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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科52巻10号

1998年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 羊水 羊水の生物学

1.羊水循環と制御の仕組み

著者: 海野信也

ページ範囲:P.1236 - P.1239

 羊水腔は羊膜および絨毛膜という胎児由来組織によって覆われている.したがって羊水腔は胎児の体液compartmentの一つと考えることができる.羊水量の異常は胎児の異常,妊娠の予後と密接に関連しており,その適切な診断と管理は周産期予後を改善するうえできわめて重要である.水代謝異常が胎児特有の病態の発症機序の重要な要素となり,胎児水腫と羊水過多は高率に合併する.このような胎児水代謝異常の病態を理解するためには,胎児期に特有な水代謝の生理学についての理解が必要である.
 本稿の目的は羊水循環とその制御に関して概説することであるが,その理解を助けるために,羊水腔がその一部を構成する胎児水代謝系全体を俯瞰したうえで,その相互関係を検討する.羊水循環については,これまでBrace RAらのグループとRoss MGらのグループが中心となって羊胎仔を用いて行った実験によって多くの知見が蓄積されている.

2.羊水中のサイトカイン—妊娠中毒症と免疫活性

著者: 越智博 ,   伊藤昌春

ページ範囲:P.1240 - P.1243

 当初,免疫応答系細胞の細胞情報伝達因子として,リンパ球から産生されるリンフォカインと,単球・マクロファージ系細胞から産生されるモノカインが同定されたが,両者が多くの共通した生理活性を有し,同一分子も含まれていたことから,現在ではサイトカインとして包括されている.その後,サイトカインの産生が造血器細胞,内分泌細胞,血管内皮細胞など多岐にわたり,それぞれ重要な調節因子として作用していることが判明している.
 サイトカインは,レセプターに結合することによって局所においてパラクリン調節またはオトクリン調節を介して,免疫応答,炎症反応の惹起,細胞増殖・分化あるいは傷害作用などを起こす.子宮・胎盤においてもさまざまなサイトカインの産生が確認され,これらが羊水中にも存在している.本稿ではサイトカインと妊娠中毒症(以下,中毒症と略す)の発症に関する最近の知見を中心に概説する.

3.羊水と妊娠関連蛋白質

著者: 鈴木良知 ,   井坂恵一 ,   高山雅臣

ページ範囲:P.1244 - P.1249

 羊水腔は,胎生7〜8日目に外細胞塊(栄養膜細胞層)と内細胞塊(外胚葉層)の間隙としてはじめて出現し,その中に羊水を満たすようになる.妊娠初期,とくに妊娠12週ころまで,羊水腔は羊膜を挟んで胚外中胚葉より形成された胚外体腔と接するが,羊水腔の増大とともに胚外体腔が消失し,卵膜で囲まれた羊水腔が子宮内腔をすべて占拠することになる.
 羊水の由来については,古くからさまざまな報告がなされているが,現在なお議論が続けられている.これまでに①絨毛膜盤・臍帯を介した胎児血管からの漏出,②胎児血管より胎児皮膚を介した水分の漏出,③胎児尿の羊水腔内への排出,④肺胞液の気管支・気管を通っての羊水腔への排出,⑤羊膜上皮による分泌,⑥卵膜を介した母体血漿成分の漏出,などの機序が考えられている.これらのことより羊水中には母体由来,胎児由来,さらに胎盤由来のさまざまな物質が存在していることが理解されるが,これら羊水中の物質は胎児発育や胎児奇形などの胎児異常の指標として臨床応用されてきた.

4.羊水中の肺表面活性物質と肺成熟

著者: 高橋明雄 ,   千田勝一

ページ範囲:P.1250 - P.1252

羊水中の肺表面活性物質測定の意義
 壁の厚さが0.2ミクロンしかない新生児の肺胞が呼気時に潰れないでいるのは,その中に肺表面活性物質(肺サーファクタント)が存在するためである.
 このサーファクタントはレシチンを主成分とする脂質—蛋白複合体(図1)で,在胎20週ころから肺胞II型上皮細胞で生成されてその中のラメラ封入体に蓄積される.その後肺胞腔へ分泌され,気管を経て羊水中に移行する1).しかし在胎35週ころまでのサーファクタント生成能の発達は個人差が大きいため,これに遅れのある胎児が早産になると,呼吸窮迫症候群(respiratory distresssyndrome:RDS)を発症するリスクが大きい.このため羊水中のサーファクタント測定は,胎児肺成熟度評価法(またはRDS予知法)として脚光を浴び,これまでに種々の方法が報告されている.

5.胎児発育,成熟と羊水の役割

著者: 由良茂夫 ,   佐川典正

ページ範囲:P.1254 - P.1257

 子宮内の胎児発育には羊水の存在が不可欠である.また,羊水中には胎児や胎盤,卵膜から産生,分泌される物質のみならず,マクロファージなどの免疫系細胞からも産生,分泌された種々の生理活性物質が高濃度に存在している.これらは母体の脱落膜,子宮筋に作用して妊娠維持に関与するだけでなく,胎児の発育,成熟にとっても重要な役割を有している.本稿では羊水および,羊水中の生理活性物質が胎児の発育や成熟に及ぼす影響について概説する.

6.羊水細胞による遺伝子解析

著者: 片山進

ページ範囲:P.1258 - P.1260

先天異常と遺伝子病
 遺伝子病は先天異常の一つである.その先天異常は正常の範囲をこえた発生の歪みと定義される.先天異常は配偶子の受精からその個体の死に至るまでの全過程にあらわれる不可逆的で継続的な発生異常といえる.具体的には出生前の胎児期の死亡や発育遅延(IUGR),出生後では先天奇形,発育遅延,機能や知能障害など先天異常に含まれる対象疾患は非常に広い.
 先天異常は,一般的に発生時期により分類される.在胎週数0週の性細胞期に発生するのが遺伝子病である.同じく配偶子形成期には染色体異常も発生する.在胎週数3〜10週の胎芽期には多くの先天奇形や発育障害などが発生する.11〜38週の胎児期には胎児感染症を含む胎児病が発生する.このなかでおもに性細胞期に発生する遺伝子病による先天異常が遺伝子診断の対象となる.

羊水異常の診断

1.羊水量の評価

著者: 石川薫

ページ範囲:P.1262 - P.1264

正常羊水量の実測値
 12文献705例(妊娠8〜43週)の実測値を総括したBraceら1)によるデータ(図1)が,現在コンセンサスの得られた正常羊水量である.羊水量は妊娠32週まで増加し平均800mlに達し,以降の妊娠39週までは平均700〜800mlの一定値をとる.妊娠40週以降は減少し妊娠42週には平均400mlとなる.正常羊水量はMean±2SDの範囲(2.5%〜97.5%)に定義されることが多い.妊娠30週を例にとると,2.5th percentileの318mlより97.5th percentileの2,100mlの範囲が正常羊水量となる.

2.羊水過多の発症病因とその鑑別

著者: 佐藤昌司 ,   小柳孝司 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.1266 - P.1268

 日本産科婦人科学会によれば,妊娠週数にかかわらず羊水量が800mlを超える場合を羊水過多,さらに何らかの臨床症状をともなう場合を羊水過多症と定義している1).羊水過多の頻度は0.42)〜1.5%3)といわれ,その原因は多岐にわたる.本稿では,本症の発症病因と鑑別点に関して概説する.

3.破水の診断と管理

著者: 奥山和彦 ,   佐川正 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.1269 - P.1271

 破水(rupture of the membranes)は,その部位から,通常の破水である低位破水,内子宮口から離れた場所で発生した高位破水に分類される(図1).ときには,絨毛膜の破綻により偽羊水が流出し破水と同様の臨床症状を呈する偽羊水破水が認められる.また,破水の時期により,前期破水,早期破水,適時破水などに分類されている.
 近年,新生児医療の進歩により低出生体重児の予後が飛躍的に改善されてきたことから,破水の診断・管理においてとくに問題となるのは,流・早産期に起こる前期破水(preterm prematurerupture of the membranes:PPROM)の取り扱いである.

4.絨毛膜羊膜炎の重症度診断

著者: 末原則幸

ページ範囲:P.1272 - P.1274

 絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis)は卵膜(絨毛膜・羊膜)の炎症で,病理学的診断がなされ,組織学的重症度分類が用いられている.しかし臨床的には絨毛膜羊膜の炎症のみならず羊水や臍帯の炎症,さらに胎児の子宮内感染に至るまで幅広い概念で捉えられることが多い.すなわち,絨毛膜羊膜炎とは,腟・頸管における異常細菌の増殖,いわゆる細菌性腟症(bacterial vaginosis)から頸管炎となり,さらに上行し,絨毛膜炎,羊膜炎に波及し,羊水感染や胎児の感染に至ると考えられる.この絨毛膜羊膜炎は子宮の収縮を誘発し,早産に至ることが知られており,早産防止の観点から重要視されている.最近,ウイルソンミキティ症候群と絨毛膜羊膜炎の関連が報告されて,ウイルソンミキティ症候群の病因論の観点から注目を浴びている.
 しかし,これらの病理学的診断は分娩後においてなされるものであって,臨床において妊婦を管理するうえでは,母体の発熱や頻脈といった臨床症状と白血球数やCRPといった血液中の感染マーカーの測定,さらには胎児の心拍数などを用いざるを得ない.これらの臨床的重症度は病理学的重症度とは必ずしも一致しないことが知られている.

5.羊水塞栓症の予防と診断のポイント

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1276 - P.1279

 羊水塞栓症の母体死亡率は約80%にも達し,産科のなかで最も重篤な疾患であるにもかかわらず,本症の予知・予防は不可能に近い.本症の予知・予防は,まず本症のリスク因子を明確にしてハイリスク例を抽出し,ハイリスク例に対し早期診断・早期治療を迅速に行うことであろう.本稿では,羊水塞栓症の予防と診断のポイントについて触れることにする.

羊水異常の治療

1.腎透析患者の羊水制御—Dry weightの設定

著者: 川島洋一郎 ,   沼田久美子 ,   久保和雄 ,   佐中孜

ページ範囲:P.1280 - P.1283

 透析療法を受けている患者を含め,末期腎不全患者の妊娠はまれであり,また妊娠した場合でも未熟なために胎児を失う確率も高い.これは性腺機能障害によると考えられているが,加えて,まだ不明のホルモン異常も関与していると推察されている.最近の透析療法の進歩・発展により透析患者のQOLも向上し,妊娠・出産の要望は増えてきている.とくに近年,遺伝子組換え型エリスロポエチン(rHuEPO)が貧血の治療に使用されるようになり,全身状態が良好になってきたこと,また高プロラクチン血症の改善がみられることがその理由と考えられるが,この数年間の妊娠・出産の報告が増加している.しかし,依然として妊娠の確率は低く,また妊娠した場合にもそれを継続し分娩に至る頻度は低い.その原因の一つは羊水過多による胎児の成長障害と考えられる.

2.Stuck Twinへの対応

著者: 竹内正人 ,   進純郎

ページ範囲:P.1284 - P.1287

 双胎一児に顕著なIUGR,奇形,破水などを認めたときは,患児のみが羊水過少となり,stuck twinをきたしうる.しかし,同時に他児に羊水過多をきたす病態は,胎児間輸血症候群(TTTS)をおいて他にない.羊水過多を示す受血児によって,子宮壁へ押しやられた供血児を超音波でみたのが文字どおりstuck twinなのである(図1).

3.羊水補充療法

著者: 川鰭市郎 ,   岩垣重紀 ,   玉舎輝彦

ページ範囲:P.1288 - P.1291

 羊水は体温の維持をはじめ,胎児の子宮内での生育に欠かすことのできないものである.同時に羊水は子宮壁と胎児との間に介在し,臍帯への圧迫を軽減する働きを有している.
 羊水過少症や前期破水など羊水が減少している場合に,わずかな子宮収縮によって臍帯性の徐脈を生じる症例は日常臨床でもよく遭遇するが,このような場合に生理食塩水などを注入することにより,徐脈が改善されるということが近年報告されてきている1)

4.前期破水の治療 1)Cervical Adhesion

著者: 天野完

ページ範囲:P.1292 - P.1294

 pPROM(preterm PROM)は発症時期が早期であるほど,細菌感染をはじめとする母児のリスクは高く,管理に苦慮することが多い.羊水過少を伴う場合には,胎児仮死,絨毛膜羊膜炎(CAM)の頻度は高く,妊娠継続は困難で1)予後不良例の頻度は高い(図1).
 また羊水過少では羊水圧は低下し,肺胞液の流出や胸郭の圧迫,呼吸様運動の制限などから,児にとって致命的な肺低形成が危惧されることになる.25週未満のpPROMで羊水過少が14日以上持続した場合の周産期死亡率は,90%以上と報告されている2)

4.前期破水の治療 2)新生児感染症のリスク評価

著者: 星順

ページ範囲:P.1296 - P.1298

 垂直感染は新生児期に特徴的な感染症の伝搬経路である.前期破水は垂直感染の重要な危険因子であるが,新生児期は生体反応が乏しく感度と選択性に優れた診断法が確立されていない.新生児の敗血症はおよそ1,000例の出生に1例程度の頻度であるため,過剰に抗生剤を投与していることが危惧され,さらには耐性菌の出現を助長していると考えられる.また,感染防御機構が未熟であるため,B群溶連菌に代表されるような早発劇症型を呈する症例もあり,いまだ解決されない大きな問題である.
 本稿では,垂直感染の重要な危険因子である前期破水と,垂直感染のなかでも前期破水と直接関係する児の経産道感染の評価について述べる.

5.羊水過少症候群の新生児管理

著者: 堀内勁

ページ範囲:P.1300 - P.1302

新生児にみられる合併症1)
 羊水過少に伴う新生児の異常は,羊水過少をもたらす本来の児側の疾患,羊水過少による病態,羊水過少の原因の一つである前期破水に伴う病態(感染症・Wilson-Mikity症候群など)の三つである.羊水過少を伴う奇形症候群を表1に挙げた2)
 羊水過少の原因の多くは産生減少であり,胎児尿の減少に基づいている.すなわち,胎児側に原因のある染色体異常,尿路奇形,過熟,胎児仮死による腎血流低下も羊水減少の原因となり,重症の胎盤機能不全による子宮内発育遅延でも羊水は減少する.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・22

良性の卵巣嚢腫と判断して遭遇した早期卵巣癌:Ⅱ—術後に判明した症例から

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏

ページ範囲:P.1231 - P.1233

 今回は,術後に組織診断から悪性と判明した5症例の①術前の画像所見,②実際の手術内容,③摘出標本と病理診断,④術後の化学療法と管理などを振り返るとともに,⑤2nd look laparoscopy所見なども供覧する.
 このように腹腔鏡下手術は,いつでも再現することが可能である点を特筆しておきたい〔また前回と今回の内容についてはビデオ「卵巣ガンとの遭遇」(毎日EVRシステム)をご参照いただきたい〕.

OBSTETRIC NEWS

妊娠中のHCVルーチン検査の有用性に対する疑問

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1304 - P.1305

 C型肝炎感染者は世界中で1億人(米国では350万人)と概算されており(Semin Liver Dis15:5,1995),“the world�s greatest killers”(Time, Fall 1996)と憂慮されている.また,妊婦のHCV抗体陽性率は,日本0.6〜1%(TohokuJ Exp Med 171:195, 1991;BiomedPhamacother 49:59,1995),米国4.5%(Ann IntMed 117:881,1992),イタリア2.5%(Eur J ClinMicro Infect Dis 15:116,1996)と,調査された対象や地域によって頻度に差があることがうかがわれる.
 主にHCVが混入した血液製剤や非経口的薬剤使用,医療従事者が針を誤って刺した場合(感染率:1.2〜10%)(Am J Infect Control 23:273,1995;Ann Intern Med:115:367,1991;He—patology 16:1109,1992)などにHCV感染が発生する.しかし,これらの原因は,報告されているHCV症例数の約50%にしかならない(JAMA264:2231,1990).したがって,他にも感染経路があることが想像される.

Estrogen Series・31

デザイナーエストロゲン

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1307 - P.1309

 エストロゲンは,骨や心臓,血管,それに血中コレステロールなどには望ましい作用をもつが,乳房や子宮に対する作用はむしろ望ましいものではない.そこで乳腺や子宮内膜には作用せず,しかし骨や血管には選択的に作用するエストロゲンがあればホルモン補充療法(HRT)は副作用が減少し,より有効となるであろう.この点で,最近Raloxifeneという物質が注目されている.この問題に関し,二つのコメントをご紹介したい.一つは英国Lancet誌(1997年9月)によるもの,もう一つは米国のNew England Journal of Medicine(1997年12月)によるものである.

病院めぐり

青森県立中央病院

著者: 工藤久志

ページ範囲:P.1310 - P.1310

 青森県立中央病院は,本州最北端の青森市東部に位置し,地下1階,地上10階建ての病院です.北は陸奥湾に面し,南は八甲田連峰の景観を望み,春夏秋冬と北国特有の色鮮やかな四季折々の変容を一望することができます.この自然の移ろいは,当院受診者や入院患者の方々に心の安らぎを与えています.
 当院は,昭和27年に青森市の中心部に設立されましたが,老朽化と最新医療機器の整備や駐車場を含め手狭になり,昭和56年9月に現在地に移転しました.地域医療圏の基幹病院として機能し,最近では継続的な医療機器の更新による診断技術の向上や,情報の迅速化のためにオーダリングシステムを導入するなど,新たな展開を示しています.また,厚生省の臨床研修指定病院に認定され,日本産科婦人科学会認定医制度指定施設の指定を受けています.さらに,地元の弘前大学医学部SGTの臨床実習病院として年間20数名の学生を受け入れ,きめ細かな指導に当たっています.

札幌東豊病院

著者: 南邦弘

ページ範囲:P.1311 - P.1311

 北海道は第一次産業が衰退してきたため,人口が札幌市に集中してきています.現在では,北海道の全人口570万人に対して,札幌市の人口は180万人となっています.ここ30年で人口は約2倍になるなど急速に人口が増加しているため,札幌市内には民営の大型専門医療機関が多数存在しています.
 札幌東豊病院もその1つで,札幌の東北,地下鉄東豊線と環状線の交点に位置しています.また,地下鉄の終着駅には分院である栄町産婦人科クリニックを持っています.当院は,昭和59年5月に札幌医科大学産婦人科明石教室に学んだ仲間5人と小児科医1人の共同経営でオープンしました.ベッド数は64床で,産婦人科,小児科,麻酔科を標榜しています.現在のスタッフは,産婦人科医10人(麻酔科標榜医2人,分院1人),小児科医2人,薬剤師1人,検査技師5人,助産婦35人,看護婦27人,他総勢118人です.

産婦人科キーワード・17

インターロイキン−1

著者: 平野浩紀 ,   鎌田正晴 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1312 - P.1313

語源
 インターロイキン−1(interleukin−1)という名称は,白血球(leukocyte)間(inter)の相互作用を司る物質という意味である.ちなみにleukとは白を意味するギリシア語で,血液中で白く見える細胞(cyte)がleukocyteであり,赤く(erythr)見える細胞が赤血球(erythrocyte)である.当時知られていたマクロファージ由来の抗原非特異的なT細胞の活性化因子を,リンパ球由来の因子(インターロイキン−2:IL−2)と区別するために「−1」という名称が与えられた.

産婦人科キーワード・18

精巣上体精子回収術

著者: 中川浩次

ページ範囲:P.1314 - P.1314

MESA
 “メサ”と呼び,microsurgical epididymalsperm aspirationの頭文字を並べたものである.あえて日本語にすると“精巣上体精子回収術(法)”であり,外科的に精子を精巣上体から回収する方法である.ICSI(卵細胞質内精子注入法)の出現によりそれまで治療不可能であった重症乏精子症までも治療が可能となった.しかし,ICSIも万能ではない.つまり精子を手に入れることができなければ,ICSIもその威力を発揮することができないことになる.男性不妊症のうち,その約1割は射精精液中に精子が認められない閉塞性無精子症といわれており1),そのような症例に対して精子(運動精子)を得るためにMESAが必要となる.ヒトにおいては,1985年にMESAにより回収した精巣上体精子を用いた体外受精が行われ,初めて健児を得た2).また1994年には,ICSIによる成功例が報告されている3)

原著

乳癌術後の抗エストロゲン剤投与中にみられた内性器の器質的疾患例について

著者: 髙橋久壽 ,   塩見ひろ美 ,   井川佐紀 ,   中田昭愷 ,   斎藤恒雄 ,   今富亨亮

ページ範囲:P.1315 - P.1319

 乳癌の術後補助療法剤のtamoxifenは同時にエストロゲン作用も持ち合わせているため,子宮の器質的疾患の発生が問題視されている.そこで,当院外科での最近10年間に行った手術例について調査検討した.本剤の投与を受けた75例のうち,産婦人科を受診したのは56例(75%)あり,器質性疾患として,内膜癌2例,卵管癌1例(続発症か?)と巨大な内膜ポリープ4例などが発見された.内膜癌の発生は2.7%(文献13では0.5%)と高頻度であった.また,内膜ポリープは巨大化するのが特徴で,このうちの2例はボール状で最大径が50mmと43mmに達し,胞状奇胎様のエコー像を呈し,悪性を疑って子宮摘出に至っているが,的確な術前診断があればTCRが最適な治療法であろう.以上のような疾患の診断には,外科医と連携した患者教育をし,無症状でも3〜6か月ごとの検診で,内膜癌の前癌状態である内膜増殖症と内膜ポリープの早期治療を行うべきである.

重症月経困難症に対する下腸間膜動脈神経叢ブロックによる治療法の考案

著者: 野田雅也 ,   伊東英樹 ,   工藤隆一 ,   芥川典之 ,   山川康 ,   水沼正弘 ,   佐野敬夫

ページ範囲:P.1321 - P.1325

 月経困難症は,産婦人科医としてしばしば遭遇する病態である.症例によっては,症状が非常に強いためさまざまな鎮痛療法が試みられるが,疼痛の軽減が認められず,手術療法が選択されることも多々みられる.しかし今回,われわれは非侵襲的で,かつ1泊の入院でCotteの手術と同様な効果が得られる方法として,下腸間膜動脈神経叢ブロックの応用を行った.
 以前より本神経ブロック法は,骨盤内悪性腫瘍の癌性疼痛に対し行われており,X線透視下に施行することにより安全に行うことができるといわれている.今回われわれは,さらに合併症の回避のため片側のみに,癌に使用する量の約半量で,非常に有効な鎮痛を長期にわたって得ることができた.

症例

十二指腸閉塞と長管骨短縮を出生前に認めた21トリソミーの2例

著者: 星原孝幸 ,   荘田恭仁 ,   窪田孝明 ,   宮川孝 ,   谷口洋三 ,   荘田朋子 ,   古木義弘 ,   神野崇

ページ範囲:P.1327 - P.1329

 出生前の超音波検査でdouble bubble signと長管骨の短縮を認め,羊水の染色体分析で21トリソミーと診断した症例を2例経験したので報告する.
 症例1:32歳の3回経妊3回経産婦.近医での妊婦健診で羊水過多が疑われ,妊娠31週で十二指腸閉塞の疑い(double bubble sign),羊水過多,切迫早産の診断で当科へ紹介された.入院とし安静を指示し,子宮収縮抑制剤投与,羊水除去を行った.妊娠33週でのEFWは1,700g,BPDは8.0cm,FLは5.4cm,HLは4.8cmであった.妊娠36週で自然破水し分娩となった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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