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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科53巻4号

1999年04月発行

雑誌目次

今月の臨床 婦人科外来

汎用薬剤一覧

著者: 花田恵理花 ,   山田安彦 ,   伊賀立二

ページ範囲:P.618 - P.631

 ここでは婦人科領域の疾患に適応を持つ薬剤を中心に,婦人科で汎用される主な薬剤について表にまとめた.大きく「抗生物質・抗菌薬」「抗真菌薬・抗ウイルス薬・抗寄生虫薬」「女性ホルモン剤」「女性ホルモンと男性ホルモンの合剤」「その他のホルモン剤」「抗癌剤」「抗悪性腫瘍療法補助薬」「造血薬」に分かれている.適応症は,婦人科領域に関連するもののみの記載とし,疾患により用法・用量が異なる薬剤は,婦人科領域疾患における用法・用量のみの記載とした.

婦人科診療に重要な検査とその正常値

著者: 田辺清男 ,   酒井のぞみ ,   山本百合恵

ページ範囲:P.632 - P.636

婦人科医としての必須知識

1.女性内性器の解剖必須知識

著者: 福岡正恒 ,   藤井信吾

ページ範囲:P.354 - P.358

 女性の内性器は,腟・子宮・卵管および卵巣で構成される(図1,2).

2.月経周期の必須知識

著者: 苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.360 - P.364

思春期と初経
 1.思春期発来機序
 女性の思春期とは,乳房の発育や陰毛の発生などの第二次性徴の発現に始まり,初経の発来を経て第二次性徴の完成と生殖機能が完成するまでの期間を指す.だいたい8〜18歳ころまでをいう.
 ヒトを含む哺乳動物では,一定の年齢に達すると思春期が発来する.その機構の詳細は不明であるが,最近の研究では次のように考えられている(図1).すなわち,視床下部からGnRHはパルス状に分泌されるが,小児期にはごく少量のエストロゲンの分泌によりネガティブ・フィードバックがかかり,さらに扁桃核や松果体などの上位中枢からの抑制があるので,視床下部からのGnRHの分泌は抑制されている.それが思春期になると,視床下部のエストロゲンに対する閾値が上昇し,また上位中枢からの抑制が解除されることにより,GnRHのパルス状の分泌が開始し,そのため下垂体からのゴナドトロピン分泌が始まる1).はじめは夜間睡眠時にLHのパルス状分泌が起こることから始まり,次第に1日中分泌がみられるようになる.さらに,下垂体のGnRHに対する反応性が上昇し,FSHも含めたゴナドトロピンの分泌が増加する.

3.ホルモンの必須知識

著者: 小池浩司

ページ範囲:P.366 - P.370

●はじめに
 婦人科外来において種々の生殖内分泌にかかわる疾患を取り扱う場合,通常の生化学的諸検査とは異なった基礎知識に基づいて検査を実施し,検査の値を評価し,そして薬剤(ホルモン剤)を使用する必要がある.そこでこうした一連の診療過程のなかで,是非とも知っておかなければならない“ホルモン”に関する基礎知識として,まずホルモンの作用機序について概説したのち,婦人科外来で遭遇する主なホルモンについてそれぞれ基礎的事項あるいは診療上留意すべき点に的を絞ってまとめた.

4.女性の年代別好発疾患

著者: 大塚伊佐夫 ,   麻生武志

ページ範囲:P.372 - P.375

 女性の一生は,月経周期の有無すなわち生殖能力の有無によって明確に区分され,その区分された年代ごとによくみられる婦人科疾患がある.本稿では,女性の一生を,幼小児期,思春期,性成熟期(前期,後期),更年期,老年期に区分し,それぞれの年代の婦人科好発疾患について述べる.なお,妊娠とその関連疾患については触れないが,妊娠可能な年齢ではつねに妊娠を念頭に置くことが必要である.

5.保険診療の手引き

著者: 亀井清 ,   前原大作

ページ範囲:P.376 - P.381

●はじめに
 保険診療上のルールは必ずしもそのすべてが医学的妥当性に裏づけられているものではない.しかし.医学と経済が密接に関係しているわが国においては,現在の医療財源窮迫と情報公開気運の高まりのなか,保険診療の適正なる運用はますます重要なものとなってきている.このため,婦人科外来における保険診療においても、まず保険診療の外枠1)と保険運用に関する原則2)を理解しておくことが必要である.同時に最近頻繁に取り決められている新設・改定事項に関してもつねに関心を払っておかなければならない.
 また,婦人科外来の保険診療においては,とくに妊娠を中心とするリプロダクション分野やがん検診にみられる自費診療と保険診療の混在に注意する必要がある.なお,産科に関する保険診療に関しては,今回のテーマの範囲外なので別稿2,3)に譲ることにする.

6.インフォームドコンセントと医事紛争—医療訴訟を防ぐための予防法,対処法

著者: 濱田和孝

ページ範囲:P.382 - P.387

●はじめに
 医師としての人生を送るうえでの将来への不安について,若い医師たちに聞いてみると,国の医療費抑制策,医師数の増加,ならびに最近の医事紛争の増加が挙げられる.とくに産婦人科領域における医療事故はきわめて頻度が高く,最近の日本医師会の報告では全診療科のなかでもっとも多く,30%をこえ,この傾向は日本医師会医師賠償責任保険発足以来変わっていないとされている1).そこで本稿では医事紛争の実態と,紛争を少しでも減らすための方策について考えてみたい.
 われわれの生活の場を考えるとき,絶対安全は存在しない.地震,台風などの自然現象,発達した社会における交通事故や建築現場における事故,少しの油断が,また油断がなくとも,細心の注意が払われていても,偶然が支配する危険が山積みしている.病気は,生物である人間に発生してくる変化であり,医療は,発生した異常を現在の医学知識を用いできるだけ異常発生前の身体的状態への復元を期待して行われる行為である.したがって,自然の一員である人間に共通な一般的な反応と,個体の個性的な反応を勘案して医療を行う必要がある.すなわち,病気は患者それぞれに独自のものであり,まったく同じ患者は存在しないし,治療もまったく同じでよいわけではない.

外来診察と検査

1.問診のポイント

著者: 辻隆広 ,   永田行博

ページ範囲:P.388 - P.390

 問診は,診断,治療の第一歩であり,したがって問診は非常に重要である.

2.婦人科診療における外診

著者: 藤井知行

ページ範囲:P.392 - P.393

 婦人科では内外性器の診察(内診)が中心となることが多いが.局所のみの診察をして全身の診察,すなわち外診を怠るようではいけない.
 外診,すなわち全身の診察は他科のそれと異なることはないが,婦人科疾患に関連して出現する徴候にはとくに注意して診察する.例えば,肥満は内分泌異常や子宮体癌などと関連が深く,るいそうは悪性腫瘍などと関連が深い.

3.内診のコツ

著者: 森川肇

ページ範囲:P.394 - P.397

●はじめに
 産婦人科臨床において診断を進めるにあたっては,問診,視診,外診などに加えて,内診という産婦人科特有の技術が要求される.つまり,外性器の視診,腟や子宮腟部の視診と双合診(内性器の状態を触診)により疾病の存在や妊娠の状態を的確に判断する操作が必要になる.しかし,内診は女性がもっとも羞恥心を感ずる部分を視診・触診することになるので,診察者に対する被診察者の信頼の気持ちがなければ診察に協力してもらえないばかりでなく,ときにはまったく所見を得られないこともありうる.したがって,受診者と最初に対面したときから医師と患者の心の交流はすでに始まっているのであり,問診,外診と進むにつれて,患者の気持ちが自然に次第に内診を受け入れられるように進むのが望ましいのである.

4.細胞診の基本手技

著者: 半藤保 ,   大野正文 ,   黒瀬高明 ,   塩田敦子

ページ範囲:P.398 - P.402

●はじめに
 婦人科外来における細胞診の位置づけはきわめて高い.大学附属病院のような総合病院における婦人科細胞診検体数は,中検で取り扱う細胞診標本数の50〜70%を占めるほど,よく利用されている.細胞診そのものが簡便,安価で信頼性が高く,しかも患者に与える侵襲が少ないうえに臨床的応用価値が高いためである.ただし,後述するように,その採取方法を誤らず,指定された検体処理を行い,かつ細胞診指導医,細胞検査士などの有資格者が鏡検をするのでなければ,精度の保証はない.
 以下,婦人科外来における細胞診の基本的事項について概説する.なお,細胞診には腫瘍細胞を検出するための細胞診と,内分泌細胞診がある.後者は原則として腟側壁中央,下1/3からヘラで採取し,主としてエストロゲンによる扁平上皮細胞の増生,成熟をみるのであるが,ここでは省略する.

5.腟分泌物検査

著者: 出井知子 ,   坂元秀樹 ,   佐藤和雄

ページ範囲:P.403 - P.409

●はじめに
 帯下の異常を主訴とする患者は,幼児から閉経後の女性までさまざまであり少なくない.そのため診断と治療に先だって,月経の周期,掻痒感,疼痛,帯下感など不快感の性状や,糖尿病,肝・腎疾患,悪性腫瘍などの内科的疾患,精神疾患,アレルギー,薬物常用,性病の可能性,腟内異物や避妊具の挿入,あるいは性的暴力の関与がないかなどの問診が重要である.
 視診では,量,色,臭い,性状がチーズ状,粥状.酒粕状,泡沫状,膿状,肉汁状,粘液性,漿液性などと表現され,さらに腟や外陰部の病変がないかなど数多くの観察項目が挙げられる.この際,最初に内診をしたり,消毒を行わないように注意する.

6.クラミジアの検査

著者: 野口昌良

ページ範囲:P.410 - P.413

●はじめに
 クラミジア・トラコマティス(Chlamydia tra—chomatis)感染症は最も患者が多い性感染症といわれている.ところがその病態はきわめて複雑であり,急性腹症のような激しい症状を示して救急外来へ運ばれるものから,まったく無症状のまま感染が持続し年余にわたり続く腹腔内感染,あるいは卵管周囲癒着や卵管通過障害のような妊孕性を著しく障害する病態までさまざまである.したがって,はっきりした症状があってクラミジア・トラコマティス感染症を確認するための検査を行うよりは,あまり訴えのない子宮頸管炎や不妊症例における既往のクラミジア感染を知る目的で検査するような機会のほうがはるかに多い.いいかえれば,下腹痛や帯下感など症状があって検体を採取するよりは,患者の年齢やセックスライフ,性交痛や内診痛,あるいはパートナーの尿道炎などを考慮しながら,クラミジア・トラコマティスの抗原や抗体検出を行う機会が多いことを十分に認識しておかなければならない.

7.経腟超音波の婦人科領域への活用

著者: 石原楷輔

ページ範囲:P.414 - P.419

●はじめに
 超音波検査法には大別して経直腸,経腟,および経腹超音波検査法があるが,産婦人科外来では経腟超音波を使用することが圧倒的に多い.妊娠初期を含む婦人科診療における経腟超音波検査の有用性については今さら述べるまでもなく,現在,一般外来に経腟超音波装置を設置しない施設はない.数年前までは本法の活用としては,産科的には妊娠初期のGS,胎芽・胎児の観察,前置胎盤や頸管無力症の診断に用いられ,一方,婦人科的には卵胞モニタリング,筋腫や卵巣腫瘍などが主な対象であった.最近は,妊娠初期の胎児形態異常,切迫流早産における頸管の評価の他,婦人科的には子宮内膜の評価,sonohysterograpy (SHG)による子宮腔内病変の観察などその活用範囲は拡大し,さらにカラードプラ,3次元画像表示などが出現し,婦人科外来における経腟超音波の重要性がいっそう重みを増してきた感がある.いずれにしても本法を用いない婦人科外来の日常診療は考えられず,本法のよりいっそうの活用が望まれる.
 本稿では,婦人科外来における経腟超音波検査の活用の現況を述べ,代表的な画像を供覧する.日常診療の参考にしていただきたい.

8.経腹超音波の婦人科領域への活用

著者: 今井史郎

ページ範囲:P.420 - P.424

●はじめに
 現在,産婦人科領域で用いられている超音波診断法は,使用する超音波の生体に対する安全性および器械操作の簡便性から頻回に繰り返し利用できる画像診断法である.婦人科領域では子宮・卵巣を主とした下腹部臓器の形態が画像として得られる.産科領域では胎児体表の形態や胎児臓器の形態などを非侵襲的に実時間で観察でき,妊娠・分娩管理,胎児管理において必要欠くべからざる検査法となっている.産婦人科でよく使用される超音波走査法としては経腟法と経腹法とがある.経腟走査プローブと経腹走査プローブの比較を表1に示した1)

9.CT・MRIの使い分け

著者: 倉智博久 ,   大道正英 ,   直原廣明 ,   津田恭 ,   村田雄二

ページ範囲:P.426 - P.431

●はじめに
 CTとMRIの使い分けは.婦人科領域においてはほとんど考慮の必要がないほどMRIが優れているといってよいものと思われる.CTが必要な場合は,たとえば卵巣癌などで腹部全体への広がりや,大動脈周囲リンパ節の腫大の検索など,腹部を広く検査したいときに限られる.したがって,本稿ではMRIの長所を述べる.

10.内分泌検査

著者: 松浦講平 ,   岡村均

ページ範囲:P.432 - P.438

●はじめに
 外来で行う内分泌検査でたいせつなことは,まず病歴と身体所見から内分泌異常を疑うことである.ホルモン異常の背景を考察した問診と理学所見から該当疾患の診断に不可欠なホルモン基礎値を測定する.婦人科外来で頻度の高い症状・所見と,それらに該当する内分泌疾患と診断に必要なホルモン測定項目を図1に示した.測定値の判断には,各ホルモン特有の周期変動や日内変動,さらに律動的分泌様式の理解が必要である.ホルモンの多くは,内分泌中枢(視床下部・下垂体)とその標的臓器との間にフィードバック機構を形成している.すなわち,中枢が甲状腺,副甲状腺,副腎,性腺のホルモンの産生や放出を刺激/抑制する一方,循環ホルモンレベルは中枢にフィードバックされて中枢の機能が制御される機構であり,この機構により生体のホルモン恒常性が維持されている.したがって,基礎値のみの評価では内分泌疾患の病態が十分に把握されないことも多く,種々の負荷試験が必要になる.CTやMRIなどの画像診断を行って,ホルモン産生腫瘍を診断する.基礎値の異常例を分泌過剰と欠乏症に大別し,それぞれ分泌抑制試験と分泌刺激試験が行われる(図2).また,基礎値が正常範囲内であっても予備能検査として同様の負荷試験が行われる.

11.子宮内膜検査

著者: 岡本吉明 ,   植木實

ページ範囲:P.439 - P.443

子宮内膜検査の目的
 子宮内膜は,卵巣ホルモンの影響を受けて周期的に再生,剥脱を繰り返し,さらには妊娠の舞台にもなりうる組織である.そのため,内膜検査の大きな特徴は,生じている病変が,器質的病変であるのか,機能的病変(いわゆる機能性出血など)であるのかを判断しうることである.すなわち,①不正子宮出血の診断,②子宮内膜に対するホルモン,薬剤の影響,③悪性腫瘍の診断,④内膜の炎症性変化,流産,子宮外妊娠,胞状奇胎の診断管理など多岐にわたる目的に応じて行われる.

12.コルポスコピー

著者: 杉下匡

ページ範囲:P.444 - P.447

●はじめに
 コルポスコピーとは,コルポスコープ(拡大鏡)を用いて子宮頸部病変を視診する診断法の総称である.この診断法は1925年にドイツのHinsel—mannによって開発され,以来SchauensteinやNavratilらのドイツ学派がこれを継承した.一方,細胞診はその3年後の1928年にPapanico—laouによって導入された.
 これらは今日,婦人科診察法の最初に行うものであって,とくにコルポスコピーは細胞診に次ぐ2番目の診断法である.

13.子宮鏡

著者: 田中耕平

ページ範囲:P.448 - P.451

 子宮粘膜下筋腫,子宮内膜ポリープなど子宮内膜病変の診断は経腟超音波断層法,MRIのような画像診断の進歩により容易に診断できるようになった.さらに,子宮腔内に生理的食塩水を注水し経腟超音波断層法を行うultrasonohysterogra—phy(USHSG)で子宮内腔の隆起性病変がより鮮明に観察できるようになった1).これにより子宮腔内の観察に使用される子宮鏡検査は不要かというと,画像診断で認めた隆起性病変がどういう性状なのか直接観察し生検するには子宮鏡以外に方法はない.また子宮鏡はレゼクトスコピーによる粘膜下筋腫の内視鏡手術2)の普及に伴い必須の術前検査となっている.そこで,子宮鏡検査の適応,手技および成績について検討した.

14.腫瘍マーカー

著者: 落合和徳

ページ範囲:P.452 - P.457

●はじめに
 腫瘍マーカーとは,癌細胞自身,または癌に反応して他の生体細胞が作る物質で,それを生体由来の試料内に検出することができるもので1),癌のスクリーニング,腫瘍の良・悪性の鑑別,癌の治療効果の判定,follow upにおける再発の発見に用いられている(表1).
 モノクローナル抗体作製法の開発により,腫瘍マーカーに関する研究が急速な進歩を遂げ,種々の腫瘍マーカーが開発されてきた.しかしいまだに悪性細胞に特異的な腫瘍抗原を見いだすには至らず,現在のところは複数項目の腫瘍マーカーを組み合わせた,いわゆるコンビネーションアッセイ法で成績の向上を図っているのが現状である.

婦人科腫瘍患者の診療

1.子宮筋腫

著者: 小西郁生

ページ範囲:P.458 - P.463

外来における子宮筋腫の臨床診断
 子宮筋腫はきわめて頻度の高い腫瘍であり,その内診所見によって容易に診断されるものと考えられている.また良性腫瘍であることから,その臨床的取り扱いも,症状の有無を考慮し,手術療法,GnRHアナログによる保存的治療,または経過観察のいずれかが選択されている.ところが,実際には「子宮筋腫」と考えた腫瘤のなかに組織学的に異なる種々の疾患が含まれている可能性があり,まれに悪性腫瘍も存在する.最近では「子宮筋腫」と診断しGnRHアナログ療法を行い,その後に平滑筋肉腫と判明し予後も不良であった症例も報告されている.したがって,「子宮筋腫」という臨床診断は,内診だけでなく超音波やMRIなどの画像診断を活用しながら慎重に行うことが重要である(図1).

2.子宮内膜症

著者: 堤治

ページ範囲:P.464 - P.469

●はじめに
 子宮内膜症は子宮内膜組織が異所性(多くは子宮以外の骨盤内)に存在し,エストロゲンにより増殖,進行する疾患である1).近年結婚・出産の高年齢化など女性のライフスタイルの変化により増加しているといわれる.1997(平成9)年度の厚生省研究班の調査報告では約12万人の女性が子宮内膜症の診療を受けていることが確認され2),実数は100万人に上ると推定される.またこの数十年間で環境中に増加している内分泌攪乱物質(環境ホルモン)がエストロゲン依存性疾患である子宮内膜症の発生や増悪に関係しないかという推論があり3),実際ダイオキシンがその発生に関与するという報告4)が注目を集めている.
 子宮内膜症の最終診断は,腹腔鏡あるいは開腹による視診さらには組織診で行うが,実地診療においては,各種疾患と鑑別しながら診断を進めなければならないことも多い.とくに疼痛の有無や程度,挙児希望(内膜症性不妊の有無),器質的病変の正確な把握が必要となる.それに基づいて治療を行うが,薬物療法を選択するか手術療法を選択するかはそれぞれの症例により,また施設によっても考え方が異なるところもある.ここでは,当科における子宮内膜症の外来診療における最近の考え方を述べる.

3.卵巣腫瘍

著者: 薬師寺道明 ,   駒井幹

ページ範囲:P.470 - P.475

●はじめに
 子宮癌に対するスクリーニング制度の充実,pa—clitaxel, CPT−11など新抗癌剤の登場,手術技術,材料の進歩などの悪性腫瘍に対する集学的医療の向上により,子宮頸癌や絨毛癌などは近年,死亡率の減少を認めており,医療側の成果が現れているが,卵巣癌は努力の甲斐なく,罹患率の上昇と相まって死亡率も上昇の一途を辿っている.これは,進行卵巣癌での予後の改善がほとんど認められないことに起因するものと考えられ,現時点でも卵巣癌に対する最良の対策は,早期発見,早期治療に尽きるといわざるを得ない.
 したがって,婦人科外来の卵巣腫瘍における役割は,できるかぎり早期に腫瘤を検出し,良・悪性を判定し,治療方針を早期決定することが最も重要であると考えられる.しかし卵巣に発生する腫瘍は,その解剖学的特性,すなわち骨盤内に位置し,腹腔内の広いスペースに自由に増大できるため,症状が出現しにくく,また何らかの自覚症状があっても卵巣腫瘍に特有な症状がないため,婦人科に受診するとは限らないなどの理由で早期診断が困難なことが多い.

4.子宮頸癌

著者: 櫻木範明 ,   山本律 ,   岡元一平 ,   小口健一 ,   佐川正 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.476 - P.483

●はじめに
 子宮頸癌外来の目的・意義は,①集団検診あるいは施設検診でスクリーニングされた細胞診異常症例などに対する二次検診を行い,診断を確定すること,②診断の説明とともに,治療内容とその予想される成績ならびに後障害の可能性について説明を行うこと,③治療後のQOLの観察と全身的な健康管理を行うこと,④治療後のQOLの改善のために必要な内科的あるいは外科的処置を行うこと,⑤再発あるいは他臓器癌の早期診断を行うこと,などにある.治療そのものはこのなかに含めていないが,癌治療においては根治性を損なわない限りにおいて,機能温存を考慮した手術治療が望まれる.

5.子宮体癌

著者: 蔵本博行 ,   今井愛 ,   上坊敏子

ページ範囲:P.484 - P.487

●はじめに
 本邦における子宮体癌の頻度は,1970年代前半には約5%であった.しかし近年,症例数,子宮癌のなかに占める頻度ともに上昇しつつある.日産婦婦人科腫瘍委員会の集計では,1983年には976例であった報告症例が1993年には2,068例になり,子宮癌のなかでの頻度も15.2%から32.3%にまで上昇している(図1).このような状況を背景に1988年からは老人保健法(以下,老健法)による内膜細胞診を用いた子宮体癌検診もスタートするなど子宮体癌の診断,治療は産婦人科医にとって最も大きな課題となっているといっても過言ではないであろう.そこでこの項では,子宮体癌患者の婦人科外来での診断手順の進め方,検査方法,治療のポイントについて述べる.

6.絨毛性疾患

著者: 諸見里秀彦 ,   金澤浩二

ページ範囲:P.488 - P.491

 日本産科婦人科学会・日本病理学会(1995年)による絨毛性疾患の分類を表1に示した1).このうち,「IIの2.非妊娠性絨毛癌」を除いて,妊娠性絨毛性疾患(gestational trophoblastic dis—ease)と総称し,妊娠絨毛に起こる種々の病変が含まれる.実際には,胞状奇胎と絨毛癌を念頭において外来診療にあたる.
 本稿では,本疾患が疑われる患者が受診した場合,いかに診断を進めるかについて,実際的に解説したい2)

内分泌疾患・不妊症患者の診療

1.無月経

著者: 平川舜

ページ範囲:P.492 - P.498

無月経の定義
 無月経とは周期的な月経が発来すべき年齢層の婦人において月経がない状態をいう.そのうちで生理的無月経とは初経以前,閉経以後ならびに妊娠,産褥,授乳期における無月経をいい,病的無月経とはそれ以外の性成熟期における月経の異常な停止をいう(日本産科婦人科学会編「産婦人科用語集」)1)と定義されている.

2.多毛

著者: 石丸忠之

ページ範囲:P.500 - P.505

●はじめに
 多毛(多毛症)は毛包の増生ではなく,軟毛の肥大あるいは硬毛化(terminal transformation)である.これにはhirsutismとhypertrichosisの二つの概念があり,hirsutismはアンドロゲンの過剰によってもたらされる多毛で,女性にみられる男性毛の発生をさし,hypertrichosisは性別に関係のないアンドロゲン非依存性の多毛であり,軟毛である部位の毛が硬毛になったものである.しかし,実際には両者の混在する場合が多く,区別することが困難であることも少なくない.
 本稿では毛髪の基礎的ならびに臨床的事項について言及する.

3.機能性出血とは

著者: 綾部琢哉 ,   森宏之

ページ範囲:P.506 - P.509

 機能性子宮出血(dysfunctional uterine bleed—ing.以下,機能性出血)についての統一的な定義は明確にされていないが,日常臨床的には,器質的疾患や炎症・外傷を伴わない子宮内膜からの出血と捉えられている.子宮内膜自体の機能異常もあり得るが,主として性ホルモンの異常分泌の結果として出血することが多い.妊娠に伴うもの,血液疾患に伴うものも機能性出血からは除外して考えられるが,とくに血液疾患に伴うものは,若年者において子宮出血が初発症状のことがあり注意が必要である.
 月経は「約1か月の間隔で起こり,限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」と定義されており,機能性出血とは区別されている.しかし実際には,月経不順の女性では無排卵周期の「月経」と機能性出血とを区別することは困難であり,患者自身も不正出血を月経異常として捉えていることが多い.両者の相違は単に用語の定義の問題にすぎず,実地診療上はあえて両者を区別する必要もないであろう.

4.BBTの見方,排卵の有無の診断法

著者: 安田勝彦 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.510 - P.514

BBTの見方
 基礎体温(BBT:basal body temperature)とは安静時の体温を意味している.男性とは異なり,性成熟期の婦人のBBTは性周期に伴い一定のリズムで変動しており,臨床検査法の一つとして頻用されている.

5.精液検査

著者: 高栄哲 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.516 - P.519

●はじめに
 精液検査の基本は形態的な所見より始まる.そのパラメーターは精液量,精子数,精子運動率,精子奇形率が従来より施行されてきた.しかし.これらのみから受精能を評価することは困難であり,近年さまざまな精子機能検査も開発されてきた.
 本稿では精液検査を①一般精液検査,②精子機能検査,③コンピューターを利用した自動分析,に分けて概説する.

6.卵管機能検査

著者: 末岡浩 ,   吉村𣳾典

ページ範囲:P.520 - P.524

卵管機能と検査法
 女性側の不妊原因のなかで,卵管不妊は最も頻度が高く,その病態も多様であることが知られている.卵管は管状の臓器であるが妊娠に対する役割としては通路としての機能を担っているわけではない.卵巣から排卵した卵子を卵管采で回収し,卵管蠕動運動によって卵子を子宮側へ運搬していく.一方,精子は子宮側から卵管を逆行し,膨大部での受精.そして約1週間にわたる胚成長に至る生殖環境を提供している.すなわち,配偶子の出会いと成長の場をつかさどる重要な役割を担っている.
 したがって,卵管機能を①卵管通過性,②卵子採取能,③卵管内環境,④卵管運動性に大別することができる.これらの機能検査は,必ずしも単一の方法では不可能であり,後述する種々の検査法によって判断される.しかし,卵管とくに機能面からの検索は卵管が細長く蛇行する微細な構造をもつことから困難と考えられ,新たな技術の開発が待たれてきた.とくに卵管の診断には通気.通水・子宮卵管造影(hysterosalpingography:HSG)が行われ,それに加えて腹腔鏡および色素通水が治療を兼ねての手技として実施されてきた.

7.排卵誘発法

著者: 齊藤英和 ,   金子智子 ,   戸屋真由美 ,   吉田雅人 ,   王俠 ,   高橋俊文 ,   太田信彦 ,   伊藤真理子 ,   齊藤隆和 ,   中原健次 ,   広井正彦

ページ範囲:P.526 - P.530

●はじめに
 排卵誘発法の目的は,排卵がない症例に薬剤を服用することによって,排卵を誘起することが主な目的である.しかし,最近排卵がある症例でも妊娠に至らず,種々の検査にても異常がみつからない症例に排卵誘発をすることにより妊孕性を増すことが報告されている.また,体外受精などの生殖補助技術においても,採卵数を多くするために,自然に排卵がある症例でも,排卵誘発による採卵を行っている.いずれにしても,排卵させることによって,妊娠を促進させることが究極の目的である.
 また,無排卵であっても症例ごとにその原因が異なるわけであるから,その原因をよく検査し,原因に合った治療法としての排卵誘発を行うことがたいせつである.とくに,甲状腺疾患や副腎疾患,下垂体腺腫など高プロラクチン血症を伴う疾患などはそれぞれ独自の治療法が確立しているので,まずそれぞれに合った治療法を行うことがたいせつである.また,体重減少や服用薬剤による無月経の場合にも,その原因を取り除くことがまず行うべき重要なアプローチとなる.

8.hMGからhCGへの切り替えのタイミング

著者: 竹下直樹 ,   久保春海

ページ範囲:P.532 - P.536

●はじめに
 hMG(human menopausal gonadotropin)—hCG(human chorionic gonadotropin)療法は,超音波断層法による正確な卵胞発育の計測.尿中LHサージの簡易測定法の改善に伴って,外来において比較的その使用は容易となってきている.とくに生殖補助技術における排卵誘発では,確実かつ良好な卵胞発育のための治療法である.しかし,多胎妊娠,卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などのiatrogenicともいえる問題点を考慮する必要がある.ここでは,上記問題点の予防も考慮しhMGからhCGへの切り替えのタイミングについて解説する.

9.AIHのタイミングと方法

著者: 後藤栄 ,   廣瀬雅哉 ,   野田洋一

ページ範囲:P.538 - P.541

●はじめに
 人工授精(artificial insemination)とは,妊娠を目的に,性交によらず人工的に精子(精液)を女性性管内に注入することをいう.何らかの原因によって卵子への到達精子濃度が低下することが不妊原因となっている場合,腟より上流の女性性管内に直接精子を注入することにより確率的に卵子に到達する精子濃度を上昇させようとするものである.人工授精は注入精子の提供者が配偶者かどうかにより2種類に大別される.すなわち夫の精子を用いるものを配偶者間人工授精(artificialinsemination with husband's semen:AIH),夫以外の提供者の精子を用いるものを非配偶者間人工授精(artificial insemination with donor'ssemen:AID)とよぶ.本稿ではとくにAIHついて解説をする.

10.OHSSの対策

著者: 坂田正博

ページ範囲:P.542 - P.544

 自然排卵は,単一排卵になることが多く,妊娠後のルテイン嚢胞を除いて,自然排卵による卵巣腫大をきたすことはまれである.卵巣過剰刺激症候群(以下,OHSS)は,治療目的の排卵誘発剤による卵巣の過剰刺激,すなわち過排卵によって起こる症候群であり,医原性疾患である.OHSSの発症は,クロミッド療法周期では約3%以下にしか認めず,ゴナドトロピン療法周期の数%〜20数%に認められ,約1%は重症化する.体外受精を含めて不妊治療でゴナドトロピン療法を行う機会も多く,OHSSの発生率が増加し,重症例もまれでなく,血栓症による死亡例も報告されている.

11.不育症

著者: 牧野恒久 ,   松林秀彦

ページ範囲:P.546 - P.549

●はじめに
 不育症とは,妊孕能力が夫婦間にあっても妊娠期間を完遂できず,生児が得られない状態をいう.したがって,不育症には自然流産,早産,周産期胎児死亡などが含まれるが,そのほとんどは自然流産である.しかしながら,統計上の自然流産の頻度は約15%と高率であり,その50〜60%に胎児染色体異常が認められるため,自然流産のかなりの部分は自然淘汰を意味する.そこで,連続して3回以上流産を繰り返した場合を習慣流産という.外来を訪れる不育症患者のほとんどが習慣流産か反復流産(流産2回連続)の患者である.不育症専門外来を設けている病院は多くはないが,出生率の低下している現在では,その需要は増加している印象があり,最先端の不育症の診療が強く望まれているとわれわれは感じている.
 不育症(習慣流産)の原因は多岐にわたっており,また原因不明の部分も少なくない.そのため系統立てた諸検査を施行し総合的に判断して方針を決定する必要がある1).さらに,subclinicalな異常を異常と捉えるかどうかは経験によるところが大きく,実際の診療は複雑である.以下に,現在われわれが行っている検査法(表)ならびに治療について,理論的な背景とともに述べる.

主要薬物療法

1.抗生剤・抗菌剤

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.550 - P.552

●はじめに
 婦人科外来で使用する抗生剤・抗菌剤は経口剤が中心であるが,β—ラクタム剤であるペニシリン,セフェムおよびペネム,さらにニューキノロン,マクロライドとテトラサイクリンなどから選択する.ここでは選択の目安を述べた.また表1〜3に常備しておくとよい経口剤を挙げたが,1〜2剤を選択しておくとよい.

2.鎮痛消炎剤

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.554 - P.557

炎症への反応
 炎症反応は急性炎症期,免疫反応期と慢性炎症期の3期に分けられる.
 急性炎症期には種々のメディエータの放出が誘発される(表1).これらは組織への損傷が起こった時点で放出される.

3.ホルモン療法 1)性ステロイド療法

著者: 石原理 ,   木下勝之

ページ範囲:P.558 - P.562

 性ステロイドホルモンは,性成熟期にある生体の形態と機能を維持するために不可欠なホルモンである.したがって,ホルモン療法として性ステロイドホルモンを投与する場合は,性成熟期にあるにもかかわらずなんらかの理由により内因性ホルモンの産生が不十分であるため不足するホルモンの補充を行う場合と,性成熟期であるなしにかかわらず性ステロイドホルモン自体の薬理効果を期待して投与する場合に大別される.

3.ホルモン療法 2)GnRHアゴニスト

著者: 堂地勉

ページ範囲:P.564 - P.567

●はじめに
 Gonadotropin-releasing hormone(GnRH)アゴニストは下垂体のGnRHに対する感受性を低下(desensitization)させ,ゴナドトロピンの産生,分泌を抑制する.その結果,性機能は抑制され,女性ではエストロゲンが,男性ではアンドロゲンが低下する.ゆえに,GnRHアゴニストは性ホルモン依存性疾患に対して投与される.

4.経口避妊薬

著者: 福田淳 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.568 - P.573

●はじめに
 1997年にはわが国においても低用量ピルが認可される動向にあったが,1998年イギリスにおいて環境ホルモンとピルに関する報告が出されてから,再び慎重論が取り沙汰され,またしても認可が遅れる雲行きにある.また世論調査においてもわが国ではピルの服用を望む婦人は少なく,日本における避妊法の知識の普及や教育がいまだ徹底されていない.諸外国ではピルによる避妊法についての情報が古くから集積されている.その変遷の歴史は,血栓症などの副作用をいかに軽減させるかという一点に集約されている.そのため大きく分けて,①ステロイドの量の問題,②新しいステロイド剤の開発,③ステロイドの投与方法の問題,を解決していく必要があった.
 1960年代から1970年代にかけてはエストロゲンの減量について,1970年代から1980年代にかけてはプロゲステロンの減量について,そして1980年以降は新しいプロゲステロン剤の開発,投与方法についての検討が精力的になされてきている.それらについての検討の結果,低用量ピルが世界的に主流になっている.

5.増血剤

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.574 - P.578

●はじめに
 貧血,とくに鉄欠乏性貧血の場合,不足した鉄の補給に増血剤を投与するのが治療の原則である.増血剤には従来から使用されている経口鉄剤,静注鉄剤が主であるが,最近はサイトカインの一種で増血ホルモンのエリスロポエチン製剤(以下,Epo剤)も投与される場合がある.本稿では貧血の診断および増血剤の投与方法について述べる.

外来処置・手術

1.コンジローマ

著者: 大野正文 ,   半藤保

ページ範囲:P.579 - P.581

 尖圭コンジローマ(condyloma acuminatum)は外陰,腟,子宮頸部に発生する乳頭状あるいは鶏冠状の隆起性病変で,性行為によって感染する性感染症(sexually transmitted disease:STD)の一疾患で,この10年間定点当たりの報告数に変動はない(図1)1).HPV感染による疾患で,約90%の症例で6型と11型が検出されている2)

2.性器ヘルペス

著者: 川名尚

ページ範囲:P.582 - P.585

 性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(herpessimplex virus:HSV)1型(HSV−1)または2型(HSV−2)の感染によって発症するウイルス性疾患である.女性の性器ヘルペスは,厚生省の感染症サーベイランス事業報告によるとこの10年間に着実に漸増していて,クラミジアに次いで第2位を占めている.その背景として,性行動が活発化してきたこと,HSVに対する免疫を持たない女性が増えてきていること,性器ヘルペスはしばしば再発を繰り返すので感染源が増加するいっぽうであることなどが考えられる.

3.バルトリン腺嚢胞・膿瘍

著者: 臼井直行 ,   三橋直樹

ページ範囲:P.586 - P.588

 バルトリン腺嚢腫(Bartholin�s cyst)は,主として炎症,ときに外傷(会陰切開など)によるバルトリン腺排泄管が閉鎖して生ずる貯留嚢腫である.嚢腫が大きくなると,外陰部の不快感や性交障害などの症状を呈し,また感染を繰り返しやすく,このような場合には疼痛を訴え歩行困難となることもある.

4.びらんとCIN

著者: 奥田博之

ページ範囲:P.590 - P.593

子宮腟部びらん
1.病態
 子宮腟部に外子宮口を中心として,ほぼ同心円状,周囲との境界が明瞭な赤色領域を子宮腟部びらん(cervical erosion)とよぶ.この赤色領域は上皮欠損を伴う病理学的な真びらんではなく,1層の円柱上皮によって覆われた上皮下の血管が透見されて赤くみえる仮性びらん(偽びらん)である.頸管内膜の円柱上皮と子宮腟部表面の扁平上皮が接する部分を扁平円柱上皮境界(squamo—columnar junction:SCJ)とよぶが,このSCJは本来外子宮口部に位置している.思春期にエストロゲンの作用によって肥大した子宮頸部が外反することにより,SCJが外子宮口よりさらに外方に移動した結果,子宮腟部びらんが出現し,閉経後には逆に内反してみえなくなる.また,新生児では母体のエストロゲンの影響を受けるため子宮腟部びらんを認めることが多い.性成熟期にみられる子宮腟部びらんでは,しばしばSCJの円柱上皮細胞下に予備細胞(reserve cell)が出現,増殖,多層化して扁平上皮に分化しながら上部の円柱上皮を剥脱させ,表皮を扁平上皮に置き換える(扁平上皮化生squamous metaplasia).このような扁平上皮化生の進行とともにびらんは縮小するので,この生理的プロセスをびらんの治療機転とよぶ.

5.子宮内避妊具(IUD)

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.594 - P.600

●はじめに
 子宮内避妊具(intrauterine devices:IUD)は,世界で広く使用されている安全で,効果的な避妊具の一つである.1995年には,推定1億6百万人の女性,既婚女性の12%がIUDを使用している1)
 IUDは1960年代の初頭より,避妊具としての安全性と有効性を高めるための改良が重ねられてきており,当初は非薬剤付加IUDが中心であったが,1970年代には銅や黄体ホルモン剤が付加された,いわゆる薬剤付加IUDが登場した.薬剤が付加されることで,IUD本体の大きさが小型化され,それによって出血や疼痛が軽減するだけでなく,避妊率が高まり,脱出率なども低下した.現在,わが国においては,優生リングとFD−1という2種類の非薬剤付加IUDが販売されているに過ぎない.

救急患者への対応

1.急性腹症の鑑別診断

著者: 菅生元康

ページ範囲:P.601 - P.605

●はじめに
 婦人科外来で扱う疾患は多いが,短時間のうちに診断や手術の適否を含めた治療方法などの判断を迫られるものは急性腹症(acute abdomen)をおいてほかにみあたらない.患者は医師の目の前で疼痛に苦しみ,付き添いの家族からは原因の説明や速やかな症状の緩和を求められる.そのような状況は日常臨床上しばしば経験する.またそのような経験をたくさん積むことにより一人前の臨床医に育っていく.優れた臨床医を目指す研修医にとってはそういう場面に遭遇する機会が多ければ多いほど研修の実が上がる.主治医としてどのような思考過程で診断に至ったか,治療の選択は適切であったか,患者・家族にいつどのように説明し納得を得ることができたかなどについて指導医とともに反省し,1例ごとに記録しておけば貴重な資料になる.
 本稿では,とくに産婦人科研修医にとって参考になるような急性腹症に関する事項をまとめて解説する.

2.血管確保の方法

著者: 竹田省

ページ範囲:P.606 - P.609

●はじめに
 血管確保は産婦人科医のみならずすべての医師に必須の基本手技であり,ショック時の救命処置としてもきわめて重要である.緊急時,その後の採血,薬物療法,処置などが手早く,適切かつ確実に行えるかどうかは,血管確保がスムーズにできるかどうかにかかってくる.産婦人科医は分娩時のショックのみならず,外来診療時に子宮外妊娠や急性腹症など救急疾患に遭遇する機会も多く,医師の血管確保技術の習練のみならず,看護婦の輸液セットの準備や穿刺部位固定テープの用意などが手早くできるよう日頃より心がけておくことが大切である.
 血管確保の方法には次のものがある.

3.ショック対策

著者: 沖津修

ページ範囲:P.610 - P.613

 ショックとは「急性全身性循環不全で,重要臓器や細胞の機能を維持するのに十分な血液循環が得られない結果発生する生体機能の異常を呈する症候群」と定義される1).ショックはその原因により,神経原性ショック,循環血液量減少性(出血性,非出血性)ショック,心原性ショック,アナフィラキシーショック,敗血症性ショックなどに分類される.
 ショックは産婦人科外来を含め,いかなる医療現場でも遭遇する可能性があるが,特定の基礎疾患・既往歴のある場合を除いて,ショックの発生を予知・予防することは困難である.さらに,いったん発生すれば急激に進行し致命的となることから,つねに迅速で適切な治療が行える体制が要求される.

4.蘇生のABC

著者: 中谷壽男

ページ範囲:P.614 - P.617

●はじめに
 婦人科外来において,偶発的な合併症や,薬物に対する過敏反応,麻酔剤による影響や大出血などのために心肺機能停止に陥った患者に対する心肺蘇生法について述べる.外来での処置であるので,気管内挿管や緊急薬品が使える状況を想定したadvanced life supportを中心に述べる.

連載 カラーグラフ 実践的な腹腔鏡下手術・28

当科における腹腔鏡下手術の準備について—機器,器具,器材,手術室を中心に

著者: 伊熊健一郎 ,   子安保喜 ,   堀内功 ,   西尾元宏 ,   植田敏弘 ,   山田幸生

ページ範囲:P.349 - P.352

 円滑に腹腔鏡下手術を進めていくうえで,必要となる準備内容が幾つかある.例えば,腹腔鏡の装置類の点検,手術の器具類の整備,手術室の機械類の配置,麻酔機器の点検,患者の体位,コード類などの配置,視野の確保、ディスポ製品の充実と補充,縫合・結紮のセット,止血や癒着予防などの製剤類などの整備,器具類の後片づけと確認.次のための滅菌消毒,などが挙げられる.
 往々にしてこれらの点には目が向けられず,手術内容だけに視点が奪われがちになる.しかし,上記のような内容についての整備や点検といった気配りが,円滑な手術操作につながることであり,より完成度の高い手術に近づくものと信じている.すなわち,常日ごろより『手技の習熟』を含めたトータルの準備がより大切であると認識している.また,患者を中心とした医師側と看護婦やパラメディカル的なスタッフとの調和も必要なことはいうまでもないことである.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

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