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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科56巻11号

2002年11月発行

雑誌目次

今月の臨床 更年期・老年期医療のピットフォール

更年期・老年期医療の動向

著者: 麻生武志

ページ範囲:P.1310 - P.1314

更年期・老年期女性を取り巻く社会の現状
 今日のわが国における更年期・老年期医療は大きな転換期にあり,これからの動向を論じるには,更年期・老年期女性を取り巻く社会の現状に至るまでの経緯を分析する必要があろう.この中で最も急速かつ顕著な変化は,近年の少子高齢社会であり,これからの動向としてはさらにこの傾向が進行すると予想される点である.

ホルモン補充療法の動向

著者: 本庄英雄 ,   岩佐弘一

ページ範囲:P.1315 - P.1319

はじめに
 ホルモン補充療法(HRT)は閉経周辺期のエストロゲン欠落に伴う血管運動神経障害による諸症状を改善するだけでなく,骨粗鬆症,動脈硬化やアルツハイマー病の予防に有効であるとされ,閉経後女性のQOLを向上させるものと期待されている.残念ながらHRTに関して,本邦では十分なコンセンサスが得られておらず,欧米諸国に比してその普及率は極めて低い.HRTの普及に障害となるのは,子宮内膜や乳腺に関連する副作用であり,なかでも不正出血は患者にとって最も気にかかるところであり,臨床医にとっても対処の難しいところである.近年のHRTの動向は,コンプライアンスを高めることを主眼とし,より長期にHRTを継続するために,最大の懸念である不正出血を最小限に抑えるプロゲスチンの併用連続投与が注目されているようである.またHRTに代わる治療法として,近年着目されているselected estrogen receptor modulator(SERM)や,現在実験段階であるが有用性が期待されるnon-feminizing estrogenについて言及する.

ホルモン補充療法の有害事象

著者: 太田博明

ページ範囲:P.1320 - P.1323

はじめに
 ある薬剤における有害事象とは,一般に薬剤服用を開始した後に発現する好ましくない,あるいは意図しない症状のすべてを指している.特に臨床治験においては,有害事象に関して各症例記録に,その症状・症状発現日・症状の程度・それに対する処理ないし処置・その後の臨床経過を記載するとともに,発現した症状一つひとつに対して薬剤との因果関係を判定することになっている.これらの症状群のうち,薬剤との因果関係が否定できないものは「副作用」として取り扱われ,医薬情報として医療サイドに提供しなければならない.
 本稿では,ホルモン補充療法(hormonereplacement therapy:HRT)施行時にみられる有害事象うち,一般的によく知られている副作用1〜4)ばかりでなく,日本医薬品集5)に記載されている事項なども含めて記載する.

診断・治療におけるピットフォール

1.更年期における月経異常の鑑別診断

著者: 片岡惠子 ,   野崎雅裕 ,   中野仁雄

ページ範囲:P.1325 - P.1327

はじめに
 更年期とは,生殖期と非生殖期の間の移行期を指す.更年期には,急激な女性ホルモン,特にエストロゲンの減少とそれに伴う種々の障害が起こる.また,精神的なストレスを受けやすい時期にあるうえ,若年者と大きく異なるのが器質的な疾患を無視できない年代である点である.本稿では,閉経前後の不正出血を中心にその鑑別について述べる.

2.更年期の不定愁訴

著者: 赤松達也

ページ範囲:P.1328 - P.1331

はじめに
 不定愁訴を訴え医療施設を訪れる患者は多く,なかでも更年期を中心とした中高年女性に顕著である.不定愁訴が形成される背景には多くの要因が考えられるが,特に大きな比重を占めるものとして,内分泌環境の変化と患者の社会・心理的な要因が挙げられる.更年期を迎えた女性では,卵巣機能の衰退による閉経を含めて,それまで保持していた能力や役割,近親者の死なども経験しはじめ.こうした喪失体験から種々の不定愁訴をきたす場合も少なくない.

3.アルツハイマー病

著者: 大藏健義

ページ範囲:P.1332 - P.1335

はじめに
 更年期の女性では,40歳代後半から物忘れを訴える頻度が増してくる.この時期の物忘れは,大部分は正常な老化の範囲内であるが,日常生活や社会活動あるいは職業的機能に支障をきたすようだと問題とされ,痴呆の初期と鑑別しなければならない.老年期の痴呆は,アルツハイマー病(Alzheimer�s disease:AD)と脳血管性痴呆(vascular dementia:VD)とに大別される.わが国では従来,ADよりもVDの割合が高いと報告されてきた.しかし最近の報告1)ではADの割合が増加してきて,60歳以上の女性の痴呆ではADが51.7%,VDが24.6%であり,欧米での割合とほぼ同じになってきている.一方,男女比ではわが国だけでなく欧米でもADは女性に多く発病し,発生率は男性の1.7〜3倍と報告されている.また,女性におけるADの発症は卵巣からのエストロゲン分泌の永久的停止(閉経)との関連が深いことが指摘されている.
 本稿では,ADの診断と治療におけるピットフォールについて,日常診療を年頭におきながら概説する.

4.皮膚の老化

著者: 牧田和也 ,   野澤志朗

ページ範囲:P.1337 - P.1339

はじめに
 更年期以降の女性に認められる皮膚に関連した変化としては,従来より「シミの増加」「乾燥感」「弾性や柔軟性の喪失」などがいわれている1〜3).しかし,これら皮膚の変化を主訴として婦人科外来を受診する者は,更年期専門外来といえどもほとんどいないのが現状である,また,更年期にみられる不定愁訴である更年期症状群としても,Kuppermanら4)がかつて提唱した更年期指数に含まれる「蟻走感」以外の皮膚症状は現在でもほとんど取り扱われていない.
 しかしここ数年来,欧米を中心として.このような皮膚症状に対してもホルモン補充療法(hor—mone replacement therapy:HRT)が有効であるとする報告5〜14)が散見されるようになり,わが国でも更年期女性のQOLの向上を考えると無視しえない問題15)であるといえる.

5.生殖器の萎縮,セクシャリティ

著者: 小池浩司 ,   野崎紀子 ,   井上正樹

ページ範囲:P.1340 - P.1344

はじめに
 高齢化社会が進む中で,閉経以後の人生がおよそ4割を占める時代が到来した.更年期を境に見られる全身の退行性変化の中で,のぼせ,ほてり,発汗異常などの更年期症状に代表的な血管運動性症状とほぼ時を同じくして出現し,その頻度が高い症状に泌尿生殖器症状がある.また,血管運動性症状は一時的で,治療を放置しても数年で消失・軽減することが多いが,泌尿生殖器症状はその発症機序からも推察できるように,自然軽快は望めず,年齢を重ねるにつれて進行・増悪し,しかも患者の訴えとしての声がわれわれ臨床医に直接には届きにくい症状である.本稿ではまず.閉経期に見られる生殖器の萎縮やセクシャリティの変化に触れ,その対策としてのホルモン補充療法を中軸とした治療を概説したい.

6.泌尿器の萎縮:尿失禁,子宮脱

著者: 松田秀雄 ,   古谷健一 ,   菊池義公

ページ範囲:P.1345 - P.1351

はじめに
 近年の高齢化の進行とがん検診意識の向上やHRTの普及に伴い,日常,婦人科外来を受診する中高年女性は増加の傾向にある.更年期,老年期における頻度の高い良性疾患として,尿失禁,排尿困難,性器脱,萎縮性腟外陰炎などがあげられるが,今後,婦人科医としてこれらの疾患に対応する必要性はますます高まると考えられる.
 女性生殖器は解剖学的に膀胱・直腸と接している.よって従来婦人科単独疾患と考えられがちであった性器脱の診断,治療に際しては,排尿機能の改善,強化の観点からのアプローチが求められよう.とくに,尿失禁の潜在的な患者数は数百万人規模(成人女性の28%が経験し,そのうちの15%が治療対象1))といわれ,今後の取り組みが重要な領域のひとつとして注目される.

7.骨粗鬆症の診断

著者: 倉澤健太郎 ,   五来逸雄

ページ範囲:P.1352 - P.1355

はじめに
 わが国では,急速な人口の高齢化に伴い,骨粗鬆症の患者数は増加の一途をたどり,老年内科・内分泌内科・整形外科・放射線科・婦人科など多科にわたる臨床医が骨粗鬆症を診療する時代になってきた.骨粗鬆症を診断し,治療する目的は骨折の予防であり,本疾患に対する理解を深め骨粗鬆症を正しく診断することは重要である.
 わが国においては,1987年に厚生省「シルバーサイエンス研究班」の退行期骨粗鬆症診断基準が提唱されて以来,1993年に厚生省長寿科学研究班による診断基準1)が提唱された.1995年に日本骨代謝学会で骨粗鬆症診断基準検討委員会が設置され,1996年には2000年まで用いられていた診断基準が作成された2).その後,横浜市立大学,放射線影響研究所,川崎医科大学,成人病診療研究所を受診した女性で,腰椎骨密度測定が行われてから平均3.3年間追跡された脊椎骨折についての情報があり,追跡期間に骨代謝に影響する薬剤の投与を受けていない1,539例について縦断調査が実施された.その結果,1996年の横断調査により決定されたカットオフ値が縦断調査により妥当であることが明らかとなった.これを基にして,原発性骨粗鬆症診断基準(2000年度版)が作成された.

8.骨粗鬆症治療上のピットフォール

著者: 水沼英樹 ,   樋口毅

ページ範囲:P.1356 - P.1359

はじめに
 骨粗鬆症は,骨成分の組成を変えることなく骨量が減少し,骨折を起こしやすくなった状態と定義される.骨粗鬆症の診断に当たっては,日本骨代謝学会から診断基準が提示され,現在では多くの施設でこの基準に則り診断が下されるようになっている.また治療においても同学会は薬物療法のガイドラインを発表1)しており,したがって本基準に従えさえすれば大きな誤りを犯すことは少ないと考えられる.これらの2つの指針で特に重要な点は,二次性骨粗鬆症を見逃さないという点と,使用する薬物の選択を見誤らないという点である.本稿ではこの2点から本症の治療上陥りやすい落とし穴について解説を行うこととした.

9.高脂血症の診断

著者: 若槻明彦

ページ範囲:P.1361 - P.1365

はじめに
 心血管疾患(CVD)の危険因子には高脂血症,高血圧,喫煙,糖尿病,重度の肥満などがあるが,なかでも高脂血症の存在はCVDの発症と密接に関連する.CVDの発症は男女とも経年的に増加し,50歳以前では男性が高率で推移するが,それ以後,女性の頻度が急増し,70歳代でほとんど差がなくなる1).総コレステロール(TC)の経年的推移をみると,50歳前では男性が高値で推移するが,それ以後,逆に女性が高値となる.高比重リポ蛋白—コレステロール(HDL-C)は男女共に50歳頃まで変化することなく推移し,それ以後若干低下する,一方,中性脂肪(TG)も30歳頃より上昇し,60歳頃でピークを示す2),これらの脂質濃度の変化により.閉経後のエストロゲン濃度の急激な低下がTCやTGの上昇をきたし,CVDの発症に結びつくと考えられる.したがって,CVDの発症予防という観点から,閉経後高脂血症の診断が重要となる.この稿では,高脂血症の診断基準や分類,さらには閉経後高脂血症の頻度やその機序について概説する.

10.高脂血症の治療

著者: 大濱紘三 ,   真田光博

ページ範囲:P.1366 - P.1371

はじめに
 血清脂質にはコレステロール,中性脂肪,リン脂質などがあり,これらはいずれも疎水性で,そのままでは血液に溶けないため親水性の蛋白(アポ蛋白)と結合したリポ蛋白の形で存在している.リポ蛋白はその組成の違いにより粒子の大きさや比重が異なり,大きさの順にカイロミクロン,超低比重リポ蛋白(VLDL),低比重リポ蛋白(LDL),中間比重リポ蛋白(IDL),高比重リポ蛋白(HDL)などに分けられる.コレステロールは体内では細胞膜の形成,ステロイドホルモンの産生,胆汁酸の生成のための原料として利用される.中性脂肪(TG)はグリセリンと脂肪酸が結合した脂質で,分解されて遊離脂肪酸となり,エネルギー源として利用される,血清脂質の値は肝臓における脂質の産生と血中への放出,血中でのリポ蛋白リパーゼによる分解,末梢組織への取り込み,末梢組織から肝臓への逆転送,肝臓への取り込みなどによって調節されているが,これが異常に増えた状態を高脂血症という.高脂血症にはコレステロールだけが高値になるもの(高コレステロール血症),中性脂肪だけが高値になるもの(高トリグリセライド血症),両方が高値を示すものがある.虚血性心疾患をはじめとする心・血管系疾患は動脈硬化を基盤として発生することが多く,動脈硬化の危険因子としては高脂血症が第一に挙げられる.

11.閉経後女性の上半身型体脂肪分布—内臓肥満

著者: 堂地勉

ページ範囲:P.1373 - P.1377

はじめに
 肥満が高血圧症,糖尿病,高脂血症,動脈硬化症などのさまざまな内分泌・代謝異常を伴いやすいことはよく知られている.しかし,肥満の程度とこれらの異常の発生頻度や重症度は必ずしも相関しない.肥満が体脂肪組織の過剰な蓄積であると定義すれば,その蓄積量(肥満度)よりも,むしろ蓄積部位の異常(体脂肪分布の異常)がさまざまな内分泌・代謝異常と関連して重要であることが明らかになりつつある.肥満と体脂肪分布異常は類似するが,両者は厳密には異なる.欧米では肥満をoverall adiposity,体脂肪分布をbodyfat distributionとして明確に区別している.
 女性は加齢や閉経により体脂肪分布が上半身型に移行することが示されている.このような変化は,閉経によるエストロゲンの低下とは別に,閉経以降に起こるさまざまな内分泌・代謝異常の発生に関与している可能性がある.ここでは閉経後女性の体脂肪分布異常についてわれわれの知見を交えて概説する.欧米では,体脂肪分布の異常を上半身型体脂肪分布と呼ぶのが通例であることから,ここでは上半身型体脂肪分布に言葉を統一して話を進めていく.

12.閉経後女性における心血管イベント予防

著者: 佐久間一郎 ,   北畠顕

ページ範囲:P.1378 - P.1381

はじめに
 女性は男性より虚血性心疾患の発症が15〜20年遅い.これは,女性では正常な月経周期が保たれている間は,卵巣からエストロゲンが産生され.心血管系が保護されているからである.しかし.閉経後は卵巣からのエストロゲン生成が低下し,副腎などから生成される男性ホルモンが脂肪組織で変換酵素により転換される分だけとなり,血中エストロゲン濃度は同年齢の男性よりも低値となる.その結果,閉経後は急峻に心血管系疾患が増える.エストロゲンの血中濃度を閉経後もあるレベルに維持させる療法がホルモン補充療法(HRT)であり,心血管イベント予防に有効であるとされていたが,現在は再検討に入っている.
 一方,虚血性心疾患発症に対する喫煙,高血圧や肥満などの冠危険因子の寄与に関し,女性では男性と比較してそれらの相対危険度が高い.したがって,閉経後女性における心血管イベント予防には,これら危険因子の除去が重要となる.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・41

What is your diagnosis?

著者: 島田志保 ,   廣瀬隆則 ,   清水道生

ページ範囲:P.1307 - P.1309

症例:54歳,女性
 1年前から下腹部腫瘤があり,子宮筋腫と診断されhysterectomyが施行された.腫瘍は子宮体部筋層内にあり,多結節状であった.Fig 1(弱拡大)およびFig 2,3(強拡大)は切除検体の代表的な組織像(HE染色)である.
 1.良性か,それとも悪性腫瘍か.

病院めぐり

湘南鎌倉総合病院

著者: 井上裕美

ページ範囲:P.1392 - P.1392

 当院は,平成元年11月,鎌倉市山崎に創立された.大船駅近くの大船観音を病棟から観ることができるが,古都鎌倉からは少し離れた鎌倉山の手前に位置する.「湘南海岸」までは車で約5分,「鎌倉の大仏」さんへも車で数分という素晴らしい環境にある.
 436床の小さな病院は,スペースの狭さを小回りのきくシステムで何とかやりくりしているようにみえる.病院の満床は頻回に生じるが,頑張っているER(救急外来)は困った救急の患者を断らない.患者のための医療はかなり浸透しているように思えるが,もちろんまだ十分とはいえないとスタッフは思っている.平日の1日外来患者数は約1,500人を超える.心臓外科のバチスタの手術や日帰りセンターの開設など,日本での多くの新しい試みがこのちっぽけな病院で行われてきたし,現在も行われている.

姫路赤十字病院

著者: 繁田浩三

ページ範囲:P.1393 - P.1393

 当院は兵庫県立病院を前身とし,明治41年4月に日本赤十字社兵庫支部姫路病院として開設されて以来,90余年の歴史を有しています.この間,大正13年11月の建物消失や第二次世界大戦中の二度の軍隷下など,病院の存立自体にかかわる重大な出来事もありましたが,地域の中核病院として折々の医療ニーズに対応してきました.昭和初期に改築された病院も老朽化が目立っていましたが,平成13年11月より姫路市西部の夢前川のほとりに新病院となり,アメニティも向上し,気分一新,職員一同,日々の診療に励んでいます.
 産婦人科スタッフも現在4名の常勤医と研修医1名で何とか切り盛りしています.当科は,患者に対し,常にアップデートな情報を提供し,十分なインフォームド・コンセントの後,治療を行うように努力しています.2001年の婦人科開腹手術は230件(腹腔鏡手術16例を含み,帝王切開を除く),新規症例数は子宮頸癌28例,子宮体癌21例,卵巣悪性腫瘍14例,子宮筋腫手術82例などで,子宮頸部上皮内癌はレーザー円錐切除,Ia期は準広汎子宮全摘が標準術式,Ib期以上には広汎子宮全摘と骨盤リンパ節郭清,術中迅速病理診断にて骨盤リンパ節転移例には腹部大動脈リンパ節郭清も施行しています.III期以上や腫瘍が大きい症例にはNACも施行しています.

OBSTETRIC NEWS

緊急帝王切開:何分で遂娩できるか?—南オーストラリアの研究

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1394 - P.1395

 スコットランドの研究で,分娩中の緊急帝王切開(帝切)決定から分娩までの所要時間の中央値は40分(対象:スコットランドの分娩の9.8%)と報告されている(Scottish Programme for ClinicalEffectiveness in Reproductive Health, 1995).
 南オーストラリアの10施設で,緊急帝切464例が30分以内に分娩できたか否かを検討した.緊急帝切の適応は心配な胎児心拍数パターン,臍帯下垂または臍帯脱出,頭皮血pH異常,分娩前多量出血,器械的分娩の不成功で,比較的緊急帝王切開の適応は分娩進行停止,CPDの疑いであった.

CURRENT RESEARCH

双胎間輸血症候群における胎盤血管吻合—内視鏡による観察

著者: 村越毅 ,  

ページ範囲:P.1382 - P.1387

●はじめに
 双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)は,一絨毛膜双胎において胎盤での血管吻合を通じ両児間に血流移動のアンバランスが生じて起こる疾患と考えられている.供血児は「貧血,低血圧,乏尿,羊水過少,発育不全,腎不全」を主症状とし,受血児は「多血,高血圧,多尿,羊水過多,胎児水腫,心不全」を主症状とする.中期発症の重症型では,無治療での周産期死亡率はほとんど100%とされている.吻合血管による血流移動が主原因であることから,1990年にDe Liaら1)により内視鏡による胎盤吻合血管のレーザー焼灼術が初めて報告され,1995年にDe Liaら2)およびVilleら3)により治療成績が報告された.その後Quinteroら4)による選択的吻合血管焼灼術により技術的に治療法が確立し,現在では羊水除去に比較してmortalityおよびmorbidityともに良好な成績で報告されている5,6).本邦では,1992年に名取ら7)が第1例を報告したが,その後の報告はない.
 今回,われわれはFlorida Institute of Fetal Diagnosis and Therapy,St. Joseph's Women's Hospitalでの臨床データをもとに,内視鏡によるTTTSの観察において,吻合血管の数,種類,特徴につき検討したので報告する.

臨床経験

妊婦における流行性耳下腺炎抗体保有率について

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   野呂歩 ,   間峡介

ページ範囲:P.1389 - P.1391

 妊娠中の流行性耳下腺炎罹患により妊娠初期の流産の増加と,分娩周辺に罹患した場合の児への感染による重篤な呼吸障害,血小板減少,発熱などの合併症の可能性や,産褥期に脳髄膜炎を発症した報告例がある.流行性耳下腺炎の罹患に関しては20〜30%が不顕性感染とされるため,抗体保有状況を把握しておくことは有意義と考えられる.
 今回,1996年10月3日〜1998年3月31日の期間に妊婦100例についてIgG抗体価(EIA法)によるムンプス抗体保有率を調査したところ,全体で92%の抗体保有率であった.また,年齢が高くなるにしたがってムンプス抗体保有率が低下する傾向が認められた.当院における流行性耳下腺炎の罹患率については,1996年2月1日〜2001年2月28日までの分娩数2,739件のうち,感染が明確であった症例が1例認められた.したがって,当院における妊娠中の流行性耳下腺炎罹患率は1/2,739件(0.037%)であった.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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