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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科54巻11号

2000年11月発行

雑誌目次

今月の臨床 母子感染—最新の管理指針を考える 最近の動向と新たな問題点

1.産婦人科の立場から

著者: 川名尚

ページ範囲:P.1266 - P.1270

 本邦では,年間約120万の新しい生命が誕生するが,そのうちで母子感染よって問題が生じるのは約1,000程度ではないかと考えている.この数は出生数全体からみたら多いとは言えないかも知れないが,もし10年間この数字が続くと約1万人の障害児が出生することになり医学的にも社会的にも重要なことになってくる.
 母子感染の影響は,広いスペクトラムをもっている.流早死産という形で胎児を失うことから先天感染による奇形,先天感染児,新生児・乳児の感染症,そして成人において例えばB型肝炎ウイルスの母子感染よる肝硬変・肝癌の発症までと幅が広い.さらに今までに判っていない母子感染の影響まで考えると母子感染は誠に重要な医学上の課題と言ってよい.

ウイルスの母子感染とその管理

1.風疹

著者: 種村光代

ページ範囲:P.1271 - P.1273

はじめに
 風疹ウイルス1,2)は,単鎖でプラスセンスの全長9757ヌクレオチドのRNAを遺伝子として持つ,小型のエンベロープウイルスである.三日ばしかとも呼ばれる小児期の代表的な感染症であるが,最近では,むしろ妊婦の感染による先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:以下,CRS)の方が注目されている.
 日本では,1977年より女子中学生への風疹ワクチン接種,1989年からはMMRワクチン接種が始まり,以前のような大流行は認められなくなったが,1993年にはMMRワクチンは中止となっている.厚生省サーベイランスの累積報告数では,1997年の風疹患者は,前回の1992年の流行期よりはるかに減少しており,1993年のMMRワクチン中止の影響はまだ明らかではない3).さらに1994年には,予防接種法の改正により単味の風疹ワクチンを生後12か月以上の幼児に接種し,経過措置としては,1999年まで小学校1年生と,さらにこれまで行ってきた女子中学生の接種を2003年まで男子も含め接種を行うこととなった.しかし,各地方自治体ごとのワクチン接種方法の違いにより接種率にばらつきがあるため,局地的な流行はまだ消失していない.

2.B型肝炎

著者: 柳原敏宏

ページ範囲:P.1274 - P.1276

はじめに
 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)は約3.2Kbの環状2本鎖DNAを有し,ヘパドナウイルス科に属するDNAウイルスであるが逆転写酵素,DNAポリメラーゼ,RNaseの3種類の酵素活性のあるポリメラーゼをもち,感染肝細胞内において逆転写の過程を介して増殖している.感染経路については,HBVは血液,精液,唾液などに存在するため輸血,針刺し事故などの医療事故,母子感染,性行為感染,家庭内感染などがある.HBVの感染様式には一過性感染と持続感染がある.一過性感染ではHBV感染が生じた後に免疫応答が生じてウイルスは排除され,感染防御抗体であるHBs抗体が産生されてくる.一方,持続感染ではHBV感染後もHBs抗体は産生されず,HBVは肝細胞内に長期間寄生した状態となる.成人の初感染による肝炎は一過性の感染で,持続感染へ移行することはほとんどない.持続感染,すなわちHBVキャリアは母子感染と小児期(3歳以下)の水平感染で成立すると考えられ,生涯無症候性のものから,慢性肝炎,肝硬変,肝癌へと進展するものまである.本稿ではHBVの母子感染について管理方法を主に述べたい.

3.C型肝炎

著者: 打出喜義

ページ範囲:P.1277 - P.1280

ウイルスの性状
 C型肝炎ウイルス(HCV)は,その表面にスパイク状の突起を持つ直径55〜65nmの一本鎖RNAウイルスで約9,500塩基からなっている.Open reading flameには5�側から,core(C)領域・envelope(E)領域といわれる構造領域と,それに続く非構造領域(non-structural region:NS)がある.5つに細分されている初めのNS1部位はE領域に含まれ(E2/NS1領域),ウイルス表面の抗原決定基となる被殻蛋白をコードしているが,多様性を示すために,HCVワクチン作成の際の障害となっている1)

4.サイトメガロウイルス

著者: 北中孝司

ページ範囲:P.1281 - P.1283

はじめに
 本邦ではサイトメガロウイルス(CMV)の抗体保有率が高く,妊娠中に初感染を受ける可能性は少ないとされてきたが,先天性CMV胎内感染症の報告が散見されるようになってきた.先天性CMV感染症で予後重篤例に遭遇すると,日常臨床の上でCMVの母子感染を予防する必要性を痛感する.
 ここでは,CMVの性状や疫学と妊娠中の感染,診断や管理方針などについて述べたい.

5.ヒトパルボウイルスB19

著者: 成瀬寛夫

ページ範囲:P.1284 - P.1286

 ヒトパルボウイルスB19(以下,B19)感染は多彩な臨床像を呈し,小児では伝染性紅斑(りんご病)を,慢性の貧血患者ではaplastic crisisを起こし,妊婦では流死産,非免疫性胎児水腫の原因として重要である.本稿では周産期の臨床で必要となるB19感染に関する事項をまとめた.

6.ヘルペス

著者: 二村真秀

ページ範囲:P.1288 - P.1289

はじめに
 単純ヘルペスウイルス(HSV)の母子感染は,アシクロビル製剤(ゾビラックス®)が保険治療薬として認可されているにもかかわらず,治療成績は必ずしも満足できる状況にはない.その理由として,新生児ヘルペス最重症型である全身型の診断の遅れが指摘されている1〜3).そこで自験例および名古屋市立大学医学部小児科関連病院にて経験された症例を検討し,早期診断のための指針を以下に紹介する.

7.水痘

著者: 渡辺博 ,   岡嶋祐子 ,   稲葉憲之

ページ範囲:P.1290 - P.1292

ウイルスの性状と臨床症状
 水痘は水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zostervirus:VZV)の初感染により発症する疾患である.VZVは単純ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスと同じくヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスであり,核酸として二本鎖DNAを持ち,エンベロープを有している.水痘は小児の代表的な急性ウイルス性発疹症であり,感染経路は気道からの飛沫感染と水痕部位からの接触感染である.感染が成立すると10〜21日(平均14日)の潜伏期間ののち,38℃台の発熱,倦怠感,食欲不振とともに体幹部に直径3〜4mmの紅斑が出現し,その後全身に紅斑,丘疹が広がり,急速に水疱化する.個々の水疱は4〜5日で痂皮化する.種々の段階の発疹が混在することが特徴で,すべての発疹が痂皮化するまでには7〜10日を要する.臨床症状消失後もVZVは三叉神経節や脊髄後根神経節に潜伏し,個体の免疫状態に応じて有痛性の水疱を形成する(帯状庖疹).成人では85〜90%がVZV抗体を保有しているとされているが,近年妊婦を含む成人の水痘罹患が増加しているという報告1)が見られる.水痘は基本的に予後良好な疾患であるが成人,特に妊婦では水痘肺炎を合併する危険が高くなる.妊娠中の水痘の感染源は家族内感染,特に水痘に罹患した子供との接触によるものが多い.

8.HTLV−1

著者: 伊藤雄二 ,   岩坂剛 ,   庄野秀明

ページ範囲:P.1293 - P.1295

ウイルスの性状
 成人T細胞性白血病(adult T-cell leukemia:ATL)の原因ウイルスであるhuman T—lymphotropic virus type 1(HTLV−1)はレトロウイルスに属するが,DNAの構造に約1.6kbのpXと呼ばれる領域を持つことが他のレトロウイルスとは異なっており,そのpX領域のtax, rexといった遺伝子がウイルスの増殖を制御するとともにATLの発症に重要な役割を果たすと考えられている1)

9.HIV

著者: 宮澤豊

ページ範囲:P.1296 - P.1301

はじめに
 WHO(世界保健機関)の報告によると,アフリカでは妊婦の40%がHIV(human immunodefi—ciency virus)感染者であり,年間13,000人の感染妊婦が分娩し,HIVの母子感染率が30%を超える国も少なくないと推定されている.
 わが国においては,1999年末までに34例の母子感染例が報告されているのみで,感染妊産婦や母子感染例が諸外国に比べ極めて少ないが,最近の若年層の感染者の増加や感染者のQOLの改善に伴い,今後,感染妊産婦が増加することが危惧される.

10.ウイルス関連性血球負食症候群

著者: 田中太平 ,   戸苅創

ページ範囲:P.1302 - P.1305

はじめに
 胎内感染症のTORCH症候群では慢性的な感染所見を呈するが,分娩前後でのウイルス感染症は児に重篤な症状をひきおこす場合もある.われわれは,分娩直前に母親がウイルス感染症に罹患し,垂直感染によって児がウイルス関連性血球貧食症候群(VAHS:Virus associated hemo—phagocytic syndrome)を合併した3例を報告した1).起炎ウイルスはコクサッキーB2と単純ヘルペスウイルスで,いずれの症例も血小板減少症・貧血・GOT優位の肝障害・高LDH血症・高フェリチン血症を伴い,骨髄検査によって血球貪食像を多数認めた.ここでは,VAHSについての総論および新生児期VAHSの特徴について述べていくことにする.

細菌などの母子感染とその管理

1.トキソプラズマ

著者: 小島俊行

ページ範囲:P.1306 - P.1309

微生物の性状
 トキソプラズマ症(toxoplasmosis)は,胞子虫類に属する細胞内寄生性の病原性原虫であるToxoplasma gondiiにより引き起こされ,典型的な人獣共通感染症(zoonosis)の一種である.トキソプラズマは,ほとんどすべての陸棲温血脊椎動物(哺乳類,鳥類),一部の爬虫類に感染する.魚類には寄生しない.
 自然水平感染経路はオーシストかシスト(嚢胞)による経粘膜感染(小腸粘膜,気道粘膜,眼瞼結膜)で,小腸粘膜上皮などから侵入する(図1).さらに初期は細胞内のまま血行性およびリンパ行性に,肝・脾・肺さらに全身の各臓器・リンパ器官に播種する.しかし宿主の免疫反応によりタキゾイトの増殖と播種は停止し嚢胞(tissue cyst)を形成する.嚢胞は抗生物質が無効のため,慢性期には,脳・骨格筋・心筋などに嚢胞として永久的に存在する.急性感染を起こした妊婦では寄生虫血症が生じ,タキゾイトが胎盤(絨毛)に感染し増殖し胎児に感染が成立する.

2.リステリア症

著者: 竹田善治 ,   坂井昌人 ,   中山摂子 ,   中林正雄

ページ範囲:P.1310 - P.1312

はじめに
 リステリア症はリステリア菌(Listeriamonocytogenes)による感染症である.本邦での年間発症数は20〜601)と報告されており,通常は悪性腫瘍,AIDSなど免疫不全となるような状態でもないかぎり罹患することはまれな疾患である.しかし妊娠中に関しては特殊な免疫状態のため健康妊婦であっても本菌に対しては感受性が高くなるという特徴がある.
 リステリア菌に感染した場合,妊婦の症状は発熱,感冒様症状など比較的軽微で非特異的であるにもかかわらず,児に対しては流早産や子宮内胎児死亡,早期新生児死亡など重篤な合併症を起こす.症状に乏しい感染母体から胎児に経胎盤感染を起こすため,妊娠中の診断が困難なことや,胎児への感染後の経過が非常に急速であることが児の予後を不良にしている要因である.このため本症の迅速な診断・治療が望まれるが,現在のところ母体血や羊水培養などから直接リステリア菌を証明する以外に診断を確定する一般的な検査法はない.リステリア菌は母児感染の原因菌として頻度は少ないが注意すべきものの一つといえる.

3.クラミジア

著者: 関博之

ページ範囲:P.1313 - P.1315

はじめに
 クラミジアトラコマチス(Chlamydia tra—chomatis)は,STDの主要な起炎菌で,女性においては無症状のまま経過することが多い.しかし,クラミジアは子宮頸管炎や骨盤感染症を引き起こし,不妊症や骨盤腹膜炎の原因となるばかりでなく,周産期領域においては流早産やPROM,胎児への垂直感染の原因となるため,適切な管理,治療が重要である.

4.梅毒

著者: 小林範子 ,   藤本俊郎 ,   佐川正 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.1316 - P.1320

はじめに
 近年,特にAIDSを代表とする性行為感染症(STD)が社会的問題と考えられてきている.梅毒も性交による接触感染で始まるTrePonema Pal—lidum(TP)による全身感染症でSTDの代表的疾患の一つであり,他のSTDとの合併も多い.今日では第3,4期梅毒はほとんどみられなくなってきたが,早期顕性梅毒(第1期,2期の最も感染力の強い梅毒)は再び増加の傾向にあり,その半数以上が潜伏梅毒であるといわれている.したがって,症状がなくても検診などで偶然に発見されることも多い.
 妊婦がTPに感染しTPが経胎盤性に胎児に感染すると先天梅毒となる.わが国では現在は妊娠初期の梅毒血清反応検査が普及しているが,検査が普及する以前は,先天梅毒児の出生や,自然流産,早産,死産,非免疫性胎児水腫,子宮内胎児発育遅延,新生児死亡なども認められることが多かった.Mascolaら1)は,妊娠の早期梅毒は未治療の場合,自然流産,死産,新生児死亡のいずれかになる確率が40%,先天梅毒児になる確率が40%であり,正常な児を娩出するのはわずか20%であると報告している.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・17

What is your diagnosis?

著者: 石倉浩

ページ範囲:P.1263 - P.1265

症例1:44歳,女性
 卵巣腫瘍を発見され右卵巣腫瘍が摘出された.肉眼的に一部チョコレート嚢胞の性状をもつ嚢胞壁から小隆起が多数見られた.この所見はserous cystadenoma of borderline malignancyの肉眼像と類似していた.Fig1に病理組織像を示す.これらの上皮成分をそれぞれ同定せよ.また本腫瘍の診断名は何か.

病院めぐり

JR東京総合病院

著者: 岡村隆

ページ範囲:P.1322 - P.1322

 当院は,明治44年5月に国有鉄道最初の直営病院として,社員とその家族の治療のために東京市麹町区銭瓶町に「常盤病院」として設立されました.その後,関東大震災や太平洋戦争により新宿,さらには渋谷へと移転し,名称も東京鉄道病院から中央鉄道病院へと改称されました.昭和62年4月には国鉄改革法によりJR東京総合病院と改称し,社員のみならず一般の方の受診も可能になりました.当院は現在,渋谷区代々木にあり,地下3階,地上15階の病棟をはじめ,外来棟,講堂,立体駐車場,高等看護学校を有し,23科496床で診療を行っています.また,当地は新宿駅南口から徒歩5分と交通の便がよく,さらには地域開発によりきれいな町並みとなり,サザンテラスは若い人たちで1日中にぎわっています.
 現在,産婦人科は常勤3名,非常勤1名の計4名で診療を行っています.東京大学産婦人科医局の関連病院として,医師の派遣あるいは当直医をお願いしています.

JA尾道総合病院

著者: 村上隆浩

ページ範囲:P.1323 - P.1323

 JA尾道総合病院は広島県東部,平成11年5月に開通した西瀬戸自動車道(しまなみ海道)の本州側玄関である尾道市に位置し,昭和32年11月3日に,当時,農協系統では日本一を誇る設備を完備した医療施設として開院した.当時は内科,外科,小児科,産婦人科,放射線科などの10診療科,総病床数280床,医師数13名であった.以後,施設,機能をより高度化・充実させ,平成10年4月に臨床研修病院に指定され,16診療科,病床数442床,医師数64名の広島県東部の基幹病院として発展している.
 産婦人科は,松岡敏夫主任部長(S49年卒),村上隆浩(S63年卒),村上順子(H3年卒),山下晶子(H11年卒)の4名で診療を行っており,産婦人科病棟は40床あり,いつもほぼ満床状態である.

産婦人科キーワード・57

レプチン

著者: 斎藤誠一郎

ページ範囲:P.1324 - P.1324

定義
 レプチンは,1994年にクローニングされた肥満遺伝子1)(ob遺伝子)の産物で,分子量16kDのタンパク質である.強力な摂食量抑制,体重増加抑制を示すため,ギリシャ語でやせるという意味であるleptosよりレプチン(leptin)と名づけられた.レプチンは,シグナルペプチドが除かれた146アミノ酸が血液中に分泌蛋白として存在する.主として脂肪組織より産生され,視床下部にあるレセプターを介して交感神経を活性化し,脂肪量を一定に保つフィードバック機構を持つとともに,生体内のエネルギーバランス系や生殖を含めた内分泌系に重要な役割を果たしている.

産婦人科キーワード・58

テロメラーゼ

著者: 西村正人

ページ範囲:P.1325 - P.1325

語源
 染色体の末端部はテロメアと呼ばれており,TTAGGGの繰り返し塩基配列が5〜10kb程度続いている.“tel—”はギリシャ語で“遠く離れた”を意味する接頭語で,telephone,television,telep—athyなどの単語に使われている.“meros”は部分,“—ase”は酵素を意味し,染色体の末端部(テロメア)を伸張させる酵素のことである.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレツスン—私のノウハウ

軟性子宮鏡検査における子宮腔内明視法について

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1326 - P.1327

 子宮鏡は,子宮腔内病変に対する有用な診断法の一つである.子宮鏡の歴史は1869年にPantaleoni DCが膀胱鏡を用いて60歳の治療抵抗性の子宮出血症例の子宮腔内を観察したのが始まりとされている.本邦では,1960年代より硬性鏡が開発され使用され始めたが,広く普及するには至らなかった.1980年代にはいって軟性鏡が開発されるに至り,より簡便な操作性と患者への負担軽減から近年,次第に普及しつつある.しかし,軟性子宮鏡では子宮頸管(以下,頸管と略)が狭窄している場合,子宮鏡と頸管が密着し灌流液が子宮腔内に停滞し,出血や浮遊物で明瞭な視野が得られにくいことがある.このような場合の対処法としては,注射器による加圧注入や32%高粘度デキストラン液の注入などが勧められているが有効でないことも多く,またいたずらに疼痛を招く可能性もある.そこで,われわれは本誌53巻3号(1999年)で既報したTCRにおける子宮腔内明視法(ネラトンドレナージ法)を子宮鏡検査にも応用し,良好な結果を得ているのでご紹介する.
 方法は以下の如くである.①まず,細径(4〜8Fr)カテーテルを最初に適当に子宮腔内に挿入し,助手が保持するか,または患者大腿部に絆創膏などで固定する。カテーテルのサイズは,子宮鏡が挿入可能な範囲で可及的に太いものとする.②続いて灌流しながら子宮鏡を挿入する.

原著

多嚢胞性卵巣症候群に対する柴苓湯の有用性に関する検討—特に排卵誘発について

著者: 酒井淳 ,   近藤善二郎 ,   亀井一彦 ,   角毅一郎 ,   和泉俊一郎

ページ範囲:P.1330 - P.1333

 月経異常を主訴として来院する患者の中に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症例をしばしば経験することがある.無排卵に対する薬物治療としてはクロミフェンやゴナドトロピン療法などが行われているが,効果が不十分であったり副作用が問題になることも多い.今回われわれはステロイド様作用を有するといわれる漢方薬「柴苓湯」を用いて排卵誘発を試みた.その結果,排卵率は57%であり,LHやLH/FSHも有意に減少した.PCOSの無排卵に対する治療薬の選択肢のひとつとして柴苓湯は有効であると思われる.

臨床経験

腹腔鏡における第1トロッカーのDirect挿入法の施行経験と安全性に関する文献的考察

著者: 高橋敬一 ,   佐藤孝道

ページ範囲:P.1336 - P.1340

 腹腔鏡で3〜5mm径の細径スコープを使用する場合,第1トロッカー挿入時には通常Veress気腹針を用いたClosed法が用いられるが,ガス塞栓,皮下気腫,筋膜下気腫などの問題がある.今回,気腹前に腹腔内を観察できる方法である.第1トロッカーのDirect挿入法を50症例に行った.その結果,Direct挿入法は大きな合併症もなく施行でき,文献的にもDirect挿入法はVeress気腹針を使用するより安全であると考えられた.Direct法施行時は,①腹壁の挙上はガーゼかスポンジを利用する,②第1トロッカーの活栓は開放して挿入する,③トロッカー挿入後,大網がスコープを覆うときにはスコープをトロッカー先端まで引き込み,観察しながら両者を同時に引いてくる,などに注意して行うとより安全に行えるものと考えられた.

準広汎子宮全摘出術における自動縫合器を用いた腟断端処理について

著者: 大山則昭 ,   木村菜桜子 ,   吉岡知巳 ,   高橋道 ,   太田博孝 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.1342 - P.1344

 今回,われわれは準広汎子宮全摘出術における腟断端処理に自動縫合器を用いた症例を経験したので報告する.症例は44歳の経産婦で,過多月経を主訴に受診した.諸検査により子宮体癌の術前診断を得て本術式の適応となった.準広汎子宮全摘出術にて子宮を摘出した後,吸収性ステープルを使用する自動縫合器を用いて腟断端部を縫合した.
 現在まで,腹式単純子宮全摘出術の腟断端部縫合に自動縫合器を用いた報告が散見される.しかし多くの場合,腹式単純子宮全摘出術においては腟管を露出することが少なく,自動縫合器を用いることは危険である.このことがこの縫合器が腹式単純子宮全摘出術に汎用されてこなかった理由と考えられる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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