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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科55巻7号

2001年07月発行

雑誌目次

排卵誘発 A.クロミフェン

1.抗エストロゲン作用

著者: 熊谷仁 ,   福田淳 ,   田中俊誠

ページ範囲:P.760 - P.762

はじめに
 クロミフェンは1959年にアメリカ・メレル社によって合成された.非ステロイド系エストロゲンであるジエチルスチルベストールやクロロトリアニセンの誘導体で,弱いエストロゲン作用を有する.1961年,Greenblattらによりクロミフェンの排卵誘発効果が初めて報告され,その後視床下部障害に起因する排卵障害に有効であることが確認され,1968年に日本でも発売が開始された.副作用が少なく,約75%と言われる高い排卵誘発率を有するため,第1度無月経・無排卵症例に対する薬物療法の第1選択とされている.本稿では,クロミフェンの抗エストロゲン作用を中心に,最近クローニングされたエストロゲンレセプターの知見を加えて解説したい.

2.低妊娠率—その対処法と治療限界の見極め

著者: 木元正和 ,   森岡信之 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.763 - P.765

はじめに
 クエン酸クロミフェン(以下,クロミフェン)は排卵誘発の第1選択薬で,無排卵性周期・稀発月経・第1度無月経などに対して幅広く用いられている薬剤である.クロミフェンはエストロゲン受容体の拮抗剤であり,その投与により視床下部からのGn-RH分泌が増加し,脳下垂体の性腺刺激ホルモン分泌が促進されることにより卵胞の発育・成熟がもたらされる.クロミフェン療法の問題点は,クロミフェンのエストロゲン受容体拮抗作用が視床下部以外の部位にも影響を与え,高排卵率にもかかわらず妊娠率が低い点にある.したがって,不妊症例に漫然と投与を続けることは望ましくない.本稿では,このクロミフェン療法の特徴,治療限界の見極め,対処法について概説する.

3.他剤との併用療法

著者: 後山尚久

ページ範囲:P.766 - P.773

はじめに
 クロミフェン(clomiphene citrate:Clomid®)は1961年にGreenblattらによりその卵胞成熟刺激効果が報告され,以来,経口排卵誘発剤として無排卵周期症と第一度無月経例に第一選択薬として広く用いられており,男性不妊症にも用いられる1〜4).クロミフェンはstilbestrolの誘導体であり,弱いエストロゲン作用を有する.しかし,卵胞成熟作用は,むしろこの薬剤の有する抗エストロゲン効果が主役となることが知られている.一般的には,クロミフェンはエストロゲンの存在下で抗エストロゲン作用としての効果が発揮され,ゴナドトロピンの放出が促進すると考えられている1,5)
 クロミフェンは,原発性無月経や第二度無月経例には効果がきわめて低いが,無排卵周期症の80〜87%,第一度無月経の60〜70%に排卵が得られることが諸家の報告により知られており2,3,6),自験例においてもそれぞれ85%および73%の排卵成績を得ている.残りの3割程度の無月経症例はクロミフェンに抵抗を示すため,これらの症例の取り扱いが重要な課題である.また,抗エストロゲン効果により頸管粘液不全や子宮内膜萎縮,あるいは黄体機能不全が惹起されることがあり5,7〜11),不妊症患者では治療に苦慮する.

B.ブロモクリプチン,テルグリド

1.副作用対策

著者: 綾部琢哉 ,   森宏之

ページ範囲:P.774 - P.775

下垂体ドパミン作動薬
 1.麦角アルカロイド
 高プロラクチン血症に対する薬物療法として現在用いられているのは,下垂体ドパミンD2受容体に結合してプロラクチン分泌を抑制するものである.今日,臨床的に汎用されているドパミン作動薬はブロモクリプチンとテルグリドであるが,いずれも麦角アルカロイドである.麦角アルカロイドはリゼルグ酸を骨格として持ち,その骨格や側鎖を修飾することにより得られる誘導体はさまざまな作用をもつ1).これはそれら誘導体の基本構造がノルアドレナリン,ドパミン,セロトニンなどの生体アミンの構造と類似性をもつため,それらの受容体と結合し,作動薬,部分作動薬,拮抗薬などとして作用するためであると考えられる.たとえば,エルゴタミンやエルゴトキシンは強力な平滑筋刺激薬で血管・子宮を収縮させ,α受容体を遮断する.ジヒドロエルゴタミンは片頭痛や起立性低血圧の薬剤として,ジヒドロエルゴトキシンは脳循環改善薬として,メチルエルゴメトリンは子宮収縮薬として,それぞれ臨床応用されており,LSDは向精神作用を有する.近年,ドパミンやセロトニンはヒトのさまざまな情動の発現に関与していることも知られるようになった.

2.抵抗症例への対応

著者: 田坂慶一

ページ範囲:P.776 - P.778

高プロラクチン血症性無排卵症に対するDAアゴニスト療法
 プロラクチンは下垂体前葉ホルモンの中でもっとも遅く純化精製され,1972年にラジオイムノアッセイにて測定可能になった.一方女性における乳汁漏出性無月経についてはChiari-FrommeI症候群(分娩後乳漏症),Argonz del Castillo症候群(分娩経験なしの乳漏症),Forbes-Albright(プロラクチン産生腫瘍)症候群が相次いで報告されていたが,比較的まれな疾患と考えられていた.しかし血清中のプロラクチン値測定が可能になると無月経を主訴とする婦人の約20%に高プロラクチン血症を示すことが明らかとなった.さらに高プロラクチン血症性無月経にはドーパミン作動薬が有効なこともわかって以来,高プロラクチン血症性排卵障害の治療としてドーパミン作動薬であるブロモクリプチンやテルグリドの服用による排卵の誘導が可能になった.
 乳汁漏出性無月経の一般的原因を表1に示した1)

C.hMG-hCG

1.OHSSの予防 1)GnRH,LHによる卵胞破裂(排卵)促進

著者: 福岡秀興 ,   大石ひとみ

ページ範囲:P.780 - P.784

はじめに
 不妊治療に排卵誘発が積極的に行われているが,hMG-hCGによる排卵誘発法には,多胎妊娠・流産の高いことなど多くの副作用がある.特に問題となるのは卵巣過剰刺激症候群(OHSS)であり,発症頻度は高く,時に致死的な症状を呈する.4〜5年前は入院加療が必要な重症のOHSSは6.2%前後だったが,2000年に7.0%となり,入院加療患者数は年間1万人を超え,重篤なOHSSの患者数は増えると予想される.死亡例,脳血栓,脳梗塞その他が報告されており,平成8年には,現行のhMG-hCG療法では血栓塞栓症,脳梗塞などを伴う重篤なOHSS発症の危険性があるという緊急安全情報が出された.“如何なる排卵誘発法であっても,OHSSは発症し得るものであり,その発症の予見は不可能である1)”とすら言われ,その予防は最重要課題の一つである.OHSSの発症を低く抑えることが期待される新しい排卵誘発法としてLH,GnRH(パルス療法)およびGnRHantagonistが注目されており,この3つを紹介したい.また人尿由来LHの特性をhCGと比較して,臨床応用の可能性についても言及したい.

1.OHSSの予防 2)hCGキャンセルの基準

著者: 田原隆三 ,   藤間芳郎 ,   岡井崇

ページ範囲:P.786 - P.790

はじめに
 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症はほとんどの場合,排卵誘発時のhCG投与後に惹起されるため,このhCGの投与を慎重に行うことがOHSS発症予防につながる.しかしながら未だにhCGの投与の時期や量,さらにOHSS発症予防のためにhCG投与をキャンセルする明らかな基準はない.一方でhCG投与をキャンセルすることは,その周期の排卵誘発を断念することにもつながり,患者の精神的,経済的な面が問題となる.そこで本稿では①OHSS発症の危険因子,②OHSS発症予防を目的とした排卵誘発時の工夫,さらに③hCGキャンセルの基準に加え,④多因子によるOHSS発症予測の試みについて概説する.

2.多胎妊娠の予防 1)低用量漸増法

著者: 安藤一道 ,   水沼英樹 ,   峯岸敬

ページ範囲:P.792 - P.793

はじめに
 排卵障害例に対するゴナドトロピン製剤を用いた排卵誘発法(ゴナドトロピン療法:G療法)では,卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠などの副作用発現頻度が高く,これらを軽減・予防するためにさまざまなゴナドトロピン製剤の投与法が工夫されている.本稿ではおもに多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対するG療法に際して実施されている低用量漸増法について概説する.

2.多胎妊娠の予防 2)FSH-GnRHパルス療法

著者: 桑原章 ,   苛原稔 ,   青野敏博

ページ範囲:P.794 - P.795

はじめに
 原始卵胞から排卵に至るまでの卵胞発育には約3か月間を要する.その途中で大半の卵胞は閉鎖し,卵胞期早期には卵胞(直径数 mmに発育している)数は数個から数十個に絞られる1).その後の卵胞期約10日間,主席卵胞の選択と他の卵胞閉鎖が起こる詳細な機構は未解決であるが,過剰にhMG製剤を投与すると正常月経婦人でも多数の発育卵胞が得られることから,卵胞の最終選択にゴナドトロピンが深く関与していることは明らかである.卵胞期中期以降,正常月経周期では血中FSH濃度が緩やかに減少し単一卵胞発育に適した環境が維持されるが,hMG療法中は血中FSH濃度が一定濃度以上を推移しやすく,多発排卵に至ることが多い.主席卵胞はゴナドトロピン受容体を強く発現し低濃度のゴナドトロピンに対する感受性を維持していると考えられているが,主席卵胞と他の卵胞のゴナドトロピン感受性の差はそれほど大きなものではなく,連日単回筋注による従来のhMG療法では適切なホルモン濃度を維持させることは困難であった.
 現在,不妊症治療による多胎妊娠に対して,治療法の改善による多胎妊娠の予防と減数手術の両面から注意深く検討が進められているところである2).われわれは1995年以来多胎妊娠を抑制する目的で,FSH療法にGnRH律動的投与法を組み合わせた治療法(FSH-GnRHパルス療法)の基礎的,臨床的有用性を検討してきた3,4)

2.多胎妊娠の予防 3)hMGのパルス療法

著者: 神野正雄 ,   中村幸雄

ページ範囲:P.796 - P.798

はじめに
 hMG-hCG療法は諸種の排卵障害に有効な治療法であるが,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群が問題である.本稿はその多胎妊娠の予防法として,hMGのパルス療法つまりhMG律動的皮下投与法につき述べることとする.

D.卵巣への外科的治療

1.多嚢胞性卵巣(PCOS)に対する腹腔鏡下レーザー療法

著者: 森田峰人 ,   中熊正仁 ,   平川舜

ページ範囲:P.800 - P.802

はじめに
 多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syn—drome:PCOS)は,不妊症診療上でしばしば遭遇する疾患であり,その病態としては月経異常,多毛,肥満を呈し,血中LH高値と多数の小嚢胞を含む卵巣形態が特徴である.代表的な排卵障害疾患であり,主訴の多くは排卵障害に基づく不妊である.
 本疾患の排卵誘発法は,クロミフェン(clomi—phene citrate:CC)による卵巣刺激が第一選択となる.CC療法無効症例に対しては,humanmenopausal gonadotropin(hMG)が適応となる.CCによる排卵誘発の効果は67〜76%で,妊娠率は33〜93%とややばらつきがあり,流産率が40%と高率である.hMGによる排卵誘発効果は75〜95%と高率であるが,妊娠率は平均28%(21〜65%)と低率で,流産率や多胎妊娠率が高いだけでなく,副作用としての卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症率が高く,PCOSの薬物療法には限界があることを示している(表1)1)

2.チョコレート嚢胞への処置

著者: 原田省

ページ範囲:P.804 - P.805

卵巣チョコレート嚢胞の外科治療
 卵巣チョコレート嚢胞を合併した子宮内膜症の治療法としては,薬物あるいは外科治療が考えられる.ダナゾールあるいはGnRHアナログによる薬物療法によって疼痛症状などは一時的に軽快し,嚢胞径の縮小もみられるが,チョコレート嚢胞が消失することはない.したがって,卵巣チョコレート嚢胞に対する治療の主体は外科治療ということになる.チョコレート嚢胞は20歳代から30歳代に好発することから卵巣摘出が選択されることは少なく,卵巣温存が必要な症例が多い.
 外科的治療としては,腹腔鏡下あるいは開腹による嚢胞摘出術,開窓と嚢胞壁の焼灼術,超音波ガイド下内容吸引とアルコール固定術などがあげられる(表1).腹腔鏡下嚢胞摘出術と開窓による嚢胞壁焼灼術を無作為に割り付け比較した研究成績では,術後24か月の累積の疼痛症状再発率と妊娠率は嚢胞摘出術で有意に良好であった1).超音波ガイド下内容吸引後のアルコール固定術は本邦のみで行われている.

IVF-ET

1.OHSSの予防

著者: 神谷博文 ,   森若治

ページ範囲:P.806 - P.810

はじめに
 体外受精・胚移植(IVF-ET)の排卵誘発法にGnRHアナログ(GnRHa)併用調節卵巣過剰刺激法(COH)が導入されて以来,多数の成熟卵を得ることが可能となった.胚盤胞移植法を含めた良好胚移植数の制限や余剰胚の凍結利用などにより品胎以上の多胎の予防や妊娠率・生産率の向上はなされつつある.一方,hMG製剤を使用したCOHに伴う卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生頻度は増加している.OHSSは一旦発症し重症化すれば稀ではあるが腎不全,呼吸不全,血栓症など併発し致命的となる医原性疾患である.OHSSが重症化した場合,重症度,病期,病態生理に基づいた適切な治療が重要であるが,OHSSの発症機序,病因,病態生理,誘因などがいまだ十分解明されていないため,現況では対症療法,支持療法での自然回復を待つ経験的治療が主体で行われていると言って過言ではない.そこでもっとも重要なことは,OHSSの発症の予防である.とくに重症・危機的OHSSへの進行を回避し,その予防策は妊娠率を低下させずに行える効率の良い対処法であることが必要である.

2.多胎妊娠の予防

著者: 小林真一郎

ページ範囲:P.812 - P.815

はじめに
 近年,体外受精胚移植(IVF-ET)や顕微授精(ICSI)施行施設の増加およびそれらによる妊娠率の向上に伴い,多胎妊娠が増加してきている.生殖補助技術が進歩,向上していくことは不妊症の患者にとっては望ましいことではあるが,多胎妊娠,特に品胎以上は母体や出生児に伴うリスクを考慮すると極力避けなければならない課題である.1996年に日本産科婦人科学会は移植する胚の数を3個以内とする会告を発表し,われわれもそれを遵守してきた.しかしながら,当施設では卵胞刺激1),培養方法,顕微授精の手技や胚移植法など種々の改善2)により,年々妊娠率の向上とともに多胎率も増加し,1998年には品胎妊娠数は年間6症例(妊娠症例あたり約3%)となった.移植する胚の数を3個にしているかぎり品胎の発生は避けられず,品胎予防のためには移植する胚の数を2個に制限しなければならない.従来4〜8分割の胚を3個移植していたが,4〜8分割胚を2個に制限すればそれらの着床率から推測すれば妊娠率は低下するであろうと予測された.

3.超多胎妊娠への対応—多胎減数手術の文献的考察

著者: 石原理

ページ範囲:P.816 - P.818

はじめに
 品胎(三胎)以上の超多胎妊娠は自然妊娠でも発生するが,特に要胎(四胎)以上の出産は稀で,それゆえ数多く記録が残されている.しかし,排卵誘発法の開発,そして特に体外受精など補助生殖技術(ART)の導入は,その発生率を,近年,急速に上昇させた.
 ARTにおいては,移植胚数を増加することに比例し,妊娠率が上昇するという言説が長い間信じられ,必要以上の多胚移植が行われてきた.しかし,受精し移植可能となった良好胚数が4個以上得られた場合,2胚移植と3胚移植の間に妊娠数の差は認められず,多胎率の上昇を伴うだけであることが明らかとなり,もはや3個以上の胚移植は行われない国すらある1).すなわち,ARTについては,技術的進歩を取り入れ,品質管理が十分に行われるのであれば,原則2胚移植あるいはさらに1胚移植(single embryo transfer:SET)により十分な成績が得られる2,3)可能性がある.これは,ARTにともなう品胎以上の超多胎妊娠は,将来的には理論的に予防可能であることを示している.

4.Poor responderの対策

著者: 中川浩次 ,   山野修司 ,   青野敏博

ページ範囲:P.820 - P.823

はじめに
 GnRH agonist(GnRH-a)はARTになくてはならない存在であるが,近年GnRH-aが卵巣でのステロイドホルモン産生を抑制するとの報告1)がなされ,GnRH-aによる卵巣への直接作用もpoor responderの一要因であると考えられるようになってきた.さらに,poor responderでは,ARTの臨床成績は不良であると一般的に考えられているが,近年,その常識を破る報告が出され2,3),poor responderの概念や評価が根本から揺らぎ始めている.
 そこで本稿では,poor responderにおける体外受精・胚移植の成績を再検討し,さらにその治療について文献的考察を加え解説する.

5.排卵促進をしない採卵

著者: 福田愛作

ページ範囲:P.824 - P.829

はじめに
 体外受精胚移植法(IVF)の1978年における世界初の成功は自然周期より得られたことは良く知られている.本邦でもIVF黎明期には自然周期を用いた方法が行われていたが,現在ではGnRHanalogにゴナドトロピンを投与する卵巣刺激法により採卵を行うのが主流となっている.その背景には,より多くの卵子を得ることによってより高い妊娠率を,さらには凍結融解胚移植による妊娠も期待できるということがある.その一方でゴナドトロピン製剤の投与に伴うさまざまな負担,薬剤の長期的影響,そして何より卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の危険性は未だ解決されていない.また卵巣刺激に対するpoor responderについても排卵誘発に苦慮しているのが実情である.そこで卵巣刺激を行わない非刺激周期の体外受精の有用性が再認識されている.非刺激周期の体外受精のなかには従来の自然排卵を用いた体外受精(NC-IVF)と未熟卵を用いた体外受精(IVM—IVF)がある.NC-IVFの報告は散見されるが,IVM-IVFについては当院における本邦初の妊娠分娩成功まであまり目を向けられなかった.その理由として妊娠率の低さはもとより採卵の困難さなどがあったと思われる.そこで本稿では,われわれの行っているIVM-IVFの方法を中心に紹介するとともに,当院におけるNC-IVFについても参考として解説したい.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・25

What is your diagnosis?

著者: 清水道生 ,   伊藤智雄

ページ範囲:P.757 - P.759

症例:30歳,女性
 羊水過少症にて妊娠32週に入院.極度の羊水過少のため人工羊水を注入したが,その後,破水した.胎児心拍モニターにて異常を認めたため,帝王切開が行われた.娩出された胎盤では臍帯付着部周辺に灰白色の小結節が散在性に認められた.その組織像(HE染色)を以下に示す.
 1.Fig 1(弱拡大,HE染色)にみられる羊膜に付着した病変は何か.なお,Fig 2はその強拡大である.

婦人科腫瘍切除標本の取り扱い方・5

子宮体癌切除標本の取り扱い方

著者: 上坊敏子 ,   新井正秀 ,   蔵本博行

ページ範囲:P.831 - P.835

はじめに
 悪性腫瘍の進行期分類は治療法の決定や予後の推定あるいは治療成績の評価などに際し,最も基本となるものである.子宮体癌の進行期分類として日本産科婦人科学会ではFIGOによる分類(表1)とUICCのpTNM分類とを採用している.
 子宮体癌の進行期は,従来子宮頸癌と同様に,治療開始前に決定する臨床進行期が用いられてきた.FIGOでは1988年以来手術進行期分類が用いられるようになり,本邦でも1995年症例からは手術例に関しては手術進行期分類(表1)に基づいて分類されることになった1).子宮体癌では手術による治療が第一選択とされることが多く,手術進行期は予後との相関が良好で術後治療の個別化に役立っ2)ことなどから,術後分類の有用性が評価されている.

病院めぐり

社会保険神戸中央病院

著者: 中田恵

ページ範囲:P.836 - P.836

 当院は昭和23年に神戸市生田区(現在の中央区)中山手通りに,当時の国民病であった結核対策を主目的として5科(内科,外科,産婦人科,耳鼻科,歯科),45床で開設された.1府県1施設を目標に社会保険庁が設立し,全国社会保険連合会に経営を委託した国有民営の施設である.その後,病院の拡充に伴い昭和61年に六甲山系の西に位置する神戸市北区惣山町に病院全体が新築移転し,現在に至っている.また平成8年には緩和ケア病棟(22床)を最上階に増床し,以後は15診療科,424床(うち人間ドック16,開放型病床5)となっている.関連施設としては,昭和46年以来,社会保険神戸看護専門学校を併設し,多数の看護婦を県内外に輩出しているが,平成6年には介護老人保健施設(100床)も併設した.さらに以前の病院跡には山手健康管理センターを設置し,病院に併設した健康管理センターとともに健診事業も行っている.職員は760名,医師は68名であり,現在の病院全体の外来患者数は1日平均1,300名で,神戸市北区の地域基幹病院として病診連携も円滑に行い,広く患者を受け入れている.
 産婦人科は現在常勤医3名(部長,医長,医員)と非常勤医1名で構成され,医員の派遣は京都府立医科大学より行われている.付近は閑静な住宅街であるが,移転当時は年間400〜450件であった分娩数も地域住民の高齢化と少子化の影響を受け最近は300件近くと減少傾向にある.

NTT東日本関東病院

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.837 - P.837

 NTT東日本関東病院の旧名は関東逓信病院です.昭和24年,逓信省の郵政省と電気通信省への分割時に逓信省附属の医療機関もほとんど平等に二分されました.東京逓信病院は郵政省,大阪逓信病院は電気通信省管轄という案配です.その後,首都東京に電気通信省(昭和27年より日本電信電話公社:電電公社)管轄病院のセンター施設設置が計画され,昭和27年に設立されたのが関東逓信病院です.欧米先進国の病院を範として昭和33年に完成した旧病院の内部設備は当時「東洋一」と謳われ,この建築・設計を担当した国方秀男氏は昭和33年度日本建築学会学会賞を受賞したそうです.その後の電電公社民営化による日本電信電話株式会社(NTT)の誕生,さらにNTT分割により現在の病院名となっています.また昨年11月には地上12階地下4階の新病院が完成し,施設,設備も一新されました.産婦人科初代部長は篠原弘蔵博士で,以下,松本清一博士,街風喜雄博士,塚田一郎博士,小尾俊一博士と続き私が6代目となります.
 当院は山手線五反田駅より桜田通り(国道1号)を上がって徒歩6〜7分のところに位置し,25診療科を有する総合病院です.近辺には池田山公園,明治学院大学,清泉女子大学,東大医科学研究所,国立自然教育園などがあり,都心にしては緑が多いところです.

臨床経験

癌性腹膜炎に対するIL−2,OK 432,CPMおよびPSK併用免疫化学療法の臨床的検討

著者: 寺内文敏 ,   植野りえ ,   小倉久男

ページ範囲:P.840 - P.844

 他臓器原発転移性卵巣癌・癌性腹膜炎例に対しinterleukin−2(lL−2)製剤を中心とした免疫化学療法を行い,その臨床効果を検討した.対象は,転移性卵巣癌および癌性腹膜炎3例である.方法は,lL−2をkeydrugとし,OK 432,CPM,PSKの4剤併用免疫化学療法を計3コース行った,直接効果においてはNCであった.腸閉塞症状,胸腹水貯留は改善し,全例にPSの改善を認めた.延命効果も一定以上の改善を認めた.免疫パラメーターの変動に関しては,有意に特徴的な傾向は認めなかったが,CD16およびCD56に増加傾向を認めた.本治療法は,副作用も軽度の発熱のみで全身状態不良例においても安全に行うことができ,特にPS,さらにはQOLの改善が期待でき,手術療法,放射線療法,抗癌剤化学療法につぐ第4の治療法として検討する価値があると思われる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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