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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻8号

2003年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 妊娠と免疫

血液型不適合妊娠

著者: 村上純子

ページ範囲:P.1065 - P.1071

はじめに

 児が,母親に欠く父親由来の赤血球抗原を持って成立した妊娠を,血液型不適合妊娠という.

妊娠の後期および分娩時には,胎児赤血球が母親の循環血液中に入ることがあり,胎児母体間出血(fetomaternal hemorrhage : FMH)と称される.FMHの発生は,妊娠の約75%にも及ぶという報告もあり,分娩以外に羊水穿刺,流産,胎盤絨毛採取,臍帯穿刺,子宮外妊娠破裂,腹部打撲でも胎児赤血球が母体血中に入り得る.FMHにより母体血中に入った胎児赤血球が,母親に欠く父親由来の赤血球抗原を有していると,母親はこの赤血球抗原に対してIgGクラスの抗体を産生することがある.IgGは胎盤を通過するので,母親由来の同種IgG抗体は児の赤血球を被覆し,溶血反応を生じる.これを,胎児・新生児溶血性疾患(hemolytic disease of the fetus and the newborn : HDN)と称する.

 このようにHDNは,FMHを生じた母児間で成立することもあるが,過去の妊娠・分娩時に生じた少量のFMHにより児赤血球に感作され不規則抗体(IgG抗体)を産生していた母親が,その後の妊娠中に胎児血の流入による二次刺激を受け,大量のIgG抗体を産生したために,第2子以降の児にHDNを生じる場合が多い.同様のメカニズムによるHDNは,妊娠前に受けた赤血球輸血のために不規則抗体を有していた母親の児でもみられる.この場合は,第1子から重篤なHDNを発症する危険性がある.図1に,Rho(D)型不適合妊娠におけるHDNの典型的な発症機序を示した1)

 母親由来の同種IgG抗体に被覆された赤血球は,出生前も出生後も持続的に破壊されるため,大量のビリルビンが産生される.非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)は,児の中枢神経系に対し強い毒性を有しているが,妊娠継続中は児の非抱合型ビリルビンも母親の肝臓で抱合処理される.しかし,出生直後の児の未熟な肝臓では,大量の非抱合型ビリルビンを抱合処理することができないので,児は核黄疸の危険にさらされることになる.

 同時に,赤血球が破壊されるため,反応性に赤芽球系の造血が亢進し,多数の赤芽球が末梢血中に出現して「新生児赤芽球症」を呈する.とくに重症の場合は,全身の浮腫を伴う「胎児水腫」となる.

妊娠維持の免疫機構

1.妊娠による母体免疫系の変化

著者: 前川正彦 ,   山本哲史 ,   苛原稔

ページ範囲:P.1012 - P.1016

はじめに

 胎児は父親由来の遺伝子を有しているため母体にとって異物であり,免疫学的見地からみると半同種移植片(semiallograft)であると考えられるが,胎児は母体内で約10か月間生着・発育することから,拒絶を免れる何らかのメカニズムが存在しているはずである.1953年にMedawar1)はその機序として,(1)胎児は抗原として未熟であるため母体に認識されない,(2)胎児は母体の免疫系から隔離されている,(3)母体は免疫能が低下しており胎児を拒絶できない,(4)胎盤が免疫学的にバリアとなっている,という仮説を発表した.しかしこれらは現在ではいずれも否定されている.すなわちその後の研究により,胎児は母体に認識されており,子宮脱落膜における胎児・胎盤に対する免疫応答が妊娠維持に積極的に寄与していることが明らかにされ,また妊婦がウイルスに感染すると重篤化しやすいことや妊娠中に自己免疫疾患の病状が軽快・増悪することは妊娠が全身の免疫系に影響を及ぼしていることを示唆している.

 本稿では,妊娠が母体の免疫系に与える影響について概説し,さらに妊娠が末梢血におけるTh1/Th2バランスに与える影響について述べたい.

2.胎盤の免疫学的特性

著者: 山下隆博 ,   藤井知行 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.1017 - P.1021

概 要

 胎盤は胎児と母体の境界に位置し,絨毛を介して母体血と胎児血が栄養・ガス交換を行う場であるが,免疫学的に考えると大変不思議な臓器である.というのは胎児は父系抗原を持つ半同種移植片semi―allograftであるのに母体によって拒絶されないからである.胎児側の細胞が母体と接しているのに拒絶されないことは従来の移植免疫学では説明できず,そこにはいわゆる妊娠免疫と呼ばれる妊娠維持機構が存在するはずである.妊娠免疫には胎盤局所で働いているものと,母体血中胎児細胞や胎盤由来ホルモン・サイトカインによって惹起される全身性のものがあるが,本稿では前者について述べる.

3.子宮局所免疫細胞の特長

著者: 川口里恵 ,   小澤真帆 ,   早川智 ,   田中忠夫

ページ範囲:P.1022 - P.1029

はじめに

 妊娠現象とはsemi―allograftである胎児が一定期間子宮内に育まれ,しかも急激な成長を遂げこの世に生を受けることである.脊椎動物は軟骨魚類以降特異的な免疫能を獲得し,特に真胎生を行う哺乳類ではsemi―allograftである胎児の母体内生着のためには高度に発達した免疫系をコントロールする必要が生じる.1953年,イギリスの免疫学者Medawar1)は胎児との共存は免疫遺伝学的にきわめて特異的な現象であると指摘し,その機序として有名な仮説を提唱した.すなわち,①胎児の抗原未熟性,②子宮の免疫学的特殊性,③母体免疫能の低下,④胎盤による解剖学的,免疫学的バリアである.これらの仮説は現在ではいずれも否定されているが,生殖免疫学という学問領域を方向づけるうえで画期的な問題提起となった.

 1982年にLala2)は,はじめて子宮内免疫担当細胞の由来につき言及し,マウスキメラを用いた実験にて脱落膜細胞の一部は骨髄細胞に由来とするとした.骨髄に由来する未熟な前駆細胞は妊娠成立と同時に末梢血から子宮へと急速かつ大量に動員され,脱落膜反応に伴って分化すると考えられる.

4.胎児・新生児の免疫機能

著者: 斎藤滋 ,   堀慎一 ,   酒井正利 ,   佐々木泰 ,   米田哲

ページ範囲:P.1031 - P.1035

はじめに

 胎児は無菌状態の子宮内で発育するため,未熟な免疫能であっても,感染することはない.ただし,分娩後は外来微生物に曝されることとなるので,胎児も子宮内で徐々に免疫系を発達させると同時に,母体も積極的に免疫グロブリンを胎児に輸送し,免疫能を補完し,出生後の感染を防御している.しかし早産児では,これらの準備が不十分なまま出生することになり,きわめて易感染性となる.おまけに,早産の大半は炎症によって起こり,また細菌感染を合併していることも多い.したがって,早産児の感染には十分に注意を払う必要がある.事実,新生児医療の進歩に伴い新生児死亡率が大きく改善したが,出産体重1,000 g未満の児における感染症の死亡は増加しており,出産体重500 g以上1,000 g未満児の死因の14.5%を占める.これは奇形の14.7%に次ぐものであり1),新生児医療における感染症対策が求められてきている.

 新生児は分娩後に哺乳することで未熟な免疫能を補っている.すなわち,母乳中には大量のIgAが含まれており,このIgAが児の粘膜免疫に役立っている.また最近になり,母乳中に含まれているサイトカインが児の免疫能を高めることもわかってきた.母乳哺育の推進は,新生児感染防御にとって非常に有益となる.

 本稿では,胎児の免疫能を理解するとともに,母体の免疫学的支援機構について解説する.また最後に,胎児炎症反応症候群についても解説する.未熟な児は免疫能が劣っているが,炎症性サイトカインの産生は低下しておらず,消炎性のサイトカイン産生が低下しており,炎症が遷延しやすい.過剰な炎症は組織傷害を引き起こし,脳性麻痺や慢性肺炎疾患,壊死性腸炎の原因となる.これらの児の炎症を制御する必要性が生じてきている.本稿ではこの点についても延べてみたい.

病態にかかわる免疫異常

1.流産・不育と免疫異常 1)母体免疫応答異常

著者: 青木耕治

ページ範囲:P.1037 - P.1041

はじめに

 以前より“hybrid vigor”(雑種の生殖優位性)という概念や,また近年では“placental immunotrophism”(妊娠維持への免疫学的支持効果)という概念が支持されているように,「母体の子宮脱落膜内免疫担当細胞がバランスよく胎芽抗原を認識することが,妊娠の維持に有利に働く」ことが証明されてきた1).1995年,妊娠前のナチュラルキラー(NK)細胞活性が高い反復流産患者は,通常レベルの患者に比べて,その後に流産の危険率が約3倍高くなることを筆者らは明らかにした2).その後,米国の複数の研究機関が同様な研究結果を報告している.よって,ある不育症患者では脱落膜内免疫細胞の胎芽抗原への認識が不適当のため,NK細胞依存性の流産が一機序として起こっていると考えられる.

1.流産・不育と免疫異常 2)抗リン脂質抗体

著者: 杉俊隆 ,   牧野恒久

ページ範囲:P.1043 - P.1045

抗リン脂質抗体とは

 抗リン脂質抗体とは,カルジオリピン(CL),フォスファチジルセリン(PS)など電気的陰性のリン脂質や,フォスファチジルエタノールアミン(PE),フォスファチジルコリン(PC)など電気的中性のリン脂質に対する抗体である.

 1906年にワッセルマン反応が梅毒血清反応として開発された.その後,ワッセルマン反応の抗原としてウシの心臓のアルコールエキスが最適であることがわかり,その後1941年に心臓のアルコールエキスに含まれるワッセルマン反応の抗原として新しいリン脂質が発見され,CLと命名された.今から思えば,ワッセルマン反応は,梅毒患者に抗CL抗体が陽性になることを利用した検査法であったわけであり,抗CL抗体陽性のSLE患者の場合は梅毒血清反応の生物学的偽陽性とされたわけである.このように,抗リン脂質抗体は歴史的にCLを抗原とする梅毒血清反応陽性として発見されたため,抗CL抗体が最も有名である.しかし,実際には細胞膜リン脂質の構成成分にCLは存在しない.Cardio(心臓の)―lipin(脂質)という名前のとおりCLは心臓に豊富に存在し,有核細胞ではミトコンドリアの内側にのみ存在する.細胞膜の構成成分としての陰性荷電リン脂質は,PSとフォスファチジルイノシトールであるが,比較的少ない.むしろ中性荷電リン脂質が主要な細胞膜の構成成分であり,PEやPC,スフィンゴミエリンがある.

1.流産・不育と免疫異常 3)習慣流産の診断と治療

著者: 高桑好一 ,   夏目学浩 ,   高木偉博 ,   三井卓弥 ,   石井桂介 ,   安達博 ,   田村正毅 ,   田中憲一

ページ範囲:P.1047 - P.1051

はじめに

 胎児(あるいは胎児・胎盤系)は,母体にとって半同種移植片であると同時に,自己組織としての一面も持つ.

 前者の側面を考慮した場合,妊娠に伴いさまざまな免疫反応が生ずることが指摘され,一方,それらの異常が流産の発症に関与することが近年明らかとなっている.すなわち,半同種移植片としての胎児・胎盤系を免疫的に維持しようとするメカニズムの破綻が流産に関与し,このような病態に対しては,夫リンパ球を接種するいわゆる「免疫療法」が行われている.一方,過剰な自己組織を体内に抱えることにより,あるいは素因として,本来発現しないはずの自己抗体が産生され,これが流産(あるいは死産)に関与する可能性があり,これに対しては,免疫抑制療法,抗凝固療法などが行われている.

 妊孕現象の免疫的維持機構および流産との関連性,自己免疫異常と不育症との関連性については,本特集の別項で解説が行われており,本稿においては,それらに対する治療の実際について解説することとする.

 なお,習慣流産とは3回以上の自然流産を反復する病態を示す用語であり,いわゆる「免疫療法」については習慣流産を対象としているが,自己免疫異常の治療については,反復流・死産症例(妊娠22週以降も含む)を対象にしていることをお断りしておく.

2.早産と局所免疫

著者: 大槻克文 ,   長谷川明俊 ,   佐々木康 ,   岡井崇

ページ範囲:P.1053 - P.1057

はじめに

 日本における近年の周産期医療の進歩は目覚しく,2001年の統計では,周産期死亡率(5.5,出産1,000対)は世界一低く,母体死亡率も世界のトップ水準となっている.しかし,このような進歩がみられるなかで,現在,新生児死亡および生後の後遺症の原因の過半数を占めるのが早産,特に早期の早産である.早産の原因については最近の研究からその一部として絨毛膜羊膜炎との関係が明らかになってきたが,絨毛膜羊膜炎や早産に対する臨床現場での予防対策は未だ十分には確立されておらず,2001年の早産率は種々の要因があるにせよ5.3%と上昇傾向さえ示しており,早産率の低下をみるには至っていない1).早産の防止が今日の周産期学の中で最も早期に重点的に解決すべき課題のひとつであることは明らかである.そのためには,早産の発生機序を知り理解する必要がある.そのうえで最適な治療法を見出すには,局所で発生している現象をさらに詳しく分析する必要がある.

 本稿では,早産の主原因と考えられている絨毛膜羊膜炎による早期陣痛の発来および頸管の熟化機構について免疫の観点を中心に概説する.

3.妊娠中毒症と免疫異常

著者: 山本樹生 ,   吉永陽樹 ,   山代美和子 ,   三井真理 ,   古川真希子

ページ範囲:P.1059 - P.1063

はじめに

 妊娠中毒症の症状が出現する以前に血管内皮細胞障害が生ずること,胎盤では胎盤床の螺旋動脈への絨毛の浸潤の障害が生じていることが判明している.これらの妊娠中毒症の症状が出現する以前の所見や発症後の変化は,免疫の関与を推察させる.以前より自己抗体の出現が報告されてきたが,自己抗体が高血圧,凝固異常や胎児発育に関与する所見も得られてきた1).また胎盤物質と免疫に関しては古くより検討され,最近,胎盤物質が母体流血中に循環する客感的証拠が得られ,胎盤物質に対するinnate immunityの過剰反応が妊娠中毒症発症に関与するとの興味ある報告が出現した.今回このような観点を含め,妊娠中毒症と免疫について考察する.

自己免疫疾患合併妊娠

1.SLE

著者: 阿部香織 ,   高崎芳成

ページ範囲:P.1073 - P.1075

SLE合併妊娠

 SLEは,20~30歳代の妊娠可能年齢層に好発する自己免疫疾患であり,近年の治療法の進歩とともにその生命予後は改善し,妊娠・出産をする症例も増加の傾向にある(表1).自己免疫疾患の妊娠・出産を考えるとき,病気が妊娠・出産に与える影響,胎盤通過性のあるIgG型自己抗体の胎児への影響,妊娠・出産が病気に与える影響を考えなければならない.

 SLEの家族内発症は0.4~3.4%(自験例3%)にみられ,日本におけるSLEの有病率が10万人に対して6.6~8.5人であることを考えると有意に高率である.しかしSLEは遺伝的にはpolygenicと考えられ,その発症には環境因子など複数の誘因の影響を受けると考えられており,妊娠・出産を抑制するよう指導する必要性はないと考えている.しかし,体質・素因が子に受け継がれる可能性と妊娠・出産のリスクを説明しておく必要がある.

2.ITP

著者: 佐世正勝 ,   竹谷俊明

ページ範囲:P.1077 - P.1081

診 断

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura : ITP)の診断基準を表1に示した.血小板が単独で10万/μl以下であることが必須条件である.また診断のためには,SLE,リンパ腫,白血病,多くの全身性疾患を除外しなければならない.ITPは,妊娠前から存在するものと妊娠中に発症あるいは診断されるものがある.ITPと診断されていた女性において,妊娠が再燃のリスクを増加させるという根拠はなく,また活動期にある女性において状態を悪化させるという根拠もない.しかし,何年間も寛解状態にある女性において妊娠中にITPが再発することも稀ではなく,これには妊娠中の高エストロゲン血症の関与が考えられている.

 寺尾1)は,妊娠継続許可基準として,ITPを妊娠前に発症し寛解中に妊娠した場合には妊娠継続は可能とし,非寛解のまま妊娠した場合には妊娠中にITPのコントロールがさらに困難になることが多いため妊娠の継続は不可としている.ただし,人工妊娠中絶の際に大量に出血する危険性があり十分な注意を要する.ITPが妊娠中に発症した場合には,妊娠初期発症の重症例あるいは薬剤不応例を除き,一般的には妊娠継続可能としている.

3.橋本病とバセドウ病

著者: 網野信行

ページ範囲:P.1082 - P.1087

はじめに

 自己免疫性甲状腺疾患,すなわち橋本病とバセドウ病は20~30歳代の女性にしばしばみられるため,妊娠の経過に影響を及ぼしうる合併症として重要である.逆に妊娠によって甲状腺機能が影響を受け,橋本病,バセドウ病の臨床経過が変化することもわかっている.また出産後には,全産後女性の約20人に1人に何らかの甲状腺機能異常が生じる.

4.高安病

著者: 伊東宏晃 ,   佐川典正 ,   藤井信吾

ページ範囲:P.1088 - P.1091

はじめに

 高安病(大動脈炎症候群)は1908年にTakayasu1)により初めて記載された大動脈・主幹動脈の狭窄,閉塞を特徴とする非特異的炎症疾患である.1 : 8~9の比率で女性に多く,好発年齢は生殖年齢に一致することから,妊娠に合併することも稀ではない.一方,妊娠,分娩,産褥期を通じて,母体の循環動態はダイナミックに変化する.したがって,正常妊婦においては生理的な範囲である循環動態の変化が,高安病合併妊娠では母児の予後に対する重大なリスクファクターとなる可能性がある.本稿では高安病の病期分類,妊娠に伴う生理的な循環動態の変化をまず解説し,それらを基にして高安病合併妊婦の妊娠・分娩管理について述べる.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・49

What is your diagnosis ?

著者: 島田哲也 ,   清水道生

ページ範囲:P.1009 - P.1011

症例 : 26歳,女性

 不正性器出血で来院したところ,子宮頸部に急速に増大する腫瘍を認め切除術が施行された.7か月前に帝王切開を受けたが,妊娠中には異常を指摘されていない.Fig 1およびFig 2は組織像である(HE染色).病理診断は何か.

症例

卵巣転移巣の自然破裂により腹腔内出血をきたした若年性子宮体部癌の1例

著者: 井上孝実

ページ範囲:P.1094 - P.1097

はじめに

 子宮体部癌は近年増加しているが,年齢的には40歳以降で,主に閉経後にみられることが多く,30歳未満は稀である.今回,卵巣転移巣の自然破裂による腹腔内出血により緊急開腹術を施行し,子宮体部癌IV期と診断した26歳の症例を経験したので,ここに報告する.

病院めぐり

都立大久保病院

著者: 高田淳子

ページ範囲:P.1100 - P.1100

 新宿歌舞伎町という日本一の繁華街のほとりに佇む都立大久保病院(病床数304)はリニューアルスタートから今年でちょうど10周年を迎え,来年度には公社化してより風通しのよい病院を目指します.私どもは産科を併設しない婦人科として地域医療に根指す高度医療技術の提供と,風俗街に渦まく巨悪な性感染症との闘いに身を粉にする毎日です.

 悪性疾患に対してはCT,MRI,血管造影,シンチグラムなどの検査部門の協力や内科・外科・泌尿器科・放射線科との連携も密にして集学的治療を実践しています.

藤沢市民病院

著者: 毛利順

ページ範囲:P.1101 - P.1101

 藤沢市民病院は昭和46年(1971年)10月に開院して,30年以上が経過しました.当初は300床で開院しましたが,平成元年3月に新館が完成し現在は506床にまで増床しています.2000年には,地方自治体の病院として全国で初めて地域医療支援病院に承認されました.病院運営の基本指針は「地域の基幹病院として,地域の医療機関と協調し,市民の医療と保健の充実向上に努める」ことにあります.地域の医療機関との連携を緊密に行うために,地域医療連携のキーステーションとして地域医療連携室も設けられています.

 藤沢市は人口39万人の大きな都市でありますが,産婦人科を有する総合病院は当院のみです.とても全部を受け入れるだけの病床もなく,このことからも地域医療機関との協力が必要です.こういう性格の病院ですから,すべての疾患に対応できるように頑張っています.さらに本年度は,患者さんのニーズに応えられるように女性外来をスタートさせました.これは,精神神経科の女医が初診を受け持ち,各科の女医に専門的診察を依頼するというシステムです.

OBSTETRIC NEWS

陣痛発来時の早過ぎる入院で分娩進行異常のための帝王切開は増加する

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1102 - P.1103

 未産婦の帝王切開(帝切)の理由の50~70%は分娩進行異常である.したがって,未産婦の分娩進行異常のための帝切が減少すれば,帝切全体が減少する.

 また,入院時の頸管開大が進行している例では,頸管開大が進んでいない例より帝切率は有意に減少することが示唆されている.Holmesら(オタワ)は,自然陣痛発来,妊娠37~42週,単胎,頭位,初回来院から36時間以内に分娩,初回陣痛発来来院時に未破水の妊婦(未産婦1,246例,経産婦2,136例)を対象に,入院時の頸管開大と分娩転機を検討した.初回陣痛発来のため入院時の頸管開大が3 cm以下の未産婦の21%は一時帰宅し平均11時間後に再入院となったが,来院時に頸管開大が4 cm以上だった例に比較して帝切率と産科的介入(オキシトシン投与,硬膜外麻酔採用)が有意に増加すると報告した(表1)(AJOG 184 : S114, 2001).したがって,入院時の頸管所見により帝切率を減少させられる可能性がある.

臍帯巻絡と新生児転機

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1104 - P.1105

 産科日常診療における超音波診断が普及し,ときには過剰と思われる利用方法や妊婦や家族の過大な期待(「胎児の体重は正確に診断できる」,「胎児奇形はすべて診断できる」,「胎児奇形は分娩前に必ず診断すべき」,「胎盤早期剥離は超音波で全例診断できる」など)による医師のストレスが増大する.きわめて一般的にみられる臍帯巻絡を妊婦にどのように説明すればよいのか.最近の米国周産期医学会の報告を紹介する.

 1. Gillesonら(セイントエリザベス医学センター[ボストン])(AJOG 184 : S104, 2001)

 単胎妊娠,頭位,分娩時期≧妊娠27週,奇形を除く1,683例を研究対象とし,新生児転機が検討された.経腟自然分娩71%,吸引分娩8%,帝王切開21%であった.臍帯巻絡なし1,203例(71.5%),1回421例(25.0%),2回48例(2.9%),3回10例(0.6%),4回1例(0.06%)であった.臍帯巻絡がある例では,アプガースコア1分値が7点未満が有意に増加することが示唆された(表1).臍帯巻絡回数が3回以上の例は胎便による羊水汚染は6.7倍(95%信頼間隔2.02~22.3)だったが,高度罹患はなかった.したがって,臍帯巻絡1回は新生児転機不良と無関係であり,臍帯巻絡回数が増加するとアプガースコア低値(@1分)と胎便排出が増加するが,新生児集中治療室(NICU)収容との関連はない.

Luncheon Seminar

HRTの更なる普及をめざして―本邦における今後のHRTのあり方

著者: 麻生武志

ページ範囲:P.1109 - P.1117

第55回日本産科婦人科学会(会長 中野仁雄 ; 九州大学大学院 医学研究院 生殖病態生理学 教授)は2003年4月12~15日に福岡国際会議場(福岡市)を中心として開催された.このなかでランチョンセミナーが併催され,「HRTの更なる普及をめざして―本邦における今後のHRTのあり方」(共催 日本シエーリング株式会社)と題して永田行博先生(鹿児島大学 学長)司会のもとに麻生武志先生(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 生殖機能協関学 教授)の講演が行われた.このテーマは最近のトピックスであり,先駆者である麻生先生の講演会場には立錐の余地がないほど学会員が集まり,好評裏に終了した.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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