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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科54巻1号

2000年01月発行

雑誌目次

今月の臨床 胎盤異常と臨床 妊娠前期の胎盤異常

1.多胎妊娠の膜性診断

著者: 柳井繁章 ,   藤田恭之 ,   佐藤昌司 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.10 - P.13

 多胎妊娠は,単胎妊娠に比較して流・早産あるいは胎児異常を高頻度に合併し,母児ともに厳重な周産期管理を必要とするハイリスク妊娠である.なかでも一絨毛膜性双胎は,母児ともに諸種の産科的合併症を招来する頻度が高い1)ことから,妊娠初期における膜性診断がきわめて重要である.本稿では,双胎妊娠における膜性診断について概説する.

2.絨毛膜下血腫と妊婦管理

著者: 近藤俊吾 ,   田島秀郎 ,   高橋通 ,   相馬廣明 ,   畑俊夫

ページ範囲:P.14 - P.18

 絨毛膜下血腫は日常の臨床において,しばしば遭遇する疾患であるが,その成因はいまだ明らかでない.妊娠初期の妊婦健康診査における超音波断層法上で見いだされるのは無症状のものから,切迫流産様症状を伴ったもの,妊娠中期以降に血腫の増大を認め,感染や早産を引き起こすものと,その病態はまことに多彩である.本稿ではわれわれが日常行っている絨毛膜下血腫を伴った妊婦の管理を若干の文献的考察を加えて報告する.

3.胎盤の位置異常と妊婦管理

著者: 石原楷輔

ページ範囲:P.20 - P.25

 妊娠前期を妊娠前半期と解釈すると,定義に従い妊娠第5か月(妊娠12〜16週未満)までの妊娠期間である.また用語としての「胎盤」は,成書によれば妊娠13週,とくに16週以降に使用され,それ以前は「繁絨毛膜(絨毛膜有毛部)」が一般的な用語である.一方,「胎盤の位置異常」が臨床的に問題になるのは,通常,妊娠中期以降である.そこで用語や臨床的意義を踏まえて,本稿での「妊娠前期」を妊娠第6〜7か月ころ(妊娠中期)までと幅広く解釈し,この期間における「胎盤の位置異常」,すなわちその代表的病態である前置胎盤について述べる.

妊娠後期の胎盤異常

1.胎盤血腫・血管腫と胎児管理

著者: 竹田善治 ,   坂井昌人 ,   岡井崇

ページ範囲:P.26 - P.29

 胎盤には種々の血腫像を呈するものもあるが,これらはその存在部位,大きさにより臨床的な意義が大きく異なる.胎盤に生じる血腫はその形成部位により,胎児面よりそれぞれ羊膜下sub—amniotic,絨毛膜板下subchorial,絨毛間inter—villous,胎盤後retroplacentalに大きく分類される1)が,このうち常位胎盤早期剥離でみられる胎盤後血腫retroplacental hematomaについては他稿で述べられるため,ここでは前三者と,胎盤血腫との鑑別に注意を要する胎盤血管腫についてその特徴と管理について述べる(図1).

2.巨大胎盤の原因と取り扱い

著者: 安日一郎 ,   石丸忠之

ページ範囲:P.30 - P.34

 胎盤は胎児由来臓器であり,その大きさは通常胎児の大きさに比例する.胎盤重量は厳密には臍帯や卵膜を含めて測るかどうかによって異なるが,正期産での胎盤重量は約450g(臍帯および卵膜を加えると500g)とされ,胎児体重の7分の1(6分の1)に相当する1).当科における正期産の正常発育単胎胎児約9,000例の胎盤重量(臍帯および卵膜を含む)は564±95g(平均±標準偏差)であった.本稿では巨大胎盤の臨床的意義について論じるが,巨大胎盤の明確な定義はない.先の教室での統計では,800g以上の胎盤は全体の3%,1,000g以上の胎盤は0.1%であった.

3.胎盤早期剥離の早期診断

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.36 - P.39

 常位胎盤早期剥離abruptio placentae(以下,早剥)は,妊娠20週以降で,正常位置付着胎盤が胎児娩出以前に子宮壁から部分的または完全に剥離し,重篤な臨床像を呈する症候群と定義される1,2).早期に診断・治療しないと胎児の救命率は悪く,DIC(播種性血管内血液凝固症候群dis—seminated intravascular coagulation)を必発し,急性腎不全などの臓器症状を併発することもまれではない.重篤な症例では診断は比較的容易であるが,軽症例を早期に診断することは通常困難である.本稿では,早剥の早期診断について述べる.

4.癒着胎盤の分娩前診断

著者: 伊藤隆志 ,   片桐千恵子 ,   長田直樹 ,   高橋弘幸 ,   池野慎治

ページ範囲:P.40 - P.43

 癒着胎盤(広義)とは胎盤が異常に強く子宮壁に付着している状態をいう.床脱落膜が部分的あるいは全体的に欠損し,胎盤絨毛が子宮筋層に付着するものを癒着胎盤(placenta accreta),子宮筋層に浸潤するものを嵌入胎盤(placenta increta),子宮筋層を穿通するものを穿通胎盤(placentapercreta)という.嵌入胎盤,穿通胎盤を含む広義の癒着胎盤の頻度は分娩7,000例に1例とされ,前置胎盤例,とくに帝王切開の既往症例では頻度が上昇するとされている.癒着胎盤症例では分娩のとき,胎盤剥離時の大出血による予後不良例もまれではない.とくに穿通胎盤では周産期死亡率は9%,母体死亡率も7%に達するとされる1).したがって適切な治療ができるように十分な準備を整えるためには術前の的確な診断がきわめて重要である.

5.母児間輸血症候群

著者: 中村幸夫 ,   松原徹

ページ範囲:P.44 - P.47

 俗に“血のつながった親子”という言い方をするが,母体と胎児の間には胎盤という隔壁があるため血液の自由な交通はない,しかし,胎盤に傷害が起こると少量の血液が移行することもあり,これを母児間輸血症候群(feto-maternal transfu—sion syndrome:FMTS)あるいは経胎盤出血(trans-placental hemorrhage:TPH)という.
 本来,隔離されているはずの胎児血液が母体循環へ入り込む,いわゆる経胎盤出血の概念を唱えたのは,1905年のDienst1)が最初であろう.彼は,母児間に血液型不適合がある場合に,母体循環へ入り込んだ胎児血液が原因となり,子癇が発症すると考えていた.

産科異常と胎盤病理

1.合併症妊娠の胎盤病理

著者: 中山雅弘

ページ範囲:P.48 - P.52

 胎盤は母児の共有物であり,母体の疾患や胎児の発育とその異常に大きくかかわる.今回のテーマは合併症妊娠の胎盤所見である.とくに,妊娠中毒症と糖尿病と自己免疫疾患を中心に述べる.これらの胎盤病理所見は,以前より詳しく記載されているが,最近では,妊娠中あるいは妊娠前から十分に管理がなされていることが多く,典型的な異常所見がみられることは少なくなってきている。.然ながら母児ともに健康な状態で十分に管理された例は胎盤も正常のことが多い.したがって,胎盤の観察は,妊娠中の管理の適切さのバロメーターとも考えられる.

2.絨毛膜羊膜炎の胎盤病理

著者: 飯原久仁子 ,   柴原純二 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.54 - P.56

 早産では分娩週数の早い症例ほど,胎盤や卵膜に細菌感染を思わせる炎症所見(組織学的絨毛膜羊膜炎)が認められる頻度が高いことは,以前から指摘されていた1-3).現在では,早産の原因としての上行性細菌感染とその結果としての胎児感染についての対策が,管理上もっとも重要視されている.早産を含め,胎児の胎内死亡や子宮内発育遅延などの場合,胎児付属物である胎盤の病理学的検索が不可欠である.しかし,胎盤の形態学的異常と,児あるいは母体の臨床的な異常との対応が容易ではないことが少なくない.このため経験の集積がかならずしも標準的知識の普及には結び付いていないきらいがある.

3.子宮胎盤血流と胎盤病理

著者: 岩田守弘

ページ範囲:P.57 - P.59

 胎盤の形態学的異常と,周産期における胎児と母体の臨床的異常には,種々の関連があるが,その顕著な例に子宮内胎児発育遅延(IUGR)がある.一方で近年,超音波ドプラ血流計測の周産期領域での応用が進み,IUGRなどの予後や病態の新しい評価法の一つとして導入されてきている.さらに,最近登場したパワードプラ法を用いれば胎盤内の血流もきれいに描写されるが,現時点では臨床的に定量的評価は困難である.そこでここでは,IUGRを対象として,子宮動脈の超音波ドプラ血流計測と胎盤病理や予後との関連について,大阪府立母子保健総合医療センターで行われた一連の研究結果について述べる.

4.TTTSと胎盤血管吻合

著者: 吉田啓治

ページ範囲:P.60 - P.63

TTTSとは
 twin-to-twin transfusion syndromeの略で,本邦では双胎間輸血症候群とよばれている.簡単にtwin transfusion sydromeと記述される場合もある.一絨毛膜双胎で一羊膜性または二羊膜性を問わず胎盤内に2児間の血管吻合が存在するものの一部に発症する症候群で,その頻度は14.6〜38.1%と報告者1-4)により大きな差がある.すなわち,一方の児が供血側となり他方の児は受血側となって,供血児は貧血,心筋肥大,羊水過少となり発育遅延状態をきたし,受血児は多血心拡大,心機能不全,胎児水腫,羊水過多となり児体重の異常な増加をみることが多い.
 その定義はまだ確立されていないが(表1),①出生時二児間の体重差が大きいほうの児に対し25%以上(20%とするものもある)あるもの,②出生時二児間の血色素量差が5.0g/dl以上のもの,③顕著な羊水過多(胎児水腫)と羊水過少(児はたいてい胎内死亡を起こしstuck twinとなる)を伴ったもの,④2児間に肉眼的に明らかに貧血と多血が認められる場合,⑤胎盤の2児のそれぞれの占有部に著明な貧血と多血が認められる場合などをTTTSとよんでいる.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・7

What is your diagnosis?

著者: 森谷卓也

ページ範囲:P.7 - P.9

症例:42歳,女性
 不正性器出血があり,臨床的には内膜ポリープの存在を指摘されている.内膜細胞診では疑陽性で,確定診断の目的にて内膜生検が施行された.Fig 1はその生検標本の代表的な弱拡大像Fig 2はその強拡大像である.
 1.鑑別すべき疾患は何か.

ARTシリーズ・7

ART周期の何パーセントが妊娠するか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.29 - P.29

 図は73%の周期に妊娠が起こらなかったことを示している.27%の周期は妊娠が起きたが,14%は単胎児が生まれ,8%は多胎児が生まれ,5%は子宮外妊娠,自然流産,中絶などで出産に至らなかったものである.多胎には問題が多い.新生児死亡は含まれていない.また減数手術に関するデータは含まれていない.多胎は妊娠1回として数えた.単胎と多胎を合わせた生存児をもうけた割合は22.6%である.

ARTシリーズ・8

ARTによる妊娠のうちどのくらいが生存児として生まれ,どのくらいが双胎か?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.34 - P.34

 図はART周期のうち妊娠した27%の帰結を示したものである.そのうちほぼ84%は生存児をもうけ,16%は1度は妊娠しながらもよい結果には至らなかった.全体の52%は単胎,32%は双胎であった(多胎は1妊娠として数えた).三胎もいれると全体の38%が多胎で,これが一般人口で起こる割合は2.7%である.
 多胎はさまざまな問題をもち,例えば内科的合併症,高い帝切率,児の未熟や低体重,新生児の障害を伴う発育などがある.妊娠してもよい結果とはならなかった場合は,子宮外妊娠,自然流産,死産などである.

ARTシリーズ・9

ARTの成功率は女性の年齢によりどのように影響されるか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.47 - P.47

 女性の自己卵を使用した場合,生存出産児の生まれる割合を決定する最も大きな要因は女性の年齢である.図は女性の各年齢別にみた妊娠率と生存出産率を示す.女性が20歳台のときは妊娠率も生存出産率もともに比較的高い.しかし,それらは30歳台の始めから減少し始め,30歳台中期に至って急速に減少する.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

尖圭コンジローマの凍結療法における新しい簡易型クライオスプレー器具について

著者: 佐藤賢一郎

ページ範囲:P.65 - P.65

 産婦人科領域における凍結療法は,1883年Openchowskiの腟内冷水灌流法による慢性頸管炎の治療が最初の報告とされている.以来,子宮腟部びらん,尖圭コンジローマなどを対象として発展してきたが,近年,その役割をレーザー治療に取って代わられつつある感がある.しかし,凍結療法には簡便性,上皮欠損を伴わないため感染の面で有利であること,比較的疼痛が少なく無麻酔でも処置が十分可能なことなど捨てがたい利点がある.国民衛生の動向(1998年)によれば,本邦において尖圭コンジローマはここ10年間定点当たりの報告数に変動はなく,今後も一定の割合で産婦人科医が遭遇する疾患の一つと思われる.最近,筆者はBrymill corporation(アメリカ)のハンディタイプのクライオスプレー器具を使用する機会を得て,尖圭コンジローマの凍結療法の際に非常に有用であると思われたのでご紹介する.
 外観は写真のごとくであり,矢印部分のレバーを手前に引くと,矢頭の部分より液体窒素がスプレーされ患部を凍結させる仕様となっている.使用方法は添付のマニュアルに従い病変部全体が冷凍され白色化するまでスプレーし,解凍を待って大きさに応じて3〜5回繰り返す.筆者はこれを1〜2週ごとに治癒するまで行っている.液体窒素を用いた凍結療法には綿球法,銅デスク法,スプレー法の3法があるとされ,従来より綿球法が頻用されている.

産婦人科キーワード・45

ベセスダシステム

著者: 西村正人

ページ範囲:P.66 - P.66

語源
 子宮頸部/腟部の細胞診の結果の報告様式の一つであり,アメリカで生まれた新しい方法である.例えばatypical cellという言葉は非常に曖昧な言葉であり,正常にも異常にも解釈できる.以前の報告形式はこのように報告者により曖昧な表現が多く,臨床家とのトラブルも多かった.このような用語を正すために,NCI(National CancerInstitute)が主催となり,1988年に米国・メリーランドのベセスダにて細胞診に関するワークショップが行われ,報告形式が議論された.ここで決定された細胞診の報告様式をベセスダシステムという.

産婦人科キーワード・46

補体第二経路

著者: 鎌田正晴 ,   前川正彦 ,   青野敏博

ページ範囲:P.67 - P.67

語源と歴史
 1895年Bordetは免疫血清による溶菌には二つの因子が必要であることを明らかにした.すなわち,特異的で熱耐性な因子(抗体)と非特異的で熱に弱い因子(補体,complement)である.すべて(com)満たした(plere)ものがcompleteであり,そのために補充するものがcomplementである.補体は通常不活性であるが,抗原抗体反応により活性化される.その他細菌の多糖類や蛋白分解酵素により活性化される経路もあり,前者を古典経路(classical pathway),後者を第二経路(alternative pathway)とよぶ.“classicus”は,古代ローマの最上級の階層で,“classic”は“一番優れたもの”を意味する(ルネッサンス時代はギリシア・ローマの芸術や文学がより優れていると考えられた).“alter”は英語の“other”に相当し,“他の,第2の”を意味する.

病院めぐり

聖霊病院

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.68 - P.68

 社会福祉法人聖霊会聖霊病院は,第二次世界大戦後の混乱の中,1945年10月に人道的,宗教的使命感から聖霊奉侍布教修道女会の4名のシスターと2名の医師でここ名古屋市昭和区に開設された聖霊診療所がそのスタートです.1952年に現組織となり,1968年からは300床に増床して現在に至っています.東海地方唯一のカトリック総合病院として,カトリックの基本精神である「生命の尊厳」に基づく「愛と奉仕」の人間愛で職員一同が日夜診療に当たっています.また,本年から3年間,全国の29のカトリック医療施設からなる日本カトリック医療施設協会の会長施設を務めることにもなりました.
 産婦人科は藤田保健衛生大学から派遣された6名の常勤医師によって診療を行っています.外来患者数は1日80〜90名で,毎日5名の医師が担当しております.特殊外来を設けることなく,患者側の都合に合わせていつでも受診していただけるようにしています.

麻田総合病院

著者: 谷本博利

ページ範囲:P.69 - P.69

 麻田総合病院は四国・香川県のほぼ中央,瀬戸内海に面した“讃岐うどん”と“うちわ”で有名な丸亀市にあります.本館(7階)と東館(5階)で構成され,診療科21科と救急科,臨床病理科,ICUで構成される病床数310床の総合病院です.厚生省臨床研修指定病院のほか,各科学会認定施設の指定を受け,香川県中讃地方の基幹病院として診療に携わっています.
 産婦人科は久住一郎副院長,谷本博利医長,片山博子医師と広島大学産婦人科医局からの非常勤医師で診療を行っています.久住副院長は,当院産婦人科開設以来,昼夜を問わぬ超人的な勤務により,人口の少ない香川県において多くの県人がこの世に出るお手伝いをした街の人気者です.片山医師は新婚生活を犠牲にして診療に情熱を燃やしています.周産期医療は,産婦人科に加え小児科から石井禎郎医長も参加し分娩から新生児医療,さらに小児医療までを正常,異常に関わらず一貫して行える体制になっています.ただ,残念なことにNICUを持たないため,NICU管理の必要な症例に関しては国立療養所香川小児病院のご協力をいただくことで対応しています.分娩については,母親学級,両親学級への積極的な参加を促し,夫の立ち会いはもとより,親や兄弟姉妹などの家族立ち会い分娩も行っています.

OBSTETRIC NEWS

経腟超音波による子宮頸管長測定と産科管理

著者: 武久徹

ページ範囲:P.70 - P.71

 経腟超音波による頸管長測定で,頸管短縮が認められると早産率は高くなる.そのような症例に有効な介入方法はあるのだろうか.1999年の米国周産期医学会ではこの問題に関するいくつかの研究結果が発表された.そのなかから頸管縫縮術の有効性に関する研究を紹介する.

頸管熟化方法—フォーリーカテーテルの有用性

著者: 武久徹

ページ範囲:P.82 - P.83

 米国では,誘発分娩が年々増加しており,1992年の11%から1996年には17%となっている[NCHS Monthly Vital Statistics Report.vol.11(suppl),June 30,1998].誘発分娩率が43%という施設もある(AJOG 180:628,1999).誘発分娩の増加の原因は明らかではないが,数多くの無作為対照試験で有効性と安全性が明らかにされている薬剤が複数紹介されてきたのも,誘発分娩率が増加している一因と思われる.
 誘発分娩の成功率は,開始時のBishopスコアに影響される.したがって,有効な頸管熟化剤が使用できれば,誘発分娩の不成功率が減少し,妊婦と胎児に恩恵がある.欧米で明らかに有効性が証明されている薬剤が日本では使用許可されていないため,日本では未成熟頸管のまま,誘発分娩を開始しなければならないというハンディキャップがある.しかし,日本でも使用できるフォーリーカテーテル(以下,Foley)は頸管熟化方法として有用であることが複数の研究で明らかにされている.子宮や頸管内操作は感染の危険をつねに伴うので,十分な配慮が必要であるが,有効な頸管熟化剤を利用できない場合の選択としては受け入れられる方法のようである.

分娩後出血とmisoprostol

著者: 武久徹

ページ範囲:P.84 - P.85

 Misoprostol(商品名:Cytotec)は,プロスタグランジン(PG)E1アナログで,欧米では胃潰瘍の経口治療薬として販売されている.Misopros—tolは安価のため,米国食品医薬品局(FDA)で許可されているPGゼリーの代わりに,頸管成熟や分娩誘発の目的で使用され(25μg腟内投与),有用性が高いことが示されている.Misoprostolは安全性が証明されていて,吸収はきわめて早く,経口投与後約2分以内に血中で検出され,30分以内で最高濃度になる.経口投与数分以内にきわめて強い子宮収縮作用が現れ,少なくとも2時間持続する(Contemp Rev in Obstet Gynecol p 27,March 1997).数年前からmisoprostolを分娩後の多量出血時に使用し有効であることが証明されている.ロンドンのEl-Refacyらは237例を対象に,児が娩出し,臍帯をクランプした直後にmiso—prostol 600μgを産婦に経口投与した.他の子宮収縮剤は使用しなかったが,助産婦が必要と判断した例では,他の子宮収縮剤が使用された.その結果,分娩後の多量出血(>500ml)は6%,オキシトシン必要例5%,胎盤残留2%,分娩第3期は平均5分であった.分娩後1時間以内の副作用は,嘔吐8%,下痢3%で,約60%に悪寒がみられた(表1).悪寒は分娩後約5分でみられるが,約15〜20分後に自然に消えていく.

誌上Debate・7

閉経間近婦人子宮全摘時の卵巣摘除の是非

著者: 薬師寺道明 ,   藤本征一郎 ,   櫻木範明

ページ範囲:P.74 - P.80

 是 閉経間近の婦人の子宮全摘時には卵巣も摘除すべきである.
●理由(その1)
 第2次世界大戦後,日本婦人の癌マッピングは大きな変化がみられ,女性の性器癌も例外ではない.なかでも卵巣癌の発生率は急速な増加がみられ,乳癌とともに早急な対応を迫られている性器癌である.

Expert Lecture for Clinician

三相性低用量経口避妊剤Triquilar—その適正使用のために

著者: 中村元一

ページ範囲:P.87 - P.95

 第40回日本母性衛生学会総会ならびに学術集会(会長:住吉好雄 横浜市愛児センター所長)に併催されたランチョンセミナー『三相性低用量経口避妊剤Triquilar—その適正使用のために—』(日本シエーリング株式会社共催)が,玉舎輝彦座長(岐阜大学医学部産婦人科学教室教授)のもと,1999年10月1日,横浜市のパシフィコ横浜で開催された.
 演者の中村元一氏は,低用量経口避妊剤,なかでも三相性低用量経口避妊剤の臨床治験成績を中心に講演し,低用量経口避妊剤の副作用および副効用についてまでをわかりやすく解説した.講演の概要は以下のとおり.

原著

Add-back療法における結合型エストロゲン投与量調節の試み

著者: 星本和倫 ,   大藏健義

ページ範囲:P.97 - P.101

 最近では子宮筋腫や子宮内膜症に対し,Gn-RHagonist(Gn-RHa)による内科的治療法が注目を浴びている.しかし,血中エストラジオール(E2)値の低下がもたらすいくつかの副作用が問題となる.これらの副作用に対し,エストロゲン補充療法の併用(add-back療法)が試みられている.一般的には結合型エストロゲン(CEE錠:プレマリン錠)0.625mgの連日経口投与法あるいは隔日経口投与法などがある.しかし,連日投与法では血中E2値が高くなり過ぎるし,隔日投与法ではCEE錠の体内薬物動態から考えて血中E2値の変動が大きすぎる.そこで今回われわれは,CEE錠(0.625mg)を粉砕して0.1,0.2,0.3,0.4,0.5mgのCEE細粒をそれぞれ作製し,これを用いてadd-back療法を試み,有効な成績を収めたので報告する.

症例

平滑筋肉腫と管状腺癌が混在した子宮癌肉腫の1例

著者: 小原範之 ,   寺本憲司 ,   新谷潔 ,   塚本澄子 ,   鷹井敏子 ,   近藤さおり ,   三村恵子

ページ範囲:P.103 - P.105

 悪性ミュラー管混合腫瘍のなかで悪性間葉成分が子宮と同種性成分からなるものは癌肉腫に分類されている.今回,比較的まれな腫瘍である子宮癌肉腫症例を経験したので報告する.
 患者は59歳の閉経後婦人であり,不正性器出血を主訴として来院した.外子宮口より脱出したポリープ状腫瘤を認めたが,腫瘤表面の細胞診はクラスⅡであった.MRIにて変性した粘膜下筋腫が疑われた.腫瘍マーカーでは血清CA125が51.7U/mlと軽度上昇していた.筋腫分娩の診断で単純子宮全摘出術と右卵巣摘出術を施行したが,術後の組織所見にてポリープ状腫瘤に平滑筋肉腫を,子宮内膜に腺癌を認めたことから子宮癌肉腫と診断された.術後化学治療は行っていないが現在再発の徴候はない.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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