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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 産婦人科診療における心のケア

女性診療における心のケア

著者: 岡村靖

ページ範囲:P.128 - P.133

はじめに

 医師になって大学院終了を経て産婦人科心身医学の研究と診療に専念して46年を経た.その間産科,婦人科全域にわたって多くの体験を持ったが,本稿では全部を述べることは字数の点から難しいので,最も大切ないくつかの事項について述べる.

思春期・生殖医療

1.若年者の人工妊娠中絶と避妊

著者: 松本清一

ページ範囲:P.134 - P.137

はじめに

 わが国の人工妊娠中絶率は1960年以来ずっと減少を続けているが,十代では他の年代に反して,図1に示すように1975年から増加しはじめた.そして1982年から1995年にかけては上昇傾向が減ってほぼ横這いに推移したが,しかし1996年から以前にもまして顕著な第2の増加が現れ,2001年には,15歳以上20歳未満の女子人口1,000対12.6に達した.これは15歳以上20歳未満の女性が,性交経験のない者も含めておよそ80人に1人が毎年人工妊娠中絶を受けていることを意味する1)

 これとまったく並行して,「東京都の児童・生徒の性に関する調査報告」2)における高校3年生徒の性交経験率の年次推移(図2)に見るように,多くの高校生や大学生での調査で性交経験率の増加が示されているし,またクラミジアなど性感染症の増加も指摘されている3).このような現状から見れば,わが国では既に1980年から種々の思春期保健活動が行われているのにもかかわらず,誠に残念ながらそれらの対策はまだ効果的な結果を得ているとはいえない.

 これには,思春期の若者たちが必要としている性教育を行い,自己尊重の一環として自分の健康を守ることの大切さを自覚させ,そのための単なる知識の伝達ではなく,意思決定や行動変容に必要なスキルの習得などを目指す「包括的セクシュアリテイ教育」4)が広く行われていないことや,若者たちが「性の健康」保持に必要な保健サービスを十分に利用できないでいることが主な原因になっていると思われる1).若年者の人工妊娠中絶と避妊に関する産婦人科診療に当たっても,若者を快く受け容れて,安心させ,必要な情報やサービスを提供して,適切な処置や助言・教育を行い,とくに心のケアを心がけることが大切である.

2.性分化異常, 性同一性障害

著者: 木下勝之

ページ範囲:P.139 - P.145

はじめに

 ヒトの性には,遺伝子,染色体など遺伝型(genotype)により決定される遺伝的性と,外性器,内性器,体形など最終的な表現型(phenotype)である身体的性がある.このような生物学的性の問題には,性腺の分化を決定する遺伝子および染色体の異常や,性ホルモンあるいは性ホルモン受容体の異常に起因する性分化異常がある.その一つとして,例えば半陰陽では成人すれば性別に関する不快感や精神的苦悩が生じることが多いため,どちらの性を選択することが当事者の幸せになるかを幼児期に慎重に検討しなければならない.

 しかし今日では,身体的性(sex)以外に性の自己意識(gender)の重要性が認識されている.通常,身体的性が男性(女性)であれば,心も男性(女性)であり,社会的にも男性(女性)として振る舞う性の同一性(sexとgenderが一致)が当たり前であると考えられていたが,生物学的性と性の自己意識がひとつの固体の中で,かならずしも一致しない状態のあることが明らかとなった.この状態を性同一性障害(gender identity disorder : GID)という.

 本稿では,性同一性障害の病態,診断と治療,とくに精神的治療について述べる.

3.やせと肥満, ダイエット

著者: 篠田知璋

ページ範囲:P.146 - P.149

現代の思春期は

 従来から思春期の分類は,前思春期,思春期前期,中期,後期とされ,それぞれ学童後期,中・高生の年代に該当するとされているが,それらの内容は時代とともに変化していると考えられる.現代のわが国の思春期は,身体的発育は目覚しく,第2次性徴が出現する時期も早まり,性交渉の年齢も早まっている一方,精神面での成長は大幅に遅れている.本来思春期は,身体が成長し生殖可能となって,おとなの仲間入りをしなければならないことに「果たして自分がおとなになれるだろうか」と,身近なおとなたち,とくに両親を見てコンプレックスを感じ,葛藤する時期である.そして恋愛感情も経験する.

 この葛藤の時期の彼らの反応としては,おとなに対しての態度が子供のころと変わってぎこちなくなり,また反抗的になる,秘密を持ちたがるなどがでてくる.彼らにとって周囲のおとなたちは範例となるはずなのだが,最近のおとなたち,とくに最も身近にいる親が,範例となるには未熟過ぎる例も多く,彼らはますます混乱するのである.おとなたちの資質が低下していることは,子供たちの人間的成長をおくらせ,子供たちは孤立感を抱き,短絡的,そして自己中心的な言動に走りやすくなる.性の面でも行為そのものに興味を示し,グルメ志向の性行動となる傾向が強くなっている.すなわち,身体はおとな,心は貧しくこどもという,いわゆるおとなこどもの様相を呈するのである.そして,この状態のまま成人式を過ぎていき,心の成長がないまま大学,社会人になっていく.すなわち,現代の思春期は20代,いや,30代にまで延長していると考えてよい.

4.不妊症

著者: 森岡由起子 ,   佐藤奈緒子

ページ範囲:P.151 - P.155

はじめに

 生殖補助医療について継続した検討を行っている厚生科学審議会は,本年5月に,不妊と向き合う人々の心理,不妊カウンセラーの役割,小児保健からみた生殖補助技術を受ける夫婦と産まれた子の心のケアについてのヒアリングを実施した.また10月に日本看護協会の不妊看護認定看護師教育課程がスタートし,11月には不妊カウンセリング学会が立ち上げられるなど,この領域での心理的ケアの必要性がかなり以前から指摘されていたが,ようやく不妊症治療とその結果妊娠出産にいたる人々のケアのあり方と,カウンセリングなどの支援が公に検討され具体的に実施されるようになってきている.

周産期

1.流産, 習慣流産とtender loving care

著者: 藤野敏則 ,   井上尚美 ,   下敷領須美子 ,   石走知子 ,   下川床麗 ,   嶋田紀膺子 ,   永田行博

ページ範囲:P.156 - P.159

はじめに

 流産はそのおよそ半数が胎児の染色体異常が原因であり,流産する運命の下に流産したという,いわゆる自然淘汰の考えが適用されることが多い.また,母体の生命の危険もほとんどないことから,医療者側は流産という疾患をあまり重要視していないのが実情であろう.ところが,流産はそれを経験する妊婦(およびその夫)に,医療者が知らないところで(医療者側があまり関心を示さないために),感情的・精神的ダメージを起こすことがある.医療者側と患者側の流産に対する認識にずれが生じうることを医療者側は留意しなければならない.また,流産を繰り返す例においては流産を起こす原因の検索に加えて,特にその心理に対しても細かい配慮が必要である.

2.胎児奇形

著者: 小山道子

ページ範囲:P.161 - P.163

はじめに

 両親(妊婦と夫)は,当然五体満足なこどもが生まれることを期待して妊娠し,分娩を待っている.ここに胎児奇形あるいは異常があると告知されると,どれほどの失望とパニックに陥るか想像に難くない.われわれはどのように支援できるか,その限界・問題点について考えてみたい.

3.早産, 多胎妊娠

著者: 加部一彦

ページ範囲:P.165 - P.167

はじめに

 新生児死亡率を始めとした周産期医療に関連する各種データを見るまでもなく,わが国の周産期医療は今,一つの到達点に達したと言えるだろう.しかし,人工肺サーファクタント補充療法などにより「後遺症なき生存」が単なる「目標」から「当然の前提」となった今,臨床現場ではこれまでの医学的アプローチのみでは対処できない新たな問題と取り組む必要が生じている.医療事故・ミスに対する世間の関心が高まり,医療に対する不信感がかつてなかったほどに高じている現在,医療現場に働くわれわれには今まで以上に「安全で安心できる医療」の提供を心がける責務があり,その意味でも「心の問題」の理解は避けて通れぬ課題と言えるだろう.本稿では新生児医療,中でも特に早産,多胎妊娠における「心のケア」の現状と課題について概説する.

4.産後うつ病に対するヘルス・ケアの新たな動向

著者: 岡野禎治

ページ範囲:P.168 - P.171

はじめに

 出産した女性の10%前後が産後うつ病(postnatal depression)に罹患しているにもかかわらず,精神科医のみならず,周産期医療にかかわる専門家でも,適切な対応ができることは稀である.こうした背景には,産褥期の精神障害の診断と分類1)が未だに正しく認識されていないこと,母子保健と精神保健という縦割りの地域行政システムの中で検出される産後うつ病は氷山の一角でしかないこと2)といった理由が指摘されている.

 産後うつ病は,社会心理的要因(母親としての新たな役割変化に対する適応,仕事の中断や継続,夫との関係といった人生の出来事に関連した変化など)と生物学的な要因(急激な内分泌学的変化,産後自己免疫機能異常など)の関与が示唆されているが,さらに母子相互関係への影響3),産後うつ病女性の子どもの認知障害および神経発育への有害な影響4)も近年明らかになっている.したがって,こうした要因および影響を考慮した産後うつ病のヘルス・ケアが重要である.一方,産褥期を女性のライフサイクルからみると,思春期,更年期の時期とは異なり,産後うつ病は好発時期が予測できるために,ケアならびに介入・予防が容易にできる利点を有する.

 厚生労働省が進める「健やか親子21」において,産後うつ病の発生率の目標が重点課題のひとつに挙げられ,現状のベースライン13.4%から2010年には減少方向へと設定された.しかしながら残念なことに,日本では周産期精神医療という分野はまだ発達途上の段階である.本稿では,産後うつ病に対する先進的な「care」を全国的なレベルで進展させるために,試行的段階の取り組みではあるが施設型モデル(外来および入院治療),インターネットを使用したサポート・システムなどを紹介してみたい.なお「cure」については,別稿5)を参照していただきたい.

腫瘍

1.婦人科悪性腫瘍患者の心のケア

著者: 葛谷和夫

ページ範囲:P.172 - P.175

はじめに

 現在の医療は専門化,細分化されてきた結果,各臓器の癌は診るが特に病気になって生じるさまざまな精神的葛藤に対する支持療法,すなわち「心のケア」をも含めた人間全体を診なくなってきているとの批判,反省が指摘されて久しい.この分野の重要性が認識され,癌患者のみならずその家族への心理的・精神的のケアに加え,癌の発生・進展・予後に影響する心理的・社会的諸因子を研究・取り扱うサイコオンコロジー1, 2)が発展しつつある.その詳しい内容は専門書に譲り,ここでは癌患者を多く診てきた一臨床医として,現場で感じている初期時の試行錯誤的実践に関して触れたい.

2.婦人科におけるターミナルケア

著者: 牛島定信 ,   落合和徳 ,   柳澤美津代 ,   岩尾亜希子 ,   熊谷綾子

ページ範囲:P.176 - P.179

はじめに

 最近では,総合病院における緩和病棟に精神科医を常勤させようとする動きがでてきている.終末期においては,抑うつやせん妄をはじめさまざまな精神症状が出現するため,より専門的な対応が必要との認識からである.しかしながら筆者は,精神科医には患者のもっと人間的な側面に注目して欲しいという願いが込められているようで仕方ない.それを踏まえて,本稿では,婦人科における末期がん患者のそうした側面に絞って,若干の考察を加えてみたいと思う.

更年期・老年期

1.更年期女性とうつ症状

著者: 赤松達也 ,   岡井崇

ページ範囲:P.180 - P.183

はじめに

 更年期女性の不定愁訴の原因は,加齢による肉体的退行性変化,特に卵巣機能衰退という生殖内分泌学的変化が最も大きな要因と考えられている.内分泌環境の変化は情緒・感情に影響を及ぼし,また心理的ストレスは内分泌変動に関与することも知られている.更年期症状発現の背景には内分泌学的要因以外に心理・社会的要因もしくは精神・神経的な要因も根底に潜んでいる可能性が高い.

 本稿では,更年期の精神神経症状と更年期のうつ症状について産婦人科的視点よりその心因,管理など心のケアについて概説する.

2.不安, 抑うつ, うつ病

著者: 黒木延隆 ,   長井信篤 ,   野添新一

ページ範囲:P.185 - P.188

はじめに

 更年期・老年期は,女性にとって閉経という内分泌変動(身体的ストレス)に始まると同時に喪失体験を中心としたさまざまな心理社会的ストレス1) (表1)が加わる時期である.そのため更年期障害に代表されるように,身体疾患に不安・抑うつなどの精神症状を伴いやすく,また,うつ病などの精神疾患も発症しやすい時期である.

 本稿では更年期・老年期にみられる不安,抑うつへの対処とうつ病について概説する.

3.排尿障害と心のケア

著者: 西村かおる

ページ範囲:P.189 - P.193

はじめに

 排泄をコントロールすることは,社会生活上で最低限度必要なことされている.また,排泄そのものがタブー視される中,排尿障害を心理的に受入れることは非常に困難である.

 本稿では排尿障害を持った女性の心のケアについて述べるが,ここで表現する排尿障害とは排尿全般を示す広義の意味であり,具体的には尿失禁,頻尿,排尿困難のこととして,それぞれの心のケアについて述べる.また対象者は介護を必要としない,セルフケアの可能な女性とする.

4.中高年のセクシュアリティ

著者: 大川玲子

ページ範囲:P.194 - P.197

はじめに

 女性の生涯の健康と心のケアのなかでセクシュアリティ(性別,性役割,性行動,生殖……)は大きな比重を占め,それは産婦人科医療と重なってくるだろう.本稿のテーマは中高年のセクシュアリティであるが,生涯のセクシュアリティも視野に入れて述べてみたい.

5.痴呆

著者: 大藏健義

ページ範囲:P.198 - P.201

はじめに

 老年期の痴呆は,アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆とに大別される.欧米ではアルツハイマー型痴呆が圧倒的に多く50~70%を占め,脳血管性痴呆は20~30%と報告されている1).一方,わが国では従来脳血管性痴呆のほうが多いと報告されてきた.しかし,最近の報告2)ではアルツハイマー型痴呆の割合が増加してきて,60歳以上の女性の痴呆ではアルツハイマー型が51.7%,脳血管性が24.6%であり,欧米での割合とほぼ同じになってきている.

 アルツハイマー型痴呆(以下,痴呆と略す)は,ごく一部の早発性家族性痴呆を除き,一般には閉経前後からその発症が報告されるようになり,特に65歳以上の老年期に増加する.したがって,更年期・老年期外来に従事している婦人科にとっても痴呆は重要な疾患である.なぜならば痴呆を早期に発見してケアすることが大切であるばかりでなく,エストロゲン補充療法が痴呆の予防に有効であることが報告されているからである3).この痴呆はuntreatable dementiaといわれ,治療(cure)よりもcareといわれてきた.最近わが国でもコリンエステラーゼ阻害薬の塩酸ドネベジルが痴呆の治療薬として承認され,認知機能や痴呆症状での改善にある程度まで有効である.しかし,効果はあくまで一時的であり,根底にある痴呆そのものを治癒させているわけではない3).したがって,ケアの大切さは現在も変わらず,また,ケアの中心となるものは精神症状や行動に対する心のケアである.

 本稿では,痴呆の精神症状(周辺症状)と問題行動に対する心のケアについて概説する.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・44

What is your diagnosis ?

著者: 三橋智子 ,   清水道生

ページ範囲:P.125 - P.127

症例 : 29歳,女性

 子宮頸部に認められた(最大)径1 cmのpolypoid lesionで,Fig 1~3はその代表的な組織像(H&E染色)である.

 1.Fig 1,2から考えられる病理診断は何か?

 2.この疾患に伴うと考えられるFig 3の病変は何か?

Current Practice

降圧剤の使用は慢性高血圧から妊娠中毒症への進行を防止するだろうか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.137 - P.137

 妊娠以前からある(慢性の)高血圧は,高血圧のない人に比較して,妊娠中毒症へ進展する率が高いことが知られている.それならば実際に,降圧剤の投与はどこまで効果があるのだろうか? それを知るには慢性高血圧妊婦をランダムな方法で2群に分け,1群には降圧剤を投与し,他群にはコントロールとしてプラセボを与えるrandom control trialが必要である.ここに五つのランダム試験の結果をご紹介したい.

 Esterlingらの研究は降圧剤による妊娠中毒症の有意な減少を示した.しかし,その対象数は28名と小さい.この研究では1日量100 mgのatenololが使用されたが,初産婦と糖尿病妊婦で胎児の生下時体重の減少がみられた.

ここまできた婦人科日帰り手術 2

腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術―主にLC,LAACについて―

著者: 石原由紀

ページ範囲:P.203 - P.211

1 はじめに

 1995年10月に湘南鎌倉総合病院に日帰り手術センターが開設されてから,良性卵巣嚢腫の患者の大多数が腹腔鏡を利用した日帰り手術を受けている.術式の定義として,LC(laparoscopic cystectomy)は主にチョコレート嚢腫などの癒着を伴う良性卵巣嚢腫に対して,腹腔内で嚢腫を剥離してトロカール部位から嚢腫を摘出する術式で,LAAC(laparoscopic assisted abdominal cystectomy)は皮様嚢腫,漿液性嚢胞腺腫など可動性の良性卵巣嚢腫に対して,腹腔内で嚢腫を穿針し内容を吸引したうえで嚢腫壁を恥骨上のトロカール部位から腹腔外に引き出し,直視下に嚢腫を摘出する術式としている.大きな嚢腫の場合,嚢腫壁を恥骨上のトロカール部位から腹腔外に引き出す際に12 mmのトロカールの部位から出ないことがあり,この場合はトロカール部位を1~2 cm延長することがあるが,これもLAACと定義している1)

 当院では1995年から2002年10月までにLC 328例,LAAC 245例を経験した.またこの応用としてLA(laparoscopic adnexectomy)やLO(laparoscopic oopholectomy)も行っているが,本稿では日帰り腹腔鏡下卵巣嚢腫手術の大多数を占めるLAACとLCについて述べる.

OBSTETRIC NEWS

帝王切開後の経腟試験分娩の候補者選択に関する新しいデータ

著者: 武久徹

ページ範囲:P.212 - P.213

 米国では1996年以降,前回帝王切開後の経腟分娩(VBAC)成功率が年々減少し続けており,VBACを積極的に行ってきた南カリフォルニア大学では,経腟試験分娩は50%以下になっている.最近でもVBACに関する研究は数多く報告されている.パリで行われた国際学会における講演でも,VBACに関する新しい研究が検討された.

 1. 前回帝王切開からの時間

 帝王切開(帝切)後に避妊期間をおくべきか否かに対する研究はほとんどされておらず,米国産婦人科学会(ACOG)の勧告や見解でも触れられていない.この問題に対しては「ある程度の避妊期間をとることは不必要」というのが大半の北米の産科医の姿勢であろう.この問題に対し,Shippらは2,409例を対象に後方視的研究を行った.その結果,帝切から次回妊娠までが18か月以下の間隔だった例における経腟試験分娩中の症候性子宮破裂は有意に高率であった[修正オッズ比3.0(95%信頼区間1.2~7.2)](Shipp T, et al. Obstet Gynecol 97 : 175, 2001)(表1).

病院めぐり

大阪赤十字病院

著者: 木下幹久

ページ範囲:P.216 - P.216

 大阪赤十字病院は1909年5月8日に開院しましたが,老朽化のため2001年より新病院の新築工事が始まり,2004年1月からベッド数954床の新病院で診療を始める予定です.

 現在,当院産婦人科は59床,常勤医4名,非常勤医2名,研修医2名で診療を行っています.外来は一般婦人科外来,産科外来,腫瘍外来,更年期・骨粗鬆症外来,不妊・内分泌外来を行っています.具体的数字については,当院ホームページをご覧下さい.

松波総合病院

著者: 松波和寿

ページ範囲:P.217 - P.217

 岐阜県と愛知県の県境,笠松町に松波総合病院はあります.当院の創業は昭和8年と古く,以来70年近く1日も玄関を閉めることなく,365日,24時間,常に地域医療のために業務を行っています.

 1994年には,私立病院としては全国2番目の医師研修指定病院の資格を取得しました.1997年からは民間病院としては唯一の生体肝臓移植を開始,現在までに20例施行し,全国から肝臓移植希望者が来院されています.また2002年には全国で初めてのMDCTを導入し,冠動脈をCTで描出することが可能になりました.産婦人科領域においては,1995年から体外受精を開始し,精巣精子によるICSIでも好成績を残しています.このように常に最新の医療技術・機器を導入し,それをここ岐阜の田舎でも提供できるようにしています.

症例

腹腔鏡併用腟式子宮全摘出術(LAVH)後の落下ステイプイル針による絞扼性イレウスの1例

著者: 松原英孝 ,   伊藤誠 ,   西迫潤 ,   野村祐久 ,   千原啓

ページ範囲:P.218 - P.222

●はじめに

 腹腔鏡下手術は自動縫合切断器の登場によって飛躍的に広まったといっても過言ではなく,当院でも1992年に腹腔鏡下手術を開始した当初から自動縫合切断器を用いた腹腔鏡併用腟式子宮全摘出術(以下,LAVH)を積極的に行ってきた.腹腔鏡下手術の合併症は種々報告されているが1~3),筆者らは自動縫合切断器を用いた腹腔鏡下付属器摘出術後の落下ステイプル針による小腸癒着症を本邦で初めて報告し4),その後,同様の絞扼性イレウスも報告した5).今回はLAVH後早期に発症したやはり落下ステイプル針による絞扼性イレウスを経験したので報告する.

臨床試験

HIK1083標識ラテックス凝集反応を用いた頸管粘液による子宮悪性腺腫のスクリーニング法

著者: 本多つよし ,   川島茂樹 ,   石井知恵 ,   岩本豪紀 ,   深澤宏子 ,   奈良政敏 ,   大森真紀子 ,   端晶彦 ,   平田修司 ,   星和彦 ,   石井恵子

ページ範囲:P.225 - P.229

●はじめに

 子宮悪性腺腫は子宮頸部腺癌の内頸型に分類され,転移能を有した場合は予後不良である一方,早期発見や手術前に診断を確定させることが困難な腫瘍である.また,この腫瘍の発生機序は腫瘍が産生するムチンの性状から,病理学的には子宮頸管腺細胞の胃型細胞への化生変化と考えられている.

 今回われわれは,この腫瘍が産生するムチンに対する抗体を用いたスクリーニング法として,HIK1083標識ラテックス凝集反応の有用性を検討し,良好な成績が得られたので報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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