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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科53巻10号

1999年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 —リニューアル—帝王切開 帝切の現況

1.帝切率の推移とその背景

著者: 雨森良彦

ページ範囲:P.1232 - P.1234

 50年前に比べると本邦も晩婚少産化が進み,「赤ちゃん」は相対的に貴重児となってきた.まかり間違って分娩でその児を失ったり傷つけたりすると,1億円訴訟にまきこまれかねない時代である.
 昔は多産多死,どの家庭にも7〜8人産まれるなかで一人ぐらいの死産はあったものである.「死んだ子の歳を数える」のは日常茶飯で悲しみのなかにも諦めと許容があった.往年の産婦人科の泰斗は「初産は児を殺しても下から出せ」と帝切乱用を戒しめた.二十歳の若い初産婦を帝切してしまうと,その後6人も8人もの安産が期待できないからに外ならない.麻酔事故,出血,感染,術後イレウスなど合併症はもとより長期的にも次回分娩時の子宮破裂のリスクをかかえることになるからである.さらに既往帝切—今回前置胎盤例は,初回帝切(primaryc-section)の増加により予防できない必然から急増している.本症例では胎盤絨毛が帝切瘢痕創に侵入し癒着を起こし,再帝切時に往々にして母体に致命的な出血リスクを与え,帝切時子宮全摘(ceasarean-hysterectomy)を余儀なくされる.悲惨な例である.

2.帝切の麻酔

著者: 椋棒由紀子

ページ範囲:P.1236 - P.1237

胎児にもやさしい麻酔とは
 帝王切開術の麻酔は,母体と胎児を同時に管理するためより慎重さが必要とされる.麻酔中の呼吸,循環の変動は子宮胎盤血流に大きく影響するので,母体の低酸素の回避と循環の安定こそが胎児の状態をも安定させる最大のポイントである.母体の気道のトラブルによる低酸素状態のみならず,胎盤早期剥離や前置胎盤の出血やsupinehypotensive syndromeの低血圧では,母体の血圧の急激な低下で子宮血流量が30〜50%減少すると,胎児の低酸素状態を引き起こすといわれる.一方,未熟児,異常妊娠などでは胎児仮死になりやすく,これらの重複により仮死の重症度が増すので,術前状態の把握は重要であるが,緊急帝王切開術では,術前に患者の情報が十分に得られない状況での麻酔方法の選択を迫られることも多い.

3.子宮壁の切開と縫合法—私はこうしている 1)

著者: 山本哲三

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 帝王切開術術式の理論構築はすでに終わったものと思うが,実際にはその許される範囲で各人がそれぞれ工夫を凝らして行っているのが実情と思う1).私は帝王切開を行うにあたり,次の点を注意している.
 ①可及的に早く,むりなく児を娩出できること(とくに胎児仮死や子宮切迫破裂など).

3.子宮壁の切開と縫合法—私はこうしている 2)

著者: 長阪恒樹

ページ範囲:P.1240 - P.1241

 以下に私の行っている子宮壁の切開と縫合法について手順を述べ,その手順についてなぜそうするのか理由を記した.
 1)術者は患者の右側に位置する.

3.子宮壁の切開と縫合法—私はこうしている 3)

著者: 信永敏克 ,   村田雄二

ページ範囲:P.1242 - P.1243

 手術は解剖学的に切開し修復することが原則であり,多くの成書にも子宮下部横切開の帝王切開術の際は,子宮筋層縫合後に膀胱子宮窩腹膜を再縫合すると記載されている.その目的は,正常解剖学的位置に戻し腸管との癒着形成を防ぐためといわれてきた.しかし,膀胱子宮窩腹膜を再縫合することにより癒着が防止されるという根拠はなく,また,創傷治癒の観点からも膀胱子宮窩腹膜の再縫合は必ずしも有益でない.実際われわれは,子宮下部横切開の帝王切開術では膀胱子宮窩腹膜を再縫合せず閉腹しているが,術後合併症は増加していない.今回は,帝王切開術施行時の膀胱子宮窩腹膜の再縫合が必要か否かに関して文献的考察を行った.

3.子宮壁の切開と縫合法—私はこうしている 4)

著者: 伊原由幸

ページ範囲:P.1244 - P.1245

 帝王切開は最も基本的な手術の一つであり,施設により方法や縫合糸などに多少違いはあるが大筋では同じある.大事なことは,慎重にていねいに行うことであり,ポイントは,①膀胱を損傷するな,②児を損傷するな,③筋層は2層にていねいに縫合せよ,の3点である.
 このうち第3点は,術後出血が母体に致命的ともなりうるので最も重要である.とくに子宮口開大後の緊急帝切では切開創が裂傷状に伸びていることがあり,縫合には細心の注意が必要である.

3.子宮壁の切開と縫合法—私はこうしている 5)

著者: 原賢治 ,   北條哲史

ページ範囲:P.1246 - P.1247

 特段の理由がない限り,子宮下部横切開で帝王切開を行うというのが,現在の産科医のコンセンサスであろう.しかし,どの位置で子宮を切開し,どのような方法で切開創を縫合するかに関してはさまざまな主張があり,それぞれの施設で異なったやり方で行われているのが現状である1).そしてそのことが,今回のテーマの背景であろうと思われるので,その趣旨にのっとり,私たちの病院での子宮壁の切開法と縫合法について述べることとする.

ハイリスク帝切

1.早産の帝切

著者: 中田真一 ,   松尾重樹 ,   山本久美夫 ,   松本雅彦

ページ範囲:P.1248 - P.1250

 近年,新生児医療の進歩に伴い,未熟児,とくに1,500g未満の極低出生体重児や1,000g未満の超低出生体重児でさえその予後は飛躍的に改善されてきている.われわれ産科医としても,このようなやむなく早産として出産させざるを得ない児をいかにストレスのないよい状態で分娩させるかが重大な課題となっている.早産における帝王切開は増加傾向にあるが,ここではとくに妊娠中期における帝王切開の問題点を整理し,手術時における児へのストレス軽減の工夫について若干述べてみたい.

2.前置胎盤の帝切

著者: 田中政信 ,   平川舜

ページ範囲:P.1252 - P.1254

 前置胎盤の頻度は全分娩数の約0.5%程度といわれ,経産婦であることや帝王切開術の既往などとの関連性が高い.分娩様式は帝王切開が多く選択され,その際前壁に付着する胎盤の処理法や,まれではあるが癒着胎盤の場合には剥離面の止血が困難となり子宮全摘出を余儀なくされる症例も存在するので,妊婦管理を含め,前置胎盤の病態や分娩時の対応など術前のインフォームドコンセントがきわめて重要となる.

3.常位胎盤早期剥離の帝切

著者: 小林隆夫 ,   鈴木美香

ページ範囲:P.1256 - P.1259

 常位胎盤早期剥離(abruptio piacentae:以下,早剥)は,妊娠20週以降で,正常位置付着胎盤が胎児娩出以前に子宮壁から部分的または完全に剥離し,重篤な臨床像を呈する症候群と定義される1,2).早期に治療しないと胎児の救命率は悪く,DIC(播種性血管内血液凝固症候群disseminatedintravascular coagulation)を必発し,急性腎不全などの臓器症状を併発することもまれではない.産科救急の代表的疾患であり,早剥の大部分の症例が緊急帝王切開の適応であり,帝王切開のタイミングが母児の予後を左右するといっても過言ではない.

4.子宮筋腫合併の帝切

著者: 今西由紀夫

ページ範囲:P.1260 - P.1262

 良性婦人科腫瘍のなかで,子宮筋腫はもっとも多いものであり,女性の性成熟期において年齢が上がるにつれ,当然のことながらその発生頻度は高くなる.
 一方,社会的なさまざまな要因から,女性の出産時の年齢は少しずつ上がっている.

5.多胎妊娠の帝切

著者: 柳原敏宏 ,   秦利之

ページ範囲:P.1263 - P.1265

 近年,体外受精・顕微授精などによる不妊治療の発達から多胎妊娠の頻度は上昇している.多胎妊娠では,妊娠中に切迫早産・子宮内胎児発育不全・前置胎盤・胎児奇形・双胎間輸血症候群・羊水過多などの合併症が多く,分娩時は,胎児仮死・臍帯下垂・臍帯脱出・懸鉤などが発生しやすい.また,母体では,妊娠中毒症が合併しやすく必然的にハイリスク妊娠となる.
 胎児環境の悪化や母体合併症の悪化といった産科的適応だけでなく,母体の高齢化および不妊治療による貴重児のため,両親が帝王切開(以後帝切)を強く希望するといった社会的適応も重なるため,帝切率も必然的に高率となっている.

6.反復の帝切

著者: 朝倉啓文 ,   荒木勤

ページ範囲:P.1266 - P.1268

 わが国における帝王切開率は欧米諸国と同様上昇している.帝王切開の頻度が高ければ,その後の分娩でも反復帝王切開を選択する傾向は高いうえ,さらに,緊急帝王切開の率も低下することはない.反復帝王切開はいかようにしても高率とならざるをえない.
 帝王切開は母体,胎児の救命が目的になる場合が多い.したがって目的達成のためには素早い手術操作が求められる場合が多く,反復の帝王切開においては,その意味で手術手技はけっして簡単とはいえないことがしばしばである.本稿では,そのような状況と対処法について考えてみたい.

帝切をめぐる問題点

1.前回帝切の要件とinformed consent

著者: 水上尚典 ,   佐藤郁夫

ページ範囲:P.1270 - P.1271

 前回帝切(vaginal birth after cesarean deliv—ery:VBAC)と対比されるprocedureは選択的帝切である.前回帝切妊婦に対して選択的帝切が施行されやすいのは以下の理由による.「既往帝切妊婦は経腟分娩時,子宮破裂を合併しやすく,いったんそれを合併すると母児生命が危険にさらされる」.はたして,その危険はどの程度のものであろうか.

2.緊急帝切

著者: 辰村正人

ページ範囲:P.1272 - P.1274

 緊急帝切は産科臨床でよく遭遇する事態であり,ここでは筆者が勤務する山口赤十字病院における緊急帝切の現状について説明する.当院では産科病棟,麻酔科,手術室,NICUの各部署のスタッフ間の連携は比較的スムーズで,緊急帝切決定から手術までの時間は,平日の時間内であれば30分以内,夜間休日でも40〜60分である.皮膚切開から胎児娩出までは平均3〜4分で,5分以内に児を娩出させていることが多い.

3.術中合併症

著者: 鈴木正利

ページ範囲:P.1275 - P.1277

 帝王切開術中の合併症としては,局所の産科的合併症と全身の麻酔科的合併症が含まれるが,本稿では主として産科部分について概説する.
 緊急帝王切開症例では,術前検査や術前処置が十分になされていないことも多く,予定帝王切開とは異なって術中・術後の合併症を併発しやすい.不幸にして,合併症のために子宮全摘術や大量輸血を行わざるを得ない症例も発生することもある.

4.術後合併症

著者: 関博之 ,   竹田省 ,   木下勝之

ページ範囲:P.1278 - P.1280

 わが国の帝切率は,米国同様20〜25%にまで増加してきた.当院における帝切率も1990年は19.1%であったものが年々増加し,1997年には28.3%と増加している.現在,帝切は安全に行える手術となってきたが,表1に示される種々のリスクを伴っており,今後いっそう帝切率が増加することを考慮すれば,帝切術後合併症の病態と予防対策を十分に認識しておく必要がある.
 本稿では,帝切術後合併症として,術後出血,前期破水症例の感染症対策,術後血栓症について述べていく.

5.帝切分娩児のケア

著者: 濱田貴

ページ範囲:P.1282 - P.1283

 出生を境に胎児は,子宮内から子宮外への大きな環境の変化に適応しなくてはならない.新生児期に起こりうる多くの疾患は,広義にはこの環境の変化への適応不全と考えられよう.分娩の自然の姿が経腟分娩であるとするなら,安全に施行できるようになったとはいえ,帝王切開術は児にとっては非生理的な側面をもっており,それゆえに胎外環境への適応という観点からみると,種々のリスクが生じ得る.本稿では,帝王切開児の生理学的特徴を踏まえながら,帝王切開分娩児の疾患とそのケアについて概説を行っていきたい.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・4

What is your diagnosis?

著者: 広川満良

ページ範囲:P.1229 - P.1231

症例:68歳,女性
 1年前に乳癌(硬癌)にて左乳房切除術を受けた既往歴がある.
 1か月前から性器出血が続くため来院し,子宮内膜ポリープを指摘された.

OBSTETRIC NEWS

帝王切開率減少と危険性

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1284 - P.1285

 米国では,西暦2000年までに帝王切開(帝切)率を15%に減少させようという期待的目標が掲げられている(DHHS publication.no(PHS)91—50212)が,産科医はその「机上の期待」に疑問を抱いている.
 帝切率を減少させようとする目的は,母体の安全確保と医療費抑制である.帝切率を減少させる有効な方法は,前回帝切妊婦の経腟分娩(VBAC)と器械的分娩の採用であるが,これらの2戦略は子宮破裂および新生児外傷と関連があり,選択的帝切に比較し,より多くの医療費が必要となり,母子に対する合併症も増加する場合がある.

満期前破水と陣痛抑制剤

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1292 - P.1293

 早産が原因の新生児罹患の重篤性と医療費増加を考慮し,早産防止に多くの方法が採用されてきた.しかし,早産を予知する方法に関する研究のなかには,早産率を低下させるうえで有効な方法もある(子宮頸管長計測に基づく頸管縫縮術,細菌性腟症の診断と治療)が,早産の危険度が高いことが予知できても有効に早産の防止ができない方法(胎児性フィブロネクチン測定)とさまざまである.現時点では,早産率を減少させるほどの薬剤がないため,早産率の低下はみられない.早発陣痛は,どの薬剤を使用しても陣痛を長時間抑制できないことが多くの研究で明らかにされている[BJOG95:211,1988;The Cochrane Preg—nancy&Childbirth Database(1995, Issue 1);Lancet 350:1339, 1997].
 最近,米国産婦人科医協会(ACOG)から発行された満期前破水(preterm PROM:PPROM)の管理に関する勧告では,PPROM例に対する陣痛抑制剤投与の有用性の有無には再検討が必要ではないかという問題提起がされている(ACOGPractice Bull.No.1, June 1998).

産婦人科キーワード・39

インテグリン

著者: 東敬次郎 ,   苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1288 - P.1288

語源
 インテグリンは細胞膜を貫通する膜蛋白で,さまざまな細胞接着分子と結合する.インテグリンは細胞外に各種リガンドへの結合ドメインをもち,細胞内ではアクチン線維と結合する.このことから細胞外と細胞内を統合する(integrate)物質と考えられ,インテグリンと命名された.

産婦人科キーワード・40

蛋白チロシンキナーゼ

著者: 鎌田正晴 ,   前川正彦 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1289 - P.1289

語源
 prototype(原型),protozoa(原生動物)など,ギリシア語の“prot—”は「第一の,原始の」を意味する.proteinは「第一のもの」という意味である.ちなみに“—arche”も同じ意味の接尾語で,月(men)のものが初めて起きるのが初経(menar—che)である.“kin—,kinesi—”は,ギリシア語で「運動」を意味し,SFでお馴染みの超能力者,念動者(サイコキノ)は物体を心(psych)で動かすことができる(サイコキネシス,念動力).

病院めぐり

国立高崎病院

著者: 小菅利弘

ページ範囲:P.1290 - P.1290

 国立高崎病院は明治6年に東京鎮台第一分営高崎営所病院として創設され,高崎衛戌病院,高崎陸軍病院と改称され,昭和20年12月に厚生省移管の国立高崎病院となり現在に至っています(現病院長:石田常博).昭和46年に高等看護学校を併設し,昭和47年に臨床研修病院に指定され,昭和58年に救命救急センター,平成9年に地域医療研修センターを設置しました.
 病院は,病床数400床,職員数360名(定員医師40名,レジデント・研修医20名)の総合診療施設であり,救急医療,政策医療の癌および循環器病の専門医療施設,またエイズの拠点病院,臓器提供病院など地域の基幹病院として機能しています.

小倉記念病院

著者: 山下裕幸

ページ範囲:P.1291 - P.1291

 社会保険小倉記念病院は,福岡県北九州市の小倉北区にあります.大正5年6月に創立された私立小倉記念病院を前身とし,昭和23年1月に厚生省が買収,朝日新聞西部厚生文化事業団に運営を委託し,社会保険小倉記念病院として開設されました.現在の病院は昭和45年に紫川畔に新築移転したもので,地上9階,地下1階,当時としては市内屈指の高層建築で,デザインも斬新な建物でした.昭和54年に心臓病センターの増設,昭和62年に健康管理センターの開設,平成5年に消化器病センターおよび脳神経センターを開設し,現在,病床数658床,診療科19科,高度先進医療実施機関の指定も受け,北九州地域の中核病院として機能しています.本院は,昭和43年7月に厚生省から「臨床研修病院」の指定を受け,昭和46年には「臨床研修指定病院」に変更されました.また,昭和63年4月に日本産科婦人科学会認定医卒後研修指導施設の指定を受けています.
 産婦人科は昭和23年に開設されており,古い歴史があります.現在のスタッフは,山下裕幸主任部長,秋田彰一部長,中村薫部長,道岡亨医長であり,医局人事は山口大学産婦人科教室より派遣されています.外来診療は月曜日から金曜日まで午前診と午後診を行い,予約制としています.特殊外来として,腫瘍外来,超音波外来,更年期外来を行っています.

誌上Debate・4

早期卵巣癌(Ⅰc〜Ⅱ期)化学療法後のSLOの必要性

著者: 牛嶋公生 ,   西村正人 ,   古本博孝

ページ範囲:P.1296 - P.1301

 是 上皮性卵巣悪性腫瘍(以下,卵巣癌)に対して行われるsecond-look operation(SLO)は術後化学療法の打ち切りの判定を目的として,自・他覚症状のまったくない患者に行われる再開腹手術である,従来すべての臨床進行期に広く施行されてきたが,陽性例に対する後治療が確立していないため予後の改善に寄与していないことや陰性後の再発が認められることから,本手術の有用性やその精度には議論がある1,2).本稿では,I期・II期卵巣癌におけるSLOの意義を,進行癌においてのそれと比較して論じてみたい.

CURRENT RESEARCH

卵巣機能と血流

著者: 宮崎豊彦 ,   柏木哲 ,   吉村𣳾典

ページ範囲:P.1303 - P.1309

 私は,「精子と活性酸素」というテーマを指導教授である飯塚理八先生(現 慶應義塾大学名誉教授)よりいただき,名取道也講師(現 国立大蔵病院臨床研究部長)のご指導のもと研究を行っておりました.1987年に飯塚先生のご推挙で排卵の研究の世界的権威である米国JohnsHopkins大学のWallach教授のもとへ留学し,卵巣の生理学についての勉強を開始いたしました.そこでは主として卵巣の灌流系を用いた実験を行い,排卵を中心として周期的にその形態を変える卵巣という神秘的な臓器に強く興味を持つこととなりました.帰国後,慶應義塾大学医学部医化学教室の末松 誠助教授らによるin situ digital microfluorographyを用いた肝臓微小循環の研究に接して,これを微小循環の特徴的変化を示す卵巣に応用できないかと考え,現在に至っております.
 第50回日本産科婦人科学会シンポジウムにおいて発表の機会が与えられ,吉村𣳾典教授のご指導でこれまでの研究の一部をまとめることができました.今後も多くの仲間達と一緒に楽しく研究ができればと考えております.

原著

卵巣境界悪性腫瘍Ⅰ期の臨床的病理組織学的特徴—卵巣癌Ⅰ期との違い

著者: 森川守 ,   山田俊 ,   津村宣彦 ,   山崎綾野 ,   武井弥生 ,   川口勲 ,   山口潤

ページ範囲:P.1311 - P.1315

 卵巣境界悪性腫瘍Ⅰ期について,その臨床的および病理組織学的特徴を検討した.当科で卵巣境界悪性腫瘍I期と診断された20例(LPM群)を対象とした.その際,当科で同期間に卵巣癌I期と診断された50例(ca群)と比較検討した.これら2群で,①年齢,②病理組織型,③腫瘍径,④開腹時細胞診,⑤開腹時腹水量,⑥腫瘍マーカー陽性率,⑦被膜破綻率,⑧予後,について比較したところ,群間に明らかな有意差はみられなかった.しかし,以下の特記すべき点を認めた.①年齢分布は,ca群では正規分布にほぼ従っているのに対し,LPM群では若年層と高齢層の2峰性を示した.②病理組織学的には,LPM群ではca群に比べて漿液性型,類内膜型が多く,ca群ではLPM群に比べて明細胞型が多く認められた,③腫瘍径,腫瘍マーカー,開腹時腹水量には,2群間で大きな差はなかった.④腫瘍被膜破綻例ならび開腹時腹水細胞診陽性例はLPM群では認められなかった,⑤LPM群ではca群より比較的予後がよかった.本研究では,「LPM群はca群の前癌病変ではなく,一線を画す腫瘍である可能性」が示唆された.また,腫瘍マーカーや開腹時所見からだけでは2群の鑑別はつかず,画像診断などでLPM群を疑う場合には事前に術中迅速病理診断や卵巣癌根治術の準備をすることが必要であると思われた.

臨床経験

直腸側腔は二つある

著者: 矢吹朗彦 ,   朝本明弘 ,   干場勉 ,   西本秀明 ,   西川有紀子

ページ範囲:P.1317 - P.1321

 広汎性子宮全摘出術には二つの直腸側腔が観察される.一つは,尿管と内腸骨動脈の間を侵入口として,mesoureterと骨盤側壁の間につくられる腔である.他は,広靱帯後葉と尿管の間を侵入口として,直腸子宮靱帯とmesoureterの間につくられる腔である.前者の展開は,基靱帯起始部の郭清に有利である.後者の展開は,基靱帯と仙骨/直腸子宮靱帯を完全に独立して切離することを可能にし,また尿管トンネルの入口部の試掘のルートとなる.二つの直腸側腔の融合は,より系統的な手術を確立する.

経皮電流刺激装置(TENS)による月経痛の治療効果

著者: 東尾聡子 ,   坪倉省吾 ,   後山尚久 ,   植木實

ページ範囲:P.1323 - P.1327

 経皮電流刺激装置(transcutaneous electricalnerve stimulation:TENS)とは,ゲートコントロール(入口制御)の伝達理論に基づいた非薬物的な疼痛軽減法であり,経皮的に微弱な電流を末梢神経に与えることにより痛みの信号を脊髄に進入する部位で遮断するものである.
 今回われわれは,12例の機能性(原発性)月経困難症患者における月経痛に対し3周期のTENS装着を行った.その結果,自覚症状としての月経痛は有意に緩和し,鎮痛剤の使用回数も有意に減少,また半数の症例では鎮痛剤の使用中止に至った.患者の印象も第1周期で半数がよくなったと回答し,第3周期ではその比率は70%に増加した.

症例

緊急搬送された卵巣妊娠破裂の1例

著者: 小原範之 ,   新谷潔 ,   寺本憲司 ,   塚本澄子 ,   鷹井敏子 ,   近藤さおり ,   三村恵子

ページ範囲:P.1329 - P.1331

 近年,尿中低単位hCGの測定,超音波断層法,MRIおよび腹腔鏡下手術の普及により子宮外妊娠は破裂前に診断し治療を行うことが可能になってきた.しかし,突然の下腹部痛,性器出血や腹腔内出血によるショック症状を呈して他科から搬送される症例もあり,本疾患が産婦人科救急疾患であることに今も変わりはない.今回,われわれは内科から搬送された左卵巣妊娠破裂の症例を経験した.来院時にすでに腹膜刺激症状を認め,hCGテストパックは陽性でダグラス窩穿刺にて血液を吸引したため子宮外妊娠の診断にて緊急手術を施行した.腫大した左卵巣に付着した凝血内に胎嚢を確認し,これを除去した部位はクレーター状に陥没し,この部から出血を認めた.卵巣妊娠破裂の診断にて左卵巣楔状切除術を施行したが,病理組織学的に黄体とともに絨毛組織を認め,卵胞外卵巣妊娠と診断した.卵巣妊娠では将来の妊孕性を考慮した治療が肝要であると考えられた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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