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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科51巻7号

1997年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 婦人科がんの化学療法—われわれはこうしいる

婦人科がん化学療法の企画にあたって

著者: 薬師寺道明

ページ範囲:P.691 - P.691

 シスプラチンの登場以来,悪性腫瘍に対する化学療法が見直され,各科領域において抗癌剤の有効な投与方法が検討されている.なかでも白血病に対しては,シスプラチンを中心とした抗癌剤の評価は高く,治療の主体となっているのは周知のごとくである.
 婦人科癌のうち,卵巣に発生する悪性腫瘍の多くはシスプラチンをはじめとする新しい抗癌剤に感受性を示し,予後の改善に大きな期待が持たれてきた.しかし,10数年にわたる臨床試査の長期予後成績は必ずしも満足すべきものではない.これは,再燃あるいは再発例に対するsecond lineあるいはthird line chemotherapyの困難さを物語っていると思われる.

Overview—婦人科がんの化学療法

著者: 西村治夫 ,   今村和夫

ページ範囲:P.692 - P.697

 従来,がん治療の主役は手術療法と放射線療法で化学療法は補助的手段にすぎなかった.しかし,抗がん剤が臨床の実地に登場して半世紀も満たない今,化学療法はがん治療の中心的役割を演ずるようになった.

子宮頸癌に対するNeoadjuvant Chemotherapy

著者: 杉山徹

ページ範囲:P.698 - P.702

 近年,進行子宮頸癌治療において補助化学療法,とくにneoadjuvant chemotherapy(NAC)が導入され,局所のコントロールや遠隔転移の減少に対して評価されている,筆者らも,局所浸潤を有するIIb〜IVa期症例に対しNACを導入し,引き続き行われる手術や放射線との併用での総合的な効果を検討しており,現在までの知見を報告する.

子宮頸部腺癌の化学療法

著者: 岩坂剛

ページ範囲:P.704 - P.707

 子宮頸部腺癌の頸癌全体に占める割合は,近年増加傾向にある1,2).これは必ずしも,腺癌の絶対数が増加しているわけではなく,扁平上皮癌の減少に伴う相対的な増加と考えられている3)
 一般に,子宮頸部腺癌は扁平上皮癌より予後が悪いと言われており,その理由として,①腺癌の初期病変の細胞診断が難しいため,0期あるいはIa期といった早期癌で発見される頻度が低いこと,②とくにリンパ節転移陽性例の予後が悪いこと,さらに③治療において,放射線感受性が低いものが多く,放射線単独治療あるいは手術後の残存病変に対する放射線治療が扁平上皮癌に対するほど効果的でないことが挙げられる4-6)

子宮体癌のホルモン療法,化学療法

著者: 冠野博 ,   山本宝

ページ範囲:P.708 - P.711

 子宮体癌の主治療は手術による摘出と放射線治療であると認識されている.したがってホルモン療法,化学療法は次の場合のように主治療が適当でない症例に対して施行している.①進行,再発症例に対する寛解導入療法,②ハイリスク因子を有する手術後症例や放射線照射後症例に対する補助療法,③妊孕性の温存を必要とする症例に対する治療,などである.そこで,各々の対象症例に対する,筆者らの治療方針について述べてみたい.

卵巣癌に対するNeoadjuvant Chemotherapy

著者: 波多江正紀 ,   和田俊朗 ,   大西義孝 ,   中村俊昭 ,   山本文子

ページ範囲:P.712 - P.717

 抗癌剤の進歩とともに,多数の固形腫瘍に対する集学的治療の在り方に少しずつ変化が見られるようになってきているものがある.それらの主なる原因は,抗癌剤の併用療法や,新しい細胞レベルでの薬理作用をもった新薬の臨床導入によるところが多く,さらにこれらの優れた化学療法の支持療法の進歩がcomplianceを上げ,二次的に抗腫瘍効果を押し上げている可能性も否定できない.
 過去25年間に,絨毛癌は85%治癒可能な腫瘍の範疇に入り,卵巣癌は一部完治可能な範疇の腫瘍の地位を獲得するに至った.最近の分類では卵巣癌に対する抗癌剤のカテゴリーは,乳癌,喉頭癌などと同ランキングに属している.しかし同一のカテゴリーのなかでも3者の臨床奏効率には微妙に差が見られ,neoadjuvant chemotherapyと組み合わされた手術の長期的予後改善へ評価がなされている.換言すれば,60〜70%の奏効率を有するがゆえに手術と化学療法のそれぞれの利点で補い合っての治療が必要になるといえよう.30%前後の奏効率であればSLOもsecondary cytore—ductionの意義も,second lineという救済的措置も存在しない.90%程度の奏効率であれば化学療法の比重はさらに高く,術前化学療法は一定の条件が満たされる患者には標準的手法として定着すると思われる.

卵巣明細胞癌の化学療法

著者: 西田正人

ページ範囲:P.718 - P.722

 卵巣明細胞癌(clear cell carcinoma)に対してコンセンサスが得られた標準的化学療法はない.本腫瘍は他の腫瘍が化学療法によってその予後が改善されるに従い、あぶりだされてきた予後不良の腺癌である.しかしながら,本腫瘍はその多彩な形態的特徴もさることながら,組織発生や組織分化度診断,制癌剤感受性の面で,多くの興味ある神秘的な側面を備えており,そのことを知ることが本腫瘍制圧の糸口になる可能性もあるので,筆者が本腫瘍と付き合ってきた歴史を含めて,本腫瘍の性格と治療の現状について述べてみたい.

妊孕性を考慮した卵巣悪性胚細胞腫瘍の化学療法

著者: 東政弘 ,   諸見里秀彦 ,   金澤浩二

ページ範囲:P.724 - P.729

 卵巣悪性胚細胞腫瘍は若年者に発生する悪性度の強い疾患である.現在の化学療法が行われるようになる前は,予後はきわめて不良であった.とくに卵黄嚢腫瘍の予後は不良で,1979年発刊の教科書には日本産婦人科学会,卵巣腫瘍委員会の予後調査成績として治癒率は1.6%と記載されていた1).近年,癌化学療法の目ざましい進歩により,予後は著しく改善し,治療方法も大きく変化した2).その高い薬剤感受性と奏効率から,本疾患では進行期に関係なく妊孕性保存手術が試みられるまでに至っている.当科では1983年開設以来,若年者の卵巣悪性胚細胞腫瘍の全例に保存手術と術後化学療法を行っているが(ただし未分化胚細胞腫瘍Ia期には化学療法は行わない),再発・死亡例は1例もなく,化学療法後に健児を得ている症例も経験している3-6)
 ここでは当科で実際に行っている若年者の悪性胚細胞腫瘍の治療法,とくに化学療法の実際について述べる.

卵巣腹膜偽粘液腫の化学療法

著者: 滝沢憲

ページ範囲:P.730 - P.733

腹膜偽粘液腫の疫学・発生病理・予後
 腹膜偽粘液腫は,一般に,粘液産生細胞が腹腔内全体に播種し,多量のゼラチン様粘液物質が腹腔内全体を充満している状態と定義される.本症は比較的まれで,全開腹例10,000人に対して1人1),あるいは2人2)と言われ,全悪性卵巣腫瘍に占める割合は,本邦では1,756例中21例1.2%3)であり,自験例では211例中2例0.95%(1985〜1993年)に過ぎない.本症の発症率は,女性が男性の3倍多く,その発生原因は卵巣粘液性腺腫・腺癌,虫垂の粘液性腺腫・腺癌あるいは高分化型大腸癌に続発由来すると言われる(女性では卵巣:虫垂=2:1と言われる).
 しかし,卵巣粘液性腺癌が術中に破綻したからといって本症が続発することはないようであるし,悪性度が高く破綻しやすい卵巣癌より,むしろきわめて分化度の高い,組織学的に“良性”の印象を与える卵巣腫瘍を併発していることが多い.そこで,本症の発生には卵巣漿液性腺腫(境界悪性)に腹膜播種性病変を伴う場合や,卵巣表在性漿液性乳頭状腺癌に播種性の腹膜表在性漿液性乳頭状癌を伴う場合と同様に,腹膜中皮における造腫瘍能が何らかの理由で亢進している状態が想定される4)

卵巣癌のSecond Line Chemotherapy

著者: 喜多恒和 ,   菊池義公 ,   工藤一弥 ,   永田一郎

ページ範囲:P.734 - P.739

 最近,卵巣癌に対する化学療法として,再発・再燃患者に直接携わっている臨床医の立場から,second line chemotherapyの確立が要求され,さまざまな治療法が報告されるようになった.firstline chemotherapyとしてのCAP療法やCP療法の奏効度と比べて,second line chemotherapyのそれはけっして芳しいものとは言い難いが,プラチナ製剤に抵抗を示す症例の奏効度としては致し方ない結果と考えざるを得ない.プラチナ製剤に代わる抗癌剤が開発されないかぎり新規あるいは既存抗癌剤とプラチナ製剤との併用によるそれぞれの効果増強を期待した治療法を確立することが現状において可能かつ選択すべき対策と考えられる.

末梢血幹細胞移植による進行卵巣癌の治療

著者: 篠塚孝男 ,   平澤猛

ページ範囲:P.740 - P.743

 白金製剤を主体とした多剤併用療法により,臨床進行期III・IV期の進行卵巣癌においても治療成績の改善が得られるようになったかに見えたが,それらの長期予後成績を文献上の報告からみるとけっして満足できるものではなく,5年生存率は25〜30%でプラトーとなっているのが現況である.しかし一方で,消化器系の固型癌においては,腹腔内播種や胸水貯留がみられるようになるまで進行した症例は積極的な治療の対象とはならないが,卵巣癌ではこのような症例でも可能な限りの腫瘍摘出を行ったあとにシスプラチン(CDDP)を主体とした抗癌剤を投与すれば,それなりの治療効果が得られることが判明している.このことは卵巣癌が消化器系の癌よりも抗癌剤に対する感受性が高いことを示しており,手術療法に加えて化学療法にも工夫を加えることにより,長期予後においても治療成績の向上が得られる可能性のあることを示唆する重要な事実と思われる.

在宅癌化学療法

著者: 清水敬生

ページ範囲:P.744 - P.747

 現時点での「在宅」化学療法(化療)は,用語のみ輸入され,明確な定義がなされぬまま一人歩きしはじめている点が心配である.「外来化療」,「在宅terminal care」との混乱もあるようである.米国では,治療費(とくに入院費用)などのnon—scientificな理由から,化療(1st lineを含めて)は外来で行われることが多い.しかしながら,「在宅」での,1st line化療の報告はなされていない.一方,「terminal care」に関しても,「在宅」に関心が寄せられてはいるものの,意外に普及していない.米国での調査報告結果をみると,1980〜1990年における婦人科癌患者の死亡場所を病院と自宅の何れかを調査したところ,1980年初期には自宅死亡が約25%であったのに対し,1990年には10%以下に減少している1)
 本稿は「terminal care」ではなく,「curativecare」での「在宅治療」がテーマとされている.「在宅治療」は,本来すべての手技を在宅で行うことを指す.外来(通院)で化療を受け帰宅する場合は,「外来化療」である.本稿では,外来(病院)でIVHを留置し,infuserより薬液を持続的に注入する場合,および入院して手術的に持続動注ルートを設置し,外来で薬液をタンク内に注入し,在宅でも抗癌剤が注入される場合も含めて「在宅化療」とし,現時点での実行の可能性と問題点について述べる.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・7

LAVH(Laparoscopically Assisted Vaginal Hysterectomy):II—難度の高い症例におけるLAVHの実際

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   山田幸生 ,   脇本栄子

ページ範囲:P.687 - P.689

 LAVH(腹腔鏡補助下腟式子宮全摘術)の当科における基本術式とその手順については前回のカラーシリーズを参照いただきたい(本誌51巻6号579頁).今回は,本法を導入後5年が経過したので,LAVHと開腹移行例と開腹手術の手術内容の検討と、難度の高い症例におけるLAVHの実際についても紹介する.
 なお,LAVHの対象には,子宮摘出の必要な子宮筋腫または子宮腺筋症のなかで,(1)大きさは新生児頭大まで.(2)腟式操作が可能と判断される,(3)手術既往は問わない.(4)気腹による腹腔鏡操作が可能,などの条件を術前に満たす症例とした.また,腹腔鏡下操作として,①膀胱腹膜の切開が可能か,②ダグラス窩が開放されるか,③自動縫合器の安全な操作が可能か,の3点を同時に満たすことを条件としている.もし,大きさや癒着や技術面などから,いずれかが満たされない場合には,むりすることなく速やかに開腹手術に移行し,開腹移行例として扱っている.

病院めぐり

札幌鉄道病院

著者: 草薙鉄也

ページ範囲:P.748 - P.748

 札幌鉄道病院は1997年11月6日で開院82周年を迎えますが,その歴史は札幌発展の歴史とともにあります.札幌は明治4年,東久世北海道開拓庁長官が岩村判官などを督励して経営に着手したことに始まります.当時624人であった人口も現在は約170万人に膨れ上がり,今も急激な都市化が進むなか,市の中心から車で30〜40分も走ると周辺部には雄大な北海道の自然がふんだんに残されており,北海道開拓のロマンと相俟って,野趣に富んだ北国のロマンティックな街になっています.
 今日までの発展のなかで,117年前に小樽の手宮と札幌の間に敷かれた鉄路が果たした役割は大きく,これに従事した人の苦労と努力は計り知れないものがあります.そして,札幌鉄道病院はこれらの鉄道部内職員に対する公務上の傷病者治療を主眼として大正4年11月6日,札幌市北3条西4丁目に仮診療所を設置して業務を開始しました.したがって,開設当初は内科と外科のみでしたが,大正11年,現在の北3条1丁言に移転,翌12年,診療科の増設によって産婦人科が併設され,その後増築が行われ昭和35年12月に現在の病院が完成しました.

東北労災病院

著者: 舟木憲一

ページ範囲:P.749 - P.749

 当院は労働福祉事業団の全国労災病院39病院の1つで,昭和29年に設立された東北地方の基幹病院である.17診療科を持つ580床の総合病院で,市中病院の中堅病院として活躍している.そもそも労災病院は,主として労働災害における被災者の診療などを行うために設置された病院で,労働環境および職業生活を意識した健康障害全般,さらに地域医療にも大きな役割を果たしている.
 当院の産婦人科は26床を有するこじんまりとした科であるが,日本産婦人科学会認定研修病院に指定されている.産婦人科認定医3名で診療にあたり,周産期医学,婦人科腫瘍学,不妊症をそれぞれサブスペシャリティーとしている.細胞診指導医は2人,うち1人はFIACの資格を有している.看護スタッフは18名で,すべて助産婦の資格を持ったものが仕事をしている.年間の分娩数は約350件で,手術約210件,細胞診は約2,200件である.

Estrogen Series・17

肝臓障害とホルモン補充療法

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.750 - P.752

 肝臓障害にはホルモン補充療法(hormonereplacement therapy:HRT)は禁忌と言われている.英国の著者はこの問題に光りを当てて検討してみた.以下はその要旨と抄訳である.
 肝臓障害をもつ女性に対するエストロゲンの使用は伝統的に避けられてきたが,その理由はおもに胆汁うっ滞(cholestasis)を理論的には発生または促進するからというものである.この理由を裏づける多くのデータは1960年代経口避妊薬(ピル)によるもので,その成分は合成エストロゲン製剤であるethinylestradiolである.この製剤はHRTとしても20年前から使用され,その使用は現在も増加している.ピルのときと同様,その使用は慢性肝臓障害の危険を伴うと正式に警告されていたが,実際にはHRTによる胆汁うっ滞の症例報告はおどろくほど少ない.また,HRTの治療的作用は肝臓障害患者に有利に働く可能性もある.著者はこの問題をもう一度検討してみた.

Q&A

新生児B群レンサ球菌感染症の予防をどうするか(2)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.755 - P.757

Q 新生児B群レンサ球菌(GBS)感染症の予防に関する,現在の考え方をお教え下さい(山口Y子)
 A 重篤な新生児感染症の原因として重要なGBSについて,妊娠中の培養検査をどのように行い,どのように治療するかは,つねに異論があり,現時点でも確立された方法は紹介されていません.しかし1996年6月に米国防疫センター(CDC)から,新生児GBS感染を予防するための管理方法に関する勧告が出され,ほぼ同時に,CDCの勧告に対する米国産婦人科医会(ACOG)の見解が紹介されました.それらを中心に,新生児GBS感染を予防するための最近の考え方を,前号で妊婦のGBS培養の時期と治療の時期について紹介しましたが,今月は新生児GBS感染症予防のためのACOGの見解をご紹介します.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

抜糸抜鉤を必要としない腹壁縫合法

著者: 古川雄一

ページ範囲:P.758 - P.758

 産婦人科の開腹手術の後で,患者が忌み嫌う最大のものは,抜糸または抜鉤であろう.またこれらの手技では,術後長く糸などによる痕跡が残るため,いろいろな意味からも改善できればと思うのは医家として当然であろう.
 婦人科領域においても,腹腔鏡手術が患者から快く受け入れられている昨今,開腹による手術をせざるを得ない場合には,創面の処置について考慮しなければならないと思われる.

癒着の著しい子宮筋腫の手術について

著者: 綱脇現

ページ範囲:P.759 - P.759

 子宮筋腫手術後の断端癌は以前にはしばしば遭遇した.ところが,術中・術後の管理が向上した今日,遭遇することは少なくなった.しかし,発生した際,その治療に苦慮するのも事実である.
 したがって,最近では子宮筋腫に対し子宮腟上部切断術を行うことは医原病を作ることになると言う人さえいる.

CURRENT CLINIC

HELLP症候群の病態よりみた診断と予後判定

著者: 日高敦夫 ,   中本収 ,   周藤雄二 ,   三橋玉枝 ,   康文豪 ,   川端政実 ,   松尾重樹 ,   松本雅彦

ページ範囲:P.763 - P.768

 重症妊娠中毒症に併発してみられるHELLP症候群は,母児予後にとって重篤な障害を招きやすいことが知られている.したがって,その発症の予測と診断,並びに病態推移の適切な把握は臨床上きわめて重要な課題である.HELLP症候群発症の病態は少なくとも妊娠高血圧症とは同一スペクトラム上の病態とみなすことが可能であるが,妊娠中毒症発症以前からの本症候群の発症予測は困難である.しかし妊娠中毒症発症時からの,右上腹部痛などの自覚症状をも含め,血小板数,肝機能,LDHなどの測定は本症スクリーニングとして意義があり,とりわけ急激に変動する重篤な病態推移の把握には,血小板数が最も予後と関連する重要なパラメータであり,ついでGOT, LDHの経時的測定が臨床上有用である.

症例

未分化癌成分が主体を占めた子宮体部癌の1例

著者: 名方保夫 ,   辻村亨 ,   窪田彬 ,   杉原綾子 ,   寺田信行

ページ範囲:P.769 - P.773

 未分化癌成分が主体を占めた子宮体部癌の1例を経験したので報告する.症例は60歳女性.主訴は,不正性器出血の持続であった.子宮内膜生検で腺癌と組織診断されたため,広汎子宮全摘出術が施行された.摘出子宮標本の病理組織像では,表層部分に分化型類内膜腺癌像が認められたが,大部分は未分化癌像であった.そこで肉腫(とくに高悪性度子宮内膜間質肉腫)および同所性癌肉腫との鑑別が問題となったが,鍍銀染色は上皮性パターンを示し,免疫組織化学的にサイトケラチンおよびビメンチンが陽性であった.上記の染色は,肉腫との鑑別に有用であった.

Color Dopplerが診断に有用で,Methotrexate局注が保存治療として有効であった子宮頸管妊娠の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.775 - P.778

 子宮頸管妊娠はまれな疾患であり,頸管流産との鑑別診断が困難な場合があること,子宮温存を目指す場合にその確実な治療法が確立されておらず,しかもひとたび治療法を誤れば止血困難な大出血を招き致命的な事態もあり得るなどの問題点が存在する,今回,color Dopplerが診断に際し有用であり,保存治療としてメトトレキサート(methotrexate:MTX)局注療法が有効であった1症例を経験した.color Dopplerは低侵襲であり,頸管内胎嚢周囲の豊富な血流分布は頸管内での胎嚢発育の証拠であり,頸管妊娠の診断において有用な所見であった,また,頸管妊娠の保存治療に際しては診断時の妊娠週数,血・尿中hCG値,児心拍の有無などの状況により治療法が考慮され選択される必要があるが,本症例では2回のMTX20mg局注のみで副作用もほとんどなく治癒に至り,早期診断の症例については試みる価値のある方法であると考えられた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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