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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科53巻12号

1999年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 産褥の異常と対策 出血と感染

1.弛緩出血

著者: 小濱大嗣 ,   瓦林達比古

ページ範囲:P.1454 - P.1456

 後産期に出血をきたす疾患のうち,弛緩出血はわれわれ産科医にとって比較的遭遇する機会も多く,ほとんどは子宮収縮剤の投与で劇的な改善をみる.しかし,その治療が奏効しない場合は出血性ショックを呈し,DICを併発するとその出血量は計り知れない量に達し生命の危機を生じることもある,したがって,その対応・処置には迅速かつ適切な判断が必要である.

2.胎盤の遺残・胎盤ポリープ

著者: 椋棒正昌 ,   里見裕之

ページ範囲:P.1458 - P.1460

 胎盤の遺残や胎盤ポリープは,産後の子宮復古不全の原因となる1).また,産後の異常出血を起こす主な疾患である,胎盤の遺残は,子宮内に胎盤の一部が残留した状態のことであり2),残留が長期化すると次第に組織化され胎盤ポリープを形成すると考えられている3,4).その胎盤ポリープは,産後に大量出血を起こすことで知られており,注意を要する3,4).本稿では,胎盤の遺残と胎盤ポリープについて,診断と治療を中心に述べる.

3.軟産道損傷

著者: 今井史郎

ページ範囲:P.1461 - P.1463

 軟産道は子宮峡すなわち子宮下部と子宮頸・腟壁および外陰の一部組織からなる.これら軟産道の各部位に分娩時損傷が起こり得る.

4.産褥熱

著者: 秦利之 ,   妹尾大作

ページ範囲:P.1464 - P.1466

 近年,臨床の場において産褥熱(puerperalfever)という言葉を耳にする機会がなくなってきた.そもそも産褥熱とは分娩によって生じた子宮,腟,外陰の創傷の感染およびそれに続発する感染によって生じる熱性疾患の総称であり,狭義には産褥子宮内感染,広義には産褥骨盤内感染を指しているものと考えられる.産褥熱に対し産褥感染症(puerperal infection)という概念があるが,これは性器感染症あるいは骨盤内感染症のみならず産褥期に発生する乳房感染症,尿路感染症などの偶発的な感染性疾患を包括しており,したがって産褥熱とは産褥感染症からそのような偶発的疾患を除外したものといえる.
 かつて産褥熱の原因あるいは病態が不明であった頃,産褥熱は妊産婦死亡のきわめて重要な要因であった.しかし,今日,産褥熱の原因菌および感染ルートが臨床的に十分認識され,清潔,不潔の概念に基づいた消毒法の発達と徹底,抗菌作用の強い抗生剤の開発による感染の予防的投与を含めた化学療法の進歩,さらに施設分娩の普及などによって,産褥熱の発症はまれといっても過言ではなくなった.一方,その病態が明確に把握されるようになったことにより,臨床上もおのおのの病型(原因疾患)で診断し病名を記録するのが一般的となり,産褥熱という用語とはますます疎遠になりつつある.

5.難治性感染症

著者: 徳永昭輝

ページ範囲:P.1468 - P.1472

 抗菌剤の登場によって産褥期における細菌感染症の多くはコントロールできる状況にある.しかし一方では,抗菌剤の繁用によるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など多剤耐性菌による難治性感染症例や忘れかけていたA群レンサ球菌(産褥熱,猩紅熱,リウマチ熱の起因菌として知られている)による重症感染症例が報告されるなど,新たな問題が提起されている.

乳腺の異常

1.乳汁分泌の異常

著者: 松崎利也 ,   苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1473 - P.1475

 母乳栄養は人工栄養に比べて栄養学的に優れ,児の疾患に対する抵抗力を高め,かつ母児の絆の形成,児の精神的発育にも有用である.一方,女性の社会進出やライフスタイルの変化などに伴い,母乳哺育の確立を妨げる要因が増加しており,産褥1か月の時点で母乳のみで哺育している母親は半数に満たない.本稿では乳汁分泌の異常への対応について述べる.

2.乳腺炎

著者: 大谷徹郎 ,   丸尾猛

ページ範囲:P.1476 - P.1477

乳頭炎,乳輪炎
 産褥期において乳頭,乳輪は新生児の強い吸啜にさらされる.この吸啜によって乳頭上皮の剥脱,亀裂,びらんなどに続発して起こる表在性の炎症が乳頭炎,乳輪炎である.乳頭炎,乳輪炎はそれ自体では大きな問題とはならないが,この部位からの細菌の侵入は乳腺炎の原因となるので予防が重要である.そのため妊娠中から乳頭部のマッサージを行い,扁平あるいは陥没乳頭の改善をするとよい.
 治療には抗生物質軟膏の塗布を行い,炎症が強い場合には抗生物質の全身投与も考慮する.

授乳と薬剤

授乳と薬剤

著者: 佐藤孝道

ページ範囲:P.1478 - P.1480

薬剤処方の考え方
 薬剤を処方するに当たって,われわれはさまざまな要因を考慮する必要がある.もちろん,薬剤投与の必要性,効果,副作用がある.母乳哺育そのものに関しても同様である.本来こうした要因を個別化された症例,薬剤について比較検討し,evidenceに基づいて,薬剤を投与するか否か,投与するとすればどの薬剤を選択するかを決めることが望ましい.
 一方,無視できない文書として添付文書がある.添付文書について,以下のような判決がある.「医薬品の添付文書の記載事項は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者または輸入販売業者が,投与を受ける患者の安全性を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものである.」1)「医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が推定される.」1)「医師は一般に,医薬品が公認されたものであれば,それ自体が安全なものかどうか,能書記載の用法,用量等は適切なものかどうかまで確認する義務はない.」2)

精神疾患

1.マタニティブルーズ

著者: 千石一雄

ページ範囲:P.1481 - P.1483

 産褥期は母体にとって環境が激変する時期であり,精神的にも身体的にも種々のストレス,負担が重なる不安定な時期である.したがって,従来より産褥期は精神障害の好発時期として疫学調査からも明らかにされている.産後の精神障害は研究者により分類はまちまちであるが,マタニティブルーズ,産後うつ病,産後精神病に分けて取り扱われている現状である.
 1973年にPitt1)により名づけられたマタニティブルーズ(マタニティブルー)は通常一過性で,短期間で改善する軽度の情動障害であるが,より重篤な産後うつ病,精神障害へと移行する例もみられ,また,その前兆となりうることからも注目される.しかし,現在においてもその原因,病態生理は十分明らかにされているとはいえない.本稿ではマタニティブルーズの診断,成因とその取り扱いに関し概説する.

2.産褥期精神病

著者: 木下利彦 ,   織田裕行

ページ範囲:P.1484 - P.1486

 妊娠期および産褥期は,他の時期に比べて精神障害の発生は5倍以上多いといわれている.とくに産褥期に多い.妊娠期は再発例が多い.産褥期の定義はいろいろであるが,一般に出産後2週間から6か月の間をいう.ただし1年まで拡大する場合もある.産褥期は不眠,疲労,出血,内分泌変化などの身体的要因によって影響を受けることと,出産というストレスに起因する心因反応的要素が加わり,うつ病が出現しやすいが,出産早期は非定型病像を伴うことが多い.非定型病像とは精神医学的にも定義が難しいが,簡単にいうと意識レベルが低下し,そこに幻覚,妄想,滅裂,興奮などの精神症状が加わる状態をいう.
 出産の心因反応的意味合いとは1)

3.「関係性障害」という視点から

著者: 橋本洋子

ページ範囲:P.1488 - P.1491

関係性障害とは
 赤ちゃんが生まれ育つとき,親は親として生まれ育ち,同時に親と子の関係性も発達していく.親と子の関係性が育まれていく過程は,誰に教えられることもない互いに引き出し合う自然のプロセスである1).この関係性の発達過程が滞ったり歪んだり,親と子の相互作用に悪循環が生じるときなどに,関係性障害をきたすことがある2)
 早期の関係性障害は,臨床的観察によって滑らかな相互作用が行われていない状態と把握できることが多い.子どもの行動に対する親の読み取りが否定的なものに傾いて容易に修復しなかったり,親の主観的な訴えとして「子どもを可愛いと思えない」と述べられたりする場合もある.あるいは子どもが抱かれてもなだまらないとか,目が合わないなどの行動特徴を示したり,摂食や排泄の問題としてあらわれることもある.いずれの場合も,親が原因か子どもが原因かなどと考えるのではなく,関係性の障害としてとらえ,予防や治療を行うことが有用である.

主要合併症

1.高血圧,蛋白尿持続例

著者: 杉本充弘

ページ範囲:P.1492 - P.1496

 「妊娠中毒症後遺症」という用語は,日本産科婦人科学会の妊娠中毒症分類改定(1985年)以後は使用しないことになっている.しかし,用語として使用されなくても,分娩後も妊娠中毒症の症状がみられる症例があることはよく経験される.分娩後も高血圧,蛋白尿が持続する症例をどのように管理するかは次回妊娠への影響のみならず生涯にわたる健康管理の問題である.

2.血栓・塞栓

著者: 竹田省

ページ範囲:P.1498 - P.1500

 近年,わが国でも欧米人同様,心筋梗塞,肺塞栓症など血栓症による死亡が増加している.下肢静脈血栓症やその重篤な合併症である肺塞栓症は,術後合併症として婦人科領域でも問題となっている.また産科領域においても産科的肺塞栓症は,出血死に次いで妊産婦死亡原因の第2位になっている.血栓性肺塞栓症の多くは帝王切開術後で,最近の帝切率の増加傾向を考え合わせると今後の動向が危惧される1,2)
 本稿では産褥合併症としての下肢深部静脈血栓症,肺塞栓症とその対策について述べる.

3.子宮頸部初期病変(CIN)

著者: 植木健

ページ範囲:P.1501 - P.1503

 近年,初交年齢の若年化や高齢出産の増加にともない,20〜30歳台における子宮頸部初期病変合併妊娠の発見頻度は増加しつつある.各施設での妊婦の細胞診の普及により,妊娠を契機として発見されるケースが増えてきた.主題である産褥期に合併する子宮頸部初期病変は,そのほとんどが妊娠合併症として発見された症例であり,進行子宮頸部癌以外に産褥期に初めて発見される例はまれである.
 本稿では,当科で妊娠時に子宮頸部初期病変を検出され,一部は治療されるものの,大部分が経過観察された症例における妊娠・分娩経過による病変の変化や,産褥期におけるその再診断とそれに基づく治療を当科の症例を中心に考察したい.

4.自己免疫疾患

著者: 渡辺博 ,   石川和明 ,   稲葉憲之

ページ範囲:P.1504 - P.1506

 近年,全身性エリテマトーデス(SLE)に代表される自己免疫疾患の女性が,適切な管理のもとで妊娠し生児を得ることが珍しくなくなった.その一方で,抗リン脂質抗体症候群というSLE合併いかんにかかわらず習慣流産・死産の頻度が高い疾患群が問題となっている.一般に自己免疫疾患では妊娠中はもとより,産褥期にも再燃や特有の合併症を生じる可能性がある.本稿では,SLEと慢性関節リウマチ,抗リン脂質抗体症候群における産褥期の異常とその対策について述べる.

5.内分泌疾患の管理

著者: 永田光英 ,   豊田長康

ページ範囲:P.1508 - P.1511

妊娠糖尿病,糖尿病
 1.分娩直後からの血糖管理 インスリンの需要量は妊娠末期に増加するが,分娩直後より急速に減少するため,分娩後,インスリン投与量を約1/2に減量する.妊娠糖尿病(GDM)やII型糖尿病(従来のインスリン非依存糖尿病(NIDDM))の比較的軽い耐糖能異常では,インスリンがまったく不要となることも多い.
 授乳が開始されると血糖が低下しやすく,注意が必要である.授乳期のエネルギー付加量(厚生省:+700kcal,WHO:+500kcal)を加え,血糖値をみながらインスリン量を増減する.

その他の異常

1.子宮下垂・子宮脱

著者: 臼井直行 ,   三橋直樹

ページ範囲:P.1512 - P.1514

 子宮脱の発生機転は,分娩や重労働をはじめさまざまな因子が重なり合い,骨盤底筋群および子宮を支える諸靱帯,とくに基靱帯の裂傷や過伸展で起こるとされている.分娩前後にみられる子宮下垂や脱はしばしば経験されるものであり,高度のものでは妊娠中に頸管浮腫をきたし,出血や破水を伴い対処に苦慮することがあるが,多くは軽度のもので産褥期に自然に改善されることが多いため,比較的軽視されやすい傾向がある.しかし,この問題は尿失禁や性生活に密接に関与しており,もっと重視すべきものである.

2.排尿障害

著者: 中田真木

ページ範囲:P.1516 - P.1518

産褥期の排尿愁訴
 経腟分娩は骨盤底を支持する構造および下部尿路を支配する神経への直接的な侵襲であるために,出産後にはさまざまな排尿障害が起こることがある.
 産褥早期の代表的な排尿愁訴の種類とおよその発生率について,図1にまとめて示す1-3)

3.腰部・骨盤の異常

著者: 落合直之

ページ範囲:P.1519 - P.1521

 妊娠・産褥期で腰痛を愁訴とする女性は多い.その罹病率は調査時期が妊娠中か産後かで異なり,25〜90%に及ぶが,おおむね妊婦の50%が何らかの腰痛を経験している1).その機序はいまだ解明されていないが,骨盤輪の弛緩も一因とされる.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・6

What is your diagnosis?

著者: 原田美貴 ,   向井清

ページ範囲:P.1451 - P.1453

症例1:62歳,女性
 自覚症状はないものの,約1年前から小陰唇に4×7mm大の乳頭状病変が認められ,今回病変部が切除された.
 1.本症例の組織学的特徴は何か.

ARTシリーズ・4

ARTを行ったカップルの不妊症の原因は?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1472 - P.1472

 図は1996年に米国でARTを行ったカップルの不妊症の原因を示す.複数の原因がある場合には主要なものを一つ挙げている.診断の定義と分類は施設によりいくらかの相違があり,またどのように診断がなされたかという診断法にも相違はある.
 「その他」には免疫に問題のある場合,またかつて妊婦に対して使用されたエストロゲン製剤DESによるものなどがここに含まれる.

ARTシリーズ・5

ARTの成功率はどのように測定するか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1475 - P.1475

 ARTの成功率を示すその尺度にはいくつかがある.図は4種の異なる方法で測定したARTの成功率を示す.
 Preg/cycleまたはpregnancy per cycle rate:これは1回のART周期のうち妊娠が起きた割合を示す。妊娠が確認された後も流産,中絶,死産などが起こり得るので,次項の生存出産児の割合より高い.

ARTシリーズ・6

ART周期の何パーセントが妊娠として成立するか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1511 - P.1511

 どのようなARTの方法を使用するかによって生存出産率(live birth rate)は異なる.IVFの成功率はGIFTやZIFTよりやや低い.しかし,その相違は患者の個人的あるいは医学的要因を考慮に入れたものではない.これらの要因には年齢,診断名,不妊期間,過去に行われたARTの回数などが含まれる.多くの女性はGIFTやZIFTのよい対象とはならない.また,GIFTやZIFTは腹腔鏡による侵襲を伴う手技であることも考慮すべき点である.

OBSTETRIC NEWS

胎児体重推定と肩甲難産

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1522 - P.1523

 産科医が経腔分娩の際に最も恐れているものの一つに肩甲難産がある.分娩前に肩甲難産を予知し回避する有効な方法はないが,分娩前の超音波診断による胎児体重推定(EFW)で肩甲難産を回避しようという試みが日常診療でしばしば採用される.「EFWが4,000 g以上の場合に帝王切開(帝切)を行うべきか?」に関し,本誌でも文献的考察に基づいての私見を紹介した(臨婦産50巻12号,1996年;51巻1〜3号,1997年).
 しかし,超音波診断によるEFWは不正確であり.超音波診断のデータのみでの臨床的決断は不必要な帝切につながる可能性がある.

頸管短縮と頸管縫縮術

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1530 - P.1531

 早産の予知または早産のハイリスク妊婦の診断は数多くの信頼できる研究結果により,有用性があることが証明されている.しかし,早産の予知が可能でも有効な予防手段は限られている.スクリーニングの対象に制限があるが,細菌性腟症の診断と治療は早産率を低下させることが証明されている(ACOG Committee Opinion.No.198,February 1998).しかし,胎児性フィプロネクチン測定(ACOG Committee Opinion#187, Sep—tember 1997)と経腟超音波による頸管長測定(NEJM 334:567,1996)による早産予知の有用性を証明する証拠が数多くあるものの,その後の有効な治療方法がないため,大幅な早産の減少にはつながっていない,考えられる介入方法としては,頸管短縮例に予防的頸管縫縮術を行うことである(表1)(Iams JD,私信,1997年11月).しかし,主に欧州を中心に12か国で行われた大規模な共同研究で,頸管縫縮術は3回以上の早産歴がある例にのみ有効であるという研究(BJOG100:516,1993)にみられるように,頸管縫縮術自体の有用性が明らかとはいえない.また,頸管長測定の落とし穴に留意する必要がある(表2,3).

産婦人科キーワード・43

環境ホルモン

著者: 東敬次郎

ページ範囲:P.1526 - P.1526

語義
 環境ホルモンは正確には外因性内分泌攪乱物質(environmental endocrine disruptors)と称せられる.1998年に環境庁は67種類の化学物質を環境ホルモンとして発表した1).これらの化学物質は女性ホルモン,男性ホルモン,甲状腺ホルモンの恒常性を攪乱するとされ,最近とくに注目されている.

産婦人科キーワード・44

単純ヘルペスウイルス

著者: 鎌田正晴 ,   前川正彦 ,   青野敏博

ページ範囲:P.1527 - P.1527

語源
 疱疹(ヘルペス,herpes)は,ギリシア語で“這う”を意味する“herpetos”に由来する.帯状庖疹(herpes zoster)など皮膚を這うように水庖が広がる様子を表しており,“匐行疹”という名もある.戦争では,敵に見つからないように銃を手にして腹這いで前進しなければならないが,それを葡匐(ほふく)前進という.

病院めぐり

上都賀総合病院

著者: 和田智明

ページ範囲:P.1528 - P.1528

 当院の所在する鹿沼市は,栃木県の中央に位置し,人口9万3千人,総面積310平方キロメートルあまりの地方都市です.近世より日光例幣使街道の宿場町として発達し,交通の便により諸物質の集散地でした.現在では,関東広域経済圏に属し,産業の発達をみています.
 主な産業としては,農業,林業,工業が挙げられます,農業においては,耕作面積では水田が多いものの,青果物,畜産物の生産高が伸長しており,京浜地方への供給地となっています,また,「サツキ」のまちとしても有名であり,特産物として生産,販売に力を入れています.

庄原赤十字病院

著者: 村尾文規

ページ範囲:P.1529 - P.1529

 庄原市は,広島県の北部に位置し,島根,鳥取,岡山3県の県境に近い山間の町で,近郷,近在を含めた医療圏の人口は5万人にすぎない.しかし,当院の1日の平均外来患者数は800名を超え,1か月の平均手術件数も200件を超えていることからも,市民の期待のほどが窺え,中核病院としての機能を十分に果たしているといえる.
 さて,当院のルーツは,大正末期に設立された私立庄原病院にまで遡ることになる.紆余曲折を経て,日本赤十字社広島県支部の求めに応じて委譲され,正式に庄原赤十字病院と呼称されることになる.原爆の被災者を受け入れたとの記録も残されており,往時を語るうえで,忘れてはならない歴史的意義を有する病院といえる.この山間の小さな町に,病院を設立した先駆者達のご苦労と気概には,ただ敬服するのみである.

誌上Debate・6

双胎妊娠におけるシロッカー手術施行の可否

著者: 関博之 ,   竹田省 ,   木下勝之 ,   池ノ上克 ,   池田智明

ページ範囲:P.1534 - P.1539

 可 双胎妊娠における管理の基本は早産と胎児発育遅延の防止である.胎児発育遅延の原因は不明で,対策が確立されていない現在,「いかに早産未熟児の出生を防ぐか」ということが双胎管理の最重要課題である.双胎妊娠の早産防止に対するシロッカー手術による頸管縫縮術の有効性に関する報告によれば,満期産達成率でみる限りその有効性は証明されていない1-3).したがって双胎妊娠の早産防止対策は入院・安静およびtocolysisが基本となっていた.
 しかし実際には,単胎妊娠の場合と同様の早産防止対策では,妊娠22〜30週で早産になる症例を完全には防ぐことはできない.したがって,児の予後が安全となる妊娠32週以降まで在胎週数を延長させるためには,その必要がない症例が含まれるとはいえ,妊娠初期に頸管縫縮術を試みることは,一つの対策と思われる.この背景として,①双胎妊娠の場合は,子宮容積の過度な増大による相対的な頸管無力症が発症しやすいと考えられる4).②多くの報告は妊娠37週未満の早産例を比較検討しているが,新生児医療の進んだ現在では双胎児で予後が問題となるのは妊娠32週未満の早産児である5).したがって,予防的シロッカー手術の有効性を検討するためには,妊娠37週未満ではなく妊娠32週未満の早産率で評価することは有意義と思われる.

CURRENT RESEARCH

組織学的黄体退行Structural luteolysisについて

著者: 遠藤俊明 ,   工藤隆一

ページ範囲:P.1541 - P.1550

 筆者らの教室における黄体の研究は,約30年前の電子顕微鏡を用いた研究に始まる.筆者自身の黄体の研究は15年くらい前からである.1990年にエール大学のバーマン教授の元に留学してからは,過酸化水素と黄体機能,さらにfunctional luteolysisからstructural luteolysis(SL)への移行のメカニズムの研究が主になった,また現在,黄体のほか,黄体機能異常の一つの亜型ともいうべきOHSSの研究をしている.
 SLの段階では劇的な黄体組織の縮小が認められるが,この言葉をラットで定義したのがMalvenである.Society for the Studv ofReproductionでご本人にお会いしたとき.彼はこのprolactinによるSLの発見を“by acci—dent”と表現した.というのは下垂体を摘除したラットに,ラットではluteotropic factorであるプロラクチンを投与する予定でいたときに,ラットの到着が遅れたために下垂体摘除後24時間以上経過してプロラクチンを投与した,そのためプロラクチンは黄体を縮小させるというまったく予想外の結果をもたらした.つまりこれにより,プロラクチンのサージが黄体を縮小させていることが後に判明した.このようなby accidentに恵まれるのを夢見て研究を続けている.

症例

Wunderlich症候群(子宮の重複奇形に片側の傍頸部嚢腫と同側の腎無形成を合併した症例)の4例

著者: 堀越裕史 ,   野坂啓介 ,   木口一成 ,   佐賀正彦 ,   藤脇伸一郎 ,   斉藤寿一郎 ,   栗林靖 ,   石塚文平 ,   雨宮章 ,   近藤俊彦 ,   大野祐子

ページ範囲:P.1551 - P.1556

 子宮奇形,とくに非対称性子宮奇形に泌尿器系の先天異常が合併することはよく知られているが,われわれは子宮の重複奇形の一側が盲端となり,留血腫を形成し,さらに同側の腎無形成を合併したきわめて稀な4例のWunderlich症候群を経験したので報告する.
 症例は27歳,月経痛・膿性帯下・発熱の精査のため当院へ紹介された.超音波断層法・HSG・MR検査にて,子宮の重複奇形の一側の留血腫を疑った.また,DIP検査では同側の腎無形成が確認された.腹腔鏡・子宮鏡を施行し,完全双角子宮(双頸双角子宮)に一側の腟閉鎖による傍頸部嚢腫(血腫)を伴っていたため,嚢腫部を開窓し,嚢腫壁の組織学的検査により,Wunderlich症候群と診断した.

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「臨床婦人科産科」第53巻 総目次

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基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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