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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

I. 周産期 [つわり,妊娠悪阻]

1.どの程度のつわりなら点滴の必要がありますか.また,嘔吐が反復し,吐物に血が混じり始めるようになった際の対処と処方について教えて下さい.

著者: 坂井昌人

ページ範囲:P.366 - P.367

1 診療の概説

 妊婦の半数以上は妊娠4~6週から8~12週頃に,程度の差はあれ,つわりを経験する.したがって,軽度のものは病的とはいえず,安静などで対処することが多い.また,器官形成期にあたることからも,薬剤投与は行われないのが一般的である.しかし,悪心・嘔吐などの症状が悪化し,食物や水分の摂取が十分でないと,脱水となったり,糖が不足し飢餓反応により体脂肪からエネルギーを得ようとする代謝経路の障害からアシドーシスをきたしたりする.繰り返す嘔吐により電解質バランスの失調も起こる.このような妊娠悪阻に対しては,補液や糖分の輸注,ビタミン,薬剤投与が必要になることがある.

[流 産]

2.妊娠12週未満と妊娠12週以降の流産徴候について,それぞれの対処と処方について教えて下さい.

著者: 坂井昌人

ページ範囲:P.368 - P.369

1 診療の概説

 流産の定義は「妊娠22週未満の分娩」であるが,妊娠初期の流産と中期の流産とは病名は同じでも病態は大きく異なる.すなわち,それらは別の疾患といってもよい.

 妊娠初期の流産は10~20%と高い頻度でみられ,そのほとんどは胎芽の発生をみないか,胎芽の形成が異常で心拍動を生じない,あるいは一時的に心拍動を認めるが,その後停止し,胎芽死亡となるものである.これらの胎芽死亡はほぼ妊娠12週までに明らかとなる.これら妊娠初期の流産の原因の多く(50%以上)は胎芽の染色体異常であることが知られている.最近の報告では,70%以上に染色体異常が確認されたという.したがって,基本的に妊娠後にこれらの初期流産を予防したり,流産とならぬように治療したりすることはできない.正常妊娠であるか,胎芽死亡であるかを進行流産の大出血や疼痛の起こる前に診断することが産婦人科医の役割となる.ホルモン分泌異常や不育症の一部などが初期流産予防や治療の対象となる.

 これに対して,初期流産の症例が脱落したあとまで発育を続けている妊娠例の多くは正常妊娠であり,いわゆる後期流産の頻度は低い.もちろんその一部には初期流産と同様に染色体異常などの胎児異常による胎児死亡が含まれるが,異常の程度が軽いために,12週以降まで生存したあとに胎児死亡となるものと考えられる.また,不育症の一部もこの時期に胎児死亡,流産となるものがあり,抗リン脂質抗体症候群をはじめ,不育症の原因検索と,可能なものはそれらに対する対策を立てる必要がある.

 流産の主な症状は子宮出血と子宮収縮による痛みである.多くの後期流産には,やはり子宮出血が伴う.子宮内に絨毛膜下血腫が生じることも多い.胎盤の形成過程で生じる出血が局所で吸収されずに絨毛膜下に貯留したものといわれ,感染とのかかわりがないものは予後良好であり,血腫はいずれ吸収され消失する.これに対して,子宮内に感染が存在すると予後は不良である.感染は必ずしも流産前に証明することはできないが,絨毛膜下血腫はむしろ伴わないこともあり,炎症により少量の子宮出血と子宮収縮を繰り返す.子宮収縮は当初それほど強くなく,収縮抑制剤で抑えるのは難しくない.しかし,子宮出血を繰り返し,ひとたび強い収縮となると抑制困難で破水を伴うことも多く,胎児は生存していても分娩に至る.

 後期流産の頻度は高くないが,このような例が後期流産には多く,感染の存在が強くうかがえる.胎盤,卵膜の病理組織検査では炎症所見が証明される.

 もう1つの主要症状である子宮収縮についてみれば,切迫早産に比べると子宮収縮のみが前面に出る例は少ないが,後期の切迫流産には切迫早産が早い時期に起こったもの,すなわち切迫早産と同じ病態であるものが含まれていると考えられる.切迫早産と同様に,基本的に安静を指示する.

[切迫早産]

3.具体的な状況に応じた切迫早産に対するウテメリン錠処方の是非について教えて下さい.

著者: 坂井昌人

ページ範囲:P.370 - P.371

1 診療の概説

 リトドリン持続点滴静注の効果についてはいくつかの規模の大きい研究がなされ,少なくとも24時間から48時間の妊娠期間の延長は有意に認められているが1),それ以上の効果は証明されていない.そして,リトドリン使用により妊娠期間の延長がなされても,使用しなかった群に比べて児の予後を改善する結果とはなっていない1).ただし,これらは切迫早産の対象を子宮口が2~3 cm以上開大し,規則的に陣痛のある症例としていることを承知しておかなければならない.米国におけるリトドリンの使用法が進行した切迫早産を対象にしているためである.

 日本でみられるように,子宮口の開大はなくとも,規則的な子宮収縮を認めればウテメリンを使用するという方法に有用性があるとの明らかな証明は得られていない.しかし,子宮口の開大がなくても,規則的な子宮収縮を認める場合のほうが,収縮のない場合より,早産のリスクが高いのは明らかである2).ただし,それらの多くは早産とはならないし,早産になるとしてもすぐにではない.米国でも3次医療機関や大学病院ではなく,地域の病院では,子宮口の開大がないか軽度であっても規則的な子宮収縮を認める場合に,実際にはかなり多くの例で子宮収縮抑制剤の投与が行われているという2)

 内服によるリトドリンの血中濃度は60~120 mg(12~20錠)/日内服したとしても,持続静注の場合に比べて1/3~1/2以下にしかならない3).リトドリン錠の効果については,米国の切迫早産の基準を当てはめれば静注より低いのは明らかなので,米国では1995年以降,リトドリン内服錠の製造は中止となっている.

 しかし,内服の場合の血中濃度でも,ある程度子宮筋の収縮抑制効果はあるので,進行していない軽度の切迫早産に対するウテメリン錠内服の効果を,妊娠期間の延長のみに求めず,自覚症状の軽減も含めればまったく効果がないともいえず,有用性がまったく否定されるわけではないだろう.そして重要なのは,それらの症例を注意深く経過観察していくことにより,それらの中から進行した切迫早産となり,実際に早産を起こすような例を確実に見つけ出し,それらが早産となるのを防ぐことである.

[GBS感染症]

4.GBS陽性妊婦の対処と処方について教えて下さい.またペニシリンアレルギーの場合の対処についても教えて下さい.

著者: 坂井昌人

ページ範囲:P.372 - P.373

1 診療の概説

 B群溶血連鎖球菌(GBS)が原因の早期発症型新生児敗血症の頻度は,分娩1,000対1.4ときわめて高いわけではないが,約25%の高死亡率と,生存児にも高頻度で後遺神経障害を残すことが知られている.生後7日以内に発症する早期発症型は,通常,生後6~12時間で完成し,ときには生下時すでに発症している.

 GBSは皮膚の常在菌なので,妊婦の腟や会陰の細菌培養を行えば15~20%にGBS陽性の結果を得る.しかし,このうち分娩時に児に感染し,新生児がGBS感染症となる可能性は,抗生剤の予防投与をしない場合はおよそ1%である.GBS陽性妊婦の99%の母児には不要な投与となる結果だが,新生児GBS感染症の深刻さから,ACOG(米国産婦人科学会,1996)や米国小児科学会(1997)はGBS感染症予防のためのガイドラインを作成した.現在,統一された1つの方法というものはないが,これらのガイドラインを参考にして多くの施設で予防策を行っている.米国では,分娩時の母体への抗生剤予防投与により新生児GBS感染症の発症頻度は1/2以下~1/8以下に減少した.

[子宮頸管熟化不全]

5.子宮頸管熟化不全治療の標準的な対処と処方について教えて下さい.

著者: 長塚正晃 ,   岡井崇

ページ範囲:P.375 - P.377

1 診療の概説

 妊娠末期の子宮頸管の熟化は,分娩の準備状態として重要である.子宮頸部は妊娠中,胎児保持のため硬く閉じ円柱状を保ち,流早産を防止する.分娩に際しては開大し,産道となって児の娩出に積極的な役割を果たす.そのため子宮頸部は妊娠末期には熟化,すなわち軟化と伸展性を持つようになる.組織学的には子宮体部が平滑筋を主成分とするのに対し,子宮頸部は主として結合組織によって構成され,筋成分は10%に達しない.

 子宮頸部は妊娠末期から分娩発来前には次第に軟化し,次いで不規則な子宮収縮(Braxton―Hicks収縮)によって展退と開大が起こり熟化していく(図1)1).Calderの提唱する子宮頸部の軟化と熟化の過程を示すが,軟化は生化学的機序によって,形態の変化(展退)は軟化した子宮頸部に加わる機械的圧力(収縮)によると説明されている(表1)2)

 ところで分娩誘発は,医学的,産科学的適応と社会的適応に大別される.いずれの場合も要約を満たす必要があるが,社会的適応の場合は,Braxton―Hicks収縮と頸管熟化の確認が必要である(表2, 3).

 臨床的に熟化の程度を客観的・科学的に表す方法はない.一般にその判定は内診によりBishop scoreで評価される.妊娠末期に至った症例で分娩準備状態あるいは頸管成熟が進んでいない状態を頸管熟化不全と呼ぶ.Bishop scoreの点数が高いほど陣痛の発来が近く,陣痛発来した場合はその分娩進行も速やかなことが多い.逆に頸管熟化不全での陣痛発来や前期破水例ではしばしば分娩遷延となる.分娩誘発を行う場合も頸管熟化不全があれば頸管熟化を先に行うほうが成功率は高い.すなわち,子宮頸管熟化不全例では分娩誘発不成功となることがあるので,頸管熟化をはかってから陣痛促進剤を投与する.

 当院では分娩誘発目的で入院した場合はマイリス腟坐剤,PGE1などの薬理的方法ではなく,機械的方法(頸管へのラミナリア桿の挿入)を行っている.ラミナリア桿は水分を吸収すると徐々に膨張し,約24時間で2~3倍の太さになる.手技としては子宮腟部前唇を把持し,長鑷子を用いてラミナリア桿を1本ずつ,通常10本以上挿入する.子宮口閉鎖の場合はヘガール頸管拡張器などであらかじめ拡張しておく.ラミナリア桿は12~24時間後に抜去して陣痛促進剤を投与する.また坑菌薬を予防投与する.ラミナリア桿抜去時には子宮口は3 cm以上開大しているケースがほとんどである.しかしなお子宮頸管が硬い場合はネオメトロなどを併用し,陣痛促進剤の投与を行う.ラミナリア桿のほかにはダイラパンなどがある.

[子宮復古不全]

6.出血量が多い子宮復古不全の対処と処方について教えて下さい.

著者: 長塚正晃 ,   岡井崇

ページ範囲:P.378 - P.379

1 診療の概説

 子宮復古不全は,子宮収縮不全のために産褥の子宮復古が障害される状態をいう.分娩後の子宮重量は約1,000 g程度であるが,産褥1週間で約500 g,3週間で約200 g,6週間後では100 g以下となる.子宮腔長も産褥6週間後には非妊時とほぼ同様の7 cm程度となる1).子宮復古不全では,子宮は産褥各時期に比べて大きく,軟らかく,子宮頸部・外子宮口の閉鎖,退縮が遅れる.

1. 原 因

最も多い原因は胎盤片,卵膜片などの子宮内残留である.そのほか膀胱・直腸の充満,分娩時の大出血,極端な早期離床,反対に過度の安静,子宮筋腫合併,子宮内感染などがある.また,多胎分娩,羊水過多,非授乳婦,頻産婦などに起こることがある2)

[産褥乳汁分泌の調整]

7.中期流産手術が無事に終了しましたが,退院の翌日から乳房の緊満があり,乳汁の分泌がみられます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 長塚正晃 ,   岡井崇

ページ範囲:P.381 - P.383

1 診療の概説

 乳房は,妊娠中,子宮とならび大きな変化を遂げる臓器である.乳房の変化は妊娠初期に始まり,産褥期まで続く.母乳栄養が人工栄養に比べ,免疫学的,栄養学的,経済的,心理的にみて優れていることは一般的に知られている.

2 乳汁分泌機序

 性ステロイドは,妊娠中の乳腺細胞の増殖,乳腺の発育に重要な役割を果たしているが,同時に,乳汁分泌には抑制的に作用している.妊娠中,高濃度に存在する性ステロイドホルモンは乳腺細胞のプロラクチン受容体の発現を抑制しており,特にプロゲステロンの作用が顕著である.分娩後は胎盤の娩出により性ステロイドが急激に消退するためにその抑制は解除され,プロラクチンに対する乳腺細胞の感受性は増大する.分娩後はプロラクチン濃度も下降するが,性ステロイドの下降のほうがはるかに大きく,抑制されていた乳汁分泌が発来する.

[産褥乳腺炎,乳頭亀裂]

8.産褥期の発赤,発熱,疼痛を伴う乳腺炎の対処と処方について教えて下さい.

著者: 長塚正晃 ,   岡井崇

ページ範囲:P.384 - P.385

1 診療の概説

 本稿では,うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎,およびそれらの延長線上にある乳腺膿瘍について述べる.乳腺炎の原因を表1に挙げる.

1. うっ滞性乳腺炎

 うっ滞性乳腺炎とは,乳汁のうっ滞(排泄不全)が生じることで乳房の腫脹で乳汁分泌が亢進する産褥3~4日目以降に起こる.非感染性であり,ほとんどが片側性に発症する.症状は自発痛・圧痛を伴う乳房の腫脹と乳汁のうっ滞部の硬結を認める.発赤や発熱はほとんど認めない.治療は積極的に授乳を行い,授乳後の搾乳や乳房マッサージによりうっ滞を解消させる.また予防が大切であり,授乳法・乳房管理について指導し,再発を防ぐ.腫脹が強いときは冷罨法を行う1)

2. 化膿性乳腺炎

 化膿性乳腺炎のほとんどは,乳汁うっ滞を基礎として二次的に生じる.産褥2~6週間頃に起こりやすい.病変は片側性が多く,乳房全体ではなく一部,外上側1/4であることが多い.化膿性乳腺炎は,実質性乳腺炎と間質性乳腺炎に分けられる.実質性乳腺炎は乳管開口部から乳管内に細菌が侵入し,乳腺そのものに炎症が波及したものである.間質性乳腺炎は乳頭亀裂,乳頭の損傷部から細菌感染がリンパ行性に乳腺間質に波及したものである.

[乳児の皮膚疾患]

9.おむつかぶれの鑑別診断と処方について教えて下さい.

著者: 長塚正晃 ,   岡井崇

ページ範囲:P.386 - P.387

1 診療の概説

 乳児のおむつ部には,尿,糞便,残存する石鹸,洗剤,アンモニアなどの刺激による一次性刺激性皮膚炎,種々のアレルゲンによる接触性皮膚炎,微生物感染による感染性皮膚炎などが起きる.最近では,良質の紙おむつの普及により患者数は激減した.

1. 発生機序・原因

 一次性刺激性皮膚炎,特にアンモニアを原因とするものはおむつ皮膚炎(おむつかぶれ)と呼ばれ,いくつかの要因が複合し生じてくるとされる.

 汚れたおむつを長時間取り替えないと,便中の細菌が尿中の尿素を分解し,アンモニアを生じ,炎症を起こす.アンモニアは皮膚をアルカリ性にし,便中の蛋白分解酵素,脂肪分解酵素の作用を強める.おむつの通気性の悪さはその内部の温度・湿度を高め,皮膚がふやけた状態となり,角質の水分含有量の増加をきたす.これにより皮膚のバリアーとしての機能は低下する.また乳児は活発に運動するため,肌触りの悪いおむつは摩擦で皮膚を傷つけ,皮膚炎を増強させる因子となる.

[高血圧(妊娠中)]

10.妊娠36週で高血圧となり,腹部に浮腫が出現しました.薬物療法を選択する基準について教えて下さい.

著者: 越智博

ページ範囲:P.388 - P.389

1 診療の概説

 妊娠中毒症の病態は胎盤虚血などに反応して炎症性サイトカインが産生され,これらが母体に作用して白血球の活性化および血管内皮細胞傷害を引き起こすことによって形成される.これによって血管弛緩作用を有するプロスタサイクリンや一酸化窒素(NO)の産生が抑制され,アンジオテンシンIIに対する血管反応が亢進して,血管平滑筋は収縮し血圧が上昇する.一方,プロスタサイクリン産生障害によって血小板凝集抑制作用が低下して凝固亢進状態が生じる.腎糸球体における血管の攣縮と血栓形成により糸球体の機能障害をきたして蛋白尿を生じる.全身の血管攣縮と血管内皮細胞傷害に基づく血管透過性の亢進によって間質に水,Naが貯留し,浮腫が発生する.さらに螺旋動脈の病理組織学的変化や攣縮に伴う子宮胎盤血流量の減少は子宮内胎児発育遅延や胎児仮死を惹起する.

 妊娠中毒症は母児ともに重篤な病態を引き起こす可能性があり,適切な管理が必要である.

11.妊娠中と産褥期における高血圧治療薬のファーストチョイスとセカンドチョイスについて教えて下さい.

著者: 越智博

ページ範囲:P.390 - P.391

1 診療の概説

 妊娠中の高血圧は慢性高血圧と妊娠中毒症による高血圧に分類できる.妊娠20週以前に高血圧(140/90 mmHg以上)を認める場合は慢性高血圧として扱う.この場合,正常妊娠に比較して妊娠中毒症発症率が約5倍に増加する.妊娠中毒症は母児ともに重篤な結果をもたらす危険性があり,適切な治療により血圧をコントロールすることが重要である.

2 対処の実際

 慢性高血圧の場合は,妊娠前に行われていた治療を適切な薬剤に変更して継続し,収縮期血圧が140 mmHg,拡張期血圧が90 mmHgを目標とする.

[貧血(妊娠中)]

12.胃腸障害で経口投与が困難な鉄欠乏性貧血の対処と処方について教えて下さい.

著者: 越智博

ページ範囲:P.392 - P.393

1 診療の概説

 妊娠中は増加したエストロゲンとプロゲステロンがレニン―アンジオテンシン―アルドステロン系を活性化させ,ナトリウムイオンと水を貯留させる.そのため循環血漿量は妊娠初期から増加が始まり,妊娠32~34週には最高値を示し,非妊娠時より約40%増加する.妊娠中赤血球は約20%,総ヘモグロビン(Hb)は約10%増量するが,血漿の増加率がより大きいので正常でもヘマトクリット(Ht)やHb濃度の生理的な減少を認める.その結果,Htは33%,Hbは11 g/dl程度になる.

 このような妊娠に伴う血液の希釈による貧血は生理的なもの(生理的貧血あるいは希釈性貧血)で,Hb濃度が単に低下したからといって酸素運搬能力は低下しない.むしろ胎盤への血液循環を増加させ,子宮胎盤循環の血流量が増加して酸素供給量は増加し,胎児への酸素や栄養分の輸送を促進する.

 妊婦の貧血を診断するためには,血漿量の大きな増加がみられない妊娠初期に血液所見を評価することが大切である.妊娠初期では貧血とはHb 11 g/dl未満またはHt 33%未満のものをいう.

[かぜ症候群(妊娠中)]

13.妊娠初期(12週まで)と産褥期の風邪の諸症状に対する薬剤の使い分けについて教えて下さい.

著者: 越智博

ページ範囲:P.394 - P.395

1 診療の概説

 かぜ症候群は,上気道に生じる感染症によるカタル性炎症の総称である.病原微生物の多くはウイルスであり,80~90%を占める.ライノウイルスが主でアデノウイルス,インフルエンザウイルスなども原因となる.細菌,マイコプラズマ,クラミジアなども関与する.

 普通,感冒の場合は発病は緩徐で,くしゃみ,鼻汁で始まる.鼻汁は初期には水様,その後粘液性となり,鼻閉が強くなる.咽頭痛,咳も訴えるが,発熱は37℃にとどまる.

 インフルエンザウイルスによるかぜは全身症状が強いのが特徴で,急激な発熱,頭痛,関節痛,筋肉痛,全身倦怠感などの全身症状で発病し,同時か遅れて呼吸器症状を訴える.熱は急速に上昇し38~39℃台に達する.重症例では,子宮収縮の増加や子宮胎盤血流量の低下を伴い流産,早産の原因となる.妊娠中は免疫能の低下,呼吸循環動態の変化などがあるため重症化しやすい.

 治癒時期に解熱しない場合や白血球数増加,好中球核左方移動がみられる場合は,中耳炎,気管支炎,肺炎などの二次感染を疑う.

[アレルギー性鼻炎(妊娠中)]

14.春先のアレルギー性鼻炎が始まりました.妊娠中の対処と処方について教えて下さい.

著者: 越智博

ページ範囲:P.396 - P.397

1 診療の概説

 アレルギー性鼻炎はハウスダスト,ダニ,スギなど花粉類を主な抗原とするI型アレルギー疾患であり,くしゃみ,水性鼻汁,鼻閉を主症状とする.遺伝的素因者が原因抗原に曝露を繰り返すうちにIgE抗体が発症レベルに達し,感作が成立する.さらに鼻粘膜において抗原に曝露され,すでに感作されている肥満細胞に吸着することにより,ヒスタミンなどのケミカルメディエーターが放出される.これらが鼻粘膜の三叉神経末端を刺激し,中枢を介した反応でくしゃみ,鼻汁が出る.鼻閉は,ヒスタミンやロイコトリエンが直接鼻粘膜の血管系に働き血管拡張,透過性の亢進により出現する.鼻内所見は鼻粘膜は腫脹し,水性鼻汁の貯留を認める.

 スクリーニングには鼻汁スメアによる細胞診が簡便で,好酸球の浸潤を認める.原因抗原を明らかにするために皮膚テスト,特異的IgE抗体,鼻誘発テストがあるが,妊娠中は特異的IgE抗体検査が外来採血で判定でき施行しやすい.ルーチンにはスギ花粉,ヒノキ花粉,イネ科を代表してカモガヤ花粉,ヨモギ花粉,ブタクサ花粉などにハウスダスト,ダニ,真菌などを選び,ペットのイヌ,ネコを飼っていればそれを含める.この中でもハウスダストと花粉が特に重要である.鼻アレルギー類似症状を呈し,前述の検査がすべて陰性の場合は血管運動性鼻炎であり,鼻アレルギーと区別する.

 花粉に対するアレルギー反応は,鼻粘膜以外に標的臓器が眼では眼結膜,気道では鼻,咽・喉頭,気管,気管支,さらに消化管,皮膚,精神神経系など多臓器に及ぶ.そしてそれぞれの臓器の病態に応じて特有な症状が出現し,花粉症の多彩な症状を呈することが多い.花粉症では,鼻だけに症状がある通年性のハウスダストアレルギーなどと異なり有症期間は特定の季節の数か月に限られるが,患者の苦痛は大きい.花粉症は年々患者が増加傾向にあり,好発年齢の20~30歳代では15%にのぼる.また女性に多く妊婦管理を行ううえでも重要である.

 妊娠前に健常でも妊娠中に鼻閉を訴える場合が10%弱あるとされ,妊娠性鼻炎として知られている.妊娠に伴って循環血液量,心拍出量の増加,血管の拡張,毛細血管の抵抗の減少から鼻粘膜の充血・腫脹を生じやすい.妊娠前からアレルギー性鼻炎のある患者では鼻閉の悪化傾向は半数以上にみられる.

[気管支喘息(妊娠中)]

15.妊娠初期(12週まで)と産褥期の喘息治療薬の使い分けについて教えて下さい.

著者: 越智博

ページ範囲:P.398 - P.399

1 診療の概説

 気管支喘息の患者は近年著明に増加し,最近の喘息の罹患率は3%前後と20年前の3倍に増加している.喘息とは,さまざまな刺激に対する気道の反応性が増大し,極端な気道収縮が生じることによって急性増悪をもたらす慢性の気道炎症と考えられている.特徴として,可逆的な気道狭窄,気道炎症,刺激に対する気道反応性の増大が挙げられる.重症例においては,母体が低酸素となるためその管理によっては母体のみならず児の状態も悪化させる危険性がある.したがって,妊娠中の病態を把握し,適切にコントロールすることが重要である.

 妊娠が喘息に与える影響は症状改善,不変,悪化が3分の1ずつで,ほぼ同じ割合である.軽症例では喘息合併妊婦の気道過敏性がsecond trimester以降低下し,出産後は非妊時の状態に戻る.このことから,妊娠中は喘息症状を軽快させる方向に働くと考えられている.一方,非妊娠時に重症である場合には,妊娠によりさらに悪化することが多い.

 胎児に対する影響としてはコントロール不良例で流早産,IUGR,周産期死亡などが増加する.母体に喘息の急性増悪があり,動脈血酸素分圧PaO2が60 mmHg,SpO2<90%以下になると胎児も低酸素血症となって胎児死亡の危険性が高くなる.胎児動脈血の酸素分圧はもともと低いので母体の低酸素状態に耐える予備能力が低く,母体の低酸素血症の影響を受けやすい.一方,適切な治療により喘息が良好にコントロールされていれば母体や胎児に対するリスクは低い.喘息をコントロールするのに使用される薬剤の多くは妊娠中比較的安全に使用できる.

[下肢静脈瘤]

16.妊娠中と産褥期における下肢静脈瘤の処置と処方について教えて下さい.

著者: 室之園悦雄

ページ範囲:P.400 - P.401

1 診療の概説

 主に下肢,外陰,腟の静脈が怒張することにより発症する疾患である.妊娠して増大した子宮の下大静脈の圧迫,静脈逆流の増加による下肢静脈圧の上昇,表在静脈および表在静脈と深部静脈をつなぐ貫通静脈における静脈弁の機能不全などが主な原因であると考えられている.妊娠は静脈瘤の発生および増悪の危険因子とされており,女性は男性の約2倍の頻度で発生するといわれている.

 妊娠時に初めて発症した下肢静脈瘤患者131例の合併症の報告1)によれば,21例(16%)に外陰部静脈瘤を併発し,7例(5.3%)に血栓性静脈圧が発症し,3例が妊娠中,4例が産褥期に発症した.また4例(31%)に出血があり,3例は下肢静脈瘤の皮下出血で,1例は外陰部静脈瘤の自然破裂であった.

[子宮筋腫]

17.子宮筋腫合併妊娠で,疼痛があります.対処と処方について教えて下さい.

著者: 室之園悦雄

ページ範囲:P.402 - P.403

1 診療の概説

 子宮筋腫は生殖年齢の女性の約20~25%にみられる.妊娠に合併する頻度は最近の超音波診断法を主とする臨床統計では1.4~3.9%である1).35歳以上の高齢妊娠では子宮筋腫合併の頻度が高いことから,昨今の出産年齢の高齢化に伴い,子宮筋腫合併妊娠は増加傾向にある.

 子宮筋腫はエストロゲン依存性腫瘍と考えられるため,妊娠中は筋腫核が増大すると一般的にいわれている.しかし経験上も文献上も,妊娠中にすべての筋腫核が増大するわけではなく,大きさが不変であったり,縮小する場合がある2)

 子宮筋腫は妊娠によりさまざまな影響を受けるが,疼痛を起こすのは次のような場合である.

 (1)筋腫核の変性,壊死

 (2)有茎性筋腫の茎捻転

 (3)筋腫の被膜血管の破綻

II. 内分泌 [無月経]

18.16歳になっても初経をみない患者が来院しました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.407 - P.409

1 診療の概説

 日本産科婦人科学会の定義では,満18歳になっても月経の発来をみないものを原発性無月経としているので,本症例は「原発性無月経」の定義を満たしていることにはならない.しかし,欧米では満16歳を過ぎて初経未発来のものを原発性無月経としている場合が多く,本邦でも満15歳までに初経を認める女性が98%であるという報告1)があることから,16歳以上の初経未発来例に対しては,自然経過を観察するだけでなく,患者の求めに応じて精査を行うことが望ましい.

 原発性無月経の原因には,染色体異常,性管分化異常,中枢性無月経,卵巣性無月経,子宮性無月経,内分泌疾患・全身疾患に伴うものなどさまざまなものがある.あらゆる原因を念頭におき,系統的に診断を進めていくことが必要である.

19.12歳より月経が始まり,25歳時に転職をきっかけとして無月経になったといいます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.410 - P.411

1 診療の概説

 12歳でいったん月経が発来したのであるから,原発性無月経ではなく続発性無月経である.続発性無月経のなかには,思春期の性機能の未熟性により初経後まもなく無月経となるものや,きっかけなく無月経となりそのまま早発卵巣不全となるものもわずかながら存在する.この例は,25歳までは正常月経がみられ,転職がきっかけとなっているので,精神的ストレスに起因する視床下部性無月経である可能性が高い.

20.思春期の無月経に対しては,いつまで治療を継続すればよいのでしょうか.対処について教えて下さい.

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.412 - P.413

1 診療の概説
思春期の無月経に対しては,無月経の原因診断をできるだけ正確に行い,原因に応じた治療を行うことが重要である.

21.多囊胞性卵巣症候群の対処と処方について教えて下さい.

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.415 - P.417

1 診療の概説
 多囊胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,両側卵巣が腫大,肥厚し,多数の囊胞を内包する状態を主徴とする症候群である.月経異常を伴うことがきわめて多く,ほかに多毛,男性化,肥満を随伴することもある.欧米の文献では,PCOSがインスリン抵抗性を伴い,そのため糖尿病の素因となっているとされている.しかし,日本でPCOSと診断される女性では,肥満を伴わないとインスリン抵抗性を示すことはほとんどなく,したがって将来の糖尿病発症のリスクも欧米で強調されているほど高くはないと考えられる.わが国におけるPCOSの診断基準を表11)に示す.

22.体重減少性無月経の対処と処方について教えて下さい.

著者: 甲村弘子

ページ範囲:P.418 - P.420

1 診療の概説
 やせていることを礼賛する現代社会の風潮にあっては,若い女性のダイエット願望は非常に強い.「肥満」ではないのに「肥満」であると思い込んだり,「やせ気味」の状態にありながらさらにやせようとする女性が多い.平成10年の国民栄養調査によれば,20歳代の女性の約4割がやせの状態にあった.体重と性機能は密接な関係にあり,性ホルモンが正常に分泌されるためには適量の体脂肪を必要とする.体重が減少すると中枢からの性腺刺激ホルモンの分泌が減少し,無排卵,無月経をきたすことになる.

23.神経性食思不振症の対処と処方について教えて下さい.

著者: 甲村弘子

ページ範囲:P.421 - P.423

1 診療の概説

 神経性食思不振症(anorexia nervosa : AN)は思春期の女性に好発する疾患で,神経性過食症(bulimia nervosa : BN)を含めて,摂食障害(eating disorder : ED)という疾患の中に位置付けられている.1998年の全国調査によると,摂食障害の患者数は1993年からの5年間で約4倍に急増していることが明らかになった1).このうちANは2~3倍,BNは6~7倍の増加である.

 本症は,拒食や過食,自己嘔吐などの食行動異常とともに,さまざまな身体的,心理的,社会的障害を呈する.本症の発症には,学校や家庭での対人関係から生ずる精神的葛藤などが根底にみられることが多く,ANからBNへの移行も少なくない.本症の成立に関与する要因は,病前要因となるリスクファクター,発症の引き金となる発症因子と,発症後に維持,増悪させる継続因子に大別される.神経性食思不振症の場合は無月経は必発であり,産婦人科を受診する機会が多い.

[頻発月経・稀発月経]

24.頻発月経・稀発月経の対処と処方において,年齢による違いについて教えて下さい.

著者: 中田恵

ページ範囲:P.424 - P.425

1 診療の概説

 女性の性周期の確立とその衰退とは排卵,生殖をめぐる生理現象であることを考えると,その異常に対しても自ずと年齢により,また個々人の目的(妊娠や避妊の希望)により,治療の必要性およびその治療法は異なってくるのは当然である.すなわち,病的月経異常として教科書的に無月経(3か月以上),稀発月経(周期が39日以上3か月以内),頻発月経(周期が24日以内)をすべて一律に治療対象とする必要はないと考えられる.

 初潮開始を平均12~13歳とすると,初潮後3~4年(15~17歳)は一般的に視床下部下垂体卵巣系の機能は未完成な時期と考えられるため,月経周期の異常に対してもそれほど積極的に治療を行わなくてもよい.すなわちこの時期の治療対象は,無月経の場合および頻発月経のための貧血症状や精神的影響を考慮する必要のある場合などに限られる.20歳頃はほとんどの女性が排卵周期にあると考えられる時期で,本来この時期には性周期は確立していることが望ましい.しかし,最近の平均結婚年齢,平均出産年齢を考慮すると,まだ未婚で挙児希望のないものが多く,その生活背景としても大学生,OLが多く,月経不順が日常生活に悪影響を与えることを不満として病院を受診する場合と将来の妊孕性への不安を訴え受診する場合に分かれる.25歳前後になると,環境的にも妊孕性の問題が現実化し,より積極的で具体的な治療を希望するものが増加する.

 このように,16歳頃,20歳頃,25歳頃と同じ病態でも年齢および環境条件により治療法は自ずから異なる.

25.思春期における月経異常に関連した肌荒れ,にきびの対処と処方について教えて下さい.

著者: 中田恵

ページ範囲:P.426 - P.427

1 診療の概説

 肌荒れ,にきび(尋常性ざ瘡)の発生にはストレスやそれによる男性,女性ホルモンのアンバランスがかかわっていると考えられており,その程度によっては月経異常を伴うことも十分にあり得る.特に青春のシンボルともいわれる思春期発症のにきびは,思春期に増加を始めるアンドロゲンによる皮脂腺の発達,皮脂の分泌増加と大きくかかわっている.しかし,実際に女性ざ瘡患者の血中ホルモン(フリーのテストステロン値など)の測定を行ってみても,月経の周期などによるばらつきも多く一定の傾向をとらないことが多い.ただし,その中で唯一ホルモン異常として検出されうる疾患として多嚢胞性卵巣(PCO : 無月経,肥満,多毛などを伴う)が挙げられるため,月経不順の程度がひどい(無月経が続く)場合にはまずPCOを除外することが必要である.

 また思春期に限らず20歳以降の患者でも,月経不順のない患者でも月経前に増悪する肌荒れやにきびの訴えをよく聞くが,これに対してもホルモン動態的には異常を発見できず,結果的には思春期と同等の処方で対応することにより軽快することが多い.

[機能性子宮出血]

26.機能性子宮出血と診断するための要点と処方について教えて下さい.

著者: 澤田類 ,   村上節

ページ範囲:P.429 - P.431

1 診療の概説

 日本産婦人科学会では,機能性子宮出血(dysfunctional uterine bleeding)を「器質的疾患を認めない子宮からの不正出血」と定義している.つまり,子宮に腫瘍性病変や炎症,外傷などの器質的疾患を認めず,妊娠や血液疾患に関連した出血でもない,月経以外の出血のことをいう.簡単にいえば,内分泌異常が原因で起こる不正性器出血のことを機能性子宮出血という.

 基本的に機能性子宮出血の診断は除外診断であるため,正確に診断をつけるには器質的疾患を確実に除外することが必要である.除外されるべき疾患を表1にまとめた.

27.思春期の機能性子宮出血の対処と処方について教えて下さい.

著者: 澤田類 ,   村上節

ページ範囲:P.433 - P.435

1 診療の概説

 内分泌環境の不安定な思春期には,無排卵性の機能性子宮出血が起こりやすい.Sutherlandらは,20歳未満の不正性器出血200例中182例(91.0%)が機能性出血であったと報告しており,思春期にみられる性器出血の大部分は機能性子宮出血であるといえる.その原因は思春期の内分泌環境の不安定さにあると考えられ,視床下部―下垂体―卵巣系のホルモン調節機構の未熟性のために引き起こされる無排卵性周期に由来するものが多い.つまり,排卵が起こらず黄体形成に引き続くプロゲステロンの分泌が障害されるために子宮内膜が分泌期へと変化することができず,エストロゲンの持続分泌により増殖,肥厚した子宮内膜の先端部が螺旋動脈からの血液供給不足より自らを維持できなくなり,壊死を起こし破綻出血を生じる.また,頻度は低いが,排卵周期に伴う機能性子宮出血も存在する.これは,エストロゲンとプロゲステロンの子宮内膜に対する相対的なアンバランスから生じるものである.これらはいずれも性腺の発達過程で一時的に出現するものであり,成長とともに自然に回復していくことが期待される.

 しかし,出血量が多かったり持続期間が長かったり,頻回に出血を繰り返すような症例に対しては,ホルモン動態を考慮したうえで止血し,再発を予防するような治療が必要となる.

28.更年期・老年期の機能性子宮出血,不正出血の対処と処方について教えて下さい.

著者: 澤田類 ,   村上節

ページ範囲:P.437 - P.439

更年期,老年期の不正性器出血は婦人科外来で遭遇する頻度の高い症状の1つであり,的確な診断・治療が求められる.更年期と老年期とでは性ホルモンの状態が異なるため,ここでは更年期と老年期に分けてその原因,病態,治療方針について概説する.

 

―更年期の場合―


1 診療の概説

 生殖期から老年期への移行期である更年期においては,加齢に伴い卵巣機能の低下がみられ,月経が不順となりやがて完全に停止する.この時期,ホルモン環境が変動するため機能性子宮出血の頻度は高くなる.更年期における機能性子宮出血は,原始卵胞の減少による卵巣機能不全に起因し,少量だがエストロゲンの持続分泌があるにもかかわらず排卵が起こらないため,黄体が形成されずにプロゲステロンの作用が欠如し子宮内膜が破綻出血を引き起こすことにある.

 月経が不順になってくるため月経なのか不正出血なのかは判断がつきにくいことも多いが,適切な検査を行い,器質的疾患を除外したうえで止血と再発の予防を行うことが大切となってくる.

29.タモキシフェン投与時の子宮出血の対処と処方について教えて下さい.

著者: 澤田類 ,   村上節

ページ範囲:P.440 - P.441

1 乳癌とタモキシフェン

 近年,日本でも乳癌(breast cancer)の頻度は増加しており,毎年約3万5,000人の女性が乳癌にかかり,約9,000人が死亡している.乳癌の腫瘍細胞はエストロゲンならびにプロゲステロンレセプターが陽性のことが多く,ホルモン依存性が高いことで有名である.以前はエストロゲンレセプター陽性例に対する術後補助療法として観血的に両側卵巣摘出術が行われてきたが,1971年に抗エストロゲン剤であるタモキシフェン(tamoxifen)が治療薬として開発され,その治療効果の高さ,投与方法の簡便さ,副作用の少なさより,以後,同剤を用いた非観血的なホルモン療法が広く行われるようになった.

 タモキシフェンは,エストロゲンのエストロゲンレセプターへの結合を妨げ,乳癌に対して35%の有効率を持つと報告されている.投与期間についても,2年より5年のほうが無再発期間,生存率ともに良好で,対側乳癌の発生率も減少することが明らかとされたため,1997年には術後のホルモン療法としてタモキシフェン5年間投与が一般化された.

[月経移動]

30.2~3日前に月経が終わりましたが,ちょうど次の月経予定の頃に旅行があるといいます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 安達知子

ページ範囲:P.443 - P.443

1 診療の概説

 月経はいうまでもなく大切な生理的現象であるが,種々の行事,試験,旅行など大切なイベントに重なることは,うっとうしいばかりでなく,月経痛などのために実力を発揮できない,あるいはイベントへの参加をキャンセルせざるを得ないなどの状況に追いやられることがある.

 月経を移動させるにはホルモン剤を使用するが,自分の自然の月経周期における内因性のホルモン分泌をよく考えた移動が必要である.

 月経の移動には前にずらすか,後ろにずらすかの2つがあるが,特に,排卵日にかなり近い時期や排卵が終了している時期であれば,月経を前方へ移動することは不可能である.一方,後方へ移動することは内因性のホルモンのあとに外因性の卵巣ホルモンを投与して黄体期を延長させるため,ホルモン投与開始時期が遅れれば,内因性ホルモンの消退により不正出血が出現したり,適切な時期から投与しても子宮内膜維持への刺激が長期間続くため,ホルモン投与後の消退出血はいわゆる重い月経となり,体調に変動をきたしやすい.

 本稿では,移動の実際について解説する.

31.月経周期の時期による月経移動方法の違いについて教えて下さい.

著者: 安達知子

ページ範囲:P.444 - P.445

1 診療の概説

 月経周期が決まっており,次回月経時に大切なイベントが重なる場合,月経を遅らせる方法と早める方法がある.その違いについて解説する.

[経口避妊薬]

32.低用量ピルの症状別の使い分けについて教えて下さい.

著者: 安達知子

ページ範囲:P.448 - P.449

1 診療の概説

 避妊薬としてのOCは混合型OCといわれ,卵胞ホルモン(エストラジオール : E)と合成黄体ホルモン(プロゲストーゲン : P)との合剤であり,1960年に米国食品医薬品局(FDA)で初めて認可されて以来,世界中で9,000万人以上の女性に服用されている.この間,OCの避妊効果を維持しながら健康で快適な生活を送れるようにとホルモン含有量の低用量化が行われ,1錠中のEの含有量を50 μgとした中用量OCの開発,ついでEの含有量を50 μg未満とした低用量OCが開発された.これに伴い,Pも新しい種類の開発,低用量化および服薬の工夫が行われ,世界の各国では多種の低用量OCが日常使用されている.現在,中用量OC は不妊症やホルモン異常などの治療薬として,低用量OCは経口避妊薬として世界的に使用されている.

 低用量OCのEはすべてエチニルエストラジオール(EE)を用いているが,Pには3種類あり開発の順番により,ノルエチステロン(NET)を用いたものが第一世代,レボノルゲストレル(LNG)を用いたものが第二世代,デソゲストレル(DSG)を用いたものが第三世代のOCと呼ばれる1).Pには,弱い卵胞ホルモン作用と種々の程度の黄体ホルモン作用,男性ホルモン作用が認められる.黄体ホルモン作用の比較は何を指標にするかによって若干異なるが,表12)に各種Pのそれぞれのホルモン作用の強さの相対値を示した.

 そのほか,低用量OCにはOCを21日間服用して7日間休薬し,その休薬期間中に消退出血(月経)が起きるという21錠タイプのものもあれば,服薬忘れを避けるために休薬期間も7日間プラセボ錠を服用する28錠タイプのものもある.また,一相性OCと段階型OCという種類もあり,一相性OCとはEとPの配合比が一定の一種類のOCを21日間服用するものであり,段階型OCとは二相性と三相性の2種類があるが,二相性OCとは後半の11日間はPの含有量が多くなっており,三相性OCとは3段階にホルモン配合比の異なるOCからなっている1).また,服用開始を月経開始から最も近い日曜日から始めるサンデーOCと月経初日からスタートするDay 1 OCがある.

 しかし,1999年に本邦で承認されたOCは11社から10品目,一相性2種類,二相性1種類,三相性3種類の計6種類であったにもかかわらず,2002年11月現在,市場にあるのは,諸事情により三相性OCのみである.また21錠タイプ,28錠タイプはあるものの,第一世代と第二世代だけのOCとなっているため,同じ製薬会社から21錠タイプと同じ種類の28錠タイプも販売できるようになったOCも含めると,6社から9品目,2種類のみが市場にある(図1).

33.排卵日であるにもかかわらず,24時間前に避妊に失敗しました.対処と処方,そのときになされるべき説明方法について教えて下さい.

著者: 安達知子

ページ範囲:P.450 - P.451

1 診療の概説

 世界に比較して本邦では人工妊娠中絶が多く,また望まない妊娠と出産の割合が高い国であることが知られている1).避妊はきわめて大切なことであるが,しばしば排卵日頃に避妊をしなかったり,あるいは避妊に失敗したと考えられることもあり,今日,緊急避妊法が注目されている.

[過多月経]

34.40歳代の経産婦人が過多月経を訴えて来院しました.鉄欠乏性貧血と手拳大に発育した子宮腺筋症を認めました.手術の時期は4か月後に決定しましたが,その間の対処と処方について教えて下さい.

著者: 池上博雅

ページ範囲:P.453 - P.455

1 診療の概説

 この症例は,過多月経の原因として子宮腺筋症が判明しており,4か月後の手術が決定している.そのため治療の方針としては,子宮腺筋症の治療により手術が施行しやすくなることと,合併症の貧血を改善させることである.

35.40歳代の経産婦人.2年前から月経量が増加して,最近は月経2日目に鶏卵大の凝血塊が認められるようになり,階段の昇降で動悸や息ぎれがみられるようなりました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 池上博雅

ページ範囲:P.457 - P.459

1 診療の概説

 過多月経は通常150 ml以上の出血を伴う場合をいうが,正確な月経量の測定は困難であり,貧血を起こしたり日常生活に支障をきたすほど月経量が多い場合に治療の対象となる.上記の症例では,月経2日目に鶏卵大の凝血塊が認められ,階段の昇降で動悸や息切れがみられるという貧血症状があることより治療が必要となる.過多月経の原因は,性ステロイドホルモン分泌異常による機能性過多月経,子宮疾患(子宮筋腫,子宮腺筋症,子宮内膜癌など)による器質性過多月経,その他の原因による過多月経(特発性血小板減少性紫斑病,白血病,抗凝固薬投与,IUD挿入など)に分けられる.

 子宮疾患やその他の原因による過多月経は原疾患の治療が優先される.この症例の場合には未だ診断が確定していないが,子宮腺筋症(子宮筋腫もほぼ同様)については質問42を参照していただければよいので,この項では主に機能性過多月経を想定して治療を考えることにする.

[月経困難症]

36.18歳の女性が月経時の胃痛と頭痛を訴えています.器質的な原因を認めず,機能性の月経困難症と診断しました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 星合昊

ページ範囲:P.460 - P.461

1 診療の概説

 月経困難症とは,月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状をいう.月経の開始に伴い下腹痛,腰痛などの疼痛のほかに,悪心,嘔吐,顔面紅潮などの症状を伴い,月経終了後にこれらの症状が消失するか軽減するものを月経困難症という.一般に月経時にみる激しい疼痛が主な症状となるので,月経痛を月経困難症とほぼ同義語的に使用している.月経痛は全婦人の33%が毎月経周期に,8.3%が隔月に,また5.8%が3~6周期ごとに経験しているといわれ,生殖年齢婦人の日常生活のQOLを低下させる.月経困難症の病態を大別すると,機能性月経困難症(原発性月経困難症)と器質性月経困難症(続発性月経困難症)の2つに分類することができる.

 機能性月経困難症(原発性月経困難症)とは,骨盤内に器質的な原因がなくて月経困難症を伴うものをいう.思春期女性にみられる多くの月経困難症はこれである.機能性月経困難症では,子宮発育不全に基づく子宮筋の収縮調節障害や黄体期のプロゲステロン作用の不均衡による月経時の子宮筋の過収縮が起こり,その結果,子宮筋への血流の減少,虚血を引き起こし,疼痛を生じると考えられている.そのほかにも,ホルモン分泌障害,自律神経失調などによると考えられている.

 症状は,月経時の疼痛,悪心,嘔吐,食欲不振などである.月経の開始直前または開始よりこれらの症状が出現し,終了とともに症状が消失ないし軽減する.月経と症状の出現,その程度などをよく問診する.原発性の多くは,排卵周期で起こるために基礎体温測定などが参考となる.若年者は,散発性無排卵周期であることも多いので,初経から月経困難症の発症をみたもの,月経困難症が毎周期発症するか,ときにきわめて軽度な周期(無排卵周期)のあるものなども,器質性月経困難症との鑑別に有用な問診事項である.

 診断には,月経の開始直前または開始よりこれらの症状が出現し,終了とともに症状が消失ないし軽減するので,月経と症状の出現,その程度などをよく問診する.内診,超音波断層検査,内視鏡などにより子宮筋腫,子宮内膜症,子宮腺筋症,子宮・付属器などの炎症,子宮後屈症,子宮奇形などの器質的疾患を除外することも重要である.若年者の多くは機能性月経困難症であることが多いが,初経後2年ほど経過していると子宮内膜症などの器質性月経困難症も考慮に入れる必要がある.なお,器質的月経困難症との鑑別とともに,月経前緊張症との鑑別にも注意する(後述).

37.月経痛のために市販の鎮痛薬を服用していますが,効果がなくなってきたといいます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 星合昊

ページ範囲:P.462 - P.464

1 診療の概説

 月経痛のために鎮痛剤を使用する婦人は全性成熟期婦人の約1/3と推定されている.また,月経痛を愁訴に医師を受診したことのある婦人は全性成熟期婦人の約1/10であり,そのうち約半数は器質的な月経困難症との診断を受けている.なかでも月経痛で毎周期鎮痛剤を服用しているにもかかわらず効果が減弱してきたような例では,器質性月経困難症(続発性月経困難症 : 骨盤内に器質的な原因があり,月経困難症をみるもの)である可能性が高いと考えねばならない.器質的な月経困難症には,子宮筋腫,子宮内膜症,子宮・付属器などの炎症,子宮後屈症,子宮奇形などがある.

 症状は,月経時の疼痛,悪心,嘔吐,食欲不振など機能性月経困難症と同様であるが,器質性月経困難症では,重症化により月経時以外にも疼痛などの症状を持つことがあるので,注意深い問診が必要である.器質的な月経困難症患者の年齢は,機能性月経困難症に比して高齢なことが多いが,子宮奇形などでは初経後比較的早期から発症することが多く,また最近の初経年齢の若年化に伴い性感染症の発生も若年化していること,初経後約2年で子宮内膜症の発症もあることなども考慮に入れなければならない.

 診断には,子宮後屈(子宮後屈症,子宮内膜症,付属器などの炎症),子宮の形態異常(子宮筋腫,子宮奇形),子宮肥大(子宮筋腫,子宮腺筋症),付属器腫瘤(子宮内膜症),付属器周囲の圧痛(子宮内膜症,付属器炎),ダグラス窩の硬結および圧痛(子宮内膜症)などの内診時の所見は,器質性月経困難症の診断に重要である.また,経腟超音波断層検査,CT,MRIなどの画像診断,炎症性疾患の有無のための末梢血検査,CRP,ときには子宮内膜症でも上昇することのあるCA125および内視鏡などが有用である.

[月経前緊張症]

38.多彩な症状がみられる月経前緊張症の対処と処方について教えて下さい.

著者: 星合昊

ページ範囲:P.465 - P.465

1 診療の概説

 月経の発来する3~10日前くらいから始まる精神的,身体的症状で,月経開始とともに症状が消失ないし減退するものを月経前症候群または月経前緊張症という.通常は神経が過敏・緊張状態となり,顔面や下腹部,四肢などに浮腫が出現し,体重増加,食欲充進,抑うつ状態などの症状が現れる.本症の発生原因については必ずしも判明していないが,発症する時期が黄体期に相当するために,黄体より分泌されるプロゲステロンが関与しているものと考えられている.

 出現する症状を大きく分けると,(1)不安,過敏,精神緊張状態,ときには軽い抑うつ状態となるもの,(2)体重増加,乳房・腹部の緊満,浮腫がみられるもの,(3)食欲が亢進するもの,(4)抑うつ状態が主となるものなど,種々の症状が出現するが,個人により一定の傾向がある.本症の診断のための特有の検査成績はないが,症状が上記のもので,月経発来10日前ごろから出現し,月経が発来すると同時に消失するものをいう.この際,基礎体温などをみると排卵もあり,黄体機能も正常であることが多い.

 月経困難症とは,月経発来により消失する本症と,月経発来または直前から発症する月経困難症に分けることができる.

[子宮内膜症]

39.子宮内膜症の外来治療でGnRHアゴニスト投与を過去に数回受けましたが,最近,症状が増悪してきたといいます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 小池浩司

ページ範囲:P.466 - P.467

1 診療の概説

 子宮内膜症の症状として,臨床上,月経痛(症状の発症頻度 : 88%),腰痛(57%),性交痛(56%)などの骨盤内疼痛,過多月経(50%),および不妊(51%)が主なものとして挙げられる1).そのほか子宮内膜症病変が大腸・直腸あるいは膀胱に及べば月経時期に一致して排便痛・下血を生じたり,あるいは排尿痛・血尿をみることがある.しかし,症状の程度はさまざまで,それに応じて治療を要しないものから対症療法やホルモン療法などの保存的療法が適応されるもの,外科的治療法が優先されるものまでさまざまである.

 例えば,外来診療での対応が主としてなされている骨盤内疼痛症状を例にとっても,鎮痛剤の投与で対応できる軽度なものから,鎮痛剤の投与では改善がみられず,就学,就労の妨げとなったり,あるいは性交痛のため夫婦生活に支障をきたしたりして生活の質が著しく損なわれるケースまでさまざまである.こうした症状の強い場合には排卵を抑制する必要があり,低用量経口避妊薬あるいはGnRHアゴニスト(GnRHa)療法などが汎用される.一方,子宮内膜症に起因すると思われる不妊症の治療には,腹腔鏡による診断も含めた外科的治療法が優先される場合が多い.

 さて,今回のケースは「外来で子宮内膜症の治療としてGnRHa療法を数回受けたにもかかわらず症状が増悪してきた」場合である.一般にGnRHa療法は著明にエストロゲン分泌を抑制するため,副作用として卵巣欠落症状や骨密度に対する影響が懸念され,長期投与が難しい.一方,治療中止に伴い再発率も高く,今回のようなケースはGnRHaの単独療法の限界とも考えられる.そこでGnRHaを長期に投与するために,エストロゲン製剤を追加投与して低エストロゲン状態を回避するadd―back療法が試みられている.

 本稿では,治療のゴールをGnRHaによる長期の排卵抑制においたadd―back療法を中心に述べる.

40.子宮内膜症に対する治療薬の使い分けについて教えて下さい.

著者: 小池浩司

ページ範囲:P.468 - P.469

1 診療の概説

 子宮内膜症の患者が訴える主な症状は骨盤内疼痛,不妊および付属器腫瘤である.付属器腫瘤は一般的には外科的な治療が優先されるため,薬物療法の対象となる症状は骨盤内疼痛と不妊であり,用いられる薬剤も鎮痛剤などの対症薬から排卵を抑制するホルモン療法に至るまで,さまざまな薬剤が選択肢として存在する.しかし各種治療薬を選択するにあたって,まず患者が主訴としている骨盤内疼痛や不妊が子宮内膜症によるものかどうかの診断を明確にする必要がある.しかし子宮内膜症の診断根拠も,外来での検査に基づくもの(婦人科診察,画像診断,腫瘍マーカーなど)から腹腔鏡によるものまでさまざまであるが,一方,診断精度そのものも子宮内膜症病変の程度に左右されるため,特に軽症例の場合には,外来治療に対する反応をみながら診断を類推するいわゆる治療的診断の域を出ない場合も少なくない.

 治療薬の選択においては,子宮内膜症の診断精度が考慮される一方,患者の症状の程度,現在不妊治療を希望しているかどうか,あるいは将来妊孕性の温存を希望するかどうかなどの患者の希望や,排卵抑制を目的としたホルモン療法の長期副作用,病巣の根治性の低さ,高い再発率,治療の経済性などを考慮しながら治療薬剤を使い分ける必要がある.多くの研究で,GnRHアゴニスト(GnRHa)療法やダナゾール療法などの薬物療法が結果的に妊娠率を上昇させないことが報告されているため,腹腔鏡手術を含めた外科的治療や生殖補助技術などを視野に入れた不妊治療を優先させる.したがって,外来での薬物療法の主な対象者は,将来妊孕性の温存を希望する若年未婚婦人と妊娠を希望しない婦人である.

 本稿では,上記の対象婦人について子宮内膜症の治療薬の使い分けの原則を述べたい.

[多毛症]

41.多毛症の鑑別診断と処方について教えて下さい.

著者: 小池浩司

ページ範囲:P.470 - P.471

1 診療の概説

 多毛症は女性におけるアンドロゲン依存性の性毛発育過剰と定義される.診断にはFerriman & Gallweyの多毛スコアを用い1),この評価法で8点以上が多毛症と診断される.多毛症は男性化の部分症状として現われ,アンドロゲン過剰産生,アンドロゲン感受性亢進,あるいはアンドロゲン剤投与により発現する.表1にはその原因疾患を示した.アンドロゲンに対する感受性が亢進している特発性と多嚢胞性卵巣で全体のほぼ95%以上を占め,あとの疾患は比較的稀なものである.

 治療としてはアンドロゲン過剰産生の原因となる基礎疾患がある場合には,原因疾患に対する治療が基本となる.薬物療法の治療対象としては,対症療法としての多毛症の治療(特に先天性副腎過形成,多囊胞性卵巣など)あるいは特発性多毛症の治療などである.

[更年期障害(ホルモン補充療法)]

42.ほてりとのぼせを主な症状として発症した更年期障害のホルモン補充療法について教えて下さい.

著者: 山内和幸 ,   野崎雅裕

ページ範囲:P.473 - P.475

1 診療の概説

 更年期障害とは,閉経周辺期のエストロゲン欠乏と加齢による心身の異常により起こるさまざまな障害である.更年期障害の症状としては,血管運動神経障害(ほてり,発汗,動悸,頭痛など)を中心とし,これに精神神経障害様症状(不安,不眠,いらいら,記憶力減退,抑うつ感など)や運動器系障害症状(肩こり,腰痛,関節痛など)を伴うことが多い.

43.腟の乾燥感と性交痛を訴えています.対処と処方について教えて下さい.

著者: 山内和幸 ,   野崎雅裕

ページ範囲:P.476 - P.477

1 診療の概説

 中高年婦人の腟の乾燥感や性交痛は,いい出しにくい,相談しづらい症状といえる.日常診療では,診察時に聞き出さない限り,患者さんが訴えることは多くない.しかしながら,婦人科健診のため来院した婦人のアンケート調査によると,性交時の疼痛を感じる頻度は年齢とともに増加し,60歳以上では90%が疼痛を感じている(図1)1).閉経後のエストロゲン欠乏による腟およびその周辺の萎縮のため,腟は性的刺激に対して伸縮性を失い,性交時痛が生じる.

44.排尿障害,特に尿失禁の対処と処方について教えて下さい.

著者: 山内和幸 ,   野崎雅裕

ページ範囲:P.479 - P.481

1 診療の概説

 排泄は,羞恥心にかかわる問題であり受診しにくいこと,尿失禁が産婦人科と泌尿器科との境界領域の疾患で専門医が多くないことなどの理由で,尿失禁に対して十分な対処がなされていない場合が多いと予想される.大学附属病院産婦人科を受診した19,239名の調査では,26.8%に何らかの尿失禁症状がみられており,40歳を境にその頻度が増加している(図1)1).更年期のエストロゲン失調と尿失禁との関係が示唆される.

 尿失禁はその原因により,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁,溢流性尿失禁などに分類される.尿失禁の大半は腹圧性尿失禁で,腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の混合型もある.溢流性尿失禁は下部尿路の閉塞が原因であり,女性では少ない.それらの病態について図22)に示す.

45.めまい,頭重感を主な症状とする更年期障害の対処と処方について教えて下さい.

著者: 米田直人

ページ範囲:P.483 - P.485

1 診療の概説

 めまいや頭重感を主訴に産婦人科を受診する患者にはしばしば遭遇する.しかしながら,表11)のごとく更年期障害にだけ特徴的に出現する症状ではないので,患者の訴える症状が本当に「更年期障害」であるのかの診断をきちんとしておく必要がある.

 まず,卵巣機能の状態を月経の状態や血中のFSHやE2濃度で確認する.次に更年期に発症しやすいめまいや頭重感が主訴となる器質的疾患について除外する.貧血などの血液疾患,血圧異常・不整脈などの心疾患,脳腫瘍,メニエール病などの耳鼻科的疾患が考えられる.稀ではあるが褐色細胞腫などの内分泌疾患も同様の症状を訴える場合がある.しかし器質的疾患の除外診断のためにすべての検査を行うことは実際的ではないので,ていねいな問診や観察が重要である.また家庭や社会環境などの心理的要因が関与している場合も多い.さらに,更年期障害と診断して治療を開始したあともこうした器質的疾患や心理的要因の存在には注意しておく必要がある.

46.更年期のうつ傾向が目立つ患者の対処と処方について教えて下さい.

著者: 米田直人

ページ範囲:P.486 - P.487

1 診療の概説

 閉経周辺期婦人が更年期障害を疑い一般産婦人科や更年期専門外来を受診する場合の症状の訴えはさまざまである.疲労感,いらいら,ゆううつ,不眠などの精神神経症状を更年期障害と考え受診してきた場合,これらの症状のすべてを簡単に更年期障害と診断するわけにはいかない.

 まず他の原因疾患の検索と診断をきちんと行う必要がある.すなわち,うつ状態になりやすい甲状腺機能障害などの内分泌疾患やパーキンソン病などの中枢神経疾患,またインターフェロンなどの他の疾患に対するうつ状態を引き起こしやすい薬剤の投与を受けていないかなどを検討する.つぎに現在のうつ状態が拒食や栄養不良を伴うような重篤な症状や自殺企図などの重篤な状態でないかを判断する.重篤と判断される場合には早急に精神科などの専門医へ紹介する.これら以外の場合において,産婦人科医によって身体症状を含めた総合的な更年期障害の診断を行い,治療を進めていく.

47.強度の不眠症を伴った更年期障害のホルモン補充療法について教えて下さい.

著者: 米田直人

ページ範囲:P.488 - P.489

1 診療の概説

 不眠は更年期女性において訴えの多い症状の1つである.不眠症は4つのタイプに分けられる.すなわち,(1)入眠障害,(2)熟眠障害,(3)途中覚醒,(4)早朝覚醒である.更年期女性にはこれらすべてのタイプの不眠が出現しうる.一般に高齢者の睡眠は睡眠平均時間がやや短くなる.夜は早くより寝床につくが,就床してから入眠するまでの時間は長くなり,眠りが浅くて中途覚醒の回数が増える.また,朝早く目覚めることが多くなるなどの特徴があるが,この加齢に伴う生理的睡眠の変化を不眠として訴える場合がある.

 更年期障害の中では精神神経症状として不眠は認められるが,のぼせ,ほてりなどの血管運動神経症状が睡眠中に起こって途中覚醒などの不眠をもたらす場合もある.一方,精神疾患によって不眠が生じる場合もあり,更年期女性に最も高頻度に認められるのがうつ病性不眠である.うつ病による不眠の場合,特に極端な早朝覚醒が現れやすくなる.真夜中に目が覚めて,朝まで布団の中でくよくよと悲観的なことを考えたり,頭痛,食欲不振などの身体的な症状を伴うことが多い.

 これらの原因に加えて家庭や社会環境によるストレスが関与していることが多いので,単一の治療だけでは軽快しにくい.ホルモン補充療法(HRT)だけでなく,睡眠薬や抗うつ剤を併用する場合が多い.

48.ホルモン補充療法を行っていますが,不正出血がみられます.対処について教えて下さい.

著者: 樋口毅 ,   水沼英樹

ページ範囲:P.491 - P.493

1 診療の概説

 ホルモン補充療法(HRT)は主に更年期障害,骨粗鬆症,高脂血症などに対して行われ,中高年女性のQOLの向上を目的として普及しつつある治療法であるが,治療中に生じる副作用やホルモン依存性悪性腫瘍などに対する不安のために脱落してしまう症例をしばしば経験する.脱落理由の中で不正出血は,50~54歳の若年更年期女性の29.4%,55歳以上の高年更年期女性の51.7%に達するとの報告1)もあり,不正出血に対するHRT施行前の詳細な説明,投与方法の工夫,出血時の対応がHRTのコンプライアンスの点からも重要である.

49.子宮筋腫をもつ閉経後婦人に対するホルモン補充療法について教えて下さい.

著者: 樋口毅 ,   水沼英樹

ページ範囲:P.495 - P.497

1 診療の概説

 子宮筋腫は性成熟期女性の約30%に認められる子宮良性腫瘍である.無症状,または有症状であっても,保存的療法が選択されたものなど子宮筋腫を残したまま閉経を迎える症例はかなり多数存在する.子宮筋腫組織にはエストロゲン,プロゲステロン受容体が正常子宮筋組織に比べて強く発現しており,性ステロイドホルモンが増殖因子を介して腫瘤増大機構に関与していると考えられている1).したがって,性ステロイドホルモンの分泌が低下する閉経後は一般的に子宮筋腫の縮小が期待できるのであるが,ホルモン補充療法(HRT)を行う場合には薬剤に含まれるエストロゲン,プロゲステロンによる子宮筋腫の増大,それに伴う症状の再燃の可能性を常に考えなければならない.

[骨粗鬆症]

50.閉経後の骨量低下,骨粗鬆症の治療と管理について教えて下さい.

著者: 樋口毅 ,   水沼英樹

ページ範囲:P.498 - P.500

1 診療の概説

 女性は更年期において月経が不整になる頃より骨量減少が始まり,閉経後の十数年間で20~25%もの骨量減少が起こると考えられている.また,閉経後の骨量減少は直線的に進行するのではなく,閉経後3年間は年3~4%の急激な骨量低下が認められるが,以後,次第に骨量低下は緩慢となる.しかし,閉経後13年をすぎると再び低下が促進される(図1)1).閉経直後の急激な骨量減少は卵巣のエストロゲン分泌欠乏が主たる要因であるのに対し,より高齢者においてはエストロゲン欠乏に加え,加齢に伴うカルシウム代謝異常が追加され骨量減少が生ずると考えられている.

 したがって,治療方針を検討するにあたっては,まず,対象者の骨量の程度を把握し,すでに骨粗鬆症なのか骨量減少の状態なのかを判定にしておく必要がある.さらに,骨量評価以外にも骨代謝が現在どのような状態にあるのかも把握し,未治療が骨量減少をさらに加速する状態にあるのか,あるいは急速な減少の可能性は少ない状態にあるのかなどを評価する必要がある.予防的見地からも閉経周辺期にこれらの評価をしておくことが望ましい.

 なお,骨粗鬆症は生活習慣病の一種であり,その予防や治療には食事療法や運動療法を導入することを基本とすべきであるが,これらが無効の場合,すでに骨粗鬆症となっている場合,あるいは骨折のリスクの高い場合には薬物療法を優先させる.

[高脂血症]

51.家族性高コレステロール血症家系の妊婦です.妊娠初期は問題ありませんでしたが,妊娠28週の検査で高脂血症と診断されました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 若槻明彦 ,   篠原康一 ,   渡辺員支

ページ範囲:P.501 - P.503

1 診療の概説

 血中総コレステロール(TC)濃度は,妊娠すると非妊時の約50~60%程度増加する1).これはvery low―density lipoprotein(VLDL),high―density lipoprotein(HDL),low―density lipoprotein(LDL)粒子数が増えるので,各リポ蛋白内に含有するコレステロール濃度の総和が増加するためである1).トリグリセライド(TG)も妊娠末期には生理学的に約200~300%程度増加する1).TG濃度の上昇はTG―richなVLDL粒子の増加に起因するといわれている.妊娠中にみられる生理学的高脂血症の状態は理論的には動脈硬化に促進的とも考えられるが,実際に妊娠,分娩を繰り返すことで心血管疾患の発症が増加するとの報告はない.しかし,TCやTG濃度がきわめて高値の場合,例えば家族性高コレステロール血症あるいは家族性複合型高脂血症の患者が妊娠した場合は脂質濃度はさらに増加し,心血管イベントや急性膵炎を発生するおそれがある.

 家族性高コレステロール血症は常染色体優性遺伝のLDL受容体異常症であり,LDLの代謝異常によりLDLが血中にうっ滞する.両親より異常遺伝子を受け取ったホモ型患者は約100万人に1人ときわめて稀で,TCが500 mg/dl以上と異常高値を示し,通常20歳までに心筋梗塞を発症する.両親の一方より異常遺伝子を受け取ったヘテロ型患者は500人に1人の頻度で,TCが300~500 mg/dlと高いことが多いが,260 mg/dl以下のこともある.TCは出生後から高値であり,壮年期に冠動脈疾患を発症することが多い.

 家族性複合型高脂血症は200~300人に1人の頻度で発症し,TCの上昇は思春期以後と遅いが,冠動脈疾患は壮年期から老年期に発症することが多い.本症の特徴は表現型がIIa,IIb,IV型と変化することがあり,家族性高コレステロール血症にみられる腱黄色腫のような特異的所見に乏しいので,診断が容易でないことがある.診断基準を表1に示す.

52.閉経後女性の高コレステロール血症,高トリグリセリド血症の対処と処方について教えて下さい.

著者: 若槻明彦 ,   篠原康一 ,   渡辺員支

ページ範囲:P.505 - P.507

1 診療の概説

 1999年の厚生労働省による高脂血症の頻度をみると,女性の場合,閉経年齢である50歳を超えると高脂血症の頻度は急激に増加し,男性より高率となる(図1).総コレステロール(TC)や中性脂肪(TG)濃度の経年的変化も,50歳頃より急激に増加することから1),エストロゲン濃度の低下がTCやTGの上昇に関係すると考えられている.

 閉経後にエストロゲン濃度が低下すると,肝のLDL受容体数が減少するとともに2),LDLの律速酵素であるリポ蛋白リパーゼ活性が亢進することが明らかになっている3).したがって,血中エストロゲン濃度の低下がLDLの合成系を亢進し,異化系を低下させるため,血中LDL濃度が上昇すると考えられる.血中のLDLは血管壁内に侵入し,マクロファージに貪食され,粥状硬化へと進展する.

 TG濃度も,TCと同様に閉経後に上昇することが報告されている.高TG血症はHDLコレステロール低下作用や血栓形成促進作用を有する以外にも,CHDの発症と密接に関連する小型のLDL粒子を産生することで動脈硬化に促進的に働くといわれている.われわれは,閉経後に上昇するTGがLDLを小粒子化させることを明らかにしている4).小型LDL粒子はfree radicalに容易に酸化されることから,大型LDLに比べてよりatherogenicといわれており,閉経後女性のLDLの蓄積は,量的にも質的にもCHDの最大の危険因子と考えられる.

[老人性腟炎]

53.主に外陰部痛と掻痒感を主訴とする老人性腟炎の対処と処方について教えて下さい.

著者: 若槻明彦 ,   篠原康一 ,   渡辺員支

ページ範囲:P.508 - P.509

1 診療の概説

 腟内は常在菌であるデーデルライン桿菌が存在するため,細菌感染には抵抗性である.しかし,更年期から老年期にかけて卵巣からのエストロゲン分泌が減少すると,腟内のグリコーゲン産生の低下に伴い,デーデルライン桿菌が減少する.このため腟内の自浄作用は低下し,さまざまな雑菌による感染を受けやすくなる.

 老人性・萎縮性腟炎とはエストロゲン濃度の低下が原因の腟炎をいう.有経女性の場合,帯下の性状はデーデルライン桿菌が存在するため白色調を呈するが,老人性・萎縮性腟炎では,増殖した細菌のために,黄色味を帯びた汚い帯下に血液が混在することがある1).帯下以外にも,炎症のために腟粘膜の疼痛や灼熱感など腟不快感を伴うことも少なくない.また,エストロゲン欠乏は外陰皮脂腺の分泌を低下させ,皮膚表面を乾燥させるため,外的刺激を受けやすくなり,外陰部の疼痛や掻痒感を認めることもある2)

 診断としては,他覚的所見も重要であり,視診上,腟壁は炎症性に充血するので薄い腟粘膜のところどころから血性の滲出液を認めたり,腟内容物を検鏡すると多数の多核白血球と傍基底細胞,あるいは中間細胞が優位にみられるのも特徴である3)

[脱 毛]

54.髪の脱毛を訴えている患者です.鑑別診断と処方について教えて下さい.

著者: 若槻明彦 ,   渡辺員支 ,   篠原康一

ページ範囲:P.511 - P.513

1 診療の概説

 毛髪には,毛が伸びる時期の成長期,抜けはじめる移行期,抜け落ちる休止期を繰り返す毛周期がある.この毛周期が破綻し,毛髪が疎になったり欠如した状態を脱毛という.脱毛には佐藤による先天性と後天性脱毛の分類1)や,び慢性と限局性脱毛に大別し,さらに瘢痕性と非瘢痕性に分類する方法2)などがある.脱毛の原因は多彩であり,内臓疾患に随伴したもの,皮膚疾患によるもの,薬剤性のものなどさまざまである.したがって,脱毛を認める場合は原因疾患によりそれぞれ治療方法が異なるので,まず原因疾患の特定がきわめて重要となる.

III. 不妊症 [高プロラクチン血症]

55.1年前から月経不順となり最近3か月は無月経となっています.検査で高プロラクチン血症があり,乳房緊満と乳汁分泌もみられます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 高倉賢二

ページ範囲:P.518 - P.519

1 診療の概説

 高プロラクチン血症(高PRL血症)の原因は表1に示すように多岐にわたっており,乳房および胸壁の視診・触診だけでなく,詳細な問診も原因検索のうえで重要である.

 PRL分泌は視床下部のドパミンにより抑制され,TRHやヒスタミン,セロトニンなどにより促進される.また,エストロゲンは下垂体のlactotrophに直接作用してPRL分泌を亢進させる.したがって,これらに作用する種々の薬剤が高PRL血症の原因となり得る(表2).これらの薬剤には胃腸調整剤など身近なものが多く,薬剤による二次性のものもよくみられることが高PRL血症の特徴の1つである.

 血中PRL値には日内変動がみられ,夜間に高く,また表1に示した生理的原因でも変動が認められるので,測定は朝食後2時間以上経過してから,15分程度安静にした後に行うことが望ましいとされている.種々の要因で変動しやすいホルモンであるため,複数回測定することも診断に重要である.なお,標準品によって正常値が異なるので,値の解釈の際には注意が必要である.

 TRHがPRL分泌を促進するので,甲状腺機能低下症が高PRL血症の原因であることもあり,甲状腺ホルモン(free T3,free T4)とTSHの測定は必須の検査である.下垂体腺腫を検索することも重要で,治療前には脳神経外科にコンサルトしておくべきである.また,稀に乳頭分泌が乳腺腫瘍によることもあるので注意が必要である.

 高PRL血症が排卵障害の原因となることについては,未解明な点も多いが,PRLが視床下部のニューロンに働いてGnRHの律動的分泌を障害する中枢作用だけでなく,卵巣に直接作用することを示唆する報告も数多くみられる.

56.外来検査で血中プロラクチン値は正常ですが,月経周期が不規則で少量の乳汁分泌を認めています.対処と処方について教えて下さい.

著者: 高倉賢二

ページ範囲:P.520 - P.521

1 診療の概説

 乳汁漏出症(galactorrhea)を大別すると,通常の血液検査でみつかる顕性高プロラクチン(PRL)血症を伴うものと,そうでないものに分けられる(図1).高PRL血症を伴わない乳汁漏出症はさらに,特殊な血液検査ではじめてPRL分泌異常がみつかる潜在性高PRL血症(latent, occult or transient hyperprolactinemia)を伴うものと,そうでないものに分けられる.実地臨床上は高PRL血症を伴わない乳汁漏出症も数多く存在する.高PRL血症は乳汁漏出症の約50~70%に認められ,したがって30~50%の症例は高PRL血症を伴わないと考えられる.

 潜在性高PRL血症は,(1)血中のエストロゲン上昇に一致して,排卵前後に一過性に高PRL血症が認められる,(2)24時間採血を行うと夜間にのみ高PRL血症が認められる,(3)TRH負荷試験(メトクロプラミド : プリンペランなどを負荷することもある)でPRL値の過剰反応が認められる,のいずれかで診断される.(1)~(3)は,いずれもほぼ同じ病態をみているものと考えられている.実地臨床上は簡便性の点から(3)の方法で診断されることがほとんどである.このように,潜在性高PRL血症は通常の検査ではPRL分泌異常をみつけることができないが,不妊症,黄体機能不全を含む排卵障害,乳汁漏出をきたすことが多いといわれており,産婦人科領域における重要な疾患の1つであるといえる.

 乳汁漏出症の中でも,乳汁漏出の程度には差があり,自然に滴下するものから,乳頭を圧してはじめて少量の分泌物が漏出してくるものまで種々の段階がある.高PRL血症を伴わない乳汁漏出症では,程度の軽いものがほとんどである.また,月経異常の程度も高PRL血症を伴う症例よりも軽度であり,無月経になることはほとんどなく,大半は無排卵周期症,黄体機能不全,遅発排卵などにとどまる.

 正PRL血性乳汁漏出症の約1/3は潜在性高PRL血症を伴うが,残りはPRL分泌に異常を認めない.これらは乳腺のPRL感受性の違いや乳管開口の程度などにその原因が求められるが,詳細ははっきりしていない.乳汁分泌は乳腺側にもその原因があり,実際,既往妊娠・分娩歴を有する高PRL血症婦人では,そうでない婦人に比べて乳汁漏出の頻度が高いといわれている.乳腺のPRL感受性および局所環境に個人差があるからこそ,同じPRL分泌異常があっても乳汁漏出をきたす婦人と,きたさない婦人が存在するものと考えられる.

[多嚢胞卵巣症候群]

57.多嚢胞卵巣症候群と診断される稀発月経の女性で,挙児希望もあります.対処と処方について教えて下さい.

著者: 高倉賢二

ページ範囲:P.522 - P.523

1 診療の概説

 多嚢胞卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)はその徴候については比較的はっきりしているものの,病因については未解明の点が多く残されている.しかし,診断基準の設定となると話は別で,報告により一定していないのが現状である.欧米では男性化徴候などを重視する傾向にあるが,本邦では元来,検査所見を重視し,(1)月経異常,(2)高LH血症(FSH正常),(3)両側卵巣の多嚢胞性腫大の3点をもってPCOSとすることが多く,1993年に日産婦生殖・内分泌委員会が提案した診断基準も同様である(表1).これには,高アンドロゲン血症や多毛を基準に加えると大半の症例が脱落するという本邦独特の事情も関係しているものと考えられる.

58.多嚢胞卵巣症候群の女性にゴナドトロピン療法を行ったところ,排卵後7日目で卵巣過剰刺激症候群を発症し,腹水が貯留して尿量の減少もあります.対処と治療法について教えて下さい.

著者: 高倉賢二

ページ範囲:P.524 - P.525

1 診療の概説

 卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)は排卵誘発剤(多くはゴナドトロピン製剤)の投与に伴って発症する卵巣腫大,腹水あるいは胸水の貯留,循環血液量の減少と血液濃縮,血清電解質異常,乏尿などを呈する医原性疾患である.重症例ではその合併症として肝障害,血液凝固能亢進と血栓塞栓症,腎不全,呼吸不全を発症し,多臓器不全により致死的となる場合もある.脳血栓を起こして不可逆性の後遺症をきたすこともある.

 発症機序にはまだ不明の点も多いが,多囊胞卵巣症候群(PCOS),35歳以下の若年者,痩せた症例に多いといわれている.また,GnRHアゴニストを併用した場合,hCG切り替え時に多数の卵胞が発育し,血中エストラジオール濃度が高い場合などに起こりやすく,妊娠の成立やhCGの投与が増悪因子とされている.表1に日本産科婦人科学会の重症度分類を示す.

[男性不妊]

59.乏精子症の患者です.精子を増加させ,妊娠を目指すための処方があれば教えて下さい.

著者: 三宅麻喜 ,   星和彦

ページ範囲:P.527 - P.529

1 診療の概説

 乏精子症(oligozoospermia)とは精子濃度が20×106/ml未満と定義されている(WHO laboratory manual. 4th ed. 1999)1)(表1).

60.精液検査で無精子症と判明しました.AID以外に何か可能性のある治療法はないでしょうか.

著者: 三宅麻喜 ,   星和彦

ページ範囲:P.530 - P.531

1 診療の概説

 無精子症(azoospermia)とは「精液中に精子が存在しないこと」(WHO laboratory manual. 4th ed. 1999)と定義されている1).精子数が極端に少ないときは,顕微鏡下に精液を観察しても精子がみつからない場合がある.そのようなときは,精液を3,000 gで15分間遠心し,試験管底の濃縮された部分の精液を観察する.それでも精子がまったく認められないときは無精子症と診断する2)

 射出精液中に精子がない無精子症でも,精巣上体や精巣内に存在するときは,これらの組織から精子を回収して卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)を行い,射出精子を用いたときとほぼ同等の受精率,妊娠率が得られるようになってきている.

 精巣生検は直接精細管内の造精機能をみるもので,無精子症には不可欠の検査である(表1).精細管内での精子形成の有無,精細胞の分化度,造精機能障害の種類,程度が明らかになる.造精機能は正常であるが,精液中に精子が認められないときは精路の異常が疑われる.

61.性交障害(勃起障害)の対処と処方について教えて下さい.

著者: 荒木勇雄 ,   武田正之 ,   星和彦

ページ範囲:P.533 - P.537

1 勃起障害

1. 勃起障害とは?1)
 従来,男性の性機能障害に対して「インポテンス」という用語が用いられていた.しかし,この用語が侮蔑的な印象を与えることから,「勃起障害」(erectile dysfunction : ED)と表現するようになった.勃起不全もほぼ同義である.EDは,本来では「性交時に有効な勃起が得られないため,満足な性交が行えない状態」と定義され,わが国の性機能学会では,通常「性交のチャンスの75%以上で性交が行えない状態」としている.1993年のWHOのConsensus Department Panelによる定義では,「勃起を発現あるいは持続できないために,満足な性交ができない状態」とし,現在,世界的に用いられてる.

2. 勃起障害の分類2)
1)発症時期による分類

 EDは発症の状態により,初めての性行為からうまく行かない一次性EDと,少なくとも1回以上円滑な性行為を経験し,ある時期から性交ができなくなった二次性EDとに分類される.

[原因不明不妊]

62.原因不明の不妊に対して,ART以外の有効な対処法があれば教えて下さい.

著者: 松林秀彦 ,   牧野恒久

ページ範囲:P.539 - P.541

1 診療の概説

 ARTが最も妊娠率の高い方法であり,ほかに明らかな原因のみつからないいわゆる「原因不明」の場合は最終的にARTを行うことになるので,ART以外に有効な対処方法というものは実際には存在しない.一方,ほかに原因があったとしてもARTでカバーできる範囲のものであり,しかし何度ARTをトライしても妊娠しない場合,これもやはり「原因不明」となる.最も妊娠率の高い方法「ART」をもってしてもその妊娠率は20~30%程度であり,これはある意味ARTが未だ不妊治療として不完全なものであることを意味している.「ART」の妊娠率からみた場合の「原因不明」とは,すなわち着床障害である.着床現象については,現在,研究が徐々に進んでいるとはいえ,臨床的にはほとんど解明されていないといってよい段階である.

 このように不妊治療の最終段階がARTであるから,ART以外の有効な対処方法というものはない.しかし,ほかにとるべき道あるいはARTをサポートする方法については論じておくべきであろう.

[頸管粘液分泌不全]

63.規則的な排卵はあるものの,頸管粘液分泌不全を認めます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 和泉俊一郎 ,   牧野恒久

ページ範囲:P.542 - P.543

1 診療の概説

 呈示された症例は,「すでに総合的な原因検索のあとに不妊因子として頸管因子のみが原因と断定され,その治療計画を立案する」という設定である.しかし本書には系統的不妊症検査について扱う項目がなく,その点についても一部触れたい.すなわち,不妊症を扱う場合は,原因を1つと断定せず,総合的に治療することを心掛けねばならない.これは治療の経過中であっても必要で,ときに原点にもどり全体像を明らかにする努力が肝要である.

[チョコレート嚢胞]

64.挙児希望の女性で,卵管や子宮には器質的異常はないものの,右卵巣に4~5cm径のチョコレート嚢胞と思われる腫瘤があります.対処について教えて下さい.

著者: 鈴木隆弘 ,   牧野恒久

ページ範囲:P.544 - P.544

1 診療の概説

 挙児希望患者に対しては保存治療を第一選択とするが,超音波,CT,MRI,腫瘍マーカー検査などで,できるだけ悪性所見を否定し,十分なインフォームド・コンセントを行うことが重要である.また現在では,子宮内膜症性不妊を疑う場合,腹腔鏡検査でR―ASRM分類による進行期を評価することが必須であると考えられている.

[不育症]

65.不育症患者ですが,子宮には器質的異常はなく,抗核抗体やループスアンチコアグラントは陰性で,夫婦の染色体検査も正常でした.対処と処方について教えて下さい.

著者: 杉俊隆 ,   牧野恒久

ページ範囲:P.545 - P.547

1 診療の概説

 “不育症”とは,厳密な定義を持つ医学用語ではない.強いて定義付ければ,成立した妊娠を完遂できず,健康な生児に恵まれない症例を指すものといえる.一般的には習慣流産を指すことが多いが,同義ではない.習慣流産とは3回以上流産を繰り返すことであり,流産の定義上,時期は妊娠22週未満に限定される.しかしながら,不育症といった場合は妊娠中期以降の子宮内胎児死亡や反復流産(流産回数2回)も含まれ得る.胎児形態異常のない10週以上の原因不明子宮内胎児死亡があった場合は,反復しなくても不育症の可能性を考慮するべきである.

 1回の独立した流産の頻度は統計上約15~20%であり,決して珍しくない.その約60~70%以上は胎児に染色体異常があると報告されている.また,受精卵の約40%に染色体異常があり,それが出生時には0.6%に減少すると報告されており1),もし流産という自然淘汰が起こらなければ,出生した児の40%が染色体異常を持つことになる.したがって,ある意味では流産の多くは病的ではなく,それを止めることもできないし,止める必要もないということになる.1回や2回の流産既往があっても,それが直ちに病的であり,不育症であるということにはならない.ちなみに,1回の独立した妊娠の流産の頻度を20%と仮定すると,反復流産率は0.2×0.2=0.04で4%,3回流産率は0.04×0.2=0.008で0.8%となる.したがって,反復流産の場合は病的原因を持たず,不育症とはいえない場合も多いが,3回以上自然流産を繰り返した習慣流産の場合は自然淘汰という考えでは確率的に説明できず,不育症の原因を検索することになる.

 不育症の原因は多岐にわたっており,系統立てた諸検査を施行し,総合的に判断して方針を決定する必要がある.

IV. 感染症 [カンジダ腟炎,外陰炎]

66.難治性で再発を繰り返すカンジダ腟炎,外陰炎の対処と処方について教えて下さい.

著者: 須野成夫 ,   繁田実

ページ範囲:P.550 - P.551

1 診療の概説

 カンジダ症は産婦人科診療中に遭遇する最も多い女性性器感染症の1つであり,性感染症(STD)の1つである.

 カンジダ症はカンジダ属(Candida albicans, Canndida glabrata)によって起こる感染症で,このカンジダ属は腟内常在菌の1つであり,非妊婦の約10%認められる.通常は,自覚症状(外陰部掻痒感,帯下など)がある場合に治療の対象となる.

67.妊娠6週の妊婦が外陰部掻痒感で来院しました.外陰部は発赤しており,分泌物を鏡検するとカンジダが認められました.妊婦は薬の催奇形を心配しています.対処と処方について教えて下さい.

著者: 須野成夫 ,   繁田実

ページ範囲:P.553 - P.553

1 診療の概説

 カンジダ症は産婦人科診療中に遭遇する最も多い女性性器感染症の1つであり,性感染症(STD)の1つである.

 カンジダ症はカンジダ属(Candida albicans, Canndida glabrata)によって起こる感染症である.このカンジダ属は腟内常在菌の1つで,妊婦の約20%に認められる.妊娠中においては,自覚症状のない場合でも子宮内感染や産道感染(未熟児分娩が予想されるとき)の予防のために治療の必要がある.

[トリコモナス]

68.帯下異常で受診し,腟分泌物ならびに尿中にトリコモナス原虫が認められました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 須野成夫 ,   繁田実

ページ範囲:P.554 - P.555

1 診療の概説

 トリコモナス腟炎は産婦人科診療中に遭遇する最も多い女性性器感染症の1つであり,性感染症(STD)の1つである.

 トリコモナス腟炎は,原虫類の鞭毛虫であるトリコモナス原虫(Trichomonas vaginalis)による感染で,腟炎だけでなく外陰炎,尿道炎,膀胱炎などを引き起こす.症状は漿液性または希薄膿性泡沫状の悪臭の強い帯下とともに,外陰部掻痒感,灼熱感,排尿時不快感などの尿道炎症状がある.また,子宮腟部にびらんが生じ,性交時に出血をみることもある.

 男性においては,尿道や前立腺に寄生した場合でも症状を訴えることは少ないが,稀に尿道炎を起こすことがある.

 妊娠中のトリコモナス腟炎は非妊時に比べて頻度は低く,胎児,新生児への垂直感染は稀である.これは妊娠に伴う腟自浄作用の亢進によりトリコモナスの棲息が困難になることや,児でのトリコモナスの繁殖が困難なためによるものである.

[クラミジア]

69.クラミジア陽性子宮頸管炎の対処と処方について教えて下さい.

著者: 野口昌良

ページ範囲:P.556 - P.557

1 診療の概説

 子宮頸管の擦過により採取した検体の抗原検査もしくは核酸増幅法により陽性となるか,子宮腟内分泌物による核酸増幅診断法により確認された場合をクラミジア陽性子宮頸管炎という.

 ただし,このような検出方法で陰性であり,クラミジア性子宮頸管炎が否定されてもクラミジアの腹腔内感染があり得ることを忘れるべきではない.

 クラミジア・トラコマティス初感染部位は子宮頸管であり,子宮頸管炎を発症するが,その多くが自覚症状を伴わない.したがって,患者は自分が感染していることを気づいていないことが多い.偶然,産婦人科を受診するようなことがあり,診察した医師が子宮頸管炎の存在に気づき検査を施行した結果,クラミジア感染が証明されることはしばしばある.

 そのほか,有症状の場合,すなわち帯下感,下腹痛,性交痛のある症例では検査の対象となり,クラミジア感染を確認されることがある(表1, 2).

70.抗原検査は陰性でしたが,抗体検査ではクラミジア感染症と診断されました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 野口昌良

ページ範囲:P.558 - P.559

1 診療の概説

 クラミジア・トラコマティス感染症の検出検査方法には,抗原検出法と核酸増幅法による検出がある.さらに,血清診断方法として抗クラミジアIgA,IgG抗体検査がある.

 抗原検査法と核酸増幅法は,対象とした検体にクラミジア・トラコマティスが存在していることを示すもので,その時点でその場所において感染があることを直接確認するものである.

 一方,抗体検出法は,その時点でクラミジア・トラコマティス感染があり,しかもその宿主が感染後,抗体を産生するだけの時間の経過があることを示している.クラミジア感染が起きると,抗クラミジアIgG抗体が1~2週間後には陽性となる.そして,IgA抗体が陽性になるまでには1~2か月を要するといわれている.このことは,感染直後に検査した場合には抗原もしくは核酸増幅検査が陽性であっても,IgG,IgA抗体が陰性のこともあり得るし,IgG陽性,IgA陰性ということもあり得る.

 その反対のケースが抗原陰性,抗体陽性という場合であるが,それは主に次の3つの状態を示している.

 その第一は,上向性に子宮頸管から子宮卵管を経由して,クラミジア・トラコマティスは容易に腹腔内に侵入し,感染状態は治療をしない限り続いている.しかしながら,子宮頸管にはすでにクラミジアは存在しないものの腹腔内感染が持続していることはしばしばみられる.このような場合には抗原陰性,抗体陽性となる.

 その第二は,性器のクラミジア感染が直接治療されて治癒するか,呼吸器,泌尿器系などの感染があり治療された結果,クラミジアにも感受性がある薬剤が投与されることにより,医師,宿主ともにクラミジア感染に気づかぬまま治癒しているような場合も抗原陰性,抗体陽性となる.

 その第三は,クラミジア感染を治療した結果,治癒した場合でも抗原は消失し,抗体は長期にわたり陽性として存在するので,上記と同じ抗原陰性,抗体陽性のことがある.

 かつて抗クラミジア・トラコマティスIgA抗体に関して,陽性の場合は“活動性感染”を示すと誤って表現されたため,新しい感染があるときだけに抗IgA抗体が陽性となり,あたかも感染が存在する場合にだけ陽性になるかのように誤解されたことがあった.しかし,上述したようなことから,抗クラミジア・トラコマティス抗体は“感染があるとき”と,感染が終息した場合の“感染の既往”があることを示すにすぎない場合があることをよく理解することが必要である.したがって,抗体による治癒判定もできないことを認識すべきである(表1).

[尖圭コンジローム]

71.妊娠8週の未産婦が外陰部の不快感,掻痒感にて来院しました.腟入口部から会陰にわたり鶏冠状となった尖圭コンジロームを認めます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 菅生元康

ページ範囲:P.560 - P.561

1 診療の概説

 尖形コンジロームはヒトパピローマウイルス(human papillomavirus : HPV)感染症の一種である.現在,HPVは90種類以上の遺伝子型に分類されているが,そのうち性器に同定される型は約半数である.われわれが検索した尖形コンジロームの病変部からはHPV6型または11型のみが単独で検出された.したがって,われわれは尖形コンジロームはHPV6型,11型の感染による性器疣贅と考えている.一方,HPV44型のクローニングサイト(発見された病変)はvulvar condylomaとされているので,HPV44型が同定される尖形コンジロームがあることも間違いないと思われる.しかし,われわれの経験からそれほど頻度は多くないものと考えられる.いずれにしろ,起因HPVが性行為により性器に接触感染することにより数週間から数か月という比較的長い潜伏期の後に尖形コンジロームを形成するものと考えられている.また,ときに6型,11型感染により口腔内に疣贅を発生することもある.特に喉頭に感染すると喉頭乳頭腫(laryngeal papilloma)という腫瘍をつくり,気道障害の原因になる.

 妊婦の尖形コンジロームでは新生児へ産道感染を起こし,乳幼児期に喉頭乳頭腫が発生することが危惧される.日本では稀とされているが,尖形コンジローム症例が増加傾向にあるので注意を払う必要がある.われわれは,妊娠末期に除去が困難と思われる尖形コンジロームが下部女性性器に認められた場合には,帝切分娩を勧めている.

 尖形コンジロームの診断は,HPV診断法が未確立な現状では臨床病理学的に行うことが一般的である.鑑別すべき疾患としては腟前庭乳頭腫症(squamous vestibular papillomatosisまたは hairy nympha)がある.hairy nymphaは腟前庭部に微小な乳頭腫が集簇的に発生するものであるが,しばしば尖形コンジロームと診断されることがある.病因は不明であるが,少なくともHPV感染症ではない.

 治療は薬物療法と手術療法がある.治療薬としては,欧米ではpodophyllin(CondyloxTM),imiquimod(免疫賦活剤,AldaraTM),cidofovir(抗ウイルス剤でcytosine analog,VistideTM),interferonなどが使われているが,文献で調べた限りでは効果は必ずしも十分とはいえないようである.これらの薬剤は日本では未発売または未承認の薬剤で,使用できない.本邦では5―FUやブレオマイシンといった抗癌剤の投与が行われることがあるが,適用外使用なので,投薬に際しては患者との間でインフォームド・コンセントを十分にとる必要がある.手術療法としては切除やレーザー手術,液体窒素による凍結療法などがある.

 われわれは,CO2レーザーを用いた蒸散法を行っているが,1回の有効率は70%程度で欧米の薬物療法と遜色ない.難治例もかなり存在するが,根気よく切除,レーザー蒸散を重ねるとやがて疣贅が消失する.ただし,疣贅が消失することがHPV感染の消失を意味するとは即断できない.手術療法でも患者への説明が大切で,HPV感染症であること,理想的な治療薬は未開発であること,しばしば再燃する性格があること,などを詳しく説明する必要がある.

 尖形コンジロームは外陰部のみならず腟や子宮頸部にも病変が同時に存在することがある(図1).したがって,女性患者では産婦人科医が診療にあたることが必要である.また6型,11型以外のHPV感染も考慮する必要がある.外陰尖形コンジロームで子宮頸部異形成や腟異形成を伴ったり,外陰部でも尖形コンジロームと外陰異形成(bowenoid papulosis)が共存することもある.尖形コンジローム患者の診療では,疣贅のみに目を奪われるのではなくて,異形成病変の有無をコルポスコープで観察するなど,下部女性性器の詳しい診察を行うことが必要である.さらに尖形コンジロームは性感染症であるので,そのほかの疾患,例えばクラミジアや淋菌感染症などの有無を調べることも重要である.それらを含めた子宮頸管炎や腟炎などによる帯下の増量が尖形コンジロームの増悪因子になることがある.

[性器ヘルペス]

72.妊娠30週の妊婦に初感染と思われる外陰ヘルペスを認めました.病変は広範で,激痛があります.対処と処方について教えて下さい.

著者: 菅生元康

ページ範囲:P.562 - P.563

1 診療の概説

 外陰ヘルペスとは外陰部の単純疱疹ウイルス(herpes simplex virus : HSV)感染症のことであるが,女性の場合は外陰のみならず腟や子宮頸部にも感染が波及するので,最近では「外陰ヘルペス」よりも「性器ヘルペス」と呼称することが一般的である.HSVは免疫学的に1型と2型に分類されており,性器ヘルペスは2型感染が主体であるとアメリカでは指摘されている.ところが,日本では1型感染がむしろ多いというのが定説になっている.

 性器ヘルペスの病型は急性型(初発型)と再発型に分類される.急性型は主に初感染の際の病態で,再発型は骨盤神経節に潜伏感染したHSVが何らかの誘因により再活性化して病巣をつくる場合をいう.日本では急性型性器ヘルペスでは1型が同定されることが多く,再発型では2型優位となっている.当科の過去15年間のデータにおいても同様で,急性型症例の約70%は1型で,再発型の80%は2型であった(表1).1型感染は主にセックスパートナーの口腔から,いわゆるオーラルセックスにより感染を起こし,一方,2型は性器からの通常の性行為による感染と考えられる.口唇ヘルペスなど口腔内から検出されるHSVはほとんどすべて1型であり,一方,2型は下半身のヘルペス病巣からもっぱら同定さるというように,HSVはヒトの体の上半身と下半身で住み分けているウイルスといえる.

 上で述べたように,1型は性器にもしばしば初感染を起こすが,再発型に移行することは少ないことが臨床的には明らかである.HSV1型は骨盤神経節への潜伏感染を起こしにくいのか,潜伏感染をしても再活性化しがたいのか,現在のところよくわかっていない.

 急性型性器ヘルペスは外陰部などに潰瘍病変が多発し,激しい疼痛,特に排尿時痛を伴い,ときには発熱や鼠径リンパ節腫脹も認められる.HSV2型感染に比べ1型感染のほうが症状が激しいといわれている.症状は有効な治療を行わないと3週間ほど持続して消失する.再発型の再発頻度は症例により異なるが,ほぼ同じ部位に水疱や潰瘍病変が繰り返し出現する.病変は,未治療でも数日から1週間程度で治癒する.妊婦が分娩周辺期に性器ヘルペスにかかると経腟分娩時に新生児にHSVが感染し,新生児ヘルペスという致死的な疾患を引き起こすことがある.そのために,HSV感染の周産期管理法がいろいろ提唱されている.

 性器ヘルペスの診断はウイルスの同定が基本である.日本では健康保険適用検査法としては蛍光抗体法による同定のみが認められている.同法は特異性は問題ないが,感度が悪く50%程度の検出率といわれている.細胞診によるHSV感染細胞の確認は簡便な方法であるが,水痘・帯状疱疹ウイルス感染細胞との鑑別が困難である.抗体検索法は結果の解釈が難しいので,臨床検査法としては勧められない.いずれにしても,簡便で感度,特異性の高い臨床的ウイルス検出法の速やかな開発が期待される.

 性器ヘルペスの治療は有効な抗ウイルス薬であるアシクロビルを用いることが原則である.重症の場合には点滴静注で,中等症以下や再発の場合には経口剤で治療する.つい最近,アシクロビルのプロドラックであるバラシクロビルが性器ヘルペスの治療薬として保険適用となった.また再発型ではアシクロビル軟膏による治療も広く行われている.なおアシクロビルの妊婦に対する投与の安全性は確立していないが,欧米では周産期管理の目的で妊婦への処方も行われているようである.

[梅 毒]

73.術前検査で梅毒反応が陽性でした.対処と処方について教えて下さい.

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.564 - P.565

1 診療の概説

 現在のところ,臨床所見のない潜伏梅毒(無症候梅毒)の診断の唯一の指標は梅毒血清反応であるので,術前スクリーニング検査としての梅毒検査も梅毒血清反応で行われる.リン脂質を抗原とする血清反応,すなわちSTS(serological test for syphilis)法〔ガラス板法,凝集法,RPR(rapid plasma reagin)カードテストなど〕と,梅毒トレポネーマを抗原とするTPHA(treponema pallidum hemagglutination assay)法の両梅毒血清反応の定性試験でもって行われていることが多い.

74.ペニシリンアレルギーがある梅毒患者の対処と処方について教えて下さい.また,治癒判定は何を根拠にすればよいのでしょうか.

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.566 - P.567

1 診療の概説

 梅毒は早期に発見し治療するほど治療期間は短く,また血清反応も早く低下,また陰性化しやすい.また梅毒治療の目的は梅毒トレポネーマを死滅させることであり,梅毒血清反応を陰性化させることではない.半世紀以上にわたりペニシリンが著効し,幸いなことにいまだ耐性トレポネーマの報告はないので,治療はペニシリンをはじめとした有効な薬物の十分量を必要な期間投与することである.

[淋病(淋疾)]

75.頸管炎による膿性帯下を認め,培養検査で淋菌が証明されました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.568 - P.569

1 診療の概説

 産婦人科領域のSTDで性器クラミジア感染症が注目されるなかで,淋菌感染症はむしろSTDのハイリスク婦人での感染症と考えられ,その検査が十分に行われてこなかったといえる.しかしクラミジアとともに行われたスクリーニング検査結果をみると,妊婦などの一般婦人でもその検出率は増加しており,今後十分な監視が必要である.

 子宮頸管炎は女性淋菌感染症の代表であり,典型的な症例では膿性で緑がかった頸管分泌物を子宮口にみることもある.しかし多くの例では無症状であり,そのため積極的に淋菌培養検査,核酸増幅検査などを行うことが重要である.上行感染すれば古くから知られている卵管炎を中心とした骨盤内感染,いわゆるPIDやTOA(tubo―ovarian abscess)へと進行するほか,最近はオーラルセックスによる淋菌性咽頭炎が増加している.

 淋菌性咽頭炎は無症状であることが多いとされ,特に感染リスクの高いCSW(commercial sex workers)などでは,クラミジアと同様に子宮頸管での感染より高率との報告があり,検出検査が重要である.なお咽頭には淋菌以外のナイセリア属の感染も少なくなく,核酸増幅法の1つであるアンプリコア法では偽陽性に注意する必要がある.適宜,培養法,DNAプローブ法,LCRによる核酸増幅法などを使用する.

[付属器炎]

76.起炎菌が同定されていない時期における子宮付属器炎の対処と処方について教えて下さい.

著者: 保田仁介

ページ範囲:P.570 - P.571

1 診療の概説

 付属器炎を中心としたPIDの起炎菌は,腟に常在し上行感染する好気性,嫌気性の細菌による複数菌感染が多い.一方,若年婦人のPIDではSTDの代表であるクラミジアが起炎菌の単独感染で,あるいは混合感染で検出されることも多く,淋菌も増加している.多くは一般細菌をまず対象にして治療を開始するが,クラミジア,淋菌などでは薬剤の使用法が異なるので治療前の細菌検査は必ず行い,また症状が軽快しても再診させることが大切である.

[膀胱炎]

77.間質性膀胱炎の鑑別診断と処方について教えて下さい.

著者: 堀内和孝

ページ範囲:P.572 - P.573

1 診療の概説

 間質性膀胱炎は,頻尿,尿意切迫感,膀胱充満時の恥骨上部の圧迫感または疼痛を主症状とする“有痛性膀胱症候群(painful bladder syndrome)”に含まれる病態1)である.女性の場合,月経周期で症状が変化することがあり,性交時の痛みもしばしば経験される.欧米人の中年女性に多く2),日本人には少ない疾患とされてきたが,最近の調査上3)により,本邦でも特殊な病態ではないことが判明した.膀胱炎症状を主訴とする中年女性を診察するうえで常に念頭に置くべき疾患である.

 病因として,膠原病や自己免疫疾患などの炎症説,膀胱上皮細胞間の結合弛緩説,内分泌説,血管およびリンパ管の閉塞説,感染説などが唱えられているが,未だに真の病因は不明である.特異的な病理組織学的所見として,膀胱粘膜透過性の亢進と膀胱間質の肥満細胞浸潤4~6)を認める.

 理学的所見として特異的なものはないが,膀胱部の圧痛,腟内診による膀胱底部,上側方円蓋部,尿道側方に沿った疼痛を認め,膀胱容量は60 ml以下のことが多い.尿中に白血球を認めるが,尿培養,尿細胞診は陰性である.一般的に,非充満時の膀胱鏡所見は正常で,Hunner潰瘍と呼ばれる出血性潰瘍を認める頻度は高くない.麻酔下において,80~100 cm水中圧で膀胱を350 ml以上に1~2分間拡張すると,glomerulationと呼ばれる斑点状の出血を頂部,後壁,側壁に認めることがある.しかし,glomerulationは間質性膀胱炎に特異的な所見ではなく,放射線療法後や化学療法後などでもみられる.

78.難治性で再発を繰り返す膀胱炎の鑑別診断と処方について教えて下さい.

著者: 堀内和孝

ページ範囲:P.575 - P.577

1 診療の概説

 女性は解剖学的特徴,そのほかの要因により細菌が尿路に侵入しやすく,膀胱炎になりやすい(表1).膀胱炎は経過により急性と慢性に分類される.急性膀胱炎は性的活動期の若い女性に多く,急性に発症し症状も強いが,治療に対する反応は良好で,抗菌薬を3~5日間投与すれば治癒する.一方,再発を繰り返す膀胱炎や難治性膀胱炎のほとんどにおいて,宿主側の要因(基礎疾患),細菌側の要因,薬剤側の要因が影響している(表2, 3).

 宿主側の要因として,尿路の基礎疾患,感染防御能が低下する全身疾患の併発,易感染性薬剤の服用が挙げられる.感染防御能低下が強いほど原因菌の種類が増加して難治性となり,薬剤耐性も出現しやすくなる.腟内細菌叢が乱れると腟分泌物のpHが高くなり,細菌繁殖に有利に働く.尿路の基礎疾患としては神経因性膀胱が最も多く,次いで膀胱腫瘍,膀胱結石などがみられる.難治性で再発性の膀胱炎では,基礎疾患の正確な把握と適切な尿路管理が必要である.

 細菌側の要因として,複数細菌感染,菌交代,耐性獲得,バイオフィルム形成が挙げられる.再発時には前治療の影響を受けて,緑膿菌,セラチア,エンテロコッカスなどの薬剤耐性菌が分離されることが多く,複数菌感染例も少なくない.また,治療当初は有効であったものが,宿主の感染防御能の低下により菌交代現象を起こし,菌交代症へ移行することもある.さらに,ほとんどの細菌は,菌体外多糖類(グリカリックス)を産生し,細菌バイオフィルムを形成する1).抗菌薬はバイオフィルムおよびその中の細菌に対して無効なため,再発性の難治性病巣となる.

 バイオフィルムおよび基礎疾患を除去しない限り,抗菌薬による治癒は期待できない.また,薬剤の特性と薬剤の相互作用を熟知し,適切な抗菌薬を選択することが重要である.

V. 腫瘍 [子宮筋腫]

79.29歳の女性.超手拳大の子宮筋腫があり手術を勧めましたが,未婚であり月経困難症もあまり強くないため手術を受けたくないといいます.対処と処方について教えて下さい.

著者: 榎本隆之 ,   上田豊 ,   中嶌竜一 ,   村田雄二

ページ範囲:P.580 - P.581

1 診療の概説

 子宮筋腫は性成熟期の女性の約30%に認められるエストロゲン依存性の良性腫瘍である1).治療には手術療法,GnRHアゴニスト療法,対症的薬物療法,子宮動脈塞栓療法などがあるが,筋腫が存在するだけでは必ずしも治療の対象とはならない.すなわち治療の対象となるのは,悪性疾患の可能性が疑われる場合,子宮筋腫に起因する自他覚症状がある場合,不妊・流早産などの原因と考えられる場合などである.すぐに治療対象とならないような症例では,定期的な経過観察が必要である.

80.手術前に筋腫を縮小させる場合と,手術を目的とせず過多月経を抑え貧血を改善させる場合の薬剤の使い分けについて教えて下さい.

著者: 榎本隆之 ,   上田豊 ,   中嶌竜一 ,   村田雄二

ページ範囲:P.582 - P.583

1 診療の概説

 子宮筋腫に対する手術療法としては筋腫核出術や子宮摘出術が行われるが,術前に筋腫を縮小させることができれば,出血や他臓器損傷といった手術による合併症を減少させられるだけでなく,腟式手術や腹腔鏡下手術も可能となり,手術侵襲も減らすことができる.このために用いられるのがGnRHアゴニストである.一方,過多月経に伴う貧血を認める症例において保存的治療を行う場合には,低用量ピルやEP合剤が用いられる.低用量ピルやEP合剤は,子宮筋腫を増大させることなく過多月経や月経困難症を改善できる.貧血に対しては鉄剤なども用いられる.

81.55歳の閉経後女性.特に症状はありませんが,がん検診の際に子宮に筋腫様の腫瘤がみつかりました.以後の対処について教えて下さい.

著者: 榎本隆之 ,   上田豊

ページ範囲:P.584 - P.585

1 診療の概説

 閉経後に子宮に認められる筋腫様腫瘤は子宮平滑筋肉腫との鑑別が重要である.子宮筋腫がエストロゲン依存性で閉経後縮小するのに対し,子宮平滑筋肉腫は多くが閉経後に発生する.頻度は10万人に1~2人と比較的稀であるが,子宮筋腫との鑑別は難しく,その予後は不良である.閉経後に子宮に筋腫様腫瘤を認めた場合,臨床経過や超音波所見,MRI所見,血清LDH値などを参考に注意深い対処が必要であり,子宮平滑筋肉腫を疑う場合は速やかな手術が望まれる.

[卵巣腫瘍]

82.40歳の女性.左卵巣に6~7cm径の囊胞性腫瘤がありますが,悪性でなければ手術を受けたくないといいます.対処について教えて下さい.

著者: 榎本隆之 ,   中嶌竜一 ,   上田豊 ,   村田雄二

ページ範囲:P.586 - P.587

1 診療の概説

 卵巣腫瘍の診断については,まず内診で卵巣腫大を指摘し,超音波検査で腫瘍の大きさや性状を調べるという手順が一般的である.そして卵巣腫瘍であると診断されれば,悪性所見の有無や腫瘍の組織型を推定するために造影CT検査や造影MRI検査を行い,またその際に腫瘍マーカーの測定も行う.

 超音波による卵巣腫瘍の診断で,Steinkampfら1)は,経腟超音波検査で確認された片側の卵巣囊腫について,腫瘍内に壁在結節や乳頭状増殖を認めない腫瘍をGroup 1,認めるものをGroup 2としたところ,Group 1では660例中,境界悪性を含めた悪性腫瘍を7例(1.0%)に認め,Group 2のものでは644例中24例(3.7%)に認めたとし,超音波診断のみでは良・悪性の鑑別には十分ではないことを示唆している.

 卵巣腫瘍が径5cmを超える場合は悪性の頻度が高まるため,超音波検査に加え造影CT検査,造影MRI検査がよく行われる.CTとMRIの比較では卵巣腫瘍と子宮筋腫や卵管水腫との鑑別がつけやすく,嚢胞性奇形腫や内膜症性囊胞など腫瘍の組織推定ができることから,MRIが好まれる.すなわち,MRI検査で囊胞性病変を示し,T1強調画像で高信号を呈する場合には脂肪もしくは出血であることが多く,脂肪抑制T1強調画像で信号が抑制されれば脂肪であり成熟囊胞性奇形腫を考える.また脂肪抑制T1強調画像で高信号を示せば出血であり,他の臨床所見が一致すれば子宮内膜症性嚢胞であると考えられる.造影MRI検査で囊胞性腫瘤に壁在結節や乳頭状増殖部分が認められ,その増殖部分が造影されている場合には悪性を強く疑う.MRI検査の卵巣癌の正診率は78~95%と報告されており,造影CT検査の正診率もほぼこれと同程度である2)

 CTやMRI検査で明らかな悪性像が認められず,おそらく良性腫瘍であると考えられた場合でも,腫瘍径が6~7 cm以上であれば茎捻転の起こる可能性が5~7%程度,また破裂の可能性が3%前後と報告されている3, 4).卵巣腫瘍の茎捻転はいうまでもなく婦人科緊急疾患の1つであり,迅速な処置がとられない場合には重篤な転帰をとる.特に成熟囊胞性奇形腫(皮様嚢腫)の場合には破裂すると強い化学性腹膜炎を起こすこと,また悪性転化率が1%程度であることがよく知られている.茎捻転,破裂の可能性,将来の悪性転化の可能性,これに加えて画像診断上ほぼ良性と診断されても悪性が上述のごとく1%程度あることから,良性腫瘍であると考えられても手術を勧めるべきである.

 ただし,卵巣腫瘍が単房性で腫瘍内容物も漿液性と考えられる場合には,閉経前の女性であれば機能性囊胞(functional cyst)の可能性を除外することが必要である.Ekerhovdら5)は閉経前の片側の卵巣腫瘍により手術した927症例中181例(20%)が機能性囊胞であったと報告しており,特に生殖年齢で経口避妊薬を内服しておらず,腫瘍が片側性,囊胞性で可動性良好であり,腫瘍径が10cmを超えない際には機能性嚢胞を疑う必要がある.機能性嚢胞が疑われた場合は1~2か月後に腫瘍サイズを再検するが,ゴナドトロピンを抑制するために経口避妊薬を6週間程度投与し,再検すると鑑別が容易である.

 腫瘍マーカーは,一部の組織型では術前診断および治療効果判定,予後推定の点で非常に有用である.卵巣胚細胞性腫瘍(未分化胚細胞腫,内胚葉洞腫瘍,胎芽性癌,未熟奇形腫)および卵巣性索腫瘍(セルトリ細胞腫,ライディク細胞腫)でAFP,特に絨毛性疾患にはHCGが高い陽性率を示す.上皮性卵巣腫瘍で最も高頻度に用いられる腫瘍マーカーとしては,一般にCA125,CA19―9,CA72―3,CEAなどであるが,いずれも良・悪性の診断の決め手にはならない.例えば,上皮性卵巣腫瘍で最もよく用いられるCA125の卵巣癌での特異性,感受性はそれぞれ35%,80%である.

83.卵巣癌の診断や術後外来管理に有用な腫瘍マーカーの概略について教えて下さい.

著者: 榎本隆之 ,   中嶌竜一 ,   上田豊 ,   村田雄二

ページ範囲:P.588 - P.589

1 診療の概説

 上皮性悪性腫瘍(卵巣癌)については,腫瘍マーカーとして一般にCA125,CA19―9,CA72―3,CEAが用いられる.上記のマーカーはいずれも術前に悪性であることを診断する意味では特異性が高いとはいえないが,術後の治療効果判定や再発の指標としての有用性が報告されており,なかでもCA125が最も有用であることが報告されている.また,従来のWHOの抗腫瘍効果判定基準に代わるものとして注目されているRECIST(response evaluation criteria in solid tumors)の規約においても,判定基準の1つとしてCA125の減衰度による評価基準の採用が検討されている1)(表1).

 CA125はモノクローナル抗体OC125により認識されるムチン性のエピトープで,腹膜や胸膜などの体腔上皮に局在する抗原であり,CA125の上昇は婦人科癌のみならず,消化器癌や肺癌においてもみられ,軽度の上昇は肝疾患にも認められる2).また,婦人科腫瘍におけるCA125の上昇は良性腫瘍で30%,悪性上皮性腫瘍では術前の85%の症例に認められ,I期の卵巣癌の50%,II~IV期の90%の症例で上昇が認められる3)

 またCA125の値は腫瘍体積を反映し,術後の値は単独で予後決定因子となる4, 5).抗癌剤治療後のCA125値の推移をRustinの基準に準拠して評価した場合,測定可能病変に基づく効果判定とよく相関することが示されている6).卵巣癌の術後症例において,臨床的に再発が確認できる数か月前よりCA125が次第に上昇しているという報告は数多く6~8),CA125が正常上限を超えてから臨床的再発確認までの平均期間は135日7)であり,正常上限値の2倍を超えてから63日8)とされている.このことからCA125の測定は最低3か月ごとに行うべきである.もしCA125が高値を示した場合,測定誤差を考慮して必ず2回以上の計測を行い,いずれも正常上限の2倍を超えて上昇していることを確認する.2回以上の計測値がいずれも正常上限の2倍を超えている場合,臨床的に再発している可能性は83%である.

 感度には限界があるものの,CA125が卵巣癌再発の指標として重要であることには論をまたないが,臨床的再発がCA125の上昇によって予測された場合,再発に対する治療をいつから行うかについてはまだ明確な結論は出ていない.現在CA125値の上昇した時点からの治療群と臨床所見から,再発を確認したあとの治療群との比較臨床試験が進行中である(EORTCとThe Medical Research Council).また再発卵巣癌の中にはCA125が異常値をとらない症例が10~20%あるため,卵巣癌の経過観察の手段としてはCA125のみに頼るのではなく,CT検査,胸部X線撮影などの画像診断の併用が必要と考えられる.そして,CA125で再発を疑った場合にCT検査,MRI検査などで病変が認められない際には,核医学検査の一種であるFDG―PET(fluoro―deoxy―glucose positron emission tomography)の有用性も報告されている9)

84.進行卵巣癌の外来維持化学療法について教えて下さい.

著者: 榎本隆之 ,   中嶌竜一 ,   上田豊 ,   村田雄二

ページ範囲:P.590 - P.591

1 診療の概説

 現在,進行卵巣癌に対する寛解導入化学療法としてpaclitaxel+carboplatinがfirst line chemotherapyとして使用されており,高い奏効率をあげている.しかし,臨床的に完全寛解(complete response)となった症例の約50%が1年以内に,約80%が2年以内に再発することが知られており,再発卵巣癌に対する化学療法(second line chemotherapy)は,現在のところどのような薬剤の組み合わせでも奏効率は低く,完全治癒の可能性は低い.したがって,進行卵巣癌の予後を改善するためには,寛解導入後,卵巣癌の再発を防ぐことが重要であり,このような見地から進行卵巣癌の維持化学療法に関して各国でさまざまな無作為比較試験が行われている(表1).なかでも初回化学療法にて寛解導入後にpaclitaxel(タキソール(R))による継続治療を行った第II相試験で,副作用が少なく臨床的に有用性であることが確認されたため,米国ではpaclitaxel(タキソール(R))による外来維持化学療法の無作為比較試験(GOG178)が施行されている.

 2002年のASCO(米国癌治療学会)ではこのGOG178の中間報告がなされ,paclitaxelを維持化学療法に用いることにより無病生存率が改善することが示されたので,これについて紹介する.

 白金製剤であるpaclitxel(タキソール(R))にて著効(CR)が得られた患者を,paclitaxel(タキソール(R))135 mg/m2の外来での毎月1回投与を3か月施行した群と12か月施行した群に無作為に振り分けて治療成績を比較した(図1).2001年9月までに予定の約50%の227症例が登録され,そのうち3か月投与群が112症例中34症例,12か月投与群が110症例中12症例の計54症例で再発が認められた.3か月投与群と12か月投与群との比較では,12か月投与群で有意に無病生存期間の延長が確認された(cox model analysis, p=0.0023).無病生存曲線を図2に示す.

 この中間解析から,12か月の無病生存期間の延長が明らかに有意であるとして,この比較試験は終了された.中間解析結果が報告されたのち,多くの患者が12か月投与群に変更されたため,生存期間に関する群間差は不明のままとなっている.なお,この試験では,投与終了後に再発が急増しており,さらに化学療法を延長する必要がある可能性が示唆された(表2).Paclitaxel単剤の12コースの維持療法が標準的治療といえるには,維持療法なしの群と比較して生存期間が有意に延長することを確認する必要がある.

[子宮頸癌]

85.子宮頸癌の放射線治療に併用する化学療法について教えて下さい.

著者: 塩沢丹里 ,   小西郁生

ページ範囲:P.592 - P.593

1 診療の概説

 子宮頸癌の治療は従来より手術療法および放射線療法が主体であり,子宮頸癌に対して放射線療法前にネオアジュバント化学療法を行うことの有用性はほとんど否定された.化学療法は放射線増感作用のある5―FUを中心に補助的に行われていたにすぎず,その有用性は限定されたものであった.しかし,CDDPに放射線増感作用が見いだされるに至り,子宮頸癌の放射線療法と化学療法の併用療法(concurrent chemoradiation therapy : CCR)の有効性が1990年の後半から検討されるようになった.特に1999年から2000年にかけて,米国においてGOGをはじめとする大規模な5つの比較検定試験が行われた(表1).これらの試験で用いられたのはCDDP単独か,あるいはCDDP+5―FUのレジメンであったが,結果はCCRの有効性を支持するものであった1~2).その後の報告でもCCRの有効性を示すものが多かった.

 CCRは,現在では最もevidence gradeの高い治療と考えられ,急速に普及している.その作用機序として,薬剤の放射線増感効果と併用による相加効果の2つが考えられている.

86.進行子宮頸癌の外来維持化学療法について教えて下さい.

著者: 塩沢丹里 ,   小西郁生

ページ範囲:P.594 - P.595

1 診療の概説

 維持化学療法とは,本来,手術や放射線で治療が完遂したあとの微小残存病変に対し,低濃度で持続的に抗癌剤を投与することによって再発を防ぐものである.癌は,手術で摘出したり,放射線を照射することなどによって肉眼的に病巣が消失してもしばしば再発する.これは顕微鏡レベルで癌細胞が残存しているためと考えられる.顕微鏡的に残存した細胞は増殖能が低く,多くは休止期細胞にあるといわれている.このような細胞に対しては,寛解導入方法で使用するような高濃度の抗癌剤を投与しても,抗癌剤は癌細胞に取り込まれず抗腫瘍効果は低いため,抗癌剤の血中濃度を少量であるが一定レベル以上に維持させる維持化学療法が試みられている.

 これに関し,近年,JGOGにより頸癌根治手術後,あるいは放射線療法後の症例で,5―FU維持量(200 mg~300 mg)を1年間投与した群を非投与群と比較をしたところ,特に根治手術+放射線治療後の群で投与群が非投与群と比較して5年生存率が有意に(10%)延長したという報告がなされた1)

 その一方,進行頸癌や再発癌で強力な化学療法の適応とならない場合,維持化学療法の1つとして休眠療法(dormancy therapy)が注目され,特にトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシド経口剤投与の有用性が検討されている.エトポシドは,従来,悪性リンパ腫や肺小細胞癌に有効であると報告されてきた.しかし子宮頸癌分科会において,子宮頸癌再発例および子宮頸癌III期,IV期の未治療例で,エトポシド1日1回50 mgを21日連続経口投与したのち1~2週間休薬し,これを1コース以上反復するというプロトコールを施行したところ,70例中,CR1例,PR18例を認め,計27%で有効であったと報告している2)

[子宮体癌]

87.子宮内膜異型増殖症の対処と処方について教えて下さい.

著者: 塩沢丹里 ,   小西郁生

ページ範囲:P.596 - P.597

1 診療の概説

 異型を伴わない子宮内膜増殖症はエストロゲン優位の環境による増殖性変化であり,この環境を正常化させれば治癒する可能性があると考えられる.一方で,異型増殖症はその多くがすでに遺伝子変化をきたしており,約30%が内膜癌に進行するため治療が必要である.子宮内膜増殖症の症状は不正子宮出血と過多月経であり30~40歳代で高頻度となるが,無排卵周期がその背景になっていることが多い.本症が疑われた際には,子宮鏡検査と内膜の全面掻爬で正確な組織診断を得ることがきわめて重要である.

 本疾患は,挙児希望のない女性では単純子宮全摘出術が適応となるが,挙児希望の女性や若年女性では保存的に黄体ホルモン療法を行う.

88.子宮体癌に対する薬物療法に用いられる薬剤と,その使用基準について教えて下さい.

著者: 塩沢丹里 ,   小西郁生

ページ範囲:P.598 - P.599

1 診療の概説

 子宮体癌はわが国では近年急速に増加しており,さらに有効な治療法の開発が急務な疾患である.子宮体癌患者に対する外来ベースの経口的薬物療法は,現在,ほとんど行われていない.すなわち化学療法は,まず手術療法が行われ,摘出標本にて組織分化度G3,筋層浸潤>1/2,脈管侵襲著明,リンパ節転移陽性,その他の子宮外進展陽性など再発リスクの高い症例に対して,術後追加治療として施行される.一方,III~IV期の進行例では当教室ではまず化学療法を施行し,その後に手術を行い良好な成績を得ている.薬剤として CAP(cisplatin+adriamycin+cyclophosphamide)療法が用いられ,比較的高い(31~56%)奏効率を得ている1).さらに1990年代後半にはtaxolが導入され,こちらも主にTJ(taxol+carboplatin)療法を中心としたレジメンで60~80%と高い奏効率が報告されている1)

 現在のところ,CAPとTJの有効性に関する比較試験の報告は少ないものの,2002年のGOG177のrandomized studyで,進行再発体癌に対するAP(ADR 60 mg/m2, CDDP 50 mg/m2)とTAP(TXL 160 mg/m2, ADR 45 mg/m2, CDDP 50 mg/m2)の比較検討が行われ,奏効率はAP投与群で33%,TAP投与群では57%で,有意にTAPのほうが高いという報告がされている2)

[術後排尿障害]

89.広汎性子宮全摘出術後と膀胱瘤修復術後の排尿障害のそれぞれの治療法について教えて下さい.

著者: 工藤隆一 ,   伊東英樹 ,   斉藤豪

ページ範囲:P.600 - P.603

 広汎性子宮全摘出術後と膀胱瘤修復術後の排尿障害は,主たる原因が広汎性子宮全摘出術後では神経因性であることが大半を占め,一方の膀胱瘤修復術後では修復不全や新たに生じた尿道の過屈曲・狭窄や膀胱壁の過剰縫縮などの形態異常に起因することが多い.このように病態の原因が全く異なるために「広汎性子宮全摘出術後の排尿障害」と「膀胱瘤修復術後の排尿障害」に分けて,それぞれ解説する.

[リンパ浮腫]

90.広汎性子宮全摘術後,早期に発生したリンパ浮腫,リンパ管炎,下肢蜂窩織炎の対処と処方について教えて下さい.

著者: 野田雅也 ,   工藤隆一

ページ範囲:P.605 - P.607

1 診療の概説

 婦人科悪性腫瘍の治療後にしばしば下肢のリンパ浮腫を認めることがある.リンパ浮腫は,骨盤内リンパ節摘出術や放射線治療により鼠径部でのリンパ流の障害やうっ滞が起こり,それが継続し発症する.発症に至る間,最初にリンパ管は中心の動脈(下肢の場合は大腿動脈など)周囲のリンパ管のうっ滞によるリンパ内圧の上昇に始まり,リンパ管の側副路が発達し全身循環に帰す機序が働くが,さらにその側副路でリンパ流のうっ滞が持続すると,その外側の皮下微小リンパ管の使用が中心になる(図1).このように,リンパ流のうっ滞とリンパ管内圧の上昇により,リンパ管からのリンパ液の漏出が起こり3rd spaceにリンパ液が溜まるため,続発性リンパ浮腫が形成される.

 問題は,皮下リンパ管に滞っている多量のリンパ液である.健常者は,表在リンパ管に極微量のリンパ流しかないため起こりえないが,リンパ浮腫患者は,皮膚の創傷,虫刺され,水虫などにより容易にリンパ管の破碇を起こし,リンパ管内の感染をもたらすことになる.皮下微小リンパ管内はほとんど還流が少ないため,細菌の流出が少なく,炎症が下肢全体に広がることとなる.この状態が蜂窩織炎,リンパ管炎である.

 非常に誤解されているところであるが,リンパ浮腫の場合,還流すべきリンパ流の障害からリンパ管内圧が高くなり低張のリンパ液が漏出し出現するが,生理的な状態でのリンパ管では,分子量の大きな蛋白(アルブミン,グロブリンなど)の漏出は起こらないといわれている1)

91.広汎性子宮全摘術後,再発もなく順調に経過していましたが,2年過ぎてから片側下肢の著明なリンパ浮腫(疼痛はない)が発生しました.対処と処方について教えて下さい.

著者: 野田雅也 ,   工藤隆一

ページ範囲:P.609 - P.611

1 診療の概説

 術後リンパ浮腫の問題点は,(1)いつ症状が出るかわからない疾患であること,(2)全員が発症する疾患ではないこと,(3)浮腫に個人差が大きいこと,(4)死ぬ病気ではないこと,(5)浮腫が慢性化した場合は永久に管理保護が必要な疾患であること,である.以上より,手術後の予防法がないことから,発症してから医療者により積極的な治療が行われていないのが現状となっている.

 婦人科癌にて骨盤内リンパ節摘出術後のリンパ浮腫発症に関してわれわれが多施設共同研究を行ったところ,23.5%(101/429例)に認められた.この中には一過性の患者が46.5%(47/101例),慢性的な患者が51.9%(52/101例),不明が2例であった.以上より産婦人科癌根治手術を行った場合,約1割の患者は慢性リンパ浮腫になることがわかった.以上の結果より,本疾患は癌術後の合併症として由々しき問題であり,積極的かつ有効な治療が望まれる.

 われわれは,以前より下肢リンパ浮腫に対して交感神経ブロック法が非常に有効な方法であることを述べてきた1, 2).そこで施行したブロック治療における効果について,最近のデータを中心に解説する.

[癌性疼痛]

92.終末期のがん性疼痛に対するモルヒネ製剤の処方について教えて下さい.

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.612 - P.613

1 診療の概説

 モルヒネは古くよりがん性疼痛の緩和に用いられていた.しかし,がん性疼痛に対する標準的治療薬として世界的に認知されたのは,モルヒネをキードラッグとする「WHO方式によるがん疼痛治療法」が発表されてからである.この治療法の優秀性はすでに世界的規模で立証され,わが国でも日本緩和医療学会・がん疼痛治療ガイドライン作成委員会の編集によるWHO方式に基づいた「がん疼痛治療ガイドライン」が上梓されている1).このガイドラインの概略はがん治療学書だけでなく,一般的な臨床書の多くにも掲載されているので入手も簡単であろう.本稿も同ガイドラインに則って述べる.

[癌治療の副作用]

93.子宮癌の放射線治療後にみられる下痢の対処と処方について教えて下さい.

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.614 - P.614

1 診療の概説

 子宮癌などの骨盤臓器癌に対し放射線照射を行うと,その副作用としてかなりの頻度で放射線性小腸・大腸炎が生じ,下痢として顕症化する.その発症時期と程度には個人差があるが,一般には照射開始より2~3週間後に発症し,照射終了後7~10日で軽快する1).しかし,なかには小腸・大腸潰瘍が生じて長期にわたる下痢,下血として患者を苦しめることも少なくない.危険因子として直腸照射線量の増加と,既往手術(瘢痕癒着による小腸の骨盤内固定)が挙げられている2)

94.放射線治療の副作用として発生するイレウスの対処と処方について教えて下さい.

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.615 - P.615

1 診療の概説

 一般的イレウスと同じく,放射線治療後のイレウスにも機械的イレウスと機能的イレウスがあり,機械的イレウスの中には単純性イレウスと絞扼性イレウスがある.まず,症状と画像診断からこれらの鑑別を行うことが必須である.放射線単独治療例では機能的イレウスが,手術後の後照射例では機械的イレウスが多い.

95.抗癌剤(特に白金製剤,パクリタキセル)治療による末梢神経障害の対処と処方について教えて下さい.

著者: 安水洸彦

ページ範囲:P.616 - P.616

1 診療の概説

 抗癌剤の特異的副作用である骨髄機能抑制にはG―CSF,嘔吐には5―HT3受容体拮抗薬などの対処法が確立し,代わって手足のしびれ,刺痛,感覚異常などの末梢神経障害が重要な用量規定因子(dose―limiting factor : DLF)となってきた.特に婦人科領域の悪性腫瘍治療のキードラッグとなる白金およびタキサン製剤(特にシスプラチンとパクリタキセル)は末梢神経障害の発生頻度が60~90%(Grade 1も含める)と高く1~3),患者のquality of lifeの低下を招くこともしばしばである.

VI. その他 [尿失禁]

96.咳や労作時に尿が漏れる腹圧性尿失禁の対処と処方について教えて下さい.

著者: 平井光三 ,   尾崎宏治 ,   石河修

ページ範囲:P.618 - P.619

1 診療の概説

 われわれが行ったアンケート調査によると,産婦人科外来を受診した患者19,239名のうち,5,160名(26.8%)が何らかの尿失禁症状を有するとの結果を得た.その中で,腹圧性尿失禁症状を有する者は2,429名(47.1%)と最も高頻度であり,尿失禁陽性と答えた患者の約7割を占めることがわかった1)

 腹圧性尿失禁とは,咳,くしゃみ,笑う,走る,重いものを持つなどによる腹圧上昇に伴い,膀胱内圧が上昇して尿道内圧を超えることにより,尿道より尿が不随意に漏出する状態をいう.その頻度は,分娩経験や年齢とともに増加し,40~50歳代で最も高頻度に認められるといわれている.

 診療に際しては,年齢(特に更年期),分娩経験,肥満,慢性の便秘や咳は,尿道の支配神経や骨盤底支持組織の障害を助長する可能性があるため,注目する必要がある.

 治療を行うには正確な診断が不可欠であるが,腹圧性尿失禁の診断において,問診は最も重要なステップの1つである2).外来レベルで可能な尿失禁関連の検査としては,内診(性器脱評価),残尿測定,Q―tipテスト,60分間パッドテスト,ストレステスト,鎖尿道膀胱造影などがあるが,尿失禁用問診表を用いて詳細な問診を行うことが診療を開始するうえで最も重要なことであるといえる.

97.トイレに行くまでに尿が漏れてしまう切迫性尿失禁の対処と処方について教えて下さい.

著者: 平井光三 ,   尾崎宏治 ,   石河修

ページ範囲:P.621 - P.623

1 診療の概説

 膀胱は,健常人においてはコンプライアンスの高い貯蔵臓器であり,自発的に排尿を行うとき以外には収縮はしない.ところが,明らかな神経異常が認められない不安定膀胱と呼ばれる状態では,突然あるいは何らかの刺激により不随意に収縮が起こる.症状としては,突然強い尿意に襲われ,トイレにたどり着く前に間に合わずに漏れるもので,頻尿や夜尿症を伴うことも多く,しばしば何らかの刺激により誘発される.尿意切迫感は,膀胱内圧検査により知覚性と運動性に分類される.前者は,排尿反射中枢は正常であるが,極端に強い尿意が排尿中枢からの抑制を上回ることにより生じ,必ずしも排尿筋収縮を伴っておらず,後者は,大脳の排尿中枢の障害により橋排尿中枢への抑制が働かず,膀胱への軽度の刺激でも排尿反射が誘発され排尿筋の収縮を伴うものである.

 明らかな原因が不明である場合が多く,根本的な治療は困難な場合が多いのであるが,表1に示すように,切迫性尿失禁症状を呈する基礎疾患を見落とすことがないように,十分な原因検索を怠らないことが重要である.

[接触皮膚炎]

98.乾燥した接触皮膚炎と湿潤した接触皮膚炎に対する薬剤の使い分けについて教えて下さい.

著者: 山枡誠一 ,   橘大介 ,   石河修

ページ範囲:P.624 - P.625

1 診療の概説

 接触皮膚炎は,刺激性,アレルギー性および光アレルギー性に大別される.外来物質が皮膚のバリアを通過すると,角化細胞およびランゲルハンス細胞が直接化学的に刺激される.このとき分泌されたサイトカインやケモカインによって誘起された炎症が刺激性接触皮膚炎である1).アレルギー性接触皮膚炎は,皮膚に侵入した外来化学物質に対して感作が成立したあとに同物質に再曝露された際に誘起されるT細胞を介した遅発型アレルギー反応である.典型的なアレルギー性接触皮膚炎では,アレルゲンとの接触後12時間ごろから掻痒感が,20時間ごろから湿疹病変が出現し,1~2日で極期となったのち,約7~10日で治癒する2).この病態に因子として紫外線などによる光が加わったものが光アレルギー性接触皮膚炎である.実際には原因物質が1つであっても,これらの病態が複合していることが多いと考えられる.

[外陰掻痒症]

99.難治性,再発を繰り返す外陰掻痒症の対処と処方について教えて下さい.

著者: 山枡誠一 ,   橘大介 ,   石河修

ページ範囲:P.626 - P.627

1 診療の概説

 外陰掻痒症とは,外陰に持続的な掻痒感を訴える症候であり,単一疾患名ではない.原因は多種多様である(表1)1, 2)

[術後の肥厚性瘢痕]

100.肥厚性瘢痕ができやすい体質です.術後の適切な予防法について教えて下さい.また,予防にもかかわらず高度な肥厚性瘢痕が認められた場合はどうすればよいでしょうか.

著者: 金岡靖 ,   市村友季 ,   石河修

ページ範囲:P.628 - P.629

1 診療の概説

 肥厚性瘢痕の予防と治療について最も必要な資源は医師と患者双方の根気と熱意である.肥厚性瘢痕ができやすい体質とあらかじめ判明していれば,術後時間をおかず形成テープで固定するなどの予防的処置とトラニラストの内服を開始しておくことが適当であろう.長期間の治療を要しないような皮膚切開位置と方向を選択し,瘢痕形成を最小限にとどめるために真皮縫合を行っておくことは予防の前提である.

 術後瘢痕は程度はともかく不可避に発生するが,肥厚性瘢痕とケロイドを明確に区別して取り扱う必要がある.肥厚性瘢痕とケロイドは発生初期には鑑別が困難である.しかし,ケロイドは手術創だけでなく,炎症後,外傷後,あるいは虫さされなどの微小な傷跡などにも発生し,周囲の健常組織に進行性に浸潤・拡大する性格が特徴である.ケロイドは,肥厚性瘢痕から移行するのではなく,はじめからケロイドとして発生するといわれている.また,ケロイドは治療に抵抗するのに対し,肥厚性瘢痕は治療によく反応する.しかし,ケロイドには病因論的にも不明な点が多く残されており,肥厚性瘢痕とは病理組織学的に明確に鑑別することはできないという意見も多い.治療に反応して一定期間に改善を示すものが肥厚性瘢痕であり,難治性で増悪するものがケロイドであるという区別も実際的である.

 保存的治療に反応しないケロイドに対する外科的治療は一般論としては禁忌である.

[不眠症]

101.手術前の不眠症です.対処と処方について教えて下さい.また,年齢による薬剤の使い分けは必要でしょうか.

著者: 金岡靖 ,   市村友季 ,   石河修

ページ範囲:P.630 - P.631

1 診療の概説

 睡眠障害についての解説書には,「強い刺激があると入眠が妨げられる.スムーズに覚醒から睡眠へ移行するためには緊張や刺激を避けることが必要である」という意味の記述が例外なくみられる.手術前の患者が程度の差はあれ不安や緊張を伴う心理状態に陥ることは想像に難くない.すなわち,大多数の患者にとっては手術や麻酔はできれば避けたい初めての経験であり,不安や緊張のために手術前夜にスムーズに入眠できない場合が少なくない.このため手術前夜は必ず入眠のための処方を行う施設も多い.

 このような目的で使用される薬剤は消失半減期が2~4時間の超短時間作用型ベンゾジアゼピン系睡眠薬または非ベンゾジアゼピン系睡眠薬である.非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は催眠作用に関連したベンゾジアゼピン受容体(ω1受容体)には作用するが,抗不安作用・筋弛緩作用と関連した受容体(ω2受容体)には作用しない.すなわち,ω1受容体選択性の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は抗不安作用・筋弛緩作用が弱い薬剤である.

[頻 尿]

102.膀胱炎ではありませんが頻尿を訴えています.対処と処方について教えて下さい.

著者: 角俊幸 ,   安井智代 ,   石河修

ページ範囲:P.632 - P.633

1 診療の概説

 頻尿とは,個人差や水分摂取量にも左右されるが,一般的に1日8回以上は頻尿傾向があるとされ,1日10回以上になると治療の対象となる.また,睡眠時間などによっても変わってくるが,夜間2回以上の排尿を夜間頻尿といい,治療の対象となる.頻尿の原因は,有効膀胱容量の減少によるものであるので,有効膀胱容量を増加させることが治療となる.

[子宮脱,膀胱脱]

103.子宮脱,膀胱脱を認めますが,患者は手術を受けたくないといいます.外来での管理,処方について教えて下さい.

著者: 角俊幸 ,   安井智代 ,   石河修

ページ範囲:P.634 - P.635

1 診療の概説

 加齢とともに尿道,膀胱,子宮,直腸,ダグラス窩,会陰などの骨盤内臓器が下垂し,解剖学的位置異常を生じた状態を性器脱という.原因としては,腟,子宮およびその支持組織(骨盤底筋群など)の脆弱化が大部分であるが,先天的素因や分娩による支持組織および神経組織の損傷も関与している.性器脱は,単に解剖学的位置異常だけでなく,排尿障害,排便障害,感染症などの合併症を呈する場合が少なくない1)ので,適切な対処法が必要となってくる.

 根治療法は手術療法であるが,高齢者にしばしば認められるため,今回のケースのように手術を拒否する患者は比較的多い.本稿では性器脱の保存的治療およびその補助療法について述べる.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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