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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科56巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 分娩の多様化とリスク管理

分娩におけるアメニティへの配慮と安全性の確保

著者: 朝倉啓文 ,   清川尚

ページ範囲:P.1414 - P.1417

はじめに
 分娩の安全性を願うことは,産科医療従事者のみでなくすべての人々の願望である.近代産科医療は,母児の安全性を中心に見据えて周産期医療体制を整備してきた.そして,日本や先進国での分娩の安全性はある程度のレベルに達しているといえる(図1)1)
 しかし,妊娠,分娩は決して異常ではなく,動物本来の自然生活の一部である.このような視点から,現在までに近代産科学が築き上げてきた医療者側主体の分娩(安全性指向であるが)ではなく,より人間味のあるさまざまな分娩様式を望む人々が増加しているようである.つまり,身体面での安全性のみを重視するのではなく,精神面での安全性ともいえる満足度を充足させる視点である.

分娩様式の選択とインフォームド・コンセント

著者: 竹村秀雄

ページ範囲:P.1418 - P.1422

はじめに
 一般産業において良質な製品を提供するための品質管理(quality control:QC)が必要とされた時代から,消費者の主体性を重視した顧客満足(customer satisfaction:CS)が求められる時代へと移行したように,医療においても医療の品質,つまり安全性の提供は当然のこととして,医療を受ける立場から見た患者満足が求められるようになってきている.周産期死亡率が世界の最高水準に達し,正常に経過している妊婦であればほぼ確実に健康な児が得られるようになった現在,ローリスク分娩に関しては分娩様式に関する選択の幅も広がってきている.それだけにわれわれは,豊富でしかも質の高い情報を提供し,妊産婦の選択がより満足度の高いものになるよう努める必要があろう.医療の提供者と受ける側が種々の説明書やクリニカルパスを用いで情報を共有しつつ選択し,方針を決定するインフォームド・チョイス,インフォームド・コンセントは,患者満足のための重要なステップであり,さらに医事紛争を未然に防ぐリスク管理としても欠かせないものである.
 本稿では,分娩様式の選択を必要とするいくつかの問題点とそのインフォームド・コンセントについて述べてみたい.

分娩様式とリスク管理

1.自然分娩とFHRモニタリング

著者: 水上尚典

ページ範囲:P.1424 - P.1427

はじめに
 分娩そのものは特に疾病ではないが,適切な医学的介入なしでは多くの命(母児ともに)が妊娠・分娩を契機として失われる.例えば,アフリカ諸国には妊産婦死亡が10万分娩あたり500〜1,000名(本邦では10名未満)に達する国・地方が多数存在する.そのような国々の周産期死亡率は定かではないが,本邦の100倍近くに達するのではないだろうか.これらのことは大多数の妊婦が無事出産し,元気な児を持てるためには適切な医学的介入が必要であることを支持している.しかし,医学的介入には時間とコストがかかる.できればそのような介入なしに元気な児を持てるのが理想である.しかし,これは絵にかいたモチのような話で,疾病は必ずある一定の頻度で存在する.病胎児を早期に発見し,その病気が後遺症を残さないように早期に適切な医学的介入を行う.これが周産期医学のこれまでの発展の歴史であった.リスクの高い胎児を発見するためにはスクリーニング検査が必要である.当初,脳性麻痺や精神運動発達遅延の多くの症例が分娩時の低酸素血症によるものと考えられた.この分娩時低酸素血症のスクリーニング法として考案されたものがいわゆる分娩監視装置による持続的胎児心拍パターンモニターである.

2.LDRシステム

著者: 伊藤博之

ページ範囲:P.1429 - P.1431

はじめに
 近年,わが国の少子化は年々増加の傾向にあり,同時に産科医療も大きく変りつつある.今日では妊産婦側からの要望も多様化し,自分の考えたイメージに合った出産ならびに満足できる分娩環境を求める方向に変化しつつある.そのため医療を提供するわれわれもそれに沿った対応を迫られている.その1つにLDRシステムがある.LDRとはlaber-delivery-recovery(陣痛—分娩—回復)の略で,出産の各期を一室で過ごすもので,別名single room maternity care(一室分娩室)とも呼ばれている.
 聖路加国際病院(以下,当院)では1992年,病院の新築移転に伴い,旧来の分娩室をすべて排除し,このLDRシステムを導入し本年でちょうど10年が経過した.本稿ではその間の経験を踏まえてLDRシステムの利点,欠点ならびに将来への展望などについて述べる.

3.夫立会い,家族立会い分娩

著者: 秋葉和敬

ページ範囲:P.1432 - P.1433

はじめに
 近年のいわゆる夫立会い分娩は,約25年前頃にわが国でもラマーズ法が導入されたのに伴い,次第に普及してきた.
 日本古来の出産の歴史では,「男子は産室に入るべからず」といった考え方が支配的であり,男性であり,医学に素人である夫が分娩室に入って出産に立ち会うということになると,民族性に根ざしている違和感,医療業務に対する妨げ,異常事態が生じたときの対応の難しさなど,さまざまな心配があるため,その受け入れにためらいをもつ病院,産院もかなり多くみられた.

4.フリースタイル分娩

著者: 野辺地郁子 ,   松川るみ ,   永井堅 ,   永井宏

ページ範囲:P.1434 - P.1437

はじめに
 近代の医療進歩は目覚しく,日々刻々と発展し続けている.周産期医療においても同様であり,周産期死亡率の低下は,医療技術の発展により,より安全に分娩を迎えることができていることを証明している.これに伴い最近,妊産婦自身の分娩に対するニードも高まり,分娩の安全性のみでなく,満足度や快適性を求める妊産婦が増えてきているのが現状である.
 近年では,フリースタイル分娩という考え方が医療従事者のみならず,妊産婦のなかでも定着しつつある.しかしフリースタイルバースとの表現は日本のバースエデュケーターによる国産英語で,外国の文献などによると分娩体位の自由に関してはfree positionが一般的であるが,分娩時の行動を合わせてフリースタイルと表現しているものと思われる.すなわち,陣痛時から分娩時に至るまで産婦の好む体位で自由に動き出産を迎えることである.このため,産婦は自分の意思が尊重され,自分も分娩に参加したという意識を高めることができる.産婦が自分自身の分娩を知り,分娩中の不快や苦痛を上手く緩和することにより,身体的にも精神的にもリラックスへとつながる.リラックスは分娩の進行に対してとても大切な要素であるといえる.当院では座(坐)位分娩を中心とした分娩管理を行っている.そこで,いわゆるフリースタイル分娩をからめて当院の分娩管理について述べたい.

5.計画分娩

著者: 天野完

ページ範囲:P.1439 - P.1441

 妊娠週数が明確であり分娩準備が整っていること,すなわちビショップスコアが5点以上でBraxton-Hicksの子宮収縮を認めることが確認できれば予定を立てる.40週以降は胎児リスクが高まり,周産期予後は37〜38週で最も低い1)とされているが,39週から41週までに分娩誘発を考慮する.
 初産婦の頸管熟化不全例では機械的方法による前処置が必要になる場合がある.

6.和痛分娩—ソフロロジー法,ラマーズ法

著者: 宮川勇生

ページ範囲:P.1443 - P.1445

はじめに
 文明の進歩によって社会が変化すると,事象に対する考え方,価値観は多様化する.分娩に対する妊・産婦の意識も同じように複雑となり,さまざまな分娩様式の選択が生まれる.妊娠・分娩には新しい生命の誕生への期待とともに不安や恐怖が交錯する.ことに分娩においては,分娩経過とともに増強する陣痛が恐怖となり,またこの恐怖で自己統制ができなくなると,すべてを「分娩の痛み(産痛)」として表現する.気分を落ち着かせるような何らかの自己統制法を用いて,妊娠・分娩・産褥における不安,恐怖,そして産痛を上手に乗り切っていくための教育法,なかでも分娩時のリラクゼーションと和痛の工夫を中心とした教育が和痛分娩法と考えられる.これまで,和痛を目的としたいくつかの分娩法が知られているが,あまりにも和痛を中心に分娩の進行を図ると,リスク管理がなおざりになる.
 ここでは,和痛分娩法として良く知られているソフロロジー(式分娩)法,ラマーズ(式分娩)法のリスク管理について述べる.

7.無痛分娩

著者: 甘彰華

ページ範囲:P.1447 - P.1451

はじめに
 硬膜外麻酔は,無痛分娩の領域において産痛を抑制する方法としてその有効性と便宜さから広く受け入れられているが,その反面,リスクも伴うことを十分考慮してその施行にあたっては慎重を要する.というのは,無痛分娩は疾病を有する患者を対象としているのではなく,自然分娩という方法も可能であり,何の異常もなく無事出産して当然という妊婦を対象としているからである.したがって起こりうる偶発症・合併症を熟知しその発生を未然に防ぎ,速やかに対処することが必要かつ不可欠な医療行為なのである.このためには,情報の開示を徹底し,インフォームド・コンセントを得ることが肝要である.

8.マイナーな要求への対応

著者: 中山摂子

ページ範囲:P.1453 - P.1455

はじめに
 近年,産婦自体が分娩に対して積極的に参加するアクティブバースが唱えられるようになってきた.われわれの病院は地域柄もあり,外国人の産婦,または夫が外国人という産婦が多く,以前から自分自身でバースプランを作成して積極的に産婦本位の分娩を希望される方が多く見受けられた.また日本人の中でもこの傾向は明らかに年々増加していると思われる.
 このような時代の要求に応じて,浣腸,剃毛,会陰切開などに対する個人の要求も多くなっており,これらに対するわれわれの考え方および対応について言及する.

9.無謀なバースプランへの対応

著者: 前田光士 ,   平野孝幸 ,   小林信一

ページ範囲:P.1456 - P.1459

はじめに
 バースプランは最近,わが国でもいわゆる大きい総合病院においても取り入れられてきている.しかしこの場合でのバースプランの作成は患者自身が主体ではなく,助産師が作成を援助する形式が多いと思われ,医師の指導は比較的少ないと想像される.一方,診療所の場合は医師が関与する場合が多く,診療所の院長の信念と技量が反映されることもあり,医学的見地からの指導がなされると思われる.いずれにしろバースプランの作成は分娩に臨むにあたり,妊産婦がいかにして満足のいく分娩をまっとうすることが可能かを検討するのに非常に良い方法である.また産婦人科スッタフたちと診療状態,形式と方法や病棟(陣痛室,分娩室)を妊娠中に妊産婦に紹介することができるので,入院してからのオリエンテーションにおいても,患者自身の分娩経過状態の理解もスムーズになるという点で,バースプラン作成が妊産婦の医学的啓蒙ができる良い方法と考えられる.特に医療スタッフたちとのコミニケーションを作るのに最適と考えられる.
 一方,妊産婦側は,診療情報が氾濫していて誤った知識を得ていたり,通院中の施設は偶発症に対して適切な処置を望めるのかなどの不安を抱きながらの受診であったりすることがある.さらに現代,わが国の社会が少産・少子の傾向が進んでいることもあり,妊産婦が分娩に関して,より自然で,個別化し,助産師の指導,医師の指導を特に自分自身に望む感が否めない.

10.緊急事態への対応

著者: 柳原敏宏

ページ範囲:P.1461 - P.1463

はじめに
 分娩に携わる医療者にとっての目標は,安全な分娩によって母児ともに健全であることである.この目標を達成するため,自宅分娩から施設分娩へと分娩様式が大きく変化した.さらに周産期医療の発達によって,妊娠・分娩の安全性は飛躍的に向上した.現在では,妊娠・分娩は生理現象であるとの考え方と,妊産婦の分娩に対する意識の向上により,安全性だけではなく快適性と満足感を求める妊産婦が増加している.これに呼応して,自然分娩指向が強くなっており,さまざまな分娩様式への医療者の対応が要求されるようになっている.妊産婦の多彩な要求を受け入れることによって,妊産婦自身が分娩を受動的ではなく能動的に考え行動することができ,分娩中の疼痛・苦痛を緩和し満足感は非常に高くなる.妊娠・分娩が生理現象であることは事実であるが,それを安全なものとしてきたのは医学的進歩によるものであるのも事実である.医療者は,妊産婦の要求に応えながら,その安全性を損なわないため以前にも増して緊張度が高まっているように思われる.本稿では,医療者にとって大きな問題である自然分娩における緊急事態対応について述べる.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・42

What is your diagnosis?

著者: 清川貴子

ページ範囲:P.1411 - P.1413

症例:63歳,女性
 閉経後の性器出血を主訴として婦人科を受診したところ,径10cmの右卵巣腫瘍を認めた.子宮全摘出術および両側付属器摘出術が行われた.写真は摘出卵巣の組織像である.
 1.この腫瘍の診断名は何か.

病院めぐり

国立南和歌山病院

著者: 板東律雄

ページ範囲:P.1472 - P.1472

 国立南和歌山病院は,平成4年7月1日,「国立病院・療養所の再編成・統合計画」の第一号病院として,それまでの国立田辺病院(210床)と国立白浜温泉病院(150床)を統合し,田辺市と白浜町の境の田辺湾を見下ろす高台に,330床の新病院として誕生しました.2002年7月6日に開院10周年記念式典を盛大に行ったところです.開院後,臨床研修指定病院,プライマリーケア学会研修病院,エイズ拠点病院,脳死臓器提供病院などの認定を受けています.そのほか,平成10年11月から,急性期入院医療の定額支払い方式(日本版DRG/PPS)の試行病院として,将来の日本の医療制度を模索する試験研究に参加しています.また,クリニカルパスを積極的に導入し,「思いやりのある医療」,「知恵と心の南和歌山」を合言葉に,地域住民の期待に応えるべく日々努力しています.
 産婦人科のスタッフは徳島大学から派遣され,常勤医4名,研修医1名の5人体制で,病床数37床を運営しています.平成8年の分娩数は約400例,手術件数は約200例でしたが,平成13年には分娩数606例,手術件数342例と患者数が年々増加したため,平成11年からは地獄のような常勤医3名体制から現体制に増員され,診療に若干の余裕がでるようになりました.

名鉄病院

著者: 堀悟

ページ範囲:P.1473 - P.1473

 昭和31年に中部地方の私鉄の雄である名古屋鉄道株式会社の健保組合が設立した名鉄病院は,JR名古屋駅に隣接する名鉄新名古屋駅から岐阜方面へ向かって所要時間2分にて次の駅「栄生」(さこう)に降り立つと,病院専用改札口から直接病院内のホールへ連絡されているという交通至便な立地条件にあります.そのせいか診療圏は病院近辺のみならず,広く名鉄沿線に及ぶという特徴のある病院です.病床数は438床,診療科は19科,臨床研修指定病院に指定されています.付属施設として看護専門学校,また名湯で評判の岐阜県下呂温泉に90床の療養型病床の下呂病院をもっています.
 平成13年春に新館が3号館として完成し,連絡通路が2号館3階の中央手術室の外側の鉄道線路側に設置されたことにより,まじかに新幹線や在来線,名鉄線の列車が眺めることができ,子供ばかりか鉄道ファンには応えられない景観です.

OBSTETRIC NEWS

Nonreassuring胎児心拍数パターンに対する対応—米国産婦人科学会の勧告の遵守率

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1474 - P.1475

 1995年に米国産婦人科学会(ACOG)はnonre—assuring胎児心拍数(FHR)パターンに対する対応を勧告した.第一段階で行うことは母体酸素投与,母体補液,体位変換,オキシトシン減量または中止で,改善がみられない場合は第二段階として,胎児頭皮刺激または胎児音響振動刺激による一過性頻脈確認,胎児頭皮血採取(pH測定)を,反復する変動一過性徐脈に対しては人工羊水注入法,そして子宮筋過緊張がない場合でも子宮収縮抑制剤使用による子宮内胎児蘇生を行うことを勧めている(ACOG technical bulletin 207,1995).
 Hendrixら(ジョージア医科大学)は,このACOGの勧告がどの程度遵守されているかを検討した.ACOGの勧告が出されたあとの1995年7月31日から1997年6月30日の研究期間中に,持続するnonreassuring FHRパターンのための帝切は3.6%(134例/3,671分娩)であった.細変動または一過性頻脈が確認できればreassuring FHRパターンとみなし,帝切を行わない方針とした.必要症例には,頸管開大が3cm以上の時点で子宮内圧測定用カテーテルを挿入し人工羊水注入法を行った.また,必要症例では頭皮血採取を行い,pHを測定した.

Standard Protocol Meeting

排卵誘発法の新たなる展開—ゴナドトロピン低用量長期漸増投与法の期待と可能性

著者: 苛原稔 ,  

ページ範囲:P.1465 - P.1471

 2002年7月18日,ウェスティンホテル東京において苛原稔教授(徳島大学医学部発生発達医学講座女性医学分野)の司会のもとで「排卵誘発法の新たなる展開—ゴナドトロピン低用量長期漸増投与法の期待と可能性」と題してBruno Lunenfeld教授による講演が行われ,日本の不妊症治療の第一線でご活躍中の先生方を交えたディスカッションが行われた.Lunenfeld教授は,1960年にヒト閉経期ゴナドトロピンによる排卵誘発法を開発したゴナドトロピン療法の生みの親で,視床下部—下垂体系機能障害による排卵障害の治療に大きく貢献した不妊症治療における世界的権威である.同教授は,不妊症治療の現状と問題点を明らかにしたうえで,欧米においてすでに確立されているゴナドトロピン療法のスタンダードプロトコールを紹介し,排卵誘発治療に対する期待と可能性について述べた.ここではその講演要旨をまとめた.

症例

17歳で発症した卵巣粘液性腺癌

著者: 井上孝実 ,   野村昌男

ページ範囲:P.1477 - P.1479

 20歳未満の表層上皮性・間質性悪性卵巣腫瘍は稀である.症例は17歳.卵巣嚢腫の診断にて開腹術とし腫瘍内容約850 mlを吸引したあと,左付属器摘出術を施行した.術後病理診断は粘液性腺癌であり,卵巣癌lc (b)と診断した.術後よりcisplatin 100 mg/bodyおよびcarboplatin 450mg/bodyの併用化学療法を6コース施行した.経過良好にて治療開始約5年後に妊娠し,妊娠41週にて2,860 gの男児を正常分娩するに至った.現在も再発の徴候はなく,経過観察中である.

Pseudo-Meigs症候群を呈した卵巣明細胞腺癌の1例

著者: 吉本英生 ,   小林寛人 ,   谷村悟 ,   中川俊信 ,   川原領一 ,   増田信二

ページ範囲:P.1481 - P.1483

 Meigs症候群は(1)原発腫瘍は充実性の卵巣腫瘍(線維腫,莢膜細胞腫,甲状腺腫,ブレンナー腫瘍),(2)腹水を伴う,(3)胸水を伴う,(4)腫瘍の摘出により胸水と腹水が消失し再貯留しない症例,のすべてを満たす症例と定義される.一方,pseudo-Meigs症候群は原発腫瘍を問わず,上記の(2)(3)(4)を満たす症例と定義される.今日までpseudo-Meigs症候群は多数報告されているが,卵巣悪性腫瘍に合併したpseudo-Meigs症候群の報告は少なく,なかでも卵巣明細胞腺癌の報告はない.今回われわれは,胸水のために呼吸苦を訴え,意識消失発作を起こし搬送され,卵巣悪性腫瘍のterminal stageを疑いつつも開腹手術を施行し,術後,劇的に胸水が消失した卵巣明細胞腺癌によるpseudo-Meigs症候群の1症例を経験した.
 術後6か月経過した現在,CPT−11とマイトマイシンCの静脈内投与による術後化学療法を行っているが,再発徴候は認められていない.

腟式子宮全摘術を施行し得た780 gの頸部筋腫を伴った総量1,130 gの子宮筋腫の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   笠井裕子 ,   実藤洋一 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1485 - P.1489

 今回われわれは,腟式子宮全摘術を施行し得た780 gの頸部筋腫を伴った総量1,130 gの子宮筋腫の1例を経験した.症例は,49歳,5経妊・4経産で,過多月経,不正性器出血,下腹部痛,腹部腫瘤触知の主訴で受診した.血色素3.6 g/dlで、臍上に及ぶ腹部腫瘤を触れ,腟鏡診で腟内に大きな腫瘤が突出し子宮頸部は不明であった.貧血の改善を待って腟式子宮全摘術を試みた.まず,分割切除による頸部筋腫の核出を行ったところ,弛緩,膨化した子宮頸部が認められるようになり,その後は基靱帯の無結紮切断法により子宮全摘出術を施行し得た.手術時間は95分,総出血量は1,000 mlであった.
 頸部筋腫の腟式子宮全摘術に関しては,最初に筋腫核出を施行することで手術可能で,ある程度の出血量を覚悟しなければならないが,低侵襲性や腹部に切開創が残らないなどの利点は捨てがたいものがあり,症例により選択に値するものと思われた.

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「臨床婦人科産科」第56巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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