icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科57巻9号

2003年09月発行

雑誌目次

今月の臨床 思春期のヘルスケアとメンタルケア 思春期診療の基礎

1.思春期発来機序

著者: 矢内原巧 ,   長塚正晃

ページ範囲:P.1132 - P.1139

はじめに

 本稿では,思春期女子の加齢による変化として,①視床下部―下垂体―性腺系の発育を主に中枢に注目し論じるとともに,近年注目されている②思春期とレプチン,③思春期と神経伝達物質について述べる.

2.思春期の身体発達

著者: 玉田太朗

ページ範囲:P.1142 - P.1147

はじめに

 思春期の身体発育は図1に示した順序で起こる.性的発育は全身的発育の遅速に影響される.12歳女児の全国平均身長は1950~1960年の間に7.0 cm,1960~1970年の間では5.0 cmも増加していた.この間では初経の早発傾向も顕著で,この20年間に約2年の前傾(初経年齢平均が約14.5歳から12.5歳へ)がみられている1).それに比べ最近の10年間(1991~2001年)の増加は0.9 cmに過ぎず,それから想像されるように初経年齢の前傾も停滞している.

3.思春期の精神発達

著者: 牛島定信

ページ範囲:P.1149 - P.1151

思春期とは

 産婦人科学や小児科学は,第二次性徴の到来をもって思春期の始まりとしているようであるが,精神医学では親子関係が決定的に変化する14歳をもって始まりとする.終わりにしてもそうである.前者では18歳を指標にしているようであるが,精神医学では23歳ぐらいを終結とする.また,精神医学では,青年期という用語を使用することが多い.精神医学においては,思春期pubertyは第二次性徴の影響を受けて変化する心性の展開に対して使用し,青年期adolescenceは社会的影響(社会的役割など)で動く心性に対して使用する.したがって,この発達段階の最初のころを思春期,後半を青年期と捉えることになるが,一般には両者は同義語として使用されることが多くなった.

 以上を踏まえて,思春期発達を素描することにする.

4.性教育のあり方

著者: 松本清一

ページ範囲:P.1152 - P.1155

思春期保健と性教育

 工業化社会の発展に伴い,欧米では1963年ごろから10代の性活動が増し,1970年代にはほとんどの国で10代の人工妊娠中絶増加の対策が重要課題として取り上げられるようになった.

 そのためWHO(世界保健機関)は1977年「思春期の人々のヘルスニーズ」に関する専門委員会報告を出し,健全な発育と発達を目指して出生前からはじまる予防的保健サービスが必要なことを指摘した.そして1978年,国際家族計画連盟(IPPF)は性教育や正しい性情報の伝達が家庭・学校・マスメディアおよび保健サービスの協力によって行われるべきことを提唱し1),欧米諸国の家族計画協会では思春期保健が家族計画運動の一環として展開され,性教育は国民の精神保健に関するプログラムの一部として発展,多くの国で性教育が健康教育の視点,あるいは家族計画指導の延長線上にあるものとして実施され,思春期保健に包含されて,学校と地域保健機関と連携をとりながら進められるようになった2)

 その結果,とくに北西ヨーロッパ諸国では1980年代から10代の人工妊娠中絶が顕著な減少を示して,対策がきわめて有効であったことが認められた.その対策の中心となったのは「北欧型解決」と呼ばれた「性の健康に対する若者へのサービスと教育の促進」で,その実現には,家族計画協会を中心とする家庭,学校,保健機関,マスメディアなどの協力活動,多数の思春期クリニックの設置,仲間教育・仲間カウンセリングの活動,そして若者に対するプログラムの企画・運営・評価への若者自身の参加などが効果的であった2)

思春期診療の実際とカウンセリング

1.性分化異常

著者: 田坂慶一 ,   川岸里香子 ,   石田絵美 ,   橋本奈美子 ,   田原正浩 ,   坂田正博

ページ範囲:P.1156 - P.1159

はじめに

 一般に性分化異常は外来患者でもきわめて稀で,その特殊性から診断手順と説明には両親の受け入れ,患者の受け入れ状態を考慮した細やかなカウンセリングが必要である.その点で疾患の治療や精神的ケアにあたっては,患者の人権および一生を通じたケアのワンステップとして行うことことへの配慮が必要である.

 性分化異常の患者を取り扱う場合に最も重要なことは性の重層性,つまり性には染色体の性,性腺の性,内・外性器の性,戸籍上の性,精神的性があること,およびそれらの決定がどのように表現型として出てくるかを理解することである.多くの場合はすべて一致した表現型となるが,その分化過程に異常が起こると性の重層性に不一致が生じる.正常な性分化過程では染色体の性は男性XY,女性XXで表現され,Y染色体上に性腺の性を決定する因子SRYが基本的には性腺の性を誘導する.性腺の性が雄性に決定すると精巣から分泌される男性ホルモンでウォルフ管(輸精管,精巣上体に分化)が発育し,MIS(ミュラー管抑制物質)がミュラー管(卵管子宮,腟の上1/3)を退縮させる.性腺が精巣でなければ性器は女性型となる.外陰部の性は男性ホルモンにより男性型へ誘導される.男性ホルモンが欠落しているか,受容体異常の場合は女性型になる(図1).一般に戸籍上の性は外陰部で判断される.ここでは特殊症例は避け,稀な症例の中でも比較的外来で遭遇する機会のある疾患についてヘルスケアとメンタルケアについて述べる.

2.思春期発来時期の異常(早発思春期,遅発思春期)

著者: 小田力 ,   辻裕美子 ,   木村武彦

ページ範囲:P.1161 - P.1165

はじめに

 思春期とは小児期から成熟期への移行期であり,第二次性徴の発現(乳房発育,性毛発生),初経発来から第二次性徴の完成,さらに月経周期がほぼ確立されるまでの期間をいう.思春期発来時期の異常とは,二次性徴の発現時期および成熟過程の異常であり,思春期早発症と思春期遅発症に分類される1)

3.思春期の月経異常

著者: 泉谷知明 ,   森岡信之 ,   深谷孝夫

ページ範囲:P.1167 - P.1169

はじめに

 思春期は,小児期から成熟期への移行期であり,身体と精神が大きく変化する時期である.日本産科婦人科学会では,その期間を8~9歳ごろから17~18歳ごろまでと規定している.女性においては,乳房発育や陰毛発生などの第2次性徴の発現に始まり,初経の発来,排卵周期の確立を経て第2次性徴の完成により性成熟期へと至る時期である.つまり思春期における月経異常はすべてが病的なものではなく,性成熟への移行期における1つの過程とも考えられる.実際,初経発来後の月経周期を調査した報告によると,月経周期が成人女性とほぼ同様となるのは初経発来後6年くらいで19~20歳頃といわれている1).しかしすべてをそのまま自然経過として捉えてよいわけではなく,その病態によっては将来の排卵障害や不妊症につながるものもあり,的確な病態の把握とそれに合わせた管理が必要となる.

4.思春期の月経困難症

著者: 小畑孝四郎 ,   星合昊

ページ範囲:P.1171 - P.1173

はじめに

 月経困難症は器質的異常を認めない原発性(機能性)月経困難症と,子宮内膜症,子宮腺筋症,子宮筋腫,骨盤内炎症,性器奇形などの器質的疾患によって起こる続発性(器質性)月経困難症の2つに分類されるが,思春期では原発性月経困難症が多く,子宮内膜症などによるものは稀であると考えられている.しかしながら,子宮内膜症は初経後1か月でその存在が確認されたとの報告1)や,環境ホルモン(内分泌攪乱物質)の影響の報告2~5)などから考えると,今後思春期における月経困難症の原因に子宮内膜症の占める割合は増加するものと推測される.そこで,ここでは思春期における月経困難症について解説する.

5.思春期の不正出血

著者: 堀越順彦 ,   杉本久秀

ページ範囲:P.1174 - P.1177

はじめに

 思春期とは,日本産婦人科学会の定義1)では,性機能の発現,すなわち乳房の発育,陰毛発生などの二次性徴出現に始まり,初経を経て,二次性徴の完成と月経周期がほぼ順調になるまでの期間としている.その期間はわが国の現状では8~9歳ごろから17~18歳ごろまでになる.いいかえれば,性機能(視床下部―下垂体―卵巣系)の活動開始による,卵巣からのエストロゲン分泌の増加に始まり,卵胞が十分に成熟し,周期的に排卵および月経が訪れるまでの期間となる.

 この期間にみられる不正出血の多くは,その性機能の未熟により,卵胞発育が不十分で排卵まで至らず,卵胞が退縮,エストロゲン低下による消退出血や卵胞発育が遅延し長期間のエストロゲン分泌による子宮内膜の破綻出血と考えられる.また排卵しても黄体が未熟なため,エストロゲンやプロゲステロンの分泌量が少なく,黄体機能不全となり不正出血を招くものと思われる.

 しかし,このような思春期の不正出血の中にも少数ではあるが器質的疾患,血液疾患(白血病,紫斑病など)や炎症による不正出血があることも忘れてはならない.

6.思春期と避妊

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.1178 - P.1181

性交経験の低年齢化,加速化

 東京都の性教育研究団体が3年ごとに実施している調査1)によれば,2002年における高校3年生女子の性交経験率は45.6%,男性では37.3%という結果であった.1996年の調査で女性が男性の性交経験率を上回る,いわゆる乗り越え現象が起こり,以降,女性の経験率は増加の一途をたどっている(図1).メディアや社会は若年女性の性行動の低年齢化,加速化を問題視しているが,基本的にヒトが動物性を有する存在であることを考慮すれば,月経や射精の開始直後から性交が行われることがあっても不思議ではない.わが国のような高学歴化,晩婚化が若者たちの性をどれほど歪めているかを踏まえて,避妊や性感染症(STD)予防教育を早期から実施することが重要である.

7.思春期の性感染症

著者: 野口昌良

ページ範囲:P.1182 - P.1185

はじめに

 ティーンエイジャーの女性が産婦人科受診に訪れたとき,そのうちの4人に1人はクラミジア・トラコマティスに感染しているといわれるほど思春期女性にクラミジア感染症は多い.

 産婦人科を訪れる何かの理由があるわけであるから,ほとんどが性体験があると考えるべきで,日常のセックスライフを背景にクラミジア感染症だけではなくさまざまな性感染症が存在する.

 帯下感,外陰掻痒感,下腹痛,性交痛,パートナーの性感染症,そして無月経などを主訴として産婦人科の門をたたくわけである.

 妊娠診断薬はコンビニエンスストアで容易に入手可能であり,女性が自分で調べることも日常的に行われている.したがって,以前に増して初期妊娠の無月経症状で受診することも多く,世の中は大きく様変わりしてきている.

 若年女性の性感染について簡単に述べてみたい.

8.痩せに伴う月経異常の診療

著者: 小辻文和 ,   田嶋公久 ,   折坂誠

ページ範囲:P.1187 - P.1191

はじめに

 1世紀に書かれたソラノスのtextbookに,アスリートが無月経に陥ることが記されている.痩せが月経異常をもたらすことも,相当に古くから人々の間で知られていたと想像されるが,論文としての初めての記載は,16世紀にサイモン・ポルタによってなされた.その後,1868年にWilliam Gullが神経性食欲不振症の概念を発表して以来,人々の関心を呼ぶようになった.かつては,飢餓に特有の病態であったが,今日先進諸国では,美容を目的としたダイエットや,ストレスによる痩せが問題となっている.平成10年の日産婦学会の調査では,10代の女性が月経異常となる原因の大半が痩せであり,過激なスポーツと合わせると半数に上る1).本稿では内分泌動態や治療法は割愛し,この病態の診療のあり方について筆者らが思うところを紹介する.

9.思春期のダイエットと摂食障害

著者: 甲村弘子

ページ範囲:P.1192 - P.1195

はじめに

 摂食障害(eating disorder : ED)は,体重や体型への顕著なこだわりと肥満への強い恐怖のために食行動に異常をきたす疾患で,思春期に好発する.おもに神経性食思不振症(anorexia nervosa : AN)と神経性過食症(bulimia nervosa : BN)に大別されている.本症は先進国において著しく増加しているが,日本でも同様である.1998年の全国調査によると,摂食障害の患者数は1993年からの5年間で約4倍に急増していることが明らかになった1).このうちANは2~3倍,BNは6~7倍の増加である.

 摂食障害の患者は身体症状が出現すると一般医に行くことが多い.無月経を主訴として産婦人科医を訪れることが多いのである.そこで摂食障害が疑われる場合には,表1に示した7項目の確認を行う2).本症には,誤ったダイエットが原因で比較的治りやすいものから,深い心的外傷や精神的問題をかかえるものまでさまざまなケースが含まれるので,それぞれの状況に応じた理解と対応が大切となる.

10.思春期とスポーツ

著者: 目崎登

ページ範囲:P.1197 - P.1199

運動性無月経

 スポーツ活動に起因する初経発来遅延や続発性無月経などの各種月経異常は,運動性無月経と総称される1)

1. 運動性無月経の発現機転
①精神的・身体的ストレス,②体重(体脂肪)の減少,および,③ホルモン環境の変化,などの3つの要因が挙げられている.なお,これらの要因は単独に作動するばかりではなく,相互に関与していると考えられている.

11.10代の妊娠・出産

著者: 赤枝恒雄

ページ範囲:P.1202 - P.1205

はじめに

 若者の性行動は低年齢化し,不特定多数の相手とのコンドームなしのセックスがイケテル(格好いい)ことであり,コンドームをつけることはイケテナイ(格好悪い)というファッション感覚で行われている.

 その結果,人口妊娠中絶は増加し,望まない出産も増加している.過去20年間の10代妊娠の動態を10代出産と10代妊娠中絶から検討し,合わせて六本木という繁華街で開業してきた25年間の経験から,思春期女性の性意識を明らかにするとともに,思春期女性への適切な産科診療のポイントについて考えてみることにした.

12.性同一性障害―とくに思春期における問題

著者: 石原理

ページ範囲:P.1206 - P.1209

はじめに

 日本精神神経学会「性同一性障害に関する第二次特別委員会」は,平成9年5月28日付の「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」(初版ガイドライン)1)の改訂作業を行ってきた.そして,その結果は「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第2版)」(第2版ガイドライン)として,平成14年7月,学会誌上に発表された2)

 この改訂の背景には,メディアなどの好意的報道などもあり,性同一性障害に対する社会の理解がある程度進んだこと,初版ガイドライン以後,臨床家が実際の症例を多数経験したことで,このガイドラインの問題点が浮き彫りになったことなどがある.今回,大きく改訂された部分としては,FTM(female to male transsexuals)に対する乳房切除を,治療の第三段階における性別適合手術(sex reassignment surgery : SRS)から分離し,第2段階に移行したことなどがある.しかし,中でもとくに,第2段階とされるホルモン療法の開始年齢を,初版ガイドラインでは20歳であったものを,18歳に変更したことが注目される.

 本稿では,第2版ガイドラインを踏まえて,ホルモン療法開始年齢が変更されたことの背景にある問題,また関連して性同一性障害をとくに思春期における問題としてとらえる必要性を述べるとともに,本邦における性同一性障害に対する診断と治療の現況とその問題点を提示することを試みる.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・50

What is your diagnosis ?

著者: 九島巳樹

ページ範囲:P.1129 - P.1131

症例 : 30歳,女性

 妊娠8週で,頸管ポリープの一部を生検したところ,腺癌と診断された.人工妊娠中絶後,子宮全摘出術+両側付属器切除術+リンパ節郭清術が行われた.摘出子宮の子宮頸部に2.9×1.8 cm大の外向性,乳頭状に発育する腫瘍が認められた.その組織像(HE染色)を以下に示す.

病院めぐり

県西部浜松医療センター

著者: 武隈宗孝

ページ範囲:P.1212 - P.1212

 県西部浜松医療センターは佐鳴湖東岸に位置し,閑静な住宅街と大きな公園に囲まれた自然環境の整った地区にあります.当院は1973年に280床で開設され,その後いく度かの増床整備がなされ現在では616床に至っています.開設当初からオープンシステムを取り入れ,地域医療支援病院として診療所などとの連携および機能分担を効率的に行い,地域に高度かつ専門的な医療を提供しています.

 現在,当院では10名の産婦人科医が常勤しています.1997年に開設された周産期センターは,同一フロアー内にNICU,緊急手術室兼ハイリスク分娩室,LDR,産科病棟が備えられており,ハイリスク妊娠に対し母体,胎児管理,分娩,そして新生児管理(NICU業務)まで,すべてを10名の産婦人科医が行っています.そのため10名が1つのチームとして母体,胎児,新生児を一貫して管理することが実現できています.

OBSTETRIC NEWS

葉酸と神経管欠損―カナダの場合

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1213 - P.1213

 妊娠初期に,妊婦に葉酸を与えることにより,神経管欠損(neural tube defects)という奇形を減少させることができることは,よく知られている.その減少率は50%以上である.しかしそのためには,妊娠のごく初期のタイミングで,錠剤により毎日葉酸を服用することが必要である.神経管の閉鎖は妊娠のきわめて初期に起こるため,神経管欠損を有効に予防するには妊娠を希望する女性が葉酸を妊娠以前から使用することが重要であるが,すべての妊婦がそうしているわけではない.カナダのほとんどすべての(コーンフレイクスにより代表される)シリアル製品には,今では葉酸が加えられており,その結果,シリアルを習慣的に食用することが一般的なカナダでは,1日量0.1~0.2 mgの葉酸を摂取することになる.シリアルへの葉酸の添加(fortification)は1998年の1月より開始され,人口のほとんどが1日量0.2 mgの葉酸を摂取している.

 カナダの著者らは,オンタリオ州での葉酸添加開始以前の1994年1月から1997年12月までの妊娠218,977例と添加開始後の1998年1月から2000年5月までの妊娠117,986例を対象に開放型神経管欠損(open neural tube defects)の発生を調べてみた.開放型神経管欠損は,無脳症(anencephaly)と脊椎披裂(spina bifida)に分けた.その結果は図に示すごとくである.

胎盤下縁と内子宮口の距離が2cm以上は経腟分娩

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 Oppenheimerらは,経腟超音波で測定した胎盤下縁と内子宮口の距離(距離)が2cm以上の妊婦では,前置胎盤のために帝王切開(帝切)となった例はなく全例経腟分娩できるが,距離が2cm以内の妊婦8例中7例は前置胎盤が原因と思われる出血のために帝切となったことから,経腟超音波による距離測定は適切な分娩方式を決定するうえで有用であることを報告した(AJOG 165 : 1036, 1991).

 ついでAlan Gagnon(ブリティッシュコロンビア大学)らは,妊娠後期に内子宮口から2cm以内に胎盤の下縁がある57例を対象に分娩転機を検討した.24例(42%)が経腟分娩,33例(58%)が帝王切開(適応の22%は低い胎盤付着部位または出血)となった.距離は経腟分娩群平均3.6cm,帝王切開群平均2.2cmであった.妊娠36週で1.1cmでも経腟分娩できた例があり,距離が1cm以下でも経腟分娩を考慮すべきと報告している.しかし,輸血が必要であった3例は距離が1.2cm,1.3cm,1.4cmであった.輸血は不要だったが分娩中に多量出血した3例(平均出血量2~2.5l)の距離は2~3.5cmであった.初回診断から最終診断時の距離の移動率を41例で検討すると,1週間に0.3cm改善することが示唆された.しかし,最終的に内子宮口から2cm以内の胎盤下縁は「赤旗」であると述べている.産科担当医には「内子宮口と胎盤下縁の距離」を報告し,「前置胎盤」,「辺縁前置胎盤」などの記載をせず,管理方針は担当医が決定すべきと報告した(Ob Gyn News. July 1, 2000).

癒着胎盤

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1216 - P.1218

 癒着胎盤の発生頻度は統計上は年々増加している.1930~1950年は分娩30,000例に1例,1950~1960年は19,000例に1例,1980年までは7,000例に1例(OG 56 : 31, 1980),最近では2,500例に1例と報告されている(AJOG 177 : 210, 1997).帝王切開(帝切)歴と前置胎盤/癒着胎盤の頻度は関連があり(Clark, OG 66 : 89, 1985)(表1),増加の最大の原因は帝切と考えられている.

 癒着胎盤の危険因子に関しては,南カリフォルニア大学のMillerらが行った研究がしばしば引用される.Millerらは約15万6,000分娩を検討した.癒着胎盤は62例(2,500分娩に1例)で,癒着胎盤の危険因子は前置胎盤で特に母体年齢が35歳以上,前置胎盤を合併すると癒着胎盤の発生頻度は約10%と報告している(表2,3,4).

症例

腟内異物の上行性感染により卵管留膿腫を呈した1例

著者: 片山博子 ,   横田美幸 ,   梅岡弘一郎 ,   吉本勲 ,   草薙康城 ,   越智博 ,   伊藤昌春

ページ範囲:P.1220 - P.1223

はじめに

 思春期の腟内異物は,性行為の多様化に伴い起こるものが多いといわれているが,小児期の腟内異物も臨床上稀には遭遇する.小児においては,異物挿入の目的意識がなく,問診時,異物挿入を訴えないことがほとんどであり,また婦人科的診察が困難で異物の発見が遅れることがある1).今回,約7年間発見されず,腟内異物の上行性感染により卵管留膿腫を呈した稀な症例を経験したので報告する.

神経症状を示し,摘出した脳腫瘍の病理組織検査から診断に至った卵巣明細胞腺癌の1例

著者: 本間滋 ,   西野幸治 ,   笹川基 ,   児玉省二 ,   高橋威 ,   吉田誠一

ページ範囲:P.1224 - P.1227

はじめに

 婦人科領域の悪性腫瘍において,臨床的に脳転移が明らかとなることは,絨毛癌を除くと比較的稀である.今回,神経症状を示し,摘出した脳腫瘍の病理組織学的検査から診断に至った卵巣明細胞腺癌の1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

帝王切開術後に発生した腹壁子宮内膜症の1例

著者: 泉徳子 ,   日高隆雄 ,   今井敏啓 ,   中村隆 ,   斎藤滋

ページ範囲:P.1229 - P.1233

はじめに

 子宮内膜症とは,子宮内膜様組織が異所性に発生・増殖することにより起きる疾患である.一般に子宮,卵巣など骨盤内に発生するが,稀に皮膚や腸管など他臓器にも認められることがある.帝王切開術後などの腹壁瘢痕部に生じる腹壁子宮内膜症は非常に少なく,0.03~0.45%1, 2)の頻度とされており,術前診断に困難を要することもある.今回われわれは,帝王切開術後の腹壁瘢痕部に発生した腹壁子宮内膜症症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻12号(2022年12月発行)

今月の臨床 帝王切開分娩のすべて―この1冊でわかるNew Normal Standard

76巻11号(2022年11月発行)

今月の臨床 生殖医療の安全性―どんなリスクと留意点があるのか?

76巻10号(2022年10月発行)

今月の臨床 女性医学から読み解くメタボリック症候群―専門医のための必須知識

76巻9号(2022年9月発行)

今月の臨床 胎児発育のすべて―FGRから巨大児まで

76巻8号(2022年8月発行)

今月の臨床 HPVワクチン勧奨再開―いま知りたいことのすべて

76巻7号(2022年7月発行)

今月の臨床 子宮内膜症の最新知識―この1冊で重要ポイントを網羅する

76巻6号(2022年6月発行)

今月の臨床 生殖医療・周産期にかかわる法と倫理―親子関係・医療制度・虐待をめぐって

76巻5号(2022年5月発行)

今月の臨床 妊娠時の栄養とマイナートラブル豆知識―妊娠生活を快適に過ごすアドバイス

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

76巻3号(2022年4月発行)

今月の臨床 がん遺伝子検査に基づく婦人科がん治療―最前線のレジメン選択法を理解する

76巻2号(2022年3月発行)

今月の臨床 妊娠初期の経過異常とその対処―流産・異所性妊娠・絨毛性疾患の診断と治療

76巻1号(2022年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科医が知っておきたい臨床遺伝学のすべて

75巻12号(2021年12月発行)

今月の臨床 プレコンセプションケアにどう取り組むか―いつ,誰に,何をする?

75巻11号(2021年11月発行)

今月の臨床 月経異常に対するホルモン療法を極める!―最新エビデンスと処方の実際

75巻10号(2021年10月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅱ)―分娩時・産褥期の処置・手術

75巻9号(2021年9月発行)

今月の臨床 産科手術を極める(Ⅰ)―妊娠中の処置・手術

75巻8号(2021年8月発行)

今月の臨床 エキスパートに聞く 耐性菌と院内感染―産婦人科医に必要な基礎知識

75巻7号(2021年7月発行)

今月の臨床 専攻医必携! 術中・術後トラブル対処法―予期せぬ合併症で慌てないために

75巻6号(2021年6月発行)

今月の臨床 大規模災害時の周産期医療―災害に負けない準備と対応

75巻5号(2021年5月発行)

今月の臨床 頸管熟化と子宮収縮の徹底理解!―安全な分娩誘発・計画分娩のために

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号 産婦人科患者説明ガイド―納得・満足を引き出すために

75巻3号(2021年4月発行)

今月の臨床 女性のライフステージごとのホルモン療法―この1冊ですべてを網羅する

75巻2号(2021年3月発行)

今月の臨床 妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?

75巻1号(2021年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の基礎知識アップデート―患者説明に役立つ最新エビデンス・最新データ

74巻12号(2020年12月発行)

今月の臨床 着床環境の改善はどこまで可能か?―エキスパートに聞く最新研究と具体的対処法

74巻11号(2020年11月発行)

今月の臨床 論文作成の戦略―アクセプトを勝ちとるために

74巻10号(2020年10月発行)

今月の臨床 胎盤・臍帯・羊水異常の徹底理解―病態から診断・治療まで

74巻9号(2020年9月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅱ)―母体合併症の影響は? 新生児スクリーニングはどうする?

74巻8号(2020年8月発行)

今月の臨床 産婦人科医に最低限必要な正期産新生児管理の最新知識(Ⅰ)―どんなときに小児科の応援を呼ぶ?

74巻7号(2020年7月発行)

今月の臨床 若年女性診療の「こんなとき」どうする?―多彩でデリケートな健康課題への処方箋

74巻6号(2020年6月発行)

今月の臨床 外来でみる子宮内膜症診療―患者特性に応じた管理・投薬のコツ

74巻5号(2020年5月発行)

今月の臨床 エコチル調査から見えてきた周産期の新たなリスク要因

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

icon up
あなたは医療従事者ですか?