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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科56巻2号

2002年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 産婦人科と糖尿病—基礎知識と実地臨床

日本における糖尿病の動向

著者: 大森安恵

ページ範囲:P.116 - P.119

はじめに
 日本における糖尿病の動向として,MODYとよばれ優性遺伝を示す2型糖尿病の成因遺伝子の発見や,糖尿病の成因,肥満に関連した遺伝子の同定をふくむ研究の著しい進歩,糖尿病治療薬の画期的な開発などがあげられるが,これらは別項に記述されるので省略する.
 ここでは,成人のみならず10代の若者にも,妊婦にも増えている2型糖尿病のこと,アメリカにならって糖尿病の診断基準が変わったこと,依然糖尿病合併症としての腎症の増加が問題であることなどについて述べる.

糖尿病—最新の研究成果と新知見

著者: 平野勉 ,   足立満

ページ範囲:P.120 - P.123

はじめに
 最近の爆発的な患者数の増加で国民病の感もある糖尿病の成因はいまだに明確には解明されていないが,その根幹となるインスリン分泌低下とインスリンの作用不足(インスリン抵抗性)のメカニズムに関しては,その本質が次第に明らかにされてきた.さらに高血糖そのものが糖尿病の進展,増悪に大きく関与することが認識されるようになった.肥満は2型糖尿病発症の重要な危険因子であるが,肥大した脂肪細胞からは遊離脂肪酸(FFA)やTNF—αが分泌され,これらがインスリン抵抗性を生じさせることも確認されている(図1).最近の発生工学的手法を用いた実験からは,インスリン抵抗性がいくら増大しても代償的にインスリン分泌が増加すれば糖尿病発症には至らないが,インスリン分泌機構に問題があると,わずかなインスリン抵抗性の増大で糖尿病が発症してしまうことが示された.これは本邦のように高度肥満の少ない民族でなぜ2型糖尿病の増加が著しいかを説明する上で重要な研究結果である.
 1型糖尿病は内分泌臓器の自己免疫性疾患の代表であるが,最近その中で急激にケトアシドーシスを発症し極めて重篤な転帰をたどり,自己免疫の関与しない亜系が存在することが報告され注目されている.本論文ではこれらのトピックについて簡単に概説する.

2型糖尿病治療薬の最近の進歩

著者: 河盛隆造

ページ範囲:P.125 - P.129

はじめに
 現在,糖尿病性血管障害の終末像を呈する患者があまりに多い.この20年間,多くの糖尿病患者で完壁な血糖コントロールがなされたとは決していえないことから,今後も失明,透析導入,壊疽による下肢の切断は増え続けることであろう.
 糖尿病を発症しても糖尿病性腎症や網膜症といった細小血管障害や動脈硬化症を発症・進展させないことが,糖尿病治療の目標であることはいうまでもない.血糖コントロール状況をいままで唱えられていたより,はるかに厳格なレベルに維持しなければならないことを,多くのretrospec—tive,prospective studyは実証している.本邦では健康保険診療下で,患者の血糖日内変動が手をとるように判る多くの指標(グリコヘモグロビン,グリコアルブミン,血漿1,5 AGなど)が広く用いられている.さらに,作用機序の異なる薬剤(現時点で臨床応用可能なもののほぼ全て)を適用することができる.したがって,2型糖尿病患者の大多数で,常に安定した良好な血糖コントロール状況を維持することが容易になったといえよう.

妊娠と耐糖能異常

1.妊娠と糖代謝

著者: 杉山隆 ,   豊田長康

ページ範囲:P.130 - P.133

はじめに
 妊娠による母体の内分泌系・代謝系のさまざまな変化は直接胎盤を通して胎児に影響を与える.これら母体の生理的諸変化の主なものは胎児の発育にとって合目的的なものである.なかでも糖質代謝においては,妊娠時の母体ではインスリン分泌の亢進が生じており,高インスリン血症傾向となる一方,インスリン抵抗性が発現して両者の間には均衡が保たれており,正常な代謝動態が営まれることによって胎児の子宮内発育にとっては好条件の環境が作られている.このような代謝環境下において胎児は胎盤を介して母体からエネルギー源を獲得しつつ発育するが,エネルギーの基本的供給系の一つが糖代謝系である.糖質代謝はその代謝過程で脂質・蛋白質代謝とも接点をもつことからも重要である.すなわちブドウ糖,遊離脂肪酸,アミノ酸は生体にとって重要なエネルギー源であり,これらは酸化あるいは肝臓で糖新生系を介してブドウ糖に変換される.特に脂質代謝と糖代謝は密接なかかわりをもつ.妊娠初期においては母体の体重増加は純粋の胎児発育分よりは大きい.すなわち胎児のブドウ糖需要は少なく,母体の同化が優位となり脂肪の貯蓄が促される.一方,妊娠末期になり胎児が急速に発育する過程においては,母体栄養素の胎児への供給分は母体の摂食以外に脂肪組織において生じる異化により一部補われると考えられる.

2.胎盤の糖輸送

著者: 岩下光利

ページ範囲:P.135 - P.137

胎盤における物質輸送
 胎児は母体からの栄養に100%依存しており,母体側の栄養物質は胎盤を介して胎児側に輸送される.胎盤には種々の物質の輸送機構が存在し,胎盤のこの機能が障害されると母体の栄養状態のいかんにかかわらず胎児発育は抑制される.
 ヒトの胎盤は血絨毛性胎盤で胎児側の組織である絨毛は直接に母体の血液に接しており,胎児血液との間には絨毛上皮細胞,結合組織,胎児側の血管内皮細胞が存在している.したがって母体側から胎児側また逆方向に物質が輸送されるにはこれらの細胞層を通過する必要がある.この絨毛上皮細胞の母体血に面する側は小腸上皮,尿細管上皮刷子縁と同様に微絨毛構造を有しており,この部位に物質輸送のための特異的な膜輸送機構が存在している.胎盤絨毛上皮細胞の物質輸送様式は他の細胞と同様に,単純拡散,促進拡散,能動輸送,ピノサイトーシスなどの物質通過機構の存在が証明されている.以下にそれぞれの輸送機構の概略を説明する.

3.糖尿病と胎児奇形

著者: 赤澤昭一

ページ範囲:P.138 - P.140

はじめに
 糖尿病を有する母親から生まれた新生児は巨大児,呼吸窮迫症候群(RDS),低血糖症,低カリウム血症,高ビリルビン血症などの合併症を生じやすい.血糖のコントロール方法の改善により,児の合併症の多くは改善されてきたが,巨大児と奇形の発生頻度はなお高いまま残されている.近年,妊娠と糖尿病の分野において奇形の発生をいかに抑制するかということがとくに重要な課題となってきている.本稿では糖尿病母体からの奇形の発生について解説する.

4.耐糖能異常のスクリーニング

著者: 堀大蔵 ,   濱田悌二

ページ範囲:P.142 - P.145

はじめに
 妊娠糖尿病は早期に発見し,厳格な管理による血糖正常化により,新生児合併症や母体の糖尿病合併症を防止することできる.その早期発見にはスクリーニングが必要であり,日本産婦人科学会は食後血糖測定を推奨している1).しかし,そのスクリーニング法は国際的にも確立されたものはなく,食後血糖や50gGCT(glucose challengetest)などを各医療施設で独自に行っており,その施行時期,カットオフ値などについても確立されたものはない.現在,三重大学を中心に20施設の共同研究でわが国における妊娠糖尿病のスクリーニング法の確立を目指しており,近い将来発表されるものと思われる.本稿では,われわれの施設で行ってきたスクリーニング法について解説する.

5.糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病の管理 1)母体のケア

著者: 今西由紀夫

ページ範囲:P.146 - P.149

はじめに
 糖代謝異常合併妊娠には,①糖尿病合併妊娠,②妊娠糖尿病,の2つがあげられる.それぞれの診断基準,スクリーニング法などについては他項で述べられているようであるから,ここでは省略する.
 糖尿病合併妊娠は,妊娠成立以前もしくは妊娠確認の初診時に診断されており,妊娠中に新たに診断される妊娠糖尿病とは,この点で異なっている.

5.糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病の管理 2)胎児のケア

著者: 佐々木公則 ,   石郷岡哲郎 ,   石川睦男

ページ範囲:P.150 - P.153

はじめに
 近年妊娠糖尿病(GDM)全例スクリーニング法の普及,糖代謝異常例管理法および新生児管理の進歩により,糖代謝異常例の母児予後は改善傾向をみせており,後述する特別な場合以外はその診断,管理手法はほぼ完成の域に達したと言っていいであろう.つまり「現在は糖代謝異常妊婦において糖代謝の完全正常化は可能であり,その結果として特別な産科的管理(胎児管理も含め)は存在しない」.ただし①妊娠初期に診断されたGDM例,②妊娠前コントロール(pre-pregnantcare)不良例,③妊娠中のコントロール不良例などにおいてはその限りではなく,種々の胎児異常(奇形,巨大児,子宮内胎児発育遅延〔IUGR〕など)を念頭においた慎重な胎児評価,管理が重要となる.

5.糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病の管理 3)新生児のケア

著者: 野渡正彦 ,   佐藤雅彦 ,   松浦信夫

ページ範囲:P.154 - P.157

はじめに
 糖尿病はインスリン依存型糖尿病(IDDM),インスリン非依存型糖尿病(NIDDM),妊娠糖尿病(GDM)に大別される.これらの糖尿病母体から出生した児は,IDM(infants of diabeticmothers)と呼ばれ,さまざまな合併症を伴うことが知られている.特に妊娠中の母体血糖コントロールが不十分な場合は,よりハイリスクと考え,厳重な新生児ケアが必要となってくる.

6.肥満妊婦の栄養管理

著者: 安日一郎

ページ範囲:P.158 - P.161

はじめに
 食事療法は耐糖能異常妊婦の治療の基本であるにもかかわらず,その適切な摂取カロリー量と妊娠中の至適体重増加という点では必ずしもevi—dence-basedではなく,特に肥満妊婦に対する食事療法のあり方は未だ論争中の課題である1,2).ここでは耐糖能異常妊婦の食事療法について,特に肥満妊婦における留意点について概説する.

7.妊娠中のインスリン療法

著者: 和栗雅子

ページ範囲:P.162 - P.165

はじめに
 耐糖能異常妊婦の妊娠を成功させる,つまり母児の周産期合併症を防ぐための最大の管理目標は,妊娠初期から血糖を正常化し,それを維持することである.そのためには,厳格な血糖コントロールが必要であり,これまで食事療法のみでコントロール可能であった2型糖尿病合併妊婦でも,妊娠中に初めて発症した妊娠糖尿病でも,インスリン療法を導入することもある.妊娠前よりインスリンを使用している場合,特に1型糖尿病合併妊婦では,妊娠初期には悪阻や胎児側へのブドウ糖輸送の開始などにより低血糖を起こしやすく,中期以降は胎盤由来のインスリン拮抗ホルモンの分泌や胎盤でのインスリンの分解によるインスリン必要量の増加と胎児のエネルギー需要・母体膵β細胞のインスリン分泌能の増大,母体の摂食量・運動量の変化が複雑に関与するため,血糖値は非常に変動しやすいので,さらに厳格かつ慎重なインスリン投与が必要である.

8.糖尿病腎症合併妊娠

著者: 平松祐司

ページ範囲:P.167 - P.171

はじめに
 わが国においても糖尿病人口は急激に増加傾向にある.糖尿病腎症(以下,腎症)は1型糖尿病の30〜40%,2型糖尿病の約50%に合併し,腎症の5〜10%に妊娠が合併する1).また,注目すべきは1998年に透析導入原疾患として長年第1位を占めていた慢性糸球体腎炎にかわり糖尿病がトップになったことである.そして,1999年にはわが国で新たに慢性血液透析に導入された30,438人のうち,糖尿病腎症による導入は11,009人(36.2%)を占めている2)
 糖尿病には多くの合併症があるが,妊婦に腎症が合併すると,死産,胎児奇形,妊娠中毒症,胎児発育遅延,早産などを引き起こし,胎児予後に直接影響を及ぼすため最も重要な合併症と考えられる.また,母体においては妊娠中,分娩後の腎機能の変化も大きな問題となる.腎機能が悪化し腎不全となれば,大血管障害,特に心筋梗塞や心不全を併発し死亡率は10倍に上昇し3,4),生命予後にも関係するため,その取り扱いは非常に重要である.

婦人科疾患と糖尿病

1.耐糖能異常と婦人科疾患

著者: 永石匡司 ,   山本樹生

ページ範囲:P.172 - P.176

はじめに
 日本糖尿病学会より1999年に新しい糖尿病の分類と診断基準が提唱された.糖尿病の分類に関しては成因と病期を分ける新しい考え方が導入されている.産婦人科領域においても妊娠糖尿病の診断基準の確立に向けて現在検討されている.
 糖尿病とはインスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし,代謝異常が持続すると,心血管系,腎,末梢神経,免疫系,消化器機能にまで影響を及ぼす.糖尿病の程度によって無症状から口渇,多飲,多尿,体重減少といった症状を呈するもの,さらにはケトアシドーシスや昏睡までに至るものもある.われわれ産婦人科医が患者を診察するとき,糖尿病が隠されている場合と糖尿病を合併している場合を考えなければならない.本稿では耐糖能異常と婦人科疾患に関係する内容について解説する.

2.糖尿病と中高年婦人のヘルスケア

著者: 後山尚久

ページ範囲:P.178 - P.181

はじめに
 現在,わが国における糖尿病患者は境界型を含めて約1,370万人で,中高年以上の年齢層の10%がこれらに含まれると言われている.女性の中高年代は閉経を境として体重や体脂肪率の増加がみられ,更年期障害としてさまざまな不定愁訴が起こる.更年期障害の身体症状は自律神経失調症状であり,糖尿病の約40%に合併する神経障害は自律神経の失調症状や脳神経障害などがその中心となる1).その中には「しびれ」,「冷感」,「ふらふら感」など,通常更年期障害として扱いがちな症状も含まれるため,その存在を見逃さないように注意を要するとともに更年期障害との鑑別に慎重さが求められる.
 本稿では中高年婦人の管理において糖尿病に関する注意点と更年期医療で汎用されるホルモン補充療法および漢方療法の糖尿病への影響について概説する.

3.糖尿病合併手術における術前・術後管理

著者: 関博之

ページ範囲:P.182 - P.185

はじめに
 糖尿病は自覚症状がみられないうちに,10〜20年で種々の合併症が顕性化し,重大な障害を起こすため,糖尿病と診断されてなくてもかなり合併症が進行した症例がある.このため,糖尿病の存在を知らずに手術をしたり,その管理が不十分の場合には,術後患者の状態が悪化したり,種々の合併症を併発する場合があり,手術にあたっては常に糖尿病を念頭に置いて対処すべきである.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・32

What is your diagnosis?

著者: 片渕秀隆 ,   岡村均

ページ範囲:P.113 - P.115

症例1:30歳,女性
 子宮頸部円錐切除術によって子宮頸部の微小浸潤癌(扁平上皮癌)の診断が得られ,準広汎子宮全摘出術と骨盤リンパ節郭清術が施行された.6回経妊,3回経産の妊娠分娩歴があり,最終妊娠は約2年前であった.今回の主訴は不正性器出血である.
 Fig 1(弱拡大,HE染色)とFig 2(強拡大,HE染色)は摘出子宮の内子宮口近くの子宮頸部で,鏡検時に偶然発見された病巣である.この病変の病理組織診断は何か.

病院めぐり

北信総合病院

著者: 鈴木章彦

ページ範囲:P.188 - P.188

 北信総合病院は,長野県の北部,長野市の北隣に位置する中野市にあります.この北信地域は2市,1町,4村からなっており,全市町村が豪雪地帯の指定を受け,志賀高原や野沢温泉などのスキー場を有しています.当院は農村における医療と農民の健康を守るために,昭和20年5月1日に開設されました.その後,患者の増加,地域住民の要望と協力により施設の拡充をはかり,現在ほとんどすべての診療科を擁し,総病床は710床で,長野県有数の総合病院として発展してきました.
 こうした農村地域における基幹病院として,保健・医療・福祉に総合的に対応できる体制づくりの下,健康管理部を中心として予防医療活動を広く展開しています.さらに平成8年には老人保健施設(100床)が完成し,訪問看護ステーションなどを包括して総合的な高齢者対策を推進しています.また,救急医療にも重点をおき,1〜3次まですべての症例を受け入れる24時間体制を整えています.さらには,職員の「愛と活気による癒し」を当院の「心のテーマ」として,互いに理解し合う温かな病院を目指しています.

東京都済生会中央病院

著者: 坂倉啓一

ページ範囲:P.189 - P.189

 当院の正式名称は,社会福祉法人恩賜財団済生会支部東京都済生会中央病院という長い名称です.
 明治44年2月11日,明治天皇は「医療を受けることができないで困っている国民に,施策救療の途を講じ,再起の喜びを与える施設をつくるように」という趣旨で,お手元金150万円を下賜されました.これを元に,明治44年5月30日,恩賜財団済生会が創立されました.そして,大正4年12月1日より現在の場所で,北里柴三郎博士を院長とする済生会芝病院として診療を開始しました.

OBSTETRIC NEWS

羊水過少症(ロウリスク妊娠)に誘発分娩は必要か?(2)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.190 - P.191

 Kreiser(スタンフォード大学)らは,ロウリスク妊娠の羊水過少症は周産期予後不良と関連があるかを後方視的に研究した.研究対象は単胎,未破水,非奇形,妊娠30週を超えた羊水量減少150例(93例AFI>5cm+<2.5パーセンタイル,57例AFI≦5cm)とした.分娩前胎児試験(NST+AFI)は週に1〜3回行い,適応は妊娠40週終了以降,前回周産期胎児損失,満期前子宮収縮,前回帝王切開,子宮内発育制限の疑い,妊娠後期性器出血,妊娠糖尿病(食餌療法),軽度喘息または胎動減少であった.その結果,分娩前胎児心拍数の変化と分娩予後は変動一過性徐脈出現頻度に有意差がみられた(63.1%vs 45.1%,p=0.007)が,その他は有意差がみられなかった(表1).新生児予後も両群で有意差がみられなかった(表2).AFI低値から分娩までは約2週間(16±19日:1〜74日)であった.NST異常のための誘発分娩は7.3%であった.以上の結果から,著者らはロウリスク妊娠の羊水減少例には,即刻遂娩に代わる方法として,集中的分娩前胎児試験の継続に有用性があることを示唆した(J Reprod Med 46:743,2001).

Estrogen Series・50 HRTと乳癌・2

乳癌と長期的ホルモン補充療法

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.192 - P.193

 乳癌発生とホルモン補充療法(hormonereplacement therapy:HRT)との関連に関してはいままでに多くの研究が行われてきた.将来,更年期後女性に対して行われるHRTがもっと広範になることを考えると,この問題は深刻である.今までの諸研究の結果は必ずしも一致した両者間の関係を示すものではない.例えば,Cordiz(1988)らはHRTの長期的使用およびより最近の使用(recent use)と乳癌発生増加との関連を示した1).また,いままでのデータを再分析したCGHFBC(Collaborative Group on HormonalFactors in Breast Cancer,1977)の研究では,HRT使用期間と乳癌増加との関連を示したが,その関連は最近の使用者(recent users)のみにみられた2).このようにHRTと乳癌との関連はいまだ明瞭ではない.
 今回ここにご紹介するスエーデンの著者らは,年齢50〜74歳の女性で浸潤性乳癌を持つもの3,345人と,コントロール3,454人とを比較するcase-control studyを行った.HRTはエストロゲンのみ(E)の場合とエストロゲン+プロゲステロンの混合(E+P)とを区別した.

婦人科腫瘍切除標本の取り扱い方・12

子宮内膜症切除標本の取り扱い方

著者: 板持広明 ,   紀川純三 ,   寺川直樹

ページ範囲:P.195 - P.199

はじめに
 子宮内膜症は子宮内膜あるいはその類似組織が異所性に存在,機能する疾患であり,子宮内膜症取扱い規約では,子宮筋層内に発育するものは子宮腺筋症として別の概念としてとらえている.
 本症は生殖年齢婦人の10%に発症する極めて頻度の高い疾患である一方,類腫瘍病変である本症はprotooncogeneの変化に伴い前癌病変としての性格を持ち,染色体の不安定化,癌抑制遺伝子の変異などを経て癌化へと進む可能性が示唆される.また,類内膜腺癌や明細胞腺癌など本症より発生する癌の存在も知られている.したがって,本症に対する組織診断は重要である.取扱い規約では,本症の診断に際して肉眼的所見と組織診断との併用が重要であり,腹腔鏡検査か開腹に依るべきであるとしている.しかしながら,現病歴,内診,画像診断,生化学的検査などの臨床所見のみで診断されている症例も少なくない.また,内膜症病変に関する理解も十分とは言い難い.子宮内膜症の病理学的特徴を理解し,正しい切除標本の取り扱いを行うことは産婦人科医にとって必要である.

原著

子宮癌に対する手術時の抗菌薬の予防投与

著者: 林博章 ,   藤井哲也 ,   山下剛 ,   中田俊之 ,   片山英人 ,   小島貴志 ,   杦村和代 ,   石川睦男

ページ範囲:P.201 - P.207

 [目的]子宮癌に対する術後感染症予防のための抗菌薬投与に関する検討を行った.
 [方法と対象](1)本邦における実態調査:腹式子宮全摘術,準広汎子宮全摘術,広汎子宮全摘術時の予防的抗菌薬投与について全国医科大学附属病院およびその主要関連病院に対してアンケート調査を施行した.(2)旭川医科大学産婦人科で3日間以上投与群(第二世代セフェム系抗菌薬2g/100 ml,×2/日)を対照として,3回〔cefmetazole sodium(CMZ)1g/100 ml/30分,術前,術直後,術後8時間〕予防投与の有効性を検討した.術後感染症の診断は術後3日目に①腋窩体温38℃以上が6時間以上持続する,②CRPが標準値の3倍以上,③WBCが9,000/μl以上の3点を満たすものとした.

症例

卵巣腫瘍,変性子宮筋腫との鑑別を要したcystic adenomyosisの1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   高橋弘 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.209 - P.213

 子宮嚢腫は稀な病態であり,卵巣腫瘍との鑑別が困難であること,悪性病変の報告例もあることなど,臨床的に重要な問題点がある.今回,腫瘍マーカーが高値を示し,卵巣悪性腫瘍,変性子宮筋腫との鑑別が問題となったcysticadenomyosisの1例を経験した.
 症例は52歳,2経妊,2経産.主訴は下腹部の圧迫感である.初経は14歳で,月経周期は整順(30日型),月経随伴症状は特になかった.内診所見,CT,経膣超音波では,子宮と連続して直径約8cmの一部充実部分を伴う嚢胞性の腫瘍を認め,腫瘍マーカーは,CA125130U/ml,SLX 58.7 U/mlが高値であった.子宮全摘術を施行し,病理組織検査でcysticadenomyosisと診断された.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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