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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科53巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 GnRH療法の新展開 GnRHの基礎

1.月経周期におけるGnRH分泌動態

著者: 宮﨑康二

ページ範囲:P.138 - P.142

 GnRH分泌動態が最近徐々に解明されてきたが,これらの研究は主としてサル,ヒツジ,ラットなどで行われている.サルはヒトと同じく28日周期で自然排卵し月経を示すので,その結果はヒトに応用されやすい.本稿ではサルの研究を中心に月経周期におけるGnRH分泌動態および調節機構について概説する.

2.GnRH受容体—構造と機能

著者: 今井篤志 ,   高木敦志 ,   玉舎輝彦

ページ範囲:P.143 - P.147

 GnRH受容体が下垂体前葉のみならず,末梢組織や腫瘍に見いだされている1).近年,下垂体gonadotroph細胞を含めた分泌細胞と腫瘍などの非分泌細胞では,GnRH受容体のシグナリングが異なることが明らかになりつつある.
 本稿では,GnRH受容体の構造と情報変換機構を中心に紹介し,GnRHの作用を再考する場を提供したい.

3.GnRHアゴニスト—種類・特徴・使い分け

著者: 植村次雄 ,   大庭信彰

ページ範囲:P.148 - P.151

 GnRHは10個のアミノ酸からなる視床下部ホルモンであり,下垂体前葉のゴナドトロピン分泌細胞に働き,LH,FSHを分泌させる.GnRHは1,2位のアミノ酸によりGnRHレセプターと結合する.このホルモン—レセプター複合体はペプチダーゼにより分解されるが,結合部位より離れた6位のアミノ酸,グリシンを置換して分解酵素の作用を受けにくくし,安定化したものがGnRHアゴニストである.この位置のアミノ酸を他のL型アミノ酸に置換しても活性値は上昇しないが,D型アミノ酸に置換すると活性値が上昇する.さらに10位のアミノ酸であるグリシンアミドをアザグリシンやエチルアミドに置換するなどの誘導体化を行うと受容体との結合能力が上昇する.

4.GnRH antagonist—今後の展望

著者: 矢野哲 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.152 - P.155

 1971年,Schally AVらによりGnRHの構造が決定されて以来,多数のGnRH analogが開発されてきた.GnRH agonistは,わが国においても1988年に臨床使用が可能となった.一方,GnRHantagonistは,ヒスタミン遊離作用を有し浮腫やアナフィラキシー反応を起こすため臨床応用が遅れていたが,現在は副作用の少ない第三世代が開発され,基礎研究の積み重ねによりその特長と有用性が明らかになってきた.本稿では,GnRHantagonist療法の新展開として,現在GnRHagonistを用いて行われている体外受精プログラムや婦人科腫瘍への応用について概説する.

GnRHパルス治療—適応基準と問題点

1.思春期遅発症

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.156 - P.158

思春期発現の機構
 思春期(puberty)初期になると睡眠と同期してpulsatileなゴナドトロピンの分泌が増加し,中期では昼と夜の濃度差が大きくなり,後期では昼のレベルも上昇する.ゴナドトロピンの増加と並行して性ステロイド(男児ではテストステロン,女児ではエストロゲン)が増加,性腺や外性器も発育し,二次性徴が出現する.このような下垂体からのゴナドトロピン分泌の増加は,視床下部からのGnRHのpulsatileな分泌による.思春期にこのGnRHのpulsatileな分泌増加が発来する機序は現在不明である.脂肪組織より分泌される満腹因子レプチンは,摂食抑制作用と交感神経賦活作用に加えて,思春期のゴナドトロピン分泌増加にも関与する.

2.視床下部性無月経

著者: 正岡薫 ,   稲葉憲之

ページ範囲:P.160 - P.165

 Knobilらのグループによって視床下部GnRHのパルス状分泌のもつ生殖生理学的意義が解明1)されて以来,hypogonadotropic hypogonadismに対しGnRHをパルス状に投与して排卵を誘発する試みが世界各国で行われてきた2-6).この方法はとくに内因性GnRHが欠如ないし不足している視床下部性無月経,無排卵症に最適な方法であることは言うまでもない.本法がはじめて臨床応用されてからすでに18年になるが,その間に集積された多施設における臨床データをもとに,排卵誘発法として確立されるに至った経緯を振り返りながら,その適応基準と問題点について述べてみたい.

3.FSH-GnRHパルス療法

著者: 青野敏博 ,   苛原稔 ,   松崎利也 ,   桑原章

ページ範囲:P.166 - P.168

 排卵障害による不妊症に対して,各種の排卵誘発剤が用いられる.クロミフェンが無効の第1度無月経や中枢性第2度無月経に対しては,閉経後婦人尿性ゴナドトロピン(hMG)や卵胞刺激ホルモン(FSH)が用いられる.これらのゴナドトロピン製剤によって排卵を誘発した際には17.2%とほぼ6人に1人が多胎妊娠で,そのうち3胎以上の多胎は17.1%を占めていた1)
 ゴナドトロピンの投与スケジュールを工夫し,超音波断層法による卵胞発育のモニターを利用しても,これまで多胎妊娠を有効に抑制する方法は見いだされていない2).われわれはFSHとゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)のパルス状投与を組み合わせることによって,単一卵胞発育による排卵誘発法を創案し,多胎妊娠の予防に有効なことを明らかにし得たので,その概要を述べる.

GnRHアゴニストによる治療—適応基準と問題点

1.思春期早発症

著者: 朝倉由美 ,   立花克彦 ,   諏訪珹三

ページ範囲:P.170 - P.173

 中枢性思春期早発症(以下,CPPという)は,何らかの原因で視床下部—下垂体—性腺系が早期に成熟し,二次性徴が通常の年齢に比べて異常に早期に出現する小児特有の疾患である.現在ではGnRHアゴニスト(以下,GnRHaという)によるゴナドトロピン分泌抑制が本症の内分泌的動態を矯正するための治療の第一選択となっている.しかし,乳幼児期の発症例では10年をこえる投与が必要な場合もあり,その効果や長期の安全性については,今後さらに検討を続ける必要がある.

2.早発卵巣不全

著者: 高倉賢二

ページ範囲:P.174 - P.177

 早発卵巣不全(premature ovarian failure:POF)は,一般的には40歳未満で高ゴナドトロピン(Gn)・低エストロゲン血性の続発無月経をきたす症候群であり1),最も重篤な排卵障害による卵巣性無月経といえる.その病因は染色体異常などの細胞遺伝学的要因,放射線・薬剤などの環境要因,代謝異常,免疫異常など多岐にわたっているものと思われるが2),未解明な点が多い.理論的には,①出生時より卵胞数の少ないもの,②卵胞数の減少の急速なもの,③卵胞数は正常のものに分けられ,①の原因として染色体異常などの細胞遺伝学的要因,②の原因として放射線・薬剤などの環境要因,代謝異常,免疫異常など,③の原因としてGnレセプター異常,Gnの構造異常,Gn標的細胞の異常などが想定されよう3).実地臨床上は,①特発性POF(既往に卵巣に対する手術,放射線治療,抗癌化学療法を受けていないもの),②手術・化学療法関連POF(両側卵巣に摘出以外の手術操作あるいは抗癌化学療法を受けたもの),③手術・放射線POF(手術や放射線により去勢されたもの)と分類することが可能である4)

3.多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

著者: 水沼英樹

ページ範囲:P.178 - P.179

 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は嚢胞性卵巣を有し,内分泌学的には高LH値症と高アンドロゲン値症を特徴とする排卵障害であり,臨床的には高い排卵率であるにもかかわらず妊娠率が低く,早発黄体化や卵巣過剰刺激症候群(OHSS),多胎などの合併症を起こしやすい特徴を持つ.したがって,PCOSの排卵誘発はいかにして妊娠率を上げ,合併症の発生を防ぐかという点に集約される.
 従来,PCOSの排卵誘発にはクロミフェンを第一次選択薬として用い,これで排卵や妊娠がみられないときにはゴナドトロピン療法が用いられてきた.ゴナドトロピン療法は,薬剤中のLH含有量の違いによるhMG療法とpure FSH療法に分けられ,また投与方法の違いによってfixed dose法,step down法,low dose step-up法などに分類される.最近の臨床報告によれば,薬剤や投与法を選択することで副作用の軽減化をはかることが可能になっている1).しかしながらOHSSの発生は依然として重要な副作用の一つである.

4.卵巣過排卵刺激法(COH)

著者: 菅沼信彦 ,   近藤育代 ,   安藤智子

ページ範囲:P.180 - P.182

 GnRHアゴニスト(GnRHa)は,アンタゴニストと異なり,下垂体に対して二つの作用を持つ.すなわち,投与初期に下垂体を刺激しゴナドトロピンを放出させる作用であるflare-up(up-regu—lation)と,その後に現れる下垂体を抑制しゴナドトロピンの放出を妨げる作用であるdesensitiza—tion(down-regulation)である.子宮内膜症や子宮筋腫に対する薬効としては,このdesensitiza—tionによる内因性ゴナドトロピン抑制作用を利用している.
 現在,体外受精—胚移植(IVF-ET)における卵巣過排卵刺激(COH)時のhMG/FSH投与とともに,GnRHaを併用する方法は常識となっているが,通常のCOHの際には第一選択ではない.どのような場合にGnRHaを併用するのが好ましいのか,GnRHaの持つ特性からその適応と問題点を概説する.

5.子宮筋腫

著者: 福野直孝 ,   小辻文和

ページ範囲:P.184 - P.187

 子宮筋腫は最も頻度の高い良性の婦人科腫瘍であり,過多月経,月経困難症,不妊などの原因となる.Filicoriらにより,子宮筋腫に対してGnRHアゴニスト(GnRHa)がはじめて用いられたのは1983年である.子宮筋腫はエストロゲン依存性の腫瘍であり,GnRHaにより下垂体のGnRH受容体がdown regulationを受け卵巣機能が抑制され治療効果が得られる.GnRHa療法は,筋腫の縮小,貧血,月経困難症の軽減などへの有用性は高いが,効果が一時的である,あるいは効果を認めない症例も存在する.したがって,子宮筋腫の治療法にGnRHa療法を選択する場合には,その特性を十分に理解し,目的を明確にして行うことが肝要である.以下,GnRHa療法の適応と問題点を概説する.

6.子宮内膜症

著者: 丸尾猛 ,   山辺晋吾

ページ範囲:P.188 - P.192

 子宮内膜症とは子宮腔内面にある子宮内膜が骨盤腔内などに異所性に存在する状態を言う.それぞれの病巣部で月経周期が繰り返されるため,腹腔内の炎症の原因となり,患者は月経困難,下腹痛などの症状を訴える.子宮内膜症は散在性の病変であるため,外科的にすべての病変を除去することが容易ではなく,治療後も再発を繰り返す.また,子宮筋腫などと同様にエストロゲン依存性があり,両側卵巣切除後や閉経後にみられることはまれである.
 一方,GnRHアゴニストは体内半減期が短いGnRHのアミノ酸のうち1個または2個を他のアミノ酸に置き換えることにより,長く体内にとどまるように工夫された薬剤である.GnRH療法では,GnRHアゴニストの血中濃度を一定以上のレベルに保つことにより下垂体のGnRHレセプターはダウンレギュレーションを起こし,内因性のGnRHやGnRHアゴニストに対して反応しなくなる.その結果として下垂体からのゴナドトロピン分泌が抑制され,卵巣におけるエストロゲン産生は抑制される.

7.子宮内膜増殖症

著者: 安田勝彦 ,   松岡進 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.194 - P.195

 GnRHアナログ(アゴニスト)療法は,子宮筋腫,子宮内膜症,中枢性思春期早発症,前立腺癌などに保険適用され臨床効果を上げている.しかし本薬剤は性ステロイドホルモン依存性の各種疾患やホルモン異常に起因する諸症状にも応用できるはずで,以前より月経前緊張症,機能性子宮出血,乳腺症,多嚢胞性卵巣症候群患者の卵巣刺激の補助などとともに,子宮内膜増殖症にも有効であることが示唆されていた(表1).本稿では,現在は保険適用外ではあるが,その有効性が注目されている子宮内膜増殖症へのGnRHアナログ療法について概説する.

8.卵巣癌

著者: 藤田征巳 ,   澤田益臣 ,   村田雄二

ページ範囲:P.196 - P.198

 ゴナドトロピン,エストロゲンは卵巣癌の増殖に促進的に働く.GnRHアゴニストは,下垂体脱感作によりゴナドトロピン分泌抑制と卵巣エストロゲン低下をもたらすことおよびその直接作用により,卵巣癌治療に効果が期待できる.卵巣癌のGnRHアゴニストによる治療の報告がいくつかなされているが,その評価については一定していない.しかし,化学療法無効例の一部で副作用が少ないという利点より,QOLの改善が期待でき,治療の適応となりうる.

9.乳癌

著者: 寺田督 ,   打出喜義

ページ範囲:P.200 - P.201

 乳癌はホルモン依存性であり,乳癌に対する内分泌療法として外科的内分泌療法(卵巣摘除,副腎摘除,下垂体摘除)が施行されたが,近年,手術侵襲がなく,副作用の少ない内科的内分泌療法(薬物療法)へ移行した.しかも,患者の手術後のquality of lifeを考慮に入れた縮小手術(乳房温存を含め)に伴い,術後補助療法としての全身療法がますます重要性を増した.さらに,進行・再発閉経前乳癌患者に全身療法が第一選択されており,内科的内分泌療法の必要性が高まった.この内分泌療法のなかで,GnRHアゴニストは閉経前乳癌患者に対して,卵巣摘除による治療効果に匹敵する効果(表1)が報告されている1).本稿では,閉経前乳癌患者に対するGnRHアゴニストの適応基準と問題点について考察したい.

GnRHアゴニスト療法のコンプライアンス

1.副作用・随伴症状—何が問題か

著者: 中村幸雄 ,   安藤索

ページ範囲:P.202 - P.204

 GnRHは10個のアミノ酸がペプチド結合したデカペプチドで,そのなかの一部のアミノ酸を置換することによりGnRHアナログをつくることができる.
 現在,わが国で臨床使用可能なGnRHアゴニストは,6位のアミノ酸(Gly6)をD型アミノ酸に置換,さらに10位のアミノ酸(Gly10)に修飾を加えるか取り外した(des-Gly10)ものがある.これらアミノ酸の置換により血中分解酵素(aminope—ptidase)への抵抗性増大,アルブミン結合性増加による血中からの排泄遅延,またGnRH受容体への結合能が著しく増加する.GnRHそのものの血中半減期は約2分であるが,このようなGnRHアナログのなかでもブセレリンは約120分と大幅に延長し,生物学的活性も天然型に比し数100倍となっている.

GnRHアナログ療法のコンプライアンス

2.Add-back療法—どのような場合が適応か

著者: 冠野博 ,   山本宝

ページ範囲:P.206 - P.208

 GnRHアナログは,多くの良性婦人科疾患,例えば子宮内膜症や子宮筋腫,月経困難症,月経前緊張症,多毛症などへの適応が考えられている.これらの疾患に対し4〜6か月の投薬が行われ,病状は著明に改善する.ところが6か月以上の長期にわたるGnRHアナログの投薬は,低エストロゲン状態を起こし,全身へ悪影響をもたらすために難しいとされている.そこでGnRHアナログにより病状が改善したところでその投薬を中止するが,その後,投薬によって改善した婦人科疾患は,投薬中止によりその多くは再燃してくる.そのためこれらの良性疾患を非観血的に長期にわたって管理するためには,GnRHアナログの中止後,エストロゲン—プロゲストーゲン混合剤やダナゾールなどを投与したり,あるいは鎮痛剤や造血剤など,種々の対症療法薬の使用を視野に入れていかなければならない.
 また,合併症(白血病や再生不良性貧血に罹患し,手術治療を行いにくい子宮内膜症や子宮筋腫症例)がある場合には,6か月以上にわたる長期のGnRHアナログの投薬が望ましい.また6か月以内の使用にかぎっても,GnRHアナログの使用中は,hot flushなどの血管運動神経症状を中心とした更年期様症状が高頻度に出現し,患者がそれに耐えられず,コンプライアンスが悪いという問題があった.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・26

子宮筋腫核出術:Part Ⅱ—LAMの実際,筋腫の回収,TCR

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏 ,   植田敏弘

ページ範囲:P.133 - P.136

 子宮筋腫核出術であるTLM (Total Laparo—scopic Myomectomy)については,すでに本シリーズの⑨,⑩で紹介している.
 今回は,子宮筋腫に対する体外法ともいえるLAM(Laparoscopically Assisted Myomectomy)の実際について紹介する.また,TLMにおける核出筋腫の回収方法の改良点,子宮鏡下子宮筋腫摘出術であるTCR(Trans Cervical Resection)についても紹介する.

Estrogen Series・35

アジア系米国女性における豆腐摂取と乳癌の関係—大豆のエストロゲン作用

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.210 - P.211

 米国に居住するアジア系米国人では白人に比較して乳癌発生率が低いが,他方,アジアに居住する人々の乳癌発生率よりもかなり高率である.同じアジア人種でありながら,その環境の変化が内分泌機能になんらかの変化をもたらし,それゆえにこのような差異がみられるのであろうか? 著者らはアジア系米国人にみられる食物摂取成分の相違,とくに豆腐に代表される大豆製品の摂取量の相違性に着目し,それにより乳癌発生率の相違を部分的にでも説明することが可能なのではないか,と考えた.
 著者らはロスアンゼルス,サンフランシスコ,ハワイに居住する中国系,日系,フィリピン系の女性を対象にpopulation-based case-controlstudyを行った.すなわち,1983〜87年に原発性の乳癌を診断された597例のアジア系女性と,同時期に年齢,居住地域,などをマッチさせたコントロール966例とを比較検討した.

産婦人科キーワード・25

ノックアウトマウス

著者: 桑原章

ページ範囲:P.212 - P.212

語源
 ネズミがboxingをするわけではなくて,特定の遺伝子をknock outしたマウスのことである.遺伝子を受精卵細胞内に注入する「transgenicmouse」では非生理的に過剰に遺伝子が発現するため解析できることが限られていたが,1990年代に開発されたknock out mouseは狙ったとおりの遺伝子変異を起こす「夢」の実験手段といえる.このマウスで遺伝子機能を解析する手法(genetargeting)は急速に普及しており,今日,構造が明らかな遺伝子はすべてノックアウトが試みられているといってもおかしくない.

産婦人科キーワード・26

トランスジェニックマウス

著者: 斎藤誠一郎

ページ範囲:P.213 - P.213

定義
 受精卵の核内にDNAを注入することにより外来性の遺伝子が染色体に組み込まれ,形質転換したマウスのこと.特定の遺伝子の働きを細胞分化を通じて,全細胞で研究することが可能となる.特定の組織で発現するプロモータを同時に導入すれば組織特異的に外来性のDNAの影響を検討できる.

病院めぐり

氷見市民病院

著者: 佐伯吉則

ページ範囲:P.214 - P.214

 氷見市は富山県の北西端,能登半島のつけねにある人口6万人の町です.越中万葉の里として古くから景観の美しさを保っており,また定置網漁を中心にした鰤(ブリ)を始めおいしい魚がとれる町として有名です.写真(中央下が氷見市民病院)のように日本海(富山湾)越しに3,000m級の山並み(立山連峰)を眺望でき,自然に恵まれた暮らしやすい環境を持っています.
 氷見市民病院は昭和23年7月,氷見郡厚生病院として開設され,昭和36年6月に農協の経営委託を解除し,市直営(現病院名)となり現在に至っています.氷見市唯一の総合病院であり,総病床数368床,医師数39人,1日平均外来患者数約1,200人の比較的忙しい病院です.また氷見市には石川県境の中山間地に散在する集落(ほとんどが無医村)が多数あり,昭和56年からは僻地中核指定病院として自治医科大学卒業生を中心に僻地診療にも力を入れています.

福井県立病院

著者: 原田丈典

ページ範囲:P.215 - P.215

 福井県は日本海に面した北陸の地にあり,山海の幸にとても恵まれた環境にあります.福井県立病院は県都である福井市にあり,高度医療を提供する基幹病院として機能しており,救急医療や成人病対策などにも重要な役割を果たしています.昭和25年に9科100床の病院として創立され,その後,診療科の新設や未熟児センター(NICU),成人病センターの開設とともに増床を重ね,現在は17科700床を有しています.
 産婦人科には産科が30床,婦人科が30床あり,常勤医5名,研修医1名で診療しています.外来診察は婦人科2診,産科1診,成人病センター1診の4名で行っており,その他,特殊外来として不妊,思春期,更年期外来を設けています.現在,年間の総分娩数は350件,手術件数は420件,1日外来患者数は100〜120名ありますが,産科部門については,正常分娩の他,産科的異常のみならず他科疾患を合併した妊婦の管理をも積極的に行っています.また,超音波検査による血流測定,羊水穿刺,臍帯血採取なども施行しています.近年,わが国では帝王切開率の上昇が指摘されていますが,当院では既往帝王切開や骨盤位症例に対する方針を作成し,できるだけ経腟分娩を試みるように努力しています.

OBSTETRIC NEWS

緊急帝王切開を「30分以内」に開始できるか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.217 - P.219

 心配な胎児心拍数(FHR)パターンが原因で緊急帝王切開(帝切)を行うことがある.心配なFHR記録があっても(胎児刺激も含め),一過性頻脈が確認できれば経過観察でよい(ACOGTech Bull,No207,1995)が,その後も心配なFHR記録が持続すれば,子宮腔内人工羊水注入法を行ったり,ブリカニール0.25mg皮下注射する(Aust NZ J Obstet Gynecol 33:362, 1993).しかし,突然の遷延一過性徐脈や徐脈(例:臍帯脱出,胎盤早期剥離,前置血管など)は,ほとんど予測不可能で,短時間で緊急帝切を開始し,胎児を悲惨な結果から救えるとはかぎらない.
 米国の産科医は帝切決定から開始までの時間(decision incision time:DIT)は「30分以内」が標準的医療であると要求されている(Guide—lines for Perinatal Care.4th ed,AAP & ACOG,p112,1997).しかし,「30分以内」という制限には医学的根拠がなく,さらに「DITは30分以内」は必ずしも達成可能ではない.

原著

進行子宮肉腫における予後因子

著者: 佐藤慎也 ,   鎌沢俊二 ,   高橋正国 ,   島田宗昭 ,   大石徹郎 ,   入江隆 ,   皆川幸久 ,   紀川純三 ,   寺川直樹

ページ範囲:P.221 - P.223

 本研究では,進行子宮肉腫における予後因子を知ることを目的とした.Ic期以上の子宮肉腫16例(平滑筋肉腫8例,異所性癌肉腫4例,同所性癌肉腫3例,間質肉腫1例)を対象とした.全症例に対して術後化学療法を施行し,7例には放射線療法を追加した.全例に単純子宮全摘術,両側付属器摘出術を施行し,12例では後腹膜リンパ節郭清術を行った.
 16例中9例(56.3%)が死亡した.予後因子別の検討では,年齢,組織型,リンパ節転移の有無で生存率に差はなかったが,Ic期症例の予後はII期以上の症例に比して有意に良好であった.化学療法のレジメンや放射線照射による累積生存率の差はなかった.多変量解析による検索では,臨床進行期のみが独立予後因子であった.進行子宮肉腫の重要な予後因子は進行期であり,手術による完全摘出のみが確実な治療であることが示された.

症例

高度の新生児貧血を呈した胎児母体間輸血症候群の1例

著者: 林嘉信 ,   高山俊弥 ,   今井昌一 ,   魚住友彦 ,   関真人 ,   高橋保彦

ページ範囲:P.225 - P.228

 胎児母体間輸血とは胎児血が破綻した絨毛から絨毛間腔を満たす母体血中へ出血する病態であり,重症例では児の死亡の原因ともなるものである.今回われわれは,高度の新生児貧血を呈した胎児母体間輸血症候群の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は38歳の初産婦で,妊娠39週に胎児心拍陣痛図の異常のため,帝王切開で2,740gの男児を娩出した.児は出生後にhemoglobin 5.2g/dl(再検値4.8g/dl)と高度の貧血と呼吸障害を呈し,母体血中hemoglo—bin Fおよびalpha-fetoproteinが高値を示したことにより,胎児母体間輸血と診断された.児は濃厚赤血球輸血と人工換気による呼吸管理により救命でき,生後5か月まで後遺症なく経過している.

IUFD後,早期に発症した死胎児症候群の1例

著者: 野平知良 ,   糸数功 ,   牧野秀紀 ,   岡部一裕

ページ範囲:P.229 - P.232

 子宮内胎児死亡(IUFD)後,早期に発症した死胎児症候群の1例を経験した.症例は34歳の経産婦.妊娠18週1日の妊婦検診時には胎児心音が確認されたが,妊娠18週3日に少量の不正出血,下腹部痛を訴え近医を受診したところ胎児心拍は消失しIUFDと診断された.受診中より血圧が下降し,血液検査で血小板の著明な減少を認めたため死胎児症候群が疑われ,産科DIC管理目的で当院へ搬送された.輸血,抗DIC治療などを行いながら死胎児を娩出した.児に浸軟はなく,胎盤に後血腫など常位胎盤早期剥離の所見を認めなかったため,IUFD後2〜3日の早期に発症した死胎児症候群と診断した.死胎児症候群はIUFD後4〜5週間経過してから発症することが多いが,本症例のごとく早期に発症する例も存在するので注意が必要であると考えた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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