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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科56巻9号

2002年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊婦健診のピットフォール

妊婦健診の目的と意義—新しい時代への対応

著者: 草薙康城 ,   伊藤昌春

ページ範囲:P.1064 - P.1067

はじめに
 母子保健の基本的指標である周産期死亡率は,周産期医療の進歩や保健行政の変化に伴い,近年40年間で急速に改善され,先進国では下位に属していた周産期死亡率は,現在,世界最高水準にまで到達することができた。しかしながら,最近10年間は周産期死亡率に大きな変化はみられず,また,妊産婦死亡率は世界第一線とは言い難い水準から未だ抜け出せていない.周産期死亡率や妊産婦死亡率のさらなる改善には人員と機能を備えた産科医療システムの充実が必要であるが,同時に妊婦健診時のスクリーニング検査によりハイリスク妊娠を早期に診断し,適切な施設で適切な管理を行うことも重要となる.産科医療施設では妊産婦健康診査実施要項に基づき妊婦健診を行っているが,妊婦スクリーニング検査の選択は施設により大きく異なる.本稿では妊婦健診の歴史および現状について概説する.

初期健診のピットフォール

1.見逃しやすい異所性妊娠

著者: 椋棒正昌

ページ範囲:P.1068 - P.1070

はじめに
 近年,クラミジア感染症などのSTD(性感染症)の蔓延やIVF-ETなどの配偶子操作の普及により,異所性妊娠の発生頻度は増加している1).異所性妊娠の診断法は,超音波断層法,特に腟式超音波検査の診断技術の向上により著しく進歩している.そのため未破裂の状態で診断され,腹腔鏡下手術が施行されることにより,重篤な状態に陥る症例が減少している.
 しかし,異所性妊娠は見逃すと破裂し,出血性ショックを起こし重篤な状態となり,母体死亡につながる可能性をもっている.そのため,特に妊娠初期の健診では異所性妊娠を見逃さないように注意する必要がある.

2.誤ったCRLの計測と予定日決定

著者: 坂井昌人

ページ範囲:P.1071 - P.1073

はじめに
 妊娠初期のCRL:crown-rump length(頭殿長)の計測は1973年Robinson1)によって最初に提唱された.それまで行われていたBPD:biparietaldiameter(児頭横径)計測は妊娠初期には計測困難で,子宮の大きさやGS:gestational sac(胎嚢)計測では分散が大きく妊娠週数推定には適さなかったためである.妊娠初期は個体差による計測値の分散が小さいため,CRL計測は妊娠週数の推定や確認に利用されている.正しく計測されたCRLによる推定妊娠日数の95%信頼区間は±4〜5日である2).CRL計測は当初,経腹走査によって行われていたが,現在は経腟走査が多くなり,計測精度は向上している.しかし誤った計測法で得られたCRLでは妊娠週数の推定を誤ってしまう可能性がある.正しいCRL計測による妊娠週数の推定のために知っておくべき事項をまとめた.

3.安易すぎる切迫流産の診断

著者: 箕浦茂樹 ,   中江華子 ,   服部里佳

ページ範囲:P.1075 - P.1077

はじめに
 産科婦人科用語解説集(金原出版)1)によれば,切迫流産(threatened abortion)とは「胎芽あるいは胎児およびその付属物は全く排出されておらず,子宮口も閉鎖している状態で,少量の子宮出血がある場合,下腹痛の有無にかかわらず切迫流産といっている.流産への移行状態と考えられ,正常妊娠過程への復帰が可能でもある状態とされているが,必ずしも流産の状態を表現したものでなく,妊娠初期時の子宮出血を主徴とした症状に対する名称である」と記載されている.すなわち切迫流産は妊娠22週未満の性器出血という症候を表す言葉であることから,その原因には種々のものが含まれる.
 一方患者にとってみると,切迫流産という言葉は流産が切迫している状態ととらえがちであり,出血をみただけでも大きな不安を抱くことが多い.このような患者に対しては,出血が必ずしも流産の徴候ではないということを具体的に説明する必要があり,そのためには超音波所見を中心とした正確な鑑別診断が重要である.本稿では切追流産の概要について述べた後,当院の臨床データをもとに,特に絨毛膜下血腫の臨床的意義について触れてみたい.

4.多胎妊娠—必ず膜性診断—絨毛膜,羊膜の診かたと初期の膜性診断

著者: 深田幸仁

ページ範囲:P.1078 - P.1081

膜性診断の必要性・問題点
 周産期死亡率は,双胎妊娠の中では周産期異常をきたすことが少ないとされる二絨毛膜二羊膜性双胎でさえ単胎妊娠に比べ約10倍高く,一絨毛膜二羊膜性双胎では約50〜60倍高いといわれている.さらに一絨毛膜一羊膜性双胎においては,その周産期死亡率は約50%ときわめて高率である.
 一絨毛膜性双胎特有の合併症としては,胎盤の表在あるいは深部血管吻合に起因するものでは,双胎間輸血症候群(羊水過多および過少,discor—dant twins,心不全,胎児水腫,胸腹水,stucktwinなど),無心体などがあり,一羊膜性に起因するものでは臍帯相互巻絡,臍帯脱出,結合体などがあり,1児胎児死亡に起因するものでは脳障害(脳室周囲白質軟化症,脳内出血,水無脳症,孔脳症など),腎障害(先天性皮質壊死),消化管障害などの子宮内胎児塞栓症候群があげられる.したがって多胎では膜性によって胎児に異常をきたす頻度に大きな違いがあるので,妊娠初期に正確に膜性診断を行っておくことがその管理の上で重要であるといえる.

5.間違いやすい婦人科腫瘍の診断

著者: 赤松信雄

ページ範囲:P.1083 - P.1085

はじめに
 妊娠初期には子宮収縮による局所的な子宮収縮や出血性黄体嚢胞が観察されることが多い.これらは妊娠に伴って発生するが,妊娠中に消失する所見と妊娠中に増悪することの多い婦人科腫瘍による所見とを鑑別することが,妊娠初期の妊婦健康診査に求められる.これらのほとんどは超音波検査により発見される.そこで.超音波検査の所見を中心にこれらの診断と管理について述べる.

6.胎児異常の初期チェックポイント

著者: 関谷隆夫 ,   中沢和美 ,   千原啓

ページ範囲:P.1088 - P.1096

はじめに
 高周波探触子の出現は,妊娠初期からの胎芽(児)の詳細な観察を可能とした.本法を用いた評価のポイントは,心拍の有無と心拍数,胎児と胎嚢のバランス,頭頸部の形態異常の診断.頸部透明帯(nuchal translucency)をはじめとする先天異常マーカーのチェックであり,解剖学または発生学的知識にもとついた画像所見の評価を行う必要がある.
 本稿では妊娠初期のチェックポイントとピットフォールについて述べるが,まず超音波診断を行う上で必要な妊娠初期胎児の発生と画像としての描出時期を示す(図1)1)

中期健診のピットフォール

1.早産リスクのチェック

著者: 吉武英憲 ,   小山祐之介 ,   上平謙二

ページ範囲:P.1097 - P.1109

はじめに
 早産は,その65%が自然早産で35%が治療的早産であるが1),われわれの使命は65%の自然早産を抑えることにある.自然早産の元になる切迫早産では,経腟超音波断層法の進歩に伴い,その概念は近年変貌しつつある.すなわち,早発子宮収縮を主徴とするものが従来型の切迫早産であるが,これに対して経腟超音波断層法による頸管短縮所見を主とする新しい概念が頸管機能不全症である2).その高度なものが頸管無力症で,図1はそのシェーマである.
 従来,頸管無力症は特殊なものとして捉えられてきたが,頸管機能不全症という概念の出現によって,頸管無力症は従来のように孤立した存在ではなく「連続体(continuum3,4))」の一員として位置付けられるに至った.筆者らは,4年前から数千の自験例においてわれわれの提唱する「愛和スコア(AIWA�s score)」により妊娠の早期から頸管機能をスクリーニングし,細菌性腟症では予防的治療を行いつつ,必要と思われる症例に治療的頸管縫縮術を施行し,早産を妊娠37週未満では2/3,妊娠36週未満では1/2に減少させることができたので,以下その方法について述べたい.

2.胎児形態異常を見逃さないために

著者: 宗田聡 ,   漆川邦 ,   濱田洋実

ページ範囲:P.1111 - P.1113

はじめに
 胎児形態異常の出生前診断は,主として超音波検査やMRIなどの画像診断によって行われている.本稿の主題は,妊婦健診時のピットフォールとして,いかに胎児形態異常を見逃さないかということなので,日常臨床で主に利用されている超音波検査について取り上げていくことにする.

3.見落とされやすい臍帯の異常

著者: 石郷岡哲郎 ,   千石一雄

ページ範囲:P.1115 - P.1117

はじめに
 妊娠の後半になって胎児発育に遅延が見られたと思ったら分娩後に臍帯過捻転が見られた,分娩中に胎児心拍異常を認めたので緊急帝王切開にしたら臍帯卵膜付着が認められたなどの経験をお持ちの方も多いと思われる.以前に比べ,超音波検査装置の発達による画像診断の進歩は著しく,このような臍帯の異常もカラードプラ法の利用などにより分娩前に診断しておくことが可能となった.現代の産科管理においては,より安全な分娩を行うために,胎児—臍帯—胎盤循環障害などを引き起こすハイリスク妊娠として臍帯の異常を出生前診断しておくことが必要であると考える.通常診断することができる臍帯の異常について表1にまとめて示すが,これらの観察の時期としては,羊水腔の大きさと臍帯の太さなどから妊娠中期が比較的容易であろう.以上の視点から,本稿では妊娠中期の健康診査における見逃しやすい臍帯のチェック法について概説する.

4.胎盤位置診断は正しいか

著者: 市塚清健 ,   佐々木康 ,   岡井崇

ページ範囲:P.1118 - P.1121

はじめに
 前置胎盤,低置胎盤の診断は胎盤と組織学的内子宮口の位置関係に基づきなされる.したがって,これらの診断には経腟超音波断層法検査(経腟超音波検査)が最も有用であり,現在はほとんどの例で無症候の時期に診断をつけることが可能となっている.診断をつける際には,検査の時期および子宮峡部と子宮頸部の妊娠経過に伴う変化の理解が必要である.ここでは正常な子宮峡部,子宮頸部について述べた後,経腟超音波検査による前置胎盤,低置胎盤の診断とそのピットフォールについて述べる.

5.GDMのスクリーニングは

著者: 今西由紀夫

ページ範囲:P.1123 - P.1125

はじめに
 妊娠と糖代謝異常についての関心は,興味のある産婦人科医においては,近年ますます高まっており,さまざまな臨床研究が行われつつある現状である.
 糖代謝異常合併妊娠には,①糖尿病合併妊娠,②妊娠糖尿病(GDM),の2つがあげられる.

後期健診のピットフォール

1.羊水過少から考えること

著者: 室月淳

ページ範囲:P.1126 - P.1129

はじめに
 羊水過少(oligohydramnios)は羊水量の減少を意味し,その頻度は定義によって異なるが,全妊娠のおおよそ5%に認められる.羊水は胎児にとって重要な働きをもつので,羊水過少があると胎児の罹病率や死亡率が増加することが一般に知られている.Chamberlainらの報告1)によると,周産期死亡率は羊水過少を合併すると出生1,000に対して187.5と通常の47倍にのぼる(一般の周産期死亡率は出生1,000に対して1.97である).妊娠の早期から羊水過少があれば児の予後は悪くなるが,その頻度は高くない.対照的に分娩予定日を超過した過期妊娠ではしばしば羊水過少が生じる.
 羊水過少の臨床的診断は超音波検査によってなされる.客観的に羊水量を評価する画像的指標として,羊水インデックス法(amniotic fluid index:AFI)2)が現在最も一般に受け入れられている.妊娠子宮を上下左右に4分割し,それぞれの子宮腔における最大垂直ポケット値を合計したものである.図1に妊娠週数ごとのAFIの基準値を示す3).この5パーセンタイル以下の値をとるときに羊水過少と診断される.

2.出血例—見逃しやすい早剥

著者: 宮本正史 ,   増崎英明 ,   石丸忠之

ページ範囲:P.1131 - P.1133

はじめに
 常位胎盤早期剥離(以下,早剥)は,母児にとって重篤な疾患であり,早期診断の有無によりその予後は左右される.妊娠後半期に子宮出血あるいは腹痛が認められた場合,早剥の存在を考慮しつつ診断を進めるべきであるが,診断法のひとつといわれるCTG所見は胎盤の剥離面積や胎児の低酸素の程度により一定のパターンは示さず,重症化する前の診断は困難である.
 早剥は基底脱落膜の出血に始まり,形成された胎盤後血腫がこれに接する胎盤をさらに剥離・圧迫し,最終的には胎盤機能を障害する.この過程における超音波断層像は多彩であり,その早期診断は必ずしも容易ではない1).また,超音波断層法で明らかな早剥の所見が認められない場合であっても,早剥を完全に否定できるわけではない.

3.後期発症妊娠中毒症への対応は

著者: 山崎峰夫

ページ範囲:P.1134 - P.1137

はじめに
 重症高血圧を呈する妊娠中毒症の妊娠時期別発症頻度は,妊娠28〜32週と妊娠36週以降にそれぞれピークを示す二峰性の分布をなす1).また,軽症高血圧型の妊娠中毒症発症は圧倒的に36週以降の時期に多い1).つまり妊娠36週以降は妊娠中毒症の好発時期といえるため,この時期の妊婦健診に際しては,本症の発症を見逃すことのないよう症候や検査異常に特に注意したい.

4.血栓症リスクの評価は

著者: 吉村寿博

ページ範囲:P.1138 - P.1141

はじめに
 欧米における血栓性疾患(深部静脈血栓症や肺塞栓症)の発症率は約1,000分娩に1例と報告されている.肺塞栓がその約15%を占める1,2).肺塞栓症は,静脈系に発生した血栓が肺血管床を閉塞させる状態であり,そのほとんどは骨盤内や下肢の深部静脈血栓が遊離して起こる.深部静脈血栓症は妊娠中・産褥期どの時期でも発症するが,肺塞栓の2/3は産褥期に発症し,その80%は帝王切開術後である3).欧米では肺塞栓症は1980年代前半から既に妊産婦死亡の原因の第1位である.最近ではわが国でも,肺塞栓が妊産婦死亡の原因の20%を占め,第1位となっている4)

4.血栓症リスクの評価は

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1143 - P.1147

血栓症とは
 血栓症はこれまで本邦では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している.血栓症で臨床的に問題となるのは,下肢深部静脈血栓症(deep venous throm—bosis:DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboernbolism:PTE)である.これらは合併することも多いので,総称して静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と呼ばれている.

5.緊急帝切への安全管理

著者: 松田義雄 ,   新井理水 ,   伊藤章子 ,   太田博明

ページ範囲:P.1148 - P.1151

はじめに
 全ての分娩は経腟分娩が理想であるが,帝王切開による分娩がさまざまの理由でやむを得ず選択される(表1)1).帝王切開術が他の手術と大きく異なる点は,解剖学的にも生理学的にも非妊娠時の状態と異なっていること,また母体のみならず胎児の生命予後も同時に考慮する必要があることである.
 本稿では,外来健診時において緊急帝王切開になりうる症例の見積もりと帝切時のリスク因子の抽出を中心に述べる.

連載 カラーグラフ 知っていると役立つ婦人科病理・39

What is your diagnosis?

著者: 三橋智子 ,   清水道生

ページ範囲:P.1061 - P.1063

症例:20歳,女性
 月経過多のため来院したところ,両側卵巣に腫瘤が認められ手術が施行された.
 Fig 1〜3は左側腫瘤の代表的な組織像(HE染色)である.

病院めぐり

越谷市立病院

著者: 山本勉

ページ範囲:P.1152 - P.1152

 越谷市は人口31万人,都心から25km圏内のベッドタウンで,「水と緑と太陽に恵まれたふれあい豊かな自立都市」を目指しており,埼玉県東南部の中核都市です.南は草加市,北は春日部市に接し,それぞれの市には市立病院があり,また約2kmを隔てて獨協医科大学越谷病院があります.当院は昭和51年1月,351床の規模で開院し,地域の中核病院としての役割を果たしてまいりましたが,人口が急増し医療需要が逼迫する中で,平成12年,新病棟の竣工および旧病棟の改修により病床数481床に増床されました.以後,“smile, safety, satis—faction”の標語の下に,患者様のニーズに応える医療,安全な医療に徹した医療サービスに邁進しています.
 当院は昭和63年に日本産科婦人科学会認定制度卒後研修指導施設に指定され,平成10年には厚生省の臨床研修指定病院に認定され,順天堂大学の研修関連病院として研修医の多くは同大学から派遣されています.病院は1次・2次救急病院を標榜し,年間の救急車搬送台数は約3,500台を数えています.

佐賀県立病院好生館

著者: 西田純一 ,   野見山亮

ページ範囲:P.1153 - P.1153

 佐賀県立病院好生館は,約170年前,1834年に名君といわれた佐賀十代藩主鍋島閑叟公が医学館を設立されたときに始まります.1858年には現在地に移転し「好生館」と命名されました.その名の由来は中国の書「書経」にあり,「好生之徳沿干民心」からとられた由です.その後,幾多の変遷を経て明治29年,現在の佐賀県立病院好生館となりました.以来,古賀穀堂の言葉,「学問なくして名医になることは覚束なきことなり」を設立の理念とし,佐賀県唯一の県立病院として,高度・特殊医療,救急医療,一般医療などを担っています.昭和52年に,施設の全面改築を行い,地上8階建ての本館を建設,診療機能の高度化と医療設備の一層の充実をはかりました.昭和43年に臨床研修指定病院,同51年に佐賀医科大学の関連教育病院の指定を受け,平成元年10月に本県唯一の救命救急センターが開設されました.また,平成10年2月に,自治体病院としては全国で2番目にあたる緩和ケア病棟が開設され,病床数は541床となっています.
 産婦人科は大正9年に発足したとの記録があり,今年で84周年ということになります.現在のスッタフは福田耕一部長,野見山亮医長,西田純一医長の3名であり,佐賀医科大学より研修医1名が派遣され診療に従事しています.外来診療は月曜日から金曜日まで行い,再来は予約制としています.

OBSTETRIC NEWS

緊急帝王切開—「30分ルール」を達成できるか?(1)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1154 - P.1155

 北米や英国では,緊急帝王切開(帝切)決定から開始までは30分以内(「30分ルール」)というのが標準的産科管理という不文律がある.しかし,例えば前回帝切後の経腟試験分娩(VBAC)例で子宮破裂が起こった場合は,30分以内に開始できても母児の死亡や罹患を防げない例が多数発生する.米国産婦人科学会(ACOG)では,VBACに関しては,「30分ルール」ではなく,“immedi—ately”という表現に変えている.「30分ルール」を達成するには院内に麻酔科チームやそのほかの手術要員が常駐しなければならず,特に日本のような国では費用の点で達成は不可能な例が多数存在するはずである.「30分ルール」は,日本では決して標準的医療ではないことが産科医療関係者以外にも認識されて欲しいものである.英国とオーストラリアからの研究で,この問題が検討されている.
 緊急帝切は決定から開始まで30分と勧告されているが,この勧告を支持する客観的証拠はほとんどない.

Estrogen Series・54

健康な更年期後女性におけるエストロゲン+プロゲステロンの併用に伴う危険と利点

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1156 - P.1157

 今回は,最近JAMA誌に発表されたエストロゲン+プロゲステロン(ここでは,以後,E+Pと記載する)の併用に伴うrisks and benefitsに関する論文をご紹介したい.また,これに引き続いて,同論文に関する同誌のeditorial,さらにACOGの立場や推薦をのちにご紹介したい.この論文は,当初の計画では8年半を要する“Womens� Health Initiative RandoimizedControl Trial”と名づけられた前方視的研究であるが,5年を経た時点でその結果の概要が明らかになり,危険の大きさが明瞭となってきたので,研究の全体が終了するのを待たず,あえて緊急に発表されたものである.この結論は大規模RCTの結果であるために,十分な根拠と説得力をあわせ持つ.その証拠能力は従来の観察的研究よりはるかに大である.以下は論文の最初に置かれた要約を翻訳したものである.なお,本論文の全文はwww.jama.comにて容易に入手することができる.
 この調査研究はE+Pの使用に関するもので,エストロゲン単剤によるものではない.

最新の手術器械を使いこなす・5

レーザー装置

著者: 米山剛一

ページ範囲:P.1160 - P.1165

 レーザーの婦人科手術への応用は多岐にわたる.大別すると①子宮頸部病変に対する円錐切除術,②腹腔鏡,子宮鏡などの内視鏡下手術,③光線力学的療法(PDT)に対してのレーザーの使用が代表的である.
 CINに対するレーザー療法としてはNd-YAGレーザーによる円錐切除法が主流となってきている.腹腔鏡下手術へのレーザーの適応疾患としては子宮内膜症,子宮外妊娠,骨盤内癒着,多嚢胞性卵巣などがある.

原著

凍結融解後のヒト精子生存率と高速直進精子の関係

著者: 小峰富美子 ,   星本和倫 ,   星本和種 ,   林雅敏 ,   大藏健義

ページ範囲:P.1167 - P.1171

 精子の凍結保存はART(assisted reproduc—tive technology)において,きわめて重要な手技である.しかし,凍結保存後の精子生存率は症例により大きく変動する.最近の報告では,capacitationの過程の1つである精子細胞膜の流動性と,高速直進精子の存在,凍結融解後の精子生存率の間に何らかの関係があることがそれぞれ指摘されている.そこで,今回われわれは精液所見と凍結融解後の精子生存率との関係を比較検討した.その結果,多くの精液所見と凍結融解後の精子生存率との間に有意な相関は認められなかったが,高速直進精子の存在比率と凍結融解後の精子生存率との間には有意な相関が認められた.したがって,本研究から高速直進精子の存在比率の算定は,凍結融解後の精子生存率を予測する上で有用なマーカーである可能性が示唆された.

臨床経験

乳癌術後の子宮悪性病変に関する検討

著者: 橋本歳洋 ,   山田秀和 ,   小野次子 ,   高野芳正 ,   大川敏昭 ,   森村豊 ,   柳田薫 ,   佐藤章

ページ範囲:P.1172 - P.1175

 乳癌患者で1995年6月〜2001年5月までの6年間に当科で婦人科検診を施行した151例を対象として,tamoxifen内服群と非内服群に分け,子宮悪性腫瘍の検討を行った.Tamoxifen内服群(65例)では子宮体癌2例,子宮頸癌1例,転移性子宮腫瘍2例を認めた.Tamoxifen非内服群(86例)では子宮体癌1例,子宮頸癌4例を認めた.Tamoxifen内服後(中)の子宮体癌の報告は多いが,子宮頸癌の発症があること,非内服例でも子宮頸癌や子宮体癌の発症を認めた.乳癌は今後増加していくと考えられており,われわれがこのような疾患に遭遇する機会が増えていくと思われる.外科との連携はもちろん,定期的な婦人科検診が必要であると考えられた.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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