icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科51巻8号

1997年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 産科における検査法—有用性と再評価 妊娠初期

1.妊娠初期の超音波断層法で何がわかるか

著者: 町田正弘 ,   竹内久彌

ページ範囲:P.792 - P.795

 経腟超音波断層法が産婦人科臨床に導入され,超音波検査の完全な日常化が可能となった.妊娠初期の読影対象は,胎嚢・卵黄嚢・羊膜,および胎芽・胎児などが挙げられる.これらは比較的個体差や測定誤差の少ないものであり,検査に際し,具体的に妊娠何週から何が観察されるべきかを十分に理解しておく必要がある(図1).本稿では妊娠初期を妊娠第一三半期(first trimester)と理解し,経腟法に限定して解説し,自験例(一般産婦人科外来での診断成績)を交えて紹介する.

2.絨毛膜下血腫は切迫流・早産の予後と関連するか

著者: 平野秀人 ,   小川正樹 ,   真田広行 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.796 - P.799

 日常臨床上の超音波検査で,子宮内卵膜下にecho free spaceを認めることは,それほど稀なことではない.このような所見は,いわゆる絨毛膜下血腫(あるいは絨毛膜下出血)と称される疾患の特徴的画像で,Ball RH1)らによると,その出現頻度は1.3%程度とのことである.絨毛膜下血腫の臨床的な意義,すなわち流・早産,死産など妊娠予後との関係については,いくつかの報告がある.本稿では,絨毛膜下血腫とはどのような疾患なのか,そしてその妊娠予後について,これまでの報告と当教室の成績に基づいて解説する.

3.抗リン脂質抗体検査は不育症診断にどこまで有用か

著者: 豊島究

ページ範囲:P.800 - P.803

 抗リン脂質抗体と不育症の関連が指摘されてからすでに10年以上になり1),抗リン脂質抗体症候群を定義する臨床像のひとつに不育症が挙げられていることから,産婦人科医の関心も高くなっている.その間にさまざまな抗リン脂質抗体検査法や,抗リン脂質抗体と不育症との関連が検討されたが,いまだにどの検査法が最も有用で,どうして流産や胎児死亡を起こすのか結論がでていない.そこで本稿では,抗リン脂質抗体検査と不育症の関係についての現状を問題点を挙げながら整理していきたいと思う.

4.hCGの定量で流産の予後判定は可能か

著者: 井坂恵一

ページ範囲:P.804 - P.807

 hCGの定量は血中あるいは尿中のhCG濃度測定により行われるが,血中hCG測定は尿中hCG測定のように尿の濃縮度を考慮に入れる必要はなく,また血中hCGは受精卵の着床後数日より検出することが可能である。近年その測定法はhCGβ—CTP(C-terminal peptide)を特異的に認識する抗体の開発によって,さらに鋭敏かつ正確になっている.hCGは妊娠経過とともに漸増し,妊娠9週ごろをピークとし以後妊娠後期に向かい緩やかに下降するが,妊娠初期における絨毛細胞からのhCG分泌は,doubling timeが約2日(倍量分泌するようになる期間が約2日)であるといわれ,血中hCG値より作成した回帰曲線から予測する分娩予定日は,最終月経より数えた予定日と約3日ほどのずれしか生じないとのことである1).このことは妊娠初期においてはhCGの濃度により,妊娠日数を数日単位のズレで予測することが可能であることを意味しており,hCGの分泌低下を示す流産例を正常妊娠から鑑別するのに有用ではないかと考えた.以下に流産の予後判定に関してhCGの測定が有用であるか否かについて検討を加えてみた.

妊娠中期

1.エコー診断で羊水過多の原因がわかるか

著者: 関谷隆夫 ,   石原楷輔

ページ範囲:P.808 - P.815

 羊水は胎児側では尿や肺胞液として,また母体側からは羊膜上皮や胎盤からの浸透液として産生される.
 羊水の量は各個人や妊娠週数によって差があるが,妊娠4〜5か月以降急増し,妊娠7か月で約700mlとなり,その後漸減して妊娠末期では300ml程度となる.

2.臍帯穿刺で何がわかるか

著者: 村上典正

ページ範囲:P.816 - P.819

 臍帯穿刺は1978年にRodeckらにより胎児鏡を用いて初めて行われ,その後1983年にDaffosらが超音波ガイド下に行って以来,胎児の病態を直接評価できる検査法として広まった.最近では超音波診断装置の解像度がよくなり,手技的にはそれほど困難なものではなくなった.しかし胎児鏡による臍帯穿刺に比べ侵襲度が低くなったとはいえ,超音波ガイド下臍帯穿刺そのものが胎児徐脈ひいては胎児死亡を引き起こす原因となる可能性があるため,その適応については十分な検討が必要である.現在一般に適応とされている胎児異常を表1に挙げた.とくに最近では遺伝子診断の技術が発達し多くの遺伝性疾患が出生前に診断可能となってきており,倫理的な面を含めての適応の検討が必要である.ここでは臍帯穿刺により明らかになってきた胎児の血液所見,臍帯穿刺の適応となる疾患についての再検討,そしてこれからの臍帯穿刺の方向性について述べる.

3.胎児肺成熟の検査は必要か

著者: 茨聡 ,   安里義英

ページ範囲:P.820 - P.826

 1976年にGluckら1)によって,世界ではじめて羊水中のレシチン(ホスファチジルコリン)/スフィンゴミエリン(lecithin/sphingomyelin:L/S)比の測定による胎児肺の肺サーファクタント量(pool size)の推定,すなわち呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome:RDS)発症予測に関する出生前診断が可能であることが報告されて以来,種々の肺成熟評価法(肺サーファクタントに関する)が報告されてきた.しかしながら近年,藤原ら2)によりRDSに対する肺サーファクタント(pulmonary surfactant:PSF)補充療法が確立され,一般臨床に普及し,RDSに対する効果とその予後の改善が明らかとなってきた.それにつれ、肺サーファクタント補充療法が可能な現在でも,胎児肺成熟の評価が必要であるかという疑問がわいてくる.そこで本稿では,種々の肺成熟評価法の特徴とその出生前評価の必要性について検討してみた.

4.エコー診断で胎児奇形はどこまでわかるか

著者: 小林秀樹

ページ範囲:P.828 - P.830

 胎児の形態異常に対する超音波診断法による出生前診断は今やほとんど完成の域にあると言っても過言ではないほど,その精度,正診率は向上し,ことに本邦では高い質を保ちながら先端医療を行う施設から第一線病院,地域医療の診療所まで広く普及している.したがって「エコー診断で胎児奇形はどこまでわかるか?」というよりはむしろ「超音波診断法で現在診断不能な胎児奇形は何か?」あるいは「出生前に見逃すことなく診断しておくべき疾患は何か?」が有用性と再評価の問題となっている.
 胎児期に正しく診断しておくことが望ましい疾患群を表1に示した.無脳児やポッター症候群に代表される致死性胎児奇形は出生後生存の可能性がないことから,とくに母体に重篤な合併症(チアノーゼ性心疾患,慢性腎不全など)を認める場合などでは,可能なかぎり早期に診断する.巨大膀胱を伴う胎児閉塞性尿路疾患群や一部の胎児水腫など,現時点で胎児期治療の適応がある奇形も同様にできるだけ早期に診断する。水頭症や結合双胎などの分娩障害が予想される奇形は分娩中に母児とも危険な状態となる恐れがある.また,髄膜瘤や腹壁破裂などは分娩障害とはなりにくいが,経腟分娩中に被膜の離開や感染を避けるために出生前に診断し帝王切開を選択すべきである.

5.IUGRの病型診断は予後に関連するか

著者: 久保隆彦 ,   橋本雅

ページ範囲:P.832 - P.836

 IUGRは子宮内で胎児発育が遅延した状態であり,妊娠週数に応じた体重から逸脱した低体重の胎児を呈する症候群である.したがってその病因は複雑に複合し,それぞれに応じた多彩な臨床像を呈し,短期ならびに長期予後も異なってくることが推察できる.産科臨床において広く用いられている超音波検査によりIUGRは容易に描出され,その病型診断も可能となった.本稿ではIUGRの病型診断が予後にとって有用であるか否かがテーマであるため,病型別の短期ならびに長期予後を高知医科大学のこれまでの成績を調査し,これを基に略述したい.

6.高位破水の診断をどうするか

著者: 奥山和彦 ,   岸田達朗 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.838 - P.841

 破水とは卵膜が破綻し羊水の流出をきたした状態で,破綻の時期から前期破水,早期破水,適時破水などに分類され,破綻の部位により通常の破水(低位破水)と高位破水とに分類される.破水の確定診断は,破水感を訴えて受診した症例ばかりではなく,羊水過少が認められる症例すべてにおいて,管理方針を決定するうえで重要である.とくに流・早産期の症例では,妊娠継続の可否につながることから,破水の有無およびその部位の診断は迅速かつ正確に行われる必要がある.しかし,臨床の場においては,破水そのものの診断さえ困難な症例にしばしば遭遇する.
 当科では,長年にわたり破水の診断法に関する研究に取り組んできた.なかでもPSP(phenol—sulfonphthalein)による羊膜腔内色素注入法を,安全性ならびに信頼性の検討から有用な検査法として,破水の確定診断法として採用してきた.

7.早産予知に胎児性フィブロネクチンは有効か

著者: 金山尚裕

ページ範囲:P.842 - P.843

 未熟児出生の最大の原因は早産であり,その約7割が前期破水と切迫早産から発生する.前期破水,切迫早産のおもな原因は最近,絨毛羊膜炎であることが明らかになった.絨毛羊膜炎を早期に発見することが早産予防のポイントであると考えられるようになってきた。
 絨毛羊膜炎は腟,頸管からの上行性感染,炎症の波及であることから,腟・頸管の炎症およびその分解物を検出することによりその早期診断が可能である。胎児性フィブロネクチンは,絨毛膜細胞で産生され,絨毛膜と脱落膜の接触面,および羊水に存在する.そしてエンドトキシン,サイトカイン,伸展刺激などの刺激に対して放出される.絨毛膜に炎症反応が広がると,絨毛膜の胎児性フィブロネクチンが分解されて腟分泌液中に漏出されるようになる1).したがって胎児性フィブロネクチンの絨毛羊膜炎に対する診断精度は高いと推測される.胎児性フィブロネクチンを測定することにより早産を予防する試みがすでに米国,欧州では始まっている1,2).胎児性フィブロネクチンの測定が切迫早産の管理上いかなる意義があるのかを検討した結果を以下に述べる.

8.早産予知に経腟超音波断層法は有用か

著者: 沖津修

ページ範囲:P.844 - P.847

 産科臨床において早産の予知・予防はいまだ大きな課題である.自然早産は,切迫早産,頸管無力症,満期以前の前期破水(preterm PROM)など,さまざまな原因によって引き起こされる.それら一つ一つの病因・病態が十分に解明されていない現在では,早産発生を予知することは困難といわざるをえない.しかし,近年では頸部・頸管の状態を精細に観察できる経腔超音波断層法を早産予知に応用する試みがさかんとなっている.本稿では,1)経腟超音波はどのように早産予知に有用か,2)予知を予防へと発展させることはできるか,3)経腟超音波を他の検査法と比較して,4)経腟超音波をどのように日常臨床に応用するのか,について文献的な考察を基に言及する.

9.胎児血流評価はwell-beingの判定に有用か

著者: 神崎徹

ページ範囲:P.848 - P.850

臍帯動脈血流波形の生理学的意義
 Trudingerら1)は羊胎仔を用いて,マイクロスフェアーを胎児大動脈から注入し胎盤の胎児側血管をembolizationし,そのときの臍帯動脈S/Dと血管抵抗を計測し,血管抵抗とS/Dに正の相関があったと報告している.Gilesら2)は,妊娠26週から40週までの正常妊娠群,ハイリスク妊娠で臍帯動脈S/D正常群,ハイリスクで臍帯動脈S/D異常群の3群の胎盤の病理的検討から,細動脈の視野あたりの数に前2者間では有意差を認めないが,S/D異常群で有意に減少していることを明らかにし,臍帯動脈血流波形と胎盤の血管変化との一致を証明している.一方,Morrowら3)によると,実験動物胎仔を低酸素状態にしても臍帯動脈血流波形は変化しないと報告している.
 臍帯動脈血流波形に変化を与える因子は単一ではないが,胎盤胎児側血管の病的変化による胎盤末梢血管抵抗の上昇が臍帯動脈血流指標を上昇させる原因の一つであることは疑いがない.また胎児低酸素血症単独では臍帯動脈血流波形は変化しないと考えてよい.

妊娠末期

1.骨盤計測はどこまで有用か

著者: 有賀敏

ページ範囲:P.852 - P.855

 骨盤計測にはX線撮影とそれ以外の方法1)があるが,後者は客観性に乏しく,現在行っている施設は少ないと思われるので,X線撮影による骨盤計測について述べる.骨盤計測は経腟分娩を前提として行われるわけであり,CPD(児頭骨盤不均衡)確認以外の予定帝王切開(帝切)の症例にはおのずから不要である.しかし,分娩様式に対する考え方は医師により異なり,また施設間における条件の違い,社会環境の変化は,骨盤計測の頻度に大きな差を生じる.ここでは,多人数の医師が多数の分娩を扱う施設での状況を,1983年と最近の3年間について検討し,骨盤計測の有用性について評価を加える.

2.分娩中のCTGはどこまで有用か

著者: 伊藤隆志 ,   池野慎治

ページ範囲:P.856 - P.860

CTG(cardiotocogram)記録の意義
 児の脳障害の多くは先天奇形,感染症などが原因であり,妊娠中,すなわち分娩開始前にすでにその原因があることが少なくないと考えられるようになってきた.一方,胎児・胎盤に対して陣痛という大きな負荷が加わる分娩は,胎児低酸素症による脳障害発生の大きな要因の一つであることに変わりはない.
 胎児は母体血から,胎盤の絨毛表面を介して酸素を供給され,臍帯を経て取り込む.母体血はラセン血管から内圧約10mmHgの絨毛間腔に,約30mmHgの血圧で流入,一方,胎児血は血圧60mmHgの圧力で絨毛に流入すると言われる.

3.肩甲難産の予測は可能か

著者: 高木耕一郎

ページ範囲:P.862 - P.864

 肩甲難産(shoulder dystocia)とは,児頭が娩出された後に,通常の分娩介助によっても肩甲が娩出されない状態をいう.その頻度は0.15〜0.3%といわれ,新生児の罹病率は16〜48%と高率である.典型例では,児頭が娩出された直後に,あたかも母体の会陰の中に戻っていくように見える(turtle sign:亀の首が引っ込んでいくという意)といわれている.正常では,児頭が娩出された時点で,肩甲は骨盤斜径に一致し,児頭を後下方に牽引する操作により,速やかに前在の肩甲が恥骨弓下を滑り,娩出される.肩甲難産は,母体骨盤が女性型骨盤以外の例で,肩甲が骨盤前後径に一致して下降する場合や,骨盤出口部に比して児が過大である場合に生ずると考えられている.肩甲難産では,児の呼吸の遅延による新生児仮死や,娩出に困難をきわめた際に生ずる上腕神経麻痺や上腕骨骨折などが問題となる.したがって,本症を事前に予知することが可能であれば,選択的な帝王切開術を行うことにより,これらの合併症を防ぐことが可能となる、本稿では,これまで報告された文献を中心に,肩甲難産の発症の予測の可能性について述べる.

4.尿中E3定量と血中hPL測定は必要か

著者: 高橋諄 ,   小林圭子 ,   野嶽幸正

ページ範囲:P.866 - P.868

 今日,胎児well-beingの評価には,胎児心拍数図,超音波を用いた血流測定,胎児運動モニターなどMEによるものが主体となり,尿中E3(es—triol)や血中hPL(human placental lactogen)などの生化学的検査法は軽視され,施行頻度が減少する傾向にある.
 生化学的検査法は検体採取の手間,測定に時間を要すること,1回の測定結果のみでは評価が困難であるのに対し,MEによる検査法は無侵襲のうえ,リアルタイムに評価できる点で優れている.しかし,MEによる評価は多人数を短時間で処理するには限度があること,しばしばfalse positiveが存在すること,胎児仮死の病因としての胎盤機能の評価が困難であるのも事実である.

5.部分常位胎盤早期剥離のエコー診断はどこまで可能か

著者: 赤松信雄

ページ範囲:P.870 - P.873

 筆者は1978年に常位胎盤早期剥離の超音波断層像を報告した.胎盤は異常に大きく,淡い胎盤エコー内に混在して不規則な形態をした大小不揃いのecho free spaceがみられた.胎児はすでに死亡しており,胎盤内のecho free spaceは出血した血液を示しているものと考えた1).この症例は陣痛強化して2時間後に経腟分娩した.娩出した胎盤の大部分が剥離していた.
 その後,3例の部分常位胎盤早期剥離を経験し,1982年にその超音波断層像も報告した2).胎盤の腫大,胎盤と子宮筋層との間に薄いecho freespaceや胎盤と子宮筋層との間にecho weekspaceを観察した.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・8

TLH(Total Laparoscopic Hysterectomy)—ハーモニツク・スカルペルによる手技と手順について

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   山田幸生 ,   西尾元宏

ページ範囲:P.787 - P.789

 腹腔鏡による子宮摘出であるLAVHについては,すでに本連載⑥,⑦(本誌51巻6号579ページ,7号687ページ)でご紹介した.
 今回は,もう一つの方法であるTLH(全腹腔鏡下子宮全摘術)を,ハーモニック・スカルペル(HS:Harmonic Scalpel,エチコン社製)を使用して行った症例の手術手順と本機器の特徴についても紹介する.

病院めぐり

国立埼玉病院

著者: 新井宏治

ページ範囲:P.876 - P.876

 国立埼玉病院は昭和20年12月1日,旧白子陸軍法病院をその前身として,4万3千坪の広大な敷地を擁し,武蔵野の緑に囲まれた静澄な環境の下に発足しました.埼玉病院といっても埼玉県和光市と東京都板橋区成増との中央,すなわち埼玉県と東京都とのちょうど県境に位置するため,板橋区および練馬区の患者さんも多数来院されます.
 当院は,一般総合診療として病床数335床を有しており,特に厚生省地方循環器病センターとしての特殊性を備えています.

社会保険広島市民病院

著者: 吉田信隆

ページ範囲:P.877 - P.877

 社会保険広島市民病院は,昭和27年8月,原爆で廃墟となった広島の復興と医療および社会保険の充実を目指し,厚生省が建て,その運営を広島市に移管した病院です.病院の北には広島城を臨み,原爆ドーム,平和公園も約10分の徒歩圏内にあるなど,広島市の中心に位置しています.現在の総病床数は825床で,診療科目は25科,産婦人科は産科34床および婦人科50床の計84床で運営しています.産婦人科のスタッフは常勤医6名と研修医2〜3名で構成されています.岡山大学との関係が強く,産科・婦人科悪性腫瘍,内視鏡手術,そして不妊症のそれぞれの専門家によるバランスのとれた診療を行っています.年間手術件数は900例あまり,分娩数は約1,000例です.
 産科関係としては母体搬送が一般化し,ハイリスク妊娠の外来紹介が増加しており,年間百数十例の母体搬送があります.当院では,品胎妊娠では妊娠初期に頸管縫縮術を,一絨毛膜双胎の双胎間輸血症候群では双胎間の卵膜の穿破を,妊娠中期胎胞脱出に対しては緊急頸管縫縮を行い,さらには胎児血流計測などもルーチンに行っています.このように積極的に診断・治療を行い,出生後の呼吸状態などを良くし,当院の未熟児センターとの協力で良い成績が挙げられているものと思っています.胎児治療も行っており,現在までに肺嚢胞の吸引,Rh不適合妊娠における胎児交換輸血などを行っています.

Q&A

陣痛促進剤使用時の留意点は?(1)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.879 - P.881

 Q 陣痛促進剤の使用方法の留意点をお教え下さい(北海道TK子).
 A 1993年の米国の分娩数は約400万例でしたが,採用された主な産科手技は電子的胎児心拍数(FHR)モニタリング(79%),超音波診断(60%),陣痛増強(13.8%),陣痛誘発(13.4%),羊水穿刺(3.2%),陣痛抑制剤使用(2%)などでした.したがって,約1/4の分娩に何らかの理由で陣痛促進剤が使用されたことになります(Monthly Vital Statistics Report Vol 44,No3,Supplement,September,21,1995).医療訴訟多発のため,多くの産婦人科医が産科医療を断念または縮小している米国でも,医学的理由で陣痛促進剤を使用しなければならない症例が多数存在することがこの統計で明らかにされています.

Estrogen Series・18

ホルモン補充療法の開始にあたって子宮内膜生検を行うべきか

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.882 - P.883

 子宮内膜癌の危険要因(risk factors)には未産婦であること,肥満,エストロゲンの単剤使用(unopposed estrogen)などがあるが,更年期後の女性にエストロゲン補充療法(ERT)を開始するにあたって内膜生検をすべきなのだろうか?米国癌協会(American Cancer Society)はいくつかの危険因子を挙げ,それらの危険因子がある場合には,ERTの有無にかかわらず,内膜生検によるスクリーニングを推奨している1).それらの危険因子とは,不妊症,肥満,不正出血,(プロゲストゲンズを伴わない)エストロゲンの単剤使用,(乳がんで使用される抗エストロゲン剤の)tamoxifen療法,などである.一方,カナダでの調査に基づく推奨では,更年期後の女性が不正出血などの症状を伴わないときには,内膜生検によるスクリーニングは不要であるとの結論を出している2).この場合もまた,ERTの有無とは無関係である.
 ここでご紹介する著者らの論文は,2,964例の更年期前後の女性(平均年齢52歳,範囲は40〜66歳)を対象に子宮内膜生検を行い,その結果を発表したものである.生検標本は3人の病理学者が観察し,意見の一致をみたものである.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

手術時の出血に対する備え

著者: 棚田省三

ページ範囲:P.884 - P.884

手術に際しては,万全の配慮をしてもときに大量の出血をきたし,輸血を余儀なくされることがある.輸血に際しては保存血の有用性はいうまでもない.しかしながら保存血を輸血する際には放射線照射,交差試験の必要性,未知の感染症の可能性などの問題点もあり,できれば使用せずに済ませたいという思いはあるものである.そのために現在,当科においては以下のような方法を実施している

広汎性子宮全摘術時における基靱帯の処理に便利な器具

著者: 熊谷清

ページ範囲:P.885 - P.885

 婦人科領域における子宮頸癌の基本的手術は広汎性子宮全摘術である.今回はそのなかでも基靱帯の処理時に便利な器具,①大村式二弁直腸鉤,②小児用筋鉤,③大曲がりケリー鉗子,を紹介する.
 筆者が使用している上述の器具を用いた基靱帯の処理法について詳しく説明する(図).

産科外来超音波診断・22

妊娠初期の臍帯嚢胞

著者: 清水卓 ,   橋本一昌

ページ範囲:P.887 - P.890

 本号では,遭遇した際に正常か異常かで判断に迷うcontroversialな妊娠初期の超音波所見の1つとして,臍帯嚢胞(umbilical cord cyst:UCC)を取り上げ,その臨床的意義について考えてみたい.

原著

母体血清中のAFP,freeβhCG,u-E3による胎児の21トリソミースクリーニングのための多施設共同研究

著者: 名取道也 ,   鈴森薫 ,   工藤美樹 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.893 - P.899

 妊婦の血清中に含まれる物質をマーカーとする胎児の異常診断は,幾つかの問題点を提起している.すなわち,本検査法に対する医療側の理解度,遺伝カウンセラーの育成など本検査法にともなう妊婦へのカウンセリングシステムの整備,さらには精度の高い研究によるデータベース整備などである.そこでわれわれは母体血清マーカー研究会を組織し,共同研究を行って各マーカー値の分析と胎児の21トリソミー罹患の危険率の算出を試みた.
 1,323検体を用い,AFP, freeβhCG, u-E3の3項目の分析を行った.まず妊娠週数および体重による測定値の補正式を作成し,各症例のMoM値を算出した、ついで21トリソミー胎児妊娠の危険率の算出を行った.本研究は,はじめて日本人の検体を用いて21トリソミー胎児妊娠危険率を算出し報告したものである.今回作成した21トリソミー胎児妊娠危険率を後方視的に適応した場合,陽性率は32%と高値であるが,検出率は96.6%と高い精度を示した.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?