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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科52巻9号

1998年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 胎児・新生児のBrain Damage 疫学と病理

1.成熟児脳性麻痺の原因

著者: 二村真秀

ページ範囲:P.1124 - P.1126

 近年の新生児医療は,技術の著しい進歩により治療成績の向上には目をみはるものがある.しかしながら今日では,救命することはもちろんのこと,後遺症をいかに防ぐかが,われわれに与えられている最大の課題であろう.後遺症のなかでも脳性麻痺の発症率においては,最近では新生児医療の進歩にもかかわらず減少傾向のみられないことが,わが国のみならず各国において問題となっている.従来,原因としてはさまざまな病態が指摘されてきたが,成熟児(出生体重2,500g以上)においては低酸素虚血性脳症(hypoxic-ischemicencephalopathy:HIE),および極低出生体重児(出生体重1,500g未満)では脳室周囲白室軟化症(peri-ventricular leukomalacia:PVL)が主要なものとなっている.
 本稿においては,成熟児に発生する脳性麻痺に焦点を当てて,発生頻度,機序,原因などを中心に概略を述べることとする.

2.超低出生体重児の長期予後

著者: 三科潤

ページ範囲:P.1128 - P.1132

 近年,サーファクタントによる呼吸障害の治療に代表される新生児未熟児医療の進歩,およびこれに伴う早産の分娩管理の改善などにより超低出生体重児の生存率は著しく改善し,超低出生体重児のなかでも,より出生体重・在胎週数の少ない児の生存が可能となった.しかも,脳性麻痺や知能障害などのmajorな神経学的後障害の頻度は高くなってはいないことが報告されている1-5).しかし長期予後の調査においては,特殊教育を受ける児の頻度が高いことや,明らかな神経学的障害を認めない児においても認知障害や行動障害などの微細神経障害の存在が指摘されており,学習障害の頻度が高いことなども注目されている6-11)
 本稿では,東京女子医科大学母子総合医療センターを退院した超低出生体重児の6歳,小学1年,小学3年の健診での結果を中心に,超低出生体重児の長期予後について述べる.

3.成熟児脳障害の病理

著者: 伊藤雅之 ,   稲毛祐基子 ,   高嶋幸男

ページ範囲:P.1134 - P.1138

 近年の胎児・新生児医学の進展により,周産期死亡率は著しく低下した.これは産科および新生児科による周産期ケアによるところが大きい.そして,それにともない,周産期脳障害の質的変化がみられるようになった.かつて脳性麻痺の原因の多くは,未熟児と核黄疸,仮死であった.最近では,極小未熟児のintact survivalは向上し,核黄疸はみることがなくなった.仮死(asphyxia)の多くは後遺症なく生存するようになったが,いまだ重要な疾患である.ここでは,成熟新生児にみられる脳病変,その大きな要因である低酸素性虚血性脳障害に焦点を当てて,最近の知見を含めて述べる.

胎児期の脳損傷

1.胎内ウイルス感染

著者: 小島俊行

ページ範囲:P.1140 - P.1141

 胎内感染により胎児脳に障害を与えるウイルスとして,風疹ウイルス,サイトメガロウイルス(以下,CMVと略す),水痘・帯状疱疹ウイルス(以下,VZVと略す)が知られている.

2.PVLの発生メカニズム

著者: 茨聡

ページ範囲:P.1142 - P.1145

 肺サーファクタント補充療法および人工換気法の進歩により,呼吸不全による低出生体重児の死亡率は激減してきている.また,これら呼吸管理法の進歩により.これまで,児の神経学的予後を不良にしていた脳室内出血の発症頻度も減少してきている.しかしながら,新生児経過中,脳室内出血も認めず,順調に経過していたにもかかわらず,脳性麻痺と診断される児が存在し,その原因として脳白質の病変,とりわけ脳室周囲白質軟化症(periventricular leukomalacia,以下PVL)が認識されるようになってきた.脳室周囲白質部,とくに三角部には,頭頂葉に存在する運動中枢からの神経線維いわゆる皮質脊髄路が存在するため,PVLの存在する児ではその連絡が絶たれ,痙性麻痺となると考えられている.そこで本稿では,現在考えられているPVLの発生メカニズムについて概説する.

3.IUGRと脳障害

著者: 松井潔 ,   後藤彰子

ページ範囲:P.1146 - P.1152

 周産期医療の進歩により新生児の生命予後は改善し,新たな課題は脳をまもる周産期管理の工夫と脳蘇生の治療の開発と考えられる.新生児神経学の進歩により神経学的後遺症をきたす病態は整理された.すなわち,未熟児では脳室周囲白質軟化症(PVL)(痙性両麻痺の原因)と脳室周囲出血(PVH)(下肢優位の片麻痺または左右差の強い両麻痺の原因)の2大疾患1),成熟児では低酸素性虚血性脳症(HIE)が脳性麻痺,てんかん,精神発達遅滞(major handicap)と強く関連する主要な周産期脳障害である.HIEは産科管理の進歩により減少した.したがって,HIEにおいては早期新生児脳症(neonatal encephalopathy)として広く捉え,基礎疾患の検索が治療と同時に行われなければならない.一方,言語発達遅滞,多動・注意欠損症候群,学習障害(minor handicap)2)は極低出生体重児に頻度が高いとされるが,病因は不明である.今後,周産期医療の進歩によりさらにmajorhandicapが減少すれば,minor handicapの重要性が増すと考えられる.
 IUGRは従来胎内死亡,胎児仮死・新生児仮死,新生児期の合併症の頻度の高い疾患であったが,適切な周産期管理により短期的予後は改善したため,長期予後が議論されるようになってきている.

4.水頭症の皮質厚と知能予後

著者: 坂本貴志 ,   森惟明

ページ範囲:P.1154 - P.1156

 胎児水頭症の症例は,診断に苦慮するものが少なくないとはいえ,最近の診断機器,診断技術の進歩にともない,確実に増加してきている.胎児が水頭症と診断された場合,両親の最大の関心はその子が正常に発達するかどうかであり,われわれの評価によっては妊娠が継続されないという事態も十分に起こりうる.したがって,われわれはできるだけ正確に予後予測を行う必要があるが,はたして胎児の脳の画像診断,とくに大脳の皮質厚から知能予後は予測しうるのであろうか.

5.TTTSと児の予後

著者: 伊藤茂

ページ範囲:P.1157 - P.1159

 双胎間輸血症候群(twin to twin transfusionsyndrome:TTTS)は一絨毛膜性双胎における最も重症な合併症で,胎盤内の血管吻合を介して両児の循環動態が何らかの原因により変化し,結果的に両児の循環不全をきたす疾患である.TTTSではこの結果,一方もしくは両方の児が心不全や胎児仮死となったり,最悪の場合は一方もしくは両方の児が子宮内胎児死亡となることもある.このためTTTSの症例は未熟児で分娩となる症例が多く,その分,児の未熟性による中枢神経障害の発生リスクが他の単胎もしくは二絨毛膜性双胎の児より高くなる.
 TTTSではそのような未熟性に伴う中枢神経障害のリスクに加え,両児の循環動態の変化により発生する胎児中枢神経障害も存在するため,その発生リスクはさらに高くなる.しかし,TTTSの発生機序が明確にされていない今日では,TTTSによる中枢神経障害の発症機序も不明な部分が多いのが現状である.

分娩時の脳損傷

1.胎児心拍モニターでCPは減ったか—診療圏管轄保健所管内における22年間のCP児発生率検討を通じて

著者: 津崎恒明

ページ範囲:P.1160 - P.1163

 本邦における脳性麻痺児(以下,CP児と略)の発生率は,出生1,000当たり1.5〜2.3(昭和40年代)から0.6〜0.8(昭和50年代)へと減少傾向にあると報告された1,2.一方,西オーストラリア地区におけるCP児の疫学的検討3,4では,1967年の出生1,000当たり3.9から1975年の1.2まで減少したが,スウェーデンでは1971年以降若干増加傾向にあるとされている5).これらの検討は分娩時の胎児心拍モニタリングが十分に行われる以前であるため,そのCP発生防止上の意義については分析されなかったが,近年CPの発生要因として分娩時胎児仮死を従来より過小評価する報告6,7)のが相次ぎ,分娩時胎児心拍モニタリングの意義についても否定的な報告8,9)がみられる.
 筆者ら10)は,兵庫県西南但馬地区の地域中核病院における胎児心拍モニタリング導入前後の周産期医療指標や,地域管轄保健所管内のCP児発生率の推移を観察してきたので,その後のデータを追加するとともに,文献的考察を交えて報告する.

2.未熟児の分娩様式

著者: 柳原敏宏 ,   山城千珠 ,   秦利之

ページ範囲:P.1164 - P.1166

 近年の周産期医療の進歩により未熟児の生命予後は著しく改善されたが,長期予後についてはいまだ満足のいくものではない.また,未熟児,とくに超低出生体重児の胎児仮死の判定や分娩時期の決定,および分娩様式に関してはいまだ統一された見解が得られておらず,施設ごとに異なっているのが現状であり,その選択に苦慮する場合も多い.とくに,分娩様式の選択は児を分娩時低酸素状態や分娩時損傷から守る意味と,母体に対する侵襲の有無も関与しており重要な問題である.ここでは,未熟児の分娩様式について文献的に考察する.

3.骨盤位分娩と中枢神経障害

著者: 夫敬憲

ページ範囲:P.1167 - P.1169

 骨盤位分娩における児損傷の危険性は,CPD(児頭骨盤不均衡)の診断が困難であることと,borderline caseに対するtrial of laborが許されないことなどの理由で頭位分娩に比べて高いとされている.ここでは,骨盤位分娩における中枢神経障害について,おもに晩発性に起こってくるものを中心に述べてみたい.

4.細菌性髄膜炎

著者: 安次嶺馨

ページ範囲:P.1170 - P.1171

新生児細菌性髄膜炎の頻度
 新生児細菌性髄膜炎は敗血症に伴って発症し,臨床症状,起炎菌は両者に共通している.欧米の報告によると,敗血症の1/4は髄膜炎を合併する1).沖縄県立中部病院で1973〜1995年の23年間に経験した新生児敗血症および髄膜炎の総数は288例で,うち髄膜炎は73例(25.3%)であり,欧米の報告と一致した.

新生児期の脳損傷

1.脳損傷発症のメカニズム—神経細胞死の機序

著者: 小保内俊雅

ページ範囲:P.1172 - P.1173

 周産期の低酸素性虚血性脳障害は脳性麻痺,精神発達遅滞,学習障害,自閉症やてんかんなどの原因となる.
 低酸素性虚血性脳障害の組織像は,神経細胞が特異的に傷害される神経細胞壊死と,神経細胞,グリア細胞や血管までも破壊される梗塞がある.低酸素虚血を契機にさまざまな因子が複雑に絡み合って神経細胞死が惹起される.組織の傷害は最初のエピソードのみならず蘇生による回復期つまり再灌流によっても傷害を進展させてしまう.

2.新生児脳障害の脳波診断

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.1175 - P.1177

 脳波は脳機能を鋭敏に反映しており,ベッドサイドで簡単に記録できるので,成熟度の判定,腿障害の診断新生児発作の診断,神経学的予後の判定などにきわめて有用である1-8).神経系の発達は原則として受胎後の期間に規定されるので,新生児脳波の判読に際しては日齢ではなく受胎後週齢を基準にする.また脳波は,睡眠覚醒周期に伴って変化するので,すべての睡眠時期,とくに動睡眠と静睡眠の二つの時期を記録し,評価することが重要である.胎生期後半の中枢神経発達はきわめて急速であり,脳波はおよそ2週単位で変化する.したがって受胎後週齢別,睡眠段階別の正常脳波所見を把握しておくことが重要である.睡眠時期の判定は肉眼的観察によってもある程度可能であるが,できればポリグラフを記録することが望ましい.しかし受胎後30週以前では睡眠周期は不明確で,上記どちらの睡眠時期にも属さない不定睡眠が多く,十分な記録時間をとれば,実地診療では必ずしもポリグラフ記録を要しない.

3.新生児脳損傷の画像診断

著者: 長谷川功 ,   吉岡博

ページ範囲:P.1178 - P.1182

 新生児脳損傷の画像診断として,①超音波断層検査,②CT検査,③核磁気共鳴画像(magneticresonance imaging:MRI),④超音波ドプラ装置による脳血流の測定,⑤single photon emissioncomputed tomography(SPECT)などがある.本稿では誌面の関係上,最も一般的に行われている①〜③を中心に,実例を挙げて概説する.

4.未熟性と脳室内出血

著者: 西田朗

ページ範囲:P.1184 - P.1186

 新生児医療の進歩,とくに人工サーファクタントの使用によりその発症頻度は減少をみたものの,いまだ脳室内出血(intraventricular hemor—rhage:IVH)は,1,500g未満の未熟児にとって主要な死亡原因であることには変わりない.未熟児のIVHは,まず脳室上衣下胚層(subepen—dymal germinal matrix:SEGM)に出血が起こり(脳室上衣下出血:subependymal hemor—rhage:SEH),その後脳室内へ進行すると言われている.
 本疾患は,その成因がとりわけ患児の未熟性によることから,本稿においてはまずSEHの発症母体であるSEGMについて概説し,ついでIVHの危険因子およびその予防法(周生期における)について述べることとする.

5.無酸素性脳損傷と虚血性脳損傷

著者: 村松幹司 ,   山田恭聖 ,   戸苅創

ページ範囲:P.1188 - P.1190

 胎児・新生児期の場合には,一般的には虚血と低酸素・無酸素の脳損傷を厳密に分けるのは非常に難しいと思われる.それは胎児期の脳血流が,動脈管,卵円孔,静脈管などのシャントや,臍帯・胎盤といった要因が循環動態に影響を及ぼすからである.新生児期では急速な肺血管抵抗の低下による肺血流量の増加や,前述のシャントの閉鎖など大きな動態の変化を経ることになる.正常な経過においてもこのような多くの要因によって変化するが,これが病的状態となるとさらに複雑になる.たとえば,仮死など低酸素血症に陥ると心拍出量は低下するが,下半身の血管抵抗は増して脳・心臓などの血流はそれまでの2〜3倍となる.こうした調節機能はautoregulationと呼ばれているが,新生児にはautoregulationはあるが,未熟であるとともに予備能力の乏しさから容易に破綻しやすい1).そのため新生児期の脳損傷に関しては,低酸素性虚血性脳症という大きな概念でのみくくられており,病変は低酸素症の負荷の程度,持続時間,様式や回復状況などの外因と,成熟度に伴う組織代謝活性や局所微小循環などの素因との組み合わせによって複雑な生じ方をする2).そこで今回われわれは,日齢7のラットモデルを用いて実験的に低酸素状態の脳損傷と虚血状態の脳損傷を比較検討してみた.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・21

良性の卵巣嚢腫と判断して遭遇した早期卵巣癌:Ⅰ—術中に判明した症例から

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏

ページ範囲:P.1121 - P.1123

 悪性も含む卵巣腫瘍に関与する腹腔鏡下手術の数は,1998年3月18日現在で493例であり,それらの対処方法の内訳を図1に示す.ところで,術前に良性の卵巣嚢腫と判断して施行した腹腔鏡下手術430例のうち,永久標本による病理診断においても良性であったものは420例(97.6%)であった.残る10例は図2に示すごとく,5例(1.2%)が術中に悪性と判明,5例(1.2%)が術後に悪性と判明した.この良性と判断した卵巣嚢腫に対する腹腔鏡下手術の推移と悪性と判明した症例の内訳を図3に示す.
 今回は,まず術中に悪性と判明した5症例における①術前の画像所見,②実際の手術内容,③摘出標本と病理診断を供覧するとともに,④術後の化学療法や予後などについても振り返る.

OBSTETRIC NEWS

ニフェジピンと塩酸リトドリンの比較〜陣痛抑制剤有用性の研究の判定

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1191 - P.1193

 早産の管理において,早産の予知に関して有用性の高い研究結果が発表され,その多くの研究結果は,日常臨床に採用されている(OG 87:643,1996;NEJM 334:567,1996).一方,切迫早産の治療に新しい薬剤が次々に開発されている(AJOG 176:S2,1997)が,早産は高率に予知できたとしても,陣痛を長期間抑制できる薬剤はなく(AJOG 168:1247,1993),早産率の改善はみられない〔母子保健の主なる統計1996年(1997年刊),p47〕.
 今回,オランダのグループが,切迫早産に対するニフェジピン(カルシウム拮抗薬)の有用性に関する研究を発表した.対象は,単胎で早発陣痛症例(前期破水例を含む)185例とした.多胎妊娠,明らかな子宮内感染,先天奇形,胎盤早期剥離,高度子宮内胎児発育遅延,β—刺激薬禁忌例(糖尿病,心血管系疾患,甲状腺機能亢進症,重症妊娠中毒症)は除外した.切迫早産の診断基準は,規則正しい子宮収縮(少なくとも10分ごと×≧1時間)とし,頸管の変化は診断基準に含まなかった.研究対象は,無作為に2群(ニフェジピン舌下錠投与群95例,塩酸リトドリン静注群90例)に分類した.塩酸リトドリン群のなかの12例は,母体の高度副作用(嘔気,嘔吐,頻脈,不安,頭痛)のため,投与中止となった.

Estrogen Series・30

乳癌生存率と更年期後のエストロゲン補充療法

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1198 - P.1199

 乳癌の発育がエストロゲンの仲介によりなされることは,よく知られていることである.このような作用は乳癌再発に対する補助的療法としてホルモン療法をする根拠となっている.乳癌発見時に患者が更年期前または後であったか,また癌組織の性ホルモン受容体の有無は,乳癌の生存率と再発率に関連するところである.
 このような乳癌と性ホルモンとの関連は,ホルモン補充療法(HRT)の有無が乳癌とどのような関連を持つか,という疑問にわれわれを導く.今までのところ,エストロゲンの使用が乳癌発生を増加させると結論した研究は多くはない.乳癌とエストロゲンとの関連はいまだ十分には解明されてはいず,患者と医療者との双方に不安を与え続けている問題である.更年期後の女性に乳癌が発見されたとき,その生存は現在または過去のHRT使用により影響を受けるであろうか,という疑問に答えるのがこの研究の目的である.また,エストロゲンおよびプロゲステロンに対する受容体の有無とホルモン使用との関連についても調べた.

病院めぐり

聖路加国際病院

著者: 伊藤博之

ページ範囲:P.1200 - P.1200

 東京の隅田川べりにある聖路加国際病院は,1902年(明治35年),米国聖公会の宣教医師ルドルフ・トイスラー博士によって創設されました.本院はキリスト教精神の下に“神の栄光と人類の奉仕のために”をモットーにして今日に至っています.
 藤山一郎の歌で有名な“金の十字架”のある旧病院から,1992年(平成4年)に新病院に移転しました.新病院は21世紀に向けて全人医療を目指して建てられたもので,総病床数520床,小児病棟を除くすべてが個室(シングルケアルーム)になっています.また,本院は厚生省の臨床研修指定病院として毎年17〜19名の研修医を採用するなど,卒後臨床教育にも力を入れています.

国立善通寺病院

著者: 中川康

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 国立善通寺病院は,昭和20年12月1日,善通寺陸軍病院が転換し発足した病院であり,地方循環器病センターおよび母子医療センターを有する四国の国立病院の中心をなす病院です.善通寺市という地方都市(弘法大師の生誕地として有名)にある関係から,80,025m2という広大な敷地を有し,附属看護学校および附属リハビリテーション学院が併設され,院内にも臨床研究部,国立病院療養所四国医薬品情報センターが設置されており,診療,教育,研究の面で恵まれた環境にあります.
 産婦人科は当院発足と同時に開設され,現在は昭和53年より医長を勤める長町典夫先生(昭和46年,徳島大卒),平成9年4月に赴任された夫 律子先生(平成2年,徳島大卒),平成8年4月に赴任の中川 康(昭和59年,徳島大卒)の3名で診療を行っています.

産婦人科キーワード・15

サザン・ブロット

著者: 松崎利也

ページ範囲:P.1202 - P.1202

サザン・ブロットの語源
 開発者の名前の「サザン(Southern)」および“インクなどで”しみをつけるという意味の「ブロット」である.操作の過程のハイブリダイズも含め,サザン・ブロット・ハイブリダイゼーションとも呼ぶ.hybrid(雑種)とはラテン語で“イノブタ”の意味である.
 1975年,エジンバラ大学のSouthernにより報告されたゲノムDNAを解析する方法で,制限酵素地図の作成や遺伝子の構造異常を探るために用いられている.たまたま開発者の名前がSouthern(南の)であったことから,RNAをブロットする方法をNorthern(北の),蛋白をブロットする方法をWestern(西の),さらにゲル内で抗原抗体反応を行った後にブロットする方法をEastern(東の)と呼んでいる.

産婦人科キーワード・16

遺伝子ライブラリー

著者: 漆川敬治

ページ範囲:P.1203 - P.1203

遺伝子ライブラリーとは
 遺伝情報は,DNA中のアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)という4種類の塩基の配列という形で保存され,子孫に伝えられている.すなわち,遺伝情報はA,G,C,Tの4文字で書かれた文書にたとえることができる.遺伝子を適当な大きさの断片にしてベクターDNAに組み込み,増殖させたクローンの集合体を文書の保存してある図書館(ライブラリー)にたとえて,遺伝子ライブラリーという.
 遺伝子ライブラリーは目的とする生物の遺伝子のクローンのコレクションであるので,欲しい遺伝子はライブラリーを検索して取り出し,解析することができる.

CURRENT RESEARCH

妊娠維持と免疫機構

著者: 藤井知行

ページ範囲:P.1205 - P.1213

 妊娠は免疫学的に不思議な現象である.このことを,私は医学部の学生時代に産婦人科のゼミで聞いた.卒業後,産婦人科医となったが,妊娠と免疫に関する興味は続いていた.ちょうどそのころ,1981年に英国のテーラーらのグループが,習慣流産に対する免疫療法を発表したのを受けて,日本でも原因不明習慣流産に対する夫単核球皮内免疫療法が行われはじめていた,テーラーらが唱えていたのは,夫婦が免疫的に似ているとかえって児に対する母体の拒絶反応が誘発され,習慣流産になるという.それまでの移植免疫学とは反対の学説であり,私は大いに感銘を受けた.そこで,当時の母教室主任教授であった故水野正彦教授および川名尚助教授(現東大分院教授)に指導をお願いして,妊娠を成立させる免疫機構の研究を開始したのである.その後,妊娠免疫に関する研究は,免疫学の一分野として世界的に大きく発展したが,私はそのなかで,妊娠免疫反応を誘発する最初の信号はトロホブラストが出していると考え,トロホブラスト上に発現するHLAクラスI抗原であるHLA-G抗原に注目した.この抗原の発見者である米国のゲラティー博士のもとで研究する機会を与えられた幸運もあって,現在はHLA-Gの妊娠における生理的,病理的意義に関する役割を中心として研究を行っている.

症例

多量の腹水およびCA12-5の異常高値を認めた硬化性間質性腫瘍の1例

著者: 西條良香 ,   岡山哲也 ,   寺澤晃司 ,   小林津月 ,   湯浅敏正 ,   森下一 ,   沼本敏

ページ範囲:P.1215 - P.1218

 患者は33歳.未婚,未経妊.持続する腹部症状にて受診し,超音波検査および腹部CT検査にて左卵巣腫瘍と多量の腹水が認められた.開腹術を施行したところ,大量の腹水(約7.4l)および左卵巣腫瘍を認めた.術後の病理検査にて左卵巣の硬化性間質性腫瘍(sclerosing stromal tumor:SST)と診断された.術後,高値を示していたCA12-5は正常化した.現在術後2年が経過するが,腹水の再貯留やCA12-5の再上昇は認めていない.

Normal-sized ovary carcinoma syndromeの1例

著者: 河田季與美 ,   竹原和宏 ,   宮岡繁樹

ページ範囲:P.1219 - P.1222

 患者は42歳,腹部膨満感と食欲不振を主訴に受診.消化器疾患の検索では異常なく,腹水細胞診がclass Vと血清CA125値が高値を示したことから,婦人科悪性疾患を疑った.画像診断で骨盤内腫瘤を認めるものの,子宮および卵巣に明らかな病変は指摘できず,normal-sized ovary carcinomasyndomeと診断された.原発巣検索のため開腹術を施行.腹腔内に多量の腹水と多数の乳頭状腫瘍を認めたが,原発巣は不明であった.摘出物から卵巣原発の漿液性乳頭状腺癌に類似した所見が認められ,SSPC(serous surface papillary carcinoma)が考えられた.全身化学療法と腫瘍摘出術を施行し,軽快傾向を示した1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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