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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科51巻4号

1997年04月発行

雑誌目次

今月の臨床 低用量ピル—新しい避妊法を知る

Overview—避妊法の現況とピル

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.361 - P.365

 1996年7月9日,菅直人厚生大臣は,日本外国特派員協会主催の講演会において,英国国営放送局の女性記者からの質問に対し,「来年には,低用量ピルの使用が可能になる」との見解を示した.本講演会は,「薬害エイズと日本の官僚制」をテーマに行われたものであるが,女性記者からの「日本の低用量ピルの認可が遅れている理由は」との質問に対して,菅大臣は次のように回答した.
 「近年では,ピルの使用については当事者の選択にまかせて,その責任のもとで使う,使わないということを決める.それでいいんではないかという意見があります.そういった状況ですので,そう遠くない時期,具体的に今年はちょっと無理かも知れませんが,来年ぐらいには,中央薬事審議会で結論が得られるのではないか.また,その結論は使用を認める方向という結論になる可能性は大きいのではないか」

低用量ピルの特徴

著者: 青野敏博 ,   苛原稔 ,   東敬次郎

ページ範囲:P.366 - P.369

 経口避妊薬(oral contraceptive:OC)は一般にピルと呼ばれ,世界的には35年の歴史があり多くの国で使用されている.わが国においては種々の事情により認可が大幅に遅れている.しかし1986年にピルの治験に関するガイドライン1)が示され,6種類の薬剤が治験を終了し,9社から認可の申請が出されている.
 この間にエイズ感染者の増加などがからみ,審査が大幅に遅れているが,ようやく認可される見通しが立ってきた.

低用量ピルの種類

著者: 安達知子

ページ範囲:P.370 - P.372

 低用量ピルは,含有するエストロゲン(E)の量が50μg未満のものをいうが,中用量,高用量ピルに比較するとプロゲステロン(P)の含有量もきわめて少量になっている.エストロゲンの種類はすべての低用量ピルに共通で,エチニルエストラジオールを用いているが,プロゲステロンは多種類のものが用いられており,それぞれの黄体ホルモン作用やアンドロゲン作用のバランスにより,含有量や投与方法が異なっている.本稿では,低用量ピルの種類とそれぞれの特徴について述べる.

低用量ピルと性感染症

著者: 小島弘敬

ページ範囲:P.396 - P.401

性感染症(STD)症例数の推移とその背景
 スウェーデンは人口800万の単一民族国家でSTD届出数と実数との乖離が少ないといわれる.スウェーデンの淋病届出症例数推移では,1919年,1944年,1971年に各々大きなピークが形成されている.すなわち第1次大戦,第2次大戦のピークに続いて1960年から70年にかけて史上最大の症例数のピークが記録されている(図1).
 この時期のSTDの増加は開発国に共通の現象で,米国では1975年,年間報告症例数150万(人口10万対500)の史上最大のピークとなった.この理由として人口の都市集中,ピル避妊法の普及とコンドーム使用の減少などが挙げられるが,その根底には女性の社会的地位の向上,女性が男性と同等の性活動の自由度を社会的に許容されたことがあると思われる.

低用量ピルの副効用

著者: 髙橋健太郎 ,   宮﨑康二

ページ範囲:P.402 - P.405

 経口避妊薬(ピル)は現在全世界で6,000万人以上の女性が使用していると言われており,最も避妊効果がある(0.07100婦人/年)避妊法である.ピルは欧米での35年の長い使用経験から,その効用および副作用などについては数多くの研究がなされている.発展途上国においては,人口問題の観点から避妊効果の優れたピルは高く評価され使用されてきた.しかし,先進国においては,避妊効果の高い評価の反面,虚血性心疾患,高血圧,静脈血栓症などの副作用が強調されてきた.わが国においても,これらの副作用が広く報道され,実際にはまれな危険因子であるにもかかわらず「ピルは副作用が強いもの」として一般女性の考えが定着しているのも事実である.
 しかし,ピル服用者は骨盤内感染症,子宮外妊娠,卵巣貯留嚢腫,子宮内膜癌および良性卵巣腫瘍の発生を予防し,月経異常を軽快させる利点があることが認められている.またConnell1)によればピルを服用することにより,約6万人のこれらの疾患の患者の入院を阻止することができると報告している(図1).以上より,従来強調されてきたピルの危険性のみでなく,避妊以外の効用も再検討する必要がある.

1995年WHO報告にみる避妊法研究の今後

著者: 鈴木秋悦

ページ範囲:P.406 - P.408

 WHOが,避妊法の開発研究に着手してからすでに長い年月を経ているが,現在,この分野を担当しているのは,Special Program of Research,Development and Research Training in HumanReproduction,いわゆるHRPと呼ばれている部門であり,現在,その部門長はイタリア系のBenagiano博士であり,筆者とは20年来の旧知で,過去においても再々来日している.また1996年5月にフィラデルフィアで開催された第9回ヒト生殖世界会議(会長Mastroianni博士)でも,Benagiano博士は,“Holistic Approach to Re—productive Health”と題して,HRPの現状と将来の展望について特別講演を行っている.
 本稿は,WHOから出されている「AnnualTechnical Report 1995,Biennial Report 1994—1995」1,2)の両出版物の内容を中心として,避妊法開発に取り組むWHOの戦略的展望の一部を紹介したい.

低用量ピルの服薬指導

1.投与前のチェック・インフォームドコンセント

著者: 広井正彦 ,   斉藤英和

ページ範囲:P.374 - P.375

ピル投与前の問診
 ピルを内服する希望の女性は比較的健康の人が多いが,処方前にはまず問診により服用禁忌でないことを確認しておく必要がある(図1).
 問診に当たって次のことに注意する.

2.投与方法と投与中の検査

著者: 三橋直樹

ページ範囲:P.376 - P.377

 低用量ピルは数種類の発売が予定されているが,その臨床治験のデータについてはすでに論文として発表されている.それらによると低用量ピルは避妊効果も優れており,重大な副作用も少ない.したがって産婦人科医としても承認され発売されるのが待たれるのであるが,やはり新薬にはかわりないので,当初は慎重に使用することが必要と思われる.低用量ピルは一相性,二相性,三相性とあり,また成分がまったく同じものもあるが,同じであっても服用日数が異なっていたりするので,実際に使用する薬剤の使用上の注意をよく読んでから用いるべきである.基本的注意事項は共通であろうと思われるが,やはり個々の薬剤の特性を理解したうえで使用すべきである.
 避妊に用いるピルは,基本的に健康な人が用いるものであるため,その副作用については特別な配慮が必要である.とくに血栓症については日本でも増加傾向にあるため,リスクのある人は服用すべきではないと思われるし,また服用中に少しでも疑わしい症状が現れた場合は,必ず担当医を受診するように指導すべきである.

3.低用量ピルと他剤の相互作用

著者: 山本宝

ページ範囲:P.378 - P.380

 2種類以上の薬物を併用すると,必ず効果が増強したり減弱することがあり,副作用が出現することがある.低用量ピルも例外ではなく,他の薬剤との併用により薬物相互作用が生じた場合,ピルの効果がわずか減弱されただけでも容易に妊娠や不正出血などを生ずる可能性がある.反面,低用量ピルが他の薬剤に影響を及ぼす程度は従来のエストロゲン—プロゲストーゲン混合剤(いわゆるピル)に比べると小さいと考えられる1-3)

低用量ピルの副作用

1.マイナートラブル

著者: 植村次雄 ,   鈴木亮子

ページ範囲:P.382 - P.384

 従来型ピルはホルモン量を多く含むため副作用として,静脈血栓塞栓症,心筋梗塞などの虚血性心疾患,脳卒中など脳血管疾患,高血圧の4つの循環器系疾患の発症が報告され問題となっていた.低用量ピルは従来型のピルの避妊効果を維持しながらその副作用を軽減するためにステロイドホルモン量を減量し改良したものであり,不正性器出血などの副作用は増加しているが重篤な副作用は減少している.低用量ピルの日本で行われた臨床治験成績のおもな副作用の発現率は表11,2)のごとくであり,参考までに従来型ピルの組成を表2に示した.低用量ピルのマイナートラブルは次のごとくである.

2.血栓症

著者: 寺尾俊彦

ページ範囲:P.386 - P.390

 1961年Jordanが経口避妊薬服用者に血栓症が偶発したと報告して以来,経口避妊薬服用と血栓・塞栓症発生リスクに関し,数多くの疫学的調査や凝固学的検討がなされてきた.現在では経口避妊薬を服用すると血栓症を併発しやすいことは,ほぼ間違いない事実とされているものの,低用量ピルによる血栓症の頻度はきわめてまれである.
 経口避妊薬服用時の副作用を軽減するために,含有するエストロゲンの量を35μgに減少させ,いわゆる低用量ピルが誕生した.また,プロゲストーゲンも第1世代(ノルエチンドロンのタイプ),第2世代(ノルゲストレルのグループ),第3世代(デソゲストレル,ゲストデンのタイプ)と改良され,さらにまた投与法にも工夫が加えられてきた.

3.発癌

著者: 武谷雄二

ページ範囲:P.392 - P.395

 経口避妊薬(oral contraceptives)は健康な女性が服用するものであり,その副作用には細心の注意を払う必要があるが,とりわけ悪性腫瘍のリスクに関する知識に関しては医師は熟知していなくてはならない.当然その情報は服用者にも提供されるべきであり,そのリスクの程度とのバランスで経口避妊薬の服用の適否が決められることになる.
 本稿は経口避妊薬と発癌というテーマであるが,動物実験での成績は比較的短期のものであまり参考にならない.主として臨床成績に基づいた考察に頼らざるを得ず,実際に知り得るのは癌と診断されたか否かであり,いわゆる発癌(initia—tion)の段階を論及するのは困難である.したがって癌と診断される相対的リスクと経口避妊薬との関連を検討するのにとどまらざるを得ない.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・4

卵巣嚢腫に対する腹腔鏡下手術:II—体内法の実際について

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   山田幸生 ,   脇本栄子

ページ範囲:P.355 - P.357

チョコレート嚢腫に対する摘出術
 卵巣嚢腫に対する腹腔鏡下手術を施行するには,症例に応じた術式の選択を必要とする.とくに癒着を伴うチョコレート嚢腫などに対しては,前回で説明した体外法よりも体内法のほうが実際に有用な場合もあり,術式にはバリエーションをもたせて手術に臨むこともたいへんなことである.
 なお,嚢腫壁の摘出や卵巣の修復にもいくつかの方法があるが,筆者らは通常の開腹手術で行う内容を腹腔鏡下手術において再現することを目指しており,その方法による手術内容を紹介する.そのためには体内での縫合・結紮といった操作も基本操作の一つとして習得し,習熟しておくことが前提となる.

病院めぐり

秋田赤十字病院

著者: 藤盛亮寿

ページ範囲:P.410 - P.410

 秋田赤十字病院は,大正3年に東北・北海道地方では初めての赤十字病院として創設されました.昭和43年に360床の病院として現在地に移転・新築された後は,県民医療の中枢を担うため秋田県の要請により救命救急センター(50床),神経病センター(30床)を併設し,さらに昭和60年に予防医学の観点から健康増進センターを開設しました.現在ではベッド数457床,常勤医師72名の総合病院として,秋田県では大学に次ぐ中核病院としての評価を受けております.
 当院は秋田駅から徒歩7分の繁華街に位置し,駐車場もなく手狭なため,約1年後の平成10年7月のオープンを目指し秋田市郊外に約3万坪の広大な敷地を確保し,新病院が現在建築されております.さらに,新病院では現在のNICUが周産期センターとして新設され,県内の新生児医療の中核として拡充される予定です.

兵庫県立尼崎病院

著者: 棚田省三

ページ範囲:P.411 - P.411

 兵庫県立尼崎病院は,昭和11年10月に県立西宮懐仁病院尼崎分院として12床の病床をもって開設され,昭和61年10月に現在地に移転しました.現在は阪神地区の基幹病院として1日の平均外来患者数も1,700名を越えており,500床(産婦人科41床)の病床をつねに96%以上の利用率で稼働しております.
 産婦人科は,病院発足時から開設され,現在,常勤医4名と1〜2名の非常勤医で診療にあたっております.日本産婦人科学会の研修指定病院であり,4名が日本産婦人科学会の認定医,5名が優生保護法の指定医です.常勤医は京都大学産婦人科教室の出身者であり,臨床研究,研修も京都大学と共同で行われることが多くあります.平成8年4月に導入した体外受精—胚移植法,抗癌剤動注療法もその1つです.また,DXA装置が入りましたので,骨粗鬆症の予防,治療法の確立に少しでも貢献できたらと思っております.腹腔鏡下の手術も平成8年9月に腹壁吊り上げ装置を購入し,より積極的に関わっていきたいとスタッフ一同はりきっております.

OBSTETRIC NEWS

羊水過少症の治療方法〜羊水量を増加させる方法はあるのか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.412 - P.413

 羊水過少症は,分娩前胎児死亡や分娩中のnon—reassuring(心配な)胎児心拍数(FHR)パターンによる帝王切開(帝切)の大きな原因となる.羊水過少症に対する対応の第一段階は破水の除外,超音波診断専門医による胎児奇形の除外,母体因子(高度脱水など)の検索,分娩前胎児管理試験(CSTまたはBPP)の施行である.また,満期前破水(preterm PROM:PPROM)の場合は,胎盤早期剥離,羊水感染,胎児肺低形成,四肢変形,fetal distress,子宮内胎児死亡などが増加することが明らかにされている.
 陣痛発来後の羊水量の測定は,その後のnon—reassuring FHRパターンによる帝切の有無を予知するうえで有用である.Baronらは,陣痛発来で入院した妊婦(妊娠26週以降)の羊水量を測定した.その結果,羊水過少症群(AFI≦5.0,170例),羊水減少群(AFI:5.1〜8.0,261例),羊水量正常群(AFI:8.1〜20,336例)におけるfetal distressによる帝切率は4.1%,0.4%,0.6%であった.したがって,入院時,羊水過少症例における分娩中のfetal distressによる帝切の相対危険度は正常羊水量例に比較し6.83(95%信頼区間1.55〜30.0)と著しく増加することを明らかにしている(AJOG 173:167,1995).

妊婦HIV抗体スクリーニングの目的

著者: 武久徹

ページ範囲:P.416 - P.417

 米国では,HIV抗体陽性の妊婦出産は年間約7,000例と推測される(CDC.National HIV sero—surveillance summary:results through 1991.Vol.3.Atlanta,1994).その結果,HIVの妊娠,分娩中の児への感染(垂直感染)を約25%とすると,年間約1,650例の垂直感染がある計算になる.AIDS患者の分布は,女性1,000名について,ニューヨーク5.8,ワシントンDC 5.5,フロリダ4.5,カリフォルニア0.7と地域による差が著しい.米国防疫センター(CDC)や米国産婦人科医協会(ACOG)ではAIDSのハイリスク群(本人または性行為相手が麻薬使用者,多くの性行為相手を過去か現在持っている者,性行為相手が同性愛者であった者,性行為相手がHIV抗体陽性者,1978〜1985年の間に輸血を行った者,性行為感染症罹患歴のある者など)に妊娠中のHIV抗体検査実施を勧告してきた(MMWR 42:No.RR—14,p8,1993).最近,妊娠中から新生児期までにzidovudine(ZDV)の投与(妊娠14〜34週からZDV 100mgを1日5回経口投与を開始し分娩まで続行し,分娩中はZDV 2mg/kgを1時間以上かけて点滴し,その後分娩終了まで1mg/kg/時間の速度で点滴を続行.

Estrogen Series・14

尿失禁とエストロゲン補充療法

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.415 - P.415

 下部尿路系は発生学的に下部生殖路との関連が深い.エストロゲン受容体は尿道と膀胱にみられ,また女性の骨盤筋層にもみられる.さらにエストロゲンに対する感受性と反応性は上皮組織,結合組織,筋,血管,などにもみることができる.
 尿路系の動的な測定によれば,エストロゲンは尿道の血管拍動,尿道閉鎖圧,尿道圧伝達などに影響を与える.また,疫学的に(尿失禁を主とする)下部尿道障害は更年期後に著しい増加がみられる.これらのことを考慮すれば,尿失禁のような尿道と膀胱の障害の一因がエストロゲン低下にあるとの仮説が可能である.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

広汎性子宮全摘出術における膀胱子宮靱帯の処理

著者: 井上欣也

ページ範囲:P.418 - P.418

 広汎性子宮全摘出術において,基靱帯の処理は岡林術式以後,多くの術者によって種々改良が加えられてきており,現在では方法論的に確立されたものになっている.したがって手術操作を慎重に進めれば基靱帯の処理は無難に終了させることができる.これに対して根治手術のいわゆる前方処理すなわち子宮膀胱靱帯(膀胱脚)の手術操作には確立された方法がなく,尿管の最下部を前後面から挟むように包んでいる結合組織(膀胱脚)は動静脈に富み,層や方向をほんの少し誤まるだけでかなりの量の出血をみて慌てることが多い.
 膀胱脚前層の処理についてはすでに(本誌51巻2号207頁)述べたので今回は前層処理に続いて行われる後層処理について筆者の工夫を述べる.

胎児採血Fetal Blood Samplingのコツ

著者: 石川薫

ページ範囲:P.419 - P.419

 本邦でも羊水穿刺は実地臨床で普及した感があるが,依然として胎児採血は特殊な合併症の多い検査と考えられがちである.しかし,解像度のよい超音波診断装置を有し,基本を守れば必ずしも難易度の高い手技ではない.以下に,筆者らの胎児採血で配慮しているポイントを紹介する.
 まず,前壁胎盤の際は,臍帯が胎盤に入る部位の臍帯静脈を採血部位とする.筆者らは,HewlettPackard 77020Aセクター式超音波診断装置のプローブに,HP21285A variable-angle needleguideを装着して胎児採血を行っている.穿刺針には切れのよい23G PTCD針(トップ)を推奨したい.穿刺のコツは,躊躇することなく一気に穿刺することである.おずおずとした穿刺は,羊水穿刺にもみられるテントと同じ機序で,超音波映像上は針先が臍帯静脈に入っているのに,絨毛間腔の母体血採取に終わる(胎児血と母体血の鑑別はMCVを参考にするとよい).また,気持ちが入りすぎてプローブを母体腹壁に押しつけ気味となり,超音波映像にブレが生じて,穿刺に失敗する初心者をよく見かける.プローブは意識的にソフトにタッチするのがコツである.

産科外来超音波診断・20

Hyperechoic Bowel

著者: 清水卓 ,   伊原由幸

ページ範囲:P.423 - P.427

 本号では,前号にひき続き,遭遇した際に正常か異常かで判断に迷うcontroversialな超音波所見の1つとして,hyperechoic (echogenic) bowel(HEB)を取り上げ,紹介させていただく.

CURRENT RESEARCH

子宮頸部発癌とヒトパピローマウイルス

著者: 永井宣隆

ページ範囲:P.429 - P.436

 子宮頸癌の発生に関する研究を始めた背景には,頸癌の前駆病変としてCIN(cervicalintraepithelial neoplasia)の概念を提唱した米国コロンビア大学婦人科病理学のRichart教授のもとに留学する機会が得られたこと,留学した1984年は,西独のzur Hausen教授らにより頸癌組織中でHPV 16型DNAが同定された翌年であったこと,Richart教授の教室でもCrum講師(現ハーバード大学)を中心に分子生物学を導入し,頸癌とHPV 16型の関連を調査し始めたことなどが挙げられる.
 留学当初はSouthern blot法で頸癌のHPV16型,18型DNAを検出していたが,その後組織内でのHPV DNAの検出にも関心を覚え,当時はまだ新しかったビオチンなど非放射線物質でラベルしたprobeによるin situ hybridi—zation(ISH)法を確立でき,病理組織切片上で感染したHPV DNA局在の観察が可能となった意義は大きかった.

原著

Recombinant human erythropoietinを併用した至適自己血貯血法についての検討

著者: 井谷嘉男 ,   伊藤公彦 ,   安達進 ,   斎藤謙介 ,   野田恒夫

ページ範囲:P.439 - P.443

 婦人科手術例にて,液状保存による術前自己血輸血法(自己血輸血)を行い,①保存期間による血液劣化を評価し,有効で効率的な自己血採取法を検討した.貯血後72時間未満の血液をearly(E)群,72時間以上7日以内をmid(M)群,8日以上21日以内をlate(L)群と3群に分類し,血液生化学的変化を検討したところpH,カリウム値,アンモニア値,重炭酸イオン値,base excessで,L群はE群,M群より有意に劣化した.②遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン(rh-EPO)のエポエチンアルファ併用群21例,エポエチンベータ併用群16例とrh-EPO非使用群10例の3群を設定した.貯血量が800mlを越すとヘモグロビン(Hb)濃度変化量や体重から概算した総Hb変化量はrh-EPO使用2群で有意に高値を示した.以上より,自己血輸血を行う際はrh-EPOを併用し,自己血を新鮮血化できるスイッチバック法が勧められた.

症例

妊婦イレウスの診断・治療について—自験例をもとに

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.445 - P.449

 妊婦イレウスは比較的まれな合併症であるが,一般的に症状は重篤で,早期診断が困難かつ予後が不良であるため,診断・治療についての知識を習得しておくことは重要と考える.今回,妊婦イレウスの1症例を経験したので,本症例をもとに文献的考察を加え妊婦イレウスの診断・治療について検討した.症例は37歳,4妊2産,34歳時に子宮内膜症にて手術を施行している.
 今回,24週0日で切迫早産,筋腫核変性および感染の疑いで入院管理中,突然嘔気・嘔吐,右側腹部痛が出現,イレウスと診断し,保存治療により軽快,以後経過良好であった.妊婦イレウスの診断は遅れがちであるが,イレウスという疾患を念頭におくこと,ハイリスク症例の認識,超音波法を有効に活用することが診断の要点と思われた.治療については,腸管の蠕動に対して抑制的に作用するβ2—stimulant投与の是非や胎児管理の問題もあり,問題が複雑であるため妊婦イレウスとしての独立した取り扱いの検討が必要ではないかと思われた.

肺炎および敗血症を併発したOHSSの1例

著者: 斉藤正博 ,   石原理 ,   林直樹 ,   高木章美 ,   竹田省 ,   木下勝之

ページ範囲:P.451 - P.455

 OHSSは血栓症などの重篤な合併症を併発することがあり,その管理はきわめて重要である.今回,著明な胸・腹水の貯留に加え肺炎および敗血症を併発した症例を経験した.
 症例は26歳,OGOP,多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)および不妊症のため,hMG-hCG療法による排卵誘発を施行した.hCGなど投与後5日目に両側卵巣の腫大,胸腹水,血液濃縮を認め入院となり,輸液,ドーパミンの投与をし,胸水,腹水を穿刺した.妊娠6週1日に突然,発熱および呼吸困難を訴え血圧低下,意識障害を認め敗血症性ショックとなった.抗生剤,抗ショック療法と同時に右胸水に対して胸腔内持続ドレナージの挿入を要したが,その後,自然流産となりOHSS,敗血症は軽快した.

巨大子宮内嚢腫を形成した子宮の腺線維腫の1例

著者: 菊川美一 ,   山内智文 ,   馬場元子 ,   日高康弘 ,   服部淳夫 ,   飛岡弘敏

ページ範囲:P.457 - P.460

 過多月経,月経困難症を主訴に受診し,子宮内に大きな嚢腫を形成していた子宮体部の腺線維腫(uterine adenofibroma)を経験した.腺線維腫は,ミュラー管混合腫瘍の範疇に入る良性腫瘍で,非常にまれな疾患である.術前,子宮腟部・子宮体部の細胞診で悪性を示さず,子宮筋腫と強度の貧血を合併していた.再度の子宮体部細胞診にて腺線維腫を疑わせる所見が得られた.腹式子宮全摘術を施行し,現在経過良好である.

薬の臨床

子宮筋腫に対する腟式および腹腔鏡併用腟式子宮全摘出術施行前のGnRHアナログ投与の有用性に関する検討

著者: 竹田明宏 ,   藤村秀彦 ,   塚原慎一郎 ,   井箟一彦

ページ範囲:P.461 - P.465

 当科においては開腹手術を可能なかぎり回避する目的で,積極的に腟式子宮全摘出術および腹腔鏡併用腟式子宮全摘出術(LAVH)を行っている.1990年9月より1996年9月までに岐阜県立多治見病院において腟式子宮全摘出術およびLAVHを施行した子宮筋腫症例中,とくに術前GnRHアナログ(スプレキュア®またはリュープリン®)投与を行い,子宮体積の経時的計測が可能であった112症例(腟式子宮全摘出術:97例,LAVH:15例)につきその有用性を検討した.症例全体でみると子宮体積は投与前371±199cm3であったが,4〜12週の術前GnRHアナログ投与により,その体積が投与前の60.8±18.8%へと縮小し,摘出物重量は腟式子宮全摘出術群で253±76g,LAVH群で452±169gであった.とくに初診時子宮体積が400cm3以上あった30症例につき検討したところ,投与前体積は628±209cm3(最小402—最大1,192cm3)でGnRHアナログの投与により投与前の51.3±18.0%へと縮小し,18例は腟式子宮全摘出術(平均摘出物重量:305±76g,最小150—最大540g),12例はLAVH(平均摘出物重量:488±154g,最小305—最大862g)により摘出可能であった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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