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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科56巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 —どこまで可能か—悪性腫瘍治療と妊孕能温存 悪性腫瘍治療と妊孕能温存—最近の考え方

1.腫瘍治療の立場から

著者: 落合和徳

ページ範囲:P.942 - P.944

固体保存と種族保存
 悪性腫瘍の治療上のゴールは治癒である.患者という固体から悪性腫瘍が駆逐され病前の健康を回復することである.これはとりもなおさず固体保存の概念にほかならない.一方,人間の本能的な欲求として子孫をもつ,すなわち種族保存,reproductionの欲求があることも事実である.固体保存と種族保存は時として相容れないことがある.とくに生殖器の悪性腫瘍は腫瘍病変に対する根治的治療を行うことによって生殖能力を失うことになる.固体を保存するために種族保存のための能力を犠牲にするわけである.一般論として,消化器など生命維持に必要な臓器悪性腫瘍の手術療法では当然のごとく機能温存が重視される.機能温存を行わなければ,外科的に腫瘍組織を取り除いた(という外科医の自己満足)だけでホストの生命は保証されない.これでは本末転倒である.ところが生殖器は固体の生命維持には無関係な臓器であるが故に婦人科腫瘍医は臓器摘出に躍起になったのかも知れない.
 乳房も生命維持には無関係な臓器である.女性のアイデンティティという意味では重要であるが,広汎な切除が必ずしも予後に貢献しないこと,術後の障害を起こしやすいこと,QOLを損なうことなどの理由から縮小手術が行われるようになった.

2.生殖医療の立場から

著者: 宮越敬 ,   吉村泰典

ページ範囲:P.945 - P.949

はじめに
 各臓器の癌治療において手術療法のみならず放射線・化学療法の果たす役割は大きく,これらの治療が奏効する場合には長期生存が期待されるようになってきた.このような長期予後の改善にともない,治療後の生活の質(quality of life:QOL)が重視されている.例えば,放射線療法および化学療法の副作用の1つとして無精子症や無排卵症があげられ,若年者においては妊孕能を温存することが重要な課題となっている.本稿では,悪性腫瘍治療と卵巣機能・妊孕能温存について概説する.

子宮頸癌

1.子宮頸部前癌病変 1)妊孕能を考慮した円錐切除術のコツ

著者: 八杉利治 ,   尾崎さおり

ページ範囲:P.950 - P.953

はじめに
 子宮頸部円錐切除術は,子宮頸部異形成や初期頸癌(上皮内癌,微小浸潤癌)に対する診断法あるいは子宮温存療法として広く用いられている.Cervical intraepithelial neoplasia(CIN)に対する子宮温存治療の方法としては,円錐切除術の他に,レーザー蒸散法や冷凍療法などが従来より採用されてきた.Nuovoら1)は,SIL(squamous intraepithelial lesions)の治療としての円錐切除術,冷凍療法,レーザー蒸散法,loop electrosur—gical excision procedure(LEEP)の成績を評価したrandomized control studyを集め,メタアナリシスを行っている.それによれば消失率は85.2〜94.7%であるが,各療法の消失率の95%CIは重なっており,いずれの治療法も大きな差はないとしている.しかし,レーザー蒸散法や冷凍療法では,術後の組織標本が得られないという欠点があり,冷凍療法では効果の確実性を疑問視する報告もある.術後の組織標本が得られ,十分な治療が行われたかどうかを評価するという観点を重視する場合には,円錐切除術や,LEEPを選択する施設が多い.

1.子宮頸部前癌病変 2)円錐切除術は不妊の原因となるか

著者: 藤井恒夫

ページ範囲:P.955 - P.959

はじめに
 発癌の若年化と癌検診により近年若年者の子宮癌とその前癌病変は増加し,妊孕能温存を希望する患者は多い.当科では子宮頸部初期病変に対する子宮温存療法として,基本的には中等度異形成まではCO2レーザー蒸散法(以下,CO2蒸散)を,高度異形成以上はYAGレーザー円錐切除術(以下YAG円切)を適応にしているが,細胞診,コルポ診,狙い組織診による正確な術前診断が不可欠であり,病変の拡がりと根治性,挙児希望などから症例を個別化して術式を決定しているのが現状である1,2).主たる病変が頸管外にあればCO2蒸散でも治癒可能であるが,病変が頸管内に拡がる場合は,根治性を考えて病変に応じた頸管切除が必要である.特に挙児希望がある場合は,頸管長の短縮がその後の妊娠成立や分娩までの経過にどの程度影響するか否かが問題である.今回,当科における子宮温存症例のうち,円錐切除術を施行した挙児希望例に焦点をあて,術後の妊孕能について検討し,さらに他施設の報告とも比較して,円錐切除術が新たな不妊の原因となるかについて述べる.

1.子宮頸部前癌病変 3)円錐切除術は頸管無力症の原因となるか

著者: 平松祐司

ページ範囲:P.960 - P.963

はじめに
 子宮癌検診の普及や近年の晩婚化現象の影響もあり,妊婦や子宮温存を希望する年代の女性に子宮頸部の初期癌が発見される頻度が上昇してきているように思われる.そして,病巣が大きい場合,頸管内病巣で観察の困難な場合,細胞診と組織診が一致しない場合には円錐切除(以下,円切)の適応となる.この場合には癌治療だけでなく,現在のあるいはその後の妊娠に対する配慮も必要になる.
 今回のテーマは,円切が頸管無力症の原因となるかということであるが,既往円切例と妊娠中の円切について概説する.

2.子宮頸部浸潤癌 1)小浸潤癌における妊孕能温存手術

著者: 大久保和俊 ,   盛本太郎 ,   岡井崇

ページ範囲:P.964 - P.967

はじめに
 近年各分野での悪性腫瘍手術における傾向として,縮小手術および機能温存という概念が強くなっている.患者のQOLを尊重することは婦人科領域における子宮頸癌治療でも同様であり,初期癌での治療内容もその傾向が見て取れる.特に子宮頸部扁平上皮癌においては,FIGOによる1994年の進行期分類改訂を受け,1997年に日本産科婦人科学会でも縦軸方向の広がりや浸潤の深度により,初期癌はより細分化された1).しかし腺癌においては浸潤深度や縦軸方向の広がりの計測方法が確定しておらず,微小浸潤腺癌の細分類は行われていない1,2)
 子宮頸癌における主治療としての手術療法も,こうした初期癌の細分化により,従来の拡大手術の概念から治療の個別化へ変化していくものと思われる.

2.子宮頸部浸潤癌 2)浸潤癌における妊孕能温存手術

著者: 岡元一平 ,   櫻木範明 ,   藤本征一郎

ページ範囲:P.969 - P.973

はじめに
 近年,リンパ節転移頻度が低く予後が良好である早期子宮頸部浸潤癌に対しては,広汎性子宮全摘術よりも手術侵襲の小さい拡大(準広汎)子宮全摘術や単純子宮全摘術などの縮小手術を適応することが検討されている.また,生殖年齢にある若年者の治療においては,初期浸潤癌の増加に伴って妊孕能温存を考慮した治療が要求される機会が多くなると思われる.しかし,いたずらに機能温存を追求するあまりに根治性を失ってはいけない.本稿では子宮頸部浸潤癌における保存的治療(妊孕能温存)について紹介し,その適応の限界について解説をしたい.

2.子宮頸部浸潤癌 3)妊娠中に診断された子宮頸癌の取り扱い

著者: 高野忠夫 ,   八重樫伸生

ページ範囲:P.974 - P.978

はじめに
 子宮頸癌は,妊娠に合併する最も高頻度の女性性器悪性疾患である.妊娠に合併する細胞診ClassⅢa以上の頻度は1%前後1,2),またCISは0.13%,浸潤癌は0.045%に見られると報告されている3)
 妊娠に合併した子宮頸癌は,非妊娠時に発見された悪性腫瘍とは異なり,母体の予後のみならず臨床進行期,妊娠週数,挙児希望の有無などにより,その取り扱いに苦慮することも多い.

子宮体癌

1.妊孕能温存療法の適応と限界

著者: 井上正樹

ページ範囲:P.980 - P.983

はじめに
 日本人の子宮体癌は増加が指摘されている.米国では乳癌,肺癌,大腸癌に次いで4番目に多い癌となっている.米国の1999年の統計では35,000人/年(24人:人口10万)が発症し,1年間に約6,000人が死亡している.日本でも1981年には女性10万人に対して4.3人と推定されていたが,最近ではさらに増加は著しいものがある.子宮頸部癌の頻度が著明に減少する中で,体癌の日常診療に占める割合は年々高くなってきている.日本産婦人科学会子宮癌登録の記録によると,子宮体癌は1970年代では子宮癌全体の約10%であったのが1997年では約40%(子宮頸部浸潤癌4,159例,体部癌2,606例)となっている1)
 最近では女性の社会進出が定着し,晩婚化が進み,それに伴い妊娠・分娩が高齢化している.したがって,体癌でありながら妊孕能温存を希望する患者も必然的に増えると考えられる.そこで,今後必要度が増すと考えられる体癌患者の妊孕能温存治療,すなわち子宮温存治療は可能なのか?臨床病理学的および最近の分子生物学的手法より得られた知見に基づいて,その治療の実際と注意点を述べたい.

2.妊孕能温存治療の実際

著者: 玉舎輝彦 ,   丹羽憲司

ページ範囲:P.984 - P.987

背景
 子宮体癌が増加し,子宮癌の30%以上を占めるようになってきた.その背景には少産少子,晩婚化,食生活の欧米化(高動物性蛋白・脂肪摂取による肥満)などが関係するもの1)や高齢化と関係するものとが考えられる.
 その中で妊孕能を必要とするのは若年層の体癌である.この若年体癌の危険因子は日本も米国とともにPCO症候群であり,その上に肥満,排卵障害が被っている2).これはエストロゲンの持続性刺激からくるタイプⅠ,すなわち増殖期子宮内膜→子宮内膜増殖症(嚢胞性→腺腫様→異型)→高分化型体癌の過程を経たもので,び漫性に発育し筋層漫潤が少ないものが多い1).一方,タイプⅡは高齢女性に多く,萎縮子宮内膜の遺伝子異常により発生し,限局性に発育し低分化型や筋層浸潤が強く,予後が悪い(図1).

卵巣癌

1.境界悪性卵巣腫瘍における妊孕能温存について

著者: 安達進 ,   小笠原利忠 ,   香山浩二

ページ範囲:P.988 - P.992

はじめに
 本邦における卵巣悪性腫瘍の発生頻度は年6,000人以上であり,毎年4%以上の増加率で増加している.境界悪性卵巣腫瘍の正確な発生頻度は不明であるが,欧米での報告では卵巣悪性腫瘍の10〜20%とされ1,2),卵巣悪性腫瘍の増加傾向から考えると,境界悪性卵巣腫瘍も同様に増加していると考えられる.境界悪性卵巣腫瘍は悪性卵巣腫瘍と比較して,若年者に多く発生するため,妊孕能の温存が重要な問題となる.境界悪性卵巣腫瘍は悪性卵巣腫瘍と比較して予後は良好であり2),多くの症例において妊孕能温存手術が可能と考えられる.そこで本稿では,主に境界悪性卵巣腫瘍における妊孕能の温存について,文献報告と一部自検例について検討する.

2.上皮性卵巣癌における妊孕能温存の限界と術式

著者: 角田肇 ,   吉川裕之

ページ範囲:P.993 - P.995

はじめに
 婦人科悪性腫瘍の中でも卵巣悪性腫瘍は子宮頸癌,子宮体癌と比べ最も予後不良の癌である.したがって,その妊孕能温存に関しては他の悪性腫瘍以上に慎重にならなければならない.なかでも上皮性卵巣癌は,若年者に比較的多い胚細胞性腫瘍,上皮性卵巣腫瘍低悪性群に比べても圧倒的に予後不良である.しかし,若年者卵巣悪性腫瘍として胚細胞性腫瘍,上皮性卵巣腫瘍低悪性群,上皮性卵巣癌を一括して論じている文献も多く,卵巣腫瘍の妊孕能温存の限界とその術式について考える際には注意を要する.そこで,本稿では上皮性卵巣癌に限定してその妊孕能温存の限界と術式について論じてみたい.

3.胚細胞腫瘍における妊孕能温存の限界と術式

著者: 倉田仁 ,   青木陽一 ,   田中憲一

ページ範囲:P.997 - P.999

はじめに
 悪性卵巣胚細胞性腫瘍は,悪性卵巣腫瘍の5〜10%前後を占め,上皮性悪性腫瘍と比較し発生頻度は低いが,10〜20歳代の若年女性に好発することから妊孕能温存が重要となる症例が多い.近年,BEP(bleomycin,etoposide,cisplatin)療法の導入により治療成績が向上し95%以上の生存率が期待できるようになり,組織型,臨床進行期を問わず妊孕能温存術式が選択されるようになってきた.
 本稿では,悪性胚細胞性腫瘍の妊孕能温存手術について解説するとともに,当科における妊孕能温存症例の治療成績について報告する.

4.化学療法は妊孕能にどのように影響するか

著者: 梅澤聡 ,   清水敬生 ,   荷見勝彦

ページ範囲:P.1000 - P.1003

はじめに
 抗癌剤の妊孕能に対する影響は,その対象となる患者にとってもっとも関心があるにもかかわらず,治療を行うわれわれにとっては,多くの因子が関係しているので明確な定義があるわけではなく,しかも倫理的な問題もあり研究の対象として扱われることもない.そのため,この問題に答えてくれるレベルの高いEBMが存在しないことは容易に推察できる.しかしながら,妊娠を希望する患者に対し抗癌剤治療を必要とする場合にも当然直面する.その際,われわれがいくつか知っておかなければならない抗癌剤の知識や治療に対する考え方があると思われる.本稿では,現在までに報告されている抗癌剤の妊孕能に関する知識,事実を整理し,妊娠可能であると考えられる患者に対してどこまで治療と妊孕能温存ができるのかを説明する際の考え方の指標を示したい.

5.妊娠中に診断された卵巣癌の取り扱い

著者: 寺井義人 ,   植田政嗣

ページ範囲:P.1004 - P.1008

はじめに
 卵巣癌は最も予後が悪い女性生殖器癌の一つであり,近年,増加傾向にある.一般に卵巣癌の好発年齢は50歳代とされているが,40歳未満の若年者の卵巣癌を経験する機会も多くなってきた.結果,妊娠中に卵巣腫瘍を発見する機会も増えてきた.しかし,その良・悪性の鑑別診断は,妊娠中であることによりCT検査,MRI検査が行いにくいことや腫瘍マーカー値が妊娠により修飾されていることなどから,非妊娠時以上に困難な場合がある.また,手術適応や手術時期についても胎児への影響を考慮する必要があり,特に悪性腫瘍の場合にはその対応に苦慮することが多い.そこで,当科において過去23年間に妊娠合併卵巣腫瘍の診断で手術を施行し,組織型を確認し得た類腫瘍病変を含む137例の臨床像を解析し,悪性腫瘍症例への対応や文献的考察を含め検討した.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・38

What is your diagnosis?

著者: 加耒恒壽

ページ範囲:P.939 - P.941

症例:74歳,女性
 3回経妊,1回経産.不正性器出血,下腹部不快感があり,子宮は腫大していた.子宮全摘出術,右側付属器切除術が施行された.なお33歳の時に子宮外妊娠で左側付属器切除術を受けている.Fig 1〜3は子宮体部病変からの組織像(HE染色)である.
 1.良性病変か,それとも悪性病変か.

病院めぐり

国立三重中央病院

著者: 澤木泰仁

ページ範囲:P.1010 - P.1010

 国立三重中央病院は平成10年7月1日に旧国立津病院と旧国立療養所清澄病院が統合して開院しました.旧国立津病院は明治41年11月に歩兵第51連隊の設置に伴い,津衛戌病院として創設され,昭和20年12月に厚生省所管となり国立津病院となりました.昭和41年5月に救急病院に指定され,昭和50年4月に国立津病院附属看護学校を開校,昭和59年3月に臨床研修指定病院に指定され,昭和59年4月に母子医療センターを設置,昭和63年3月に外国医師・歯科医師臨床研修指定病院に指定されました.一方,旧国立療養所清澄病院は昭和15年7月に三重県結核療養所清澄園として創設され,昭和22年4月に厚生省に移管,国立療養所清澄園と改称しました.昭和41年2月に一般患者の入院開始,昭和50年5月に重度心身障害児(者)の入院開始,昭和52年4月に国立療養所清澄病院と改称しました.
 国立三重中央病院は,三重県域を主たる診療圏として母性・小児診療の高度かつ先駆的医療,循環器病を対象とした高度かつ集学的医療,救急医療,がん医療などを行う総合診療施設とともに,医療従事者の養成および研修を行う施設として設置されました.

川崎医科大学附属川崎病院

著者: 藤原道久

ページ範囲:P.1011 - P.1011

 川崎病院は,昭和13年2月に前理事長である故川崎祐宣先生の診療所として岡山市富田町に開院され,翌年の昭和14年に岡山市中山下の現在地の東に移りました.第2次大戦中の昭和20年6月に空襲により全焼しましたが,戦後21年には復旧し,昭和25年に財団法人の病院として許可されました.昭和32年には救急病院の指定を受けるとともに,社会福祉法人旭川荘の建設を助成し,昭和35年に現在の西館の竣工とともに496床の総合病院となり,川崎癌研究所を設立しました.そして昭和41年には現在の東館・北館が竣工し800病床となり,災害救急センターを併設しています.さらに,平成3年から約1年10か月をかけ院内の改修工事を行い,平成8年には肝臓病センターが開設され,今日に至っています.
 当院を母体とした川崎医科大学が昭和45年に倉敷市松島に創設されました.昭和48年には同地に附属病院が開設され,また川崎医療短期大学,続いて川崎リハビリテーション学院が開設され,さらに平成3年には川崎医療福祉大学が開設されました.

最新の手術器械を使いこなす・4

超音波外科用吸引装置

著者: 舟本寛

ページ範囲:P.1014 - P.1019

 超音波外科用吸引装置は弾力性の乏しい組織には破砕力が有効であるのに対し,血管や神経など線維性成分に富み弾力性のある組織に対しては超音波振動のエネルギーが吸収されてしまうため,破砕されずに温存されるといった「選択性」を有している.そのため神経・血管の剥離において,血管などを損傷せずに周囲の組織を破砕することで,出血を最小限にした確実で安全性の高い手術を行うことができる.われわれは腹腔鏡下広汎性子宮全摘術で最も大量の出血が予想される基靱処理に超音波外科用吸引装置を用い,血管を1本ずつ露出し結紮することで,安全に確実に行うことが可能であった.

OBSTETRIC NEWS

切迫早産の予知—ACOG 2001年

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1021 - P.1023

 米国では早産率が9.4%(1981年)から11.8%(1999年)に上昇している[Nat Vital Stat Rep 49(1):1-100,2001,LevelⅢ].切迫早産に関する研究は膨大な数があるが,残念ながら分娩時期を比較的長期間延長させることができる有効な介入方法がないのが現状である.
 米国産婦人科学会(ACOG)から早産の予知に関する情報と勧告が紹介された.陣痛抑制剤投与によって,48時間までは妊娠を延長できる妊婦がおり(Cochrane Library,Issue 2,2001.Oxford:Update Software,LevelⅢ),この間に副腎皮質ホルモンを母体に投与することによって周産期予後の改善が期待できる.しかし,陣痛抑制剤と副腎皮質ホルモンの投与によってやっかいな母児の続発症が発生する可能性があるので,薬剤使用は自然早産の危険性が高い真の早発陣痛症例に限るべきである.切迫早産の診断基準は,規則正しい子宮収縮と頸管の変化(<妊娠37週)である.切迫早産の診断は困難な症例があるが,早産のリスクが低い妊婦を診断できれば,不必要な介入を防止できる.

Estrogen Series・53

ホルモン療法は本当に心臓病を予防するか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1024 - P.1025

 ホルモン療法は冠動脈疾患を予防すると長い間考えられてきた.また,そのように推定するだけの「根拠」や臨床的観察も存在したのである.最近,初めての大規模ランダム試験の結果が1998年に発表された1).その結果,更年期後のホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT)が必ずしも冠動脈疾患の発生を保護しないことが示された1).これらの新しいデータを受けて,米国心臓病協会(American Heart Associa—tion:AHA)は新しい「推奨(recommendations)」を発表した2).今回はそれに関するLancet誌のコメンタリーをご紹介したい.以下,その要約.

原著

自己採取・郵送検体によるクラミジアトラコマチス検査の臨床的検討—腟分泌物および初尿検体のPCR法による検査

著者: 髙橋敬一

ページ範囲:P.1026 - P.1029

 クラミジア トラコマチス(Chlamydia tra—chomatis:Ct)の自己採取・郵送検体におけるPCR (アンプリコア)による検査の信頼性について検討した.
 子宮頸管部の検体は,①医師採取・冷蔵輸送,②自己採取・冷蔵輸送,③自己採取・郵送の3検体であり,検査対象82例中77例(93.9%)で3検体の検査結果は一致した.医師採取検体の結果と比較して,自己採取法の感度は91%(31/34)で,特異度は98%(47/48),自己採取・郵送検体の感度は97%(33/34),特異度は98%(47/48)であった.

Male to female transsexuals(性同一性障害)のホルモン療法の現状

著者: 菊池由加子 ,   中塚幹也 ,   小西秀樹 ,   羽原俊宏 ,   野口聡一 ,   工藤尚文

ページ範囲:P.1030 - P.1035

 性同一性障害のうちmale to female trans—sexuals(MTF)症例(身体的性は男性であるが性の自己認識は女性)の治療は,女性ホルモン投与が主体であり,産婦人科で行われる機会も多い.そこで,われわれの経験したMTFの77症例のホルモン療法の状況を検討した.
 初診時にすでに過半数の症例が非公式なホルモン療法を受けていた(治療群:n=42,平均4年4か月/未治療群:n=35).ホルモン剤の入手方法はインターネットでの購入が最多で,ついで産婦人科医院であった.経口投与,注射がほとんどで,経皮投与は少数であった.

症例

腹腔鏡下手術後の妊娠中に発生したイレウスの2例

著者: 松原英孝 ,   伊藤誠 ,   西迫潤 ,   野村祐久 ,   千原啓

ページ範囲:P.1036 - P.1039

 妊娠中のイレウス発生頻度は2,500〜3,500分娩に1件といわれ,胎児死亡率20〜50%,母体死亡率10%と報告されている予後不良な疾患である.その原因は既往手術の癒着によるものが最も多いが,近年,婦人科領域でも普及してきた腹腔鏡下手術は開腹手術に比し術後癒着は少ないといわれ,腹腔鏡下手術後の妊娠に伴うイレウスの報告は見当たらない.
 今回筆者らは腹腔鏡下付属器摘出術施行後の妊娠中に発生したイレウスを2例経験したので報告する.[症例1]27週時に絞扼性イレウスにて回腸部分切除を行ったが,イレウスが再発し30週3日に帝王切開とイレウス解除を行った.[症例2]9週時に絞扼性イレウスにてイレウス解除術を行い軽快・退院.20週時にイレウスが再発したが,イレウスチューブ挿入,保存的治療が奏効し39週6日に経腟分娩に至った.いずれの症例も母児ともに経過良好である.

Luncheon Seminar

新しい避妊法—銅付加IUD開発の歴史と適正使用のための工夫

著者: 我妻堯

ページ範囲:P.1041 - P.1048

 2002年4月8日に東京国際フォーラムで開催された日本産科婦人科学会総会・学術講演会(会長:荒木 勤先生,日本医科大学産婦人科学教室教授)のなかでランチョンセミナーが開催された.松本清一先生(社団法人日本家族計画協会会長)の司会もとで「新しい避妊法—銅付加IUD開発の歴史と適正使用のための工夫」(共催:日本シエーリング株式会社)と題して我妻発先生の講演が行われた.ここではこの講演要旨をまとめた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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