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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科54巻9号

2000年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 思春期外来—診療上の留意点 総論

1.思春期発来機序

著者: 河野康志 ,   宮川勇生

ページ範囲:P.1070 - P.1073

はじめに
 思春期の発来機序には中枢神経系の活性化が重要であるが,遺伝的要因,栄養状態や健康状態,地理的環境など諸因子が関与する.さらに近年,思春期発来機序に重要な役割を持つとされているKAL遺伝子やレプチンなど新しい研究の動きがみられる.本稿では思春期の定義,特徴,発来機序について述べる.

2.思春期の内分泌変化

著者: 本庄英雄 ,   保田仁介

ページ範囲:P.1074 - P.1076

はじめに
 思春期は二次性徴の出現から初経をへて二次性徴の完成,月経周期が確立していくころまでで,わが国では8〜9歳から17〜18歳ごろまでである.
 生殖機能の成熟によりそれまで休眠状態にあった視床下部—下垂体—卵巣系機能が活動を開始し,やがて月経周期の確立にいたる過程であり,その期間には多くの内分泌変化を伴っている.

3.第二次性徴の発達と初経

著者: 菅井亮世

ページ範囲:P.1077 - P.1080

はじめに
 染色体およびそれに由来する内・外性器の男女差を第一次性徴という.これに対して思春期以降に性ホルモンの差によって生ずる性器以外の男女それぞれの特徴を第二次性徴という.第二次性徴の発達は,女子では7〜8歳ごろはじまり,17〜18歳ごろに完成する1).また,初めて月経が発来することを初経という1).初経発来年齢は本邦では平均12歳6か月ころである.しかし,初経は性器自体の機能であり第二次性徴に含めない.

4.思春期の心理

著者: 宮本信也

ページ範囲:P.1081 - P.1083

はじめに
 思春期の子どもたちが示す心理的問題は,発達する過程での正常の悩みから精神病レベルのものまで多彩である(表1)1,2).しかも,個人の間で病状が多彩であるだけでなく,その多彩な病状が一人の患者の中で変化してみられるという特徴がある.このような二重の多彩さが,思春期の子どもたちの示す精神的問題を理解することを困難にしている.
 思春期の子どもたちが示す通常の悩みから精神病様の状態までのこうした心理的混乱状態は,思春期の心理的特性と身体的特性を背景としていると考えられることが多く,しばしば思春期危機という用語で呼ばれる.したがって思春期心性の特徴を理解することが,この年代の子どもたちの心理的問題を理解する鍵となる.ここでは個々の心理的問題を理解するための基本となる思春期の心理的特性について述べる.

5.性教育のあり方

著者: 松本清一

ページ範囲:P.1085 - P.1087

リプロダクティブ・ヘルスと性教育
 国連の第3回国際人口開発会議(ICPD,1994)以来,性教育はリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康/権利)の一貫としてとらえられ,「すべての人は,性と生殖に関する健康/権利およびその責任に関して,教育や正しい情報を得る権利を有する.それは性差別がなく,固定的な観念にとらわれず,かつ客観的,批判的,多元的に表現されたものでなければならない」といわれ,生涯を通じて性と生殖にかかわる健康の問題をカバーする生涯教育と考えることが世界の流れとなった.
 思春期の人々に対する性教育では,第1に求められるのは,子どもたちに自我を確立させ,自己尊重の責任能力を育て,主体性をもって性に関する「自己決定」ができるようにする教育である.そして,単なる一方的な科学的知識の授与から,全人的な生物・心理・文化的アプローチに広げ,若者の全体的な心理社会的関係や生活情況を考慮した教育が必要である.

6.思春期外来のあり方—大学病院

著者: 清水幸子

ページ範囲:P.1088 - P.1091

はじめに
 思春期は幼小児期から性成熟期への移行期にあたり,身体発育のみならず将来の妊孕性獲得にとって重要な生殖生理機能の準備発育段階である.近年,生殖生理学の基点である思春期を成熟期,更年期と並んで産婦人科診療の課題の一つとして重視し,小児思春期外来の設置の重要性を指摘する声が高まっている.その背影には性の早熟化傾向,性感染症罹患者の若年層での急増や若年妊娠が大きな社会的問題となってきていること,また核家族化など家庭環境の変化や学校教育,進学の諸問題などのさまざまなストレスが現在の若い女性層のやせ願望と複雑にからみ合った摂食障害に伴った続発性無月経症例の増加など,発育過程での性機能を障害し将来の成熟女性としての生殖生理に重大な影響を引き起こす問題がクローズアップされてきたことによろう.
 時代による社会的変化に伴った思春期女子への対応が急務となっている現在こそ,大学病院としての特性を生かした思春期婦人科外来診療のあり方をもう一度考え,確立していく時期と言えよう.

6.思春期外来のあり方—病院

著者: 加藤季子

ページ範囲:P.1092 - P.1093

 一般に日本では思春期外来は,産婦人科の一部門として,または日常の産婦人科の診療に混じって,特別に区別することなく,診療が行われている施設が多い状況である.
 当院では産婦人科とNICUを設置した周産期分野を中心とした医療を行っているが,独立した場所に乳幼児のフォーローアップを行う母子保健科がある.その一角に,思春期外来として診療部門を設けている.

思春期の異常とその対応

1.肥満

著者: 由良茂夫 ,   佐川典正

ページ範囲:P.1094 - P.1096

はじめに
 成人における肥満は,肥満に伴う高脂血症,糖尿病,高血圧などの生活習慣病との関連から,その重要性は広く認識されている.近年では,成人に限らず,小児期からの肥満が問題として取り上げられ,特集記事が組まれるほどの診療領域となっている1).小児期の肥満の多くが成人期にも持続するため,両者の移行期である思春期においても将来の生活習慣病予防の観点からの対策が重要である.加えて,思春期には生殖機能の開始および維持に対する肥満の影響を考慮しなければならない.本稿では婦人科からみた思春期肥満の問題点を整理し,最近の知見をもとにその対策について考えてみたい.

2.摂食障害

著者: 甲村弘子

ページ範囲:P.1098 - P.1101

はじめに
 摂食障害(eating disorder:ED)は思春期の女子に好発する疾患で,神経性食思不振症(anorex—ia nervosa:AN)と神経性過食症(bulimia ner—vosa:BN)に大別される.拒食や過食,自己嘔吐などの食行動異常と共に,さまざまな身体的,心理的,社会的障害を呈する.両者は,症状は極端に異なるが病態の本質は同一であると考えてよい.本症の発症には,学校や家庭での対人関係から生ずる精神的葛藤などが根底に見られることが多く,ANからBNへの移行も少なくない.本症の成立に関与する要因は,病前要因となるリスクファクター,発症の引き金となる発症因子と,発症後維持,増悪させる継続因子に大別される1)(図1).ANの場合無月経は必発であり,産婦人科を受診する機会が多い.
 1993年の厚生省研究班の報告2)によれば,摂食障害の発症頻度は10〜29歳の女性の3,000人に1人である.これは300床以上の病院を対象にして調査したものであるが,学校レベルでの調査によるとさらに有病率が高くなる.正確な数字を出すことは難しいが,都市の学校に通う若い女性の大体400〜500人に1人位存在すると思われる.近年の特徴としては,過食症の増加があげられる.1993年の調査では,摂食障害のうち大食型の割合は31%であった.平均発症年齢は,神経性食思不振症では16.9歳であり,神経性過食症では18.6歳である.

3.低身長

著者: 田中敏章

ページ範囲:P.1103 - P.1105

 思春期における低身長は,成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)としては診断が遅く,もっと早期に診断すべき問題である.このような例が一部にはいると思われるが,低身長のこの時期の重要な鑑別診断は,低身長を伴う思春期遅発症と性腺機能低下症である.女児では,ターナー症候群を忘れてはならない.

4.皮膚疾患—多毛,にきび

著者: 今山修平

ページ範囲:P.1106 - P.1108

思春期の肌
 解剖学的に皮膚は,①体の境界面である表皮組織,②張力を発揮して骨・筋・内臓からなる内部構造物を一定の表面積に収容することにより容姿を決定する真皮結合組織,③そして外界との物理的距離を保つことにより外的変動を緩衝する皮下脂肪組織からなる.個体形成がほぼ完了し,次世代産生すなわち生殖の準備が整う思春期には,それをアピールする変化が皮膚に顕著に発現される.こうして,①表皮/毛/汗腺により「匂い発つ瑞々しい肌」が,②真皮結合組織により「張りと弾み」が,③皮下脂肪によって胸と臀の「膨らみ」がもたらされる.この一連の変化は時に「多毛」や「ニキビ」を来たす.毛と脂腺も性ホルモン受容体を持つからである.

5.乳房の異常

著者: 弥生恵司

ページ範囲:P.1109 - P.1111

思春期における内分泌環境
 正常女子は,思春期に入ると下垂体からの性腺刺激ホルモン(gonadotropin),特に,卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が亢進する.FSHは,それまで静止状態にあった卵巣を刺激し,卵胞の発育をうながし,卵胞ホルモン(estrogen)の分泌が増加する.少し遅れて,下垂体から黄体化ホルモン(LH)が分泌され,両ホルモンの協調作用により排卵がおこり初潮をみ,黄体ホルモン(proges—terone)が産生されるようになる.

6.性器の異常—内外性器を含む

著者: 牧野恒久 ,   松林秀彦

ページ範囲:P.1112 - P.1114

はじめに
 思春期外来における性器の異常というと,性分化の異常とも言い換えられる.性分化の異常には染色体異常,遺伝子異常,発生学的異常,ステロイド代謝異常,アンドロゲンレセプター異常,ミュラー管退縮因子異常などを含み,限られた紙面で全てを論じることは困難である.ここでは紙面の都合上,比較的遭遇する頻度が高い発生学的異常を中心に述べる.発生の正しい理解は多種多様な女性器異常を理解する上で非常に大切である.

7.思春期,若年女性の性感染症

著者: 早川謙一

ページ範囲:P.1115 - P.1119

はじめに
 近年の社会的風潮,性の自由化を反映して女性の初体験の年齢が急速に低下している.
 交渉の相手も複数化し,モラルの低下,性教育の不徹底なども相俟ってって,若年女性にクラミジア・トラコマティス感染症をはじめとする性感染症(STD)が想像以上に蔓延している.

8.思春期早発,遅発

著者: 加藤賢朗

ページ範囲:P.1120 - P.1122

 思春期とは身体的変化としては第二次性徴(女性の場合乳房発育,陰毛発生,初経)が出現する時期であり,この二次性徴の出現は,視床下部—脳下垂体—卵巣系の活性化の結果として女性の場合血中エストロゲン濃度が増加することによる.そのメカニズムの詳細は本特集の別稿にゆずる.なお,本論文では,女性の思春期早発,遅発について述べる.

9.月経の異常

著者: 北川博之

ページ範囲:P.1123 - P.1125

はじめに
 月経の異常とは一般的には,初経,周期,経血量,随伴症状の異常を示す.本稿では思春期外来において最も高頻度に遭遇する卵巣機能不全を本態とする月経周期異常に焦点をあて,外来における診療上の留意点という観点から述べる.

10.卵巣腫瘍

著者: 西田敬 ,   嘉村敏治

ページ範囲:P.1126 - P.1129

はじめに
 思春期(puberty)とは幼少年期を経て成人としての生殖能力を獲得するまでの,主として身体的な発育の時期である.発育過程の評価法としては,1962年にTannerが提唱した分類,すなわち身体の発達状態を乳房や恥毛の発育程度によりstage 1からstage 5までに分けた5段階分類が知られている1).また,身体的な発育に知的,社会的な成長をも加味した青少年期(adolescence)とは少しニュアンスが異なる.
 思春期以前の卵巣腫瘍の発生は稀である.卵胞の発育からも判るように,卵巣を構成する細胞を増殖させる因子としては性腺刺激ホルモンの作用が知られているが,卵巣の細胞を励起させ,そして腫瘍化の方向へと導く引き金の正体は依然として不明である.しかし,好発年齢からみて性の成熟や老化など加齢による卵巣の変化は腫瘍発生の大きな要因の一つと考えられる.Weissら2)は年齢の推移による各卵巣腫瘍の発生頻度を検討し,大部分の腫瘍の発生は思春期以前にはほとんどゼロに近く,それ以降から閉経期までは直線的な増加を示し,そして閉経後にはプラトーに達することを指摘している(図1).この現象の理由は不明であるが,Weiss3)は後に,上皮性卵巣癌の発生増加がみられる時期が,排卵や卵胞閉鎖により,卵巣から卵細胞の喪失が進行する時期に一致していることに着目している.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・15

What is your diagnosis?

著者: 石倉浩

ページ範囲:P.1067 - P.1069

症例1:16歳,女性
 卵巣腫瘍を発見され,術前血清マーカー検索でα—fetoprotein(AFP)の高値を指摘された.腫瘍が切除されたが,多くはFig1で示すような大型好酸性細胞からなり,一部にreticular patternを示すyolk sac tumorの典型的な所見を認めた.Fig1に示すAFP産生性の腫瘍細胞を何と呼ぶか.この腫瘍の診断名は何か.

産婦人科クリニカルテクニック ワンポイントレッスン—私のノウハウ

吸引遂娩器の婦人科手術への応用

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1130 - P.1131

 吸引分娩の際に使用する吸引遂娩器を,帝王切開時の児頭の娩出の際にも利用する報告(臨婦産50:1331,1996)がなされている.われわれは,さらに腹式子宮全摘術(主として子宮筋腫,子宮腺筋症)の際の子宮の腹壁外への持ち上げ・牽引や卵巣腫瘍の腹腔外への持ち上げなどにも応用し,非常に有用と思われるのでご紹介したい.
 腹式子宮全摘術の際の子宮の持ち上げや牽引については,通常長ペアン,コッヘル鉗子での子宮・付属器間の圧挫・牽引やミオーマボーラー、ミューゾー鉗子,子宮圧挫鉗子での子宮本体底部の把持が行われていることと思う.しかし,前者では子宮本体が大きい場合は持ち上げ・牽引が困難な場合があり,後者においては把持部の出血・裂傷が問題となり,子宮圧挫鉗子ではあまり大きな場合は使用困難であり,また腹壁外への持ち上げには役立たない.そこでわれわれの方法は,まず摘出子宮に見合うぎりぎりの分の腹壁切開を行い,吸引分娩用ソフトカップ(通常は中を使用している)を手術場の吸引チューブに連結し,子宮体部のできるだけ底部に近い部分に装着し,200mmHg程度の圧で吸引し牽引して腹壁外へ持ち上げを試みる.腹壁切開が小さいようであれば,子宮を牽引しながら多少の切開の追加を行えば,最小の腹壁切開創での腹壁外への持ち上げが可能となる.子宮を腹壁外へ持ち上げたら,有効に牽引できるように適当な位置にあらためて吸引カップを装着し直す.

病院めぐり

東京都立荏原病院

著者: 前田光士

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 東京都立荏原病院は東京都の西側の神奈川県近くに位置し,田園調布医師会の真ん中に設立されている.当院は明治31年7月に世田谷村立隔離病舎として設立され,昭和7年10月に東京市立荏原病院となった.昭和9年4月に現在地の大田区東雪谷に新病院を建設し,昭和18年7月に都政施行に伴い東京都立荏原病院となった.昭和30年2月に普通科診療を開始した.平成2年6月には病院の改築のため診療休止となり,平成3年10月から改築工事が着工となった.平成6年7月に工事が竣工し,同年10月3日よりまったく新しく再開院し診療を開始,平成8年4月には全面開設し現在に至っている.
 病院規模は500床で,診療科目は内科,神経内科,精神科,小児科,外科,整形外科,形成外科,脳神経外科,皮膚科,泌尿器科,産婦人科,眼科,耳鼻咽喉科,リハビリテーション科,放射線科,麻酔科と歯科の17科の診療を実施している.また,夜間と日曜・祝祭日は,精神科,産婦人科,小児科,脳神経外科,外科,神経内科,内科と混合外科の8科が第2次救急を担っている.

興生総合病院

著者: 藤原久子

ページ範囲:P.1135 - P.1135

 興生総合病院は昭和48年に藤原病院として25床で発足し,地域の需要に応じて同年60床に増床,医療法人に改組し名称を興生病院に変更した.昭和50年に130床に増床し,人工透析室20床と理学療法室を開設した.昭和52年に米国GE社製全身用CT(輸入1号機)を設置し画像診断を開始,昭和53年に高気圧治療装置による高圧酸素治療を開始した.同年,病床数を200床とし,ICU,CCU,無菌手術室を設置した.昭和59年に開院10周年を迎え,総合的な包括医療を提供するために診療部門の増設と陣容の強化をはかり,南館を新築し293床とした.リハビリテーション施設の完備,人工透析室の増床,人間ドック部門の充実強化,産婦人科の整備に重点をおいた.
 新生児の出産時の安全と母体保護の重要性を考慮し,産婦人科を現在の2階に移動させ,外来部門と入院部門をワンフロアーに置き,緊密な連係による作業能率の向上と入院生活の快適性に配慮した.出産を前に産婦が一番つらい時間を過ごす陣痛室は,ゆったりとした個室(18m2)に付添い用のソファーベッドを用意した.全病室に洗面ユニット,ウォシュレット付きトイレ,冷蔵庫,テレビを置き,別に産婦人科専用のシャワー室,談話室も備えた.2人部屋も他科病室の1.5倍の広さで,当時としては贅沢な施設であった.

OBSTETRIC NEWS

吸引分娩再考

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1136 - P.1137

 器械的分娩として鉗子分娩または吸引分娩が採用され,帝王切開(帝切)率の減少に貢献している.鉗子分娩に関しては,米国産婦人科学会(ACOG)から詳細の留意事項が紹介され,吸引分娩に関する見解も示されているが,吸引回数,何回までの滑脱に耐えられるか,合計吸引持続時間などに関するコンセンサスはないことが紹介されている(ACOG Tech Bull#.196,1994).
 吸引分娩の結果,頭血腫の発生率は6%(自然経腟分娩の場合は2%)である.頭血腫の5%にヘアライン頭蓋骨骨折が発生する.さらに重篤な合併症である帽状腱膜下血腫は,吸引分娩の0.6%に発生する.その他,裂傷,高ビリルビン血症,網膜出血,肩甲難産なども発生する.吸引分娩の結果,発生する重篤な合併症(帽状腱膜下血腫,頭蓋内出血,永久上腕神経叢麻痺,死亡など)は1%以下である.最近,米国食品医薬品局(FDA)から,吸引分娩に関する警告が紹介され,異論も唱えられている.本稿では,FDAの勧告とACOGの見解を紹介する.

Estrogen Series・44

ピルはほんとうに環境ホルモンか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1138 - P.1139

 ピルがようやく日本でも使用が認可されたとの最近の新聞報道で,ピルが環境ホルモンであることが懸念されることが記されていた.この点については,欧米ではすでに解決済みとされており,いまさらそれを蒸し返すものもいない.今回はそのへんの事情についてご報告したい.
 エストロゲン物質による環境汚染は水系に広く分布する.たとえばエストロゲン作用を有する工業物質として代表的なAPE(alkylphenol—polyethoxylates)は毎年30万トン使用されるが,その60%は水系に分布すると推定されている1).ことの発端はある釣り人が雌雄同体の魚を見つけたことにあった.釣り上げた場所は下水処理場の放水路のすぐ下流であった.魚の雌雄同体はきわめて稀で,それ自体で症例報告となるぐらいである.ところが調べて見ると,下水処理場の放水路下流にいる魚の実に5%もに雌雄同体がみられたのである.

臨床経験

子宮摘出術に際して行うMcCall改良法の実際

著者: 下浦久芳 ,   古山将康 ,   徳川吉弘 ,   村田雄二 ,   木村俊夫

ページ範囲:P.1141 - P.1146

 性器脱の手術において,腟に十分な支持を与えることは最も重要なポイントである.本来,子宮頸部,腟円蓋部は基靭帯・仙骨子宮靱帯系によって支持されており,解剖学的な修復を行うことにより,腟管短縮や再腟脱を防止することが可能となる.小腸脱に対するダグラス窩形成術として報告されたMcCall法は,その後Nicholsによって改良され,腟管の軸と深さの復元術として有用な術式である.McCall改良法ではダグラス窩が効果的に閉鎖されるため,小腸脱の修復とともに術後の小腸脱の予防となる.上部腟管の支持異常のある症例の全てが本術式の適応である.縫合にあたっては尿管の巻き込みに注意が必要であるが,習熟すれば簡便で安全な手術として広く考慮されるべきであると考える.

卵巣嚢腫内容液穿刺吸引時漏出防止の工夫—ゴムシート接着穿刺法とフリーサイズポート

著者: 井上滋夫 ,   上野有生 ,   草西洋 ,   水谷不二夫

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 卵巣嚢腫を穿刺し内容液を吸引後,嚢腫を切除摘出する手法が普及しているが,内溶液漏出が問題となる.このたび、穿刺吸引時の漏出を皆無にする単純確実で安価な手法を開発したので紹介する.嚢腫直上の腹壁を約1.5cm開腹し,厚みが少なく有効開口面積が広いフレキシブルな軟質合成樹脂製の自製開創器「フリーサイズポート」を挿入,術野を確保する.径1cmの円筒にゴムシート(手術用ゴム手袋)を被せ,手術用接着剤(アロンアルファ®)を塗布し,ポート直下の嚢腫表面に接着させ接着部分より穿刺吸引する.穿刺部位はゴムシートにより腹腔内と遮断され,穿刺時の漏出液が腹腔内を汚染することは全くない.嚢腫が縮小すれば挟鉗して体外に脱出させ処理する.本手法は腹腔鏡よりもさらに腹壁切開が小さく,気腹または吊り上げに伴う侵襲もなく巨大卵巣嚢腫の摘出が可能である.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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