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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科51巻5号

1997年05月発行

雑誌目次

今月の臨床 エコーガイド下で何ができるか Overview

エコーガイド下診療の現況と展望

著者: 竹内久彌

ページ範囲:P.478 - P.481

 身体内部の臓器や病変部を描出して診断の用に供しようとするのが画像診断技術である.したがって,その技術はまた,身体内部に刺入された針や迷入した異物などの描出にも利用できる.そこで,この方法を使って,例えば病変部と穿刺針を同時に描出することで,両者の相互位置関係を知ることができ,ひいては穿刺針を正確に目標に到達させること,すなわちガイドが可能となる,このような画像診断技術の応用は,画像検査法の目的のなかでも重要なものの一つに数えられる.
 事実,超音波による穿刺針ガイドは1961年にBerlyne1)によって腎生検にAモード法で試みられたのが最初であるとされるが,これなどは当時まだ医療用の超音波診断装置がないときに,工業用の装置を用いて,当初からガイドの方法として利用しようとしたものであったという.その後,1972年ごろからHolmら2)やGoldbergら3)により穿刺専用探触子が開発され,Bモード法を用いての超音波ガイド下穿刺術が腎のほか膵,肝などに対して始められ,1975年以降はリアルタイム画像の得られる電子スキャンの実用化に伴って,その応用の飛躍的な発展と普及が見られるに至った.

婦人科

1.婦人科領域における穿刺,ドレナージ

著者: 山田清彦

ページ範囲:P.482 - P.485

 体腔内に発生した嚢胞性の病変,あるいは異常な液体貯留を認めた場合,まず考慮するべきことは,これを穿刺排液のできる状況にあるかどうかを判断することであろう.穿刺採取した検体を詳しく調べることにより,その病変に関する情報量は飛躍的に大きくなり,時として診断および治療法を決定づける.しかし穿刺排液自体が病変を拡大したり,あるいは重篤な合併症を引き起こすこともありうる.
 本稿では婦人科領域における超音波ガイド下穿刺ドレナージの適応疾患および合併症の発生について述べる.

2.卵胞穿刺(採卵)・胚移植

著者: 森若治 ,   神谷博文 ,   東口篤司 ,   高階俊光 ,   芦原康氏 ,   田中恵美

ページ範囲:P.486 - P.490

 体外受精・胚移植(IVF-ET)などのassistedreproductive technology(ART)において,超音波断層法は排卵誘発前の卵巣の状態,排卵誘発中の卵胞の数や発育,卵胞径による採卵のタイミング,採卵,子宮内膜の形状,胚移植,その後の妊娠の有無,妊娠継続などの観察のみならず補助的操作手技の一つとしても重要な位置を占めている.
 今回は,IVF-ETにおいて筆者らが行っている経腟超音波ガイド下での卵胞吸引と胚移植法,および過排卵時の卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防・重症化の軽減について述べる.

3.卵管通水

著者: 長田尚夫

ページ範囲:P.492 - P.495

 超音波断層装置を用いて通水による卵管疎通検査が臨床応用されている1-6).一般に卵管疎通検査には,通気・通水法,子宮卵管造影法ならびに腹腔鏡検査による色素通水法があり,それぞれ長所もあれば欠点もある.とくに子宮卵管造影では,ヨード過敏症やX線被曝,疼痛の問題が指摘されてきた.これらの欠点をカバーしようとする試みが超音波断層装置を用いて行うエコーガイド下卵管疎通検査である.本邦では,田口や石塚らがエコーガイド下卵管疎通検査の臨床応用を行っている.卵管性不妊が増加しつつある今日、現在行っている卵管性不妊の検査法には,限界が指摘されている.その意味で新しい試みであるエコーガイド下卵管疎通検査の意義については非常に興味が持たれている.卵管性不妊の治療には、マイクロサージェリーによる卵管形成術,腹腔鏡下卵管形成術,体外受精による胚移植法など目覚ましいものがあるが,治療の選択をするための検査法については残された課題も大きい.
 本稿では,卵管疎通検査について改めて各種診断法の利点,問題点について述べるとともに,エコーガイド下卵管疎通検査の意義について考察する.

4.子宮筋腫の部位別診断

著者: 関谷隆夫 ,   石原楷輔

ページ範囲:P.496 - P.500

 近年,経腟超音波診断装置の普及により,経腹走査法では困難であった骨盤内臓器の詳細な観察が可能となった.それにともない産婦人科領域の疾患の診断精度は飛躍的に向上した1).一方,本法にて子宮内を観察すると,子宮の内腔はわずかに線状に描写されるか,または不明なことが多い.一般に子宮内膜や内腔の形態に変化をきたす疾患として子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫,子宮体癌などが挙げられるが,本法はこうした診断にも有用とされている、しかし子宮内膜は非常に軟らかく,腔内に器質的疾患が存在しても圧迫により内膜に埋没し,膨隆した像として描写するのは困難で,輝度の違った領域として認識されるのみである.そこで子宮腔内に液体を注入しながら,経腟走査法で腔内病変を描写する方法(sonohystero—graphy,以下,SHGと略す)が1988年Deichertらによりはじめて報告された2).SHGでは液体によって子宮腔を拡大して観察を行うため,腔内病変を正確に診断することが可能となった.
 今回は,エンハンストエコーグラフィーのなかで最も一般的なSHGによる子宮筋腫の部位別診断について,症例を示して解説したい.

5.子宮内異物除去

著者: 中室嘉郎

ページ範囲:P.502 - P.503

 子宮内異物除去において最も重要な点は,①診断(存在の確認)と②安全に,痛みなく除去することである.とくに診断に関しては,超音波が導入されて非常に容易になった.ここで述べる異物除去における考え方は、子宮腔内に内膜以外の病変が存在する症例—子宮内膜ポリープ.頸管内ポリープ、子宮内膜増殖症,粘膜下筋腫、子宮内膜癌.子宮留膿腫などの病変においても同様である、本稿では子宮内異物(多くはIUD)についての考え方を述べる.

6.深部静脈血栓症診断

著者: 今井幸子 ,   平井都始子 ,   大石元

ページ範囲:P.504 - P.506

 従来,下肢深部静脈血栓症の画像診断法としては,下肢静脈造影とRIベノグラフィーが行われてきた,前者は,検査のゴールドスタンダードとされているが侵襲的であり,後者は設備の点で簡便性に欠ける.最近,超音波装置の普及と精度の向上により,超音波検査(US)が深部静脈血栓症の診断に利用される頻度が高くなり,非侵襲的に静脈そのものを見ることができるため、深部静脈血栓症の信頼できる検査法として確立されつつある.本稿では,症例を呈示しながら,Bモード圧迫法と,カラードプラ・パワードプラ法による検査法について,診断のポイントと注意事項について述べる.

産科

1.羊水穿刺

著者: 川鰭市郎 ,   玉舎輝彦

ページ範囲:P.508 - P.509

 羊水穿刺は1961年にLileyらによって,血液型不適合胎児の赤芽球症の診断において,最初に診療上の有用性が指摘された1),以来さまざまな胎児情報をもたらす検査法として施行されてきたが,超音波画像診断装置の開発によりその安全性が高まり.現在では広く普及している.
 羊水穿刺の適応は表1に示したように多岐にわたっている,近年は臍帯穿刺による胎児血の分析が可能となり,羊水穿刺よりも精度の高い情報が得られる場合もあるが,手技の難易度は羊水穿刺が圧倒的に容易であり,今なお羊水穿刺の有用性は十分評価されるものである.ここでは検査法として胎児染色体分析について,また治療法として羊水過多に対する羊水穿刺について述べる.

2.臍帯穿刺

著者: 是澤光彦

ページ範囲:P.510 - P.511

 臍帯穿刺は胎児採血の代表的な方法である.胎児診断の方法は,超音波断層法をはじめとする画像診断と,胎児成分を採取する生検法に大きく分けることができる.生検法は羊水穿刺と胎児採血がよく用いられる.胎児採血は得られる情報が非常に多い.さらに胎児循環系にアプローチすることができるので,採血とは逆に輸血や薬剤投与も可能である.

3.卵膜下血腫吸引

著者: 原量宏

ページ範囲:P.512 - P.515

 妊娠初期に胎芽心拍動が認められ,出血が長期に持続する症例において,しばしば子宮内にエコーフリースペースを認めることがある.このエコーブリースペースは、大部分の症例で安静のみで縮小するが,なかには徐々に拡大傾向を示し,最終的には感染,破水などで流産に陥る場合がある.統計的にみると、妊娠初期に発生する卵膜下血腫のほとんどは安静のみで自然軽快し,妊娠末期まで妊娠が継続した場合には,胎盤発育への影響はあるものの、児体重への影響は少ないという結果が得られている1).ただし血腫が徐々に増大し子宮内の圧が高まるような症例においては予後が悪い場合が多く,このような症例に関しては,積極的にドレナージおよび子宮口開大を試みてもよいと思われる.本稿においては,超音波画像診断で得られた所見を中心に,脱落膜下血腫症例における血腫吸引法に関して解説する.

4.胎内治療

著者: 小林秀樹

ページ範囲:P.516 - P.519

 胎児疾患のエコーガイド下出生前診断の臨床的意義は形態診断(胎児発育診断、胎児奇形の有無,胎児水腫の有無など)に胎児機能診断(胎児がwell beingであるかどうか,心臓,腎臓などの各臓器の機能診断発育不均衡双胎や胎児水腫症例の循環動態診断など)が加わり,有病診断のみならず種々の疾患を持つ胎児の個別診断が可能になることにより,胎児期あるいは新生児期早期の治療を見据えた胎児診断管理法に重きが置かれるようになってきた.
 あわせて胎児期診断の有無がその予後を左右する疾患群や胎内治療を選択すべき疾患群も明らかになってきた.

5.骨盤位外回転術

著者: 井槌慎一郎

ページ範囲:P.520 - P.522

 骨盤位経腟分娩がさまざまな周産期障害や周産期死亡の原因となりやすいとして.1960年代までは骨盤位外回転術(external cephalic version:ECV)が,妊娠30〜34週頃の外来健診時の処置として広く行われていた.しかし1970年代になると,妊娠36週以前には自然回転率が比較的高いことや,骨盤位外回転術に伴う各種合併症発生(胎児仮死・胎児死亡,臍帯脱出,前期破水,胎盤損傷など)などの問題から,これを行う施設は漸減していった.だが1975年にSaling & Muller—Holveらによって報告された,新たな骨盤位外回転術ともいえる妊娠末期骨盤位外回転術(lateextemal cephalic version)の臨床的意義が欧米を中心として認められるようになり,また骨盤位帝王切開率の増加に対する反省も加わって,本邦でも骨盤位外回転術が近年再び見直される傾向にある.
 本稿では当母子センターで行っている骨盤位外回転術(いわゆるlate external cephalic version)の手順を提示し,とくにそのなかで「超音波診断法をどう活用するか」について解説する.

6.Discordant twin, TTTSの治療

著者: 田中守 ,   宮越敬 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.524 - P.526

 Discordant twinは、双胎における双胎胎児の出生時体重が一定以上異なるものと定義され,予後不良のハイリスク群とされている.Discordanttwinの原因は多岐にわたるが,とくに1絨毛膜性双胎での胎盤上血管吻合における血流のアンバランスにより発生する双胎間輸血症候群(以下,TTTS)によるものは,予後不良として知られ注目されている,典型的なTTTSは,双胎胎児の1児が供血時として貧血,羊水過少となり,他児が受血児として多血,羊水過多となり.Discordanttwinとなる(図1).
 一卵性双胎は受精卵の分離によって生じるが,表1に示したように,分離が生じる時期によって絨毛膜の数,羊膜の数が決定される.このうち絨網膜が形成された後に分離した場合,胎盤が共有された1絨毛膜性双胎となりTTTSの発生の可能性が生じる.したがって,TTTSの早期診断早期治療のためには、妊娠初期に1絨毛膜性双胎であることを診断し,厳重な経過観察を行うことが必要であると考えている.

7.胎児胎盤血流診断における負荷試験

著者: 村越毅

ページ範囲:P.528 - P.531

 近年の超音波検査の進歩は日常の産科臨床に大きく貢献し,なかでも超音波ドプラ検査はrealtimeに胎児のwell-beingを評価することを可能とした.とくに子宮内胎児発育遅延児(IUGR:intrauterine growth retardation)や妊娠中毒症などのhigh risk群の管理において,胎児胎盤血流計測は胎児心拍モニターと並んで胎児の機能評価,予後判定などにきわめて有用であると考えられる.
 IUGRや妊娠中毒症症例の胎児管理(well—beingの評価,早期娩出のタイミング)を実際の臨床の場で行うには,胎児を個別化して管理すること,とくにintensiveな管理が必要なhigh risk群とやや管理をゆるめてもよいlow risk群に分けることが重要であると考える.

8.子宮内容除去術,癒着胎盤剥離,胎盤ポリープ除去

著者: 正岡博

ページ範囲:P.532 - P.535

 産科領域における子宮内操作として稽留流産,不全流産,胞状奇胎に対する子宮内容除去,癒着胎盤除去,胎盤ポリープ除去などがあるが,いずれも安易に施行すると子宮壁穿孔や大出血を併発し,母体に重篤な合併症をもたらす危険性がある.本稿ではこれらの処置をより安全に施行するための補助手段としてエコーガイドの有用性について述べる.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・5

卵巣嚢腫に対する腹腔鏡下手術:III—SAND Balloon Catheterを用いた方法について

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   山田幸生 ,   脇本栄子

ページ範囲:P.473 - P.475

SAND Balloon Catheterについて
 癒着を伴うチョコレート嚢腫に対して,内容液の吸引やアルコール固定処置などの操作を簡便で安全にできる器具を目指して開発・改良したものが,SAND Balloon Catheter(八光商事,製造承認番号:08B−0004)である.本器具の構造は,16G針を内蔵した5mm外径のカテーテルで,先端に2つの10m1バルーンを装着しており,卵巣嚢腫穿刺後に両バルーンで嚢腫壁の把持・固定ができ,内針を抜針後の内径は14G相当になる.
 本器具の特徴は,図(1)に示すように,①嚢腫内容液の吸引や洗浄操作を漏らすことなく行える,②アルコールなどの薬物処理も安全に施行できる,③把持鉗子や操作鉗子の役割を果たし癒着などの剥離操作にも有用である④体内で抜去をすることなく一連の操作で卵巣嚢腫を体外に誘導することができる,⑤体外法とともに体内法においても使用することが可能である,などの多くの機能をもちあわせている点である.

病院めぐり

広島県立広島病院

著者: 占部武

ページ範囲:P.536 - P.536

 広島県立広島病院は明治10年3月に公立広島病院として創設され,昭和20年4月には県立医学専門学校設立に伴いその附属病院となった.同年8月6日,原子爆弾の投下により壊滅したあと,昭和23年4月,現在の地に広島県立広島病院として再興された.今般,数年来の大改築および院内組織の改正が行われ,平成7年6月,母子総合医療センターの発足(NICU 20床)とともに産科婦人科は一新し再スタートした.
 産科婦人科医師は8名が常勤し,産科は19床(PICU 3床),婦人科は50床を有する.広島医療圏の中核病院として胎児から成人までの総合的医療を行い,遠隔地からのヘリコプターによる緊急搬送受け入れ体制も整備されている.

九州労災病院

著者: 柏村賀子

ページ範囲:P.537 - P.537

 北九州市は福岡県の北九州5市が合併してできた人口約100万の産業都市です.市の中心部から車で約30分,足立山麓の清楚な空気と緑の木立に囲まれ,病院の窓から遠くに周防灘を見下ろす風光明媚なところに位置しています.
 当院は昭和24年に設立されました.当時は産業の振興とともに増加した労働災害に対しての専門治療がなされ,整形外科を中心に発展してきましたが,現在では産業公害は減少し,交通災害が増加し,それとともに地域の一般病院としての役割が大きくなってきました.昭和36年にリハビリテーションセンター,昭和41年にリハビリテーション大学校,昭和49年に健診センターを併設昭和55年には産業医科大学の教育指定病院となり,そのときに産婦人科が開設されました.現在は総ベッド数600床の総合病院で,厚生省から臨床研修指定病院に認定されています.

OBSTETRIC NEWS

経腹的人工羊水注入法

著者: 武久徹

ページ範囲:P.538 - P.540

 分娩中のnon-reassuring(心配な) fetal heartrate(FHR)(胎児心拍数)パターンによる帝王切開(帝切)の大きな原因である羊水過少症に対し,non-reassuring FHRパターンを回避する方法として経頸管人工羊水注入法(TCAI)が多くの施設で採用されている.しかし,TCAIは子宮頸管が少なくとも1cmは開大していないと,子宮内圧測定用カテーテル挿入ができず,施行できない.
 そのような症例に対し,最近,経腹的人工羊水注入法(TAAI)が報告された.この研究は、ジョージタウン大学のVerganiらが行ったものである.1991年6月〜1994年9月に陣痛発来前の単胎,頭位,妊娠37週以降,児推定体重2,500g以上,反応型NST, Bishop scoreが6点以下,未破水で超音波診断で羊水過少症と診断された症例(羊水最大ポケットが2×2(cm)未満)を研究対象とした.羊水スペース内の臍帯はカラードップラーを使用して,測定から除外した.羊水量測定は妊娠40週以前では臨床的適応があった場合,妊娠40週以降はルーチンに行った.研究対象となった症例は無作為に2群に分けられた.TAAI群(注入群)は超音波ガイド下に20 Gのスパイラル針を極力胎盤を穿刺しないように羊水ポケット内へ刺し,点滴用の延長チューブと三方活栓を用いて,経腹的に室温の生理食塩水500 mlを注入した.

胎児心拍数(fetal heart rate:FHR)パターンの定義と対応

著者: 武久徹

ページ範囲:P.541 - P.543

 FHRパターンは約30年以上前に分類が行われ,それ以来,修正が試みられてきた.米国産婦人科医会(ACOG)や世界産婦人科学会が定義の統一を試みてきたが,いまだ確立された定義はない.FHRモニタリングの世界的権威者であるParer (カリフォルニア大学サンフランシスコ校)とQuilligan(カリフォルニア大学アーバイン校)は,現在も教育や臨床の第一線で活躍中の米国のFHRモニタリングの専門家14名(周産期医13名,産科看護婦1名)に12分野,48項目にわたる質問状を送付し回答を得,第16回米国周産期医学会で発表した.以下に,定義と管理方法を紹介する.カッコ内は回答者数を示す.

Estrogen Series・15

ホルモン補充療法の普及率—スウェーデンの場合/主治医の性差はエストロゲン補充療法の処方率に影響を及ぼすか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.544 - P.545

 ホルモン補充療法(HRT)は,実際どのくらいの女性に使用されているのだろうか?スウェーデンでの調査によると,過去20年間でその普及率は7%から24%に上昇した.最近のスウェーデン第二の都会ゲーテボルグでの調査によると,HRT普及率のもっとも高いのは54歳の女性で,その24%が使用している.
 1996年,スウェーデン医療研究会議はスウェーデン中の産婦人科医1,323名と一般開業医(GP)の3人に1人の割合である1,397人に質問状を送り,解答を集計した.産婦人科医の80%と,GPの53%から解答があった.医師が更年期後の女性である場合には自分でHRTを使用しているか,また男性医師の場合には,その配偶者がHRTを使用しているか,も調べた.その結果,HRT使用率は表1のごとくであった.

CURRENT RESEARCH

性ホルモンと成長因子

著者: 倉智博久 ,   村田雄二

ページ範囲:P.549 - P.555

 私は,米国NIHに留学(1994〜1996年)中から,癌の増殖機構と生殖生理の分野で成長因子(とくにEGFファミリー)の研究をしてきた.臨床では,留学前から卵管のマイクロサージェリーを専門としており,条件のよいケースでは卵管の手術後の妊娠率は体外受精—胚移植(IVF-ET)の妊娠率よりも優れていることから,卵管の機能に強く興味をひかれた.ちょうどその頃から,初期の胚発生に成長因子が重要な意義をもつことが明らかとなってきたこともあり,初期胚の重要な環境である卵管に成長因子が存在し,これらが胚発育促進作用を持っているのではないかと考え,以下の研究を行った.

症例

多剤併用化学療法の副作用として発生した期外収縮の1例

著者: 竹下茂樹 ,   高田眞一 ,   高田博行 ,   田村彰浩 ,   森宏之

ページ範囲:P.557 - P.560

 子宮体癌IVb期にCDDP・epi-ADM・ifosfamide併用化学療法を3週間隔で5クール行ったところ,投与回数を重ねることに期外収縮が増悪した1例を経験した.患者には肺転移があり,一般状態が3と不良であったため,化学療法を先行し,CDDP70mg/m2,epi-ADM 40 mg/m2,ifosfamide 1.5 g/日×5日間を開始した、化学療法2コース目を施行中に右脚ブロックが出現し,3コース終了後には心室性期外収縮が散発し,増悪した.
 通常量投与による心電図異常の報告は少ないが,CDDP,epi-ADM,ifosfamideのいずれもが心毒性があるため,相乗作用による危険性があることを忘れてはならない.

IUD遺残が誘因と考えられ,腸管合併切除を必要としたActinomycosisによる骨盤内膿瘍の1症例

著者: 竹田明宏 ,   藤村秀彦 ,   塚原慎一郎 ,   井箟一彦

ページ範囲:P.561 - P.564

 actinomycosis(放線菌症)は,actinomycesにより引き起こされる感染性疾患である.婦人科領域においてactinomycesはIUD装着婦人にまれに骨盤内膿瘍を発症することが知られており,また,一度発症すればその破壊的進展様式より重症化してしまうことが多い疾患とされている.今回筆者らは,1年前に他医(外科)にて右卵巣膿瘍の診断のもとに右付属器摘出術および回盲部切除を受けたにもかかわらず,子宮内IUDが放置されたために,再度発症し,子宮全摘術,左付属器摘出術とともに腸管合併切除を必要としたactino—mycosisによる骨盤内膿瘍の1症例を経験したので報告する.

陶器様卵巣:びまん性石灰化皮様嚢腫の1症例

著者: 浜本鉄也 ,   岡田清 ,   宮川昇 ,   高橋英彦 ,   石川みずえ ,   茂古沼吉宗 ,   小林由子

ページ範囲:P.565 - P.568

 患者は78歳,女性.腰痛を主訴に整形外科通院中,腹部単純X線写真で骨盤腔内に輪状石灰化を指摘された.当院婦人科紹介入院,術前のCTでは約9cm径の嚢胞性腫瘤で嚢胞壁はびまん性の石灰化,また内腔は脂肪と液体の2層性を示していた、付属器摘出術が施行され,術中診断は右卵巣皮様嚢腫で重さ375g,嚢胞内容には毛髪と脂質成分が確認された,病理組織学的所見は肉眼的には多房性の卵巣嚢胞で嚢胞壁は骨様あるいは陶器様に硬く触れ,また組織学的には嚢胞壁は瘢痕様の線維化およびびまん性に顕著な石灰化を示していた.
 本例にみられるびまん性石灰化皮様嚢腫は,腹部単純X線写真および触診上,陶器様胆嚢にきわめて類似しており,本例を陶器様胆嚢に因んで陶器様卵巣と呼称することを提唱したい.また陶器様卵巣は皮様嚢腫のきわめてまれな合併症と考えられた.

70歳女性に発症したChlamydiatrachomatisによるPIDの1例—卵巣癌との鑑別について

著者: 竹原和宏 ,   谷岡祥子 ,   赤木武文

ページ範囲:P.569 - P.572

 クラミジア感染症によるPIDで血清CA125値が高値を示し,骨盤内に腫瘤を認めた症例を経験した.
 症例は70歳で腹部膨満感,腹痛を主訴として来院した.初診時超音波およびCT検査にて著明な腹水貯留とともに骨盤内ダグラス窩に辺縁不整で内部不均一な手拳大の腫瘤を認めたため悪性卵巣腫瘍を疑った.腫瘍マーカーはCEA,AFP,CA 19-9,STNは基準値以下であったが,血中CA I 25値は1,020 U/mlと上昇していた.感染症の検索でクラミジア抗体陽性であったため抗生剤(LFLX→CAM)の投与を開始したところ腹水は消失し,CAI25値も下降,骨盤内腫瘤も消失した.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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