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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科55巻11号

2001年11月発行

雑誌目次

今月の臨床 周産期救急と周産母子センター

21世紀の周産期医療とセンターの役割

著者: 佐藤郁夫

ページ範囲:P.1204 - P.1206

はじめに
 国は,診療体制の整備された分娩環境や未熟児に対する最善の対応など,充実した周産期医療に対する需要の増加に応えるため,平成8年度,地域において妊娠・出産から新生児にいたる高度専門的な医療を効果的に提供する総合的な周産期医療対策を開始した.
 この対策は,周産期医療協議会の設置,周産期医療情報センターの設置,周産期医療関係者の研修,搬送体制の確立などに向けた調査・研究からなる周産期医療システムの整備を内容とするもので,併せて,その中核となる総合周産期母子医療センターへの運営費補助が設けられた.

周産期救急と母体搬送

1.切迫早産

著者: 平野秀人 ,   真田広行 ,   小原幹隆

ページ範囲:P.1207 - P.1211

切迫早産における母体搬送の基準
 切迫早産は母体搬送の理由の中で最も頻度の高い疾患であると言える.切迫早産の発症時期や程度および原因は多岐にわたり,施設によって母体搬送の基準は異なる.すなわち自施設において,どの程度の胎児・新生児医療が可能かによる.本稿では主に周産期総合母子医療センターなど第三次の医療施設への母体搬送のおおよその基準について述べる(表1).

2.妊娠中毒症

著者: 小林信一

ページ範囲:P.1212 - P.1213

はじめに
 妊娠中毒症は現在でも病態の解明が困難な疾患であり,多くの研究者や臨床医が発症の因子や治療についての諸問題に対応している.妊娠中毒症の管理,とくに重症妊娠中毒症の症例では入院による治療が必要となり,その上での母体および胎児の厳重で即応的な処置が必要とされる.また症状により母体では眼科,腎臓内科などの診療を依頼する場合もあり,新生児は新生児科の医師の診察や治療が必要とされることも多い.したがって一般の分娩施設での継続的な管理は困難な症例が大多数であり,妊娠週数や胎児の状態により周産期施設への母体搬送が必要とされる症例が多いものと考えられる.

3.出血性疾患

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1214 - P.1216

産科における出血性疾患
 産科ショックの特徴は,急性かつ突発的で予測困難な場合が多いこと,母児両面にわたる管理が必要なこと,産科固有の治療法が併用されることなどである.出血性ショックの原因となる疾患を表11)に示す.妊娠初期,中期,末期ならびに分娩周辺期にそれぞれ特徴的な疾患がみられるが,なかでも妊娠末期から分娩周辺期にかけての出血性疾患が最も多く,いまだにわが国における妊産婦死亡原因の第一位を占めている2)

4.感染症

著者: 松田義雄

ページ範囲:P.1218 - P.1220

はじめに
 病的な新生児が出生した後で地域の三次医療施設に搬送する新生児搬送よりも,新生児の集中治療を必要とする児の出生が予測される場合にあらかじめ母体をその施設に搬送する母体搬送の方が,周産期死亡率の減少に有用であることが報告されるようになって,この概念が本邦でも次第に定着するようになってきた.
 日本各地に総合周産期医療センター構想にそった施設が整備されるようになったが,まだまだ不十分と言わざるをえない.したがって,限られた周産期医療資源が有効に活用できるように,タイミングを逸することのないような母体搬送が望まれる1).本稿では,「感染症と母体搬送」に焦点をあて,搬送のタイミングと受け入れ上の注意点を中心に概説する.

5.胎児仮死とIUGR

著者: 鮫島浩 ,   岡田俊則

ページ範囲:P.1221 - P.1223

はじめに
 胎児適応で母体搬送を行う症例の中でIUGRと「胎児仮死」は特に重要な位置を占めている,しかし両者とも原因が複雑で多岐にわたり,程度も軽症から重症までさまざまであり,母体搬送をする際の単純明快なガイドラインを示し難い.その上,搬送先の病院と搬送元の病院との関係(距離,日頃の連携体制など),それぞれの病院の施設(NICUの能力,麻酔科の有無や手術室の状況,マンパワーなど)によって搬送の基準も異なる.したがって基本的にはそれぞれの症例を個別化し,その地域の周産期専門医とディスカッションを行ったうえで母体搬送の基準を決定することが大切である.ここではこのような複雑な問題をかなり単純化して母体搬送のタイミングと事前処置に関して概説する.この方針を参考に,個々の施設を取り巻くさまざまな条件を考慮し,搬送先の病院と一緒に母体搬送の基準を作成することが大切である.

6.偶発合併した救急疾患,特に急性腹症を呈する症例

著者: 中田好則

ページ範囲:P.1224 - P.1227

 妊娠に偶発する合併疾患は妊娠中の感染症から悪性腫瘍に至るまで極めて幅広く,およそすべての疾病がその対象となる.しかし,偶発合併症が重篤で緊急母体搬送を余儀なくされる救急疾患はそう多いものではなく,厳重な母児管理が必要な症例に限られる.当院は平成9年11月より総合周産期母子医療センターとして機能しているが,この3年間に母体搬送された患者で偶発合併症を有した救急疾患,特に急性腹症を呈した症例について述べる.

7.母体搬送の準備と手続き

著者: 杉本充弘 ,   池谷美樹 ,   佐藤千歳

ページ範囲:P.1228 - P.1230

はじめに
 ハイリスクの妊娠・分娩管理には,周産期センターを中心とする地域における周産期医療の連携が必要である.各地に周産期センターが整備され活動を開始しているが,地域における連携医療は現状ではまだ十分にはその体制が整えられていない.周産期医療施設間の連携のなかでもとくに母体搬送を円滑に行うために,必要な準備と手続の問題点を取り上げた.

新生児の異常と搬送

1.新生児搬送システムのあり方

著者: 木下洋

ページ範囲:P.1231 - P.1233

はじめに
 近年の母体搬送システムの充実により,在胎週数のきわめて少ない早産例や合併妊娠妊産婦は,新生児集中治療施設(neonatal intensive careunit:NICU)のある施設への母体搬送が推奨される.胎児医療と高度の母体管理および新生児医による継続したハイリスク児の管理が期待できるからである.
 一方,周産期のさまざまなリスクが娩出前に明らかではなく,予期せぬハイリスク新生児が出生してNICUへの新生児搬送を余儀なくされることも多い,「近隣の施設で,この子に最高の医療を」と願うのは家族の願いである.したがって,社会のニーズに適合した医療サービスを提供するには,地域に密着した新生児搬送が基本となる.それぞれの地域で,現行の周産期救急医療実施状況(母体搬送・新生児搬送取り扱い数,救急車出動件数,搬送状況,救急医療情報システム)を把握・点検し,周産期におけるドクターカーの有効な利用体制の問題点をさぐり,地域の特殊性を考慮した搬送体制の確立を図ることが求められる.

2.搬送すべき新生児の徴候とタイミング

著者: 竹内敏雄

ページ範囲:P.1234 - P.1236

はじめに
 近年,母体搬送の増加や妊産婦の大病院指向に伴い,新生児搬送の件数は減少傾向にあると思われる.しかし,病的状態にて搬送される新生児の重症度は以前にも増して高く感じられる.東京都衛生局の調査でも院外出生で新生児搬送された児の数は年々減少傾向にあるが,新生児搬送された児に長期入院が必要な重症例が多いことが報告されている1).新生児搬送の適応は,搬送元の診療施設の能力や地域の周産期医療システムなどにより異なるが,本稿では一般産婦人科医院より地域の高次医療施設への搬送について,症状別にその見極めやタイミングを中心に概説する2)

3.新生児搬送の準備と手続き

著者: 田村正徳

ページ範囲:P.1238 - P.1241

はじめに
 新生児搬送では,超低出生体重児から満期産児までの内科疾患・外科疾患の幅広い患者を対象とする.搬送中は医療スタッフが限定されているうえに,機材も通常のNICUとは全く異なる環境下(移動中の振動,幅広い環境温度,電源が保証されない,携帯電話や無線が飛び交う,など)で使用され,スペアや修理の専門家もいない,したがって新生児搬送に際しては,出発前の患者への処置・検査とともに搬送用器材・物品の準備・チェックが重要である,本稿では,新生児搬送に際しての患者への処置・検査と搬送用器材・物品の準備に分けて解説する.

周産母子センターの構想と現状

1.行政の立場から

著者: 藤﨑清道

ページ範囲:P.1242 - P.1244

はじめに
 国では平成8年4月に「周産期医療対策事業実施要綱」を策定し周産期医療ネットワークの整備を図っている.本稿においてその概要などを紹介するが,詳しい内容については,厚生省児童家庭局長通知「周産期医療の実施について」(平成8年5月10日,児発第488号,一部改正平成11年6月28日,児発第530号)を参照されたい.また,本要綱の作成にあたっては,長年にわたる関係者の努力の集積である平成7年度厚生省心身障害研究報告書「周産期の医療システムと情報管理に関する研究」(主任研究者:多田 裕)の成果に拠るところが大であるので,基本となるデータや考え方については同報告書を参照されたい.

2.地域の現状 1)東京都

著者: 中林正雄

ページ範囲:P.1245 - P.1247

概要
 東京都における周産期医療システムは昭和53年に新生児・未熟児特殊救急医療事業が開始され,17のNICU施設の輪番制から始動した.この事業は約20年間継続されたが,平成8年4月1日厚生省児童家庭局からの「周産期医療対策整備事業(実施主体は都道府県)」の通達を受けて,東京都は平成9年9月末日をもってこの事業を終了し,平成9年10月1日より東京都周産期医療対策事業を開始した.
 東京都周産期医療対策事業を推進し,東京都における周産期医療体制の整備,充実を図ることを目的に,東京都周産期医療協議会(以下「協議会」と略)が設置された.協議会の委員は学識経験者,保健医療機関の代表,周産期医療施設の代表,行政機関の代表から構成されている.協議会には産科部会(17周産期医療施設の代表により構成)と新生児部会(20周産期医療施設の代表により構成)が置かれ,年数回開催されている.

2.地域の現状 2)大阪府

著者: 末原則幸

ページ範囲:P.1248 - P.1250

大阪における地域周産期医療システムのあゆみ
 大阪における産科救急は,昭和の40年代に行われた妊産婦死亡の実態調査に始まりを見ることができる.これは大阪における妊産婦死亡の減少を願うに他ならなかった.昭和52年大阪産婦人科医会で産科救急問題を最重点課題とすること方針が決定された.折しも,昭和52年9月には在阪7病院から構成される新生児診療相互援助システム(Neonatal Mutal Co-operative System NMCS)がスタートした.昭和62年4月には病診連携と産婦人科救急対応を目指した産婦人科診療相互援助システム(Obstetrical Gynecological Co-opera—tive System OGCS)が発足した.一方,大阪府医師会は平成元年に産科救急推進委員会を発足させ,大阪府における産科救急問題解決のために試案作りを開始した.新生児医療推進委員会は昭和55年に設置されていた.産科救急推進委員会では,産科救急実態調査を実施し,産科救急の実態を知ること共に,情報のネットワークの必要性が議論された.OGCS受け入れ病院の整備,情報システムの整備,研修会の開催,産科救急マニュアルの刊行などが行われた.

2.地域の現状 3)システムが進む富山県の周産期医療

著者: 舘野政也

ページ範囲:P.1252 - P.1255

はじめに
 平成4年度の富山県の新生児死亡率は全国比でもっとも悪い記録を残した.しかし,周産期死亡率は全国比ではむしろ良い成績であった.一方,死産率は全国で最低に近い記録である.したがって筆者はこの成績を見るかぎり富山県の周産期医療は決して遅れているとは思っていない.
 救命困難と思われるような超低出生体重児に対しても救命しようとする熱意から死産が少なく,新生児死亡率が高いという成績が出ているものと理解している.

2.地域の現状 4)山口県

著者: 中村康彦 ,   佐世正勝 ,   中田雅彦

ページ範囲:P.1256 - P.1258

はじめに
 本州の西の端に位置する山口県(東西135km,南北80km)の中には,人口10万人以上の中規模都市が山陽側に5つ,県央に1つ散在し,これらを中心とした生活圏が存在している.県の総人口は約154万人,年間出生数は約1.3万人,合計特殊出生率は1.42(平成11年)と,全国と同様に少子化傾向にある.山口県における先進周産期医療は,昭和55年,現在も活発な活動を続けている済生会下関総合病院に周産期母子医療センターが開設されたことにそのルーツがある.この時代,周産期医療に対する取り組みには全県的な広がりはなく,県の西端のみが全国トップレベルを誇るという突出した状態であった.ちなみに,平成元年の山口県の新生児死亡(出生千対)は3.4(全国:2.6),周産期死亡(出生千対)は14.4(全国:12.1)という惨憺たる状況であった.平成2年,こうした山口県の周産期医療の現状を憂い,山口大学医学部附属病院に,産婦人科,小児科を中心に関連各科が協力し合って「母子医療センター(現 周産母子センター)」が稼動を始めた.ここに,行政によるバックアップをも受けた山口大学医学部附属病院主導の周産期医療に対する全県的な取り組みがスタートした.

周産期救急にかかわる医事紛争

1.最近の傾向

著者: 市川尚

ページ範囲:P.1260 - P.1262

はじめに
 周産期医療と医事紛争は産婦人科領域で最も頻度も高く,重大な問題とされている.
 妊娠・分娩は病的状態ではなく,生理的現象とされているが,いったん異常が発生すると救急的処置・対応が必要となり,母体と新生児の両方を扱うために医療事故になり易く,紛争につながることになる.

2.紛争の防止対策

著者: 谷昭博

ページ範囲:P.1263 - P.1265

はじめに
 医療事故というとすぐに「過失云々」と思われがちである.“適切な医療をしたのであるから過失ではない”=“医療事故はない”=“医事紛争は起きない”と考えがちである.しかし医療事故とは,「医療の過程において医療従事者が予測し得ない悪い事態が起こったもの」とされ,過失とは直接関係ない.
 医療事故が起これば医事紛争になることが多いのは当然であるが,事故が起こっても紛争にはならない場合も少なくない.たとえば,医療者側に過失がない場合や,過失があっても医療者側と患者側との人間関係がよく保たれている場合である.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・29

What is your diagnosis?

著者: 清川貴子

ページ範囲:P.1201 - P.1203

症例:46歳,女性
 子宮筋腫の診断のもとに単純子宮全摘術が行われた.Fig1〜3は主病変とは離れて摘出子宮筋層に認められた径3cmの結節性病変である.

婦人科腫瘍切除標本の取り扱い方・9

絨毛性疾患切除標本の取り扱い方

著者: 吉永浩介 ,   森谷卓也 ,   今野良

ページ範囲:P.1267 - P.1273

はじめに
 現在の「絨毛性疾患取扱い規約」(1995年改訂第2版)により胞状奇胎,絨毛癌,PSTT(placental site trophoblastic tumor),ならびに存続絨毛症を総称して絨毛性疾患と呼称している.絨毛性疾患の分類として1)臨床的分類と2)病理学的分類を設けている(表1).臨床的分類は絨毛性疾患の登録ならびに臨床的取り扱いのために用い,病理学的分類は病理診断や病理項目の記載を簡便にするために設けたとされている.規約に記された「絨毛性疾患の定義及び診断基準」では肉眼所見,組織学的所見,絨毛癌診断スコアを用いた総合診断を前提としている.本稿では「絨毛性疾患の分類」における1)臨床的分類における肉眼的および組織学的観察のポイントを「病理組織検体取り扱い」に則り,各々の疾患において診断に不可欠な肉眼観察と組織学的観察における注意すべき絨毛性疾患切除標本の取り扱いについて述べる.

病院めぐり

亀田メディカルセンター

著者: 亀田省吾

ページ範囲:P.1276 - P.1276

 亀田メディカルセンターは,冬でも菜の花が咲き,温暖で風光明媚な観光地である南房総鴨川市の太平洋に面した海岸沿いに立地しています.当院は江戸寛永時代より始まり,私どもで11代目で約350年の歴史があります.東京から約100kmとさほど遠くないにもかかわらず電車で約2時間かかり,高齢化,過疎化が進んでいる地域です.当地域はほかに総合医療機関がなく,基幹病院としての当院の役割と責任は大変重いものとなっております.
 亀田メディカルセンターは,救命救急センターを併設した病床数784床の急性期病院である亀田総合病院と,1日外来患者数2,000〜2,500名の高機能大型診療所である亀田クリニックを中心に,関連の社会福祉施設やさまざまな系列企業と連携し,幅広い医療福祉事業に取り組んでいます.また,臨床研修病院として教育活動にも努力してまいりました.そして,併設の亀田医療医技術専門学校には西暦2000年より助産学科が開設され,ナースプラクティショナーとして幅広い能力を持った助産婦の養成を目指しています.

大阪市立総合医療センター

著者: 松本 ,   山本

ページ範囲:P.1277 - P.1277

 大阪市の中心部を一巡するJR環状線からは,桜ノ宮駅にさしかかると地上18階建の淡い緑の建物が目に入ります.これが大阪市立総合医療センターで,診療科40科,1,063床を有し,自治体病院としてはわが国屈指の規模を誇る総合病院です.市制100周年を記念する事業の1つとして市立医療機関の体系的整備がはかられ,既存の2総合市民病院,3専門病院を統合し,21世紀を展望した中核病院として平成5年12月に新しく誕生しました.高度な総合医療機能とともに臨床教育研究室や動物実験室も備え,大学レベルの診療,研究が可能となっています.また研修医指定施設でもあり,40に及ぶ学会の認定医制度の研修・教育施設に指定されています.
当センターの産婦人科は産科と婦人科の2科を標榜しており,それぞれに部長が配属されています(産科部長:松本雅彦,婦人科部長:山本久美夫).常勤医は8名で,専門分野ではどちらか一方に重心をおきながら,基本的な診療については両科を兼任しています.研究医は現在5名が配属されており,原則として半年ごとに両科をローティトします.

症例

卵巣腫瘍と術前の鑑別診断が困難であった腸間膜原発のhemangiopericytomaの1例

著者: 横須賀薫 ,   梅崎泉 ,   相羽早百合 ,   山根貴夫 ,   山下由紀 ,   畑中正行 ,   吉田一成 ,   梁英樹

ページ範囲:P.1279 - P.1282

 今回われわれは,婦人科領域ではあまり遭遇しない腸間膜原発のhemangiopericytomaの1例を経験したので報告する.
 症例は45歳,下腹部痛・膨満感を主訴に来院し.術前諸検査にて卵巣癌または原発不明肉腫疑いと診断され手術が施行された.腫瘍は黄白色で分葉したように大小結節状の腫瘤からなり.静脈性の出血が多く認められた,HE染色標本にて,単一調の短紡錘形異型細胞がきわめて富細胞性に増殖して渦巻き状の流れがみられ,腫瘍細胞の大小不同や核型不整も中等度に認め,毛細血管周囲に増殖していた.核分裂像(8/10HPF)や壊死・出血像もみられた.免疫染色(vimentin一部陽性,CD34極一部陽性),鍍銀染色(腫瘍細胞を取り囲む膠原線維の染色)の結果も診断を裏付けた.

付属器摘出術後に発生した胎児心拍陽性遺残卵管峡部妊娠に対して腹腔鏡下卵管摘出術が有用であった1例

著者: 河合志乃 ,   竹田明宏 ,   真鍋修一 ,   中村浩美

ページ範囲:P.1283 - P.1285

 症例は36歳.27歳時に,当科で右皮様嚢胞腫のために右付属器摘出術を受けている.今回,妊娠反応陽性,不正出血を主訴に近医を受診した.子宮内に胎嚢はなく,右付属器領域に胎児心拍を伴う胎嚢様の像を認めたため当科を紹介され,遺残卵管峡部に発生した胎児心拍陽性子宮外妊娠と診断し緊急腹腔鏡下手術を行った.腹腔内出血はなかった.遺残卵管遠位端は閉鎖していることから,受精卵の内遊走により発生した子宮外妊娠と考えられた.超音波凝固切開装置により右遺残卵管摘出術を行い,術後経過は良好であった.
 遺残卵管子宮外妊娠はきわめて稀な疾患であるが,このような疾患の存在を念頭に置き,外来診療に当たることが重要であると思われた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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