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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科54巻10号

2000年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 女性の泌尿器疾患—最新情報 概説

1.女性下部尿路の構造と機能

著者: 中田真木

ページ範囲:P.1166 - P.1169

膀胱の構造(図)1)
 膀胱は主に内胚葉から発生した袋状の臓器で,やや疎な結合織でできた外膜,平滑筋層,および内面の全体を覆う粘膜の3層からなる.発生学的には膀胱は,両側の尿管開口部と膀胱尿道移行部によって境界される膀胱三角とそれ以外の排尿筋に区分され,排尿筋は全く内胚葉由来であるのに対し,膀胱三角は表層に尿管と共通の中胚葉起源の平滑筋を持つ.排尿筋は蓄尿時には弛緩しており排尿時にのみ収縮するが,反対に膀胱三角は蓄尿時に収縮しており排尿時に弛緩する.尿管開口部から上の排尿筋を膀胱体部と呼び,それより下の膀胱底と区別するが,体部と底の区分は解剖学的ではなく,筋層の走行やレセプターの分布,薬理学的な反応性などの違いに着目した機能的な区分である.
 膀胱は前下方で恥骨裏面に接し,充満時には腹直筋の後面にも接している.後方では下から順に腟,子宮頸部,腹膜に接する.中高年女性ではしばしば,膀胱は子宮頸部の側方から後方の骨盤腔領域を占めるに至る.

2.泌尿器系検査法—ウロダイナミックスを含む

著者: 黒川泰史 ,   香川征

ページ範囲:P.1170 - P.1173

 近年,解剖学的,生理学的な女性特有の泌尿器疾患が報告されることが多くなり,female urologyとして独自に扱われるようになってきた.female urologyで扱われる多くは別項で取り上げられている尿失禁,尿路感染症,および妊娠,婦人科疾患と泌尿器系疾患の合併などである.
 これら女性特有の泌尿器疾患における泌尿器検査法について概説する.

3.女性の泌尿器科疾患の特徴

著者: 加藤久美子 ,   鈴木弘一 ,   村瀬達良

ページ範囲:P.1174 - P.1176

はじめに
 泌尿器科は男性の行く診療科という古いイメージがあるが,最近の外来では排尿障害を持つ女性が無視できぬ割合を占めるようになった.以前から社会の側には,女性の職業・スポーツ活動が盛んになり女性尿失禁が支障となる機会が増えたこと,高齢化社会の本格化で高齢者の尿失禁,頻尿,排尿困難がのっぴきならない問題になったことから,治療のニーズが長く潜んでいたと考えられる.1980年代後半から本邦でも,尿失禁の実態調査1,2),尿失禁外来の開設3),低侵襲の尿失禁手術の導入4〜6),尿失禁治療薬の認可などをきっかけに医療関係者の関心が高まり,社会のニーズに応える形が徐々にできてきた.世界的に見てもこの時期女性泌尿器科(female urology)あるいは泌尿婦人科(urogynecology)の分野がsubspecialtyとして認知され,影響力のある教科書が出版されるようになった7,8)
 女性の泌尿器科疾患には腫瘍,結石など男女共通のものもあるが,女性泌尿器科が主に扱うのは腹圧性尿失禁,骨盤底弛緩,切迫性尿失禁,頻尿,間質性膀胱炎,子宮癌の手術・放射線療法後の排尿障害,瘻孔,尿道憩室などの問題である.泌尿器科,婦人科の境界領域とも言えるこの分野の疾患の特徴について述べる.

主要症状

1.尿失禁 1)尿失禁の分類と鑑別疾患

著者: 山田拓己

ページ範囲:P.1177 - P.1182

はじめに
 尿失禁の分類法には,これまで切迫性尿失禁や腹圧性尿失禁といった症状名や,溢流性尿失禁といった記述的表現が混在していた(表1).しかし,この分類法ではさまざまな原因で生じ,しばしば混在する病態を的確に整理するのは難しい.たとえば,切迫性尿失禁という症状は中枢神経障害による排尿筋の過活動によっても,尿道の閉塞による排尿筋の不安定性の増大によっても生じるので,それらを見極めなければ的確な治療は行えない.正常な蓄尿機能や尿排出機能は膀胱と尿道の正常な相互作用で形作られるが,尿失禁はこれらの異常によって発生し,その組み合わせによってさまざまな形態をとる.
 そこで本稿では,尿失禁を分類するにあたり排尿障害の分類に則して話を進める(表2).

1.尿失禁 2)薬物療法

著者: 石河修

ページ範囲:P.1183 - P.1185

はじめに
 大阪市立大学では1990年より排尿障害外来を開設し現在に至っている.その間尿失禁患者に最も必要な尿失禁管理の専門医の養成に努めてきたが,ここに至り尿失禁管理に必要なことは,むしろあらゆる施設のすべての産婦人科医にとって取り扱いが容易であり,患者が満足できる統一化された尿失禁管理基準の早急な取り決めである.その条件としては,簡便でしかも安全性が高く臨床的に有用な診断,管理の基準であろう.
 そこで,今回は当外来での経験よりえられた知見をもとに,産婦人科医として尿失禁患者を診るにあたり最低限必要な薬物療法の実際について述べることとする.

1.尿失禁 3)理学療法

著者: 進純郎

ページ範囲:P.1186 - P.1188

はじめに
 最近では高齢化社会に向かってqualituy of lifeが重要視されるようになり,その中で尿失禁をいかに防止するかが重要課題の1つになっている.尿失禁は排尿障害の一症状であり,その原因も多岐にわたっているため,原因を明らかにすることが正しい治療の第1歩である.
 治療法は失禁の種類により異なるものの,いずれの尿失禁も保存的療法と外科的療法に大別される.主な治療法は薬物療法と手術療法であり,過去10年間にその治療内容は豊富になり,尿失禁に悩む患者に福音となっている.また,一方尿失禁の原因の一部は骨盤底筋の脆弱化もかかわっているため理学的療法も有用な治療法の1つである.ここでは主な理学的療法に関して概説する.

1.尿失禁 4)尿失禁の手術療法—術式選択の重要性

著者: 近藤厚生 ,   磯部安朗 ,   黒田和男 ,   弓場宏 ,   上平修 ,   松浦治

ページ範囲:P.1192 - P.1196

 手術療法は有効な治療手段である.尿失禁のタイプを注意深く検討した上で,最適の術式を選択しなければならない.タイプI/IIの尿失禁には,術者の得意とする術式で手術すればよい.しかしタイプIII症例の場合には,スリング手術または恥骨後腟壁挙上術を採用するべきである,コラーゲン注射による尿失禁手術は,日帰り手術として応用できる.しかし対象患者は65歳以上の高齢者に限定するべきである.TVT手術は中部尿道を支持して恥骨尿道靭帯を補強するものである.手術侵襲が低いので,日帰り手術として応用可能である.最小侵襲手術である腹腔鏡手術の長期成績は未だ不明であり,その臨床応用は慎重に行うことが望ましい.

1.尿失禁 5)失禁に対するセルフケアのためのアドバイス

著者: 西村かおる

ページ範囲:P.1197 - P.1199

セルフケアの3つの方向性
 尿失禁は生活習慣病と同様に日常生活においてセルフケアが求められる症状である.本稿では機能性尿失禁をのぞく尿失禁のセルフケアを中心にそのアドバイスについて述べる.
 セルフケアをアドバイスする上では3つの方向性がある.まず第一に失禁の予防である.特に出産後や更年期女性,また子宮脱など骨盤内臓器が下垂していても失禁のない女性には予防の観点からアドバイスを行う.第二に現在,失禁症状があり治療のためのセルフケアが求められる場合である.この対象者は症状が完治,あるいは改善することで問題も一緒に解決できる人たちと考える.第三に失禁症状が完治せず,障害として残った場合,生活上問題にならないようにしていくケアである.具体的項目については表1に示したが,それぞれが重なる部分もあり,個人的なニーズに合わせたアドバイスが必要になる.

2.頻尿

著者: 柏原剛 ,   井川靖彦

ページ範囲:P.1200 - P.1204

 頻尿は,尿失禁とともに女性患者が外来を受診する際の主要な症状の一つである.しかし,頻尿は原因が判然としないものが多いため,発生機序を正確に把握して診断した後に治療する必要がある.診断には問診をしっかり行うことが大切で,特に排尿困難(尿の排出障害)の有無によって大きく治療法が異なる.そのためには詳細な病歴の聴取と排尿記録表(表1)への記載を通して頻尿の程度と質を調べることが重要となる.その上で原因疾患の治療ならびに症状を軽減するための治療を行う.

3.排尿障害

著者: 三橋直樹

ページ範囲:P.1206 - P.1207

はじめに
 排尿障害は狭い意味ではいわゆるdysuriaを指し,さまざまな原因から尿が出にくい状態をいう.また広い意味では頻尿や尿失禁などさまざまな下部尿路系の症状を指すこともある.本特集では尿失禁および手術後の問題については別にあつかわれているので,ここではそれ以外のdysuriaを起こす疾患のなかで,産婦人科医として知っておくべきものを述べることにする.

尿路感染症

1.複雑性膀胱炎

著者: 荒川創一 ,   岡田弘 ,   守殿貞夫

ページ範囲:P.1208 - P.1209

 尿路感染症は,一般にその発症形態あるいは経過から急性と慢性とに分けられる.急性感染症は,その典型である急性単純性膀胱炎や急性単純性腎盂腎炎の画一的病態を考えれば,その実像が理解できる.一方,尿路に器質的あるいは機能的基礎疾患をもつ複雑性尿路感染症は,慢性に経過するものが多いが,中には結石の尿管嵌頓に伴う発熱性腎盂腎炎や小児の膀胱尿管逆流症に伴う腎盂腎炎など,複雑性であっても,急性発症し,エンピリック療法の対象となるものがある.膀胱炎でも,排尿痛や頻尿など,単純性のそれに類似した明確な感染症状を自覚することも少なくない.これらは,長期尿路カテーテル留置状況における膿尿,細菌尿の持続状態に代表される無症状の慢性経過例とは一線を画して対応する必要がある.本稿では,基礎疾患を背景とする複雑性膀胱炎の診断と治療について,概説したい.

2.腎盂腎炎

著者: 坂義人

ページ範囲:P.1210 - P.1211

 腎盂腎炎は腎盂・腎杯および腎実質の感染症で,病態により単純性と複雑性に分けられる.単純性は尿路に基礎疾患のない状態で発症する腎盂腎炎で,複雑性は何らかの尿路疾患に続発して発症する病態をいう.複雑性腎盂腎炎はさらに急性と慢性に別けられるが,慢性症は経過中に急に発熱などの症状を呈して急性発症の形をとる場合もある(図1).これらの病態によって治療方針が大きく異なるので,各病態の特徴を十分理解しておくことが大切である.
 一般に単純性腎盂腎炎は性的活動期の女性に多いのに対して,複雑性腎盂腎炎は各年代にわたって男女共にみられる,女性の複雑性腎盂腎炎は,性器や付属器の腫瘍あるいは神経因性膀胱機能障害や尿路変向術後に多い.

泌尿器疾患合併妊娠

1.慢性腎炎

著者: 草薙康城 ,   伊藤昌春

ページ範囲:P.1212 - P.1214

 腎臓病学や周産期医療の進歩により,慢性腎炎合併妊娠の予後と管理方法が明確になりつつある.本稿では正常妊娠における腎機能変化,慢性腎炎の概念,および腎炎合併妊娠の管理法について概説する.

2.腎不全合併妊娠

著者: 安達知子 ,   新井理水

ページ範囲:P.1215 - P.1217

はじめに
 慢性腎不全患者は,一般的に,腎機能低下の進行に伴い月経不順や無月経など卵巣機能不全の状態となり,妊娠率も低下してくることが多い.また,妊娠した場合でも,母体と胎児の両者にとってリスクの高いものとなり,腎機能障害が強いほど流早産,子宮内胎児発育遅延,子宮内胎児死亡や妊娠中毒症などが発症しやすいといわれている.さらに妊娠中や妊娠終了後に腎機能の悪化や高血圧の増悪がみられやすいことが知られている.したがって,患者と家族への十分なインフォームドコンセントと,妊娠中の厳重な管理が必要となる.
 ここでは,稀な急性腎不全合併妊娠は省略し,慢性腎不全合併妊娠を保存期慢性腎不全(透析導入前)と透析中に分けて,その管理を中心に述べる.

3.その他の泌尿器疾患—腎盂腎炎,尿路結石,水腎症,腎癌

著者: 伊原由幸

ページ範囲:P.1218 - P.1220

はじめに
 妊娠中の急性の尿路閉塞は母児に重篤な影響をもたらすが,尿路通過障害,水腎症の主たる原因は尿路結石である.また妊娠中の入院を必要とするような高度の腹痛の原因としては,産科的疾患を除けば,尿路結石が一番多い1).本稿では主として尿路結石合併妊娠について最近の取り扱い方を述べ,さらに頻度は少ないが腎腫瘍についても言及する.

婦人科手術と尿路障害

1.膀胱・尿管損傷の処置

著者: 永田一郎

ページ範囲:P.1221 - P.1227

膀胱損傷
 腹壁,子宮および付属器に隣接する膀胱は産婦人科手術に際して常に損傷する可能性がある.

2.婦人科手術後の排尿障害

著者: 近江和夫

ページ範囲:P.1228 - P.1230

はじめに
 本稿では,子宮の悪性腫瘍に対して行われる広汎性子宮全摘除術(以下,広汎術式)の術後に必発する排尿障害について概説を試みる.
 術後の排尿障害は欧米でも本邦においても古くから研究され1),その原因は主として骨盤の自律神経の損傷によるものと,ほぼ明らかにされている.

3.腎瘻・人工膀胱の管理

著者: 久保田洋子

ページ範囲:P.1232 - P.1233

はじめに
 女性内性器の疾患やその手術に伴い尿路変更術を施行する機会は増加している.膀胱癌に対する膀胱全摘除術後の尿路変更術は著しく進歩しているが,婦人科手術に伴って施行される場合は,一般に広範な病変を持つ症例であり,全身状態不良であることも多く,複雑な尿路変更術ではなく,短時間,低侵襲で行い得る術式:腎瘻術や尿管皮膚瘻術,長期生存が期待される症例でも回腸導管が用いられる場合が多い.本稿では腎瘻,尿管皮膚瘻,回腸導管の管理について解説する.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・16

What is your diagnosis?

著者: 清水道生 ,   伊藤智雄

ページ範囲:P.1163 - P.1165

症例1:56歳,女性
 子宮筋腫のため,子宮全摘術および両側付属器切除術が施行された.Fig 1は摘出標本の左の卵巣門(hilus)に認められた偶発病変の組織像(HE染色)である.
 1.良性病変か,それとも悪性病変か.

病院めぐり

土谷総合病院

著者: 小田博宗

ページ範囲:P.1238 - P.1238

 土谷総合病院は,土谷剛治先生が「外科土谷病院」として昭和12年に広島市西新町に開設し院長に就任されたときから始まりましたが,昭和20年の原爆により被爆したため,市内大手町に昭和21年9月に再建されました.そして昭和41年5月に土谷太郎現名誉院長が「医療法人あかね会」を設立して理事長に就任,同年9月に市内加古町に土谷病院を移設(ここは現在,JMS販売広島営業所となっています)し,その後は昭和56年4月に特定医療法人の認可を得て,同年11月にひろしま平和記念公園前の現在地に病院を再度移設しています.産婦人科の診療はちょうどそのときから始まり,その後は患者さんのニーズに応えるべく診療科が逐次拡充されて,昭和63年に総合病院の形態となり現在に至っています.当院の現在の常勤医師数は54人,全職員数は550人,許可病床数は394床で,広島市内の私的病院としては最大規模を誇っています.しかも地域住民に受け入れられるべく,救急告示病院となって患者サービスに努めているのはもちろんですが,地域医療に参画して臨床研修指定病院となり,研修医の募集,教育,指導の他に,看護婦・助産婦教育の実習病院にもなっています.
 病院設備の面から述べてみますと,手術室は6室,うち1室は臓器移植を考えたバイオクリーンルームです.

マツダ病院

著者: 木岡寛雅

ページ範囲:P.1239 - P.1239

 マツダ病院は昭和13年に東洋工業株式会社医務室として開設されたのにはじまり,昭和25年に東洋工業株式会社附属病院に昇格,昭和36年,現在地に病院を建設し10科150床の総合病院として診療を開始しました.昭和59年に本社の社名変更にともないマツダ病院と改称し,現在16科300床で運営しています.当初は企業病院としての性格が濃かったのですが,最近では広島市東部の基幹病院として地域医療を推進しています.病院は広島駅より1駅の向洋駅から徒歩1分と交通の便が非常によく,1日外来患者数は1,100名を超え,その約7割は一般患者で占められています.
 また,1.5テスラMRI,スパイラルCT,高速回転DSA,可変型ガンマカメラなど高性能最新鋭器を導入し,診断技術の高度化に取り組んでいます.平成11年6月より日帰り手術センターを開設し,現在30名/月のペースで利用され,患者にも喜ばれています.平成10年には,厚生省臨床研修病院に認定され,臨床研修プログラムを作成して積極的に研修医を受け入れています.

産婦人科キーワード・55

プロテインキナーゼC

著者: 牛越賢治郎

ページ範囲:P.1240 - P.1240

語源と歴史
 タンパク質をリン酸化することにより活性化させる酵素がプロテインキナーゼである.1977年に西塚らにより,プロテアーゼによって活性化されるcAMP非依存性プロテインキナーゼのプロ酵素として見出されたのがプロテインキナーゼC(PKC)である.cAMP依存性のプロテインキナーゼA(Aキナーゼ)に対し,Ca2+依存性であることから“C”の名がつけられた.

産婦人科キーワード・56

ステロイドホルモン細胞膜レセプター

著者: 漆川敬治

ページ範囲:P.1241 - P.1241

細胞内レセプタースーパーファミリー
 ステロイドホルモンは小型の疎水性分子であるために,標的細胞の細胞膜を通過して細胞内のレセプターに結合し,特定の遺伝子の発現を調節することが従来より明らかにされている(図a).この細胞内レセプターは,C末端側にステロイドホルモン結合領域を持ち,分子の中央にDNA結合領域を持つことなどが知られている.各種ステロイドホルモンレセプターは甲状腺ホルモンやビタミンDのレセプターとも構造上類似点が多く,細胞内レセプタースーパーファミリーを形成している.

Estrogen Series・45

まだ実証されていないphytoestrogenの効果

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1242 - P.1243

 最近の米国では製品が「自然」なもので「更年期に有効」として,多くのphytoestrogenが売られている.そのすべては「健康食品」として販売されているためFDA(食品薬品局)の管轄下にはなく,したがって薬品としての有効性や副作用の判定を受けてはいない.今回は最近のLancet誌から,この問題に関するeditorialをご紹介したい.
 Phytoestrogenは植物性の物質(diphenolic compound)で,消化管中でエストロゲン物質に転換される.最近はエストロゲン療法の「自然な」代替物として使用されるようになってきた(ただし,医薬品としてではなく).(欧米の)女性雑誌にはphytoestrogensケーキとかphytoestrogensビスケットなどの調理法が掲載されている.

原著

婦人科手術における術後D—ダイマー値の検討

著者: 樋田一英 ,   恒松隆一郎 ,   山田拓郎 ,   笠松高弘 ,   澤田守男 ,   近江和夫

ページ範囲:P.1245 - P.1250

 術後正常経過をとった婦人科手術患者33例で血栓症の推移としてD—ダイマーの値を検討した.婦人科手術後約1週間におけるD—ダイマーの値は,単純子宮全摘(単摘)では1.83±0.76μg/ml,広汎子宮全摘などの単摘より大きな手術では5.17±2.39μg/mlを示した.術後のDダイマーの値は,手術の種類,手術時間および出血量との相関を認めた.また年齢やBMIによる影響は認めなかった.
 当院において術後に測定したD—ダイマーが高値であることを契機として発見された肺塞栓2症例の術後D—ダイマーの値は,44.7μg/ml(単摘後7日目),22.9μg/ml(単摘+リンパ郭清後7日目)といずれも今回得られた数値から大きく逸脱していた.

症例

子宮筋層内転移を認めたplacental site trophoblastic tumor(PSTT)の1例

著者: 中元剛 ,   斉藤淳子 ,   八百井雅美 ,   西田ヒロ子 ,   松原高史 ,   松尾泉 ,   大崎尚 ,   北田光美 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.1251 - P.1254

 われわれは,子宮底部にplacental site tropho—biastic tumor(PSTT)を認め,子宮体部筋層内に別な転移病巣が発見された1例を経験したので報告する.症例は52歳で,5回経妊2回経産.不正性器出血,下腹部痛を主訴に当院を受診し,子宮筋腫の診断のもと,腹式単純子宮全摘術・両側付属器切除術を施行した.子宮底部内膜側に大豆大の腫瘤を認め,またそこから離れた正常体部筋層内に出血巣が認められた.組織学的には腫瘤には多・巨核の異形細胞が巣状に密に分布しており,子宮筋層内側の平滑筋間にも小円形細胞の浸潤が認められた.血清学的所見および,免疫組織学的所見よりPSTTと診断した.また体部筋層内の出血巣にも同様の組織学的所見が認められ,子宮内転移と考えられた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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