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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻5号

2003年05月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊娠と薬物―EBM時代に対応した必須知識 総論

1.薬物の胎盤通過,母乳への移行動態

著者: 菅原和信

ページ範囲:P.650 - P.655

はじめに

 妊娠中の母親および授乳中の母親に薬物を投与する際に注意しなければならないことは,薬物が胎児および乳児に影響を与えるかどうかである.しかし,母親が重篤な疾患にかかり,生命に影響を及ぼす状況下では薬物の使用は不可欠である.通常は母親への治療上の有益性と胎児および乳児への危険性を考え薬物療法に当たる必要がある.

 妊婦に投与されたほとんどの薬物は胎盤を通過し,胎児の血液中に入るし,また授乳中の母親に投与されたほとんどの薬物は母乳を介して乳児の体内に入る.すなわち,妊婦あるいは授乳婦が薬物を摂取すると母親自身に影響があるだけでなく,同じ薬物が胎児あるいは乳児にも影響を与えることになる.胎児や乳児では発達系が不十分なため,代謝をはじめ母親と同じような過程をとることができず,薬物によっては胎児の正常な発達に,また乳児の発育に影響を与えることがある.

 本稿では,薬物の胎盤通過および母乳への移行動態について述べる.

2.薬物の胎児・新生児への影響

著者: 塩田浩平 ,   才津浩智

ページ範囲:P.657 - P.661

はじめに

 妊婦や授乳婦が医薬品などの化学物質を摂取した場合,経胎盤的にまたは母乳を通じて胎児や新生児へ移行し,薬物によってはその発生や発育・機能発達に影響を及ぼす.その影響が好ましくない場合に,これを「生殖発生毒性」と総称する.生殖発生毒性は(1)妊娠(受胎)の阻害,(2)受精卵や胚・胎児の胎内死亡,(3)形態発生異常(奇形)の誘発,(4)発育阻害,(5)機能発達の阻害,という形をとって現れる.本稿では,胎児と新生児に対する薬物の影響に関する一般的な事項を論じる.

3.妊娠と薬相談外来―現状と問題点

著者: 林昌洋

ページ範囲:P.663 - P.667

はじめに

 1960年代のサリドマイド事件が教訓となって医療従事者はもとより一般の妊婦にも薬物の催奇形性に対する認識が浸透し,むしろ過剰な不安を抱く傾向がある.

 このため妊娠中の薬物療法では,母体への有効性と母体および胎児への安全性の観点から薬物を選択したうえで,妊婦自身が薬物の必要性と安全性を理解できるよう説明し,積極的に治療に参加できるよう指導する必要がある.

 当院では,妊婦の服薬に対する不安を解消する目的で,産婦人科と薬剤部が共同で「妊娠と薬相談外来」を開設し,催奇形情報の提供やカウンセリングを行っている.

 開設当初5年間は約300例程度であった年間相談者が,ここ10年間は約500例で推移しており,2003年3月末の累計で6,769例を数えている.この間に催奇形性を調査した薬物,化合物は3,470品目にのぼっている.

 本稿では,この外来における薬物の催奇形性評価,妊婦カウンセリングの現状と問題点について解説する.

妊産婦,授乳婦人での薬物の選択と投与法

1.麻酔薬

著者: 半田冨美

ページ範囲:P.669 - P.671

はじめに

 本稿においては,妊産婦・授乳婦人における麻酔薬の選択と投与法について妊娠初期,妊娠中期・後期,授乳期に大別し,おのおのの時期において代表的な麻酔薬についての臨床使用における注意点をまとめた.また,催奇形性について格別の配慮を必要とする妊娠初期の麻酔について,当院で行っている音楽を用いた鎮静法について紹介した.

2.解熱・鎮痛・消炎剤

著者: 秋山敏夫

ページ範囲:P.673 - P.675

はじめに

 妊産褥婦に対し薬物を選択し投与する場合,その薬物は産婦人科医師として頭を悩ませることの一つである.添付文書に「投与しないこと」あるいは「投与しないことが望ましい」となっている場合は他の薬物を選択すればよいが,大部分は「治療上の有益性が危険性を上回っていると判断する場合にのみ投与すること」となっており,躊躇せざるを得ない.

 「投与しないこと」となっている薬物の中にも,「催奇形性を疑う」ものから,「妊娠中の投与に関する安全性は確立していない」ものまで含まれ,普段使用していない薬物を用いる場合は困難である.

 妊産褥婦,特に妊婦は妊娠中に服用した薬剤について,一般人以上に関心を持っている.おおむね薬物に対する過剰反応が多いが,妊婦を不安に到らしめる場合も少なくない.

3.喘息治療薬,去痰・鎮咳薬

著者: 佐野靖之

ページ範囲:P.676 - P.680

はじめに

 アレルギー性疾患は現代病ともいわれ年々罹患率が増加の傾向にあり,必然的に妊娠適齢期の女性においても患者は増加している.一方妊娠は女性にとって人生における大きな転機点であり,喜びもある反面,不安感も増し,胎児に対して悪い影響のあるものはなるべく避けようとする本能が働く.喘息を有する妊婦も他の妊婦と同様に胎児への影響を懸念して,喘息の治療を自己判断で減量あるいは中止してしまうことがあり,喘息症状の悪化がみられる場合もある.喘息のコントロールが不良で急性増悪に至った場合には,母体のPaO2が低下し,胎児が低酸素症に陥る結果,母体および胎児にとり重大な合併症が発現する可能性があり,子癇前症,周産期死亡増大,子宮内発育遅滞,早産,低出生体重などのリスクが高まる1).米国NIHは「妊娠中の喘息治療ガイドライン」1)を公表し,妊娠中の喘息治療薬投与による母体および胎児へのリスクよりも,喘息のコントロール不良によるリスクのほうがはるかに大きいと述べており,妊娠中の喘息管理の重要性を強調している.さらに専門医が喘息を適切に管理している場合には前述のリスクは認められないとの報告もあり2~4),通常の喘息患者と同様に喘息状態の評価,喘息増悪因子の回避,薬物治療,患者教育に加え,母体および胎児の状態の客観的評価を行うなど,適切な管理がきわめて重要である.

 本稿では妊娠中の喘息の管理とその治療薬,ならびに授乳中の薬物投与について概説する.

4.抗菌・抗ウイルス・抗真菌剤

著者: 深田幸仁

ページ範囲:P.681 - P.685

はじめに

 妊産婦および授乳婦に対して薬物投与を行う際には,抗菌・抗ウイルス・抗真菌剤に限らず,妊娠の薬物動態に及ぼす影響,薬物の経胎盤移行性および胎児への影響,母乳中への移行などに細心の注意を払う必要がある.また漫然たる抗菌剤の投与および強力な抗菌剤の無意味な予防投与は,免疫力の低下している妊婦には耐性菌誘導の引き金になるため避けるべきである.

5.副腎皮質ステロイド,免疫抑制剤

著者: 吉田幸洋

ページ範囲:P.686 - P.689

はじめに

 母体に薬剤が投与される場合として,妊娠中に生じた偶発合併症に対する治療として薬剤の使用が考慮される場合のほかに,もともと慢性疾患で治療を受けていた患者が妊娠し,妊娠中も,妊娠前からあった疾患の治療を継続しなければならない場合が考えられる.さらに特殊な場合として,胎児に対する治療を目的に,薬物の経胎盤的移行を期待して,母体に当該薬物が投与される場合もある.

 副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド,コルチコステロイド : CS)や免疫抑制剤は,種々の自己免疫疾患やリウマチ性疾患などで用いられる薬物であり,強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を有する薬物である.したがってこれらの薬物は,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus : SLE)や関節リウマチ(rheumatoid arthritis : RA)といった疾患で薬物治療中の患者が妊娠した場合に,使用の継続について考慮しなければならない薬剤ということができる.

 一方,ある種の副腎皮質ステロイドは,胎児に対して肺や脳といった重要臓器の成熟を促進する効果があることが知られており,早産未熟児の出生が予想される場合に経母体的に投与される場合がある.

 本稿では,副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤が投与されていた患者が妊娠した場合を想定し,これらの薬剤の胎児への影響や母乳移行による新生児への影響について解説し,妊産婦への投与上の注意点について述べてみたい.

6.向精神薬,抗うつ薬,抗てんかん薬

著者: 神谷直樹

ページ範囲:P.691 - P.695

はじめに

 妊娠の可能性のある女性が薬物を服用している時に妊娠の診断が確定されることはよくある.そしてその薬物が胎児を障害する可能性があるか否かが最大の関心事となり,「100%安全である」という言葉を期待し受診する.たとえその薬物が解熱剤1錠であってもである.すなわち,薬物はすべて絶対禁忌というのが一般的患者心理である.一方インターネットの普及によりかなり詳細な情報が容易に入手できるという現状がある.例えば「http : //www.okusuri110.com/kinki/ninpukin/ninpukin_01―01.html/」というサイトをご覧いただきたい.われわれの知識をはるかに越えた情報が満載されている.このような状況下で受診者に「一般集団中の先天異常の頻度では新生児の約3%は何らかの異常を有し,環境要因が原因として推定できるものはそのうちの約7%であり,薬物などの化学物質に起因するものは約1%といわれている1)」という新生児異常の原因は薬物のみではないという説明からはじめ,薬物の種類,薬用法・用量,服薬期間と妊娠期間との関係はどうかなどの諸点を調査,検討することになる.また喘息・糖尿病・甲状腺機能亢進症・てんかんなど治療上投薬が必要な場合であっても,妊婦は胎児に対する副作用を心配し不安を隠しきれず,服薬を中断してしまうことがよくある.このような問題点を少しでも減少させ,妊婦の不安を少しでも軽減させるためには,薬物の胎児または母乳移行動態を知り,薬物の影響などについて説明に勤める必要がある.しかし妊婦が安心できる情報のない薬物が数多くあり,苦慮することも多い.

 現在われわれが参考にできる薬物による催奇形性の評価に関しては次の4つがあり,それぞれの判定基準を表1に記載する.この薬物自体の評価に服用妊娠時期を加味し最終評価とする.

 1)医療用医薬品添付文書

 2)FDA薬剤胎児危険度分類基準(FDA Pregnancy Category)

 3)虎の門病院の薬剤危険度評価基準

 4)オーストラリア基準

 これらは新しい知見が集積されると改訂されるので,最新のものを利用いただきたい.次に疾患別の知見などを記載する.

7.利尿・降圧薬,循環器病薬―特に妊娠高血圧症病態における注意点

著者: 中本收 ,   本久智賀 ,   日高敦夫 ,   伊庭敬子 ,   羽田祥子 ,   松本雅彦 ,   松尾重樹

ページ範囲:P.696 - P.701

はじめに

 妊娠時の高血圧治療に当たっては母体と胎児双方の安全な治療方針(降圧治療)と適切な分娩時期の決定がされなければならず,次に薬剤の選択とその使用方法が存在する.本稿ではまず,妊娠中に発症した高血圧,蛋白尿病態に対する管理指標を示し,そのうえで具体的な薬剤の特性と注意点を述べる.循環器病薬としての心不全治療薬,抗不整脈剤などの循環器内科領域薬剤は割愛した.

 なお妊娠中毒症の用語は,2003年前半現在,診断基準を含め見直しが進められている.妊娠中毒症の用語が多くの病態,病型および複数の訳語として使用され混乱しており,あえてICD―10疾病分類に相当する訳語を本稿のみで使用した.すなわち,妊娠中に高血圧病態を発症する病態の総称として妊娠高血圧症病態(hypertensive disorders of pregnancy),その病型として,妊娠高血圧型(gestational hypertension : h型,H型に相当),妊娠高血圧+妊娠蛋白尿型(gestational hypertension with gestational proteinuria : hp型,Hp型,hP型,HP型に相当し,米国でのpreeclampsiaに相当)と記載した.また浮腫の有無は考慮していない.そして本稿における管理指標として記載した血圧の重症度は,米国合同委員会(JNC)第5次報告による高血圧分類に基づいて記載した.すなわち,
極めて重症 : 収縮期(sBP)210 mmHg以上

        拡張期(dBP)120 mmHg以上

重 症 : sBP180~209 mmHg

dBP110~119 mmHg

中等症 : sBP160~179 mmHg

dBP100~109 mmHg

軽 症 : sBP140~159 mmHg

dBP90~99 mmHg

である.

8.消化器病薬

著者: 江口勝人

ページ範囲:P.703 - P.705

はじめに

 日常診療の中で,妊婦(その時点では妊娠と認識していない場合がある)が合併症を有し,やむなく薬剤を投与せざるを得ない状況はよく遭遇することであるが,胎児への影響という点でしばしば問題となる.胎児に対する影響とは,主に催奇形性と健康障害である.今も昔も薬物の胎児への影響を考慮して,人工妊娠中絶を行うかどうかは,患者のみならず産婦人科医にとっても大きな問題である.この重要な判断を下す(make decision)には,合併する疾患が胎児に及ぼす影響(特に治療しない場合)と,使用される薬剤の胎児への影響の両面を理解していなければならない.

 妊婦に薬剤を投与する際,基本的に十分な説明と同意(informed consent)を得る必要があることは言うまでもないが,妊婦に投与して絶対に安全な薬剤はない.ほとんどの薬剤情報(DI)に記載されているごとく,治療効果のほうが胎児の安全性を上まわると判断された時のみ投与するのが原則である.

 妊娠婦人が消化器病(胃潰瘍,十二指腸潰瘍,潰瘍性大腸炎など)を合併する頻度は比較的少ないと考えられるが,消化器病様の症状を呈することはしばしばである.いわゆるつわり(妊娠悪阻)や便秘などがそれである.本稿ではこれらの点について,なるべく実際の臨床から述べるため,あえて疾患別に記述したことを御理解いただきたい.

9.糖尿病薬

著者: 和栗雅子

ページ範囲:P.707 - P.711

はじめに

 糖尿病の薬物療法としては,経口血糖降下薬とインスリンがある.前者には,スルホニル尿素(SU)薬,ビグアナイド(BG)薬,αグルコシダーゼ阻害α―GI)薬,インスリン抵抗性改善薬など作用機序の異なる多種の薬剤がある.しかし,従来より一般的に妊娠中は経口血糖降下薬は使用しない.なぜなら,インスリンは胎盤を通過しないが,SU薬は胎盤を通過し乳汁中にも移行することがわかっており,胎児の先天奇形や高インスリン血症,新生児低血糖の報告がみられるからである1, 2).BG薬は乳酸アシドーシスを起こしやすく催奇形作用も指摘されており,子癇前症や周産期死亡率が増加したという報告3)もある.また,α―GI薬やインスリン抵抗性改善薬などは,まだ胎児への安全性が確立されておらず,乳汁中への移行もみられるため使用されていない.ただし,最近一部のSU薬4)やBG薬5)で妊婦に使用して問題なく有効であったという報告もみられており,費用やquality of life(QOL)も含めて考慮すると今後使用されるようになるかもしれない.

 しかし,現段階では経口血糖降下薬の使用は時期早尚と思われるので,ここでは主にインスリン療法について述べる.

10.甲状腺疾患薬,その他の内分泌疾患治療薬

著者: 貝原学

ページ範囲:P.712 - P.715

はじめに

 代表的ないくつかの内分泌疾患合併妊娠について,病態ならびにエビデンスに基づいた治療法,主として薬物療法について概説する.

11.止血薬,抗凝固薬

著者: 宮部勇樹 ,   金山尚裕

ページ範囲:P.716 - P.719

はじめに

 妊娠中は血液凝固能が亢進し,線溶能は低下している.これは非妊時に比べて,妊産婦が妊娠,分娩を通じて出血の危険に常に晒されているため,自分自身を防御するために合目的な機構といえよう.ところが,このことは血栓症を誘発したり,DICの誘因となりうる.欧米では妊産婦の静脈血栓性疾患は,同年齢の非妊娠女性の5倍の発症率である1).また最近の報告では1,627妊娠に1例の割合で深部静脈血栓症が発症するとされている2).また先天性の凝固因子異常患者,先天性心疾患患者の生存率は上昇しており,その妊娠分娩例は増加していると思われる.そのため,抗凝固薬の適切な使用はきわめて重要である.

 本稿では,各疾患別に主要な抗凝固薬の使用法,安全性について述べる.また,止血薬についても述べる.

12.抗がん剤

著者: 落合和徳 ,   中野真

ページ範囲:P.721 - P.725

はじめに

 悪性疾患に妊娠を合併する頻度は,全妊娠の1/1,000~1/1,500程度といわれ1, 2),その中でも白血病,リンパ腫,乳がんなどが比較的多く報告されている3).抗がん剤と妊娠というテーマを考えると,抗がん剤の妊孕性に与える影響,母体の妊娠,分娩に与える影響,母胎内,出生後の児に対する影響,授乳に与える影響などさまざまな課題が上げられる.直面する問題は多岐にわたりかつ個々のケースによって状況がまったく異なるので,このような問題を解決するevidence levelの高いrandomized controlled trial(RCT)などを求めるのは極めて困難である.

 本稿では,誌面の関係から「妊娠中の抗がん剤使用」について概説する.

13.血漿分画製剤

著者: 伊東宏晃 ,   佐川典正 ,   藤井信吾

ページ範囲:P.727 - P.731

はじめに

 人の身体の構成成分である血液から血漿中の特定の蛋白を精製したものを血漿分画製剤という.したがって,その使用は一種の臓器移植ともいうべきものであり,常に慎重な適応と評価により使用されるべきである.現在,本邦で使用されている血漿分画製剤は,アルブミン製剤,血液凝固因子製剤および免疫グロブリン製剤である.近年,加熱処理や有機溶剤処理などによる不活化により,投与による各種のウイルス感染の可能性はきわめて低いとされている1).しかしながら,稀にヒトパルボウイルスB19感染による胎児への障害(流産,胎児死亡,胎児水腫)が生じる可能性があるとされており2),未知のウイルスが混入する可能性も現在のところ完全には否定できない.

 本稿では,妊産婦,授乳婦人におけるこれら血漿分画製剤の使用について述べる.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・46

What is your diagnosis ?

著者: 永井雄一郎 ,   岸本充 ,   二階堂孝 ,   石倉浩

ページ範囲:P.647 - P.649

症例 : 31歳,女性

 妊娠にて経過観察中に,直径約11 cm大の卵巣嚢腫が発見され,開腹による卵巣嚢腫摘出術が行われた.卵巣嚢腫は子宮内膜症性嚢胞であった.その際,癒着する大網が合併切除された.大網には肉眼的に白色の粟粒状の結節が多数認められた.Fig 1(HE染色 : 中拡大)にそれらの組織像を示す.Fig 2はその強拡大である.これらの結節性病変は何か?

症例

妊娠38週で発症し早期のアシクロビル静脈内投与により良好な経過を得た妊婦水痘の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   石川友一 ,   間峡介

ページ範囲:P.739 - P.743

●はじめに

 妊婦の水痘は0.05~0.3%との報告1, 2)がある.妊娠中の水痘罹患の問題点として,胎児・新生児への影響,母体への影響,治療のため使用する薬剤の副作用,院内感染が挙げられる.今回,妊娠38週で発症し,発症後第2病日からのアシクロビルの点滴静注投与が母体の症状軽減と妊娠経過に有用と考えられた水痘罹患妊婦の1例を経験した.本症例は,今後の分娩前後の水痘罹患妊婦の取り扱いについて貴重な情報を与えると思われたので報告する.

病院めぐり

NTT西日本大阪病院

著者: 徳川吉弘

ページ範囲:P.746 - P.746

 NTT西日本大阪病院は,昭和17年に当時の逓信省の所轄下に大阪逓信病院として創設され,創設以来40年間,職域病院として運営されてきました.しかし昭和58年に地域の要望に応えて保険医療機関の指定を受け,一般開放されました.その後,昭和60年の公社民営化に伴って,日本電信電話株式会社(NTT)の所轄となり,平成11年のNTTの東西分割によりNTT西日本大阪病院と名称が変更になりました.平成14年には日本医療機能評価機構の認定を受けることができました.NTTの所轄下にあるため院内のIT化が進んでいるように思われるかもしれませんが,平成15年3月にオーダーリングシステムが導入されたばかりです.今後さらにシステムを充実させ,受付の簡素化や会計事務の効率化などを行い,患者様の待ち時間の短縮をはかっていく予定です.

 産婦人科スタッフは常勤医4名と研修医1名の5人体制で,42床の病床を運営しています.症例検討会および抄読会を毎週行い,研修医の指導を行うとともに最新の情報に遅れないように努力し,日常診療に活かすようにしています.また産婦人科内だけではなく,小児科とは周産期カンファレンスを,放射線科とはMRI,CTの読影カンファレンスを定期的に行っています.

国立病院横浜医療センター

著者: 中村秋彦

ページ範囲:P.747 - P.747

 国立横浜病院(戸塚区)と国立横浜東病院(保土ヶ谷区)が統合され,戸塚区原宿に平成15年3月1日,国立病院横浜医療センターが発足しました.本院は国道1号線の交通の要所である原宿交差点に近接し,前身である旧海軍病院から受け継いだ広大な敷地を有しています.春は桜が咲き誇り,秋には美しい紅葉で彩られます.現在は旧横浜病院の建物を使用しており480床ですが,平成16年の独立行政法人に移行後には552床の新病院が建設される予定です.政策医療7分野を中心に先駆的な医療や難治性疾患などに関する診断・治療技術の開発と臨床応用に取り組んでおり,救命救急センターとしての役割も果たしています.

 生育医療も政策医療7分野の1つとして,横浜市南西部を中心に藤沢市,鎌倉市などの医療圏で,高度で先駆的診療の実施を目指しています.当院の母子医療センターは,産婦人科と小児科の2病棟で運営されており,産婦人科は常勤医4名,非常勤医1名,研修医1名が診療に携わっています.昨年度の分娩件数は603件(帝王切開率17%),そのうちハイリスク分娩は239件であり,母体搬送受け入れ数は37件です.院内・外で出産した未熟児,低出生体重児の収容数は60例でした.

Estrogen Series 56

『HRT使用の検討』

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.748 - P.749

 米国でのRCT(ランダムコントロール試験)であるWomenユs Health Initiative(WHI)の結果は2002年7月に米国医師会雑誌(JAMA)に発表され,ショックウェーブを世界に送ったが,それを受けるような形で,8月の同誌にはHRT使用例が掲載されている.著者はオレゴン大学所属.著者が根拠とするものはWHIのみならずさまざまな過去の研究も考察の対象としている.以下,その要約である.

 症例1 : 51歳の女性でHRTに関する医師の意見を求めている.この女性は過去6か月間「のぼせ」をよく経験するようになり,最近は不眠症も加わった.喫煙せず,癌の家族暦もない.

OBSTETRIC NEWS

満期前破水の管理 : 全国的コンセンサスはあるか?(米国周産期医の調査)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.750 - P.752

 満期前破水(preterm PROM : pPROM)の発生頻度は全妊娠の1~2%で,早産原因の30~40%である(Semin Perinatol 20 : 375, 1996).PPROMの取り扱いには世界的コンセンサスのある管理方法(抗生物質投与,副腎皮質ホルモン投与など)もあるが,異論がある管理方法もある(表1).

 薬剤投与に関しては,副腎皮質ホルモンと抗生物質投与は有効性が複数の研究で証明されているが,子宮収縮抑制剤投与に関しては現時点では有効性を支持する研究はない.予防的投与(陣痛発来前の投与)に関しては副腎皮質ホルモンを併用した研究はなく,抗生物質投与も標準化されていなかったという問題点があるが,研究結果を総合すると,破水後24時間から48時間以内の分娩と破水後1週間以内の分娩は有意に減少したが,母子感染と罹患に有意差はなく,新生児予後の改善にも有意差はみられなかった.

原著

前核期胚評価分類による良好分割胚の予測

著者: 菊池信正 ,   関根敏弘 ,   上条隆典 ,   伊藤理廣 ,   峯岸敬

ページ範囲:P.733 - P.737

●はじめに

 体外受精は培養技術や培養環境の改善に伴いその成績が向上してきたが,近年,その成績は頭打ちになってきている1~2).移植胚数を複数戻さないと妊娠率が維持できない状態であり,多胎などの産科合併症を引き起こす一因ともなっている.妊娠成立のためには,クオリティーの良好な胚を選択することが着床率,妊娠率向上の重要な因子と考えられる.良好胚の厳選が可能であれば,移植胚数を減数し多胎を予防するうえからも役立つと考えられる.しかしながら胚のクオリティーを機能的に評価する方法は困難であり,形態学的に評価し移植胚を選択する方法が一般的である.

 近年,分割胚以前の前核期胚の形態評価による胚選別法が注目されており,中でも前核と極体の位置関係からの新しい胚評価方法が提唱されている3).この前核と極体の位置関係が初期胚の形態評価分類であるVeeck分類とどの程度相関するかを検討したので報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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