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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科52巻7号

1998年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 難治性細菌感染症 感染症難治化の要因

1.難治性感染症の原因菌

著者: 平泻洋一

ページ範囲:P.898 - P.902

 感染症の難治化の要因は,原因微生物側のファクターと宿主側のファクターに大別される.微生物側のファクターは,毒素などの各種病原因子や薬剤耐性に代表される.一方,宿主側のファクターとしては,基礎疾患,年齢,妊娠・出産,医療行為(手術,抗癌剤・免疫抑制剤・ステロイド剤などの投与,放射線照射,カテーテル類の挿入,観血的検査など)など多岐にわたる.しかし,実際は両者が複雑に絡み合っている場合が多く,つねに宿主寄生体関係を考える必要がある.近年では健常人に対しては常在菌であっても,抵抗力の減弱した患者には病原性を発揮する日和見感染が難治性感染症として増加している.また周産期感染症ではB群レンサ球菌や大腸菌による新生児の髄膜炎・敗血症や,頻度は低いが妊婦の劇症型A群レンサ球菌感染症などの急性重症感染症も重要である.ここでは難治性感染症の原因菌として,実際に臨床材料から分離されやすい細菌,および分離率は高くないものの産婦人科領域において臨床上重要な細菌について解説する.

2.耐性菌出現のメカニズム

著者: 竹村弘 ,   嶋田甚五郎

ページ範囲:P.904 - P.907

 抗菌薬が開発される以前は,感染症は医学上最も重要な課題であった.しかし,今日,抗菌薬療法の進歩により,一般的な細菌感染症の治療に難渋することは少なくなり,抗腫瘍療法,臓器移植,医療機器による生命管理などの先端医療が可能となった.一方,より広い抗菌スペクトル,より強い抗菌力をめざした抗菌薬の開発には,必然的にそれらに対する耐性菌の出現を伴っている1).本稿では,耐性菌出現のメカニズムとその対策について概説したい.

3.免疫能と難治性感染症

著者: 内山竹彦

ページ範囲:P.908 - P.912

 生体の免疫システムは,いつ侵入してくるかも知れない数多くの病原微生物に対応すべく,ばくだいな種類と数の抗原レセプターをあらかじめ準備している.感染症の抵抗性獲得に免疫システムが重要な役割を演じていることは,AIDSにおいてCD4T細胞の減少と難治性感染症の発症が強く関連していることからも明らかである1).10年前から免疫学や感染症の分野に登場してきたスーパー抗原も,産婦人科・新生児科領域の感染症の発症機序に大きくかかわりをもっている2)

婦人科の難治性感染症

1.術後MRSA感染症

著者: 菅生元康

ページ範囲:P.914 - P.916

 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の周手術期感染症は,産婦人科をはじめとした外科系臨床科にとって重大な臨床テーマとなっている.われわれは1970年に卒後研修を開始したが,ちょうどそのころから第一世代のセフェム系抗生剤が各種感染症や術後感染予防によく用いられるようになった.それ以前はクロラムフェニコール,アミノグリコシド,テトラサイクリン,マクロライド,ペニシリン系抗生剤,など多彩な抗菌剤が使用されており,また内服抗菌剤としては,スルファメトキサゾールなどのサルファ剤も少なからず使われていたと記憶している.ところがセフェムの登場以後それら抗菌剤は急激にセフェム剤と合成ペニシリン剤,いわゆるβラクタム環を持つ抗生物質が大多数を占めるようになった.
 帝京大学の藤井は,1984年に発表した論文の中で,太平洋戦争後の40年間の日本における抗生剤の使用量の推移を,厚生省のデータを基にして詳しく解説している1).それによると1975年以後ペニシリンとセフェム剤の急速な増加が認められ,とくに1980年以後はセフェム剤の増加が著しい.βラクタム剤は,効果や安全性の面から使いやすい薬剤として,その後現在に至るまで長期間汎用されてきた.その結果が今日のMRSA outbreakの基を作ったと考えられるが,当時われわれは現在のような状況になることをまったく想像していなかった.

2.術後グラム陰性桿菌感染症

著者: 落合和彦 ,   尾見裕子

ページ範囲:P.918 - P.921

 術後感染症は抗生剤の予防投与と術後管理の進歩によりその頻度は著しく減少した.しかし発症すれば難治性であることが多く,今日でも術後経過を左右する重要な因子のひとつである.本稿では婦人科術後感染症とそのなかでのグラム陰性桿菌の役割について一般的な知見を述べ,予防法を考える.

3.偽膜性大腸炎

著者: 日浦昌道

ページ範囲:P.922 - P.924

 偽膜性大腸炎は抗生物質の投与中あるいは投与終了後に下痢を主症状として発症する腸炎で,菌交代現象によって腸内細菌叢のバランスがくずれ,Clostridium difficile(C.difficile)の異常増殖と,その産生するtoxinによる腸管粘膜の損傷をきたす疾患である,あらゆる抗生物質が原因となるが,lincomycin, clindamycinや使用頻度の高いcephem系,penicilin系抗生物質に比較的多くみられる.また,抗癌剤,抗真菌剤,抗結核剤などでも惹起され,とくに婦人科悪性腫瘍の化学療法の際には注意する必要がある.最近,本菌による院内集団発生が問題となっており,感染予防対策が望まれる1)
 本稿では,偽膜性大腸炎の臨床像や検査・診断・治療指針を中心に述べてみたい.

4.骨盤死腔炎

著者: 近藤晴彦 ,   斎藤俊章 ,   塚本直樹

ページ範囲:P.926 - P.928

 骨盤死腔炎は,婦人科手術後に骨盤内に組織欠損を伴うことにより,欠損部の空隙に貯留する血液やリンパ液が細菌増殖の温床となって発生する骨盤内感染症と定義される.最近では,術前・術後管理の進歩,術中の無菌操作の徹底,手術室管理の向上,抗生剤の適切な投与などにより,その発症頻度は減少してきている.骨盤死腔炎の発症は10%前後と報告されているが1),臨床的に問題となるのはもっと低い頻度であろう.今後もこの合併症の発生を予防し,発生した場合には重篤にならないように管理することが必要である.

5.感染性リンパ嚢胞

著者: 矢島正純 ,   岩淵理子 ,   武田佳彦

ページ範囲:P.929 - P.931

 骨盤リンパ節郭清を伴う子宮癌あるいは卵巣癌根治術後の合併症のひとつに,後腹膜にリンパ液が貯留する「リンパ嚢胞」がある.
 ただし,このようなリンパ嚢胞の形成は術後,大なり小なり認められることが多く,またリンパ嚢胞が形成されること自体,巨大なものを除いては無症状で経過する場合が多いため,自然消滅することもしばしばみられ,必ずしも即,治療の対象にはならない.問題はリンパ嚢胞が巨大で他臓器に圧迫症状を及ぼしたり,巨大でなくとも菌が感染し,いわゆる「感染性リンパ嚢胞」と化した場合である.このような事態に対していくつかの治療法がなされているが,しばしば治療抵抗性で難治性となることも少なくない.本稿では感染性リンパ嚢胞について,自験例を含めて知見を述べたい.

6.骨盤腹膜炎

著者: 竹島信宏 ,   陳瑞東

ページ範囲:P.932 - P.933

概念および原因
 膀胱子宮窩,子宮,卵管,ダグラス窩,直腸,S状結腸の表面を覆う腹膜の炎症を骨盤腹膜炎と総称している.この骨盤腹膜炎を含む付属器炎,付属器膿瘍,ダグラス窩膿瘍などをPID(pelvicinflammatory disease)と統括して呼ぶことも多い.骨盤腹膜炎は,通常,上行性感染であり,子宮内感染から,付属器炎,さらに骨盤腹膜炎へと進展する場合が多いとされるが,これ以外にも外科的疾患やその他さまざまな原因が報告されている.表1には主な原因疾患を示したが,子宮体部細胞診1),子宮卵管造影2),腹腔鏡検査3)などの医学的処置が原因と思われる骨盤腹膜炎や,まれには大網膿瘍4),横隔膜下膿瘍5)などの合併も報告されている.また,婦人科手術の術後にみられるものとしては,広汎性子宮全摘後の骨盤死腔炎,あるいはリンパ節郭清後のリンパ嚢胞炎などから,骨盤腹膜炎へと発展するものなどが挙げられる.

7.難治性膀胱炎

著者: 小野寺昭一

ページ範囲:P.934 - P.936

 膀胱炎は尿路基礎疾患の有無により,単純性膀胱炎と複雑性膀胱炎に分類される.単純性膀胱炎は20〜30歳代の性活動期の女性に多くみられ,外尿道口周囲および腟前庭部に存在する細菌が尿道を経て上行性に膀胱に到達し定着して膀胱炎が成立する.起炎菌は大腸菌が主で約70%以上を占め,その他,クレブシエラやプロテウスなどのグラム陰性桿菌やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)などが分離されるが,いずれも多くの抗菌薬に感受性を示し,その治療に苦慮することは少ない.一方,尿路に何らかの基礎疾患を有して発症する複雑性膀胱炎は,原則として基礎疾患を除去しないかぎりは根治させることが困難で,不適切な抗菌薬の投与により新たな薬剤耐性菌の出現をもたらす可能性もある.
 膀胱炎が難治化する要因としてはこのような薬剤耐性菌が起炎菌となっている場合が多いと思われるが,泌尿器科で難治性膀胱炎として扱われるもののなかには細菌感染による膀胱炎だけではなく,結核性の膀胱炎や薬剤性の膀胱炎あるいは膀胱刺激症状を主症状とする膀胱上皮内癌なども含まれる.

産科の難治性感染症

1.妊婦の劇症A群溶連菌感染症

著者: 高木耕一郎 ,   村岡光恵

ページ範囲:P.937 - P.939

 A群溶連菌は,黄色ブドウ球菌などと異なり,薬剤耐性などの問題が少なく,これまで臨床的には比較的話題にされることの少なかったグラム陽性細菌である.しかし近年,黄色ブドウ球菌による敗血症性ショック(toxic shock syndrome:TSS)と類似の,劇的に発症し,DICから多臓器不全へと移行し,死亡率の高い劇症A群溶連菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome, toxicshock like syndrome:STSS,TSLS)が注目されるようになってきた.

2.妊婦の虫垂炎

著者: 山崎峰夫

ページ範囲:P.940 - P.942

 妊婦に発症する急性虫垂炎は,妊娠中に外科手術が必要となる非産婦人科学的疾患の中で最も多いものの一つであるが,しばしば診断の困難なことがあり,しかも加療の遅れは母児に重大な影響を及ぼしうる.腹痛その他の異常を訴える妊婦の診察においてはつねに虫垂炎を鑑別診断の一つに入れておくべきであろう.

3.絨毛膜羊膜炎

著者: 千村哲朗

ページ範囲:P.944 - P.946

 難治性細菌感染症としての絨毛膜羊膜炎cho—rioamnionitisの問題は,重症感染症として本症が産科領域感染症のなかでいかなる意義を有するかにある.本症は卵膜(絨毛膜・羊膜)の炎症所見を主体としたカテゴリーに入るが,実際の臨床診断では,羊水・脱落膜・胎盤・胎児・臍帯などに炎症が波及する病態も含まれている.とくに重症で難治性感染では,娩出後に敗血症性ショックseptic shockに至った症例も報告1,2)されている.重症例では,胎児の予後からみると,トコライシスに抵抗を示し,娩出形態(経腟分娩・緊急帝王切開分娩)を呈し,胎児死亡に至る場合も多い.したがって,母体・胎児の予後からみて,重症・難治性感染では妊娠継続が困難な場合が多く,その診断と治療における重要性が指摘されよう.

4.産褥熱・深部静脈炎

著者: 長阪恒樹

ページ範囲:P.947 - P.949

 産褥熱とは分娩終了後の24時間以降,産褥10日間以内に,2日間以上,38℃以上の発熱を示すものと定義されている.昔は産褥期感染症の鑑別診断や治療が困難で,しかも死亡率が高かったため産褥熱と一括して表現し恐れられていた.最近では呼吸器系,尿路系,乳房などの感染症はそれぞれ独立疾患として扱われており,産褥熱といえば子宮を中心とする産褥期骨盤内感染症を指すようになった.

5.帝王切開後感染症

著者: 大鷹美子

ページ範囲:P.950 - P.951

 帝王切開術後における感染症の原因としては,手術前からの子宮内感染の存在や術後の創部の汚染が挙げられる.抗生物質の予防的投与などによって,近年では帝切後感染症およびその難治化する症例は減少してきているが,最近,われわれが経験した1例は,術後に発症した肺塞栓に端を発し,帝王切開後の創部感染ならびにその長期化をきたすこととなった.今回この症例の経過をふまえ,帝切後感染症の難治化の要因ならびにその予防と治療について考察する.

6.妊婦のGBSと新生児感染症

著者: 保科清

ページ範囲:P.952 - P.953

 新生児のB群溶連菌(GBS)感染症は,新生児細菌感染症のなかでもっとも頻度の高い疾患である.GBS感染症のほとんどが生後3日以内に発症しており,重症化しやすいことと,母子間垂直感染によることでも知られている.
 このGBS感染症を予防しようと,CDCからの勧告1)も出された.

7.妊婦のリステリア感染症

著者: 竹田善治 ,   坂井昌人 ,   岡井崇

ページ範囲:P.954 - P.955

 リステリア感染症はグラム陽性短桿菌であるリステリア菌(Listeria monocytogenes)による感染症である.妊婦における本疾患の特徴は,症状が発熱,感冒様症状など比較的軽微で,非特異的であるにもかかわらず,児に対しては流早産や子宮内胎児死亡,早期新生児死亡など重篤な合併症を起こすことである.症状に乏しい感染母体から胎児に経胎盤感染を起こすため,妊娠中の診断が困難であることや,胎児への感染後の経過が非常に急速であることが児の予後を不良にしている要因である.このため本症の迅速な診断・治療が望まれるが,現在のところ母体血や羊水培養などから直接リステリア菌を証明する以外に診断を確定する一般的な検査法はない.
 本稿ではリステリア症の早期診断のための手がかりとなる症状,検査上の特徴および治療などについて述べる.

予防と治療

1.抗菌薬の使い方

著者: 清水喜八郎 ,   長谷川裕美

ページ範囲:P.956 - P.960

 抗菌薬の適正な治療計画を設定するためには,当面する患者の病態に見合う抗菌薬を選択し,それの効率のよい使用が大切である.

2.抗生剤の副作用

著者: 高杉益充

ページ範囲:P.962 - P.965

 妊婦に感染症の治療のために抗生剤を用いるに際し,妊婦に対してだけでなく,胎児,新生児に対する薬剤の影響—副作用の発現に注意する必要がある.

3.難治性感染症に対するグロブリン製剤の役割

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.966 - P.968

概要
 筋肉注射(筋注)用として約40年前に市場にあらわれた免疫グロブリン製剤(以下,グロブリン製剤)はB細胞欠如のある症例に限られて使用されてきた.しかし,筋注では投与量が限られてしまうために,静脈注射(静注)用の製剤が開発された.これにより,多量のグロブリンを投与することが可能となった.
 現在まで,グロブリン欠乏症への投与,あるいはある種の限られた感染症には有効性が証明されているが,難治性細菌感染症あるいは重症感染症に対する有効性は大規模スタディあるいは二重盲検により証明されていない.

4.病院感染の防止

著者: 小林寛伊

ページ範囲:P.969 - P.973

 病院感染には,従来からの感染性(伝染性)疾患,医学の進歩に伴ってその数が急速に増加した易感染患者に起こる平素無害菌による感染,そして医療従事者に発生する職業感染の3つがある.とくに後2者に対する対策が世界的な課題となっており,ここでは,とくに後2者についてその動向と対策について述べる.とくに最近は,新興感染症(emerging infectious disease),再興感染症(reemerginig infectious disease)という範疇の感染症が世界的問題となっているが,多剤耐性菌や結核もこのなかに含まれている.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・19

関連各科との連携と協調:I—胆嚢切除,子宮切除,直腸切除などから

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏

ページ範囲:P.895 - P.897

 近年の腹腔鏡下手術の進歩・発展には目を見張るものがある.各科においても腹腔鏡下手術としての術式の確立が図られ,積極的に適応の拡大も試みられている.しかし一方では,例え手術の手技・手法や使用する器具類が共通していても,各科の個別な対応から生じる管理・運営面での諸問題の発生も否めない事実である.これらの解決法の一つは,図1に示すように関連する各科がお互いに連携や協調を図ることで,合併疾患や特異疾患への対応が可能となり,機器や器具などの効率的な管理・運営も可能になるものと考える.
 今回は,腹部外科と連携し協調して行った腹腔鏡下手術の中から,(1)胆嚢摘出後に子宮摘出を行った症例,(2)子宮摘出後に腟から挿入した手指で腸管や卵巣を触診した症例,(3)直腸子宮内膜症で子宮摘出後に腟を利用して直腸を切除し吻合をした症例,を提示するとともに,腹腔鏡下手術としての方向性や各科との連携の必要性などについても提言したい.

OBSTETRIC NEWS

無症候新生児に対する低血糖症のスクリーニングは必要か?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.974 - P.978

 最近,WHOから新生児低血糖症(表1)に関する詳細なreviewが紹介された.重篤な神経系発育異常につながる可能性がある低血糖症に関する(信頼できる研究結果に基づく)対応を知るうえで,有用な文献と思われる.本稿では,そのなかから,いくつかの項目を紹介する.

Estrogen Series・28

ホルモン補充療法と乳癌

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.979 - P.981

第一部
 今回は前回に引き続いてホルモン補充療法(HRT)と乳癌に関する最近の発表をご紹介する.Collaborative Group on Hormonal Factors inBreast Cancer(乳癌におけるホルモンの作用に関する共同研究グループ)は21か国,51論文の内容を分析し,HRTと乳癌との関係を解明しようとした.対象人口は乳癌患者52,000人,乳癌のないもの10万人である.HRT開始時の平均年齢は48歳,その34%はHRT使用期間が5年以上であった.
 HRTによる乳癌発生危険度は相対危険度(rel—ative risk:RR)により示されている.HRTの非使用者(コントロール)が乳癌を発生する危険度は1.00である.相対危険度がたとえば2.00ということは,乳癌発生の可能性が2倍であることを示す.

病院めぐり

富山県立中央病院

著者: 舘野政也

ページ範囲:P.982 - P.982

 富山県立中央病院は富山市の東部にあり,昭和26年の開設以来,富山県における唯一の県立総合病院として県全域にわたる基幹総合病院として機能しています.平成4年には中央病棟の,平成7年には中央外来棟の改築が終了し,コンピューターによるオーダリングシステムを導入するなど,ハード面・ソフト面ともに一新し,現在に至っています.
 現在,総病床数は810床で,救命救急センター,母子医療センター,緩和ケア病棟(PCU)を備え,骨髄移植,体外受精・顕微授精,腎移植,緩和ケアなどの高度先進医療に対して病院をあげて積極的に取り組んでいます.厚生省研修指定病院に指定されており,産婦人科は日本産婦人科学会認定医制度卒後研修指導施設に指定されています.さらには,平成8年7月に富山県不妊専門相談センター,平成8年10月には母子医療センター(総合周産期母子医療センター)が国より認定を受け,MFICU, NICUの充実,県内における周産期医療に関する情報ネットワークの充実,そして母体搬送の促進,新生児死亡の減少を目指して産婦人科医師(現在,常勤6名,研修医2名),小児科医師(現在,常勤4名,研修医2名)が一丸となり力を合わせて頑張っています.

東京警察病院

著者: 荻野雅弘

ページ範囲:P.983 - P.983

 財団法人自警会 東京警察病院(警視庁職員の組織)は昭和4年に創設され,職域病院として発足しましたが,昭和20年以降は,一般病院としても開放され,地域社会の基幹病院として幅広い医療を行っています.JR中央線,地下鉄の東西線と南北線の交わる千代田区の飯田橋駅から徒歩1分のところに位置する当院は,総病床数563床,常勤医師125名の大所帯です.
 当院は通常の診療以外に,昨今話題となったオウム真理教の一連の事件や地下鉄サリン事件などの被害者の治療に当たったり,ペルー日本大使公邸人質事件においても,事件発生翌日に総理の要請により医療チームが編成され直ちに現地に赴くなどの非常事態に迅速に対応しています.また,外務省からの診療協力要請に基づき,国賓が来日した際には特別診療体制を編成することも診療の責務の1つです.

産婦人科キーワード・11

Embryo biopsy

著者: 中川浩次

ページ範囲:P.984 - P.985

 embryo biopsyは,着床前遺伝子診断(preim—plantation genetic diagnosis:PGD,着床前診断と略す)を行う際の診断材料を得るための方法で,着床前の4〜8細胞期胚から割球または胚の核を取り出すテクニックである.

産婦人科キーワード・12

メッセンジャーRNA

著者: 上村浩一

ページ範囲:P.986 - P.986

語源
 遺伝情報は一般にDNA中に保存されている.DNAは大切な設計図で,核の中にしまわれており,必要に応じて必要な遺伝子DNAの暗号文をコピーにしてタンパク合成の場へ送り,このコピーと照合してアミノ酸の配列を決め,タンパクを合成する.実際には,DNAの情報はRNAポリメラーゼの作用により一本鎖RNAにコピー(転写)され,ついでリボソーム上でアミノ酸の配列順序に翻訳され,特定のタンパク質の合成につながっている.以上の過程中で生ずる遺伝情報をコピー(転写)した一本鎖RNAが,核からタンパク合成の場へ遺伝暗号のメッセージを運ぶ役目をするので,メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる.

CURRENT CLINIC

周産期診療における先天異常への対応—出生前診断のためのカウンセリング

著者: 上原茂樹

ページ範囲:P.987 - P.994

 染色体異常や遺伝疾患などの先天異常が産婦人科診療に大きく関与する時代となっている.医療担当者は,先天異常児を妊娠する可能性があるか,すでに分娩した夫婦に対して原因,予後などを含めたカウンセリングをする.そのカウンセリングはクライアント夫婦にとって意思決定の機会となることもあり,曖昧な「傾向」ではなく具体的「数値」を提示し判断材料とさせたい.その意味から,本稿に示すような仕事をするに至った.

原著

子宮筋腫に対する腹腔鏡併用腟式子宮全摘術(LAVH)施行症例の検討

著者: 竹田明宏 ,   渡邊義輝 ,   塚原慎一郎 ,   井箟一彦

ページ範囲:P.995 - P.998

 当科においては,術前GnRHアナログ投与により子宮体積を縮小させた後に腟式子宮全摘術(腟式)を行ってきたが,その適応拡大を目的として腟式が困難と予想される症例,すなわち①GnRHアナログ投与後も子宮体積が400cm3以上の症例,②未経産などのために腟腔の狭い症例,③既往開腹手術による癒着の予想される症例,④付属器腫瘍を合併した症例では腹腔鏡併用腟式子宮全摘術(LAVH)にて対応している.
 1995〜1997(平成7〜9)年度に407例の子宮筋腫症例に対して子宮全摘術を行ったが,その内訳は腹式子宮全摘術34例,腟式298例,LAVH70例およびLAVH非完遂による術中開腹症例5例であり,開腹手術の割合を9.6%まで下げることが可能であった.LAVH70例中上記①の条件による症例は33例あり,その平均摘出物重量は517gであり,②③④の条件による症例は37例あり,平均摘出物重量は242gであった.LAVHは腟式の適応拡大に有用な手段であると考えられた.

症例

子宮腟部円錐切除既往を有し早産に至った4例

著者: 伊藤友美 ,   石川薫

ページ範囲:P.999 - P.1002

 子宮腟部円錐切除既往を有し早産に至った4例の臨床経過は,胎胞脱出,PROM,絨毛膜羊膜炎と多様であった.子宮腟部円錐切除既往が早産を惹起する機序は,子宮頸管切除による①外傷性子宮頸管無力症,②子宮頸管の上行性感染に対する防御作用の破綻からの絨毛膜羊膜炎などが推測されている.したがって子宮腟部円錐切除既往妊娠の周産期管理では,①外傷性子宮頸管無力症の経腟超音波による早期発見と治療,②上行性感染に対する対策として子宮頸管炎・腟炎への適切な対応などがポイントとなろう.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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