icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科54巻6号

2000年06月発行

雑誌目次

今月の臨床 子宮頸癌—最近のトピック 診断・検査のトピック

1.臨床進行期分類の変遷

著者: 久布白兼行 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.744 - P.747

 臨床進行期分類は,治療法の決定や予後の推定あるいは治療成績の評価などに際して基本となるものである.わが国では1952(昭和27)年3月の第4回日本産科婦人科学会総会において日本子宮癌登録委員会が発足し,1953(昭和28)年より子宮癌患者の報告・登録が行われ,現在に至っているが,その間に進行期分類は変更された.子宮頸癌の進行期分類には,日本産科婦人科学会が1971年の治療症例より適用しているFIGO(国際産婦人科連合)分類と1979年より適用されているTNM(UICC)分類の2種類がある.本邦では1987年に『子宮頸癌取扱い規約』の初版が発行されたが,1994年のFIGOの臨床進行期分類の改訂1)およびWHOの組織分類の改訂,さらに1997年のUICCのTNM分類の改訂に伴って変更されてきた.そこで,本稿ではこれら一連の臨床進行期分類の変遷について概説し,さらに現在とくに課題となっている新FIGO分類I期の取り扱いについても文献的考察を含めて述べる.

2.頸癌の自然史と再発予知におけるHPV typingの意義

著者: 小西郁生 ,   塩原茂樹

ページ範囲:P.748 - P.751

 子宮頸癌は性感染症としての性格をもつことが古くから示唆され,頸癌の発生要因として,1970年代にはヘルペスウイルス感染が注目されていた.ところが,1980年代初期に頸癌組織中からヒトパピローマウイルス(HPV)の16型および18型が検出されて以降,頸癌発生におけるHPV感染の役割が急速に明らかにされてきた.現在までに,女性性器病変に関連するHPVとして30種類以上の型が報告され,良性病変の尖型コンジローマで検出されるHPV 6,11型はlow risk HPV,浸潤癌の大部分で検出されるHPV 16,18型はhigh risk HPV,およびその後に同定されたHPV31,33,35,42,43,44,45,51,52,56,58型などはintermediate risk HPVとして分類されることが多い.しかし,この分類は基礎的研究や疫学的成績に基づくものではなく,現在,種々の新しい分類が試みられている.
 頸癌の前駆病変であるcervical intraepithelial neoplasia(CIN)のほぼ100%,浸潤頸癌の70〜80%にいずれかの型のHPVが検出され,基礎的な研究成果も合わせ考えると,HPV感染が頸癌発生過程の一つの重要なステップを構成していることはまず間違いないと思われる.

3.画像診断の意義

著者: 富樫かおり

ページ範囲:P.752 - P.757

画像診断の役割
 子宮頸癌はスメアやコルポスコピー,生検により細胞診・組織診が可能で診断自体は容易である.診断において画像診断の果たす役割はほとんどない.画像診断の役割は頸癌と診断された病変の程度の評価である.しかし残念ながら画像診断は頸癌のすべてを対象としうるわけではない.子宮頸癌の多くは上皮内癌・微小浸潤癌の段階でとらえられるが,これらの画像による描出は困難である.画像診断の対象となるのは残りの30%の浸潤癌であり,これら病変の進行期分類,腫瘍の大きさ,体部進展や子宮外進展の評価,とくにリンパ節転移の評価が画像診断の役割といえる1-4)

4.18F-FDG-PETの有用性

著者: 深山雅人 ,   梅咲直彦 ,   田中哲二 ,   荻田幸雄

ページ範囲:P.758 - P.761

 進行・再発子宮頸癌において集学的治療とその個別化を効率よく実践するためには,病期の進行度(とくにリンパ節転移の有無),治療効果の判定,さらに再発診断を正確かつ迅速に,また患者にできるだけ侵襲を与えずに行うことが重要である.現在のところ,その目的でMRIなどの画像診断や腫瘍マーカーが主として用いられているが,これらの診断法に加えて,最近18F-fluoro−2—deoxy—D-glucose (18F-FDP)を用いたpositron emmis—sion tomography(PET)による細胞内の糖代謝情報を利用する試みがなされつつある.当院でも2年前から子宮頸癌症例に対し18F-FDP-PETを用いてきたが,その基礎的事項,また有用性についてわれわれの経験を中心に解説する.

5.頸部腺癌診断の問題点

著者: 植田政嗣 ,   植木實

ページ範囲:P.762 - P.766

 子宮頸部の扁平上皮系病変に対する早期診断ならびに管理方法はすでに確立し,進行癌の減少に寄与している.一方,腺系上皮異常はその組織発生や進展様式についてはいまだ不明な点が多く,前癌病変の可能性がある腺異形成(glandulardysplasia:GD)や上皮内腺癌(adenocarcinomain situ:AIS)の病理学的位置づけも議論の途上である.頸部腺癌の発生頻度は全頸癌の5〜10%とされ,近年,増加傾向にあると報告されている1,2).細胞診やコルポスコピーによる早期診断が困難であること,扁平上皮癌に比べて放射線感受性が低く,予後不良であることから,頸部腺癌の診断は婦人科癌検診の大きな問題点の一つとされている3,4).本稿では,頸部腺系上皮異常の早期診断に焦点を絞り,細胞診像,GDおよびAISの病理学や管理法について悪性腺腫の病態を含めて述べる.

6.腫瘍マーカー

著者: 住浪義則 ,   加藤紘

ページ範囲:P.768 - P.771

 腫瘍マーカーというと,悪性腫瘍において血中あるいは体液中に存在し臨床診断に役だつ単なる物質というイメージが強い.しかしながらその腫瘍マーカーとして用いられる物質も本来はわれわれ臨床医に測定されるためにつくられているのではなく,何らかの生物的機能を細胞内あるいは細胞外で有しているものをたまたまわれわれが利用しているだけである.この腫瘍マーカーの本来の機能と悪性腫瘍の発生や進展との関連が明らかになれば,患者の臨床像がより明らかとなり,またその発現を調節することにより癌の治療をより有効にすることができる可能性もある.腫瘍マーカーのトピックとして,その評価法や測定法に新しい試みもあるが1),ここではSCC抗原を中心に子宮頸癌の腫瘍マーカーの生物学的機能に関する最近のトピックスを紹介したい.

治療のトピック

1.Conizationの実際

著者: 西村正人 ,   古本博孝 ,   青野敏博

ページ範囲:P.772 - P.776

 子宮癌検診の普及により近年,進行子宮頸癌は減少しているが,子宮頸部扁平上皮内腫瘍(cer—vical intraepitherial neoplasia:CIN)や早期癌の状態で発見される症例が増加しつつある.表1は当科における1980〜1999年までの20年間に治療を行った子宮頸癌患者(primary radiationの症例を除く)の進行期別の年次別推移を示している.子宮頸癌患者の総数は減少傾向にあるが,異形成および上皮内癌患者の占める割合が近年では半数をこえるようになってきている.
 また,表2をみると上皮内癌患者の平均年齢は20年前の46.1歳に比べ,近年では40.2歳と明らかに若年化しており,症例によっては妊孕性の温存を考慮した治療が必要になる.子宮頸部初期病変の診断・治療に円錐切除術は古くから重要な役割を果たしており,今後もその重要性は変わらないと思われる.機能温存の観点から,とくに若年者に対する保存療法が各施設で試みられるようになってきたが,保存療法の限界に関しては現在のところ意見の一致をみていない.

2.初期癌への新しい治療—PDT

著者: 室谷哲弥

ページ範囲:P.777 - P.781

 光線力学的療法は,腫瘍親和性光感受性物質と低出力レーザー照射との併用で,正常組織への障害を最小限にし,主として腫瘍組織を光化学反応によって治療する腫瘍特異的治療法である.本法は,1900年,Raab1)がアクリジン色素と光の併用でゾウリムシに致死的効果を見いだしたことに始まり,1960年,Lipsonら2)が腫瘍親和性の高い光感受性物質,ヘマトポルフィリン誘導体(HpD)を開発し,1979年にDoughertyら3)が乳癌の皮膚転移に対してHpDとアルゴン・ダイ・レーザーを用いてPDT(photodynamic therapy)を始めて以来,欧米で数多くの研究がなされた.本邦でも,1980年より早田,加藤ら4)によって内視鏡下での早期肺癌の治療として行われるようになった.その後,胃癌,食道癌,膀胱癌,子宮頸癌などに応用され,Excimer Dye Laser(EDL)(浜松フォトニクス製)およびPorfimer sodium(PHE:Photofrin®)(日本レダリー)を用いた早期子宮頸癌のPDT療法5-20)は,食道癌,胃癌,早期肺癌とともに,世界に先駆けて,1994年10月に厚生省の認可を受け,1995年4月より薬価に収載され保険の適用となった.また,IHI製の波長可変固体(YAG-OPO)レーザーの臨床治験も終了し,1999年に保険の適用となった.

3.手術 1)卵巣機能温存手術—適応と限界

著者: 皆川幸久 ,   紀川純三 ,   寺川直樹

ページ範囲:P.782 - P.784

 子宮頸癌では,自然史や進展様式が比較的明確になってきたこと,細胞診やコルポスコピーなどの診断技術が進歩・普及してきたことから,早期癌症例の割合が増加し,根治性と機能温存を両立させた手術療法への関心が高まりつつある.子宮頸癌手術における機能温存には,①妊孕性温存,②卵巣機能の温存,③広汎子宮全摘術における骨盤自律神経機能温存の三つに大別される.
 quality of lifeに対する社会的要求が強い現状にあっては,治療の個別化に際して,これらの機能温存を考慮することが重要である.卵巣機能温存手術として,円錐切除術,子宮全摘術における卵巣温存,および卵巣摘出後のエストロゲン補充療法(HRT)が挙げられる.本稿では,子宮頸癌手術における卵巣機能温存手術の適応と限界について概説する.

3.手術 2)膀胱神経温存手術

著者: 鈴木正明 ,   桑原慶紀

ページ範囲:P.785 - P.789

 Wertheim1)に始まる子宮頸癌根治手術はその後Latzkoら2),Okabayasi3),Meigs4)などの多くの先達の努力により,今日ほぼ完成の域に達していると思われる.
 一方,子宮頸癌根治手術,つまり広汎性子宮全摘出術における自律神経膀胱枝温存法に関して,わが国においては小林5)が1961年に基靭帯における血管部と神経部の分離を提唱して以来,その後坂元ら6),野田7)により改良された.しかし,これらにおける自律神経温存術式は骨盤神経叢までの中枢側までである.したがって,骨盤神経叢から膀胱への末梢部の自律神経の温存に関してはさらなる創意と工夫が必要である.

4.化学療法 1)Neoadjuvant Chemotherapy

著者: 野河孝充 ,   日浦昌道 ,   千葉丈

ページ範囲:P.790 - P.794

 子宮頸癌は手術と放射線による治療法が確立されているが,この数10年治療成績の改善はみられず,進行例は依然予後不良で新たな治療戦略の開発が課題である.最近,シスプラチンを含む化学療法の有効性からneoadjuvant chemotherapy(NAC)が積極的に導入され,良好な成績が多数報告されている3-14).本稿ではNACの概念(目的,理論的根拠),諸家のレジメンの紹介および当院の治療成績について述べる.

4.化学療法 2)選択的動注化学療法

著者: 小野瀬亮 ,   加藤久盛 ,   中山裕樹

ページ範囲:P.796 - P.799

 選択的動注化学療法(以下,動注化学療法と略する)は全身への薬剤分布を少なくすることにより全身的副作用の軽減を図り,また抗癌剤を直接注入することにより癌病巣中の薬剤濃度を上昇させ治療効果を上げる方法として,以前よりさまざまな固形癌の治療の一方法として用いられている1-5).子宮頸癌においても,病巣が内腸骨動脈および子宮動脈からおもな血流分布を受けるというその解剖学的特徴から,動注化学療法を用いた治療報告は数多い6-10).筆者は1989年より子宮頸癌治療に動注化学療法を導入しその予後改善を図ってきた.以下,その成績を中心に動注化学療法について述べる.

5.放射線療法—放射線科からみた頸癌治療のトピック 1)Chemoradiotherapy

著者: 兼安祐子

ページ範囲:P.800 - P.805

 子宮頸癌に対する放射線療法は確立され,早期癌においては手術療法と同等の治療成績が得られているが,進行癌においては局所再発および遠隔転移率が高く,その治療成績の改善のために,何らかの併用療法の必要性が求められている.
 進行子宮頸癌の治療成績の向上を目的に全身の静注化学療法や動注化学療法は,放射線療法または手術療法前のneoadjuvant chemotherapy(以下,NACと略す)や放射線治療中の同時化学療法として施行されている.近年,NACとして主治療前に抗癌剤を投与して局所の腫瘍の縮小を図り,線量分布を改善させることで放射線治療効果を増加させたり,down stagingを図り広汎性子宮全摘術を可能にする試みが多く報告されている.また同時併用の報告も増加している.当科では骨盤内進行・再発癌に対し,骨盤内動注化学療法を施行してきた1-6).進行子宮頸癌におけるchemo—radiotherapyの適応とその成績を検討し,その役割を述べたい.

5.放射線療法—放射線科からみた頸癌治療のトピック 2)高線量率組織内照射

著者: 田中英一 ,   今井敦 ,   井上俊彦

ページ範囲:P.806 - P.808

 密封小線源治療の一手法である組織内照射は,子宮頸癌に対しても米国などで低線量率照射として行われてきた.1980年代後半,高線量率Ir−192マイクロ線源を使用した第3世代リモートアフターローダの出現により,高精度の治療が可能になるとともに医療従事者の被曝が解消された.大阪大学では,1991年にmicroSelectron-HDR(Nucletron社)を導入し,骨盤内腫瘍に対する組織内照射を多数施行してきた1,2).本稿では,子宮頸癌新鮮例ならびに骨盤内再発例に対する高線量率多分割組織内照射について述べる.

5.放射線療法—放射線科からみた頸癌治療のトピック 3)温熱療法の併用

著者: 多湖正夫 ,   中川恵一 ,   青木幸昌 ,   大友邦

ページ範囲:P.809 - P.813

 子宮頸癌の治療において放射線療法が重要な役割を果たしていることは議論の余地がない.しかしながら,現在でも進行期症例では放射線単独で腫瘍制御を得ることが困難な場合が多いのも事実である.したがって,根治的放射線療法においては他治療法と組み合わせて行うことも多く,最近では子宮頸癌を含めた各領域においてcisplatinやfluorouracilとの同時併用化学放射線療法が頻用され,randomized trialでも生存率の向上に寄与するとの報告が多数みられる1-3)
 一方,温熱療法も放射線療法とよく併用されるが,熱エネルギーによる悪性腫瘍の治療については,実は5000年以上も前に乳癌患者に対する使用の記載があり,約100年の歴史しか持たない放射線療法に比しはるかに古いものである.近代医学においては,1866年にドイツのBuschが丹毒熱で腫瘍が消失した例を報告したことに始まるが4),研究がさかんになったのは1970年代以降である.

6.新たな治療への展望 1)HPVワクチン

著者: 斉藤淳子 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.814 - P.818

 日本では,細胞診による子宮頸癌の集団検診はその死亡率,罹患率の低下に役立ってきたが,近年に至ってこれらに変化はなく,今なお年間約5,000人が子宮頸癌によって死亡している.低開発国を含めた世界では,年間20万人の女性が子宮頸癌で亡くなっていると推計される.子宮頸癌の克服は世界的にも重要な課題であり,このためには,今後新しい方策が必要である.ヒトパピローマウイルス(HPV:human papillomavirus)は,子宮頸癌,前癌病変より高率に検出され,子宮頸癌の原因ウイルスであることが明らかとなったため,子宮頸癌の克服はHPV感染の予防であるという考え方が広く受け入れられつつある.
 一方,癌免疫研究は過去10年遺伝子レベルの研究が飛躍的に進歩し,有効な癌抗原が明らかにされ,それらを利用した癌ワクチン療法が注目されている.

6.新たな治療への展望 2)遺伝子治療

著者: 西田純一 ,   和氣徳夫

ページ範囲:P.819 - P.822

 癌に対する遺伝子治療が開始されて約10年が経過した.約240のプロトコールが実施され,今後その数はますます増大していくと考えられる.日本でも腎癌,肺癌,食道癌,脳腫瘍に対する遺伝子治療が承認され,有効例も報告されており,臨床研究においても着実に新たな段階へ入りつつある.本稿では癌の遺伝子治療の現状,子宮頸癌を対象として行われたプロトコールおよび今後期待される治療法を中心に概説する.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・12

What is your diagnosis?

著者: 広川満良

ページ範囲:P.741 - P.743

症例:16歳,女性
 不正性器出血のため来院した.腟を充満する大きな腫瘤がみられ,MRIでは腫瘤は子宮頸部に存在し,外向性に増殖していた.擦過細胞診や生検を行ったが壊死物質のみで診断ができなかったため,腫瘤の穿刺吸引細胞診が行われた.
 写真は腫瘤の穿刺吸引細胞診像(ギムザ染色)および切除された腫瘤の組織像(HE染色)である.

産婦人科キーワード・53

パルスドプラ

著者: 別宮史朗 ,   青野敏博

ページ範囲:P.824 - P.824

語源と歴史
 1842年にオーストリアの物理学者ChristianDopplerが,音や光の振動数が発生源と観察者の運動により,もとの振動数が変化して観察されることを発見した.これがドプラ効果である.この原理を超音波装置に利用し1961年にFranklinらが初めて動物の血流速度の計測を行った,産科領域では,1969年に前田らが連続波ドプラで胎児動脈血流を記録し,1978年にはMcCallumらが正常と病的妊娠の臍帯動脈血流波形には相違があることを報告している.1980年代には子宮動脈・胎児臍帯の血流計測が世界中にひろまった.現在では,とくにハイリスク妊娠においてはなくてはならない検査のひとつになっているとともに,婦人科領域でも子宮筋腫や卵巣腫瘍の血流測定などにも利用されている.

産婦人科キーワード・54

ナチュラルキラー細鞄

著者: 前川正彦

ページ範囲:P.825 - P.825

語源
 米映画界の鬼才,オリバー・ストーン監督の作品「ナチュラル・ボーン・キラーズ(生まれながらの殺人者:Natural Born Killers)」(1994年公開)が現実の殺人の引き金になったとして米国で裁判となり話題になっている.生体内にも“killer”がつく細胞があり,生体が非自己(異物)であると判断した細胞を排除する“殺し屋”としての役目を果たしている.たとえば前感作されたkillerT細胞(細胞傷害性T細胞)はウイルス感染細胞や腫瘍細胞に出会うと直ちにその細胞を攻撃することができる.natural killer(NK)細胞は前感作や活性化されることなくある種のリンパ性腫瘍細胞株を殺すことができる細胞として同定された細胞であり,生まれつき(natural)殺し屋(killer)としての性格を備えている.

病院めぐり

手稲渓仁会病院

著者: 佐藤力

ページ範囲:P.826 - P.826

 手稲渓仁会病院は札幌市手稲区にあり,昭和62年12月に開院した.現在,病床数は524床で,医師104名が診療に従事している.診療体制は救命救急部,泌尿器腎センター,小児センター,消化器病センター,心臓血管センターと臓器別センター方式を採用し,平成9年4月には厚生省より臨床研修病院の指定を受け,これまでに10名近い研修医を受け入れている.平成11年度には米国ピッツバーグ大学と提携を終え,新臨床システムによる研修を開始する予定である.
 産婦人科は,5名の常勤医師(佐藤 力部長,桑原道弥医師,北澤克彦医師,白銀 透医師,小野寺康全医師)で診療に当たっている.医師人事は,北海道大学産婦人科教室より派遣されている.日本産科婦人科学会の卒後研修指導病院の指定は平成9年に受けている.病棟は産科病棟,婦人科を主としたレディースフロアーよりなり,病床数は平均50床で稼働している.産科病棟の看護婦28名は全員が助産婦で,産科業務と外来業務を担当している.分娩数は年々増加しており,開院時の137件が平成10年では759件に達した.帝王切開時の児処置,また夜間の異常分娩へは小児科医6名が対応している.2年前より,28週以降の母体搬送の受け入れを実施し,他院からの紹介症例が増加している.周産期医療の一層の充実を目指して,周産期センターの開設を計画中である.

日本赤十字社医療センター

著者: 石井康夫

ページ範囲:P.827 - P.827

 明治10年5月,西南戦争のさなか,傷病兵の救護のために元老院議官 佐野常尾は,ヨーロッパの赤十字組織にならい博愛社を創設しました.その後,病院設立を目指して,明治19年11月17日に東京都千代田区飯田橋に62床の博愛社病院を開院しました.間もなく博愛社が日本赤十字社と称することになり,明治20年5月20日,博愛社病院も日本赤十字社病院と改称されました.明治24年5月1日に現在の東京都渋谷区広尾に新病院を建設し移転して,昭和16年1月には日本赤十字社中央病院となりました.一方,大正11年5月9日に妊産婦や乳幼児の保護診療機関として日本赤十字社本部産院が開院しました.
 そして,昭和47年11月1日,この2つの病院が合併して現在の日本赤十字社医療センターとなり,産科や新生児未熟児科の健康棟は一般病棟とは別棟として建てられました.現在の病床数は882床,診療科目は23科で,外来患者数は1日平均2,138名です.また,臨床研修指定病院として毎年15〜20人の研修医が採用され,希望の数科をローテートしています.2年目は,専門科においてカリキュラムに則って研修を行っています.

OBSTETRIC NEWS

新生児GBS敗血症予防—CDCの二戦略の有効性

著者: 武久徹

ページ範囲:P.828 - P.829

 早発型新生児B群レンサ球菌(GBS)敗血症の垂直感染を防止する方法として,一定の基準で候補者を選択し,分娩中に抗生物質を投与する方法が採用されている.しかし,オーストラリアで30,000例の妊婦を対象にした研究で,培養陽性妊婦全例に分娩中に抗生物質を投与しても,新生児GBS感染症は出生児1,000例中0.5例でゼロではなかったことが報告されている(Aust NZ J OB31:119,1991).新生児GBS敗血症を防止するために妊婦全例にGBS培養を行い,検査結果に基づいて治療をするか,危険因子に基づいて治療をするかについて結論が出ない状態で,1996年6月に米国防疫センター(CDC)から二つの戦略が勧告された.
 CDCの勧告で,どの程度の新生児GBS敗血症が予防できるか,費用効果の問題,GBS以外の新生児感染の問題など,いまだ結論が出ていない問題が残されているが,二戦略の有用性と問題点を検討した研究が発表されている.

誌上Debate・11

PROMへの抗生物質投与の是非

著者: 杉本充弘 ,   池谷美樹 ,   松田義雄

ページ範囲:P.832 - P.838

 是 切迫早産前期破水(preterm PROM)とくに妊娠32週未満の症例では,妊娠週数の延長による胎児の成熟と子宮内感染の進行による胎児感染の危険性を考慮することが求められる.新生児治療の進歩により早産未熟児の予後は著しく改善されてきたが,妊娠32週未満ではまだ問題が多い.したがって,妊娠週数の延長はPROM管理の要点となり,そのためには子宮内感染の制御が必要となる。

総説

基靱帯—その解剖と切離法

著者: 矢吹朗彦 ,   朝本明弘 ,   干場勉 ,   平吹信弥 ,   八木原亮 ,   西川有紀子

ページ範囲:P.839 - P.848

 骨盤結合織を,骨盤臓器および骨盤壁への固定メカニズムと構成組織成分により二つのシステムに分類した.一つをsuspensory systemと他をsupporting systemと名づけた.筋膜とareoraltissueで構成されるsupporting systemは,幹部と翻転部に分けられ,ちょうど羽を広げるようにsuspensory systemを被覆する.
 子宮傍結合織はこのシステムの一構成物であり,膀胱子宮靱帯前層,仙骨/直腸子宮靱帯はsuspensory systemに属し,基靱帯,膀胱子宮靱帯後層,mesoureterはsupporting systemに属する.両システムの間には腔を形成することができる.そしてその腔の間隙に沿って尿管,骨盤自律神経が走行する.

症例

卵巣顆粒膜細胞腫摘出12年後に骨盤内に再発した1例

著者: 朝野晃 ,   桑田知之 ,   大井嗣和 ,   石垣展子 ,   丹野治郎 ,   明城光三 ,   和田裕一 ,   鈴木博義

ページ範囲:P.849 - P.852

 左卵巣顆粒膜細胞腫摘出12年後に,骨盤内に再発した1例を経験した.
 症例は46歳,2妊2産,34歳時に左卵巣腫瘍の診断で左付属器切除を施行した.病理診断は顆粒膜細胞腫(trabecular pattern)で,臨床進行期はⅡa期であった.術後化学療法を施行し,外来でフォローをしていたが,術後12年を経過した1997年1月,子宮右側に8cm大の腫瘍を認め,右膀胱前腫瘍摘出・右付属器切除・子宮全摘術を施行した.組織診断は膀胱前腫瘍と右卵巣の顆粒膜細胞腫であった.膀胱前腫瘍は右卵巣との連続性はなく,再発腫瘍と考えられた.術後化学療法を行い,1999年12月現在,再発を認めず経過観察中である.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?