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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻10号

2003年10月発行

雑誌目次

今月の臨床 周産期の難題を解く―最新のエビデンスを考慮した解説 妊娠管理

1.体重管理・塩分制限は中毒症予防に有効か?

著者: 宮内彰人

ページ範囲:P.1250 - P.1252

はじめに

 妊娠中毒症とは,妊娠に高血圧,蛋白尿,浮腫の1つもしくは2つ以上の症状がみられ,かつこれらの症状が単なる妊娠偶発合併症によるものではないものをいう(日本産科婦人科学会).妊娠中毒症は妊娠負荷に対する母体の適応不全状態として捉えられており,妊娠負荷として循環系,プロスタグランジン系,凝固線溶系などの関与が考えられているが,いまだにその本態は不明である.他の疾患と異なり,薬物療法の効果には限界があり,妊娠中毒症の治療の基本は安静と食事療法であることは異論の余地はないであろう.また,妊娠中毒症は一度発症すると根本的な治療法は妊娠を中断させることしかないため,その発症を予防し,発症したら重症化を防ぐことが重要である.

 本稿では,妊娠中毒症の発症予防の観点から妊娠中の栄養管理指針について述べる.

2.トキソプラズマの初感染妊婦の治療は?

著者: 小島俊行 ,   堤治 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.1253 - P.1257

はじめに

 現在まで筆者が調べ得た限りでは,明らかに妊娠前にトキソプラズマに初感染してその後,先天感染児を出生した報告は2例であるので,一般にトキソプラズマの妊娠前の初感染が確認されれば妊婦の治療の必要はない.本邦では,妊娠中の初感染が否定できない場合,アセチルスピラマイシンを1.2 g分4で3週間投与し,2週間休薬するコースを分娩まで繰り返す方法が行われることが多い.羊水のトキソプラズマゲノムの検出例ではアセチルスピラマイシンは無効であり,スルファドキシンとピリメタミンの合剤(ファンシダール(R))の投与などが行われている.これらが適切であるか検討する.

3.妊娠中のDVTの診断法と精度は?

著者: 安達知子

ページ範囲:P.1258 - P.1261

はじめに

 近年,産科領域における静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)の報告が増加している.VTEは,大きく深部静脈血栓症 : deep venous thrombosis(DVT)と肺塞栓症 : pulmonary embolism(PE)に分けられる.PEはその約85%がDVTから生じる1)が,急性のPEは致命率が高く,その10%が発症1時間以内に死亡するともいわれており2),本邦も含めて先進諸国の妊産婦死亡の主要原因となっている3~5).したがって,妊産婦におけるDVTの早期診断や適切な治療は重要である.妊娠中のDVTは予知が難しく,また,しばしばDVTの症状である下肢の腫脹や下肢痛が非特異的に出現しやすいため,その診断は重要である.ここでは,DVTの妊娠中での診断法とその精度について解説する.

4.妊娠中の癒着胎盤の診断法と精度は?

著者: 吉田幸洋

ページ範囲:P.1263 - P.1265

はじめに

 妊娠初期,脱落膜内に着床した妊卵から発生する絨毛膜のうち,子宮筋層側の部分は妊娠週数が進むにつれて次第に発育増殖して繁性絨毛膜となり,妊卵着床部位の脱落膜の子宮筋層側の部分すなわち床脱落膜とともに胎盤を形成する.胎盤の構造上,絨毛膜板は付着絨毛によって子宮脱落膜と接しているが,胎盤絨毛の大部分は,脱落膜を貫通してきた螺旋動脈から噴出する母体血が充満する絨毛間腔に浮遊する状態にある.このように本来胎盤を形成する絨毛組織は,子宮壁のうち脱落膜とは接しているものの子宮筋層には接することも進入することもない.

 癒着胎盤とは胎盤形成過程における絨毛組織と子宮壁との付着の仕方の異常であり,特に脱落膜が菲薄化していたり欠損しているような部位に妊卵が着床することによって胎盤の一部または全部が子宮壁に強く癒着し,分娩後脱落膜の海綿層で生じる胎盤の剥離が困難となるものをいう.

 癒着胎盤はひとたび遭遇すると分娩後の大量出血を引き起こし,対応が遅れれば母体死亡に至ることもある.したがって妊娠中の診断はきわめて重要であるが,妊娠中の診断の方法と精度に関しては一定の見解がないのが現状である.本稿では,最近の文献をもとに,妊娠中における癒着胎盤の診断と精度に関して述べ,癒着胎盤が疑われた場合の対応についても言及する.

5.細菌性腟症の治療は早産予防に有効か?

著者: 渡辺尚 ,   松原茂樹

ページ範囲:P.1267 - P.1273

はじめに

 低体重児出生の最大の原因は早産である.早産は,常位胎盤早期剥離,前置胎盤,妊娠中毒症などで起こることもあるが,その多くは切迫早産,前期破水から発生する.最近の研究から,切迫早産,前期破水では絨毛羊膜炎(chorioamnionitis : CAM)がその背景にあることが多いことがわかってきた.CAMを起こす感染経路としては,下部性器感染叢よりの上行性感染が多く,頸管炎を経てCAMに至ると考えられている1)

 細菌性腟症は,Lactobacillusを中心とする常在細菌叢が,他の有害な細菌種により置換された状態である1, 2).細菌性腟症については,以前は本症が存在しても無症状であれば無視してもよいものと考えられていた.しかし,本症が早産の一原因として病的意義をもつことが明らかとなり,本症を治療することで早産の予防が可能かもしれないとの視点から注目を集めてきている.

6.頸管短縮例に縫縮術は有効か?

著者: 中井章人

ページ範囲:P.1274 - P.1277

はじめに

 経腟超音波断層法の導入により,妊娠中後期の管理が変化しつつある.かつて妊娠の進行に伴う頸管変化は内診によってのみ評価され,多くの医学書にその所見が記されてきた.実際,頸管変化を主徴とする代表的な疾患である頸管無力症においても,日本産科婦人科学会の定める用語集には,外出血,陣痛などのいわゆる切迫流早産徴候の自覚なく子宮口が開大し,胎胞が形成されてくる状態と記されるにとどまっている.

 近年,こうした病態に対し,経腟超音波断層法による頸管観察が内子宮口変化をより早期に診断し,早産の予知を可能にすることが多くの研究により報告されている.中でも,頸管長の測定は再現性も高く,簡便で,信頼性の高い早産のbiological markerと考えられている.しかしこれらの研究は,経腟超音波断層法による頸管観察の有益性を説くと同時に,頸管短縮例に有効な治療が存在しないという事実も指摘している.

 そこで本稿では,経腟超音波断層法により診断された頸管短縮例に対し,はたして縫縮術は有効か否か,最新のエビデンスをもとに解説する.

7.骨盤位外回転術の適否は?

著者: 竹田善治 ,   中林正雄

ページ範囲:P.1278 - P.1279

はじめに

2000年のLancet誌1)に,骨盤位の分娩方法として初産・経産を問わず帝王切開術(帝切)が推奨されて以来,骨盤位帝切率は上昇の一途をたどっている.そのため,帝切減少のための解決策として骨盤位分娩そのものを減らす骨盤位外回転術(external cephalic version : ECV)の実施が見直されている.しかしECVには胎盤早期剥離や母児間輸血症候群など母児への危険性が伴うため,その適否には賛否両論2)があり,いまだ解決されていない問題の1つである.

 近年,エビデンスに基づいた医療の実践evidence―based medicine(EBM)の概念が広まり,従来の医療の再検討がなされるようになっている.本稿ではエビデンスの質の評価の1つとして米国の医療政策研究局Agency for Health Care Policy and Research(AHCPR)が採用しているタイプ分類3)(表1)にしたがい,最良とされるIa : ランダム化比較試験randomized controlled trial(RCT)のメタアナリシスによる報告を中心として,ECVのもつ問題点について述べる.

分娩管理

1.過期妊娠の取り扱いは?

著者: 栗下昌弘

ページ範囲:P.1280 - P.1283

はじめに

 適切な時期に陣痛が発来し,分娩に至ることがよい周産期予後を期待できることを多くの産科医は知っている.過期妊娠はこのような自然の分娩開始がなく,妊娠期間が延長される状態と解釈できる.妊娠が分娩予定日を2週間以上超えて継続する場合を過期妊娠,その分娩を過期産と呼ぶ.過期産は早産と同様,正期産と比べ周産期の予後においてリスクが高いとされている.過期妊娠の問題点は,その妊娠のリスクを的確に把握し,過期妊娠に至る前に医学的介入が必要かどうかを判断することである.具体的には,妊娠週数の正確な算定方法は何がよいか,胎児well―beingの評価をいつから行うか,分娩誘発は必要か否か,必要ならその時期,方法はどのようにすべきかなどを決定することである.これらの項目について最新の考え方を概説する.

2.前回帝切例の分娩方針は?

著者: 椹木晋 ,   辻哲郎

ページ範囲:P.1285 - P.1287

はじめに

 近年,麻酔学の進歩により帝王切開術(以下,帝切と略)が比較的安全に行えるようになった.また産科の世界でも分娩監視装置,超音波断層装置の普及による胎児管理精度の向上,少子化による親や医師の安全思考による社会的要因などにより帝切率は上昇してきている.

 その結果,日常,前回帝切例を取り扱うことが増加してきている.従来,前回帝切はすべて帝切による分娩とすることがわが国においても当然のこととして受け入れられてきた.しかしながら過度の帝王切開術の増加を抑制するために1980年代になり米国において前回帝王切開後の経腟分娩(VBAC)が推し進められるようになり,多くの施設がその安全性について検討を行うようになった.それらの結果の多くが安全性を示唆するものであったため,VBAC率は飛躍的に増加していった.しかし,ここ最近になり米国においてVBAC率は低下傾向を示している(図1)1).これは,従来の結果に対する評価が変わってきたことや新たな大規模調査の結果が明らかになってきたことによると思われる.そこで今回は,最近のデータを踏まえたうえで前回帝切症例の取り扱い方を考察した.

3.鉗子分娩と吸引分娩の選択は?

著者: 竹田省 ,   保母るつ子

ページ範囲:P.1289 - P.1293

はじめに

 わが国での鉗子・吸引分娩は全体の9~15%を占めており,分娩第2期の母児の危機を回避するのが目的で産科医にとっては必須手技である.現在,両者の技術の習得は大学病院や研修病院で行われるが,責任者の考えで鉗子か吸引かのどちらか一方のみであり,吸引分娩が主流となっている.その理由として,鉗子技術の継承が難しいこと,昔の高在鉗子の悪いイメージなどが挙げられる.また,帝王切開術が比較的安全に手早く行われるため以前のような高在鉗子,吸引を施行する必要がなくなっている.このため適応と限界さえ知っていればどちらも安全に施行できるのであり,どちらがより優れているかなどの議論は意味がなく,それぞれの利点,欠点を十分に理解し,適応を守り,安全に確実に施行できるようにすることが大切である.

 われわれの施設では,一貫して鉗子手術のみを指導してきたが,そのなかで最も重要視してきた点は鉗子技術そのものよりも,内診が正確にとれ,児頭の最大周囲経の位置を正確に推定できること,かつその所見を説明でき,ほかの者と共有できることである.鉗子手術はトライアルという概念がないため,内診が正確でなければ鉗子手術は安全に施行できないからである.これらの経験を踏まえ,今回randomized controlled trial(RCT)を中心とした両者の比較成績から,それぞれの特徴,利点,欠点などを紹介するとともに,われわれの施設での鉗子手術施行上の注意点や問題点,内診の留意点などを紹介し,吸引分娩をされる方々の参考にしていただきたい.

4.GBS陽性例の取り扱いは?

著者: 山田秀人 ,   長和俊

ページ範囲:P.1295 - P.1299

はじめに

 B群溶血性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae, group B Streptococcus : GBS)は通性嫌気性菌であり,成人男女とも約30%の頻度で腸管内に保菌している.日本での妊婦の保菌率に関して,腟培養で13.8%1),腟・肛門培養で20.1%1),妊娠26~30週の腟前庭培養で18.1%2)などの報告が散見できる.

 新生児GBS感染症は,生後7日未満に発症する早発型と,7日以降に発症する遅発型に分類される.早発型は3日以内,特に24時間以内に発症することが多く,肺炎や敗血症,次に髄膜炎の病型が多い.遅発型病型は髄膜炎や敗血症が多く,肺炎は少ない.早発型は上行性子宮内感染ないし産道感染による垂直感染で発症し,遅発型は垂直感染による保菌後に,または水平感染で起きると考えられている.以下,早発型新生児GBS感染症をEOGBS(early―onset neonatal GBS infection)と略する.

 分娩中の予防的抗生剤投与によって,米国ではEOGBS発症率が1993年の0.17%から1998年の0.06%に減少した3).これまで,日本におけるEOGBS発症率は欧米に比べて低く4),0.051%5)と推察されてきた.このため,日本での予防対策効果を疑問視する見解すら存在する.新生児敗血症スクリーニングを実施してきた当院でのEOGBS発症率は0.34%であった.従来の推察と異なり,周産期医療におけるEOGBSの重みは決して少ないものではない.

5.前期破水例に人工羊水注入の選択は?

著者: 冨松拓治

ページ範囲:P.1301 - P.1303

はじめに

 前期破水により羊水量が減少すると,臍帯圧迫が起こりやすくなり,その結果,胎児心拍異常の適応による帝王切開が増えることはよく経験することである.ここでは,近年になって汎用されるようになった人工羊水注入について,その概略と最近の報告とを紹介する.

6.子かん症例の治療薬の選択は?

著者: 越智博

ページ範囲:P.1305 - P.1307

はじめに

 子かんは,妊娠中毒症によって起こった痙攣発作をいう.痙攣発作の発生時期により,妊娠子かん,分娩子かん,産褥子かんと称する.本症が発症すると多臓器不全を引き起こし,周産期死亡および母体死亡の原因となる可能性があるため,厳重な管理が必要である.

7.早産帝切の切開方法は?

著者: 岡田喜親 ,   前田眞

ページ範囲:P.1308 - P.1311

はじめに

 近年の新生児医療の進歩には著しいものがあり,極小低出生体重児や超低出生体重児の予後は飛躍的に改善され,在胎22週の生存例も報告されるに至った.このような極小低出生体重児や超低出生体重児の分娩は,母体側か胎児側のどちらか,または両者の適応によって早産させざるを得ないような状況であることが多い.このような状況下において,産科サイドとしてはいかにstress freeな状態で児を娩出し,新生児医療を開始するかが求められている.そしてそれが児の予後の改善に大きく関与することも判明してきた.分娩様式決定の際,特に早産帝切の子宮切開方法には確固たる適応基準がなく,各施設や術者の判断にゆだねられているのが現状であろう.そこで今回,1999年から2002年までの4年間に当センターにおいて経験した早産帝切症例を解析し,帝王切開時の子宮切開方法について検討した.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・51

What is your diagnosis ?

著者: 島田志保 ,   廣瀬隆則 ,   清水道生

ページ範囲:P.1247 - P.1249

症例 : 78歳,女性会子宮頸部細胞診にてClass IVで,CIS(carcinoma in situ)が疑われ,単純子宮全摘術が施行された.Fig 1(弱拡大)およびFig 2, 3(強拡大)は切除検体でみられた偶発病変の組織像(HE染色)である.

ここまできた婦人科日帰り手術 6

子宮鏡下手術

著者: 黄木詩麗 ,   井上裕美 ,   木幡豊 ,   石原由紀

ページ範囲:P.1313 - P.1319

1はじめに

 子宮鏡下手術(trans cervical resectomy : 以下,TCR)は,朝,病院に来て,夕方には帰宅するという文字通り「日帰り手術」が可能である.患者の治療選択肢を広げる手段の1つとしてTCRがあると思われる.当院で行われているTCRを具体的に呈示する.

病院めぐり

国立病院呉医療センター

著者: 熊谷正俊

ページ範囲:P.1322 - P.1322

 国立病院呉医療センターのルーツは明治22年創設の呉海軍病院で,終戦より英濠軍に接収されていたが,解除後の昭和31年に国立呉病院として発足している.昭和40年には中国がんセンター,昭和50年にICU,CCU,昭和54年に救命救急センター,昭和57年に臨床研究部,昭和60年には母子医療センターが設置され,昭和61年に高度総合診療施設に位置づけられている.平成6年から病院の更新整備工事が開始され,平成12年に新病棟(700床)が,平成13年に新外来棟(25診療科)が完成し,各診療科は臓器別診療センターに再編された.平成13年4月1日より国立病院呉医療センター・中国がんセンターに改称し,平成14年5月20日には財団法人日本医療機能評価機構により同機構が定める医療機関(一般病院種別B)としての基準に達していると認定された(病院ホームページ : http : //www.kure―nh.go.jp/).

 現在,産婦人科は50床で,婦人科医師3名(医長1名),産科医師2名(医長1名)の常勤5名にレジデント2名で診療を行っている.流産,人工妊娠中絶術を除いた2002年の手術件数は430件であり(ほかにCO2レーザーなどを用いた外来小手術が30件),手術件数は年々増加の傾向にある.

京都第一赤十字病院

著者: 中田好則

ページ範囲:P.1323 - P.1323

 京都第一赤十字病院はJR京都駅近くの東山区東福寺畔に位置している.昭和9年11月に開院され,昭和24年には看護学校を併設し,地区の基幹病院として地域医療に貢献してきた.その後,病院の老朽化,狭隘化のため,平成9年10月に旧館の一部を残し,本館の新築工事が完成し,地上6,7階,地下1階の新病棟が完成した.屋上にはヘリポートを備え,京都府内では3番目の救命救急センターや府内では唯一の総合周産期母子医療センターが平成9年11月にオープンし,基幹災害医療センターにも指定され,行政と一体となり京都府民・市民に高度医療を提供している.当院の許可病床数は745床であり,産婦人科は一般病床55床,周産期15床を有し,現在は6名の常勤医師と数名の研修医師,非常勤医師が勤務している.

 本院の特徴は急性期医療に力を注いでいることであり,そのためには地域医療施設と密接な医療連携が不可欠であり,病診連携室を設置し協力体制をとっている.

OBSTETRIC NEWS

新生児早発型B群レンサ球菌(GBS)感染症予防戦略2002年

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1324 - P.1327

 妊婦の10~30%は腟や直腸内にGBS集落形成がみられる(J Infect Dis 137 : 524, 1978/OG 77 : 604, 1991/J Infect Dis 145 : 794, 1982/J Infect Dis 148 : 802, 1983).新生児の侵襲性GBS疾患は敗血症,肺炎,または髄膜炎として発症する.約1千万人の調査では,早発型新生児GBS感染の死亡率は6%と報告されている[MMWR 41(6): 25, 1990].米国では年間に約1,600例の早発型新生児GBS感染(陣痛または分娩中の垂直感染)が発症し,80例が死亡している[MMWR Recomm Rep 51(RR―11): 1―22, 2002].1990年代以降の積極的予防努力の結果,早発型新生児GBS感染は1999年には70%減少し出生1,000例につき0.5例に減少している(Emerging Infect Dis 7 : 92, 2001).

 1996年6月に米国防疫センター(CDC)と米国産婦人科学会(ACOG)から早発型新生児GBS感染予防戦略が推奨された.予防には2戦略あり,危険因子(妊娠37週未満の早期産,妊娠37週未満の破水,破水後18時間以上,新生児GBS感染症児出産既往歴,分娩中の母体発熱38℃以上,今回の妊娠中にGBSが原因の尿路感染症の既往)がある場合に分娩中に抗生物質を予防的に投与する戦略,または妊娠35~37週で全例「肛門周囲と会陰」から検体を採取しGBS培養を行い,培養陽性例は分娩中に抗生物質を予防的に投与する戦略のいずれかを採用することを推奨した.

症例

巨大子宮筋腫によりSIRS(systemic inflammatory response syndrome : 全身性炎症反応症候群)を起こしていたと考えられる1症例

著者: 中村学 ,   水竹佐知子 ,   児玉美央子 ,   田口宏中 ,   富田初男 ,   安藤昭彦 ,   三宅康史

ページ範囲:P.1329 - P.1333

はじめに

 SIRS(systemic inflammatory response syndrome : 全身性炎症反応症候群)とは,1992年のCritical Care SocietyとAmerican College of Chest Physiciansの合同会議で提唱されたもので,sepsisの概念に含まれる宿主の反応を客観的に診断するものさしとして誕生したもので,表11)のように定義される.この会議ではsepsisを感染症によるSIRSと位置づけている.子宮筋腫にてSIRSを起こしショックになる報告は少ない.今回われわれは,巨大子宮筋腫に感染を起こしseptic shockをきたした症例を経験し,Swan―Ganzカテーテルを用いた循環動態管理により適切な治療ができ救命できたので報告する.

臨床経験

性同一性障害症例の医療費の現状―ホルモン療法を中心に―

著者: 赤堀洋一郎 ,   中塚幹也 ,   野口聡一 ,   鎌田泰彦 ,   平松祐司

ページ範囲:P.1335 - P.1341

はじめに

 性同一性障害(gender identity disorder : GID)とは,「生物学的性別と性の自己認識とが一致しない状態」,すなわち男性が女性の身体に,あるいは女性が男性の身体に閉じこめられた状態である.近年,日本でもThe Harry Benjamin International Gender Dysphoria AssociationのStandards of Care for Gender Identity Disorders1)を参考にした日本精神神経学会のガイドライン2)に沿って治療が開始された.埼玉医科大学,岡山大学医学部においては,倫理委員会の承認のもと,精神科医,産婦人科医,泌尿器科医,形成外科医からなる専門医がチームを組んでGID症例の精神療法,ホルモン療法,性別適合手術(sex reassignment surgery : SRS)を施行している3~6).GIDについては,人気テレビドラマのテーマとして取り上げられたり,GIDの女子競艇選手がカムアウトし,男子選手として認められるなど,日本においても理解が浸透しつつある.しかし,日本のGID当事者にとっては,依然として種々の社会的問題が山積している.

 その1つに性別変更の問題がある.就職,種々の賃貸契約,病院での保険診療など,種々の場面において,身分を証明するために性別も確認されることが多い.また,法的に結婚ができない.家庭裁判所は戸籍法第113条により錯誤などによる戸籍の記載の誤りを訂正することを許可できる.これに基づき,性別変更のための多くの申し立てが行われてきたが,GIDを理由とした戸籍訂正はほとんど認められていない.

 また,多くのGID当事者にとって深刻なのは経済的な問題である.性別を隠すため,アルバイトを転々としたり,就職が困難であったりする場合も多く5),診療に伴う費用は生活上の負担となっている.GID診療の特徴として,(1)精神療法は観察期間も含め長期間となり,多数回の受診が必要である,(2)ホルモン療法は一生にわたり長期間,継続して行われ,肝機能障害や血栓症などの副作用の定期的な検査が必要である,(3)手術療法は,生殖・泌尿器科的手術,形成外科的手術,美容外科的手術のすべてが必要となることも多く,修正手術や術後の管理などにも費用がかかる,などのことがある.また,GID診療の社会的問題として,(1)正式にSRSまでの治療が可能な施設は,現在,2施設のみであり,治療のための通院にも交通費などの費用がかかる,(2)正式に治療を進めるにはガイドライン2)にしたがう必要があり,治療を開始するまでに多数回の受診が必要である.また,倫理委員会用の検査も高額である,(3)ホルモン療法や手術療法,それに伴う検査は健康保険の適用外のため,自費診療(10割負担)である,などのことがある.

 GID診療にかかわる医療費用に関する検討の報告は少なく7),日本においてはみられない.今回われわれは,GID診療の費用,特にホルモン療法を中心に検討したので報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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