛は発症時期によって鑑別できる.機能性の月経痛がほとんど初経や10代中頃から始まっているのに対し,器質的疾患による月経痛は20歳を過ぎてから始まることが多い.とくに30歳を過ぎて分娩後2〜3年で発症する月経痛は子宮腺筋症によるものと考えてよい.

6.アジュバントケモセラピー

著者: 清水敬生

ページ範囲:P.142 - P.144

 婦人科の化学療法は,卵巣癌を例にとると,以下のごとく分類される.
 1)寛解導入化学療法:肉眼的腫瘍に対する化学療法.基本手術(surgery of curative intent)後に行われる化学療法を「post-operative chemo—therapy(術後化学療法)」,基本手術前に導入される化学療法を「neoadjuvant chemotherapy(術前化学療法)」と呼ぶ.卵巣癌,子宮体癌,子宮頸癌,いずれもcisplatinを基本とした併用化学療法を,3〜4週間隔で5〜6コースを基本とする.

感染症外来

1.難治性外陰・腟カンジダ症

著者: 長南薫

ページ範囲:P.145 - P.147

 腟カンジダ症は婦人科外来で頻度の高い感染症である.
 本症の治療は,最近ではすぐれた抗真菌剤が開発されているので一般的には必ずしも困難とはいえないが,他領域の浅在性カンジダ症のように,なおしばしば再発を繰り返す難治例に遭遇することも少なくない.

2.尖圭コンジローマ

著者: 滝沢憲

ページ範囲:P.148 - P.150

原因と病態
 おもに性交渉に伴い,ヒト乳頭腫ウイルス(human papilloma virus:HPV)の6型,11型に感染して発症する.
 本症の頻度は,米国・ロチェスター市の推計では1,000人に1人と言われており,10年前より約8倍に増加している.

3.クラミジア

著者: 木幡豊 ,   自見昭司

ページ範囲:P.152 - P.154

 Chlamydia trachomatis(以下クラミジア)による性感染症(STD)は,近年本邦で最も頻度の高いSTDであり,婦人科感染症外来でも,不妊症や母子感染とのかかわりや急性腹症の原因となることから,現在最も重要な性感染症であるといっても過言ではなく,的確な診断,治療が望まれる.本稿では,クラミジアの各病態,診断のための検査法,治療法についてまとめ,さらに診断や治療上の問題点を多く含む,腹部救急疾患としてのクラミジア感染症の臨床像についても述べたい.

4.バルトリン腺膿瘍

著者: 高杉信義 ,   土田千夏

ページ範囲:P.155 - P.157

 バルトリン腺は,長さ10〜15mm,幅7〜10mmの腺組織で,腟入口部の両側,大陰唇の基底で処女膜縁の外側に位置し,大きさはエンドウ豆大で,重さは4〜5gである.その排泄管である導管は,長さ1〜2cm,大きさ2mmであり,腟入口部の中央よりやや肛門側で,小陰唇の内側,処女膜縁の外側に開口している(図1).
 バルトリン腺膿瘍は,バルトリン腺の感染により排泄管が癒着閉鎖し,膿が排泄管およびバルトリン腺内に貯留して形成される疾患である.

5.骨盤内感染症(PID)

著者: 玉舎輝彦

ページ範囲:P.158 - P.160

全体像
 骨盤内感染症(骨盤内炎症性疾患,pelvic in—flammatory disease:PID)は卵管炎を特徴とする上部生殖器の感染症であるが,原因の大半は下部生殖器感染症からの病原微生物の上行感染である(図1)1).通常,子宮内感染→子宮付属器炎→骨盤腹膜炎の順に進行していくので,個々の疾患を区別するのは困難なためPIDとして一括して捉えるほうが便利である.
 卵管炎は淋菌・クラミジアなどによる卵管内膜炎と化膿菌による間質部卵管炎があり,両者は混在したり,また複数(混合)菌感染であり,しかも周辺に蔓延し,卵巣(付属器炎),腹膜(骨盤腹膜炎)にも波及する(PID).

内分泌外来

1.月経困難症

著者: 関博之 ,   木下勝之

ページ範囲:P.162 - P.163

定義
 月経困難症は,月経時に下腹痛,腰痛,嘔気,嘔吐,下痢,頭痛,乳房痛などの月経随伴症状のため,就労をはじめとする社会生活を営むことが困難なものをいう.

2.機能性出血

著者: 石塚文平 ,   房間茂由

ページ範囲:P.164 - P.166

 機能性出血とは「器質性疾患を認めない子宮からの不正出血をいう.多くは内分泌異常によるが,まれに血液疾患によるものもある」と定義されている1)
 思春期の女性ではその性機能の未熟さから時おり内分泌異常をきたし,微量の不定期出血から,大量の出血のため輸血を余儀なくされるものまで種々の程度の機能性出血を起こしやすい.このように性機能確立の過渡期である思春期の機能性出血を若年性出血と呼ぶ.

3.無月経

著者: 上田克憲

ページ範囲:P.168 - P.170

 無月経とは月経がない状態であり,一般的には生理的無月経(初経前,閉経後,妊娠・授乳中などの無月経)と病的無月経(性成熟期における異常な無月経),あるいは原発無月経(満18歳になっても初経のないもの)と続発無月経(これまであった月経が3か月以上停止したもの)に区分される.また,病的無月経は性成熟婦人の5%に起こるとされる.
 無月経はそれ自身は診断名ではないので,その原因・病態をつきとめたうえで患者の状況に応じた治療を行うことが重要である.「生理がないので注射して下さい」と言って受診する未婚女性をときに経験するが,このような患者は無月経を訴えて婦人科を受診以来,断続的(時に持続的)にホルモン剤の投与のみを受けていることが多い.このような単に消退出血を起こせばことたれりという対応は,患者にとって時に有害ですらある.

4.乳汁漏出症

著者: 金田幸枝 ,   森宏之

ページ範囲:P.172 - P.173

 妊娠,分娩とは無関係に認める病的な乳汁の分泌を乳汁漏出症(galactorrhea)と呼ぶ.

5.多毛症,男性化

著者: 川嵜史子 ,   宮川勇生

ページ範囲:P.174 - P.176

 女性にとって多毛は男性化の一徴候としてみられる異常な病態であり,原因検索,治療の対象となる.また,たとえ軽症であっても美容上女性を悩ませる.男性化の徴候には多毛,頭髪の希薄化,尋常性痤瘡,喉頭突出,嗄声.音域低下,皮下脂肪の減少と筋肉質化,乳房萎縮や無月経を伴う陰核肥大などがある.これらの徴候はアンドロゲンへの感受性亢進か,アンドロゲンの過剰が関与している.

不妊外来

1.卵管通気・卵管通水

著者: 関守利

ページ範囲:P.177 - P.181

卵管通気・通水法の適応とその限界
 卵管通過障害のなかでも軽度の卵管采周囲癒着,卵管狭窄,軽度卵管水腫,卵管炎などが適応となるが,実際には子宮卵管造影法(HSG),ラパロスコープなどの観察結果から判断し,軽度の卵管通過障害に応用される.また卵管通気,通水療法はとくに卵管形成術後の再癒着,再狭窄,再閉塞の予防に必要とされている外来治療法である.

2.ゴナドトロピン療法

著者: 澤田富夫

ページ範囲:P.182 - P.184

病態による治療の対応
 1.ゴナドトロピン製剤の種類と特徴
 ゴナドトロピンは閉経後女性の尿より抽出され,強力な卵胞刺激作用を有する薬剤である.一般的にゴナドトロピン製剤はhMG製剤と記されるようにFSHとLHの混合されたものであるが,精製技術の向上により現在はLH分子を極力除去した純FSHに近い製剤も開発され,各製剤によりFSH:LH混合比が異なっている(表1).現在recombinant FSH製剤(pure FSH)も治験され,近く本邦でも実用化されると思われる.
 卵胞発育にはFSHと少量のLHが必要であると考えられているが,LHの過剰な上昇,また早期のLHの出現は卵巣過剰症候群(OHSS)の誘発原因となったり,早期黄体化を惹起することから排卵に適切なLH量を決めるのは難しい.しかしながら,各病態に応じFSH/LH比の異なるこれらの製剤を使い分けるか,もしくは混合して用いることは排卵誘発効果の向上,副作用発現の減少につながる期待がある.

3.クロミフェン療法

著者: 小嶋哲矢 ,   藤野祐司

ページ範囲:P.186 - P.187

 クロミフェン(clomiphene citrate:クロミッド®)は,高い排卵誘発率にもかかわらず,卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠の頻度が比較的低く,また経口剤であるため日常臨床における排卵誘発剤の第1選択として広く使用されている,その適応症例は排卵障害,黄体機能不全,多嚢胞卵巣症候群などが対象とされている(表1).一方,クロミフェンの薬理作用は視床下部エストロゲン受容体と結合することにより,内因性(卵巣性)エストロゲンと視床下部エストロゲン受容体との結合が阻害され,視床下部では実質的なエストロゲン欠乏状態が惹起され,その結果,視床下部からゴナドトロピン刺激ホルモン(Gn-RH)が大量に分泌され,下垂体からゴナドトロピン(FSH,LH)分泌が亢進し,卵胞発育を促進し排卵を誘起させる1),したがって,クロミフェン療法は生理的機序に近い排卵誘発療法であると考えられる2)

4.免疫療法—抗核抗体陽性例

著者: 苛原稔 ,   鎌田正晴 ,   青野敏博

ページ範囲:P.188 - P.190

 不育症にはさまざまな原因が考えられ,それぞれの原因に対して適切な治療を選択する必要がある.最近,不育症の治療法のひとつとして,手技が比較的簡単なことから,夫リンパ球を用いた免疫療法が広く用いられている1).免疫療法の有効性についてはいまだ論議のあるところであるが,その理論的背景や臨床成績から,免疫学的妊娠維持機構の破綻によると思われる不育症が治療対象であり,その適応については慎重な選択が必要である2)
 最近,不育症患者の自己抗体を検査することがルーチン化し,検査の結果,抗核抗体が陽性の患者に遭遇することがある.そこで抗核抗体陽性の不育症患者に対する免疫療法の適応について考察したい.

その他

1.女性の尿失禁—外来診療における留意点

著者: 中田真木

ページ範囲:P.192 - P.195

単純な腹圧時尿失禁
 産婦人科外来で取り扱う尿失禁には,経産婦の腹圧時尿失禁で,頻尿や尿意切迫など膀胱尿道固有の機能障害を暗示する問題点を持たず,腹圧のときにだけ尿意なしに少量の尿もれを生じるような単純な尿もれが多い.このような症例の多くには薬剤によるコントロール,骨盤底再教育,手術治療のいずれも効果を期待できる.
 これらの治療方式のなかでもっとも手軽に行えるのは薬剤によるコントロールである.腹圧性尿失禁に保険適用を持つβ刺激剤,および抗コリン剤や三環系抗うつ剤など以外の失禁治療薬は,膀胱収縮の抑制や尿道内圧の安定化などの機序を介して腹圧時の尿もれを軽減する.治療の実際にあたっては,腹圧性尿失禁の薬と切迫性尿失禁の薬をとくに区別せずに投与し,最適の薬剤を選択して差しつかえない.それぞれの薬剤が,膀胱収縮抑制の程度や作用時間などについてやや異なる特色を持っており,実際に使用して使いやすいものを続ければよい.

2.子宮内避妊具(IUD)

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.196 - P.197

 子宮内避妊具(intra-uterine devices:IUD)は,世界で広く使用されている安全で,効果的な避妊法の1つである.1960年代の初め頃から,避妊具としての安全性と有効性を高めるための改良を重ねてきており,当初は非薬剤付加IUDが中心であったが,70年代には銅や黄体ホルモン剤が付加された,いわゆる薬剤付加IUDが登場した.薬剤が付加されることで,IUD本体の大きさが小型化され,それによって出血や疼痛が軽減するだけでなく,避妊率が高まり,脱出率なども低下した.
 わが国では現在,太田リング,優生リング,FD—1,カヤクループの4種類の非薬剤付加IUDが使われているが,ようやく銅付加IUDの輸入・販売が許可される見通しがたつという段階である.IUDに対する情報不足,近代的IUDが認可されていないことなどもあって,世界では避妊実行者の26.0%(国連報告,1988年)がIUDを使用しているにもかかわらず,わが国では3.8%(毎日新聞社,全国家族計画世論調査,1996年)に過ぎない.

3.漢方薬

著者: 佐藤弘

ページ範囲:P.198 - P.201

 小柴胡湯による間質性肺炎での死亡例がセンセーショナルに報道され,漢方薬の副作用に関心が向けられた.漢方専門家の一部には,慢性肝炎=小柴胡湯なる病名投与にその原因を求める向きもあるが,そのような単純な問題ではない.本稿では漢方薬を使用する際に留意すべき点のうち,いわゆる副作用の問題と漢方薬の投与を中止する目安・タイミングについて筆者の私見を述べてみたい.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・2

腹腔鏡下手術を実際に行うにあたって:II—Open法と手術操作用のトラカール穿刺について

著者: 伊熊健一郎

ページ範囲:P.119 - P.121

“Open法”の実際(図1)
 腹壁との癒着が心配される症例などに対しては,直視下で筋膜と腹膜に切開を加えて腹腔内にトラカールを挿入するOpen法もある.この方法では,気腹針やトラカールの穿刺時に起こる合併症を避けることに大きな目的があり,一般的には安全な方法とされている.しかし,たとえ癒着がなくても腸管損傷などの合併症も起こりうることをつねに認識しておく必要がある.
 ここでは,ダブルバルーンを装着したトラカールによる腹壁固定法を紹介する.

Q&A

児推定体重4,000g以上のときには帝王切開か(3)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.203 - P.205

Q 児推定体重4,000g以上のときには帝王切開をすべきでしょうか?
 A 児体重が4,000g以上になりますと,肩甲難産の発生頻度が高くなります.したがって,推定児体重(EFW)が4,000g以上であれば,帝王切開(帝切)を行うという選択も考えられます.前号までに①肩甲難産の定義と頻度②巨大児増加因子,肩甲難産と新生児の予後について解説致しました.今月は肩甲難産の分娩前診断について解説致します.

産婦人科クリニカルテクニツク ワンポイントレッスン—私のノウハウ

子宮口が閉鎖した子宮留水腫(留血腫)に対する経腟穿刺細胞診

著者: 鳥居裕一

ページ範囲:P.206 - P.206

 高齢者などでは,ときに子宮口が完全に閉鎖してしまい,経腟超音波法などで子宮内膜癌を強く疑うにもかかわらず確定診断ができない症例に遭遇することがある.従来このような症例には麻酔を併用したうえで,細いラミナリアなどで徐々に開大させるとよいと言われている.しかしなかには,細い外科ゾンデすら挿入できない症例を経験することがあり,やむをえず術中に子宮を摘出し,その場で迅速病理に提出し確定診断を下すなどの事態が起こりうる.術前にできるだけ確定診断を下すことは重要と考えられる.そこでこのような場合,10年ほど前より針の長い注射針(カテラン針,20G程度,針長約6cm)を用いて穿刺細胞診を行っている.他の臓器ではしばしば穿刺細胞診が行われていることにヒントを得てはじめたが,簡便で成功率が高いので紹介したい.
 具体的には,カテラン針の先端から約2cmの部分を用手的にJ字状に軽く彎曲させ,10ml程度の注射筒(内腔にヘパリンを通しておく)をつけて準備する.次に腟内を消毒し,助手に経腹超音波装置で子宮を描出させ,画面を見ながら子宮の彎曲に沿い外子宮口痕より,針をゆっくり刺入する.子宮外妊娠などの診断で用いられるダグラス窩穿刺と同じ要領である.このとき子宮腟部に鉗子をかけ手前に牽引し,子宮をなるべくまっすぐにしたほうがやりやすい,また感染を避けるため,同じ針で何回も刺すことは避ける.

広汎性子宮全摘出術における膀胱子宮靱帯前層処理

著者: 小林八郎 ,   井上欣也

ページ範囲:P.207 - P.207

 広汎性子宮全摘出術のポイントは,組織間の解剖学的関係を明瞭にし,組織に緊張を与え,いかに上手に組織間に割って入るかである.膀胱子宮靱帯前層の処理は,膀胱を十分に下方へ圧排し,膀胱子宮靱帯前層を露出し,尿管は尿管外膜を残した状態で尿管トンネル入口部まで露出することから始まる.膀胱子宮靱帯前層処理時の出血の原因は尿管トンネルを破り膀胱子宮靱帯内に進入して静脈を損傷することによる.また尿管腟瘻の原因は,尿管トンネル内へ剪刀を挿入するときに尿管を巻き込み尿管外膜を損傷したり,尿管外膜と膀胱子宮靱帯前層の剥離が不十分なために膀胱子宮靱帯前層を切開・結紮するときに尿管外膜を巻き込み尿管を絞り込むかたちになり,尿管の循環障害をきたすことによる.

Estrogen Series・12

ホルモン補充療法における黄体ホルモンの役割(その1)

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.208 - P.209

 ホルモン補充療法(estrogen replacementtherapy:ERT)は更年期後の女性でオステオポローシスを予防し,心臓病の発生を減少させる.しかし,エストロゲンのみを投与したのでは,子宮内膜癌が増加するため,progestins (種々の黄体ホルモンを総称してprogestinsと呼ぶ.プロゲステロンという場合は特定の構造式と作用をもつ物質を指す)を加えなければならない.それによりエストロゲンの作用はprogestinsにより影響を受けることになる.その影響は望ましいものもあり,望ましくないものもあるが,ここでproges—tinsによる影響とはなにかを検討した好論文をご紹介したい.臨床的には,すでに子宮摘除術を受けていて,子宮のない患者に対してはprogestinsを併用する必要はない.

産科外来超音波診断・19

Echogenic Intracardiac Focus

著者: 清水卓 ,   伊原由幸

ページ範囲:P.211 - P.214

 前号では,遭遇した際に正常か異常かで判断に迷うcontroversialな超音波所見の1つとして,nuchal translucencyを紹介したが,今回は,echogenic intracardiac focus(EIF)について概説する.
 読者の多くは,心臓の四腔断面を観察したときに,心室内で高輝度のエコーがピクピク動くのを偶然みつけ,一体これは何だろうと疑問に持たれたことがあるだろう.これがEIFである.

病院めぐり

公立昭和病院

著者: 熊谷清

ページ範囲:P.216 - P.216

 公立昭和病院は東京北多摩地区の小平市の青梅街道沿い,小金井街道と府中街道の間で,西武新宿線が青梅街道を交差するところにある.当院は,昭和3年7月3日に小平村とその他8町村の伝染病収容施設として発足し,現在もその9市(小金井市,小平市,東村山市,田無市,保谷市,東久留米市,清瀬市,東大和市,および武蔵村山市)が組織市として成り立っている.
 現在は当院も総合病院となり,ベッド数570床(一般520床,伝染50床),診療科目は合計20科となっている.病院全体の1995度の総入院患者数は172,462人(472,5人/日),総外来患者数は409,150人(1,670人/日)であった.

山口県立中央病院

著者: 武田理

ページ範囲:P.217 - P.217

 防府市は山口県のほぼ中央部にあり,瀬戸内海に面した産業都市です.古くは大化の改新によりここに周防の国府が設置され,平安時代には菅原道真公が九州の太宰府へ左遷される旅の途中に周防の国司の館に滞在されたこともあり(日本三天神の1つである防府天満宮があります),近世では毛利氏の支配下で塩田による製塩業が発達,産業都市防府の基盤が築き上げられました.
 山口県立中央病院は山口県の中核を担う病院として昭和24年に山口県立防府総合病院として発足し,昭和58年に現在地(本郷 碩院長,外科)へ移転されました.現在,診療科18科,病床数500床,常勤医師80名余りが勤務しています.公的医療機関として臨床研修医教育のみならず,僻地中核病院として周辺地域への診療,医師派遣による地域医療の充実をはかり,最近では癌センター構想下に医師および看護婦の国内留学,研修などが盛んに行われています.

CURRENT RESEARCH

卵膜および脱落膜の生物学

著者: 佐川典正

ページ範囲:P.219 - P.230

 妊娠中は子宮内容積の著しい増大にもかかわらず子宮筋は弛緩しており,通常妊娠末期まで子宮収縮は起こらない.しかし,胎児が成熟する妊娠末期になると陣痛が発来し分娩に至る.このように妊娠子宮には,胎児成熟と連関した合目的的な子宮筋収縮調節機構すなわち妊娠維持機構が存在すると推定される.一方,胎児は胎盤を介して母体との物質交換を行っているが,胎児と母体側の子宮筋との間に介在する組織としては胎盤の他に羊膜・絨毛膜・脱落膜がある.これらの膜群は,母児間の接触面積の70%以上を占めることからも,母児間の情報交換の場として何らかの生理的役割を果たしている可能性が考えられる.実際,ヒト羊膜や脱落膜にはprostaglandin(PG)生合成の基質であるアラキドン酸のリン脂質からの遊離に関与する各種の酵素が存在していることや,PG合成酵素が存在することも知られている.また,この膜群の胎児側には発生過程のなごりともいえる羊水が存在するが.この羊水中には強力な生理活性を有するcortisol,上皮成長因子(EGF),en—dothelin(ET),brain natriuretic peptide(BNP)などが存在している.したがって,これらが何らかの形で羊膜・絨毛膜・脱落膜に作用し,最終的に子宮筋の収縮を調節している可能性があるのではないかと考えたのが本研究の背景である.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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