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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科55巻1号

2001年01月発行

雑誌目次

今月の臨床 性感染症—胎児から癌まで Overview

1.女性優位のSTD時代—STDの最近の動向

著者: 熊本悦明

ページ範囲:P.10 - P.18

性感染症は大きく変貌しつつある
 むかし性病(VD),いま性感染症(STD).それは歓楽街に遊ぶ男の病.そんな非倫理的なニュアンスのある感染症に関心を持つ必要もないし,自分とは無縁のもの.ほとんどの人はそう信じ,むしろ無関心さを誇りにさえ思っている.
 また医師さえもそんな病気に興味を持っては沽券にかかわると信じている人が少なくない.まさに現在の性感染症は旧来の性にまつわる偏見の渦の中に沈んでいるように見える.ことに女性側にその傾向が強く,女性側に立つ産婦人科医の方々にもそのような発言や態度を示す方が少なくない.

2.感染症新法による分類と取り扱い方

著者: 松田静治

ページ範囲:P.20 - P.23

 本邦における社会的衛生環境の整備が進み,感染症の予防もかなり行き届きつつあるが,平成11年4月に伝染病予防法,性病予防法およびエイズ予防法の3法を廃止して,新しい時代の感染症対策を担う「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律(「感染症新法」)が施行された.以下,性感染症(STD:Sexually transmit—ted diseases)を巡る感染症新法について概説し,分類および予防,治療を含めた運用と取り扱い方を述べる.

3.ピル解禁と性感染症

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.24 - P.27

はじめに
 女性へのAIDSを含む性感染症(STD)の拡大が深刻さを増している.厚生省性感染症センチナル・サーベイランス研究班の報告1)によれば,1998年度報告数に基づくSTD罹患率の推計は男女合わせて10万人対475.15人である.このうちクラミジア感染症,性器ヘルペス,尖形コンジロームなどにおいて,女性での罹患率が男性に比べて高率となっている.今のところHIV/AIDS罹患率が他の先進諸国に比べて低いとはいえ,このようなSTDの拡大は,近い将来のHIV/AIDSの広がりを予測させる(図1).
 女性はSTDに罹患しやすいだけでなく,妊娠をも引き受けるという生物的特性がある.しかも,性の二重基準ともいうべき男性主体の論理に大きく影響され,避妊やSTD予防を困難にしている.その意味から,避妊法の選択とSTD予防を効果的になし得る方法を見出すことは,女性のリプロダクティブ・ヘルスの向上のために緊急かつ重要な課題となっている.

性感染症と産婦人科疾患

1.外陰・膣感染症の鑑別診断

著者: 菅生元康

ページ範囲:P.28 - P.30

はじめに
 産婦人科疾患において,いわゆる性病(venerealdiseases:VD)の占める割合は低いものとかつては考えられていた.ところが性病が性感染症(sex—ually transmitted diseases:STD)として幅広く捉えられるようになり,産婦人科にSTD患者が多数受診していることが次第に明らかにされてきた.それらの中にはクラミジア感染症のように病原体検出法の進歩により感染患者が新たに診断されるようになったものもあるが,従来は別の疾病カテゴリーに属していたものがSTDと考えられるようになった疾患もある.その典型は異形成病変で,子宮頸部・腔・外陰を問わずその大多数は性器・粘膜型ヒトパピローマウイルス(humanpapillomavirus:HPV)感染によって引き起こされる組織異型であることが研究の過程で明らかにされた.つまり腫瘍性前癌病変とされていたものがウイルス感染症として見直されるようになったのである.このように産婦人科診療において現在STDの知識は不可欠であり,しかも常にrenewalされる必要がある.

2.付属器炎・PIDの起炎菌

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.32 - P.34

はじめに
 PID(pelvic inflammatory diseases)とは腟や頸管に存在する微生物の子宮内膜,卵管への上行性感染,さらにその周辺組織へ波及した感染などによる急性の感染症状の「総称」であるが,欧米では卵管炎をPIDと称していることが多く,またこれに起因する膿瘍性の疾患をTOA(tuboovar—ian abscess)と呼んでいる.
 わが国では骨盤内感染症とPIDをともに子宮内感染や腹膜炎も含めて内性器感染症の総称として使用していることが多いが,骨盤内感染症の中の卵管炎を中心とした感染症をPIDと考えるほうが理解しやすい.

3.子宮頸癌とパピローマウイルス

著者: 前田信彦 ,   南邦弘 ,   熊本悦明

ページ範囲:P.35 - P.37

 近年,日本においては集団検診の普及により進行子宮頸癌患者数は減少し死亡率も低下しているが,高度異形成.上皮内癌は増加しその発症年齢も若年化している.一方,ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)のDNAが子宮頸癌,子宮頸部異形成に高率に検出され1),さらにHPVが遺伝子レベルで細胞を腫瘍化させる機序も断片的にではあるが証明されており2,3),現在,HPV感染は子宮頸癌発症の最大の危険因子であると考えられている.
 そこで最近の性行動の自由化,多様化に伴い,若年層における性感染症(sexually transmitteddisease:STD)としてのHPV感染症の蔓延から引き起こされてくるであろう子宮頸癌の発症年齢の若年化が危惧されている4,5)

4.不妊症とクラミジア

著者: 長田尚夫

ページ範囲:P.38 - P.41

はじめに
 クラミジア感染症(Chlamydia trachomatis:C.trachomatisと略す)は,性感染症(sexually trans—mitted diseases:STDと略す)の中で最も頻度の高い疾患であるばかりでなく,この10年間に50%増加となっている(厚生省STDサーベイランスデータ).熊本1)の報告によると25歳未満の既婚妊婦では8.7%,未婚中絶希望女性では15.8%のC.trachomatis陽性率となっている.
 クラミジア感染症は臨床症状に乏しく,しかも慢性的に進行することからその診断,治療が遅れがちであり,卵管性不妊症,特に卵管周囲癒着や卵管留症などの原因となることが注目されている.このクラミジア感染症は,子宮頸管炎から始まり子宮内膜炎,卵管炎,子宮付属器炎から骨盤内感染に波及し,卵巣卵管周囲に癒着を惹起,卵管不妊の原因になる.クラミジア感染症の診断は,スクリーニングとして子宮頸部のC.trachomatis抗原を検索する.本法の欠点は,陽性率が低いことと,子宮頸部以上の感染には無効であることである.子宮内膜や卵管,骨盤内の感染の有無については,血中のC.trachomatis抗体検査が行われる.

5.早産と上行性感染

著者: 竹田省

ページ範囲:P.42 - P.45

はじめに
 早産,未熟児出生は周産期における最大の問題であり,その予防は重要である.早産は種々の原因により起こるが,母体合併症,胎児発育遅延(IUGR),胎児仮死など人工早産によるものや頸管無力症,胎児や胎盤,羊水の異常,多胎などの疾患を除くと,主要な誘因は前期破水とも密接に関係のある絨毛羊膜炎である1).また12週以降22週未満の後期流産も,胎児異常,染色体異常,胎盤異常などを除くと,主な流産原因は絨毛羊膜炎であり,腟からの上行性感染である1)
 従来は,STDや症状を伴う細菌性腟炎,トリコモナス腟炎,カンジダ腟炎,クラミジア頸管炎などが上行性感染の原因として治療の対象とされてきたが,近年,腟内の乳酸桿菌が減少し、嫌気性菌など他の細菌に置き換わった「細菌性腟症」と言われる病態が,この流早産の原因として注目されている.細菌性腟症(BV:bacterial vaginosis)は症状が乏しく見逃されやすく,その診断,治療の重要性が指摘されている2〜4)

6.性器ヘルペス合併妊娠

著者: 滝沢憲

ページ範囲:P.46 - P.47

 20〜30歳代妊婦のHSV I型抗体(中和反応:NT法)保有率が50%(II型抗体保有率4%)という報告や妊婦HSV抗体(補体結合反応:CF法)保有率が52%という報告から危惧されることは,多くのHSV未感染妊婦が多くのHSV感染者(配偶者,妊婦,医療従事者など)に囲まれているという事実である.幸い,分娩周産期における性器ヘルペス症管理指針の一般化に伴い,新生児ヘルペス症は漸減している.しかし,毎年本邦で発生する約100例の新生児ヘルペスのうち,母に性器ヘルペスを認めるものは25%に過ぎず,75%は無症候性ヘルペスの母や周囲からの水平感染であることが,本症の管理を複雑にしている.

7.梅毒合併妊娠

著者: 辻岡寛 ,   瓦林達比古

ページ範囲:P.48 - P.51

 梅毒(syphilis)はスピロヘータ科のTreponemaPallidum(TP)と呼ばれる細菌による慢性全身疾患であり,性行為感染症の代表的疾患である.世界中に広く蔓延したが,戦後のペニシリンの汎用に伴い激減した.わが国でも罹患率,患者数ともに一貫して減少傾向にあったが,1985年(昭和60年)から一時増加傾向をみせ再び減少したものの,過去4年間では横ばいの状態である.1998年の罹患率は人口10万に対して0.4,患者数は553人と報告されている1).梅毒は性病予防法により届出義務があるが,感染の実体を把握することは困難であり,実際の患者数は報告されている数字とはかけ離れていると考えられている.近年の性行動の多様化をみると今後の動向に注意が必要な疾患の一つと言えよう.妊娠との関連については性病予防法第9条で妊婦に対する梅毒検査が義務化されており,現在原則として妊娠初期に梅毒血清反応検査が公費で行われている.梅毒の妊婦への感染は胎児の発育に重大な障害をきたすが,治療法が確立され,治療に対する反応も良いため,早期に診断し適切な治療をすることが重要な疾患である.

8.母子感染—HIV

著者: 戸谷良造

ページ範囲:P.52 - P.57

はじめに
 ヒトの性行為は種の保存に必要である.この行為により基本的遺伝情報の次世代への伝達がなされるとともに,各世代ごとの環境の変化に対応した遺伝情報の取捨選択がなされる.しかし,その生物にとって有益な情報のみを選択した結果とならない場合もある.母子垂直感染を伴うSTDによるウイルス感染の一部も次世代の固体にとって有益とは言えない情報伝達の一つである,これらの生物学的な負の情報伝播の一つにHTLV−1などによる母子垂直感染がある.もちろん,感染症の伝播は遺伝とは全く異なるが,感染児から見て負の情報の一つと受け止めてもよかろう.
 性感染症(STD)は,旧来の性病の認識から,HTLV−1ウイルス感染,C型肝炎ウイルス感染など,多くの経粘膜感染症をも含めた,幅広い疾患群へと解されるように大きく変化した.病原体も原虫,細菌,ウイルスにいたるまで実に多彩である.性行為により性器に感染初期病変をもたらす疾患のみならず,HTLV−1,HIV−1による感染など,初期感染症状が性器に病変をもたらさなくても性行為により伝播される疾患も含まれるようになった.その一つにHTLV−1がある.

8.母子感染—肝炎ウイルス

著者: 稲葉憲之 ,   大島教子 ,   深澤一雄

ページ範囲:P.58 - P.61

はじめに
 2年前,わが国で新しいヒト肝炎ウイルスが登場した.TTウイルス(TTV:TTは患者イニシャル)である.その数年前にはG型肝炎ウイルス(HGV:GBV-C;GBは外科医イニシャル)が報告されている.これらのウイルスの出現によって輸血後肝炎の残された課題があらかた解決されるのではと期待されたが,ことはそう簡単ではないようである.本稿ではまず,肝炎ウイルスについて整理し,次いでその母子感染の自然史を述べ,最後に当科におけるB型肝炎ウイルス母子感染予防法を紹介したい.

性感染症の最新の治療法

1.クラミジア感染症

著者: 野口昌良

ページ範囲:P.62 - P.63

はじめに
 クラミジア・トラコマティス感染症が女性の妊孕性を損うことは,今や疑う人がない事実である.
 しかしながらこの感染症は致命的な疾患ではない.しかも初感染時から長く無症状のことが多い.したがって治療を受けるきっかけがつかみにくい.とりわけ開放的なセックスライフの渦中にある若年女性が産婦人科医を訪れることは多くが未経験であり,足は遠のきがちである.このことが感染の発見と治療の着手が遅れる大きな理由である.

2.性器ヘルペス症

著者: 今中基晴 ,   森村美奈

ページ範囲:P.65 - P.67

性器ヘルペスとは
 性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(Herpessimplex virus:HSV)1型(HSV−1)または2型(HSV−2)の感染によって性器もしくはその付近に発症する性感染症である.初感染では強い疼痛を伴う潰瘍性病変が出現し,発熱や両側鼠径リンパ節腫脹を伴うことが多いが,無症候性で疾患と認識されないこともある.HSVが性器の皮膚・粘膜に感染すると,神経を通じて仙髄神経節に至り潜伏感染となる.その後,周期的にHSVが再活性化されて,神経支配領域に再発したり,無症候性にウイルスを排泄することになり,完治することは少ない.再発では症状が軽微であることが多い.症候性の初感染後の平均再発率はHSV−2では0.34回/月,HSV−1では0.08回/月である1)
 感染はウイルスが存在する皮膚・粘膜に直接接触することによって成立し,パートナーの性器や口唇,指などが感染源となる.パートナーが性器ヘルペスに罹患し,女性に抗HSV抗体がない場合,1年間に約31.8%に感染するが2),感染源と考えられるパートナーの約70%は無症候であるといわれている3).性器ヘルペスに罹患した場合,無症候期でも1〜5%ではウイルスが排泄されている4)

3.梅毒・淋菌感染症

著者: 淵勲

ページ範囲:P.68 - P.70

はじめに
 梅毒と淋菌感染症について最近の診断上の問題点と治療について述べる.

4.HIV感染症

著者: 照屋勝治 ,   岡慎一

ページ範囲:P.72 - P.75

はじめに
 1981年に突如出現したHIV感染症は瞬く間に世界中に蔓延した.1987年まではHIVに対して有効な薬剤は皆無であり,患者はAIDS発症後平均1〜2年で死亡していた.1987年のAZTを皮切りに抗ウイルス剤が次々と開発され治療に用いられるようになったが,1996年までこれらの薬剤の単剤治療は一次的な改善をもたらすものの,急速に耐性が獲得され,患者の生命予後を改善することはできなかった.しかし1996年に米国の臨床試験ACTG 175にてAZT+ddIやAZT+ddCなどの併用療法が明らかな延命効果と発病阻止効果をもたらすことが示された.さらに1995〜1996年にかけてプロテアーゼ阻害剤(PI)が登場し,1996年以降はこれらの薬剤と2種類の逆転写酵素阻害剤(NRTI)を組み合わせたHAART(highlyactive antiretroviral therapy)と呼ばれる3剤治療が行われるようになった.それ以後HIV感染者の死亡率とAIDS発症者数,日和見感染症罹患率の劇的な減少を認め,HIV感染症は治療可能な疾患として新たな展開を迎えたといえる.しかし一方で耐性ウイルス出現の問題,抗ウイルス薬の長期的副作用の問題などがクローズアップされるようになってきている.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・19

What is your diagnosis?

著者: 広川満良 ,   四宮禎雄

ページ範囲:P.7 - P.8

症例:57歳,女性
 腹部腫瘤を主訴に来院し,左卵巣腫瘍の診断にて左卵巣摘出術が行われた.左卵巣は多房性で,3kg以上あり,毛髪や脂肪を入れ,奇形腫であった.一部にみられた充実性の部分の組織像(Fig 1,2:HE染色,Fig 3:peptideYYの免疫染色)である.なお,患者は術前に頑固な便秘があり,術後それが改善した.
 1.Fig 1の矢印(→)が示す組織はどの臓器に類似してつるか.また,卵巣腫瘍がこのような組織からなる場合の診断は何か.

病院めぐり

市立岸和田市民病院

著者: 立山一郎

ページ範囲:P.86 - P.86

 岸和田は,“だんじり”の町である.今年も9月,10月とだんじり祭りの季節には,威勢のいい笛,太鼓の音が町中をかけ巡った.さて,岸和田市は大阪府の南部,泉州の地に位置している.大阪全体からみれば,泉州は田舎という感じが強いが,人の心は温かく,情が深い.私もこの地に赴任して12年になるが,本当に心の安らぐ土地柄である.
 市立岸和田市民病院は,数回の新築移転を繰り返しながら,平成8年5月,額原町2番地に現在の姿で開院された.その前身は,昭和11年に春木町,山直町,南掃守村,八木村,土生郷村の2町3村により「公立大宮病院」の名称で西之内町に設置された.そして,昭和17年に岸和田市立病院と改称している.現在の病院(市立岸和田市民病院)は,許可病床数360床,診療科19科で運営されているが,1日外来患者数1,700〜1,800人,病床利用率99%と活気に溢れている.平成5年には厚生省臨床研修病院に指定され,平成10年に日本医療機能評価機構認定病院となり,同時に日本医療福祉建築賞を受賞している。当院の特徴は,放射線科(医師5名),病理診断科(同2名),麻酔科(同5名),救急診療科(同5名)の充実にあり,われわれが悪性腫瘍を治療する上で心強い味方となっている.

日本生命済生会附属日生病院

著者: 廣田憲二

ページ範囲:P.87 - P.87

 財団法人日本生命済生会は,大正13年に健康増進などの事業を促進するために設立されました.その後,日生病院は,昭和6年に財団法人日本生命済生会附属病院として開設され,産婦人科は病院開設時から設けられました.財団法人日本生命済生会は看護婦学校,福祉事業部も運営しています.
 日生病院は,大阪のビジネスの中心「本町」から地下鉄で1駅西の千日前線阿波座駅から徒歩2〜3分のところに位置しています.このために,近年,分娩数は減少気味です.大阪では日生病院といえば産婦人科で,お産の日生病院といわれてきました.近年の分娩数は550件前後です.お産を楽しく安全にしていただくために,マタニティービックス,アフタービックス,離乳食相談,ハーブセラピーなどを行っています.高齢化社会の都心にある病院の役割を模索しています.

Estrogen Series・47

更年期後のホルモン補充療法と乳癌との関係—エストロゲン単剤とエストロゲン+プロゲスチン組み合わせとの比較 その2

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.90 - P.91

 前回に続いて,今回もホルモン補充療法と乳癌との関連に関する最近の発表をご紹介したい.これまた前回と同様,エストロゲン単剤(unopposedestrogen)と,エストロゲンとプロゲスチンとを組み合わせたもの(combination HRT)とを,その乳癌発生との関連から調べたものである.
 エストロゲン単剤によるHRT(ここではEと略す)は1960年代から1980年代初期に全米で急速に普及したが,1975年にEと子宮内膜癌との関連を示す論文がつぎつぎと発表されて,エストロゲン単剤の使用は急速に減少した1,2),それに代わってエストロゲンとプロゲスチンを併用する方法が普及した.このEとPを組み合わせた方法の導入により,HRTに伴う子宮内膜癌発生の問題は解消してしまった.

原著

自然閉経後女性のエストロゲン補充療法前後における血漿中ホモシステイン濃度の変化についての検討

著者: 星本和倫 ,   大藏健義

ページ範囲:P.76 - P.79

 血漿中ホモシステイン濃度の上昇は心血管系疾患の独立した危険因子であることが知られている.また,閉経後は,心血管系疾患のリスクが上昇し,ERTはそのリスクを低下させることも周知のとおりである.そこで,ERT前後において,自然閉経後女性のホモシステイン濃度がいかに変化するかを検討した.このとき,ERT前のホモシステイン濃度が10μmol/l(正常上限)以下の群(A群)と以上の群(B群)に分けた.ERT後,A群ではホモシステイン濃度が有意に上昇しており,B群では有意に低下していた.ホモシステイン濃度が高く,心血管系疾患のリスクが高いと思われるB群では,ERTはホモシステイン濃度を有意に下げ,そのリスクを低下させる可能性が示唆された.しかし,エストロゲンのホモシステインに対する影響については不明な点が多く,さらなる検討が望まれる.

症例

人工妊娠中絶後に形成された胎盤ポリープに対してTranscervical Resection(TCR)が有用であった1例

著者: 竹田明宏 ,   真鍋修一 ,   河合志乃 ,   渡邊義輝

ページ範囲:P.82 - P.85

 胎盤ポリープは,流産,人工妊娠中絶あるいは分娩後の遺残胎盤が変性,器質化によりポリープ状の腫瘤を形成したものである.大量出血により子宮摘出を余儀なくされることもあることより,子宮温存が必要とされる症例では治療に難渋することも多い.われわれは,帝王切開術既往のある患者で,人工妊娠中絶後に形成された胎盤ポリープより大量出血があったが,経頸管的腫瘍切除術(TCR)により保存的治療が可能であった例を経験した.TCRによる胎盤ポリープ切除術は,直視下に手術操作が行えることから,盲目的な子宮内容除去術に比し安全であり,有用な治療法であると考えられる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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