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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科54巻4号

2000年04月発行

雑誌目次

今月の臨床 生殖内分泌と不妊診療の最新データ 思春期

1.思春期発来のメカニズム

著者: 矢内原巧

ページ範囲:P.332 - P.337

 思春期を特徴づけるのは生殖能の獲得,すなわち性的発育であり,またこの時期には第2次発育急進期といわれる身体の著しい成長がある.この両者は密接な関係があり,その背景には間脳—下垂体—性腺系を中心とした内分泌学的機能の変化が存在することは論をまたない.しかし内分泌学の進歩によって,現象としての生体の内分泌動態は明らかになってきたにもかかわらず,思春期発来の機序に関する知見はいまだ推論の域をでない.しかし,近年neuropeptide Y(NPY)や脂肪細胞由来のleptinなど摂食中枢に関与するホルモンが性機能に深くかかわっていることが明らかとなり,これらの物質と思春期発来との関係が論ぜられるようになった.
 本稿では思春期に起こるさまざまな内分泌変化のなかから思春期発来の機序について,これまでの知識を整理するとともに近年の知見について考察を加えたい.

2.思春期の発達過程

著者: 金子利朗 ,   早稲田智夫 ,   牧野田知

ページ範囲:P.338 - P.345

 性機能の発現,すなわち乳房発育,陰毛発生などの第2次性徴出現に始まり,初経を経て第2次性徴の完成と月経周期がほぼ順調になるまでの期間と定義される思春期1)は,胎児期に形成された卵巣が10年近くにも及ぶ長い眠りからさめ活動を開始する時期といえる.思春期の発現には環境因子の働きが大きな影響を与えるといわれ,思春期を代表する出来事といえる初経の発来年齢は,時代の進化とともに洋の東西を問わず若年化してきた(図1).わが国の現在の初経年齢は12〜13歳前後であり,したがって初経を中心とする思春期とは8〜9歳ごろから17〜18歳ごろまでになる.
 なお,英語では第2次性徴が出現し身長の伸びが止まるまでの身体的発育をpuberty,それにともなう心理社会的発育期をadolescenceと二つに分ける考えもあるが,日本では両者を区別せず思春期という単一の語が使用されている.

3.思春期早発症

著者: 田中敏章

ページ範囲:P.346 - P.353

 思春期早発症は,性ステロイドの分泌により,二次性徴が異常に早く出現した状態である.正常小児における二次性徴の開始年齢は男子では10歳から13歳,女子では8歳から12歳ころであるので,それより前に二次性徴がみられるときは思春期早発症の可能性が高い.
 通常部分性の早期乳房発育症premature thelarcheや早期恥毛発育症premature pubar—cheなどは,思春期早発症からは除く.思春期早発症は,ゴナドトロピン依存性の中枢性と非依存性の末梢性に分けられる.

4.原発性無月経・遅発月経

著者: 和田真一郎 ,   佐藤修 ,   星信彦 ,   櫻木範明 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.354 - P.361

 日本産科婦人科学会では,18歳で初経を認めないものを原発性無月経,15歳以上で初経を認めるものを遅発月経と定義している.現在わが国では,環境因子などの変化により初経年齢は低下し,中学2年生(13〜14歳)における既経率は96.1%であり,15歳で初経をみないのは4%に満たない1).原発性無月経・遅発月経の原因は多岐にわたっており,治療が困難な例も少なくないが,疾患によっては早期の治療を要するものもある.本稿では,原発性無月経の原因疾患・診断・治療について言及するが,15歳以降で初経がなければ原因を調べ,場合によっては治療を開始すべきである.

5.性分化異常

著者: 石塚文平

ページ範囲:P.362 - P.371

 性の決定は個人の表現型の分化,発達を規定する遺伝的プログラムの時間的,空間的支配のもとに行われる.この過程には性腺の形成,性管,外性器の分化,2次性徴の出現,配偶子形成能の獲得などが含まれる.このうち性腺の形成は個体発生における最初の性分化過程であり,性管,外性器の分化や2次性徴の出現は,性腺由来のホルモンを必要とする.
 性腺は両性に共通の未分化性腺として出現し,その後,性染色体により精巣もしくは卵巣へと分化する.一般にY染色体が存在すれば性腺は精巣に分化する.胎児精巣は性管,外性器の男性化を起こす.すなわち,胎生期のLeydig細胞から分泌されるtestosterone(テストステロン)が作用して,Wolff管から精巣上体,精管,精嚢などが誘導される.

6.摂食障害

著者: 目崎登 ,   田副真美

ページ範囲:P.372 - P.378

 摂食障害とは,主として精神医学的な原因によって起こる食物の摂取行動の異常であり,神経性食欲不振症と神経性過食症を一括した概念である.神経性過食症は神経性大食症,多食症と同義語であり,過食をしてもやせ願望があり,吐いたり(自己誘発嘔吐),下剤を乱用したりする.すなわち,いずれも著明な体重減少を呈することが多く,また月経異常などの問題点を有している.
 さらに,婦人科的には,明らかな摂食障害は伴わないものの,ダイエットなどによる体重減少による月経異常として,体重減少性無月経も注目されている.

7.性同一性障害

著者: 石原理 ,   木下勝之

ページ範囲:P.380 - P.388

 性同一性障害(gender identity disorder:GID)は,非定型的な性分化を示す疾患の一つとして,最近注目されている.本稿では,GIDを理解する一助とするために,これまでに明らかとなっている疫学統計などのデータを整理し,さらに今のところ十分に解明されたとは言えないその病態生理とともに紹介する.

性成熟期

1.性成熟期婦人の内分泌動態

著者: 田坂慶一 ,   岡本陽子 ,   早川潤 ,   中辻友希 ,   村田雄二

ページ範囲:P.390 - P.397

 一般に各種性機能異常や不妊症の診断・治療における内分泌機能検査の意義は2点ある.一つは非常に精密にコントロールされた各種ホルモンの調節機序の結果として起こる排卵現象に関するもの.もう一つは受精,卵の移送,着床,発生などにおける環境づくりとしての内分泌機能である.前者においてはゴナドトロピン分泌と卵胞発育に伴うステロイド,卵巣性ペプチドによるフィードバック機構に代表される.後者は排卵後のプロゲステロンを主体とする黄体機能あるいは着床,発生異常などがある.
 内分泌機能を検査する方法としては,各種測定法が進歩した現在ではホルモンを直接測定することが主体となっている.ほかにホルモンの生物学的効果をみる検査,たとえば黄体機能を示す子宮内膜日付診あるいは卵胞期エストラジオール活性の現れである頸管粘液検査,あるいはエストロゲンとプロゲステロン活性の現れである基礎体温表も広義には内分泌機能をみていることになる.

2.月経異常

著者: 安達知子

ページ範囲:P.398 - P.402

 月経とは,性ステロイドホルモンの周期的な消退による子宮内膜の剥脱性の出血をいう.近年,月経は従来いわれてきたような子宮内膜のネクロージスではなく,アポトージスによって起こることが明らかにされてきた1)
 正常な月経は,25〜38日の月経周期で,周期の変動は±6日以内,持続期間は3〜7日で,経血量は50〜250ml(血液量として50ml程度)とされている.ただし,初経直後に正常周期がみられるのは30〜40%にすぎず,約50%の人は4〜5年間無排卵のため,月経周期は乱れるといわれている.

3.月経前緊張症・月経困難症

著者: 村田浩之 ,   佐藤和雄

ページ範囲:P.404 - P.410

月経前緊張症premenstrual tension
 月経前緊張症を主訴として来院する女性はまれであるが,実際詳しく問診してみると,本症と診断される例はけっして少なくなく,潜在的患者は意外と多いと考えられている.しかし一般的には更年期障害の症候のようにいまだ広く知られていないため,患者自身が精神的,身体的苦痛を感じていてもそれが何のためか自分で理解していない場合が多く,われわれ婦人科医の本疾患の正しい理解が確実な診断,治療につながると考えるが,疾患自体がいまだ不明の部分も多く,その対応,とくに他疾患との鑑別に苦慮する場合も多い.

4.機能性子宮出血

著者: 堂地勉

ページ範囲:P.412 - P.415

 機能性子宮出血(functional/dysfunctional uterine bleeding)の定義は必ずしも統一されていないが,「妊娠,腫瘍,炎症,外傷などの器質性出血および月経出血を除いた内分泌機能異常に由来する子宮出血」とわれわれは考えている.産科婦人科用語解説集には血液疾患によるものも含むとしてあるが,血液疾患による子宮出血を機能性子宮出血に含めることには疑問がある.本来,機能性子宮出血は内分泌系の不協和,とりわけ視床下部—下垂体—卵巣系の機能異常による出血を想定したものであることから1,2),性腺以外の内分泌疾患による子宮出血を機能性子宮出血に含めるか否かも検討の余地がある.
 機能性子宮出血は器質性子宮出血(organic)に対応したものとしての機能性(functional)であり,さらに内分泌腺の機能失調によると考えればdysfunctionalといえる.

5.PCOS

著者: 松崎利也 ,   苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.416 - P.424

 現在,PCOS(polycystic ovary syndrome:多嚢胞性卵巣症候群)と呼ばれている症候群は,SteinとLeventhal1)により1935年に初めて報告された.彼らは,両側卵巣の嚢胞性腫大,無月経,男性型多毛,肥満の臨床症状を備えるものをStein-Leventhal症候群としていた.その後の内分泌学的な検討から,Stein-Leventhal症候群はLHや男性ホルモンの過剰分泌が特徴であること,月経異常患者のうちこれらの内分泌学的特徴を備える者が多いことがわかった.現在では,多毛,肥満を伴わない者も含めて多嚢胞性卵巣症候群として扱うことが多くなっている.本症候群の患者は,不妊治療に際して視床下部性の排卵障害の患者とは異なる反応を示すため,その特徴を理解したうえで治療することが重要である.本稿ではPCOSの不妊診療に必要なデータを集め解説を加えたい.

6.高プロラクチン(PRL)血症

著者: 松岡良

ページ範囲:P.426 - P.431

 不妊症の原因として,プロラクチン(PRL)の異常は最初に鑑捌すべき疾患であることはいまや周知の事実であり,その頻度は表1に示すごとく,不妊外来患者の約40%くらいである.血中PRL値が15ng/ml以上の顕性高PRL血症とTRH負荷テストで過反応を示す潜在性高PRL血症に分けられる.今回はこのそれぞれについて,排卵障害の機序,症状,診断,治療,妊娠・分娩・産褥について概説する.

7.多毛と男性化症

著者: 坂田正博 ,   田坂慶一 ,   村田雄二

ページ範囲:P.432 - P.435

 アンドロゲンは卵巣と副腎で産生され,その過剰は,多毛hirsutism,にきび,無月経,男性化徴候を呈する.そのなかでも多毛がアンドロゲン過剰の場合に最初に出現する症状である.今回は,多毛を中心として解説する.
 多毛とは,通常女性に発毛のみられない部位すなわちアンドロゲンに依存して発毛がみられる部位に毛が存在することと定義される.その部位とは,正中を中心とした上唇,顎,前胸部,上腹部,下腹部,背部,腰部,また前腕背側や大腿内側である.うぶ毛lanugo,眉毛,まつ毛の発毛はアンドロゲンに依存しない.腋毛,陰毛は副腎由来のアンドロゲンに依存する傾向がある.逆に頭髪はアンドロゲンによって,とくに側頭部で退行する.多毛には,にきび,月経不順・無月経を伴うことも少なくない.

8.早発閉経

著者: 大場隆 ,   松浦講平 ,   岡村均

ページ範囲:P.436 - P.443

疾患の概念(表1)
 早発閉経premature menopauseは多様な病態よりなる疾患群である.本来,早発閉経とは閉経と同義の現象であって,卵子の枯渇による不可逆的な卵巣機能の廃絶を意味した用語であった.しかし,臨床的に早発閉経の像を呈しながらも,卵巣には卵胞が存続し,卵胞発育の障害によって卵巣機能不全に陥ったと推定された病態は,古典的な早発閉経と区別する意味で,早発卵巣不全pre—mature ovarian failure (POF),あるいはゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群gonadotropin resis—tant ovary syndromeと表現されている.なお「POF」や「早発卵巣不全」は,日本産科婦人科学会用語委員会で定められた用語ではない.

更年期・老年期

1.更年期・閉経期の内分泌変化

著者: 南佐和子

ページ範囲:P.444 - P.448

 女性の内分泌機能は排卵,妊娠,産褥など大きな変化にさらされている.視床下部—下垂体—卵巣系がその内分泌変化の中心を構成していることは言うまでもない.卵巣は性成熟期に下垂体からの黄体化ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用を受け綿密にコントロールされている.さらに卵巣から産生,分泌されるインヒビンやアクチビン,その他の成長因子やサイトカインなども卵巣機能を調節していることが明らかとなってきた.40歳をこえるとその厳密な調節機構に乱れが生じ,生殖という意味において卵巣機能はやがて廃絶する.この生殖期から生殖不能期への移行期が更年期perimenopauseと呼ばれ,女性における内分泌のダイナミックな変化の終着点であるといえる.本稿ではperimenopauseから閉経後post—menopauseにかけての卵巣における内分泌変化について概説してみたい.

2.更年期障害

著者: 卜部諭

ページ範囲:P.450 - P.458

 更年期障害とは,卵巣機能が衰退しエストロゲンの相対的な欠乏や本人の性格,社会的要因,身体の老化に伴う種々の不定愁訴全体を指すものである.それゆえ原因の特定,症状の特定が難しく,治療効果の客観的な判断にも苦慮することが多い.
 一方,更年期障害は女性のライフステージに組み込まれた必然的なできごとで,症状も数年で自然軽快することがほとんどであることも起因し,人為的な薬物治療は受けるべきではないと考える人も多い.

3.骨粗鬆症

著者: 倉林工 ,   田中憲一

ページ範囲:P.460 - P.468

 1993年の第4回国際骨粗鬆症会議において,骨粗鬆症とは「骨量の減少と骨組織の微細構造の劣化により,骨強度が低下し,骨折を起こしやすくなった全身性疾患」と定義された1).従来は骨折により骨粗鬆症と診断されることが多かったが,この新定義では,骨折を起こさなくても骨量が減少して骨が脆くなっていれば骨粗鬆症であるとしている.

4.高脂血症

著者: 森岡信之

ページ範囲:P.470 - P.477

 本邦における中高年女性の人口は増加傾向にあり,1995年の人口統計では65歳以上の女性の数は1,713万人に達し,さらに毎年約100万人の女性が閉経を迎えようとしている.閉経に伴うエストロゲンの欠乏により,脂質代謝が変動することはよく知られているが,50歳台以上になると確実に血清コレステロール値は上昇し,高コレステロール血症の頻度も男性を凌ぎ著しく増加してくる.女性の死因の第1位は心疾患,第3位は脳血管障害であり,その要因として閉経後の高脂血症の関与が考えられている.したがって女性の平均寿命が80歳をこえる今日,長期にわたる低エストロゲン環境下での閉経後女性のquality of lifeを考えれば,数多くの中高年婦人が受診する婦人科外来,とくに更年期専門外来での高脂血症の診断・管理は,動脈硬化性疾患の発症予防に重要である.

5.排尿異常と性器脱

著者: 松田秀雄 ,   中原健次 ,   廣井正彦

ページ範囲:P.478 - P.485

 近年の高齢化の進行とがん検診意識の向上やHRTの普及に伴い,日常婦人科外来を受診する中高年女性は増加の傾向にある.更年期,老年期における頻度の高い良性疾患として,尿失禁,排尿困難,性器脱,萎縮性腔外陰炎などが挙げられるが,とくに,尿失禁の潜在的な患者数は数百万人規模(成人女性の28%が経験し,そのうちの15%が治療対象1)といわれ,産婦人科としても今後の取り組みが問われる領域となっている.すでに一部の欧米諸国では臨床的学問領域としてのurogynecologyが定着しつつあり,本邦においても今後発展する領域と思われる.女性生殖器は解剖学的に膀胱・直腸と接しているので,従来婦人科疾患と考えられがちであった性器脱についても,他科とクロスオーバーした診断・治療のアプローチが求められている.ここでは,とくに①排尿異常,②性器脱について述べることとする.

不妊の原因と検査

1.一般不妊検査の判定基準

著者: 藤原寛行 ,   荒木重雄

ページ範囲:P.486 - P.491

 不妊治療の際に行われる検査にはさまざまなものがあり,必要なものを順序立てて効率よく行う必要がある.女性は,短い周期のなかで卵胞期,排卵期,黄体期という変化があり,男性側でも妊孕性にかかわる各種パラメータは日々変化するため,その解釈には一定の幅を持たせ,総合的に判定する必要がある.本稿では不妊基本検査および内分泌検査を中心にその解釈の基準について述べる.なお,誌面の関係で詳述できなかった部分は,『不妊治療ガイダンス』1)を参照して戴きたい.

2.排卵因子

著者: 髙橋健太郎 ,   宮﨑康二

ページ範囲:P.492 - P.501

 不妊症の治療における重要なポイントは治療を開始する前に一連の系統的検査を完遂し,まず,不妊原因をある程度特定し,治療に一定の方向性をもたせることである.不妊原因のうち,排卵因子は女性因子のなかの15〜25%を占め,日常の外来診療でよく遭遇する疾患である.排卵は視床下部—下垂体—卵巣(hypothalamic-pituitary-ovar—ian axis:HPO)系を主軸とし,他の内分泌系,neurotransmitter,成長因子などが複雑に関連しながら制御されており,これらのどこかに異常が起きると排卵が障害される1).排卵障害を診断,治療していくうえで重要なことは排卵の機序をよく習得することである.
 そこで,本稿ではまず排卵の基本的事項を述べ,次に排卵障害の原因疾患・障害部位とその鑑別診断のための検査について述べる.さらに,排卵に影響を及ぼす因子についても述べる.

3.男性因子

著者: 正田朋子 ,   星和彦

ページ範囲:P.502 - P.510

 不妊は,夫婦を一単位とする病態であり,不妊治療にあたっては男女両面からみて最も適切な治療を行うべきである.近年,不妊の原因が,男性因子に関連している割合が約50%にも達している.しかし,男性不妊全体にはまだ多くの問題が残されている.
 本稿では,急速に新知見が蓄積されつつある生殖医学領域から,男性不妊の疫学的統計,病態生理,検査成績について述べる.

4.卵管因子

著者: 末岡浩

ページ範囲:P.512 - P.516

 卵管不妊は女性側の不妊原因のなかでも最も頻度が高く,その病態も多様であることが知られている(図1).卵管機能は排卵した卵子を回収し,精子と卵子の通過路となるのみならず,受精や胚成長の場を提供するという重要な役割を担っている.しかし,とくに卵管内腔の治療や病態の把握は困難であり,新たな技術開発が望まれてきた.その結果,卵管不妊の治療として妊娠成立に卵管を介さない体外受精が急速に普及した.
 しかし近年,卵管通過障害に対して,低侵襲性カテーテル治療法である卵管鏡下卵管形成カテーテルシステムが開発され1,2),子宮側からのアプローチで卵管内腔の病態を観察し,しかも高い治療成績を上げる効果的な治療法としての意義が確立されてきた3,4).とくに,卵管内腔の病変のなかでも頻度が高い間質部を含めた卵管近位部の閉塞に対して行われてきた従来の観血的治療は,手術手技が容易でなく,またその治療成績も十分なものとはいえなかった.さらに,多発性閉塞の治療や患者への侵襲の考慮から新たな治療法の開発が必要と考えられた.

5.子宮因子

著者: 久保田俊郎

ページ範囲:P.518 - P.524

 女性不妊の原因は,大別すると内分泌因子,卵管因子,子宮因子からなり,これらが重複している症例も少なくない.そのなかで子宮因子は他の二つの因子に比しその頻度が少ないため,日常診療では見過ごされやすく,原因不明の不妊症のなかでも実際は子宮因子であった症例もときどき見受けられる.妊孕性に影響を及ぼすと考えられる子宮の異常としては,先天的な子宮形成異常,子宮腔内における器質的疾患,子宮内膜の発育不全や炎症などで,広範囲に考えれば子宮頸部の器質的疾患や炎症もこれに含まれる.子宮内の異常が妊娠の障害になるのは,主として受精卵の着床障害が原因である.また,子宮腔内の筋腫やポリープのために卵管の子宮開口部が閉鎖されていたり,頸管に異常があって精子が子宮腔内に進入できないことも不妊の原因となる.
 本稿では,不妊症の原因となり得る子宮内腔および子宮頸管の異常について,最近のデータも加えて解説したい.

6.免疫因子

著者: 鎌田正晴 ,   前川正彦 ,   青野敏博

ページ範囲:P.526 - P.531

 免疫因子による不妊症を表1に示す.本稿では,不妊症に関与する免疫因子として,とくに抗精子抗体および抗卵透明帯抗体に関する最新のデータを紹介する.

7.子宮内膜症

著者: 岩部富夫 ,   原田省 ,   寺川直樹

ページ範囲:P.532 - P.535

疫学統計
 子宮内膜症は,子宮内膜あるいはそれと類似する組織が子宮内腔以外の部位に発生し,増殖する疾患である.本症の発生と進展には性ステロイドホルモンであるエストロゲンが関与している.子宮内膜症の発生時期は,早くても初経から3〜4年を経過して発症することがこれまでの臨床成績から考えられている.
 確定診断された子宮内膜症と,確定診断に加えて臨床的に診断された臨床子宮内膜症の患者数から,年齢別に算出した本症の発生頻度を報告した成績を図1に示す1).10歳代後半には内膜症の発生が認められ,エストロゲン分泌が活発となる性成熟期に向かって本症の診断頻度は加速度的に増加する.そして,エストロゲン分泌が低下する40歳代後半の閉経期を迎えるとその発生頻度は低下する.この成績から,生殖年齢女性のおよそ10%に子宮内膜症が存在しているものと考えられる.腹腔鏡および開腹手術症例(妊娠関連疾患は除く)で月経を有するすべての患者を対象とした前方視調査成績では,手術患者803例中287例(35.7%)に子宮内膜症が存在した2).この成績は,内膜症が予測されるよりも高頻度に存在することを示している.

8.不育症

著者: 牧野恒久 ,   杉俊隆

ページ範囲:P.536 - P.540

疫学統計
 “不育症”とは,厳密な定義をもつ医学用語ではない.しいて定義づければ成立した妊娠を完遂できず,健康な生児に恵まれない症例を指すものといえる.一般的には習慣流産を指すことが多いが同義ではない.習慣流産とは3回以上流産を繰り返すことであり,pregnancy lossの時期は妊娠22週未満に限定される.しかしながら不育症といった場合は,妊娠中期以降の子宮内胎児死亡や2回流産を繰り返した場合の反復流産も含まれる.不育症に相当する英語としてrecurrent fetal lossという表現をしばしば目にするが,fetus(胎児)という名称は妊娠10週以後に限定され,それ以前のembryo(胎芽)が含まれないので,recurrent pregnancy lossが適当であると思われる.
 1回の独立した流産の頻度は統計上約15〜20%であり,けっして珍しくない.当教室では,ヒトにおける生殖の効率reproductive performanceを正確に把握するために,体外受精プログラムで胚移植後2週間目に尿中hCGが50IU/l以上であった症例を妊娠と定義して,以後妊娠12週まで毎週経腟超音波検査で追跡して検討した(表1).単胎でも双胎でも,分母を胎嚢数とした場合は20%近い初期流産率であった.

不妊の治療

1.不妊治療の動向

著者: 渋井幸裕 ,   久保春海

ページ範囲:P.542 - P.546

 近年の不妊治療は,迅速ホルモンアッセイ,内視鏡検査や経腟超音波による卵胞計測などの診断法に始まり顕微授精に至るまで非常に多岐にわたっている.なかでも1978年のイギリスにおける世界初の体外受精(IVF)児ルイーズ=ブラウンの誕生は画期的な出来事であった.
 これを出発点として以後,不妊の臨床における生殖補助医療(assisted reproductive technol—ogy:ART)の発展は目覚ましいものがあり,従来治療困難とされていたカップルに福音をもたらしている.今日の不妊治療の隆盛はARTの進歩と同調しているといっても過言ではなく,本稿ではARTの現況と今後の動向を中心に述べる.

2.ゴナドトロピン療法,クロミフェン療法

著者: 上条隆典 ,   安藤一道 ,   水沼英樹

ページ範囲:P.548 - P.555

 不妊治療における排卵誘発治療は,主として慢性的無排卵症の患者に対して適応となるが,現実には黄体機能の改善や子宮内膜の成熟,頸管粘液の分泌改善などを目的として行われる場合もある.今日,ARTの進歩・発展はめざましく不妊治療の重要な位置を占めているが,単一卵胞発育を目的とした排卵誘発法とGnRHアナログを用いたIVF-ET時の排卵誘発法とは根本的に異なる概念である.このためARTにおける排卵誘発法については他稿に譲り,ここではゴナドトロピン療法に関して最近注目されている“閾値説(threshold theory)”を中心に,排卵誘発における卵胞成熟とFSHおよびLHの関係にせまるとともに,hMG,urinary purified FSH(uFSH),recombinant human FSH(rhFSH)などの各種ゴナドトロピンの投与法および治療効果,副作用について解説を加えることとする.またクロミフェン療法については,その薬理作用は成書に譲り,投与法および投与上の注意点に関して解説する.

3.GnRHおよびGnRHアゴニスト

著者: 正岡薫 ,   稲葉憲之

ページ範囲:P.556 - P.565

 GnRHの発見と構造式の決定から約30年が経過するが,発見当初から考えられていた排卵誘発への応用はけっして容易なものではなく,GnRHによる排卵誘発法が確立されるには幾多の紆余曲折があった.またGnRHの誘導体として開発されたGnRHアゴニストはその強力な下垂体機能抑制作用から子宮内膜症をはじめとする性ステロイドホルモン依存性疾患の治療に広く使用されているが,一方ではゴナドトロピンによる排卵誘発を行う際の併用薬としても頻用されている,本稿ではこれら二つのホルモンについて筆者らのデータをもとに解説する.

4.AIH,AID

著者: 田辺清男 ,   兼子智 ,   郡山智 ,   赤星晃一 ,   山本百合恵 ,   酒井のぞみ ,   浜谷敏生 ,   吉村𣳾典

ページ範囲:P.566 - P.571

 配偶者間人工授精は生殖補助技術(ART)の元祖ともいえるような古くからある技術である.そして主として男性因子不妊に悩む多くのカップルに福音をもたらした技術である.一方,非配偶者間人工授精は賛否両論が存在するが,当事者にこれまた多大な幸せをもたらしたことも事実である.
 そこで本稿では,配偶者間人工授精の方法と限界について述べるとともに,非配偶者間人工授精の方法と成績について事実のみを述べることとする.

5.IVF-ET,GIFT

著者: 繁田実

ページ範囲:P.572 - P.577

 IVF-ETもGIFTも,何らかの原因により生理的な妊娠成立過程に障害が起こった場合にその過程のなかの一部分を介助する補助生殖技術as—sisted reproductive technology(ART)である.IVF-ETは生理的妊娠成立過程のなかの卵の輸送の障害を治療する方法として応用され,その最初の出産例の報告から22年を経過し,わが国でも2世代目が生まれる時期にきている.
 その適応は日本産科婦人科学会の見解によれば「この方法以外では妊娠成立が困難な不妊症患者」とされてきたが,実際の適応の基準は各施設における倫理委員会に委ねられている.厳密な診断と適切な適応のもとに行った場合でも,IVF-ET後に自然妊娠が成立するのを経験するとの報告も多く,その判断にはまだまだ困難な点が多い.妊娠の可能性は年齢とともに低下するのは明らかな事実であるので,適応を狭くして治療開始年齢をむやみに遅らせることは避けなければならないが,まだ2世代目についての分析でさえ十分でない現状から考えても,これらの治療の長期的な安全性についてはまだまだ不明であると考えるのが妥当と思われ,次世代につながる生殖医療においては適応の厳格性は守るべき大変重要な項目である(表1).最近は重篤な遺伝性疾患の着床前診断とそれを避けるための選択的妊娠のためにも,この技術を応用することができることが,日本産科婦人科学会の見解に加えられた.

6.顕微授精,ICSI,MESA,TESE

著者: 栁田薫 ,   片寄治男 ,   佐藤章

ページ範囲:P.578 - P.588

 顕微授精microinseminationとは,顕微鏡下にマイクロマニピュレーターを用いて雌雄両配偶子(卵および精子)を操作し,受精を介助する一連の手技を指す1).通常の体外受精—胚移植法(IVF—ET)では受精卵が得られない重症男性因子不妊症や原因不明受精障害症例に適応される技術として今日の不妊治療の現場で定着しているといってよい.また,顕微授精法のなかで現在主として行われているのは,その有効性の高さと安定した受精率が得られることから卵細胞質内精子注入法intracytoplasmic sperm injection(ICSI)である.
 本稿では,今日まで発展してきたICSIの治療の現状と問題点に重点をおいて解説する.

7.内視鏡下手術の術中所見と術後妊娠

著者: 岡垣竜吾 ,   丸山正統 ,   大須賀穣 ,   百枝幹雄 ,   堤治 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.590 - P.595

 不妊治療の領域における内視鏡下手術(腹腔鏡,卵管鏡,子宮鏡)の重要性は年々高まっている.ここでは当院で行っている腹腔鏡下手術の現況について紹介する.とくに術中卵管所見と術後妊娠成績について統計データを示しながら述べたい.

8.マイクロサージェリー

著者: 長田尚夫

ページ範囲:P.596 - P.600

 不妊症のなかで感染症,術後の癒着,子宮内膜症などによる卵管性不妊は最も多く,さらに今日の上行性感染の増加に伴って増加する傾向にある.この卵管性不妊を取り巻く生殖医学は,この20年間に著しい進歩を遂げた.とくに1978年に成功した体外受精による胚移植法(以下,IVF-ETと略す)は,今や全世界に普及した.一方,自然妊娠を目的としたマイクロサージェリーによる卵管形成術は,1976年ころより盛んに行われてきたが,最近ではminimal invasive surgeryの進歩によって卵管性不妊の多くが腹腔鏡下卵管形成術(1982年)や卵管鏡下卵管形成術1,2)(1985年,FTカテーテルによる卵管疎通術)など画期的な治療法が登場し,それまで絶望的であった卵管性不妊や男性不妊の治療が可能となった.
 ここでは開腹術によるマイクロサージェリーによる卵管形成術について,その術式,適応ならびに成績について述べる.

不妊治療の問題点

1.OHSS

著者: 竹林浩一 ,   高倉賢二 ,   後藤栄 ,   野田洋一

ページ範囲:P.602 - P.607

 不妊症患者のうち排卵障害を主原因とする症例は15〜25%といわれている.一方,補助生殖医療技術assisted reproductive technology(ART)は近年急速に発展し,わが国における体外受精—胚移植(IVF-ET)は今や年間10,000周期をこえるようになるほど広く普及している.このような日常診療の場において,排卵誘発治療やART治療周期にhMGやhCGなどのゴナドトロピン製剤をはじめとする排卵誘発剤を用いることは,今や欠かすことのできない不妊症治療の柱の一つとなっている.
 不妊に悩む婦人にとって排卵誘発剤は確かに多くの福音をもたらしてきたが,一方でOHSS(ovarian hyperstimulation syndrome:卵巣過剰刺激症候群)は多胎妊娠の問題とともに解決すべき重要な課題として残されており,これは治療注に内在する問題であると理解したうえで,OHSSの予防に努め,OHSSが起こってもその重症化を防ぎ,重篤な合併症の発症を予防することが最も重要である1).このようなことからOHSSの重症化を避けるべく,その早期発見,早期治療はもとより,排卵誘発剤使用の適応を慎重に選択し,投与法や投与量のさまざまな工夫が試みられている.

2.多胎妊娠

著者: 菅沼信彦 ,   若原靖典 ,   小谷美幸

ページ範囲:P.608 - P.614

 わが国における多胎妊娠の発生頻度 近年の生殖医療,とくにassisted reproductive technology(ART)の発展により,多くの不妊患者が児を得ることが可能となった反面,医原性の多胎妊娠が増加している.厚生省の調査による日本の多胎妊娠率の年次推移1)では,三胎以上の多胎妊娠率は1970年代半ばまでは大きな変化はなかったが(図1),1975年に排卵誘発剤であるヒト閉経期ゴナドトロピンhuman menopausal gona—dotropin(hMG)製剤が国民健康保険に適用されて以降,多胎出産は増加しはじめた.さらに1983年にわが国初の体外受精児が出生して以来,体外受精—胚移植技術は急速に全国に広がり,数多くの施設で行われるようになった.その結果,急激に多胎出産,とくに三胎以上の超多胎が増加した.また双胎に関しても,1985年以降において同様に確実に増加しており,1984年と1993年の比較においては,双胎出産率で1.2倍,三胎で2.7倍,四胎で6.7倍,五胎で4.2倍に上昇している2)(表1).
 分娩実数においても,三胎以上の妊娠は1950年代では出産100万対で約200組であったのに対し,1993年には約800組と,実に4倍に増加している.しかしながら,1994年以降の三胎の分娩数はほぼ横ばいから若干減少傾向で,四胎以上の分娩数は著明に減少している3)(図2).

3.ARTによる妊娠の予後

著者: 中村幸雄 ,   神野正雄 ,   小野寺潤子 ,   星合敏久 ,   菅原新博 ,   酒井謙 ,   尾崎恒男

ページ範囲:P.616 - P.621

 ART(生殖補助技術)としては,体外受精(conventional IVF[通常IVF],微小媒精法によるIVFなど),顕微授精(ICSI,SUZI,PZDなど),GIFT,凍結胚移植,人工授精などがある,人工授精による妊娠が自然妊娠と変わらないことは,すでに多くの報告で示されている.また,最近1年間に日本でART(人工授精を除く)から生まれた児は,通常IVF:4,980入,ICSI:3,160人,凍結胚移植:902人,GIFT:65人,SUZI:1人などと,ほとんどが通常IVF,ICSIおよび凍結胚移植に由来している1).そこで本稿では,通常IVF,ICSIおよび凍結胚移植に由来する妊娠のみに焦点を絞ることとした.
 また本稿では,妊娠の予後を,①妊娠の診断から出産までの転帰と,②出生した児のその後の発育・発達,の二つに分けて論ずることとした.①の出産までの転帰に関しては,日本国内2)および世界全体3)における調査集計報告が毎年から数年ごとに行われているので,それらをまとめて若干の考察を加えた.②の出生児の発育・発達に関しては,人種・社会の影響が大きく左右するため,日本国内の調査が有益と考えるが,全国的な統計は集められておらず,また過去の報告もあまり多くない.そこで当院の体外受精・顕微授精により妊娠し,出産した児の親にアンケート調査を直接行うこととした.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・10

What is your diagnosis?

著者: 清水道生 ,   古屋充子 ,   伊藤智雄

ページ範囲:P.329 - P.331

症例:62歳,女性
 6回経妊4回経産婦人で,最近帯下の増加がみられるため近医を受診した.内診所見では異常は認められなかったが,経腟超音波では子宮腔内に高輝度エコーを有する病変が認められ,子宮内異物が疑われた.このため内膜掻爬が行われ,骨様の組織が採取された.Fig 1(弱拡大)およびFig 2,3(強拡大)はその脱灰後の病理組織像(HE染色)である.
 1.Fig 1,2の矢印で示すものは何か.

ARTシリーズ・13

男性不妊に対するARTは,原形質内精子注入法を使用したほうが成績がよいか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.345 - P.345

 1996年の統計では新鮮自己卵ARTで,その30%に原形質内精子注入法(intracy toplasmic sperm injection:ICSI)が使用されたが,その主要な目的は精子の機能と運動性にともなう問題を改善するためである.図は男性不妊カップルに対してなされたART成功率を,ICSIを使用した場合と使用しない場合に分けたものである.ICSIを行うには少なくとも1個の卵が採取されなければならないので,1回の卵採取当たりの生存出産率(LB/retr)と1回の胚移植当たりの生存出産率(LB/trans)のみを比較した.1996年の統計では,1回の卵採取に対する成功率はICSIを使用したほうが高く,したがって男性不妊カップルではICSIを採用したほうが受胎のチャンスが良好であることを示唆している.ICSIを使用してもしなくても1回の胚移植当たりの成功率がほぼ同じなのは,一度卵が受精されてしまえばICSIは成功率とは無関係であることを示す.

ARTシリーズ・14

不妊症クリニックの規模はART成功率に影響を及ぼすか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.410 - P.410

 不妊症クリニックによってARTの年間施行数に相違がある.図は年間ART施行数によりクリニックを四分類したものである.この1996年の統計ではARTの年間施行数が多いほど成功率が高い傾向がある.この傾向が継続するかどうかはさらに数年を経ないと不明である.年間施行数の少ないクリニックは,新設されたものが多いのかもしれない.

ARTシリーズ・15

凍結胚使用ARTの成功率はどのくらいだろうか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.424 - P.424

 1996年に施行されたARTの少なくとも15%,すなわち9,290例は凍結胚のみを使用して行われた.図は凍結胚と新鮮胚の使用による成功率を比較したものである.胚のあるものは凍結や解凍を経ることにより生存不可能となる.解凍卵全体に占める生存出産数の割合は,必然的に胚移植数に占める生存出産数の割合よりも低くなる.しかしながら凍結胚を使用したART周期では,卵巣の刺激と卵の採集という手間が省けるのでボーナスと考えることもできる.凍結胚を使用したART周期は,同じ理由で,新鮮周期の場合よりも低コストとなる.

OBSTETRIC NEWS

満期前破水(pPROM:preterm premature rupture of membranes)と内診

著者: 武久徹

ページ範囲:P.449 - P.449

 pPROMに関する多くの研究が行われ,管理方法に変化が現われ,その一部はコンセンサスが得られ,標準的管理になりつつある.
 第一番目に,pPROMに対し,使用薬剤や使用方法に一定の方法はまだ明らかにされていないが,抗生物質を投与することによって,潜伏期の有意の延長が得られ,母子の予後改善に寄与することが明らかにされている(Lancet 346:1271,1995;AJOG 174:589,1996).

ARTシリーズ・16

年長女性はドナー卵を使用する割合が高くなるのか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.510 - P.510

 女性の加齢とともに,その卵は胚を形成しても着床の可能性は低くなり,また着床しても流産となる可能性が高まる.その結果,ドナー卵の使用は若い女性に比較して年長女性にずっと多い.1996年にはドナー卵はART全体の8%に使用され,その数は5,162回に達する.そのうち6%はドナーによる新鮮胚を,2%は凍結胚を使用した.図は1996年に行われたドナー卵使用のART周期の割合を年齢別に示したものである.女性の年齢が38歳以下のときには,その周期の5%にしかドナー卵は使用されていない.それ以上の年齢ではドナー卵使用の割合は急速に増加して,40歳以上の女性ではART周期の70%以上がドナー卵によるものである.

ARTシリーズ・17

年齢別にみたドナー卵使用のART成功率と自己卵を使用したART成功率の相違

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.555 - P.555

 図はドナー卵の使用は成功率に影響を与えないが,自己卵使用では年齢の影響が明瞭である.自己卵でもドナー卵でも,その受精と着床は卵を提供した女性の年齢と関連する.その結果,ドナー卵使用胚の移植周期に対する生存出産率は各年齢を通じてあまり変動がないのに対し,自己卵使用胚では女性の加齢とともに生存出産率は漸次減少する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

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今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

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今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

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今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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