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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科58巻12号

2004年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 症例から学ぶ子宮内膜症─子宮内膜症を侮るな

子宮内膜症診断の問題点―とくに性器外内膜症を見逃さないために

著者: 原田省

ページ範囲:P.1476 - P.1479

はじめに

子宮内膜症は,子宮内膜あるいはその類似組織が,子宮外の骨盤内で発育・増殖する疾患である.本症は生殖年齢婦人のおよそ10%に存在し,月経痛と不妊を主症状とする.子宮内膜症の発生病因としては,卵管を逆流した月経血中に含まれる内膜細胞が腹膜に移植したのち増殖するという移植説と,腹膜が腹腔内貯留液の刺激によって化生を起こすという化生説が有力である.いずれにしても,月経血の逆流がキーファクターになるものと考えられている.

子宮内膜症は腹腔鏡検査あるいは開腹手術による肉眼所見によって確定診断される.直視下の診断が行われず,自他覚所見から総合的に診断された場合は「臨床子宮内膜症」として取り扱う.子宮内膜症に特有の症状や診察所見から,卵巣腫大や癒着を伴った中等度以上の内膜症を診断することは比較的容易である.臨床子宮内膜症の正診率はおよそ80%といわれている.

子宮内膜症は骨盤内にとどまらず,性器外の腸管,泌尿器や肺などにも発生する.一般に性器外内膜症の診断は困難なことが多く,診断までに長期間を要することもある.本稿では,性器外内膜症診断の要点について解説する.

癌化を視野に入れた子宮内膜症の管理

著者: 小畑孝四郎 ,   小池英爾 ,   星合昊

ページ範囲:P.1481 - P.1485

はじめに

卵巣癌における卵巣子宮内膜症の合併頻度に関する病理組織学的な検討から,卵巣子宮内膜症が卵巣明細胞腺癌や卵巣類内膜腺癌の発生母地となっている可能性が注目され,さらに,癌抑制遺伝子の1つであるPTEN遺伝子の異常が卵巣類内膜腺癌への癌化に関与している可能性がいわれるなど,子宮内膜症の癌化がクローズアップされている.したがって,子宮内膜症は単なる良性疾患ではなく,前癌病変に似た性格を持つ疾患として取り扱わなければならない.そこで,癌化を視野に入れた子宮内膜症の管理について解説する.

子宮内膜症の遺伝子異常

著者: 生水真紀夫

ページ範囲:P.1487 - P.1493

はじめに

子宮内膜症は家族内集積傾向を示すことが知られており,遺伝学的解析からその遺伝様式は多遺伝子遺伝と推定されている1).また,内分泌攪乱物質などの環境因子の関与も推定されており,内膜症は多遺伝子・多要因の相互作用で発症する遺伝子病とみなされている2, 3)

内膜症の遺伝子異常について,これまでにさまざまの角度からの検討が行われてきた.内膜症病変の腫瘍性増殖に注目して,染色体異常や染色体不安定性あるいはDNAミスマッチ修復遺伝子・がん遺伝子・がん抑制遺伝子の変異や欠失などに関する検討が行われてきた3, 4).また,内膜症をある種の免疫不全による自家移植片の生着あるいは遅延型免疫反応による炎症性病変と捉えて,各種のサイトカインや免疫活性を検討した研究も数多く報告されてきた.最近では,アレイ解析により網羅的に遺伝子発現を解析して内膜症の遺伝子異常を明らかにしようとするアプローチも行われている.また,遺伝子多型(とくに一塩基多型,SNP)と内膜症との相関を解析することにより,発症に関与する遺伝子を明らかにしようとするアプローチもある4)

これらの多くの研究にもかかわらず,内膜症の原因はいまだ明らかにされておらず,今後の研究が必要である.本稿では,これまでに報告された遺伝子異常に関する報告を俯瞰するに当たっての注意点について述べた後,病因・病態に関連すると思われる遺伝子発現の異常について,若干のわれわれ自身の成績を加えて最近の報告を中心に概説する.

症例から学ぶ

1.症例から学ぶ子宮内膜症

著者: 貝原学

ページ範囲:P.1437 - P.1441

はじめに

筆者が帝京大学市原病院に在職した17年間の間に,子宮内膜症を侮ってはいけない症例をいくつか経験しているが,本稿ではそのうちの3例を報告する.

2.骨盤子宮内膜症の腫瘍化―卵巣と卵巣外,上皮性と非上皮性

著者: 片渕秀隆 ,   岡村均

ページ範囲:P.1444 - P.1447

はじめに

子宮内膜症は,性成熟期の女性を中心に発生し類腫瘍に分類される良性疾患であるが,1925年のSampsonの報告1)以来,上皮性卵巣がんをはじめとする骨盤内腫瘍の発生母組織の1つでもある.一方,ここ数十年,日本人女性のライフスタイルの変化,また検査法や診断法の進歩も相俟って子宮内膜症の増加が指摘されている2).そのなかで,婦人科腫瘍学という点からみると,子宮内膜症に由来あるいは関連する骨盤内の腫瘍が増加傾向にあり,かつ多様化している印象を臨床の場で受ける.

子宮内膜症はチョコレート嚢胞に代表されるように卵巣に多く認められるが,ほぼ同じ頻度でダグラス窩,仙骨子宮靱帯,直腸や膀胱の腹膜にも観察され,組織学的には一般に子宮内膜に類似する腺管と間質から構成されている.そこで,子宮内膜症を母地として発生する骨盤腔の腫瘍を考えるとき,マクロでは卵巣と卵巣外,ミクロでは上皮性と非上皮性として捉えられなければならない.本稿ではわれわれが経験した症例を通して,子宮内膜症から発生する上皮性卵巣がん,卵巣以外の骨盤子宮内膜症に由来する上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍について述べる.

3.水腎症を伴った腸管・尿管子宮内膜症の1例

著者: 島貫洋人 ,   武内裕之 ,   木下勝之

ページ範囲:P.1449 - P.1453

はじめに

子宮内膜症はいずれの臓器にも発生しうる.卵巣,卵管などの内性器のみならず,稀ではあるが直腸,尿管,横隔膜,肺などにも認められることがあり,経過によっては難治性で,再発を繰り返し,まさに“悪性新生物”を思わせる臨床経過を呈することもある.

われわれが経験した,月経困難症と左背部痛を訴え,臨床的子宮内膜症と診断されて年余にわたり保存的療法を施行された症例を腹腔鏡にて腸管・尿管内膜症と診断し,GnRHアゴニスト(GnRHa)5コース投与後に,開腹手術を施行し病巣を完全に摘出しえた1例を紹介する.

4.腹壁腫瘤として開腹術に至った子宮内膜症の2例

著者: 渋井庸子 ,   松島隆 ,   石原楷輔 ,   吉松和彦 ,   唐沢忠夫

ページ範囲:P.1454 - P.1457

はじめに

子宮内膜症とは「子宮内膜組織が子宮内膜以外の臓器や組織において異所性増殖を示す疾患」1)をいう.なかでも術後瘢痕部の下腹壁内膜症の頻度は全子宮内膜症の0.8%1),鼠径内膜症は0.3~0.8%2)と稀である.今回われわれは帝王切開後に皮下腫瘤として精査した術後瘢痕部皮膚子宮内膜症の1例と,卵巣嚢腫手術後にヘルニアと診断された鼠径部の子宮内膜症の1例を経験したので報告する.

5.卵巣チョコレート嚢胞から発生した卵巣明細胞腺癌症例

著者: 鈴木光明 ,   大和田倫孝 ,   今野良

ページ範囲:P.1459 - P.1461

はじめに

卵巣チョコレート嚢胞(ovarian chocolate cyst)の一部には悪性転化を起こす症例のあることが知られている.チョコレート嚢胞の経過観察中に卵巣明細胞腺癌が続発した症例を報告するとともに,診療上の留意点を中心に述べる.

6.卵巣子宮内膜症の長期フォローの重要性―不妊治療後の卵巣子宮内膜症性嚢胞内に出現した境界悪性腫瘍症例を通して

著者: 宮城悦子 ,   平原史樹

ページ範囲:P.1462 - P.1465

はじめに

子宮内膜症は,性成熟期女性の約10%が罹患しているとされ,近年女性の晩婚化,小子化,環境ホルモンの関与などにより増加傾向にある.また,1925年にSampson1)が子宮内膜症から卵巣癌への移行像を報告して以来,子宮内膜症は卵巣癌の発生母地として注目されており,その後両者の関連性を示唆する報告が多数ある2~5).また,近年の本邦での卵巣癌の増加に内膜症が関与している可能性も指摘されている.

今回,われわれは,不妊治療後の子宮内膜症性嚢胞の長期フォロー中に嚢胞内に発生した境界悪性上皮性卵巣腫瘍,mullerian mixed─epithelial borderline tumor(MEBT)の1例を経験した6).卵巣原発の上皮性境界悪性腫瘍のなかで,mixed─epithelial typeは約5%と頻度の低いもので7~9),その臨床的特性に関する報告は少ないものの子宮内膜症が高頻度に合併していることが報告されている7).その臨床経過,組織像を呈示し,文献的考察を行う.

7.子宮腺筋症由来の子宮体癌の1例

著者: 矢島正純 ,   折戸征也 ,   太田博明

ページ範囲:P.1466 - P.1469

はじめに

子宮腺筋症や内膜症性嚢胞は日常の診療においてしばしば遭遇する疾患であり,その多くは妊孕性温存を希望するため,根治手術(内性器全摘出術)の対象となるケースはきわめて稀である.すなわち多くの症例ではGn─RHアゴニストやダナゾールなどによる薬物療法や,手術する場合も嚢腫摘出術などの保存的手術療法が主体となっている.

しかし日常診療を行う場合には,そこに大きな落とし穴があることを頭の片隅に入れておくべきである.それが今回組まれたテーマであるが,その1つに腺筋症や内膜症から発生する癌がある.今回われわれは,骨盤内腫瘍を指摘されたが,術前診断に苦慮した子宮腺筋症由来と思われる子宮体癌の1例を子宮摘出により経験したので報告する.

8.子宮内膜症術後に発生した直腸子宮内膜症癌化の1例

著者: 池田公正

ページ範囲:P.1471 - P.1475

はじめに

腸管子宮内膜症は消化器外科医がしばしば遭遇する疾患であるが1),その癌化例はきわめて稀である.今回,われわれはリンパ節転移をきたした直腸子宮内膜症の癌化例を経験したので,これを報告するとともに,これまでの報告例を集計し文献的考察を加えた.

連載 知っていると役立つ婦人科病理・65

What is your diagnosis ?

著者: 小川史洋 ,   清水道生

ページ範囲:P.1433 - P.1435

症例 : 55歳,女性.51歳で閉経.2経妊,2経産.

1か月前より外陰部に掻痒感を自覚して来院.肉眼的には,白色萎縮性硬化局面を呈しており,その部位より生検が施行された.

Fig 1,2は,その生検材料(HE標本)である.病理診断は何か.

婦人科超音波診断アップグレード・9

卵巣成熟嚢胞性奇形腫の超音波所見

著者: 佐藤賢一郎 ,   水内英充

ページ範囲:P.1495 - P.1506

[1] はじめに

成熟嚢胞性奇形腫は全卵巣腫瘍の20%程度を占めるとされ,日常遭遇する頻度の比較的高い疾患の1つである.通常,脂肪や毛髪,骨・歯などを内容として含む特徴があるため,術前診断が可能な場合が多い.しかし,ときにチョコレート嚢胞,卵管・卵巣膿瘍,黄体,子宮外妊娠,石灰化や変性を伴った有茎性筋腫,腸管などとの鑑別が問題となる場合や,画像上特異な所見を示す例も散見1)されており,注意が必要である.

現在,成熟嚢胞性奇形腫の画像診断には経腟・経腹超音波,CT,MRIが使用されることが多い.CTは被曝の問題があり,MRIはコストの問題と設備面で必ずしも常用できるわけではない.超音波診断による成熟嚢胞性奇形腫の診断のメリットの1つは,これらのCT,MRIのデメリットを回避,補うことにあり,第二には簡便で被曝がないので繰り返し検査が可能なため経過観察に適していることも臨床的意義が大きいと考える.また,そもそもCT,MRIは二次的な検査であり,日常診療ではまず超音波診断が先に行われるはずである.以上の観点から,成熟嚢胞性奇形腫の超音波診断は臨床的に重要と考え,今回取り上げた.

Dos&Don'ts婦人科当直の救急診療ガイド・7

[性器出血を伴わないもの]―内性器感染症

著者: 若槻明彦 ,   渡辺員支

ページ範囲:P.1509 - P.1513

[1] 腟・頸管炎

1. カンジダ腟,頸管炎

[初療のチェックポイント]

カンジダ属による感染症で,腟・頸管炎と外陰炎が合併することが多い1).症状は,腟入口部周辺の強い掻痒感と白色帯下の増加である.腟鏡診では,白色粥状,酒粕状,ヨーグルト状の帯下の増加,腟粘膜の陰唇や外陰皮膚の紅斑,浮腫を認め,掻傷,表皮剥離を認めることもある2)

発症には抗菌薬投与,副腎皮質ホルモン剤投与,免疫抑制剤投与,糖尿病,妊娠などが誘因となることが多い3)

[必要な検査法]

検査法は,鏡検法と培養法が用いられる.鏡検法には,無染色標本,グラム染色標本,パーカーインク染色標本,パパニコロー染色標本などがあり,仮性菌糸,分芽胞を証明する.培養法は,臨床的には簡易培地が用いられ,水野・高田培地などがありCandidaを検出する3)

OBSTETRIC NEWS

誘発分娩を何日間行うか?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1516 - P.1519

不必要な帝王切開(帝切)を減少させるために,「分娩進行停止(北米では難産dystociaという定義が曖昧で,妊婦や家族に不要な混乱を招く用語を使用しない傾向がある)のための帝切は十分な陣痛(200モンテヴィデオ単位以上)があり,潜伏期が終了し,2時間以上頸管の変化がない場合」という指針が示されている(ACOG Practice Bulletin. No.49, 2003)が,その指針に対し経過観察時間を2時間から4時間にしても母児転帰が悪化せずに帝切率が減少することを示唆する報告がある(OG 93 : 323, 1999).しかし,誘発分娩不成功の標準的定義は示されていない.

誘発分娩数の増加傾向があり(日本全体の統計は明らかではないが),米国では誘発分娩は増加の一途で,20%以上である.おそらく日本の誘発分娩率も施設間の大きな違いがあるものの,全体的にはかなり高率であることが予想される.誘発分娩では,自然陣痛発来に比較し帝切率が有意に増加することを示唆する報告が多数あり,特にプロスタグランジン(PG)[注 : 日本で使用される静脈内投与による頸管熟化の有効性と安全性を証明する研究がほとんどなく,北米ではPG静脈内投与による頸管熟化や誘発分娩はまったく行われない.腟または頸管内に投与するゼリーやPGを含有するテープを頸管に巻く方法,またはPG E1作用があるmisoprostolが採用される]を使用しない場合の不成功率はきわめて高率であることも証明されている.

病院めぐり

神戸市立西市民病院

著者: 高島正樹

ページ範囲:P.1520 - P.1520

神戸市立西市民病院は,平成7年1月,阪神・淡路大震災によって本館全壊という未曾有の大災害に見舞われた病院です.しかし,幾多の困難を乗り越え平成12年5月に新病院全館オープンを果たすまでになり,現在では神戸市街地西部の中核病院として目覚ましい活躍をしております.そして,平成16年2月には日本医療機能評価機構から,初回受審で病院機能評価認定をいただくまでになりました.現在,1日の外来患者数は約1,110人で,そのうち救急患者は1日平均46人,平均入院患者数は320人です.医師数はスタッフ46名,専攻医9名,研修医11名と数少ない人員にもかかわらず,日々日常の医療に邁進しています.産婦人科は39床を擁し,産婦人科医師は3名ですべて日本産科婦人科学会認定医であり,夜間救急や分娩はすべて3名で担当しています.

産科では,近隣医療機関の影響で,分娩数は平成14年は361件でしたが,平成15年には473件となり,平成16年においても月分娩数が50件を超えるほどに,地域におけるニーズが高まってきています.ただ妊娠週数が35週未満やハイリスクの児が予想される場合には,近隣のNICUを完備した施設への母体搬送をしています.助産師の活動も活発で,フリースタイル分娩,インファント・マッサージや母乳外来,プレママ教室など独自の活動をしており,多くの妊婦・褥婦から好評を得ております.

同愛記念病院

著者: 黒田陽子

ページ範囲:P.1521 - P.1521

同愛記念病院は,両国国技館からほど近い隅田川河畔にあります.その歴史は古く,大正12年の関東大震災に際し,被災民の惨状を憂う米国赤十字社が中心となって,全米国民に呼びかけ集めた義援金の一部を割いて,翌大正13年に財団法人病院として設立されました.敗戦後10年間にわたって占領軍に接収されましたが,昭和31年に社会福祉法人として診療を再開し,以来,地区の基幹病院として今日に至っています.

当院は,診療科16科,病床数427床よりなる墨東地域の中核病院であり,平成15年より2次救急体制で運営されています.設立母体が社会福祉法人であること,設立の趣旨,経緯,地域的要請をふまえ,地域住民を対象とした全人的な医療を目的としています.平成14年には長期療養型病棟が新設され,慢性疾患のリハビリテーションなどに快適な環境を提供できるようになっています.

もうひとつの国境なき医師団・6

性感染症とsyndromic management

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.1524 - P.1525

産婦人科の取扱い

国境なき医師団における産婦人科領域の取扱い指針は,大きく性感染症と産科に分けられている.

性感染症の取扱いは,国境なき医師団が発刊しているCLINICAL GUIDELINES diagnostic and treatment manualに記されている.このなかに活動現場で遭遇する頻度の高い疾患の取扱いがまとめられている.

婦人科に関する記載はgenito─urinary diseasesのなかにsexually transmitted infections(STI)およびmetrorrhagiaの2項目がある.ここには性暴力におけるメンタルケアを含む取扱い指針も記されている.

原著

当院での子宮筋腫核出術の現状

著者: 中村学 ,   水竹佐知子 ,   臼井真由美 ,   宮本純孝 ,   富田初男 ,   安藤昭彦

ページ範囲:P.1527 - P.1532

GnRHアゴニスト療法は子宮筋腫の縮小効果があるため,子宮筋腫核出術前に施行することがある.また,子宮筋腫核出術の出血に対する手段として,術前に自己血貯血を施行することも普及している.

今回われわれは,当院でここ5年間に子宮筋腫核出術を施行した109例を対象として,術前のGnRHアゴニスト療法が手術の出血量軽減に効果があるかどうかと,多量出血を予測し自己血貯血をしておく必要がある患者の選択基準について検討した.

術前のGnRHアゴニスト使用の有無による術中出血量や手術時間に有意差は認めなかった.しかし,GnRHアゴニスト使用の有無にかかわらず,摘出筋腫核数が11個以上では,それ以下と比べて出血量は多くなる傾向を認めた.出血量が多くなると予測される症例は,(1)多発子宮筋腫(筋腫核が11個以上のもの),(2)粘膜下筋腫,(3)治療前に貧血が認められる症例と考えられた.


はじめに

随伴症状のある子宮筋腫の治療に対して,挙児希望の患者には子宮筋腫核出術を施行することが一般的である.GnRHアゴニストによる偽閉経療法は子宮筋腫の縮小効果があるため,子宮筋腫核出術前にGnRHアゴニストを使用する方法が広く行われている.当院でも子宮筋腫核出術前にできるだけGnRHアゴニスト療法を施行し,さらに術前に自己血貯血を施行し,術中の多量出血に対しての輸血対策を施してきた.しかし,現実に術中多量出血で輸血を必要とする症例は多くなく,果たして術前の自己血貯血は必要かと疑問がある.

今回,ここ5年間の当院での子宮筋腫核出術の結果を見直し,子宮筋腫核出術予定の患者に自己血貯血が必要か否かと,GnRHアゴニスト療法の有効性の有無を後方視的に検討したので報告する.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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