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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻7号

2003年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 UAE―子宮筋腫塞栓療法

子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓療法―その理論と今後の問題点

著者: 中村幸雄 ,   鈴木典子 ,   安藤索 ,   葉梨秀樹 ,   葉梨満礼 ,   百村麻衣 ,   松本浩範

ページ範囲:P.894 - P.897

はじめに

 動脈塞栓療法は,1904年にDawbain1)が止血困難な頭頸部腫瘍の手術前に,パラフィンを外頸動脈に注入し止血を図ったとの記載があり,産婦人科領域では1976年には女性悪性腫瘍の出血に対して子宮動脈塞栓療法が行われている2).1994年にRavinaら3)は子宮筋腫手術の術中出血量減少のために子宮動脈塞栓術を行ったが,さらに子宮動脈塞栓術後に子宮筋腫が縮小することから子宮動脈塞栓術を子宮筋腫治療に応用した4).その後本法が子宮筋腫に対する侵襲の小さい治療法として欧米では広く普及し,数百例の症例を報告している施設もみられる.

 わが国では1999年に済生会滋賀県病院放射線科の勝盛ら5)が報告したのが最初で,産婦人科領域では1999年の川崎市立井田病院産婦人科の曽山ら6)の報告が最初と思われる.われわれも1999年12月より放射線科と協力して子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術開始し,現在では近隣の関連病院である久我山病院とともに2病院で2003年1月末現在160例の症例に行っている7~10).2001年9月には杏林大学放射線科 蜂屋順一教授,東京慈恵会医科大学産婦人科 田中忠夫教授と中村幸雄の3人が世話人となり第1回子宮筋腫塞栓治療研究会(演題数20),2002年9月には第2回子宮筋腫塞栓治療研究会(演題数30)を開催し,子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓療法の普及に努めている.

適応と禁忌と限界

著者: 鈴木昭太郎 ,   筒井章夫

ページ範囲:P.898 - P.901

はじめに

 塞栓術は,産婦人科領域では1970年代から進行末期の子宮頸がんや産後出血の止血目的で行われており,悪性腫瘍を扱う医師にとって比較的馴染みのある治療法として知られていた.1995年にRavinaら1)が子宮筋腫に対して骨盤血管造影下に子宮動脈塞栓術を施行し,子宮筋腫を手術することなく治療し得ることを報告した.彼らによると,塞栓術施行により筋腫核は16例中12例が施行後3か月の間に20~80%まで縮小したとし,その後の報告でも,塞栓術後2~4か月で子宮容量は40~60%減少することが報告されている.その後,欧米ではかなり普及し,良好な治療効果の報告が出され,2000年にはRavinaら2)は塞栓術後の12例の妊娠の報告を行っている.

 われわれは1998年10月より,子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術を放射線科と共同で開始し,2000年に3例の治療効果と塞栓術の実施手技を紹介し,3か月後にはMRI画像からも筋腫は明らかに縮小したことを報告3)した.2000年には杏林大学の安藤ら4)が8例の治療効果を報告し,治療前の筋腫核の体積を100とすると,施行3か月後には57.5%から6.2%に縮小したことを報告した.さらに,杏林大学からは2002年に中村ら5)が15例の治療成績を報告し,治療前の筋腫核の体積を100%とした場合,1か月後73.3±19.0%,3か月後46.7±25.5%,6か月後33.7±23.5%,1年後26.3±18.5%まで縮小が認められたと述べ,子宮動脈塞栓術は,高率に臨床症状の改善と筋腫核の縮小をもたらし,筋腫治療の選択肢の1つとなり得ることを期待すると結んでいる.

 われわれは2002年これまで塞栓術を行った75例の治療成績を報告6)した.詳しい内容は論文に譲ることにするが,結論の主なものをここでは記述する.

 1)75例の年齢分布は26歳から52歳に及び,平均は40.3歳となる.北海道など遠方の患者が7人おり,術後MRIによる効果の確認は68例となった.4例は治療後に筋腫核の縮小が認められず,むしろ増大傾向を認め,1例は開腹して筋腫核出術が行われた.縮小が認められたのは64例で,92.75%に効果が認められた.術前のMRIの3方向計測値の積を100として,3か月後,6か月後,12か月後の計測値を術前と比較すると,それぞれ58.50%,45.44%,40.07%と効果が認められた.

 2)75例のうち1例が術後妊娠し,経腟分娩にて2,968 gの女児を出産し,母児ともに異常は認めなかった.

 3)術後管理を適切に行うことにより,術後合併症は認めず,安全性も期待できる.

 以上から,子宮動脈塞栓術は子宮筋腫治療の選択肢の1つに加え得る治療法であると考えるとの結論に至った.さらにその後の調査により,塞栓術後9か月にて妊娠したが妊娠9週で子宮内胎児死亡と診断し,内容除去術を実施した患者が,4か月半後に再び妊娠を確認し,経過は順調であったが妊娠38週に他病院で前置胎盤と診断され,帝王切開にて2,830 gの男児を出産したとの連絡があった.これにより,われわれが行った塞栓術後に先に報告した1例に加え,計2例の健康児を出産したことを追加報告する.

 さて今回は,与えられた主題に沿って,われわれが今まで実施した症例の再検討を行い,解説を交えて記述を進める.

UAEのインフォームド・コンセント

著者: 盛本太郎 ,   岡井崇

ページ範囲:P.902 - P.905

はじめに

 インフォームド・コンセントという用語には「説明と同意」,「十分な説明,理解,納得,同意」などさまざまな訳語が用いられており,医療行為を行ううえで欠かせない重要な概念となっている.インフォームド・コンセントの具体的な作業過程としては,①医師が患者に病状や診断を説明し,その治療法についての推薦順位を含めて選択肢を示す段階(informed choice),②それらの選択肢の中から患者の自己決定権を行使して,自分の受けたい医療を自主的に決定する段階(informed decision),③これらの段階を経て同意(informed consent)を得て同意書を作成し署名する段階に分けて考えることができる1).この中で医療者として重要なのは治療法の選択肢についてそれぞれの成績,合併症を正確にわかりやすく伝えることである.

 本稿のテーマはUAEのインフォームド・コンセントに関するものであるが,UAEを治療の選択肢に加えていない施設も多く,子宮筋腫治療法としてのUAEをどのように位置付けるかに関してはまだ評価は定まってはいない.しかしマスメディア,インターネットを通じ,UAEに関する知識は確実に浸透しており,産婦人科医師として意見を求められるケースが今後,増加すると考えられる.以下にこのテーマに関する筆者の意見を述べてみたい.

術前の検査と準備

著者: 落合和彦 ,   森裕紀子 ,   渡辺明彦

ページ範囲:P.906 - P.909

はじめに

 子宮動脈塞栓術(以下,UAE)は子宮筋腫の治療法の1つとして広まりつつある.しかしUAEに伴う副作用,合併症も報告されている.本稿では,UAEを安全に行うために必要な術前検査と準備について述べる.

手技の実際と術中管理

1.カテーテルの選択と挿入手技

著者: 瀧康紀

ページ範囲:P.911 - P.913

はじめに

 UAEの対象は子宮筋腫があるということを除けば,一般的に健康で将来妊娠する可能性のある若年婦人である.透視しながら行うという手技の性質上,手技に要する時間の延長が放射線被曝の増大につながること,対象が良性疾患であることからカテーテルの挿入はスピーディかつ安全に行われなくてはならない.また子宮動脈をはじめとする内腸骨動脈分枝の選択的カテーテル挿入を行うためには,その解剖学的知識が必要である(図)1)

 覚えておくべき子宮動脈の分岐形式は以下のとおりである.①子宮動脈は前方に向けて分岐する.②特徴的なカーブを描く.③膀胱動脈,閉鎖動脈などと共通幹ないし,近接分岐することがある.④内腸骨動脈から分岐してすぐに強く屈曲することがある.⑤稀に膀胱動脈が子宮動脈と走行が似ることがある.

 塞栓時に気をつけなくてはいけないこととして,①子宮動脈は攣縮を起こしやすい,②吻合には(i)子宮動脈―子宮動脈,(ii)子宮動脈―卵巣動脈,(iii)子宮動脈―内陰部動脈など内腸骨動脈分枝がある,が挙げられる.

 さらに,異所性塞栓を避けるためにもカテーテルは子宮動脈に十分に挿入されなくてはならず,塞栓物質を注入する際には常にモニターを見ていなくてはならない.この点が単なる造影のみの場合や子宮頸癌に対する抗がん剤動注療法の場合と異なる.

2.疼痛の管理

著者: 小笠原利忠 ,   鍔本浩志 ,   香山浩二

ページ範囲:P.915 - P.917

はじめに

 従来子宮からの止血困難な出血性疾患に対して行われてきた子宮動脈塞栓術は,子宮の種々の病変(子宮筋腫,腺筋症)に対してもその有効性が認められるようになった.しかし,この手技は子宮病変に対し外科的侵襲を回避できる反面,術後耐え難い腹痛が起こる.本稿では,子宮動脈塞栓術に伴う疼痛管理に関して概説する.

術後の組織変化

著者: 山田俊夫 ,   伊藤良治 ,   藤原葉一郎 ,   小石清子 ,   遠藤紫穂 ,   山元三紗子 ,   加藤聖子 ,   中田好則 ,   竹内義人 ,   細川洋平

ページ範囲:P.918 - P.921

はじめに

 子宮筋腫に対する治療法として,子宮動脈塞栓術(以下,UAEと略す)のすぐれた臨床効果が報告1)されているが,UAEの子宮組織に対する影響については未だ十分に検討されていない.そこで本稿では,UAE後の子宮に対する影響について,UAE後の摘出子宮および子宮内膜生検組織について病理組織所見の結果をもとに述べる.

治療成績

著者: 勝盛哲也

ページ範囲:P.922 - P.925

はじめに

 本稿では,これまで発表された論文1~29)をもとに,子宮筋腫の動脈塞栓術の治療成績について概説する.

術後管理と合併症

1.手技による放射線被ばく

著者: 大野和子 ,   亀井誠二 ,   石口恒男

ページ範囲:P.927 - P.929

はじめに

 子宮筋腫の子宮動脈塞栓療法は,患者の放射線被ばくを前提とした診療である.施行医は,画像診断能力,IVR術者としての技能に加えて,患者・従事者の被ばく管理の知識を有する責任がある.また産婦人科医師は,放射線診療に対する患者の不安に応える基礎知識を身に付け,対処する必要がある.この数年,世界中で急速な広まりをみせている本治療法を安全に推進するために,放射線管理・防護の実際について解説する.

2.術後管理と合併症への対応

著者: 安達英夫 ,   本田育子 ,   佐藤哲也

ページ範囲:P.930 - P.935

はじめに

 子宮筋腫の新しい治療方法として子宮を温存する子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization : 以下,UAE)が導入され1~5),わが国でも行われるようになってきている.子宮筋腫の治療とは,腹腔内のある容積を占める筋腫塊を可能な限り取り除くことにより治療目的が達成される.ところがUAEでは一次的に筋腫組織を摘除するわけではなく,術後も残存している筋腫塊が二次的に壊死,退縮,消失することによって,随伴する諸症状が改善するわけである.このようにUAEは自己完結的治療法ではなく,UAE後に筋腫塊の縮小とともに多様な術後経過をたどる.そしてこの経過は完全には予測できないというのが現状である.UAEを実施した後,塞栓を受け壊死化した筋腫塊が残存する限り,壊死化筋腫核の行方を厳重に観察・管理し,必要に応じて有効な対策を速やかに施さなければならない.UAE後の患者管理に携わる現場から,UAE後の問題点と対処の実態を述べる.

3.卵巣機能・妊娠への影響

著者: 本田育子 ,   佐藤哲也 ,   安達英夫 ,   島田薫 ,   小林善宗 ,   井上正人

ページ範囲:P.936 - P.939

はじめに

 出産年齢の高齢化に伴い子宮筋腫や子宮腺筋症患者の中で妊孕能を温存する必要のある患者は少なくない.UAEを検討して来院した患者279名(平均年齢41.7歳)の中で,子宮を妊孕能温存という目的で残す必要のある患者の割合は実に6割にのぼった.このような場合,筋腫・腺筋症治療は不妊症治療でもあり,また長期的に妊孕能を維持しうる治療方法であることが求められるが,不妊症の患者や将来妊娠を希望する患者へのUAEの適応については結論に至っていない.われわれはUAEを第一選択とは考えないが,症例によっては有用性を慎重に検討し採用してよい治療方法と考えている.

 UAEが妊孕能に及ぼす影響として,卵巣機能,子宮への影響を考慮する必要がある.さらに子宮筋腫合併不妊症あるいは子宮腺筋症合併不妊症患者に対し当院で行われたUAE治療について現時点での不妊治療成績を検討した.UAEの手技については文献1, 2)を参照いただきたい.

症例検討

1.子宮動脈塞栓術(UAE)後の有効例,困った例

著者: 黄木詩麗

ページ範囲:P.941 - P.943

はじめに

 子宮動脈塞栓術(UAE)は,さまざまな媒体を通して急速にひろまりつつあるが,一般産婦人科医にとって,治療選択肢のひとつとして患者に提示するに当たってはまだ情報不足であるのが現状である.医療者側に治療効果の有無の実感がないこともその要因であると思われる.われわれの施設では2002年6月からUAEを行っており,現在250例を超える症例の90%以上が有効であったが,経過が困難だった症例や無効例も少なからずあった.当院で経験した有効例と治療経過に苦慮した症例を報告する.

2.塞栓後に筋腫脱落を生じた1例と側副血管のため十分な筋腫梗塞が得られなかった1例

著者: 加藤肇 ,   尾崎正時 ,   鈴木利昭 ,   栗城亜具里

ページ範囲:P.944 - P.947

はじめに

 子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(以下,UAE)の際には,術後に合併症を生じたり,治療困難な症例に遭遇することがある.以下に自験例を2例紹介する.

3.Pre―operative adjuvantとしてのUAE

著者: 鍋島寛志 ,   村上節

ページ範囲:P.948 - P.951

はじめに

 有症状性の子宮筋腫に対する治療は,子宮温存を求める場合,子宮筋腫核出術やTCRなどの手術療法,GnRHアゴニストなどによる薬物療法,最近では今回のテーマである子宮動脈塞栓術(UAE)などの治療法が考えられる.

 手術療法に際して,子宮頸部筋腫に対する筋腫核出術は,アプローチの困難さ,出血などにより難渋することが多い.挙児希望が強い症例では,子宮を摘出することになるリスクを恐れて完全に核出できず,症状改善,妊娠予後なども不十分になることをしばしば経験するところである.そこでわれわれは,核出困難と思われる子宮筋腫核出術の前にUAEを行い,出血量を減らす試みを施行した.今回われわれは,2回目の子宮筋腫核出術時にUAEを併用し術後妊娠した症例と,UAE後の発熱で予定手術の延期を余儀なくされた症例について報告する.

患者の立場から

著者: 東千晴 ,   岡井崇

ページ範囲:P.954 - P.963

はじめに

 生まれて初めて婦人科検診を受けたのは,18歳の時です.当時アメリカで,「18歳を過ぎたら子宮がん検診を毎年受けるのが常識」と教えられ,私も大学を卒業するまでけっこうマジメにキャンパス内のクリニックで検診を受けていました.日本へ帰ってからは,不正出血があったりしたので婦人科検診を定期的に受けていましたが,25歳ぐらいの時に婦人科医の心無い言葉をきっかけに,婦人科から足が遠のいてしまいました.それから何年も経ってから検診を受けた時には,子宮筋腫が育っていました.

 子宮筋腫と診断されてからUAEと出会うまでの7年間,あらゆる症状を抱えながら手術を避け続けました.私のたどってきた紆余曲折は,けっしてお勧めする経過観察の方法ではありませんが,幸い,理解のある医師と納得のいく治療法に出会うことができたおかげで,今はすっかり元気になりました.

 これから子宮筋腫と向き合っていかれる方には,ぜひ自分の身体の状態をよく知り,あらゆる選択肢についてできるだけ勉強し,十分な説明をしてくださる医師と出会い,そして自分にとって最善の治療法を自己決定されることを願います.
 また,企業や医療機関には,定期的に婦人科検診を受けやすい環境づくりをぜひお願いしたいと思います.

 ここには,私自身の反省もちょっぴりこめて,UAEと出会うまで,UAEを受けてからEMBO FORUMを始めるまで,そして,これらの経験を通して医療について学び,考えたことなどを綴っています.何かの参考になれば幸いです.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・48

What is your diagnosis ?

著者: 榊美佳 ,   廣川満良

ページ範囲:P.891 - P.893

症例 : 43歳,女性

 性器出血と性ステロイドホルモン(LH, FSH, estradiol)の軽度上昇に伴う子宮内膜異型増殖症の診断で入院となった.MRIにて左卵巣が6×4 cmに腫大していることが指摘され,卵巣癌の診断で両側卵巣卵管摘除術,子宮全摘術が施行された.左卵巣は嚢胞状で一部に乳頭状の増殖部分を伴っていた.

 卵巣病変部の代表的な組織像(Fig 1, 2 : HE染色,Fig 3 : biotinの免疫染色)である.

ここまできた婦人科日帰り手術 5

子宮動脈塞栓術

著者: 鈴木ありさ

ページ範囲:P.966 - P.971

1 はじめに

 子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization : UAE)は,1995年にフランスのRavina医師ら1)により報告された,症状を有する筋腫への比較的新しい治療法である.本邦では1997年頃より施行され,現在までにおおよそ2,000例が施行されている.日帰り手術の概念が徹底している米国では,数多くのUAEセンターが設立され,外来ベースで盛んに手技が行われている2).しかしながら,日本では日帰り,あるいは1泊で手技を行っている施設は少ない.当院では2001年6月よりUAEを導入し,2003年1月までに200例に施行,平均在院時間26時間で行っている.

 本法は,両側子宮動脈をX線透視下において血管用カテーテルを用いて塞栓する手技で,ほぼ7年のうちに世界中に爆発的に広まった比較的新しい手技である.開腹しないという利点から,本邦においても女性からの支持が圧倒的に高くなってきている.

 しかし,施行件数が増えるにしたがって,いくつかの問題点も明らかになってきた.この手技には,婦人科疾患を放射線科医が治療するというこれまでの婦人科手術になかった大きな特徴があり,本稿ではその点にも触れていきたい.

病院めぐり

大阪府済生会中津病院

著者: 森山明宏

ページ範囲:P.974 - P.974

 大阪府済生会中津病院は梅田の中心にあり,その立地上,地域の中核病院としてだけでなく,遠方からの患者さんも数多く来院されます.778床の病床を有する総合病院として機能する以外に,複数の福祉施設を包括的に運営し,医療と福祉の総合的なサービスを提供することが病院の基本理念に掲げられています.また,患者様第一という当院のモットーに基づき,夜間の救急診療に加え,土曜日,祝日,年末も通常どおり外来診療を行っています.

 現在,当院産婦人科は50床を擁し,6名(うち女性医師2名)の医師で診療を行っています.産婦人科の特色としては,地域の中核病院としての病診連携のみならず,紹介医からの独自のネットワークを駆使し,緊急を要する症例やハイリスク症例の受け皿としての機能を含めて,大阪府下の開業医からの紹介が半数以上を占めています.外来は,一般婦人科および産科外来のほかに,腫瘍外来,不妊外来,助産師による母乳相談室を設けています.また週1回行われるカンファレンスにて,外来および入院患者の治療方針の検討を行っています.

日鋼記念病院

著者: 林博章

ページ範囲:P.975 - P.975

 日鋼記念病院はカレスアライアンス医療法人の一部で,地域社会と深く連携し,地域に開かれた公共的社会事業機関として,保健・医療・福祉にわたる総合化の道程を歩んでいる.その理念の歴史的背景は,(株)日本製鋼所の企業内病院70年の伝統を引き継ぎ,1980年に医療法人社団に移管された.私的財産ゼロの経営による医療法人は1つの理想であり,きわめて稀な存在といえる.そして,職場の環境と意識の大きな転換のもとに,約900名以上の職員は,いわば“天から授かった職場”で地域の人びとに本当に役立つサービスのエキセレンスを極めるために情熱を燃やし,向上の努力を続けている.

 当法人は,室蘭市,登別市,札幌市の病院とサテライト診療所,高齢者総合保健センター,看護学校,研究所,日本初の家庭医療学センターなどの多施設から組織されているが,いずれも地域社会の人びとならびに関係機関・団体のご理解と協力をいただきながら,地域の多面的なニーズに1つずつ素直に応えるために生まれ,育てられたものである.

OBSTETRIC NEWS

任意の(医学的適応のない)誘発分娩(未産婦): 帝王切開率が増加する(シアトル)

著者: 武久徹

ページ範囲:P.976 - P.977

 誘発分娩の最大の合併症は帝王切開(帝切)率の上昇である.FDAは「現時点ではピトシン(オキシトシン)を任意の誘発分娩(医学的,産科的適応がない誘発分娩)に使用した場合の恩恵と危険の検討は不十分なので,ピトシン使用は任意の誘発分娩の適応ではない」と勧告している.そのほか,多くの研究で誘発分娩は帝切率を上昇させると報告されている.

 7,000例以上(未産婦3,138例,経産婦3,863例)の誘発分娩を対象に行われた研究(カンサス市)では,自然陣痛発来に比較して誘発分娩を行った場合の帝切率は有意に増加することが報告されている(未産婦7.9% vs 18.5%/経産婦3.3% vs 7.1%)(AJOG 180 : 628, 1999).Prysak(デトロイト)も後方視的症例対照試験を行った.対象は満期,頭位,ロウリスク妊娠で,任意の誘発分娩(461例)と自然陣痛後の分娩(461例)を比較した.分娩結果は任意の誘発分娩群で帝切が80%増加した(8.7% vs 5.0%, p<0.036).帝切の適応は,心配な胎児心拍数のための帝切に有意差はなかった(0.9% vs 1.5%)が,難産のための帝切は 2.4倍であった(7.6% vs 3.5%).結論として,任意の誘発分娩は頻繁に採用され安全で有効な方法であるが,未産婦,未成熟頸管の場合は帝切率は有意に増加すると報告している(表1)(OG 92 : 47, 1998).

医学的適応のない帝王切開は正当化されるか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.978 - P.979

 骨盤底の罹患を予防するために任意の帝王切開(帝切)を行うか否かが最近検討されているが,最近ノルウエーから発表された研究に対し,MinkoffとChervenakが論評を加えている.前回帝切後の経腟分娩(VBAC)が急激に減少し,また患者が選択する帝切が広く受け入れられるようになり,帝切率が上昇しているが,骨盤底臓器の防護のために行う帝切が増加すれば帝切率全体は何%になるのだろうか.今回は,Minkoffらの論評を紹介する.

 医学的適応がない帝切(任意の帝王切開)は倫理的には正当化されない(FIGO Committee Report. Int J Gyn Obst 64 : 317, 1999).しかし,最近の調査では,患者が要求する選択的帝切を尊重する産科医がより高率になっている(Aust NZ J OG 41 : 249, 2001/OG 99 : 577, 2002).しかし,任意の器械的分娩を要求するすべての妊婦に対してリスクと恩恵を話し合う機会が提案されるべきである(Int J Gyn Obst 64 : 317, 1999/BJOG 109 : 597, 2002).

症例

婦人科診察時に発見された尿道憩室の2例

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充 ,   田仲紀明 ,   立木仁 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.982 - P.986

はじめに

 尿道憩室は,泌尿器科を受診する女性の1.85~4.7%に認められるとされ1, 2),決して稀な疾患ではない.しかし,産婦人科受診者における頻度は低いとされ,産婦人科領域での報告例も散見されるのみである.今回われわれは,残尿感,帯下異常,外陰部掻痒感を主訴に産婦人科を受診したところ尿道憩室が発見され,引き続く精査により膀胱癌が診断された1例と,子宮頸部腺癌に合併した尿道憩室の1例を経験したので報告する.

寝たきり高齢女性に発症した原発性腟結石症の1例

著者: 鈴木俊治 ,   木島一洋 ,   澤倫太郎 ,   澤昇平

ページ範囲:P.988 - P.989

はじめに

 腟結石症は原発性と続発性に分類され,ほとんどの症例は後者で,腟内異物を中心として無機塩成分が沈着して結石を生じたものである1, 2).これに対して,原発性腟結石症は異物の存在なしに形成されるものであるが,いずれにおいても尿の腟内貯留と感染が要因になると報告されている.今回われわれは,86歳の寝たきり高齢女性に発症した原発性腟結石症を経験したので報告する.

外陰部・進行型Paget病の1例

著者: 福中香織 ,   伊東英樹 ,   福中規功 ,   梅村康太 ,   田中惠 ,   工藤隆一

ページ範囲:P.992 - P.995

はじめに

 外陰部Paget病は外陰部悪性腫瘍の約2%を占め,通常は上皮内にとどまっている疾患である.今回われわれは,間質性浸潤を広範囲に認め,また鼠径リンパ節にも転移を認めた症例を経験したので,臨床像,細胞・病理組織所見,さらに免疫組織学的および電子顕微鏡所見に関して文献的考察を加え報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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