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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科53巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

今月の臨床 新生児トラブルの初期対応—産科医へのアドバイス 全身状態の異常

1.体温異常

著者: 田村正徳

ページ範囲:P.246 - P.249

 新生児の正常肛門体温は36.5〜37℃である.新生児は体温調節能が未熟なだけでなく,体表面積が大きいため環境に大きく影響されやすいので,体温を維持するのに必要な酸素消費量が最小ですむ中性環境温(neutral thermal range,図11))を準備してあげることがたいせつである.中性環境温は在胎週数が短いほど,また日齢が若いほど高くしなければならない.

2.痙攣・搐搦(振戦)

著者: 西田朗

ページ範囲:P.250 - P.251

 子宮内から子宮外への生理的適応が行われる新生児期に起こる痙攣は,発育途上にある脳に重大な影響を与え,しばしば永続的な異常を残すことになる.したがって,痙攣の診断にあたっては,迅速な診断と治療が要求される.新生児の痙攣は,そのほとんどが,なんらかの基礎疾患による症候性痙攣であり,乳児期以降に起こる痙攣とは著しく異なった臨床像を呈する.この時期は,大脳皮質機能の未熟性,髄鞘化の未発達のため,無呼吸や眼球運動異常,四肢の運動異常などの原始的な非定型発作(微細発作)としてみられることが多く,乳児期以後に認められる強直性間代性痙攣はむしろ稀である.そのため,痙攣を見落とさずに正確に把握することは,非常に困難である.

3.哺乳障害

著者: 田角勝

ページ範囲:P.252 - P.254

 新生児の哺乳障害はさまざまな疾患の初発症状となる.このため哺乳障害をみたときには重大な問題が隠されていることを念頭に,新生児医療機関への転送が遅れないようにすることが重要である.とくに全身性疾患(呼吸器疾患,心疾患,感染症など)や消化器疾患に伴う哺乳障害は緊急を要する.ここでは哺乳機構の発達とその障害について産科医の知識として役だつと思われることを取り上げる.

4.嘔吐・吐血

著者: 川口千晴 ,   志村浩二

ページ範囲:P.256 - P.257

 新生児は,解剖学的および機能的特性から溢乳しやすく,そのため嘔吐は新生児室において高頻度にみられる.その多くはとくに治療を要しない生理的嘔吐であるが,ときに重篤な疾患の唯一の症状であることがあり,適切な検査・処置が予後を左右する.
 プライマリケアとして最も重要な点は,生理的嘔吐と病的嘔吐を鑑別し,児を専門施設に搬送する是非とその時期を逸しないことである.以下,鑑別に必要な診察のポイントおよび検査・処置について記述する.

5.Not Doing Well

著者: 新井順一

ページ範囲:P.258 - P.259

 “not doing well”とは“なんとなく元気がない”といった意味であるが,多くの疾患での初期症状と考えてよい.この段階で,診断および治療を開始できれば重症化を防ぐことが可能なことが多い.当然“not doing well”にも程度があり,ショックに近いものからいつもと何となく違うといった程度のものまである.ここでは,異常児の早期発見のために,not doing wellのとらえ方と対処法について述べる.

皮膚色の異常と発疹

1.チアノーゼ・蒼白

著者: 嶋田泉司

ページ範囲:P.260 - P.263

 皮膚色の異常は,児の異常を直感的に判断しうる重要なサインである.とくに,蒼白、チアノーゼは緊急の対応が必要な重篤な疾患によることが多く,鑑別診断,初期対応について十分な知識が必要である.

2.黄疸

著者: 立石格

ページ範囲:P.264 - P.266

 新生児期にみられる黄疸は,大部分が生理的なものであり,治療の必要がない.しかし,黄疸が強度になると,ビリルビンによる脳障害である核黄疸が引き起こされる場合がある.とくに基礎疾患が背景にある場合,疾患によってはその危険性が高く,新生児黄疸の管理においては,核黄疸の予防と基礎疾患の発見が重要な柱となる.したがって,病児を扱わないことを原則とする一般の新生児室では,治療を要する高ビリルビン血症の早期発見と,専門機関に診断・治療を依頼する時期を誤らないことが大切である.

3.発疹

著者: 木下洋

ページ範囲:P.268 - P.270

 新生児にみられる発疹は,その種類・原因が多彩であり,家族にとっても不安な事項である.また,無用な局所抗菌薬の使用はその施設での耐性菌の増加につながる可能性がある.本稿では母斑・血管腫・血小板減少症以外の疾患で,日頃新生児室でよく遭遇する発疹症や発赤について簡単に解説し,その対応について述べる.

呼吸の異常

1.無呼吸発作と多呼吸

著者: 加部一彦

ページ範囲:P.272 - P.274

 呼吸の障害は新生児ではきわめてポピュラーな臨床症状で,呼吸器系の疾患だけでなく,心疾患や中枢神経系の異常によっても呼吸障害を呈することが少なくない.呼吸障害は,多呼吸や無呼吸といった呼吸数の異常に陥没呼吸,呻吟,鼻翼呼吸,喘鳴などの臨床症状が組み合わさってみられるのが一般的で,観察に際しては,単に呼吸数のみに注目するのではなく,どのような呼吸障害が出現しているのかもあわせて観察する必要がある.
 本稿では,新生児の無呼吸と多呼吸についてその初期対応の要点を中心に概説する.

2.陥没呼吸・鼻翼呼吸・呻吟,呼吸音の異常

著者: 中村利彦 ,   小川雄之亮

ページ範囲:P.276 - P.281

 新生児は呼吸障害を呈することが実際きわめて多いことを,臨床に携わる産科医は痛感していると思われる.呼吸障害の症状は児により程度の差こそあれ,低酸素症の存在もしくはその危険のあることを示している.また,新生児は余力がないため,悪循環に陥りやすいので呼吸障害を認めた場合には,緊急処置を必要とすることが多い.ハイリスク妊娠においては,各地域において周産期センターを持つ中核病院への母体搬送が奨励されているので,一般病院および産科診療所においては,出生後初めて児の異常に気づかれる正期産児のケースが多くなっているものと思われる.しかし,分娩直後の状態で母体の処置を強いられるなか,産婦人科医が児の異常を観察し,適当な処置をすることは容易ではないことを耳にすることも少なくない.
 そこで本稿では,上述の呼吸障害の内容において,産科医に対し新生児科医より希望することを中心に述べる.

心拍の異常

1.徐脈・頻脈

著者: 吉岡寿朗

ページ範囲:P.282 - P.285

 新生児の心拍数の異常を洞性頻脈,徐脈と他の不整脈による異常に分けると,圧倒的に前者の占める割合が多い(例えば上室性頻拍は約1/25,000,完全房室ブロックは1/15,000〜20,000)9).洞性不整脈は日常的に遭遇する治療を要しないものから,緊急処置を要するものまでさまざまであるが,心臓不整脈とは異なり,それ自体は随伴する病態の一つの症状として出現しているということを明記しておかなければならない.不整脈については他項で詳細に述べられているので参照していただきたい.ここでは主に洞性の心拍数異常について述べる.

2.心雑音・不整脈

著者: 川滝元良 ,   後藤彰子

ページ範囲:P.286 - P.290

 われわれの施設では,産科の第一線の施設の先生方から,チアノーゼ,呼吸障害,心雑音,不整脈などを主訴に依頼を受けることが多い.今回『新生児トラブルの初期対応一産科医へのアドバイス』という興味あるテーマで原稿の依頼を受けるに当たり,単なる教科書的な記載ではなく,われわれが日々の臨床現場でつねに考えていることを,最新のデータを交えながら述べていきたい.

排便・排尿の異常

1.排便異常

著者: 横山直樹 ,   山崎武美

ページ範囲:P.292 - P.294

新生児の便
 新生児が生後まもなく排泄する糞便を胎便(meconium)と呼ぶ.胎便は暗緑色ないし黒色の無臭無菌で,pHは5.5〜7.0と弱酸性の粘稠な軟泥様の物質である.生後2〜3日までに胎便が排泄された後,便は次第に黄緑色ないし緑褐色の移行便に変わり,生後5日ころには黄色の普通便となる.通常,成熟児では生後48時間以内に排便がみられ,早期産児では初回排泄が少し遅れる1)
 正常新生児において,1日の排便回数は,日齢0で平均1.4回,生後1週では平均4回(1〜9回)といわれ,日齢5〜7をピークに徐々に減少する2).母乳栄養児では人工栄養児に比べ便性がゆるく,1日10回前後の水様性の排便がみられることがある.しかし,排便回数が多く粘液を含むゆるい便が噴出したり,ときには数日排便を認めないことがあっても,哺乳力や体重増加が良好で機嫌がよければ下痢や便秘とはいわない.

2.排尿異常

著者: 別府幹庸 ,   梶原眞人

ページ範囲:P.295 - P.297

 排尿異常とは,蓄尿機能や尿排泄機能に関する異常のすべてを指すものとされており,排尿中枢の未熟性による遺尿などの「機能的排尿異常」と神経因性膀胱,尿路奇形,腎不全が基礎にある「器質的排尿異常」の二つに大きく分類される1),本稿では新生児期にみられる「器質的排尿異常」について,その症状・所見・原因・対応について述べる.

顔貌・体型の異常と外表奇形

1.Odd-looking-neonate

著者: 川上義

ページ範囲:P.298 - P.299

 odd-looking-neonateとはわれわれが日常みなれている「正常新生児」と顔貌や体型などの外観が異なり,「何か普通の新生児と違う」といった奇異な印象を受ける新生児を指す.
 動物ではその種の特性を最もよく表すのは成年のオスといわれるが,ヒトでも年齢が長ずるほど顔貌や体型の差が明らかになる.新生児は成人と比較するとその個々の特徴は顕著ではないが,出生直後の新生児でも「みため」はそれぞれ異なっている.奇異な印象を持つか否かは主観が入るため,新生児医療の経験の浅いスタッフと多くの正常新生児や先天異常例を経験したスタッフでは,正常と考える範囲に大きな差がでてくるのは当然である.

2.腹部膨満・陥没

著者: 千葉力

ページ範囲:P.300 - P.301

 最初の適応期間の後には,正常な新生児の腹部は軟らかで,膨満していないはずである.嘔吐,膨満,唾液分泌過剰,哺乳不良などの症状1)は胃腸疾患の客観的な徴候である.通常これらの所見は看護婦によって最初に気づかれる.鑑別診断はまず病歴を振り返ることから始める.身体所見はまず視診,次に聴診をして,腸雑音が存在するかどうかを確認する.その後に腹部の各4分の1区分ずつ触診し,手に触感される腫脹を調べる.もし腹部の触診に対し異常に痛覚があれば新生児は啼泣したり、警戒したりする.直腸を視診して鎖肛や同時に合併する直腸・会陰瘻孔を除外する.
 本稿では,腹部膨満・陥没について,鑑別診断と初期対応としての検査・処置について述べる.

3.口唇裂・口蓋裂

著者: 石川浩一 ,   若松信吾

ページ範囲:P.302 - P.304

 口唇裂・口蓋裂は顔面の先天性裂異常の一連疾患であるが,披裂がどの部位までか,片側か両側かにより手術の時期や方法が異なる.出生時に心奇形などの合併がなければ緊急性はない.それぞれの症状に成長を考慮した手術時期があること,手術により十分な改善が得られることを両親に説明し.患児の将来への不安に対するメンタル・ケアを行う.最近の進歩は,総合的治療が形成外科,言語療法,矯正歯科,耳鼻科,産科、小児科などのチーム・アプローチによりなされるようになったことである6).手術は整容と機能の両面を考慮して行われるが,整容と機能のバランス,新しい治療法の導入など外科医の考え方や技術が,手術の結果にかなり影響する.ここでは一般的な手術法と筆者らの考えと手術法を,口唇裂・唇裂・顎裂についてそれぞれ述べる.

4.先天性股関節脱臼

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.305 - P.307

 先天性股関節脱臼(以下,先天股脱)は,出生前のみならず出生後の環境因子によっても生じることが知られており,新生児期から乳児期における育児環境も重要な先天股脱発生の影響因子となる.とくに後述する危険因子を有する新生児では,より注意を要する.

5.内反足・外反足

著者: 亀ヶ谷真琴

ページ範囲:P.308 - P.309

内反足
 出生時からみられ,通常はとくに他の疾患を合併しない特発性の先天性内反足をいう.足根骨の低形成や配列異常がその病態である.

6.麻痺

著者: 新島新一 ,   東芝直樹

ページ範囲:P.310 - P.312

頸神経叢麻痺
 頸神経叢は脊髄神経のC1〜C4までの神経根より形成される.運動枝は前頸部および後頸部の諸筋を支配し,一部は胸鎖乳突筋や僧帽筋にも達する.またC3〜C5までの枝は横隔神経となり横隔膜へ達する.横隔神経麻痺は,この神経叢の障害のなかで最も重症で,分娩時に頸部を過伸展することにより発生する.新生児の横隔神経麻痺の大部分(80〜90%)は腕神経叢麻痺に合併する.

7.外性器異常

著者: 森田優治

ページ範囲:P.313 - P.316

 外性器異常といっても尿道下裂や停留精巣から半陰陽までその種類は多岐にわたっている.本稿では外性器異常を有する児の一次施設における対処法について理学所見を中心に述べる.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・27

これまでに確立してきた創意・工夫点を振り返って—ワンタッチ操作やバルーンの導入,手法や術式や器具の開発など

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏 ,   植田敏弘

ページ範囲:P.241 - P.244

 当初は,従来の固定概念や既成概念を腹腔内には持ち込まないことにこだわった.このこだわりにより,卵巣嚢腫に対する体外法の考案と術式の確立につながったが,一方ではそのために大きな“けが”をしたことも事実である.そのようななかで,ワンタッチ操作の感覚やバルーンの概念の導入,SAND Balloon Catheterの開発,バリエーションのある対応,また術式改良や適応拡大なども実現化した.今回は,これまでに独自に編み出してきた創意・工夫点のいくつかを系統的に紹介する.
 ☞次回は,「当科における腹腔鏡下手術の準備につ いて—機器,器具,器材,手術室を中心に—」 を報告する子定である.

産婦人科キーワード・27

嚢胞性リンパ管腫

著者: 前田和寿

ページ範囲:P.317 - P.317

語源
 hygromaはギリシア語のhygr(湿った)に,腫瘍を意味する接尾語(—oma)が付いた,湿性のある腫瘍(moist tumor)の意味で,その名の通り通常頸部に発生する軟らかい多胞性(時に単胞性)の嚢腫である(図).

産婦人科キーワード・28

遺伝子刷り込み(ゲノム刷り込み)

著者: 中堀豊

ページ範囲:P.318 - P.319

語源
 雄性配偶子と雌性配偶子が受精して受精卵ができる.このとき受精卵にそれぞれの配偶子からもたらされる遺伝子は性染色体を除いて等価であり,同じように発生・分化や個体の維持に寄与するという考え方がメンデル遺伝学の基本の一つである.
 しかし現実には,いくつかの遺伝子においては,どちらの親からその遺伝子が由来したかによって働きが異なることが知られるようになった.この現象が遺伝子刷り込みである.これに対する英語名は主としてgenomic imprintingが使われるが,これ以外にもparental imprinting, genetic im—printing, gametic imprintingなどの用語が使われている.

Estrogen Series・36 HRTと静脈性血栓塞栓症・1

HRT使用者にみる静脈性血栓塞栓症の危険性

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.320 - P.321

 エストロゲンの使用ははたして静脈性血栓塞栓症(venous thrombembolism:VTE)を増加させるのであろうか? もしそうなら増加の程度はどのくらいであろうか?以後3回にわたってこの問題に関するLancet誌に掲載された3論文を紹介する.

病院めぐり

豊橋市民病院

著者: 河井通泰

ページ範囲:P.322 - P.322

 豊橋市民病院は,愛知県東三河地方の豊橋市にあります.当院は明治21年6月に私立豊橋慈善病院として開業し,昭和7年に市立豊橋病院となり,昭和26年に豊橋市民病院と改称されました.旧病院は豊橋駅近くにありましたが,老朽化と手狭になったため,平成8年5月に現在地に新築移転しました.敷地面積は92,204m2と広く,地上9階,病床数920床,診療科25科の総合病院です.救命救急センター,未熟児センター,リハビリテーションセンター,人工腎臓センター,健診センターを有し,愛知県東三河地方の基幹病院として機能しています.厚生省の臨床研修指定病院に認定されており,日本産科婦人科学会認定医制度指定施設の指定を受けています.また,産婦人科は名古屋大学医学部産婦人科の臨床実習病院として学生を受け入れ,指導を行っています.
 産婦人科の平成9年度の総外来患者数は45,590人,1日あたり186人で,総入院患者数は24,635名,1日あたり68人でした.ベッド数は産科と婦人科を合わせて69床ですが,ベッドが不足して時には他科のベッドを借りているような状況です.分娩数は960件でしたが,平成10年度は1,200件を超える勢いで増加しています.

星ケ丘厚生年金病院

著者: 東條俊二

ページ範囲:P.323 - P.323

 昭和28年に厚生保険局により健康保険星ケ丘病院が設立され,昭和43年に全国社会保険連合会傘下の社会保険病院の一つとして現在の星ケ丘厚生年金病院が発足した.昭和47年に全面改築されたときには,東洋一のリハビリテーション病院といわれた.
 病院は,大阪府の北東,京都府に近い菊人形で知られる40万都市・大阪のベッドタウンの枚方市にあり,国道1号線“枚方バイパス”に面した広大な敷地に,地上7階の本館を中心に新館病棟,診療棟,外来棟,リハビリ棟をはじめ,看護学校,体育館,職員宿舎,その他の付帯施設よりなる.診療科は19科からなり,救急外来,ICUを備え,ベッド数644床,臨床研修指定病院のほか,各科学会認定施設,エイズ拠点病院指定など,地域の中核総合病院である.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

TCRにおける子宮腔内明視法について—ネラトンドレナージ法の考案

著者: 佐藤賢一郎

ページ範囲:P.325 - P.325

 近年,粘膜下筋腫,内膜ポリープに対して経頸管的切除(transcervical resection:以下,TCRと略す)が行われるようになってきた.直視下に切除するため茎を含めた完全切除が可能で,止血操作も行える.筆者もここ数年来は,粘膜下筋腫,内膜ポリープに対し盲目的な切除を止め,TCRを行っている.
 TCR施行に際しての問題点として,切除手技そのものは症例を重ね熟練するしかないが,その他日常筆者がTCR施行に際して最も苦慮するのは頸管拡張である.通常,前日入院とし,夕方,ダイラパン太1本を前処置として挿入しているが,太が挿入不可の場合は細1本挿入し,翌日(手術当日)朝,太2〜3本入れ替え,午後の手術としている.通常,前日挿入したダイラパン太1本で十分な頸管拡張が得られ,レゼクトスコープが挿入可能となり,さらにレゼクトスコープと頸管の間の間隙より灌流液が流れ出て視野を確保してくれる.ところが,未産婦人,若年者,高齢者では頸管が狭小で,これら前処置でも十分な頸管拡張が得られない場合がある.術中にヘガール拡張を行っても十分でなく,レゼクトスコープは挿入可能なものの,頸管との間の間隙がないため,灌流液が子宮腔内に停滞したままで視野が確保できないことになる.

OBSTETRIC NEWS

脳性麻痺の原因に関する“ACOGの四つの基準”は産科医を守ってくれるか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.326 - P.327

 適切な産科管理を行っていても,脳性麻痺の原因の約10%は,分娩中の胎児低酸素症が原因である.しかし,残念ながら,英国の整形外科医Littleが1862年に発表した乱暴な仮説一脳性麻痺はほとんど,分娩中の出来事が原因—のために,脳性麻痺は産科医に責任があると妊婦や家族,法律関係者らに信じ込まれ,産科医苦悩の時代が続いてきた.明らかに標準以下の産科管理によって発生したと思われる悲惨な結果は,関係する医療従事者の責任が問われるべきであるが,多くの研究者の科学的検索で,脳性麻痺児の原因が必ずしも分娩中のできごとのみによるのではないことが明らかにされ,脳性麻痺に関する医療訴訟が発生しても,産科医が一方的に責められるケースは減少してきているものと思われる.
 とくに,米国産婦人科学会(ACOG)から会員に配布された見解(“ACOGの四つの基準”)(表1)(ACOG Tech Bull#163,1992)は,産科医にはきわめて力強い見解として受け止められ,日本にACOG会員(Keijiro Yazawa:ハワイ大学産婦人科臨床教授)から紹介されたときは,衝撃と期待をもって,受け入れられた.

原著

上皮性卵巣腫瘍におけるセリンプロテアーゼ,hepsinおよびSCCEの発現

著者: 谷本博利 ,   重政和志 ,   武内博子 ,   久住一郎 ,  

ページ範囲:P.331 - P.334

 プロテアーゼは癌の浸潤,転移に重要な役割を果たす.differential displayにより癌で過剰発現が認められたプロテアーゼ遺伝子のうち,hepsin,stratum corneum chymotriptic enzyme(SCCE)について,RT-PCR法,Northern blot法および免疫組織化学を用いて正常卵巣ならびに上皮性卵巣腫瘍における発現を検討した.hepsin, SCCEのmRNA過剰発現は境界悪性腫瘍でそれぞれ58.3%(7/12),66.7%(8/12)にみられ,悪性腫瘍ではそれぞれ84.4%(27/32),78.1%(25/32)に認められた.また,hepsin, SCCEはともに免疫染色で腫瘍細胞に陽性であった.—方,正常卵巣ではいずれの方法でもhepsinならびにSCCEはほとんど発現がみられなかった.卵巣腫瘍において高率に過剰発現が認められるこれらのセリンプロテアーゼは,腫瘍の発育,浸潤に関与すると考えられ,診断の補助マーカーあるいは治療の標的として有用である可能性が示唆された.

症例

皮膚筋炎合併卵巣癌に対するneoadjuvant chemotherapyの経験

著者: 佐藤賢一郎 ,   塚本健一 ,   佐藤太一 ,   水内英充 ,   藤田美莉

ページ範囲:P.335 - P.339

 今回,neoadjuvant chemotherapy(CAP療法)を施行した皮膚筋炎合併進行卵巣癌の1例を経験した.症例は62歳,主婦,4経妊3経産,閉経45歳.内科にて皮膚筋炎を診断され,悪性腫瘍のスクリーニングの目的で1996年(平成8年)12月3日当科を紹介されたところ,卵巣癌が診断された.初回手術困難と考えられ,子宮浸潤により内膜組織診で組織型も判明しているため,neoadjuvantchemotherapyを施行した.1997年(平成9年)3月19日に手術施行後,CAP療法3コース目を施行したところで,家庭内の諸事情により本人,家族がこれ以上の治療を拒否,最終的に癌再発により同年8月24日死亡した.本症例の経験より,皮膚筋炎合併症例の化学療法に際しては,化学療法後に一過性の皮膚筋炎症状の増悪が認められるものの施行不能なほどではなく,neoadjuvant chemother—apy→down staging→debulking surgeryというmodalityも選択し得ると考えられた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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