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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科52巻11号

1998年11月発行

雑誌目次

今月の臨床 HRT—ベストテクニック

HRTの最新情報

著者: 武谷雄二

ページ範囲:P.1340 - P.1343

●はじめに
 ホルモン補充療法(HRT)は閉経後女性の諸症状の治療,QOLの維持,骨粗鬆症や心血管系疾患の予防など多目的にかつ全人的ケアの一環として広くその意義は認識されつつある.HRTに関して十分な情報を与えられている階層ほどHRTの実施率が高いといわれており,大部分の閉経後女性にとってはHRTの利点は欠点を上回るものである.しかしHRTに関する誤解もいまだに多く,さらに医師の説明不足などの理由でHRTを忌避あるいは早期に中断することも依然として多数を占めている.HRTを定着させるためには医師を含むprimary care providerが正しくHRTの意義,その問題点を理解することと,それをどういうメディアで一般女性に伝達するかが重要となる.またHRTの利害・得失についてもいまだ完全なコンセンサスが得られていない部分も多く,現在,次々と新知見が続出している状況である.女性のprimary careに携わる者はつねに新しい情報や考え方に注視していなくてはならない.
 本稿ではHRTの基礎知識や確立された知見は他稿に譲り,最近数年間に新たにもたらされたデータに関し紹介と解説を試みたい.

HRTの効果

1.更年期障害症状

著者: 後山尚久

ページ範囲:P.1344 - P.1349

更年期障害の概念とその頻度
 女性は40歳を過ぎると,加齢による退行性変化,性ホルモン分泌低下,生理的諸機能の減少などがみられるようになる1,2).それに加えて50歳前後には,家庭や社会での種々の環境の変化が外因ストレッサーとなり,自律神経のバランスが失われ,多くは不定愁訴という形で身体症状を発症する.これが不定愁訴症候群である.一般的に45〜55歳のほぼ10年間は更年期と言われており,この時期の精神身体不調を「広義の更年期障害」として扱う場合が多い.筆者らが行った閉経女性へのアンケート調査によれば,更年期に身体の不調を経験したのは48.8%であり,23.2%が治療経験および1年以上の更年期障害を有していた(図1).いわゆる広義の更年期障害の発症頻度は日本人の場合にはおよそ50%であるといえる.
 しかしながら,すべての女性に更年期や閉経が存在するにもかかわらず,その半数は身体不調を自覚しないことが判明した.このことから,広義の更年期障害の要因は性機能の低下のみならず,ほか(性格や環境因子のかかわり)に見いだされる場合が少なくないことは容易に想像される.内分泌変動も個人差が大きく一律ではなく,閉経前でもエストラジオール分泌がきわめて減少している例や,閉経してもゴナドトロピン濃度は上昇しているにもかかわらず,数年にわたりエストラジオール濃度が保持されている例も見受けられる3-5)

2.骨減少症および骨粗鬆症

著者: 牧田和也 ,   太田博明 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.1350 - P.1353

 ホルモン補充療法(hormone replacement ther—apy:HRT)の骨量に対する効果についてはよく知られており,今日においては骨量減少症や骨粗鬆症に対する薬物療法の一つとして広く一般に行われている.1998年6月に提唱された日本骨代謝学会骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドライン作成ワーキンググループによる「骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドライン」1)においても,HRTは閉経後女性における骨粗鬆症を含めた健康管理,QOLの向上に有用である2)とされており,今後もその重要性は変わらないものと思われる.そこで本稿では,骨量減少症・骨粗鬆症の予防・治療におけるHRTの役割について,他剤との比較を含めて論じてみたい.

3.高脂血症・動脈硬化

著者: 池上博雅 ,   森重健一郎 ,   倉智博久

ページ範囲:P.1354 - P.1357

 虚血性心疾患の危険率は,男性と女性では異なり,男性では40歳代より加齢とともに徐々に高くなるといわれるが,女性では閉経期を境にして急増する1).虚血性心疾患の発症は,動脈硬化と深い関連を有し,高脂血症をはじめとする脂質代謝異常が動脈硬化の最も危険な因子であることが明らかとなってきた.動脈硬化による虚血性心疾患は,閉経後女性の重大な死因の一つであり,近年の疫学調査により,エストロゲンレベルの低下による心血管系への保護作用の破綻がその大きな要因として考えられるようになった.このような虚血性心疾患が増加する閉経後女性にホルモン補充療法(HRT)を行うと,心筋梗塞の発症率が著明に低下することが確認されている2-4)
 ここでは,HRTによる高脂血症をはじめとする脂質代謝の改善作用,さらには動脈硬化抑制作用について解説する.

4.アルツハイマー病

著者: 大藏健義

ページ範囲:P.1358 - P.1361

 記憶や認知機能あるいは脳血流などの女性の脳機能が,エストロゲンと密接に関係していることが臨床の分野でも次第に明らかにされつつある.とくに最近では,エストロゲン補充療法(ERT)がアルツハイマー病(AD)の予防に有効であることが相次いで報告され1-5),“エストロゲンと脳機能”は臨床医学の分野でも一躍注目されるようになった.また,ADに対するエストロゲン補充療法(ERT)またはホルモン補充療法(HRT)の有効性を報告した論文は,1986年のFillitら6)の報告以来,Honjoら7,8)や筆者ら9-11)の報告がある.ここでは,始めにADの概略について述べ,次いでADに対するERT/HRTの効果のメカニズムについて考察し,最後にADの予防効果と治療効果について述べることとする.

HRTの実際

1.ホルモン剤の特徴をどう生かすか

著者: 秋山敏夫

ページ範囲:P.1362 - P.1364

 HRTを有効に使用するには,更年期以降のホルモン環境の変化,女性の心理や社会的背景の理解が不可欠である.HRT使用にあたっては,薬剤のメリット・デメリットを知ったうえで患者に適した投与法の選択が必要である.

2.年齢と投与スケジュール

著者: 相良洋子

ページ範囲:P.1366 - P.1369

 HRTの投与スケジュールは,薬剤の種類,投与経路,投与形式(周期的投与か持続的投与かなど)の組み合わせで決定される(表1)1)
 HRTを実際に行う場合には,それぞれの特徴を踏まえて,目的とする効果が得られ,かつ副作用が最小限に抑えられ,同時にコンプライアンスのよい方法を選択することになる.

3.HRTのインフォームドコンセント

著者: 曽田雅之 ,   水沼英樹 ,   伊吹令人

ページ範囲:P.1370 - P.1371

 更年期症状や骨粗鬆症の治療,予防を含め,高齢の女性のQOLを高める目的でホルモン補充療法(HRT)は,近年重要な治療法として定着してきている.しかし,その対象とする疾患,症状が更年期症状から,骨粗鬆症,心血管疾患の予防と幅広く存在するために,HRTを施行すべき症例の選択がかえって重要になっている.
 また,HRTを施行する際に,女性の不安感を強くしているのが,子宮体癌,乳癌のリスクである.これらは性器出血など副作用とともにコンプライアンスの低下を招いている.ここでは,HRTのコンプライアンスの状況を示し,インフォームドコンセントの実際について述べていく.

HRT施行時の検査

1.血液検査の項目と頻度

著者: 真田光博 ,   大濱紘三

ページ範囲:P.1372 - P.1373

 ホルモン補充療法(HRT)は,更年期あるいは閉経後の女性の有するのぼせ,発汗,頭痛,不眠などの更年期障害の治療,さらには萎縮性腟炎,骨粗鬆症,動脈硬化症,高脂血症,尿失禁などの疾患の予防および治療を目的として実施される.更年期障害の治療を目的として行う場合には短期間の実施でよいが,骨粗鬆症や動脈硬化性疾患の予防を目的として行う場合には長期間に及ぶため,その副作用への対応が重要となる.HRTは適切に実施されれば閉経女性の健康の維持・増進に大いに役だつところから,更年期医療に携わる者はその管理方法に精通しておくことが望まれる.
 そこで,本稿ではHRTを行う際に実施しておくべき検査,ならびにHRTを長期間行う際の副作用回避と効果確認に必要な血液検査について述べる.

2.ホルモン濃度の測定は必要か

著者: 安井敏之 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1374 - P.1376

 更年期障害や萎縮性腟炎の治療,骨減少症や骨粗鬆症および高脂血症の予防ならびに治療として,HRTが普及してきている.HRT施行中にこれらの効果を評価するためには,症状の改善,骨量や血中のコレステロール値の変化を指標に,また副作用については性器出血や乳房痛の程度を指標に判断することができ,臨床の場においてはこれらの指標で十分診療に役立っているように思われる.そのため,HRT施行中にホルモン濃度を測定することは果たして必要であるのかについての疑問が生ずる.
 しかし,HRTを施行する目的は個人個人によって異なっており,一様ではない.すなわち,ある患者は血管運動神経症状の改善のためであり,また別の患者は骨粗鬆症の治療を目的とする.さらに同じ量のホルモンを投与してもすべての患者に同じ効果が認められるとは限らず,太田ら1)が報告しているように,骨量についてはHRTに反応が認められない群も存在する.そのため患者にあったHRTを考えるのであれば,各組織におけるエストラジオールの最小有効濃度を考慮し,それをモニターしながら血管運動神経症状,骨代謝,脂質代謝をみていく必要がある.

3.骨量測定の種類と相関性

著者: 倉林工

ページ範囲:P.1377 - P.1381

 骨粗鬆症は,国際的には「骨量の減少と骨組織の微細構造の劣化により,骨強度が低下し,骨折を起こしやすくなった全身性疾患」と定義される1).従来は骨折により骨粗鬆症と診断されることが多かったが,この新定義では,骨折を起こさなくても,骨量が減少して骨が脆くなっていれば骨粗鬆症であるとしている.したがって,骨粗鬆症の診断には,骨量定量と骨質の評価が必須である.

4.乳房検査・子宮内膜検査

著者: 土橋一慶

ページ範囲:P.1382 - P.1385

 主として閉経後の婦人を対象に行われるホルモン補充療法(HRT)は,その臨床的効用とともに,乳癌や子宮内膜癌に代表される性ステロイドホルモン剤投与による薬物傷害作用(副作用)の発症も問題となっている.したがって,HRTを施行する立場の医師や専門的立場で乳癌や子宮内膜癌などの診断に携わる専門医は,乳癌や子宮内膜癌の副作用の発見のために標的臓器としての乳房や子宮での変化についても理解しなければならない.
 本稿では,HRT施行中の標的臓器としての変化をも考慮した乳房検査と子宮内膜検査の要点について述べる.

HRTの副作用と対策

1.マイナートラブル

著者: 新谷雅史 ,   別府謙一 ,   原裕子

ページ範囲:P.1386 - P.1387

 ホルモン補充療法(HRT)は,更年期症状,腟外陰部症状,高脂血症,閉経後骨粗鬆症,アルツハイマー型老人性痴呆症1),老人性白内障にも有効2)であるために,治療法としてgold standard3)と言われている.しかし,HRT開始時の性器出血や乳房緊満などの副作用のために治療を中止する患者が多い.HRT開始時のマイナートラブル(嘔気,頭痛,乳房緊満など)について,当科においてHRTを受けた患者350名のアンケート調査の結果と対処法について述べる.

2.性器出血

著者: 橋本栄 ,   多賀理吉

ページ範囲:P.1388 - P.1390

 ホルモン補充療法(以下,HRTと略す)における短期的な副作用のなかで,最も問題となるのが不正性器出血である.HRTの方式にはさまざまな薬剤,投与形態,投与方法があり,性器出血の頻度を低下させるべく,これまで多くの投与方式が検討されてきた.そして現在も改良が加えられている.
 HRTの基本理念はエストロゲンの補充であるが,エストロゲンの単独投与では子宮内膜癌のリスクが上昇するため,不正性器出血の頻度を低下させる目的もあって,プロゲスチンを併用する方法が考え出されてきた.しかし,どのようにプロゲスチンを併用しても不正出血の問題が完全に解決されるわけではない.いずれにしても治療開始直後は,約半数には性器出血がみられるということを覚悟していたほうがよく,患者にはあらかじめこのことを説明して理解を得ておかなければならない.

3.子宮癌の発生

著者: 緒方りか ,   野崎雅裕 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.1392 - P.1394

 日本人における子宮癌の発生は,子宮頸癌が年々減少傾向にあるのに対し,子宮体癌は大規模な疫学的調査はされていないが増加傾向にあるとされている.これは疫学的理由によるものとされており,食生活の変化,とりわけ動物性脂肪との関連が指摘されている1-3).欧米では,1972年以降女性の骨盤内悪性腫瘍で最も頻度が高いのは子宮体癌である.日本でも子宮体癌は1970年代には子宮癌の10%4)であったのが1993年には32.3%5)と,その占める割合が増大している.
 一方,ホルモン補充療法(HRT)の普及率は,欧米に比較すると日本では低いと推定され,ある程度の規模で開始されてから10余年と歴史的にも後れを取っており,日本におけるホルモン補充療法と子宮癌,その他の疾患とのデータの蓄積は今後の解析が待たれるところである.そこで本稿では,欧米での報告を主に紹介し,考察を加えてみたい.

4.乳癌の発生

著者: 寺田督 ,   打出喜義

ページ範囲:P.1396 - P.1399

 高齢化社会を迎え,閉経後の期間が長くなった.その結果,閉経後の卵巣機能消失に関連した疾患に対して,長期間のホルモン補充療法(HRT)の必要性が生じてきた.また若年者の卵巣摘出術および放射線治療後に発生する卵巣欠落症に対しても長期間のHRTが必要となる.更年期障害に対する治療を目的とする場合には,HRTは対症療法として短期間の投与ですむが,閉経後女性のQOLの維持や改善を目的とした場合には,予防医学の立場から長期間HRTとなる.
 このように,HRTを予防治療として使用する場合には,副作用が当然問題となる.この副作用のなかでも,閉経後は乳癌の好発年齢期であり,HRTと乳癌との関連が重要な課題として取り上げられる.HRTはestrogenを含んでいる.estrogenには乳腺細胞に対して増殖作用がある.乳癌はestrogen依存性に増殖することはよく知られており,HRTが乳癌発生につながる可能性を有している.それゆえ,HRTにより乳癌が増加するか否かは重要な問題となる.

リスク症例におけるHRT

1.婦人科癌術後

著者: 落合和徳 ,   小林重光

ページ範囲:P.1400 - P.1402

 今日,ホルモン補充療法(HRT)またはエストロゲン補充療法(ERT)が広く一般に浸透,支持されるに至り,その対象は更年期女性のみならず,術後の婦人科癌患者にまで拡大されるようになった.しかしエストロゲンはその標的器官である婦人科臓器の発癌,とくに子宮体癌の発生・増殖と深くかかわっており,HRTを実施するにあたっては術後投与により生ずる二次発癌のriskについての知識をよく整理しておく必要がある.患者のもつ不安を取り除くことで治療の開始,継続が可能ならば,そのbenefitは大きく,骨粗鬆症,虚血性心疾患,外性器の萎縮などの予防のほか,後療法を側面から支え,QOLを向上させるといった点からもHRTは重要である.

2.子宮筋腫

著者: 卜部諭 ,   本庄英雄

ページ範囲:P.1403 - P.1405

 今日,女性の多くは寿命の延長により,人生の約3分の1を閉経後におくることとなる.
 女性がこの期間を快適に過ごすためにはHRTはなくてはならないものである.

3.糖尿病

著者: 尾林聡

ページ範囲:P.1406 - P.1408

 糖尿病はインスリンの作用不足とエネルギー基質利用障害に基づく病態であり,これによって引き起こされる合併症(網膜症・動脈硬化・腎症・神経障害など)を特徴とする疾患である.発症には遺伝的要因が関与しており,その原因として膵におけるインスリン分泌予備能の低下が指摘されている.耐糖能異常の有病率は年齢とともに増加し,加齢に伴う耐糖能障害の増加は顕性糖尿病の発症の素因ともなる.耐糖能の変化は,まず食後血糖の上昇として現れ,30歳を過ぎると食後血糖は10年ごとに15mg/dl程度増加するといわれる一方で,空腹時血糖は年齢が増してもさほど上昇しない.加齢に伴い経口摂取したブドウ糖の吸収が遅延し,インスリンの分泌も遅延することで肝のブドウ糖産生も遅延すると考えられている.
 糖尿病には,インスリン依存性糖尿病(insulin—dependent diabetes mellitus:IDDM type I)とインスリン非依存性糖尿病(non-insulin-depen—dent diabetes mellitus:NIDDM type II)の2種類があり,IDDMは膵β細胞のインスリン分泌不足が原因で,若年で発症し,肝のブドウ糖産生の増大と腸管における糖通過量の増大がみられる.

4.肝機能障害

著者: 鈴木瞭

ページ範囲:P.1410 - P.1412

 estrogen(E)を経口投与すると,消化管より吸収された後,肝臓で代謝を受ける.この際,Eはcorticosteroid binding globulinやsex bindingglobulinなどの合成を増加させ,長期の使用により滑面小胞体の肥厚や毛細血管の変化をきたす.また,肝内の胆汁のうっ滞や胆汁内のコレステロールの増加をみる.そのため,Eの長期の連用により肝機能障害や胆嚢疾患,胆石症をもたらす可能性が考えられる.本稿ではホルモン代償療法(HRT)の肝障害について述べる.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・23

種々の癒着に対する剥離操作について:I—腹壁との癒着例から

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏

ページ範囲:P.1337 - P.1339

 腹腔鏡下手術では,①症例の選択,②手技の習熟,③適応の見極めなども非常に大切なことである.また手術操作を進めていくうえで,良好な視野を確保することも重要な点である.そのなかで種々の癒着に対する剥離操作は,避けては通れない大切な内容であり,いかに克服するかが腹腔鏡下手術の可否を決める場合も現実にある.無理や無謀は慎むべきであるが,限界を見極めることとある程度の剥離操作は現実に必要である.
 今回は,腹壁との癒着例から代表的な症例を提示して説明を加える.

産婦人科キーワード・19

肥満遺伝子

著者: 米田直人

ページ範囲:P.1413 - P.1413

語源・歴史
 肥満はエネルギー接取と消費のバランスの破綻により生じるが,肥満の発症防御のために脂防細胞に由来する液性因子が,飽満因子として中枢(視床下部)に伝達され,エネルギー摂取量を調節するフィードバック機構(lipostatic theory)が存在すると考えられていた.
 1994年,Friedmanらはポジショナルクローニング法により遺伝性肥満マウス(ob/obマウス)の肥満の病因遺伝子として肥満遺伝子(ob遺伝子)のcDNAの単離に成功し,この遺伝子産物こそが飽満因子であることを明らかにした.

産婦人科キーワード・20

卵細胞質内精子注入法

著者: 中川浩次

ページ範囲:P.1414 - P.1415

ICSI(イクシー)
 ICSIを“アイシーエスアイ”とよぶ産婦人科医はいないと言っていいほど,今や“イクシー”という言葉は有名である.それほどICSIの出現はセンセーショナルであり,治療不可能な不妊症は理論上なくなったと考えられる.“イクシー”とは,intracytoplasmic sperm injectionの頭文字を順に並べたものである.日本語に訳すと“卵細胞質内精子注入法”であり,顕微授精法の一種である.顕微授精とは顕微受精ではなく顕微授精と書く.‘fertilization’を‘受精’と訳し,‘insemination’を‘授精・媒精’と訳すところから,“microinsemina—tion”を訳す際に“顕微授精”となったと考えられる.受精は精(子)を受けることであり,授精は精(子)を授けることであり,その意味は異なり,ICSIとは精子を卵子の中に強制的に注入する,つまり後者の‘授ける’である.なぜ“顕微媒精”とならなかったのかは不明であるが,日本語はうまくできていると感心させられる.

Estrogen Series・32

植物性エストロゲンの摂取と乳癌発生の減少

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1416 - P.1417

〔第1部〕
 大豆や精製されていない殻類には多くの植物由来のエストロゲンが含まれている.これら植物由来のエストロゲンは,未熟マウスの子宮を増大させる作用のあることからphytoestrogenと呼ばれる.今回ご紹介するオーストラリアからの研究は,このphytoestrogenがはたして乳癌発生を減少させるかどうかを調べたものである.豆腐はその重要な摂取源である.

病院めぐり

大宮赤十字病院

著者: 岸東彦

ページ範囲:P.1418 - P.1418

 大宮赤十字病院は,最寄りの駅であるJR大宮駅から徒歩12〜13分を要する場所にありますが,住所は大宮市に隣接する与野市になります.開院は昭和9年で,全国92施設の赤十字病院のうち34番目の設立でした.病院の規模は,病床数643床,常勤医師113名で,赤十字病院のなかでは13番目の規模です.
 産婦人科は日本産科婦人科学会認定医制度卒後研修指導施設に指定されており,病床数は産科30床,婦人科24床,常勤医師6名で,現在は群馬大学産婦人科学教室の関連病院となっています.

済生会宇都宮病院

著者: 飯田俊彦

ページ範囲:P.1419 - P.1419

 済生会宇都宮病院は,昭和17年に恩賜財団済生会宇都宮仮診療所として,栃木県の県庁所在地である宇都宮の中心に居を構え,内科,外科の診療を開始して以来,半世紀以上市民の健康を守る砦としてその責務を果たしてまいりました.その後,平成8年5月の新病院開設と同時に現在の地に移転し,近代的設備と斬新的アイディアを備えた病床数644床,総医師数144名を有する地域基幹病院として生まれ変わりました.産婦人科は,医師6名をもって,産科32床,婦人科34床をケアし,年間約800をこえる分娩と650余りの手術および日夜の救急診療の激務をこなしております.
 婦人科領域では,年間10例をこえる広汎性子宮全摘出術を始めとして,子宮癌,卵巣癌などの悪性腫瘍に対し積極的に手術療法を行い,それに伴う動注療法などの化学療法にも力を注いでおります.

OBSTETRIC NEWS

オキシトシンの使用方法を考える—20mU/分以上は禁忌か?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1421 - P.1424

 陣痛促進剤として,過去40年間,世界的に第一選択薬として使用されているオキシトシンの投与量,増強間隔,増強量に関しては多くの研究があり,いくつかの問題点が残されているが,オキシトシンの使用方法はほぼ確立されている(ACOGTechnical Bulletin #217, December, 1995).初回投与量0.5〜2.0mU/分,増強量は1〜2mU/分で,30〜60分間隔で増量するのが一般的である(表1)(ACOG Precis V, p 189, 1994).
 オキシトシンは誘発分娩,陣痛増強,積極的分娩介入(active management of labor:AML)(おもに未産婦,頭位,単胎例に行う)の際に使われる.O�Driscollは,AMLで,未産婦の98%,経産婦の99.8%は,入院後12時間以内に分娩を終了し,分娩時間短縮を図るうえで有用であると報告した(Obstet Gynecol 63:485, 1984).その後,AMLは母体および新生児罹患に影響を与えずに難産率を減少させ,経腟分娩率を増加させるという報告(NEJM 326:450, 1992)や,分娩時間の短縮は期待できるが,未産婦の帝切率は減少しないという報告もある(NEJM 333:745, 1995).

原著

卵巣癌I期の臨床的病理組織学的特徴—腫瘍被膜の破綻様式による違いについて

著者: 森川守 ,   田畑光恵 ,   山田俊 ,   武井弥生 ,   津村宣彦 ,   川口勲 ,   山口潤

ページ範囲:P.1425 - P.1429

 卵巣癌I期について,その臨床的および病理組織学的特徴を検討した.当科で卵巣癌Ia期およびIc期と診断された50例を対象とし,Ic期は腫瘍被膜の破綻様式により,Ic(a)群,Ic(b)群に分けた.これら3群で,①年齢,②病理組織型,③病理組織学的分化度(grade),④腫瘍径,⑤開腹時腹水量,⑥予後,について比較したところ,①,②,③,④,⑥で群間に有意差がみられた.平均年齢はIc(a)群でIa群やIc(b)群に比べて高かった.病理組織学的には,Ia群ではムチン性嚢胞腺癌,Ic(b)群では明細胞腺癌が多く,gradeは,Ia群でよりGIが多い傾向が認められた.腫瘍径は,Ia群では他の2群に比べて大きかった.Ic(b)群ではIa群やIc(a)群より予後が悪かった.手術破綻群は,病理組織型やgradeの構成においてIa群やIc(a)群と異なる特徴があり,破綻自体の影響を知るためには,今後の検討が必要であると思われた.

バルトリン腺嚢腫および膿瘍の超音波断層像と超音波検査の有用性について

著者: 村尾文規 ,   迫田良一 ,   瀬戸学

ページ範囲:P.1431 - P.1435

 外陰部には,バルトリン腺嚢腫をはじめ,inclu—sion cyst, sebaceous cyst, mucinous cyst, cyst ofcanal of Nuckなどの嚢腫状の異常を生ずることがあり,鑑別には慎重でなければならない.本研究ではバルトリン腺嚢腫を中心に,その超音波断層像の特徴について検討した.本症では無エコー域を呈するものと点状ないし無構造の内部エコーを伴うものとに大別することができた.無エコー域を呈した症例にはその後膿瘍を発生する頻度が高く,内部エコーを伴う症例ではその後,新たな炎症の発生,増悪がみられる頻度が低いことから,内部エコーは,過去に生じた炎症に由来する炎症性物質がエコー源となっている可能性があるが,炎症はすでに終息していると考えられた.毛嚢炎,脂腺嚢腫,血腫などでも本症と酷似したエコーパターンを示すことがわかった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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